永遠の美少女になって永遠の闘病生活に入った件   作:名無し野ハゲ豚

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決められたプレゼント

 そこの階にあったのは、軍艦以外の船の模型だった。

 巨大なタンカーや大型客船から、小型のフェリーや遊覧船の他、100円で売られている「渡し船」や「手漕ぎボート」の模型も存在している。

 プラモデルというとつい軍艦が注目されちゃうけど、実際には他の船の方が多様性に富んでいる。

 

 ここのエリアには、「江戸時代の船」というものまである。

 隅田川には昔、こうした船が沢山並んでいたらしい。当時の光景をプラモデルなどで再現したミニジオラマもあった。

 

「これ、永原先生にも見せたかったわね」

 

「いた、意外と『私の記憶とは違う』とか言いそうだぞ」

 

 あたしの話に、浩介くんが冗談交じりに言う。

 でも確かに、これは上から見た図になってるから、案外記憶違いになりやすいかもしれないわね。

 

「あはは……」

 

 ともあれ、ここのコーナーには輸送船がたくさんあるほか、海上保安庁の巡視船の模型もある。

 軍艦は軍隊の艦船だから、海上保安庁とはまた別の扱いなのね。

 そしてその海上保安庁の近くに、いかにもヤバそうなプラモデルが置いてあった。

 

「不審船だってこれ」

 

「なんかやばそうよねこれ」

 

 北朝鮮の工作船で、これは実際に海上保安庁と開戦したモデルらしい。

 名義は「不審船」で、ご丁寧に工作員のパーツまで同封されている。

 ものすごいキワモノだと思う。

 

「北朝鮮の不審船ってあたしたち生まれてたっけ?」

 

「うーん、どうだったかなあ? でも記憶にはねえんだよな」

 

 聞くところによると、スクラップの予定だったが多くの人から寄付が集まり、今でも横浜に展示されているとか。

 

「いずれにしても、俺達の記憶にはねえなあ」

 

「うんうん」

 

 ともあれ、あたしたちの物心がつくより前のことなのは確かよね。

 さて、不審船の近くにあった海上保安庁の巡視船の模型を見て気付いたことがあった。

 それはどれもドクロマークの旗が同封されていたこと。

 ケースの文字などから推測するに、これはどうも訓練時に「不審船役」になるためのものだそうだ。

 

「なるほど、つまり警察の訓練で言う『犯人役』みたいなものか」

 

 うんそうよね。

 

「こういうのはむしろ、犯人役が大事になるわよね」

 

「ああ、非現実的だと、本番で訓練が活かされそうになさそうだしな」

 

 さて、海上保安庁のコーナーはこの辺にして、次に行こう。

 さて、海上保安庁の船たちの隣りにあったのは、かなり大型の模型で、どうやら石油などを運ぶタンカー船らしい。

 

 コンテナの模型などもあって、船がいかに大量輸送に優れているかが、この模型からも窺い知ることが出来るわね。

 

「しかし、こんなに積んで大丈夫なのか……」

 

 浩介くんが思わずつぶやく。

 

「船ってすごいわよね」

 

 軍艦は戦闘のために特化した船で、海上保安庁の巡視船も、海を守るための警察力のための船だけど、日々の暮らしという意味では、こうしたタンカーや輸送船の方があたしたちにとってはよっぽど馴染みが深い。

 同じ輸送船でも、輸送する物資によっては色々なタイプが有ることも分かる。

 

「で、こっちはLNG船ね」

 

 LNGは液化天然ガスのこと。それを運ぶための貨物船だという。

 

 そして、輸送船だけではなく、あたしたち人間を運ぶ旅客船の模型もまた大量だ。

 他にも、国鉄が以前使っていた旅客船もあり、「JNR」のマークはあの博物館と同じだった。

 

「これ、青函連絡船って言うんだな」

 

 青森と北海道の間の津軽海峡、今でこそあたしたちはトンネルのことしか知らないけど、昔は当然船で移動するしかなかった。

 

「洞爺丸……」

 

 一つの模型の前で、あたしは立ち止まる。

 裏面の説明を見ると、1954年の洞爺丸台風で他の4隻とともに沈没し、洞爺丸のみで1100人を超す膨大な犠牲者を出したのだという。

 

「悲劇の船かあ……」

 

 浩介くんがつぶやく。

 

「船は、沈むものよね。ましてや、台風だもの。でもこれは、不吉すぎて、クリスマスプレゼントには向かないわ……」

 

 あたしたちは初心者に過ぎるし、完成品の方でもいいと思うけど、正直かなり高い。

 そうじゃなくたって、台風で沈んで多くの人が死んだ船を、クリスマスプレゼントにするなんてどうかしているわ。

 

「でも、この事故のために、北海道新幹線もあるのよね」

 

 洞爺丸事故のために青函トンネルが出来、2年前の3月には北海道新幹線につながっている。

 

「そうだな。海底トンネルに潜っちまえば、台風の影響もほぼ受けねえしな。貨物輸送も助かっているらしいぜ」

 

 もちろん、その前後の区間で支障が出ることはあると思うけど。

 そして、次に時代は下り、別の船が見える。

 どうやら、現在でも運用されている日本のフェリーの模型。

 

「ねえねえ、この船体に太陽があるの、いいんじゃない?」

 

 どうも、このフェリーも有名らしい。船体の横側に大きな太陽が描かれていた。

 

「うん、元気が湧いてくるよなこれ」

 

 これならよさそうだけど……うーん……

 残りも少なくなってきたし、もう少し見ていこうかな?

 

「お、これはまた……あの時の映画のじゃんか」

 

 浩介くんが、サイズ種類の多い、ある客船の模型を見ている。

 それは、去年の林間学校で、行きのバスの中で見た映画のモチーフになった客船だった。これも、沈んだ船だ。

 ご丁寧に氷山のセットまで付随してある。

 

「これも縁起悪いわよね」

 

 特に映画は、客船での恋愛模様が繰り広げられていて、主人公の女性は生き残るが、最終的に恋人の男性は死んでしまうという展開だから、さっきの洞爺丸以上に縁起が悪い。

 

「ああ、でも俺たちには関係ないさ」

 

 浩介くんが頼もしそうに言う。

 

「確かにあたしたちは、あの2人みたいにならないわ。だって、陸上の内陸で、水もないところで溺れようがないもの」

 

「だな」

 

 他にも、各国の豪華客船の模型もある。

 この時の沈んだ客船も相当大きかったが、今の豪華客船はあれをも更に凌駕する船が多い。

 

「これ、すげえ横長だし縦長だし……よく沈まねえよなあ」

 

 まるで、絵に描いたようなトップヘビー型の白い豪華客船の模型。

 数えることさえ放棄したくなるようなおびただしい窓と救命ボートの数に、船上には様々なアトラクションまで見える。

 よく転覆しないものだと感心してしまうほどだわ。

 

「こんな大きな客船、本当に乗る人いるのかな?」

 

「うーん、分からないわね」

 

 最近はこの会社、積極的に日本市場を開拓したいらしく、よくテレビ番組でも見かけるようになった。

 でも、やっぱりこの手の「クルーズ客船」は、あたしたちには身近とは到底言えない。

 

「でもよ、これ、日本にもクルーズ客船はあるみたいだぜ」

 

 浩介くんが指を指す。

 そこには、現役で活躍中の日本クルーズ客船の模型があった。

 

「あー、聞いたことあるような気がするわ」

 

 さっきの船はあまりにも巨大だったが、こっちはそれよりは大分小さい。もちろん、船の中ではかなり大きい方で、窓の数もかなりの数があるけど、あの船のように無理そうな設計をした外見はしていない。

 船体が小さい分、お客さん一人一人にサービスが行き届きそうな気がするわ。

 

 大きさはそう、さっきの氷山で沈んだ豪華客船とちょうど同じくらいだと思う。

 

「浩介くん、この階もここまでだけど、どうする?」

 

 そして、ここの階の船のコーナーも終わってしまった。

 

「うーん、これかな」

 

 浩介くんは意外なものを取り出してきた。

 それは去年の林間学校の行きのバスで見た、沈没した豪華客船の完成模型だった。

 

「浩介くん、それはその……縁起が……」

 

 やっぱり、沈んじゃった船を婚約者のクリスマスプレゼントにするのは、はばかられる。

 もちろん、あたしは無宗教者だから、そういうのは信じないんだけどね。

 

「だからこそだよ、『俺達はこんな悲劇なんか超越してやるんだ』って言う意気込みでさ。あえて縁起の悪いものにするんだ」

 

 浩介くんの目は、決意が見受けられた。

 

「うん、分かったわ」

 

 あたしは、浩介くんの決意を聞き、これを浩介くんへのプレゼントとするべく、1階のレジでこれを購入する。

 

「ありがとうございましたー」

 

 あたしたちは、この大きな模型屋さんから出る。

 次に目指すのは、浩介くんからあたしにあげるプレゼントを物色する番になる。

 

「ねえ浩介くん」

 

「ん?」

 

「浩介くんは、あたしに何をプレゼントしたいかしら?」

 

 店から出た直後、あたしはまず大雑把にお店の目標を聞いてみる。

 

「うーん、この間婚約指輪あげちゃったからなあ……」

 

「もう、それは別でしょ! 何がいい?」

 

 去年も確か、浩介くんのプレゼントはお魚さんのぬいぐるみだったわね。

 今でも役に立っているわ。

 

「うーん、ねえ、動物のお人形でもいい?」

 

「え!? うわーい! やったー!」

 

 浩介くんが、あたしにかわいらしいお人形さんをプレゼントしてくれる。

 それだけでもう、とても嬉しい気分になる。

 

「よし、じゃあ優子ちゃん、おもちゃ屋さんに行こうか」

 

「うん」

 

 あたしたちは、模型屋さんから100メートルほど離れた、おもちゃ屋さんのコーナーにやってきた。

 小さな女の子向けのおもちゃ屋さんのコーナーは3階になる。

 

 そこには、子供の姿は少なく、親と思われる主婦層の人たちの姿が多く見受けられた。

 多分、あたしたちと同じく、クリスマスプレゼントを買いに来たんだと思う。

 どっちにしても、浩介くんは浮いていたけど。

 

 中を見てみると、そこのお人形さんには、あたしが既に持っているのもあるし、まだ持っていないのもある。

 女児向けのおままごとのおもちゃなどもたくさん売られていて、あたしの目をキラキラさせる。何だかずっとここにいてもいい気がするわ。

 

「ねえ、このキーホルダーはどう?」

 

「え? きゃーかわいい!」

 

 浩介くんが、愛らしい猫ちゃんのキーホルダーを見せてきた。

 

「あ、でも、お人形さんだったよね」

 

「あ、あはは……」

 

 あたしはとにかく、子供っぽいものに目がなくて、ピンク色のおままごとセットのおもちゃの箱に目を奪われて、他の人とぶつかりそうになってしまった。

 

「優子ちゃん気をつけてね」

 

 浩介くんがあたしに注意を促してくれる。

 

「あ、うん……ごめんなさい」

 

 とにかく、よそ見しがちな所は特に周囲に気を配らないといけないわね。

 

「ねえねえ優子ちゃん、この動物のお人形さんだけど」

 

「あーうん、これは持ってるわね」

 

 浩介くんが指差した動物一家のドールハウスのおもちゃ。

 あたしもこれは特にお気に入りで、色々なお人形さんとの一人お芝居に狩り出している。

 

「でも、こっちは持ってないわね」

 

 あたしは、そのすぐ右隣、同じシリーズのリスさんのぬいぐるみのセットを指差して言う。

 

「お、じゃあこれのセットがいい?」

 

「うん、家族が増えるわね」

 

 あたしへのプレゼントは、案外あっさり決まってしまった。

 見てみると、カップルで来ているあたしたちは結構目立っているみたいで、特に浩介くんはかなり場違いな感じらしく、結構お母様方から視線を浴びている。

 

「いやでもよ……」

 

「うん?」

 

 浩介くんは、まだ何かを思慮している。

 

「俺のこの模型は結構な値段するし、やっぱりもう一個だけ、別のぬいぐるみを買わせてくれねえか?」

 

 浩介くんがそう言う。

 

「ああうん、気を使わなくていいわよ。これだけで十分嬉しいし」

 

 確かに、値段的には釣り合ってないけど、気持ち的には負けてないと思う。

 だからあたしは、気にしないでいいと言うことにした。

 

「まあ、そう言うなって」

 

「う、うん……」

 

 でもこうやって、最終的には浩介くんに押し切られちゃうのよね。

 あたしって、結構押しに弱いわよね。優一の頃の反動もあるのかも。

 

 浩介くんは、更に売り場の奥を目指す。

 ぬいぐるみさんの動物は、殆どを網羅した。今でも、あたしのぬいぐるみたちは、ベッドで添い寝している。

 

「このウサギさんは、優子ちゃんの持ってるのとタイプ違うよね」

 

「うん」

 

 浩介くんが指差したうさぎのぬいぐるみさんは、あたしが持っているぬいぐるみさんとはまた色が違っていた。

 うん、これでいいわね。

 

「他にはもっと良さそうなのある?」

 

「うーん……」

 

 もう一度、周囲を見てみる。

 他のお人形さんも持ってないのが多いけど、うーん……

 

「こっちのウサギさんはどうかな?」

 

 あたしが、さっきのお人形さんよりも同じくらいの値段だけど、大きさが一回り大きいウサギさんのぬいぐるみさんを指差す。

 

「ああ、こっちのほうが大きいな。よし」

 

 浩介くんがさっきのぬいぐるみさんを元に戻し、あたしの指差した方のぬいぐるみさんを持っていく。

 

「よし、じゃあレジに持っていこうぜ」

 

「うん」

 

 浩介くんからあたしへのプレゼントも決まり、同じフロアにあるレジで会計を済ませ、あたしたちはお店を出る。

 

「よし、これでクリスマスプレゼントを買い終わったな」

 

「うん」

 

 さて、これからどうしようかしら?

 

「ともあれ、腹が減ったな」

 

 浩介くんと同じく、あたしもちょっと空き始めている。

 

「じゃあそろそろお昼にしようかしら?」

 

「おう。デパートでいいか?」

 

「うん」

 

 あたしたちは、デパートに入る。

 やはりここのレストランコーナーは、真っ先に思いつく場所と言ってもいいだろう。

 

 

 クリスマスイブということもあって、かなりのお客さんで賑わっていたけど、あたしたちはいつものようにラーメン屋さんに並び、浩介くんが大盛りの、あたしがレディースの小さいラーメンを食べた。

 

 

「「ごちそうさまでした」」

 

 デパートでの腹ごしらえが終わったら、あたしたちは家に戻る。

 そう、このデートは「帰省」を想定した「花嫁修業」も兼ねているから。

 

 

「優子ちゃんのお母さん、いい印象持ってくれるといいなあ」

 

 駅から出て、あたしの家に向かう途中で、浩介くんが心配そうに言う。

 浩介くんがあたしの家で、母さんがいる中で泊りがけは初めてのことだ。

 でも、今後結婚したらそういう機会は増えると思う。

 

「大丈夫よ」

 

 あたしは、浩介くんを安心させたい一心で言う。

 

「そうは言ってもよ、やっぱりちょっと心配なんだぜ、優子ちゃんだってゴールデンウィークの時はそうだったんじゃない?」

 

「あ、うん」

 

「もちろん、婚約解消になることはないと思うし、そんな心配は全くしていないんだが、やっぱり評価が高いに越したこと無いじゃない?」

 

 浩介くんは、あくまで慎重な性格だ。

 

「うん、それはそうよね」

 

 やっぱり、家族として、親戚として付き合うともなると、今までの彼氏彼女では済まされないような問題が、たくさん出てくるんだと思う。

 そんなことを考えつつも、あたしはやや楽しみに、浩介くんをあたしの家に招いた。


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