永遠の美少女になって永遠の闘病生活に入った件   作:名無し野ハゲ豚

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優子の罪と恵美の誤算

  ピピピピッ……ピピピピッ……

 

「んーっ!」

 

 目覚まし時計の音と共に、あたしは意識を覚醒させていく。

 今日は文化祭の2日目、あたしは今日も浩介くんと一緒に文化祭を見て回る約束をしている。

 

 あたしは髪を整えて、素早く制服に着替える。頭のリボンも忘れずにつける。今日の下着は、遊園とに行った時と同じく、前後にくまさんがプリントされたお子様パンツを穿く。

 スカート丈は、昨日よりもちょっと短めにしてみる。

 

「おはよー」

 

「あら優子おはよう。今日はスカート短いわね」

 

「うん、浩介くんと文化祭デートだもの」

 

 あたしがニッコリと笑う。

 

「ふふっ、いつ浩介くんにえっちなことされてもいいように、ちゃんと下着は選んだ?」

 

「ちょっ! 母さん!」

 

 嘘じゃないのがまた恥ずかしいわね。

 

「まあいいわ、朝ごはんできているから、早く食べてね」

 

「はーい」

 

 母さんのお手製の料理も、浩介くんの家に嫁入りしたら、中々食べることはできなくなる。

 もちろん、定期的にここにも戻ってくる予定だし、場合によっては浩介くんも泊める予定だけどね。

 

「では次のニュースです――」

 

 ニュース番組では相変わらずのニュースが続けられる。

 それは世の中が平穏な証拠でもある。

 

 あたしはそんなニュースもそこそこに、ご飯を食べ終わって歯を磨いて口をゆすいで、学校へと向かった。

 

 

  ガラララ……

 

「お、優子ちゃんおはよう!」

 

「うん、浩介くんおはよう」

 

 いつもなら、あたしが「おはよう」と言うと、誰かが返してくれるけど、今日に限っては浩介くんの方から勢い良く「おはよう」と声をかけられた。

 あたしは文化祭の展示のため、席がないので壁に寄りかかる。

 こんな時、床に座っている男子がちょっと羨ましいわね。

 

 あ、そうだわ!

 

  ペタンッ

 

 あたしは、両足を外側に広げてお尻を間にすとんと落とす、いわゆる「女の子座り」をする。

 

「おー、石山かわいいな」

 

 床に胡坐で座り込んでいた男子が、思わず感心して「かわいい」と言う。

 

「あれってさ、女子しかできねえ座り方だよな」

 

「え? そうなのか?」

 

「ええそうよ。女の子座りっていうのよ。あたしが気に入ってる座り方よ」

 

 男子の話に、あたしが乱入する。

 

「え? 本当か? うっ、いてて、確かに無理だ」

 

 男子の一人があたしの真似をして失敗している。

 

「どれどれ……あれ? 本当に無理だ……」

 

「女子の体ってすげえよなあ……」

 

「おっぱいとかお尻とか柔らけえじゃん。だからできるんじゃね?」

 

「あーそうかも、石山なんか特に柔らかそうな体してんもんな」

 

「くー、あの体を揉み放題の篠原浩介めえ!」

 

「いい思いしてるんだろうなあ……うー、俺はどうして彼女ができねえんだ……」

 

「おい高月! 気をしっかり持て!」

 

「だってよお、篠原を呪っても呪っても、幸せになる一方だしよお……俺にも分けてくれよおー」

 

 高月くんを中心とした「浩介くんを呪う会」のグループメンバーたちは、最近ではこんな風に意気消沈していることも多い。

 そしてそういう時は……

 

「なあ優子ちゃん」

 

「うん……大丈夫よ。高月くんたちにも、いつかいい女の子が来るわよ。でも待ってるだけじゃなくて、ちゃんと出会いを探してみてよ」

 

 あたしが励ましの声をかけることになっている。

 もちろん、最初は浩介くんも「今まで呪った仕返しに、イチャイチャを見せつけようぜ」と言っていたけど、あたしは「ちゃんと『優子』でいたい」と言ったので、こんな風に優しく励ますことになっている。

 優一の時に守れなかった両親の願いは、優子になってようやくかなえられる様になった。

 

「う、うん……」

 

 意気消沈していた男子たちも、あたしに励まされると元気が出る。

 浩介くんも最初は嫉妬していたけど、浩介くん自身の中でも「そういう嫉妬は良くない」と分っていたので、すぐにやめることにした。

 浩介くんの責任感もまた強い。他のカップルだったら、多分ここまでうまくいかずに、どこかでこじれちゃうと思う。

 

 

  ガラララ……

 

「はーい! ホームルーム始めますよー!」

 

 制服姿の永原先生が教室に入ってくる。

 今日も髪型はツインテールで、昨日と違う点は、ツインテールを結ぶリボンが赤いこと。

 

「今日は文化祭の2日目です。一般の方にも開放されますので、最後の文化祭ですが、節度をもって楽しんでください。以上です。では、生徒会長の放送を待ちましょう」

 

 永原先生がそう言うと、教室内が独特の緊張感に包まれた沈黙に覆われる。

 

  ピンポンパンポーン!

 

「ただいまより、2018年度、小谷学園文化祭2日目を開始いたします!」

 

 生徒会長の声と共に、教室内からも周囲からも、一斉に歓声が流れ、あっという間ににぎわい始める。

 

「浩介くん、行こう」

 

「ああ」

 

 浩介くんに声をかけて、あたしたちも文化祭を始める。

 

「野球部に行こうぜ」

 

「うん、そうね」

 

 あたしたちは、最初に気になった野球部について真っ先に行くことにした。

 野球部は、公開練習をしていた。

 どうやら、去年行われていたバッティング練習はない模様で、代わりに「私立小谷学園野球部は、現在部員が9人に満たず、今夏の大会に出場することができませんでした。未経験者を含め、どなたでも結構です。是非野球部に入ってください」という、悲痛を訴えるような掲示があちこちに張られていた。

 

「あ、入部希望者ですか?」

 

 部員の1人があたしたちに話しかけてくる。

 

「ああいや、野球部がどうなったかなって思って」

 

「はい、現在部員は6人です。野球場も他の部に多く使われていて、まともな練習もできていないです」

 

 やはり部員も悲惨な顔で言う。

 

「あの、もしかして去年入った――」

 

「ああいえ、僕は1年なので、志賀先輩のことは恨んでないです。ただ、先輩たちの中には、未だに嫌っている人は多いです。どんな経緯であれ、彼女がこの部を破壊してしまったのは事実ですからね」

 

「でもさくらちゃんは、最初から唐崎先輩一筋でしたよ」

 

「それでもですよ。僕個人としては、女子マネージャーではなく、男子にマネージャーを頼むべきだったとは思いますが、男ばかりの部活に女性が入り込むだけならなだしも、エースピッチャーと公然と恋愛をし始めて……唐崎先輩も、全く悪びれる様子がなかったんです」

 

「うーん……」

 

 確かに、何らかしらのフォローは必要だったかもしれない。

 さくらちゃんの背中を押したのはあたしだし、あたしにも責任があると思う。

 

「おーい、どうした!?」

 

 野球部の面々が集まってくる。

 全部で6人、今の小谷学園野球部の全てだ。

 

「ん? 石山と篠原じゃんか。どうしたんだ?」

 

「あの……あの……」

 

「?」

 

「本当にごめんなさい!」

 

 あたしは、謝罪の意を込めて、野球部に頭を下げる。

 

「「「え!?」」」

 

「どうしたんだ優子ちゃん!?」

 

 あたしの突然の行動に、浩介くんと野球部のみんなが驚いている。

 

「な、なんで石山先輩、俺たちに謝ってるんだ?」

 

「ごめんなさい、あたしが……あたしがさくらちゃんを、マネージャーになるように言ったばかりに、野球部がめちゃめちゃになっちゃって……!」

 

 少しだけ涙声で、頭を下げる。

 本当はこういう時に女の子が泣くのはあまり良くないけど、どうしても泣き虫なあたしはこうなってしまう。

 

「その、石山は悪くねえよ」

 

「ううん、さくらちゃん、去年の文化祭の時に、唐崎先輩に想いを寄せていたわ。本当ならあの時に告白するようにアドバイスをするべきだった。でも、さくらちゃんにはそれは荷が重いだろうと思って、つい善意でマネージャーになるように言ってしまったわ」

 

「だったら、なおのこと石山は悪くねえよ。志賀先輩の責任だ」

 

 野球部の面々は謝り続けるあたしに、擁護の声を投げてくる。

 ありがとう、でも、受け取れないわ。

 

「ううん、なおのこと、あたしが悪いのよ。だって、昨日まであたしは、あたしが野球部の崩壊の引き金を引いたことに気付かなかった」

 

「でもそれは――」

 

「以前さくらちゃんにね、野球部の崩壊について聞いてみたわ。でもさくらちゃんは、全く反省したそぶりも見せないで、真っ黒な笑みを浮かべていたわ。あの時は気のせいだと思ったけど何回唐崎先輩について聞いても、同じ笑みを浮かべていたわ。昨日もそうだった、さくらちゃんは、野球部のことなんかどうでもよくて、最初から唐崎先輩が目当てだった。あたしは、そのことを見落としてしまったわ」

 

 あたしは、気持ちを込めて野球部に謝罪するが野球部の部員たちはますます困惑した顔をしている。

 一方で、浩介くんはあたしが何を言いたいのか? どうして謝罪しているか? ということを理解した様子で、落ち着いた顔に戻っている。

 

「良かれと思ったんなら、気にしなくていいよ」

 

「ダメよ! あのね、良かれと思ってする悪事は、悪しかれと思ってする悪事よりもずっと悪いことなのよ」

 

 あたしにとって、永原先生から古典や歴史、そしてTS病以外のことで学んだ数少ないこと。

 

「どうして?」

 

「人間はねどんなに悪人でもどこかに良心が残るのよ。だから悪いと自覚を持ってする悪事にはどこかブレーキがあるわ。でも、自覚がない、それどころか『いいことをしている』と思ってする悪事は、何よりも、悪いものなのよ」

 

「……」

 

 野球部員たちは、黙ってあたしの話に聞き入ってくれる。

 

「分かったよ。ともあれ、練習を見ていってくれねえか?」

 

「うん」

 

 あたしたちは、野球部の練習を見ていく。

 キャッチボールをする2人、トスバッティングで、ワンバウンドで返す2人、ティーにボールを置いて飛ばすバッティング練習、最後の1人はランニングを行っている。

 

「去年よりも寂しいな」

 

「うん」

 

 去年は、守備にも就いてバッティング練習もあった。でも今は、守備の練習がろくに出来ないことは想像に難くない。

 それでも、部員の増加を夢見て、日々練習をしている。

 

 玉拾いも、全員が任意で行う。

 打撃練習している人は、籠の中の球が全部なくなったら拾ったり、ランニングしている部員が見かけたら投げてもくれる。

 

「なんか、ホワイトな部活だな」

 

「うん」

 

 一昔前、「ブラック部活」が話題になっていたが、小谷学園はその手のものとは無縁だ。

 そもそも、学校そのものが部活に力を入れていないというのもあるし、運動部の大会も、あまりにも弱小だった時代が長すぎて、敗北主義が染みついてしまっている。

 

 恵美ちゃんのテニス部と虎姫ちゃんの女子サッカー部だけは例外みたいだけど、2人が卒業しちゃったら、多分また元の木阿弥になるんだと思う。

 

「優子ちゃん、そろそろ行くか?」

 

「うん」

 

 浩介くんが、次の部活に行くように促す。

 あたしは野球部の部員に声をかけ、野球場を後にした。

 

 

「優子ちゃん、次はどこへ行く?」

 

「うーん、テニス部に行こうよ」

 

「おし」

 

 あたしの提案に浩介くんが同意した。

 テニスコートは野球場から更に離れたところにあり、通学路上からも見ることができる。

 立地上不便なため、テニス部は恵美ちゃんを擁しながらも意外と不人気なのだ。

 

「おや、篠原先輩! お久しぶりです!」

 

「お、その節は世話になったな」

 

「浩介くん、この人は?」

 

「ああ、球技大会に向けて、俺に色々とアドバイスしてくれた人だよ」

 

 浩介くんが紹介してくれる。

 

「よろしくお願いします」

 

 部員さんが頭を下げて挨拶をしてくれる。

 

「あの、テニス部は何をしているんですか?」

 

「はい、公開練習をしています。こちらへどうぞ」

 

 部員さんに案内され、あたしたちも向かう。

 するとそこには、男子部員と恵美ちゃんがいた。

 

「わあ、すごいわ……」

 

 プロでも、試合前に少しだけ練習するらしいけど、それに似た形式になっていて、恵美ちゃんがサーブを練習する中で、もう1人はリターンを、またラリー練習では、うまくラリーが続くように、前に出た恵美ちゃんに男子部員が打ちやすいコースに狙い、恵美ちゃんも相手は打ちやすいコースに狙っている。

 

「テニスでは、とにかくゲームメイクが大切になります。相手と打ち合うのもですが、壁打ちというのも効果的ですね」

 

「ふー、おう優子に篠原じゃねえか。よく来たなこんな辺鄙なところに」

 

 あたしたちに気付いた恵美ちゃんが話しかけてくる。

 確かに、ここは辺鄙といえば辺鄙だけど、テニス部員がそれを言っちゃいけない気がするわね。

 

「ああうん、ちょっと気になってな。野球部を見たついでに」

 

「あー野球部かあ、あそこは悲惨だよなあ」

 

 恵美ちゃんが、野球場の方角を見ながら言う。

 

「テニス部の方はどうなの?」

 

「あー、去年一昨年よりは人入ってるぜ」

 

 多分、球技大会の影響だと思う。

 

「そう、ところで恵美ちゃんはどうしてここのテニス部に?」

 

 恵美ちゃんなら、もっと名門に行こうと思えば行けるのに。

 あたしは以前から疑問だったので聞いてみた。

 

「あー、その疑問かあ……いいぜ、いい機会だ。話してやる」

 

 恵美ちゃんが、「ふー」っと一息つき、ベンチに座る。

 

「あたいはよ、小学校の頃から、もてはやされたもんだ。『テニスの天才』ってな。あたいは見ての通り、呆れるくらい負けず嫌いだ。中学にもなりゃ、そんな自分の性格が、悪い方向に進みかねねえことや、世の中はそううまくできてねえことも知ってた」

 

 恵美ちゃんが、まずは昔の話をする。

 

「あたいは確かに、今は天才だと周囲から言われてる。だけど、プロってのはそういう天才たちが世界中から集まって、しのぎを削る場所だ。うまくいくなんて保障はどこにもねえんだ。それに、仮に世界一の座に就いたとしたら、今度はあたいは男子に勝とうなんて考えを巡らせるだろうと思ってた。はっきり言えば、そんな生活、休まる日が来なさすぎる。だからあたいは、テニスが高校かせいぜい大学までにして、そこからは一般女性として、テニスは草トーナメントを趣味で続ける予定だった」

 

 恵美ちゃんが、自分の過去を告白する。

 あたしたちは一言も発さず、恵美ちゃんの話を真剣に聞く。

 

「だからあたいは、大人たちの反対を振り切って、ここに入った。ちょうど家からも近かったしな。だけど、高校でますます活躍するにつれ、テニススクールのスカウトはとにかくしつこかった」

 

 恐らく、浩介くんが受けた嫌がらせとは比較にならない嫌がらせを受けてきたと思う。

 

「あたいも最初は無視してたさ、だけどだんだん脅すような口調も増えてきた。そこであたいは、諦めさせるために、無茶苦茶な条件を言った。いや、言ったつもりだった」

 

「? もしかして……」

 

「ああ、もしうまく行かなくても一切合切の生活費の面倒を見ることとか、就職先とか、マスコミの取材拒否のこととか、とにかくあらゆる要求をした。だがあいつらは、それを受け入れると言ってきやがった」

 

 恵美ちゃんが悔しそうな顔で言う。

 恐らく、無茶苦茶なわがままを言い、「こっちから願い下げだ」と言わせたかったんだと思う。

 だけど、どうしてもという欲求の前には、中途半端な欲求では呑む人間が現れてしまう。

 そう、あたしたち協会を取材した、高島さんのように。

 

「あたいは、もっともっと滅茶苦茶な要求をするべきだったかもしれねえし、あるいは最初から欲求なんかしねえで断固拒否……それこそスカウトに暴力を振るってでも拒否すればよかったと思ってる。でも、動き出しちまったもんはもう変えられねえんだ」

 

 恵美ちゃんが、どこか遠くを見るように言う。

 ほとんど嫌々ながらプロテニス選手になるという。

 あたしなら、わざと負けたりしてすぐに引退しようとも思っちゃうけど、恵美ちゃんとしてもそこまでするのは嫌だと思う。

 

「さ、あたいの話は終わりだ。来年からは、あたいはもうWTA選手だ。だが卒業しても、メールアドレスは不滅だから、連絡は取れるぜ」

 

「うん」

 

 恵美ちゃんの力強い言葉にあたしも強く頷く。

 テニスコートを引き返して、あたしたちは陸上のグラウンドに行く。

 そこで見知った顔を見かけた。

 

「お、安曇川じゃねえか」

 

「こんにちは虎姫ちゃん」

 

「あ、優子と篠原じゃん」

 

 虎姫ちゃんと鉢合わせになる。

 

「虎姫ちゃんも陸上部に?」

 

「ああ、ちょっと面白そうと思ってな」

 

 陸上部は何を出しているのかと思いきや、「無理なくできるウォーキング運動」という展示を校庭に出していた。

 本格的な感じではなく、健康志向の中高年がするようなもの。

 

「何でこんなのが?」

 

「陸上部は弱小小谷学園運動部の中でも特に弱小だからね。体力テストとかでも、他の運動部に負けたりしちゃうし」

 

「「あ、あはは……」」

 

 虎姫ちゃんの毒舌に、あたしたちは2人して苦笑いしてしまう。

 特に20メートルシャトルランや50メートル走では、優一時代のあたしや浩介くんが陸上部に勝ってしまって周囲が何とも言えない空気になったのを覚えている。

 3年生は、体育の始めと終わりに、それぞれ体力テストをする。

 みんな受験勉強があるので、終わりの方が成績が悪くなる傾向にあるらしい。

 

「20メートルシャトルラン、優一の記録を抜くのは至難の業だなあ……」

 

 浩介くんがしんみりするように言う。確かに、優一時代の体力テストで一番の得意分野がシャトルランだった。

 でも、今の浩介くんの鍛え方を見ると、卒業時には優一時代の記録を抜いて180回を達成できそうな勢いだわ。

 浩介くん、あたしが彼女になってから、今まで以上に鍛えた成果が出ているらしい。

 

「お、これなら優子にもできそうだよ」

 

 虎姫ちゃんが展示の一つを指さして言う。

 

「ん?」

 

「お、確かにそうかもしれないな」

 

 浩介くんも反応したので、あたしも見てみる。

 それは、踏み台を使ったトレーニングになっている。

 昇ったり下りたりを繰り返すごく単純な内容になっている。

 

「短期間で昇り降りするのは、結構体に負担になるんだ。サッカー部でも、全力で前進して、任意のタイミングで後ろに下がる練習があるんだ」

 

「へー」

 

 虎姫ちゃんが言う。

 

「日常生活で、階段を昇ってすぐ降りるなんてしねえもんな」

 

 浩介くんがそう指摘する。まさに、言われてみればという所よね。

 

 

  ピンポンパンポーン!

 

「こちらは、小谷学園生徒会です、間もなく体育館にて、小谷学園ミスコンテスト私服審査と水着審査を行います繰り返し、小谷学園生徒会からの――」

 

 校内放送で、ミスコンの審査が近いことを知る。

 

「優子ちゃん、どうする?」

 

「うーん、行ってみるわ」

 

「よし分かった」

 

「私はいい。結果分かり切っちゃってるし」

 

 というわけで、ここで虎姫ちゃんとはお別れになる。

 虎姫ちゃんはサッカー部に戻り、あたしたちはミスコン会場を目指すこととした。


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