永遠の美少女になって永遠の闘病生活に入った件   作:名無し野ハゲ豚

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静かなクリスマス

「うんっ……」

 

 なんかベッドが狭い、いつもより狭いわね。そうだった、浩介くんがいたんだわ。

 今日はベッドだけど、本当の帰省の時はこの部屋に布団を敷く事になっている。部屋も空になるから、スペースは確保できるはず。

 さて、浩介くんはまだ起きていないわね。

 

 ゆっくりとベッドから降りて……よしっ、浩介くんは気付いていないわね。

 

「すーすー」

 

 浩介くんはまだ深く眠っている。

 今のうちに着替えちゃおう。あ、でも起きてくる可能性もあるし、部屋は変えないといけないわね。

 今日は午後には浩介くんが家に帰る予定で、帰省ということであたしも駅まで行こうかなと思っている。

 冬らしく、あたしはくるぶし丈のロングスカートに、赤と茶色の中間くらいの落ち着いた感じのトップスにする。

 

「ふー」

 

 浩介くんが起きてくるまで、リビングで休もうかな?

 どうやら結構早い時間に起きてしまったらしく、父さんも母さんも起きてないみたいだし。

 

「さて、テレビ見ようかなあ……」

 

 テレビは多分、クリスマス当日ということで、昨日と同じような内容になっているとは思う。

 あるいは、「新年に向けて」の番組内容になっているかもしれない。

 

「うーん……」

 

 あたしはCSの方を回す。

 

「あ、これがいいかも」

 

 久々に、CSを回すと、「これは実話であり」の飛行機事故の検証番組をやっていた。

 その次にも、何やら船舶での貨物輸送のお仕事の話があるみたい。これもまさに、働くおじさんという感じだわ。

 これなら、暇つぶしに持ってこいね。

 

 あたしは番組を見始める。今回の事故、どうやら海上での墜落みたいね。

 あたしも勘で分かってきたけど、テロとかそういうのはあんまりないわよね。

 これだけ番組を見ると、大抵はブラフというのも分かってくる。

 あーでも、そう言う推測をしちゃいけないのかな?

 ともあれ番組に戻ろう。

 

 機長は飛行時間20000時間のベテランだという。

 どうやら、インドネシアからシンガポールで、副操縦士が操縦している。

 前方に嵐があるという報告から、この番組は始まる。もちろん、乱気流は避けたいのが普通。

 警報として「イーカムアクション」が鳴っていて、マニュアル通りの措置をして警報が解除された。

 数分後、また同じ警報が出た。そして管制官は上昇を許可する。

 応答がないのはまた、同じ警報が出てそれに追われていたかららしい。

 今度は警報が増え、機体も傾き始めている。

 そしてそのまま機体が急上昇していく。そして突然落下、失速ってことよね……

 

 そしてそのまま、レーダーから消えてしまった。

 典型的な航空事故って……一体どういうことだろう?

 最初に疑われたのがまず天候。天気図を重ねたが雷雲は無関係だとわかった。

 海の捜索は大変で、海底から引き上げるのは時間がかかる。

 そしてまず、空中爆発かどうかを調べる。そしてその痕跡は見つからなかった。

 とは言え、まずはブラックボックスを見つけないといけないわね。

 

 なんとか回収完了し、事故機の様子が分かる。

 ここまでは再現と同じ。

 次の警報、機長が「いや、いい方法がある」と言っていた。

 

「これは新しい情報ね」

 

 最初の再現にはなかった。

 

  ガチャッ……

 

「あ、浩介くん」

 

 パジャマ姿の浩介くんが、リビングに入ってきた。

 

「優子ちゃん、あ、これ見てるんだ。お、以前見たことあるぞこれ」

 

「今、オートパイロットが開放されたところね」

 

 そして、ここから一気に別の警報が鳴り始めた。

 失速警報……失速なのに「減速」ってまずいよね。

 

「引き下げろって……」

 

「操縦桿引いちゃダメよね」

 

 失速状態で操縦桿を引くのは状況が悪化するだけよね。

 

「ああ」

 

 そして、整備記録を見てみると、事故機にはRTLUに故障があったことが分かった。

 これはどうも、方向舵の制御ユニットらしい。

 23回も同じ不具合が続いていて……何で飛ばすのよ……

 リセットだけして運行するのはだめよね……それでも法的には無問題なのね、怖いわ。

 

「浩介くん、これ……」

 

「警報があるのに何もないっていうのが引っかかるよなあ」

 

「故障一つでは落ちないってことかな?」

 

 にしたってもうちょっとどうにかならないものかとも思うけど。

 ともあれ、フライトデータレコーダーの解析に期待しよう。

 ダウンロードした結果、4回目で破綻したことがわかった。

 

「2度が一気に54度にも傾いたのね」

 

「それだけ巡航速度は速いんだな」

 

 そりゃあ飛行機だから当たり前だけど。

 そして自動操縦が消えたの地、パイロットの操作が誤っていることが分かった。

 

 そして、突然の電話で新情報が飛び込んできた。

 どうやら、事故機の機長が地上の整備士を呼んだみたいね。

 

「いい手がある」

 

 整備士がそう言うと、メインコンピューターの回路を遮断した。

 

「こ、これでいいの?」

 

「もちろんよくはない」

 

 浩介くんが冷静にあたしを突っ込む。

 

「飛行中にやったらいけないわよね」

 

 飛行中にコンピューターの回路を遮断する、なんて素人でもまずいと分かる。

 フライトシミュレーターを使った実験でも、やはり同じ結果になっていた。

 専門家からも「絶対にやってはいけない行為です」と言われている。

 姿勢指示機を見ていなかったと番組では続いている。

 

「空間識失調……」

 

「姿勢指示機を見てなかったのね」

 

 パイロットが空間識失調を続けた結果、最初の54度左に傾いた状態が正常だと思い込んだ。

 そして、いきなり機首上げをし始めた。

 ……完全に混乱しているわね。

 

 「引き下げろ」という言葉が、更に混乱を招いていた。

 引いたら普通、機首が上がるはずだから。

 

 「pull down」では主語がない、これではどうにもならないわね。

 機長は操縦の権限を移せない、「私が操縦する」とは言わなかった。

 ボーイング機ではあり得ないらしい。

 

 そしてRTLUの調査結果が出た。

 何とこの警報は、無視してもいいとのことだった。

 

「無視してもいい警報って矛盾してない?」

 

 あたしは素人考えの疑問を投げかける。

 

「だよなあ、何のための警報なんだろう?」

 

 どうやら、はんだ付けのちょっとしたミスで、このような悲劇の連鎖が引き起こされたという。

 どうにもやりきれない事故よね。何もかもが、悪夢で連鎖している。

 最終報告書では、軽微な不具合を放置しないように、整備マニュアルを改善するように低減している。

 そしてもう一つが、クルーのコミュニケーションの重要性だという。

 

「実は機長は何度か操縦桿を押してるんだけどねえ」

 

「操縦を変わると言わなかったのはまずかったわよね」

 

 そして、番組が終わった。

 

  ガチャッ……

 

「あら、優子たち起きてたの?」

 

 ちょうど番組を見終わると、母さんが部屋に入ってきた。

 

「ああうん、ちょっと朝早起きしちゃって」

 

「そう? 朝食はもっと後でいい?」

 

 母さんが聞いてくる。

 

「うん」

 

 あたしはあまりお腹空いていないので「後でいい」と答えておく。

 ともあれ、次の番組を見たい。

 この後は、船舶の貨物輸送のお話を行う。

 

 物流を支える人々は目に見えないが、あたしたちの生活には無くてはならない存在でもある。

 また大型船にもなるので、積み込み作業だけでも大変なのが伺える。

 

「こんな短時間でよくできるわね」

 

 母さんが感心している。

 

「うん、クレーン役とか絶対嫌だわ」

 

 もちろん、安全対策には万全を期してるんだとは思うけど、それでも高所というのは怖い。

 遊園地デートでも、あたしも浩介くんも、観覧車に乗っただけで、ジェットコースターなどには乗らなかった。

 コンテナを積む順番や、積む中身なども考慮しなくてはいけなくて、これは本当に大変だと思った。

 

 巨大船が来ると言うだけでも、港は大騒ぎになる。

 何故なら、ボートや漁船などの小型船を近付けてはいけないからだ。

 大きな船は急に止まったり曲がったり出来ない。自動車とはまるで訳が違うのよね。

 速度が遅くても、船は大きいから止まったり曲がるのは大変。そういえば、あの客船映画でもそんな感じだったものね。

 

 そこで、近くで誘導用のボートを動かして見張りを兼ねるんだという。

 そして接岸し、クレーンなどを使って物資を運ぶ。

 これらの船で運んだ物資は、鉄道やトラックを使ってお店に運ばれていく。

 

「例えば、自動車ならどうなるのかな?」

 

 CM中に、あたしが聞いてみる。

 

「自動車工場で自動車を作って、それを自動車運送用のトラックや貨物列車で運んで、港についたらコンテナに入れて、船で輸出する。そして向こうではそこからトラックや貨物列車に積んで、そして各ディーラーに並ぶんじゃないかな?」

 

「なるほどねえ……」

 

 船と自動車と鉄道とで、うまく役割分担をするのが運送の役目。

 いや、あたしたちだって、例えば作ったご飯をテーブルに置くのだって、運送の一種とみなしていいと思う。ご飯の原料だって、トラックなどで輸送されてくる。

 物をいかにして運ぶかということは、かなり重要なテーマだと思う。

 古来は、人間が自分たちで運ぶしかなかったんだから、こういう大量輸送が出来るようになったのは、人間が豊かになる原動力にもなっているのよね。

 

「さ、お母さんはこれ見終わったら、朝食作るから、優子は手伝ってちょうだい」

 

「はーい!」

 

 運送番組も終わり、あたしは母さんと一緒にごはんの準備に取り掛かる。

 今日はクリスマスだけど、昨日が特別だったので、今日はちょっとだけアレンジした朝食で済ます。

 ちなみに、この時にプレゼントも渡すことになっていたので、浩介くんは昨日買ったプレゼントを取りに部屋に戻っている。

 

「優子、クリスマスプレゼント、何もらったの?」

 

 母さんが聞いてくる。

 

「え? 見てのお楽しみよ」

 

「まあ、そうよね」

 

  ガチャッ……

 

 そんな会話をしていると、また部屋の扉が開く音がした。

 

「おはよう……」

 

「あ、父さんおはよう」

 

 父さんが、起きて机に向かい、あたしたちがちょうど見終わったというのもあって、テレビでニュース番組を見始めた。

 

 

「ご飯できたわよー」

 

「「「はい」」」

 

 やがて母さんとともにご飯を作り終わり、男たちに配る。

 

「それじゃあ、いただきますするわよ」

 

「「「いただきます」」」

 

 母さんがそう言うとあたしたちも続く。

 浩介くんが入る分だけ量が多いだけで、いつもとそこまで変わらない朝食だった。

 

 

「それで、さっきの続き。優子はクリスマスプレゼント何貰ったの?」

 

「ふふ、じゃーん!」

 

 あたしは浩介くんから貰ったプレゼントの箱を開く。

 そこにはウサギさんの大きめのぬいぐるみに加えて、リスさんのドールハウスキットもあった。

 

「あら優子、やっぱりそういうのが好き?」

 

「うん大好きだわ」

 

 何が入っているのか分かっていても、何故かドキドキ感があるし、嬉しさは変わらなかった。

 浩介くんからもらったかわいらしいぬいぐるみさんだもん。

 

「うーんでもなあ……」

 

「ねー」

 

 一方で、両親は子供向けのプレゼントに喜んでいるあたしにちょっとだけ引っかかる感じがしているみたいね。

 

「父さん、母さん、女の子がぬいぐるみさんで遊んじゃダメなの?」

 

「ああうん、そうよね。優子ちゃん……やっぱりもう、本当にすっかり女の子よね」

 

 母さんが遠い目を見て言う。その心境は複雑極まりないものだ。

 優一だった頃のことを少し思い出しているのかもしれない。

 

「優一が優子に……息子が娘になった日が、昨日のことのようだよ」

 

「優子ちゃん、本当に正反対の性格で、本当にすごいと思うよ。もし俺がこの病気になって……ここまでやれるとは思わないよ」

 

 父さんと浩介くんもまた、優一とあたしを重ね合わせる。

 

「父さん、まだ思うんだよ。もしかしたらさ、本当は優一ってのはあの時に死んでいて。新しく優子って女の子が家に入ったんじゃないかって」

 

「え? でも……それは……」

 

 そんなことはないことは分かっている。今でも思い出そうとすれば、優一の記憶も色濃く残っている。

 第一、最初に起きた時に、両親に本人確認もしたし。

 

「あーうん、もちろん優子と優一が同じ人だってのは知っているよ。だけど、ここまで変わっちゃうと、そうも思えてくるんだ」

 

 それはそうかもしれない、父さんの言う通り。

 ただ性格面だけじゃない、乙女心あふれる女の子になっただけじゃなく、性癖まで女の子になって、今でも浩介くんの下半身につい目が行ってしまう。

 プールデートの時だって、浩介くんに胸やお尻触られて興奮しちゃって、大きくなった浩介くんの下半身にも……

 ううん、考えちゃダメ。浩介くんの「あそこ」を考えるだけで、濡れちゃいそうだわ。

 

「どうしたの優子ちゃん?」

 

 浩介くんが少し気になって言う。

 またちょっと考え込んじゃったかな?

 

「ああうん、何でもないわ浩介くん」

 

 いけないいけない、ちょっと思考が飛んじゃったわ。

 

「それで、優子は浩介くんに何をプレゼントしようとしたの?」

 

 母さんが今度は浩介くんの方に注目する。

 

「うん、ちょっと待って」

 

 浩介くんが箱を取り出して開ける。

 そこには豪華客船の完成模型があった。

 

「あら、船の模型ね」

 

 母さんがちょっと興味深そうに見ている。

 4本の煙突のある大きな船の模型。この船の模型は、あたしは「縁起が悪い」ということで買うのをやめようとしたんだけど、浩介くんはあえてこれをチョイスした。

 父さんは、この船が何か知っているためか、ちょっとだけ苦虫を噛み潰したような表情をしている。

 

「あら? お父さんどうしたの? 難しい顔して」

 

 母さんがそれに気付き、父さんに問いかけてみる。

 

「あーいや、その船はな……沈む船だろ?」

 

「ああうん、でも浩介くんは『あえて縁起の悪い船にしたい』って言ったわ」

 

 父さんの想定内の疑問にあたしは予定通りの答えをする。

 

「うーむ、なるほどのお……そう言う考え方もあるか」

 

 父さんは納得したような表情で言う。よかったわね、揉めなくて。

 ちなみに、このプレゼントは浩介くんの部屋に飾ることになった。

 クリスマスプレゼントを交換し終わり、あたしたちは部屋に戻った。

 

「ねえ浩介くん、この後なんだけど……」

 

「うん」

 

「ちょっとだけ、あたしとお人形さん遊びしない?」

 

「え!?」

 

 あたしの提案を聞くと浩介くんは少し驚いた風に言う。

 

「おままごとセットとかも使って、あたしが普段している女の子の遊びのこと」

 

「ああ」

 

 以前にも、似たようなことはしたことあるけど、これから結婚したらそういうことも増えてくるはず。

 そう言う意味でも、今のうちにこうしたお人形さん遊びは増やしていきたい。

 

「そうだ、この船の模型も使ってみようぜ」

 

「え!?」

 

 浩介くんから、意外な提案が出る。

 確かに、使えそうではあるけど。

 

「この人形とこの人形で……後は海はこの青いハンカチで……」

 

「えっとこうやって……」

 

 あたしたちは、林間学校で見た映画のワンシーンを再現した。

 ウサギさんとリスさんの小さなぬいぐるみでだけど。

 

「おー! 中々感じ出てるじゃん」

 

 見た感じよりも、雰囲気が出てるわね。

 

「うん、こういう遊び方もあるのね」

 

 斬新な浩介くんの発想に、あたしもすごく楽しいわ。

 

「これさ、船内なんかをセットにしてさ、ミニチュアで映画を再現できそうだな」

 

 浩介くんが言う。

 でもお金かかりそうよね。まあ、頭の片隅にとどめておこうかな?

 そんなこともあって、浩介くんとのお人形遊びとおままごとは、順調に進んでいった。

 

 

「それじゃあ、浩介くん、またね」

 

「ああ、良いお年を……かな?」

 

「うん、元旦にまた、会いましょう」

 

 時間にもなったので、名残惜しく浩介くんと別れる。あたしたちは冬休みに入る。この間、元旦まで特に予定はない。

 あたしは高校卒業に向け、残り少ない2018年を楽しむことにした。


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