永遠の美少女になって永遠の闘病生活に入った件   作:名無し野ハゲ豚

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成長する桂子

 体育館への道はさほど混んでいなかった。やはり桂子ちゃんが強すぎるせいかもしれない。

 

 

「で、2位は誰だと思う?」

 

「分かんねえよ。桂子ちゃん以外今年はノーチャンスだろ?」

 

「だからこそ、2位を当てるんだよ」

 

「つってもよ、それって要するにコネと温情をどれだけ引き付けられるかって対決じゃん」

 

「あ、そうか……確かにかわいさと美人さじゃ誰が見たって桂子ちゃんだもんなあ……」

 

 

 3年生の男子2人組が、「2位は誰なのか」で盛り上がっている。

 いまいち盛り上がっていない今年のミスコンを、それでも何とか楽しもうとする涙ぐましい努力と言ってもいいかもしれないわね。

 

「ねえ優子ちゃん、確か2位と3位にもトロフィーがあるんだっけ?」

 

 浩介くんが話しかけてくる。

 

「うんそうよ。優勝のものより小さいけどね」

 

 永原先生と桂子ちゃんがもらっていたのを見たことがある。

 

「でも、今年の成績で貰っても嬉しくねえだろうなあ……」

 

 浩介くんが苦々しい表情で言う。

 

「そうかもしれないわね」

 

 去年のミスコンなら、それなりに価値はあったと思うんだけど。

 それよりもあたしは、桂子ちゃんがどんな水着と私服で来るのか楽しみだわ。

 桂子ちゃんの女子力を、あたしはもっと見習わないといけないし。今後の参考にしたいわね。

 

 

「何か空いてるな」

 

「う、うん……」

 

 体育館の中、去年は多くの立ち客が出るほど大人気だった会場は、今年は見る影もなく座席はまばらになっている。もちろん開始時間までもう少しあるけど、あたしたちはかなり前の方を陣取ることができた。

 

 

「お、あれは去年のナンバー1、石山先輩だ」

 

「ああ、去年はすごかったよなあ、木ノ本先輩に石山先輩に永原先生、3人の美女が輝いてたよなあ」

 

「あーあ、篠原先輩羨ましいよなあ……」

 

「今年あれだけ強い木ノ本先輩を倒しちゃったもんな。石山先輩が男だったって絶対嘘だろって思ったよ」

 

「俺も思ったよ。木ノ本先輩も永原先生もあんなに女の子らしい女の子なのに、半年足らずでああまでいかねえだろってさ。てか石山先輩ってはじめから女だったんじゃねって最近俺思ってるよ」

 

「それは無いだろ。まあ、俺もよく忘れてるけど」

 

「それにしても、あの時泣いてた2人、かわいかったよなあ」

 

「お前もその趣味あるんだ!?」

 

「なんかこうさ、守ってやりたいというの、優しくしてあげたいというか」

 

「あー分かる」

 

 

 あたしの座っている近くの席で、2年生の男子3人組が去年のミスコンについて話している。

 途中、「あたしが男だったなんて信じられない」という話題が飛び交う。

 あたしは、たまらなく嬉しくなった。あたしが元は石山優一という男だったことは、学校中が知っている。

 でも、あたしのことを男だったことを忘れている人が出てくるほどに、あたしは女の子になれている。

 あたしが元々男で、TS病で女になったということを知っていても、「中身も女」と思われることが、あたしの理想だったから。

 

 

「えー皆さん、お待たせいたしました。ただいまより、小谷学園ミスコンテスト、私服審査と水着審査に入ります。まずは私服審査の方から何ですが、各クラス12人の参加者のうちの5人が事前に辞退してしまいまして、本日の参加は7人になりました」

 

  ざわざわざわ……

 

 周囲がざわつくけど、そこまでの動揺が見られない。

 むしろ「しゃーない」「残念だが当然」という雰囲気で支配されていた。

 

「ではですね、まずは能登川明美ちゃん――」

 

 能登川と呼ばれた女子が手をあげる。

 この生徒、確か去年も参加してたわよね。

 中央にいる桂子ちゃん以外の女の子は、やはりみんな軽く手を挙げるだけで、拍手さえまばらという感じね。

 

「続きましてお待ちかね、圧倒的1位、去年の死闘を演じた昨年度の準ミス、木ノ本桂子ちゃんです!」

 

  ワーーーーーー!!!

 

 桂子ちゃんが登場すると観客の歓声が凄まじく大きくなる。

 周囲を見てみるといつの間にか席の大半が埋まっていて、去年ほどじゃないけど実入りはある。

 やっぱり美少女の集まるミスコンは、小谷学園では大人気なのだ。

 

 さて、桂子ちゃんの私服をよく見ると、偶然にも永原先生と修学旅行で鉄道博物館に言った時の服と同一のものだった。

 上下黒のロングスカートと白のYシャツ、そして胸と左頭にある2つの赤いリボン、よく見ると頭の赤いリボンはいずれもさきっぽが少し白く、胸のリボンはさくらんぼっぽくなっている。

 その服装は、永原先生が着てもそうだったけど、桂子ちゃんが来てもやはり、「幼い少女」という感じが強調されている。

 桂子ちゃんは常に腕を左右に大きく広げるポーズを取っていて、表情も幼く純粋な感じを強調していて、服装にもそれがマッチしているから、正直に言って永原先生よりも着こなしていると言っていい。

 

 

 桂子ちゃんの私服審査も終わり、最後に行われるのが水着審査ということになる。

 水着審査はいわばミスコンでも一番注目されていること。桂子ちゃんは、どう出るかな?

 

「さあ、続きましてお待ちかね、水着審査でございます! 会場の皆様はしばしお待ちくだされ」

 

 司会者さんがそう言うとミスコンの参加者たちが舞台からいったん下がる。

 私服審査の終了と同時に、司会の人が水着審査を開始すると宣言すると、一段と観客たちも盛り上がる。

 

 あたしは、このミスコンを3年間、別の視点で見てきた。

 1年目は男として、桂子ちゃんのいないミスコンにやや不満を覚えつつも、純粋に楽しんだと

 2年目は女の子になり、参加者として桂子ちゃんや永原先生と戦い、最終的に勝利して女の子としての自信を深めると同時に、自分の中にあった「醜い部分」を自覚した。

 そして3年目は前年優勝者として、ライバルだった桂子ちゃんが圧倒的な独走を見せ、その桂子ちゃんに勝ったあたしの女の子としての自信が高まると同時に、去年のことを思い出し、去年のミスコンがいい思い出になったと思う。

 

「木ノ本、すげえよな」

 

「うん、あたし、よく去年勝てたと思うわ」

 

 胸の大きさはもちろんのこと、顔のかわいさでもあたしが勝っていると思うけど、桂子ちゃんは純粋に生まれつきの女性として、女子力が高い。

 永原先生と同じ服を着た時に、高校3年生の桂子ちゃんは、480年間女性として過ごした永原先生よりも着こなしていた。

 

 女の子たちが水着に着替えている間、会場は期待に満ちたざわつきが繰り広げられている。

 あたしは、去年のことを思い出してしまう。

 

「優子ちゃん、去年あそこにいたんだな。水着審査の時、かわいかったよ」

 

「ふふっ、でもあの後、浩介くん嫉妬しちゃったわよね」

 

「う、うん……」

 

 浩介くんがすんなりと認めてくれる。

 もう、1年も前のことだものね。

 

「あーあ、去年の文化祭、浩介くん本当に嫉妬深かったわね」

 

 屋上と中庭でスカートめくりされたり、パンツを触られたり、中に手を入れられたり。浩介くんの嫉妬を治すには、とっても恥ずかしいことをしないといけなかった。

 でも、今はちょっとだけいい思い出かも?

 

「ああ、やっぱり優子ちゃん他の人に渡したくない」

 

「あら? あたしだって同じよ」

 

 あたしだって、独占欲はあるもん。

 

「じゃあ安心だな」

 

「うん」

 

 あたしと浩介くんが笑顔になっていると、マイクの電源を入れる音が聞こえてきた。

 

「皆さん、大変長らくお待たせしました。準備ができましたのでこれより、水着審査を開始いたします。では参加者の皆様どうぞ!」

 

  うおおおおおおおお!!!

 

 観客の歓声とともに、ミスコン参加者たちが水着姿で舞台に上がる。

 よく見ると、参加者の大半が普段着ているスクール水着のまま、胸の小さい参加者の一人が、昔のスクール水着を着用していて、これはこれで戦略的判断にはなっているが、やはり桂子ちゃんの水着の前には霞んで見えてしまう。

 

 桂子ちゃんの今年の水着は薄いピンク色で、胸が結構強調されている。

 下の方はフリル満点の上、いわゆる「紐パン」になっている。

 更に頭のリボンは私服審査の時と同じ。露出度は、この中では圧倒的に上だ。

 水着審査の方も、スクール水着の人がややパフォーマンスをしただけで、ほとんど手を挙げるだけ。あまり盛り上がっていない。

 

「では最後にお待ちかね、木ノ本桂子ちゃんです!」

 

  わあああああああああ!!!

 

 桂子ちゃんが呼ばれると、会場がどっと沸く。

 去年はこの大歓声を舞台上から聞いたけど、2年前と同じで、客席から聞くとまた違った音響がある。

 

 桂子ちゃんはまず両手を使って胸を強調する。エロい、すんごくエロい。

 あたしが規格外に大きいだけで、桂子ちゃんの胸は十分すぎるほど巨乳と言っていいからやはり歓声は凄い。

 桂子ちゃんはその場でゆっくりと前に後ろに、大き目なお尻もすさまじく、前にいた数人の男子生徒が大急ぎで立ち上がり、トイレの方に向かっていくのが見えた。

 そういえば、去年も似たようなことあったっけ?

 

 そして最後に桂子ちゃんは水着姿で体育座りになる。

 この体制だと、胸がさらに強調された上に下半身にも目が行く。あたしが感心しちゃうくらいとても考えられたエロい動きだわ。

 やはりあたしに刺激を受けたのか、桂子ちゃんの魅力は去年よりも格段に上がっていると思う。

 

「えーではですね、木ノ本桂子ちゃんから一言お願いします」

 

「皆さん、私にいっぱいいーっぱい投票してくれて、ありがとうございます。同じ1位でも、やっぱり差をつけて1位になりたいので、安心しないで皆さんもっともっと私に投票してください。よろしくお願いします!」

 

  パチパチパチパチパチ……!

 

 桂子ちゃんがスピーチを終えて頭を下げると、盛大な拍手が送られる。

 

「それでは、これより、小谷学園ミスコンテストの私服審査と水着審査を終了いたします。投票につきましては、こちらの投票箱から投票できます、皆様の清き一票を生徒会は心よりお待ちしております!」

 

 生徒会長の言葉と共に、幕が下ろされ拍手と共に観客たちも立ち上がっていく。

 

 

「やべえよ木ノ本先輩かわいすぎだろ」

 

「もう決めたわ。2位なんてどうでもいいや」

 

「うんうん。ミスコンは1番じゃなきゃダメ何だもんな」

 

「圧倒的であればあるほどいいよなこれ。最高に圧勝させてやるぜ!」

 

 

 近くの男子たちがそんな話をしていて、投票所にも行列が出来ている。おそらく、あの列の人のほぼ全員が桂子ちゃんに投票するはずよね。

 

「優子ちゃん、木ノ本と話しある?」

 

「うーん、せっかくだしちょっと話そうか」

 

 前年優勝者としても、元ライバルとしても、普通の友達としても、いろいろ桂子ちゃんに話してみたいし。

 そう思い、あたしたちは控え室の近くのスペースを陣取るために移動する。

 するとそこには、既に人だかりができていた。

 

「ん? 人だかりの中心、木ノ本じゃねえぞ」

 

 浩介くんが指摘する。

 

「うん、あれは……永原先生!」

 

 その人だかりでは、制服姿の永原先生が注目されていた。

 見てみると1年生と2年生が多い。

 

「あ、石山さんに篠原君」

 

あたしたちを見つけた永原先生が、うまく人だかりをかき分けてこっちに来てくれた。

 

「永原先生、人気ですね……」

 

「まあねえ、先生の制服姿なんて、ほとんど見られるものじゃないものね。今日は昨日以上に注目されているわよ」

 

 よく見ると、生徒たちだけではなく、一般の人の姿も見える。

 あの動画で見たっていう会話も見える。

 

「あ、君は確か石山優子さん!」

 

 知らない男性があたしを見て言う。

 

「あら、あたしを知ってるの?」

 

「だってほら、『ブライト桜』の動画で見たから。すげえ、制服姿だとこんな何だなあ……」

 

 もう取材から半年は経っているのに、今でもこうして話題に上がる。

 それというのも、協会を取材したマスコミの動画は、いまだにあれしかない。

 

  ガチャッ

 

「あら、先生、優子ちゃん、それに篠原も」

 

 控え室から、ナンバー1の桂子ちゃんが制服姿で出てくると、野次馬たちの喚声が再び上がる。

 

「桂子ちゃん、水着審査、とってもかわいかったわ」

 

「ふふっ、ありがとう。去年の優子ちゃんを、ちょっとだけ参考にしたわよ」

 

 桂子ちゃんは予想通り、あのパフォーマンスはあたしのを基に作っていた。

 やはり男受けを考えている桂子ちゃんは強いわね。

 

「にしても、何で先生は今年出なかったんだ?」

 

 3年生の1人が永原先生に疑問を投げかけている。

 

「ああうん、私は来年以降も出られるから、今年は最後のチャンスの木ノ本さんを優勝させたかったのよ。TS病なら老けることもないからね」

 

 永原先生があっさりとした感じで言う。

 

「まあでも、仮に出たとしても、木ノ本が優勝しそうだけどな。去年も木ノ本の方が票数が多かったし」

 

「あーうん、そうかもしれないわね」

 

 実際には、あたしたちは大接戦で、永原先生や桂子ちゃんが優勝してもおかしくなかった。

 特に桂子ちゃんと永原先生の差は、あってないようなものだった。

 それでも、記録には、順位がはっきり残る。もし去年、永原先生が桂子ちゃんより票数が多ければ、またケチがついてしまったかもしれない。

 

「さて、じゃあ私は天文部に戻るわね。優子ちゃんたちはどうする?」

 

「うーん、文化部回ろうぜ」

 

 浩介くんが提案してくる。

 

「うん」

 

「じゃあ部活棟までは一緒に行くわね」

 

 あたしたちは、桂子ちゃんと途中まで一緒についていく。

 最初に見て回る部活の前で、あたしたちは分かれた。

 

 文化部の部活は、運動部より面白く、嗜好を凝らしたものが多い。

 文芸部や美術部は、相変わらず部費稼ぎに余念がないみたいね。

 

 

「うーん、とにかく『小説家になろう』で一発当てねえとなあ……」

 

「ブックマークと評価を入れてくれて、ポイントが集まれば書籍化の目もあるんだろうけど……」

 

「ま、俺らには無縁の話だわな」

 

「まあ、小説書くのって難しいからなあ……今書いてるのも、エタらないにしねえと」

 

 

 あたしたちが、文芸部の展示を見ていると、部員たちのそんな声が聞こえてくる。

 かわいそうになったので、あたしも浩介くんも、文芸部の同人小説を買ってあげることにした。

 

 さて、次に訪れた美術部では、今年は趣向を変えて小谷学園の校内をイメージした絵が多い。

 体育館の様子とか、教室の授業とかの絵がある。

 ちなみに、先生や生徒にモデルは特にいないのもわかった。

 

「あ、優子ちゃん、今年も来てくれたんだね」

 

 美術部の人、去年と同じ人かな?

 

「うん、ちなみに、モデルにはならないわよ」

 

 去年みたいにセクハラされる前に、あたしがあらかじめ忠告しておく。

 

「分かってるよ、それよりも今年の展示はどうだい? 小谷学園の日常がテーマなんだ。この絵画、印刷だけど1セットで500円だよ」

 

 受付の担当部員が、点にされている絵と同じものを取り出して、あたしたちに買わせようとする。

 

「浩介くんこれ」

 

「俺はいいと思うぞ」

 

 浩介くんが意外な言葉を口にする。

 

「え!?」

 

「優子ちゃんはこれから人生長いし、俺もそうなりたい。でも、この小谷学園に居られるのは今だけだ。これを買えば、遠い未来でも、またあの頃を思い出せるんじゃないかってね」

 

 浩介くんがしんみりした感じで言う。

 確かにそうだわ。この絵が部屋にあれば、小谷学園のことも、よく思い出せると思う。やっぱり何百年と経てば、どうしても記憶が薄れて行っちゃうだろうし。

 

「あの、この絵、1セットください!」

 

「俺も」

 

 そう言うと、あたしたちは500円玉を同時に取り出す。

 

「毎度あり、はい、こちらです」

 

 あたしたちは笑顔の美術部員に小さな箱を渡される。

 あたしたちは美術部を後にする。

 

 去年と同じ展示の文化祭もあって、作動部や囲碁将棋部はそんな感じだった。

 そして、あたしたちは部活棟の最奥、自分たちが所属している。天文部へとやってきた。

 

  コンコン

 

「はーい」

 

 あたしたちは扉をノックし、中へ入る。

 

「あ、2人ともいらっしゃい」

 

「お、優子さんですね!」

 

 中には先回りしていた桂子ちゃんの他に、龍香ちゃんもいた。

 

「お、河瀨も天文に興味があるのか?」

 

「ああいえ、文化祭の今だけですよ。せっかくなので見ていくって感じです」

 

 龍香ちゃんがあっけらかんに言う。

 まあ、そうよね、文化祭じゃなきゃ美術部にも文芸部にも行かないし。

 

「まあ、文化祭ってそういうものよ」

 

 桂子ちゃんもドライに言う。

 天文部の展示は去年と同じで、立地の問題もあって人は少ないみたい。

 ともあれ、のんびり過ごせそうね。

 

 

「来年からは俺が部長をやるんだ」

 

 話の流れで、見張り役だった天文部の2年生男子が言う。

 最初は桂子ちゃんとあたし目当てだったけど、色々と考えが変わったらしい。ともあれ、あたしたちが卒業した後も、この部活は続くみたいね。

 あたしたちは、2日かけて、ほぼ見るべきものを見終わってしまった。

 なので、天文部の机で浩介くんや龍香ちゃん、桂子ちゃん、男子部員たちと談笑する。

 のんびりとした時間が、流れていった。

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