永遠の美少女になって永遠の闘病生活に入った件   作:名無し野ハゲ豚

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2019年

  ピピピピッ……ピピピピッ……

 

「うーん……」

 

 朝起きる。今日は1月1日、この日より、2019年になった。

 元旦ということで、あたしは初詣に行くことになっている。

 去年と同じように振り袖を着ることになっているんだけど、浩介くんに和服姿を見せるのは去年の元旦以来のことになる。

 

「浩介くん、気に入ってくれるといいなあー」

 

 夏祭りに初詣でお世話になった神社に今年も行く。

 夏祭りの時は、あたしはまだ女の子になりきれていなくて、随分と浩介くんにも寂しい思いをさせたと思うし、あたし自身ももどかしかった。今はもう、懐かしい思い出だけど。

 

「母さーん」

 

「あ、はーい!」

 

 ともあれ、起きたあたしは母さんを呼ぶ。

 部屋に入ってみると、何と母さんも和服姿になっていた。

 

「今日は私も行くわよ」

 

 母さんが気合いを入れたように言う。

 

「え!? でも……」

 

「いい? 今日は浩介くんのお母さんにも来て貰うわよ。親戚付き合いということも考えねばならないのよ」

 

「あ、うん……」

 

 やっぱり、最近はこういうのが多い。

 恋人同士というデートの状態は少なくなって、両家の付き合い的な交流イベントが増えた。

 

「いい優子? 結婚ともなると2人だけの問題じゃなくなるわよ。気持ちは分かるけど、こういうのを疎かにすると、長続きしないわよ」

 

「はーい」

 

 母さん、何だか最近は姑さん代わりにもなっているわね。

 永原先生や桂子ちゃんも小姑っぽくなってるし、本当、性格悪い人がいなくてよかったわ。

 浩介くんに姉妹が居て、嫉妬深い小姑になっちゃったらまずいものね……あ、でもあたしくらいかわいくて美人で、家事も上手ならそういう気も起きないかも?

 

「優子、着替えるのもいいけど、パジャマのままでいいからご飯手伝ってくれる?」

 

「うん」

 

 着替える前に、まず母さんの指示で家事を開始することになった。

 母さんは和服姿なのに、料理をこぼしたりとかしない。

 やっぱり出来る主婦は違う。あたしも、ああなりたいと思う。

 

「さ、優子。お正月の朝ごはんよ」

 

 あたしは、今年最初の朝ごはんを母さんと作り終わり、父さんと3人で食べる。

 

「この家の、最後の正月ね」

 

 あたしが家に居て最近考えるのはいつも結婚のこと。

 浩介くんのお嫁さんになったら、あたしはこの家から浩介くんの家に嫁ぐ。

 大晦日だって、この家で過ごすのは最後だし、バレンタインデーだって、そうだった。

 

「そうねえ、あ、でも帰省してもいいのよ」

 

「うん……」

 

 あたしは、やっぱりちょっとうつむいてしまう。もちろん、母さんは母さんで自分の実家に時折帰っているから、あたしも時折実家に帰る必要はあると思うんだろうけど。

 

「ねえ母さん……」

 

「何かしら優子?」

 

 やっぱり、ちょっと不安なので聞いてみる。

 

「母さんはこの家に来る時は、前の家からはどんな感じだったの?」

 

「うーん、お互い独立してての核家族だったから、あんまり実感がわかなかったわ。お父さんと結婚する前は1人暮らしだったからね」

 

「そう言えばそうだったわね」

 

 あたしは元々、結婚する前の両親についてあまり聞いたことはない。

 母さんが結婚前に独立して一人暮らしだったことも、今思い出したばかりのことだった。

 

「まあ、なるようになるわよ。浩介くんの両親も居るし、寂しくはないはずよ。私達も、優子が居なくなっても大丈夫よ。それに、どうしても寂しくなったら、会いに行くから、ね」

 

「うん……」

 

 そう、あたしの家と浩介くんの家、ほぼ離れていないで、電車で数駅の近い距離にあるから、いつでも行くことが出来る。

 遠距離にならなくて、本当に良かったわ。

 

「それに、本当の本当に別居に耐えられないなら、どちらかが家を売って、もう片方が家をリフォームして2世帯住宅にしちゃえばいいのよ」

 

 母さんが、さらりと凄まじいことを言う。

 建て替えたらお金かかりそうだわ。

 

「え!? でもそれは……」

 

「あはは、もちろんそんなことはしないわよ。ほら、優子は卒業式に行って、婚姻届出して、結婚式して、翌日から新婚旅行に行って、そのまま浩介くんの家に入るんでしょ? それなら、関心もいろいろと分散されるから、そこまでショックにはならないわよ」

 

 母さんはとことん楽観的に言う。

 でも、そうかもしれない。

 大好きな浩介くんのお嫁さんになるんだもの。このくらいの未練、何てことないじゃないの。

 母さんの励ましのおかげで、あたしは気持ちが楽になった。

 

 

「さ、優子、着付けするわよ」

 

「はーい」

 

 朝食を食べ終わったら、早速母さんに着付けすると言われ、あたしは自分の部屋に戻る。

 去年を思い出しながら、あたしは母さんに手伝ってもらって振袖姿になる。

 

「はーい、動かないでね」

 

 母さんに体を触られ、まさぐられながら言われる。

 

「んぅ……ちょっと母さん、どこ触ってるのよ!」

 

「あらあら、ごめんなさいねー」

 

 うー、絶対わざとだわ。

 去年はそういうことなくて、普通に着替えさせてくれたのに。

 

「う、うん……」

 

 母さんにパジャマに手を入れられ下半身から下着ごと降ろされる。

 上も同じようにブラジャーも脱がされ、あたしは何も身に着けない状態にさせられた。

 

「あーん……」

 

 母さんとはいえ、いやらしい感じで脱がされるのは結構恥ずかしいわね。

 浩介くんほどじゃないとは思うけど。

 

「うふふ、我慢しなさい」

 

 全裸のあたしに諭すように言うと、さらしを巻かされ胸を小さくさせられる。女としての尊厳が傷つくみたいで、あたし的にはちょっと憂鬱な瞬間だ。

 そして取り出した襦袢を着せてくれる。

 

「はい、じゃあ着付けるわよ」

 

 そして、本格的な振り袖を母さんがぱぱっと着付けてくる。

 このあたりの手早さは、あたしも見習っていきたいわね。

 

 

「はい、出来たわよ」

 

「うん、ありがとう」

 

 母さんからOKの合図が出て、あたしはようやく自由になる。

 部屋にある鏡の前で確認してみる。

 うん、これならバッチリね。

 でもやっぱり、さらしがきついわ。かと言って、まかないとあまりにもみっともないし。

 

「さあ優子、行くわよ」

 

「う、うん……」

 

 ともあれ、母さんの号令も掛かり、あたしは母さんと一緒に家を出た。

 

「さ、今日は桂子ちゃんも招待しているわよ」

 

「え!? 桂子ちゃんも?」

 

 家から出てすぐ、母さんがもう一つの事実を告げる。

 

「ええ、桂子ちゃんとあの場所から行ける初詣も、もうこれで最後ですもの」

 

 母さんが言う。でも、正確には帰省すればまた出来る。

 だけど、毎年できるかと言えば違う。

 

 母さんと道を歩いていると、同じく振袖姿の美人の親子が見えてきた。

 

「あ、優子さん、あけましておめでとう」

 

「あ、桂子ちゃんのお母さん、あけましておめでとうございます、その……お久しぶりです」

 

 桂子ちゃんの近くに、桂子ちゃんのお母さんがいた。

 桂子ちゃんのお母さんとは、近所なので女の子になってからも何度か顔を合わせていて、あたしが、優一が変身した優子だということも知っている。

 

「久しぶりって言っても、数週間前に会ったじゃない。ゴミ捨ての時に」

 

「あ、ああうん……そうでしたね」

 

 桂子ちゃんのお母さんと遣り取りをする。

 

「あ、優子ちゃん、あけましておめでとう」

 

 そして隣りにいた桂子ちゃんが、あたしに挨拶をしてくる。

 桂子ちゃんは礼儀正しいきれいな所作で頭を下げる。

 本当に美しい所作だわ。

 

「桂子ちゃんも、あけましておめでとう」

 

 あたしも、軽く礼をする。

 どうしても、桂子ちゃんよりもずっとぎこちなくて頼りない挨拶の仕方になってしまう。

 

「うーん、やっぱり優子はまだまだ桂子ちゃんに勝ててないわねえ……」

 

 母さんがうんうんうなりながら言う。

 

「ええ、ですが桂子は生まれつきの女の子でしょ? 女の子になって2年足らずの優子さんがうちの桂子にここまでついてこれているだけでも、十分に素晴らしいことですよ」

 

 桂子ちゃんのお母さんがフォローしている。

 

「そうそう、優子ちゃんは目標が高すぎることがあるわよ。もちろん、女子力への向上心を失っちゃダメだけど」

 

「う、うん……」

 

 桂子ちゃんもあたしのことを心配してくれている。

 3人の中では、あたしは目標が高すぎるということらしい。

 

「優子ちゃん、篠原のことを好きになった後しばらく思い詰めていたもの」

 

「え!? やっぱりバレてた?」

 

 あの時はそう、女の子の心に、身体が追いついていなかったせいで、ああなった。

 

「……当たり前でしょ。優子ちゃん、少しずつ一歩一歩女の子になるのよ」

 

「うん」

 

 やっぱり、桂子ちゃんにも見抜かれていたのね。

 あの時の思い出も、今日は元旦だからもう2年前のことになる。

 2017年が2年前……もうそんなになるのね。

 

「さ、混まないうちに、そろそろ行きましょう」

 

「うん」

 

 あたしたち一行は4人になって神社への道のりを再び歩く。

 駅には初詣に行くために神社へ行く人で盛り上がっている。

 あたしたちも、それについていく。

 

「そうそう優子、初詣が終わったら、新婚旅行先について、浩介くんと話し合ってちょうだいね」

 

「う、うん!」

 

 どうやら、新婚旅行の候補が決まった、おそらく、今日中に決めないといけないわね。

 神社の手前には、人が集まっていた。ここは待ち合わせをする人も多くて、一昨年の夏祭りも、ここでみんなを待った。

 

「あ、浩介くん!」

 

 人だかりから浩介くんと「お義母さん」を見つけるのに苦労はしなかった。

 これで今回初詣に参加する6人が全員揃う。

 ちなみに、桂子ちゃんのお母さんと「お義母さん」は初対面なので「初めまして」の挨拶をしていた。

 お互い、「篠原浩介の母です」「木ノ本桂子の母です」と言っていた。

 うーん、こういう学校でのママ友はこうやって自己紹介するのかな?

 

 それ以前に、あたしもいずれママになるのかなあ? そしたらそういうのも覚えないと……

 ……ううん、今は卒業と結婚のことに集中して、妊娠とか出産はその後に回そう。

 

「優子ちゃん、行くよ」

 

「う、うん……」

 

 浩介くんに引っ張られ、あたしたちは集団の最後尾からついていく。

 6人集団で男性は浩介くんだけ。それだけ抜き出すと、何だかハーレムみたいに見えるけど、そんな感じは全くない。

 そのうち3人は中年の女性の子持ち主婦だし、浩介くんはあたしと2人でアツアツになってるし。

 

 あたしたちは、去年と同じように、神社への境内へと足を踏み入れていく。

 列に並び、手水舎で手を清めていざ神社へ初詣をする。

 去年よりもずっとワイワイガヤガヤとしていた。

 

「でね、優子ちゃん聞いてよー、龍香ったらさ! 年越しえっちだとか何とか言ってきて!」

 

「あはは、龍香ちゃんらしいわね……」

 

 新年早々、桂子ちゃんが爆弾発言をする。

 相変わらず龍香ちゃんは彼氏とアツアツみたいで、どうも飽きるどころかますますのめり込んでいるみたいね。

 

「あのカップルは、まるで分かれそうにないわよねえ」

 

 多分、体の相性がとてもいいんだと思う。

 

「龍香ちゃんと彼氏っていつ頃知り合ったの?」

 

「付き合い始めたのは高校1年生の2月頃からだって、私も詳しい出会いまでは聞いてないわね」

 

 龍香ちゃんの彼氏は他校の生徒、でも遠距離恋愛というわけではないのであたしたちもたまにデート中に龍香ちゃんと彼氏を見かけることはある。

 龍香ちゃんの意向で、龍香ちゃんの彼氏とあたしを鉢合わせにしないように、最大限努力していて、幸いにして未だにそれはない。

 あたし自身も、龍香ちゃんがそうしたい気持ちは嫌でも分かるので、それには応じている。

 

「混んでるわね」

 

「うん」

 

 何だか、去年より混んでる気がするわ。

 6人で行動して歩調も遅くなって、それが混んでると感じている理由なのかもしれないけど。

 

 あたしたちは列に並び、お賽銭を入れて、「二拝二拍手一拝」で参拝、素早く列を出て初詣が終わる。

 神社の休憩場は混んでいたけど、運良くテーブルが2つ余ったので3人3人でかける。

 

「ふう、疲れたわ」

 

「そうねえ、人混みの中だと対して歩いてなくても本当に疲れるわよね」

 

 あたしの言葉に、「お義母さん」が同調する。

 ともあれ、あまり喋りもせず、あたしたちは疲労回復に専念した。

 

 

「あら、皆さんお揃いですのね」

 

 沈黙が突然破られた。

 そこに立っていたのは、豪華な振り袖を着た永原先生だった。

 

「あら、永原先生! あけましておめでとうございます」

 

 あたしが立ち上がり、6人を代表して挨拶をする。

 

「うんおめでとう。今年は、人類史に刻まれる年になるわね」

 

 永原先生が、意味深なことを言う。

 

「え!? でも――」

 

 人類史ということは、つまり蓬莱教授のことで――

 

「ふふっ、もしかしたら、願望かもしれないわね」

 

 永原先生がちょっとだけ、遠い目をする。

 

「そう言えば、先生、今日が誕生日でしたっけ?」

 

 桂子ちゃんがそちらの方に話題をそらす。

 

「ええ、仮のですけど……これで501回目になります」

 

 永原先生は去年より1歳歳を取って、501歳になった。

 あたしたちも、今はまだ18歳だけど、誕生日になれば1つ歳を取って19歳になる。

 年の差は482歳ないし483歳で固定だ。

 

「ふー、さて、センター試験対策しないといけないわね」

 

 桂子ちゃんが伸びながらそう言う。

 

「あ、そういえば桂子ちゃん、受験なんだよね」

 

 あたしたちは、AO入試ですぐに抜けちゃったからセンター試験のことすっかり忘れていたわ。

 

「木ノ本、どこになりそう?」

 

 浩介くんが聞いてくる。

 

「うん、このまま順当に行けば佐和山になるわよ」

 

「あら、じゃあ大学でも一緒なのね」

 

 永原先生が笑顔で言う。

 

「あはは、先生とも後3ヶ月なんだなって思うと、ちょっと寂しいです」

 

「そうね、木ノ本さん、石山さんのこと、ありがとうね」

 

 永原先生が桂子ちゃんにお礼を言う。

 

「いえ、いいんです。それに、私と先生の縁、ここで切れるとは到底思えないのよ」

 

「あら? そうですか?」

 

「ええ。女の勘ですけれどもね」

 

 桂子ちゃんが意味深に言う。

 一方で、あたしたちは、確かに今みたいに学校で毎日のように顔を合わせるということはないけれども、永原先生には協会の会長としての顔があるから、そこでの繋がりは維持される。

 もしあのとき正会員に推薦されなくても、普通会員には推薦されていたと思うから、どちらにしても永原先生との繋がりはなくならなかったと思うから同じだとは思うけど。

 あ、でもそれだと幸子さんが生きてないわよね。

 ……本当に、綱渡りだったわね。幸子さん。

 

「さ、行きましょうか」

 

「ええ」

 

 元旦の初詣、かなり長い間ここに座っていて、周囲のこともあるので立ち上がると、あたしたちは永原先生を加えた7人で行動することになった。と言っても、帰宅までの道のりで同じ行動をするだけだけどね。

 

 そして、駅で浩介くんと「お義母さん」、そして永原先生と別れる。

 その後の道は、あたしと桂子ちゃん、そしてその母親の4人で歩く。

 

「ねえ優子ちゃん」

 

「ん?」

 

「私ね、佐和山でもいいんじゃないかって思えて来たわ」

 

 桂子ちゃんがそんなことを話す。

 

「そ、そうなの?」

 

「優子ちゃんや篠原と天文部に行くの、楽しみなのよ。佐和山にもし天文サークルがなくても、私が作っちゃうわ。小谷学園と、同じような感じでね」

 

 桂子ちゃんは、活き活きとした様子で、自分の大学生活の展望について話す。

 

「それに、蓬莱教授とパイプが近い優子ちゃん達がいるもの。私、以前不老が羨ましいって言ったでしょ?」

 

「あ、うん……」

 

「もしかしたら、私もうまくいくんじゃないかってね」

 

 桂子ちゃんは、何かを考えているけど、あたしはそれ以上追求をしないことにした。桂子ちゃんも、不老を待ち望んでいる人の一人だから。

 

「それじゃあね、お正月楽しんでね」

 

「うん」

 

 桂子ちゃんたちと別れ、あたしたちは家に戻る。

 母さんと共に、服を着替える。今日はもう外出予定はないから、簡単な格好になる。

 お正月くらい、ちゃんと休まないといけないものね。

 テレビでは、お正月恒例の特番をやっていたけど、あたしはPCに向かい、インターネットを楽しむことにした。

 あの後、母さんから「新婚旅行の場所と日程を決める」と言われ、浩介くんの家とテレビ電話で繋いで話し合ったけど。


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