永遠の美少女になって永遠の闘病生活に入った件   作:名無し野ハゲ豚

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永原先生の青春

「見て行ってくださーい!」

 

 初めての文化祭ということもあって、1年生たちがかなり張り切って声を上げている。

 

 中は子供向けのゲームが多い。

 輪投げやシーソーを使ってボールを下に入れるゲームもある。

 ちなみに、あたしの壊滅的な運動神経は、後輩たちにも伝わっているらしく、小学生用のハンデでしてくれるらしい。

 

 最近では意地を張る人も減って、高校生ながら、小学生向けの内容で行うように申し出てくれる人も増えたとか。

 

 あたしたちは、一通り見終わって、元の教室に戻ることにした。

 

「部活系は明日でいいか?」

 

「うん……ってなんだか去年と同じだわ」

 

「そうだな」

 

 違うのはあたしがメイド喫茶のシフトや、ミスコンで抜けて、また浩介くんが嫉妬して、人気のないところでご機嫌を取り戻すためにえっちなことをしてあげたことくらいかな?

 

「ふーただいまー」

 

「お、優子おかえり」

 

「おかえりなさいませ……です……」

 

 あたしたちは、天文部の見張りを担当した後、時間的にも場所的にも切りが良くなったので教室に戻る。その教室にいたのは恵美ちゃんとさくらちゃんだった。

 あたしたちはまだ見張りの時間じゃないけど、暇なので前倒しで来てみた。

 

「田村、志賀、うちのほうはどうだ?」

 

「テニスの試合、パソコンが埋まっちゃうことも多かったぜ」

 

 現に今も、試合を見ているお客さんがいる。

 ちらりと画面を見た感じでは、第2セットの場面見たいね。

 

「で、反応はどうなんだ?」

 

「ああいやその……」

 

 恵美ちゃんが恥ずかしそうに顔を横にそらす。いかにも言われたくないという反応だった。

 

「ん? 言いにくいことか? もしかしてラケット折ったこととか――」

 

「ああいやそうじゃねえんだ。ただその……あー……」

 

 恵美ちゃんに珍しく、とても歯切れが悪いわね。

 

「泣いている田村さんがかわいかったって……そんな感想が多く寄せられてます……」

 

「ちょ、さくらやめて!」

 

「す、すいません……!」

 

 恵美ちゃんがやや大きな声で抗議すると、さくらちゃんが申し訳なさそうに謝ってくる。

 泣いている恵美ちゃんがかわいいかあ……

 

「あー、やっぱギャップかあ……」

 

 浩介くんがつぶやく。

 

「そうよねえ……」

 

 恵美ちゃんは容姿や言動ががさつで男っぽく、しかもずかずかと言いこむ気の強いタイプなので、はっきり言って男子のウケはとても悪い。というよりも、あえて誤解を恐れずに言えば、一番モテないタイプと言ってもいい。

 それはつまり、ちょっとでもかわいいところを見せただけでものすごくかわいく見えてしまう。過大評価を受けやすいという意味でもある。

 

 一方で、あたしは既に完成されたかわいさがあるので、中々「落差」を表現することは難しい。

 最も、あたしの絶対評価が極めて高いので、落差に騙されてはいけない、「不良が犬を助けても焼け石に水」という教訓にもなっているけど。

 この手の落差に騙されないためにも、日頃から絶対評価の高い人間が近くにいることがとても大切になってくるよね。

 

「ところで、さくらちゃんは唐崎先輩とはうまくいってる?」

 

 とりあえず、恵美ちゃんのためにも、あたしが話題を変えてみる。

 

「はい、とってもうまくいっています」

 

「良かったわ」

 

 さくらちゃんの笑顔に、あたしも自然と笑みがこぼれる。

 さくらちゃん、彼氏が出来てから、言葉も徐々にだけどはっきりしてきているし。

 

「でもよ、野球部はどうなったんだ? さくらがマネージャーになってから、野球部はめっきり部員が減っちまって、今年はついに大会出られなかったじゃねえか」

 

 恵美ちゃんが当然の疑問を言う。

 

「え? はい……その……もう過ぎたことですから……今は野球部のことは……全く考えていません……」

 

 さくらちゃんが、さっきとは打って変わって真っ黒な表情で笑みを浮かべる。

 一瞬だけだけど、さくらちゃんの中に「魔女」の性格が浮き出てきた。

 

「? 志賀はどうして笑顔なんだ?」

 

 もちろん、浩介くんみたいな男子にはその違いが判らない。最も、あたしも最近までそうだったけど。

 

「あーうん、男子は知らないほうがいいぜ」

 

「うんうん」

 

 あたしと恵美ちゃんが同調する。

 

「あー、そう言えば、優子ちゃんが、『志賀は魔性の女になった』とか言ってたな。もしかしてそれか?」

 

「あらあら……ふふっ、否定はしませんわ」

 

 浩介くんの問いに対して、さくらちゃんがニッコリ笑いながら言う。

 今度はさっきよりも露骨で、おバカな男にも分かるくらいの感じの黒い笑み。

 

「うおっ、志賀って見かけによらず怖いんだな」

 

「ふふっ、男を狙う女はみんなあんな感じよ。むしろあたしみたいにとんとん拍子で行くほうが珍しいわ」

 

 あたしが浩介くんに女の恋愛について説明をする。

 あたしがあえてこんなことを言ったのも、ないと分かっていても不安になる「浮気」の防止のためだ。

 

「そ、そうか……」

 

 さて、立ち話中にも、この球技大会のレポートを目当てに、多くの生徒たちが集まっては去っていく。

 

 あたしたちは見張りの時間までここに居て、交代の人が来るのを待つ。

 交代の人が来たら、他の参加者の邪魔にならないように、展示物の陰に作られた、クラスの生徒の休憩スペースに移動する。

 

「はい、それで……はい。明日そこで待ち合わせでいい? はい!」

 

 スマホで電話をしている龍香ちゃんが中にいた。

 

  ピッ

 

「あ、優子さん、篠原さん、こんにちはです」

 

 あたしたちに気付いた龍香ちゃんが立ち上がって頭を下げる。

 

「龍香ちゃんさっきの電話は?」

 

「いやーお恥ずかしい! 明日の彼氏とのデートプランですよ。朝学校に集合して、展示を見て回って、家に帰って……キャー!」

 

 龍香ちゃんは、相変わらず彼氏のことになると暴走してしまう。

 

「あはは、龍香ちゃんも彼氏とうまくいっててよかったわ」

 

「へー、私『も』ですか? もしかして、さくらさんもですか?」

 

 龍香ちゃんが興味津々で聞いてくる。

 

「うん、さくらちゃんも、彼氏とうまくいっているって」

 

「うんうん、それは良かったですよ」

 

 龍香ちゃんは笑顔で言う。

 どうやら、さくらちゃんがうまくいくか心配だったらしい。

 

「志賀なら大人しいし、唐崎先輩が暴走しなきゃ大丈夫だと思うぜ」

 

「いえ、問題は野球部ですよ」

 

 龍香ちゃんがちょっとだけ真剣な表情で言う。

 

「あーうん、さくらちゃん、『もう過ぎたことですから、今は野球部のことを考えてない』って言ってたわ」

 

「おー、まさに『ザ・男を惑わす女』って感じですね」

 

 龍香ちゃんがノリノリになっている。

 

「というよりも、惑わされすぎでしょ……」

 

 男の浩介くんが、思わず突っ込む。

 

「あはは、そうかもしれないわね。でも、ずっと男子しかいない運動部にいたら、こうもなると思うわよ」

 

 あたしからすると、浩介くんも似たようなものだけど、もちろん口には出さない。

 

「あー、そうかもなあ……もし同性ばかりの集団に突然異性が入り込んだら、みんな好かれようと必死になると思うし」

 

「あー、言えてますねえ。私や優子さんやさくらさんみたいに、彼氏がいるならいいんですけど、例えば、彼氏がいない独身女性の集団に男子1人が入り込んだとかなったら、すごいドロドロしそうです」

 

 うわあ、想像するだけで怖いわねそれ。

 あたしは浩介くんがいるからいいけど。

 

「あー、でも男だったらもっと怖いと思う」

 

 浩介くんが反論するように言う。

 

「確かにそうかもしれないわね。ドロドロするどころか、殴り合いになっちゃうかもしれないわね」

 

「ふむ、優子さんもそう思いますか?」

 

 龍香ちゃんだけは、不思議そうに言う。

 

「ああ、男はなまじ力を持ってるからな。どうしても腕ずくになりがちだ。特に、少ない女を争うなんてな」

 

「そうですか……」

 

 龍香ちゃんが納得したように言う。

 その後は、あたしたちは一部の部活を見て回ったりして、1日目を過ごした。

 

 

「はーい! それじゃあ1日目はこれでおしまいです。明日はいよいよ一般開放で、皆さん3年生にとっては最後の文化祭になります。是非、悔いの内容に楽しんでくださいね」

 

「「「はーい!」」」

 

 制服姿の永原先生の声に、みんなも勢い良く反応する。これで1日目の文化祭は終了した。後は帰るなり2次会するなり泊まるなり、自由時間をみんなで楽しむことになっている。

 クラスの小さな委員長みたいな永原先生だけど、実際に今日もこの服で「制服登校」したらしい。

 

「やっぱりみんな、制服姿の私を見ると反応がいいわ」

 

 帰り際、永原先生があたしにそう話してくれる。

 

「どんな感じですか?」

 

「ええ、髪型も変えてますから、みんな私と気付くまでに一呼吸あるんですよ。特に1年生の人は私のことを『先輩』と呼んだ人も居て、楽しかったわ」

 

 何か分かるわね。

 でも、間違えた1年生には気の毒な話だと思うけど。

 

「お、先生、もしかして明日もこれで行くんですか?」

 

「あ、浩介くん」

 

 今度は浩介くんが話に乱入してくる。

 

「ええ。やっぱり文化祭の時くらい、楽しみたいことを楽しみたいのよ」

 

 永原先生が明るく笑顔で言う。

 

「うーん、でも先生に先輩と呼んじゃったその1年生可哀想ですよ」

 

 すると浩介くんが戒めるように言う。

 確かに、見た目は高校生どころか中学生だものね。区別はつかないのも無理はない。

 実年齢は500歳で、もうすぐ501歳だけど。

 

「篠原君、TS病の女の子はね。何年経っても生まれながらの女の子にはなれないわ。男としての人生は、多く役に立つけど、同時にコンプレックスの原因にもなるのよ」

 

 永原先生が真剣な顔で言う。

 

「そ、そう言えば、優子ちゃん、子供っぽいのが好きなのも、コンプレックスのせいって――」

 

「ええそうよ。私の場合は、それが『青春』ってだけよ」

 

 浩介くんが言い切る前に、永原先生が、自分のコンプレックスを明かす。

 

「だからね、今日1年生に、『先生』じゃなくて『先輩』って言ってもらえたの、とても嬉しかったわ。本当は騙しているような私が非難されるべきなんだと思うけど、それでも、石山さんが女児の趣味をやめられないように、私はどうしても、これをやめられないのよ。今日と明日だけは、私は失われたものを取り戻せるんだって」

 

「そ、そうか……」

 

 永原先生の重めな口調に、浩介くんもだんまりしてしまう。

 

「今日と明日で2日、年間200日、制服で学校に行くとすれば……300年これを続ければ、私は人並みの高校生活を取り戻せると思うわ」

 

 永原先生が、さらりと気の遠くなりそうなことを言う。

 

「気の遠い話だな」

 

「ええ、でも、今までの私の人生よりは短いわ」

 

「確かにそうよね……」

 

 やっぱり、永原先生の人生って凄いわね。

 

「さ、長々と引き止めちゃったわね。くれぐれも気を付けてね。私はこれから、先生としての仕事があるわ」

 

「お、おう……」

 

 永原先生が「制服通学」できるのも、まず間違いなく小野先生と教頭先生を脅迫しているせいだと思うと、面白いわね。

 でも、永原先生のコンプレックス。300年なんて気の遠いことを言わないで、何とかしてあげたいわ。

 

 

「ねえ優子ちゃん」

 

「ん?」

 

 帰り道、浩介くんが話しかけてくる。

 

「永原先生にも、コンプレックスってあったんだな」

 

「そりゃそうよ。TS病の女の子は、みんな大なり小なりコンプレックスを持っているものよ。でもそれって多分、他の人だって同じ何じゃないかな?」

 

 永原先生は、自分のコンプレックスは「青春」だと言っていた。

 でも、去年の話と総合すると、それは半分正解で半分間違いだと思う。

 永原先生が持っているコンプレックスは多分、あたしに対するコンプレックスも大いに含まれているんだと思う。

 どちらにしても、TS病の人だって、500歳になった永原先生だって、等身大の1人の人間でしかない。

 

「あ、ああ……俺は……うーん、分かんねえや……」

 

 浩介くんが自分のコンプレックスを考えて見たけど、思いつかなかったみたいで、腕を組みながらうんうんと唸っている。

 

 浩介くんは、恋人になったばかりの時こそ、「顔があたしと不釣り合い」なんて言われていたけど、最近では浩介くんもイケメン扱いをされることが増えた。

 多分以前は容姿に関してコンプレックスを持っていたと思うけど、あたしと恋人関係を続けるうちに、自信がついて解消されてしまったんだと思う。

 

「うーん、優子ちゃんから見たらどう思う?」

 

「そうねえ……昔はあったけど今はないのなら思いつくわよ」

 

「え!?」

 

 浩介くんが驚いた目つきであたしを見つめてくる。

 

「容姿よ容姿。あたしと浩介くんが付き合ったばかりって、通行人からよく不釣り合いとか言われてたでしょ?」

 

「あー、そう言えば、そんなのもあったな。すっかり忘れてたぜ」

 

 浩介くんが思い出すように言う。

 

「そそ、まあ、確かにあたしも、今は浩介くんにコンプレックスと言われても思いつかないけどね」

 

「そ、それって?」

 

「恋は人を変えるのよ」

 

 あたしがニッコリ笑って言うと、浩介くんは顔を赤くして、視線をそらしてしまった。

 

 

「ただいまー」

 

「あ、優子お帰りなさい。文化祭どうだった?」

 

 家に帰って母さんの「おかえりなさい」を受ける。

 そして早速、文化祭について聞いてきた。

 

「うん、浩介くんとの文化祭楽しかったわ」

 

「ミスコンの方はどんな感じだった?」

 

「うん、桂子ちゃんの圧勝だったわ」

 

 あの後あった中間発表でも、桂子ちゃんはまさに主役だった。

 一方で、得票率は去年と比べて格段に低かった。何故なら、予選の段階で、既に桂子ちゃんに当確ランプが点灯してしまったからだ。

 予選の得票は、明日にも持ち越されるため、ここまでの大差がついてしまうと、明日の一般参加者の得票率も悪くなる気がするわね。

 ちなみに、特定の候補者がここまで圧倒的な差をつけるのは、小谷学園のミスコンの歴史上、始まって以来の出来事らしい。

 むしろ、桂子ちゃんに大差をつけられていた他の女の子たちが、かわいそうな気さえした。

 

「やっぱり……でもそうよね、優子や永原先生が出なくて、桂子ちゃんみたいな美人が出たら、そりゃあああなるわよね」

 

「う、うん。今日の天文部でも『本当にかわいくて美人な人は普通ミスコンには出ない』って言ってたわ」

 

「あら、無理もないことよ。だって、そういう子が出ちゃったら今回の桂子ちゃんみたいになって、みんなの嫉妬を集めちゃうもの」

 

 母さんが、また別の理由をアドバイスしてくれる。

 確かにそう言う考えもあるわね。

 

「だからこそ、去年のミスコンは、それこそ『ミスインターナショナル』以上に価値のあるミスコンだったわよ。文句なしの超がつく個性豊かな美少女3人が接戦を演じたもの。世界的なミスコンだって、ああはなりにくいわよ」

 

 母さんの説明が増す。まあ実際、国際レベルになるとコネとかで容姿が劣る人が勝ち上がったりしそうだものね。

 

「でも、あたしはあれが最初で最後のミスコンになるわね。大学のミスコンは、出られないから」

 

「ええ、優子も来年には『ミセス』になるものね」

 

 母さんが笑顔で言う。

 そう、あたしは浩介くんと婚約中。もし予定通りのスケジュールで結婚すれば、大学には「既婚女性」として通うことになる。

 

「そうよね、ミスじゃなくてミセス……ミセス優子……篠原優子……」

 

 浩介くんと結婚した後の、あたしの名前が口に出る。

 女の子、結婚して浩介くんに嫁入りして、文字通り家族になる。今の家族とは、別居になってしまう。

 

「ふふっ、優子もそろそろ、結婚の準備をしないといけないわね」

 

「あ、うん……」

 

「結婚式場、両家で探しているから、心配しないでね」

 

 文化祭は10月の終わりに行われる、あたしがこの家にいるのも、もう半年もない。

 高校を卒業すれば、浩介くんは旦那さんになる。

 でも今は、明日の文化祭と、後夜祭について考えていきたい。

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