永遠の美少女になって永遠の闘病生活に入った件   作:名無し野ハゲ豚

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受け入れられた転校生

「よっしゃあがりー!」

 

「うえー! また最下位争いですよー!」

 

 教室に戻ると、桂子ちゃん、虎姫ちゃん、龍香ちゃんの3人がババ抜きをして遊んでいた。

 永原先生が、入りたそうな目をしているわね。

 ……よしっ。

 

「マキノちゃんも入りたい?」

 

「あーうん……」

 

 あたしが永原先生に声をかけると、永原先生は消え入りそうなくらい消極的な声で話す。やっぱりまだ、遠慮しているみたいね。

 

 

「よし、勝った!」

 

「うーん……」

 

「じゃあ声かけなきゃ。ほら、頑張って?」

 

 よく見ると、タイミングよく終わったみたいだし。

 

「そ、そうよね……あ、あの!」

 

「あれ? 永原せんせ……永原も入りたいの?」

 

 虎姫ちゃんがぎこちなく言う。

 

「うん、私と優子ちゃんも混ぜていい?」

 

「うん、いいですよ!」

 

 永原先生の要望に、龍香ちゃんが快諾し、ババ抜きは5人になった。

 

「えっと、マキノさんはトランプ得意ですか?」

 

 龍香ちゃんも、何とか呼び方に慣れようとしている。

 

「うーん、ババ抜きに得意不得意ってあるのかな?」

 

 龍香ちゃんの話に、永原先生が疑問を投げかける。

 

「「「うーん……」」」

 

 あたしたちは、言われてみればという感じになる。

 唸りつつも、カードを切っていた桂子ちゃんの手でカードが配られていく。

 ババ抜きにおけるトランプは、ジョーカーを1枚入れての53枚で、53は素数なので、何人で対戦しても初期枚数に差が出てしまう仕様になっている。

 ともあれ、あたしは11枚でスタートした。

 

 

「よし、これで揃った!」

 

「あー、負けたあ……」

 

 永原先生がちょっと悔しそうに言う。

 最初の対戦は、永原先生が最後にジョーカーを残してしまい負けになる。

 次の対戦はあたしが負けて、3回目に龍香ちゃんが負けたところで予鈴が鳴ったので、あたしたちは午後の授業に入った。

 休み時間に友だちと遊ぶ、こういう何気ない生活こそ、永原先生が一番望んでいたことだから。だから多分、一つ一つの日常が、彼女にとっての幸せになるんだと思う。

 

 午後の授業にも、永原先生は慣れ親しんでいった。

 嬉しさいっぱいの表情だけど、一方で少しだけまだ、馴染めていない気もする。

 幸い、午後には体育の授業もある。そこでちょっとだけ、いたずらしちゃおう。大丈夫、きっとうまくいってくれるわ。

 

 

  キーンコーンカーンコーン

 

「今日の授業はここまでです。お疲れ様ででした」

 

 午後の授業がまた一つ終了する。

 この次が体育の授業で、今日の教室は男子が使うので、あたしたちは所定の場所で着替えることになっている。

 あたしたちは体操着を持って集団で移動する。永原先生もついていく。

 

「マキノちゃん、緊張する?」

 

「うん……でも、これも含めて青春よね」

 

 永原先生が渇望していたこと。でも、やっぱり緊張は隠せない。あたしたちには馴染みのことでも、永原先生にとっては未知の領域なのよね。

 

 あたしたちは更衣室に入り、盗撮カメラを確認した後に着替え始める。ちなみに、カメラの確認も、永原先生には新鮮な雰囲気らしい。

 以前なら、昔のグループの中で、この着替えの輪が2つに分裂していた状況は結構残っていたけど、今はもう、そんなことはない。

 でも、永原先生はやっぱり、輪から外れた位置で着替え始める。やっぱり、フレンドリーにしないといけないわね。

 

 ……よしっ。

 あたしは手早く上の体操着だけを着替えると、後ろから永原先生に近づく。

 

「マーキーノーちゃん!」

 

  ぶわっ!

 

 後ろから永原先生のスカートをめくり上げてみんなにパンツを露出させる。

 

「きゃあ!」

 

 永原先生はかわいらしく、恥ずかしそうな悲鳴を上げる。ちなみに、パンツは白でした。

 体育の着替えでのスカートのめくりめくられは、悪ふざけでもやっぱりみんな恥ずかしくなる。

 

「そおれ!」

 

  ふぁさっ!

 

「きゃー!」

 

 今度はあたしがめくられる番、犯人は恵美ちゃんだった。

 

「恵美ちゃんのえっちー! このー! ってきゃ!」

 

 今度は2人がかりでスカートをめくられてしまう。

 そしてあたしも負けじと桂子ちゃんのスカートをめくる。

 

「ざーんねん! もう着替えてまーす!」

 

  桂子ちゃんは、既に着替えていたらしく、桂子ちゃんのスカートをめくってみたけど、中からは体操着が出てきた。

 

 

  ぴらりっ!

 

  ぶわっ!

 

「あーん、もう許してくださーい!」

 

 永原先生の方を見ると、入れ代わり立ち代わりにスカートめくりをされていて、口ではああ言っているけど、表情は笑顔になっていて、永原先生も他の生徒のスカートもめくっている。

 

「優子ちゃん仕返し!」

 

  ふぁさっ!

 

「いやあん!」

 

 体操着のズボンに手をかけた直前、あたしは後ろから永原先生にスカートめくりをされた。

 あたしは、やっぱり恥ずかしいんだけど、ちょっとだけ安堵感も覚えた。

 

「むむー! 大きいなー!」

 

  もみっ……もみっ……

 

「もー!」

 

 永原先生があたしの両胸を揉んでくる。

 あたしの胸に対するセクハラもいつものこと。

 

「うー、優子さん凄い変形ぶりですよ」

 

「やっぱり……もうちょっと大きくなりたい……です……」

 

 龍香ちゃんとさくらちゃんが、あたしを羨ましそうに見ている。

 

「でも、マキノさんの胸も大きいですよね!?」

 

「え? ま、まあ優子ちゃんほどじゃ無いけど」

 

 龍香ちゃんに突然話を振られ、永原先生が、慌てたように応対する。

 確かに、永原先生が、小さな身体に見合わない大きな胸なのも確か。

 

「あは」

 

「ふふっ」

 

「「「あはははははは!!!」」」

 

 どこからともなく笑い声が漏れた。それに呼応するかのように、女子更衣室全体に笑い声がこだまする。

 こんなに激しくみんなでじゃれあったのは久しぶりだった。

 永原先生も、あたしも、笑っている。今の永原先生は、何てことはない、1人の女子高生だった。

 みんなも、永原先生に持っていた壁が、取り払われたと思う。

 

「は、早く着替えないと遅刻しちゃうわね」

 

 あたしはもう、着替え終わったけど、まだ着替えていない人も多い。

 

「うん……みんな……ありがとう……うっ……」

 

 永原先生が顔を覆って泣き出し始めてしまった。

 

「わわっ、どうしたのマキノちゃん?」

 

 突然泣き出した永原先生に桂子ちゃんが心配そうに聞いてくる。

 

「うん、私……嬉しくて……こんな風にクラスのみんなとふざけあって……そんな日を、ずっと待ってたのよ」

 

 壮絶な人生を送ってきた永原先生が見せた「弱さ」、あたしたちは何も言えない。

 その涙から見える気持ち、それはあたしたち高校3年生の女の子には、計り知れないものがある。

 

「何だか、優子が初めてあたいたちと着替えた時を思い出すぜ」

 

 恵美ちゃんが懐かしそうに言う。

 それを聞いたあたしも、懐かしい気分になる。

 そうだった。あの時もそう、桂子ちゃんにスカートめくりをされて……でもそうやって分け隔てなくふざけあえるからこそ、仲のいいクラスメイトになれる。

 

「懐かしいですね……あの時もこんな感じでしたよね」 

 

「そうね、でもこんな光景ももう見られなくなるわね」

 

 あたしたちの体育の授業ももう、数えるほどしかない。

 期末試験が終わり、答案返却の時に、体力テストをして終わりで、今はそのための体力向上練習をしているところだ。といっても、あたしの成績は相変わらず悪いけど。

 

「ま、昔と違って今はスマホもテレビ電話もあるしな。あたいも、暇を作ってはアクセスするぜ」

 

「ええ」

 

 あたしたち3年1組は、話し合いの結果、永原先生も入れた33人で専用のSNSを作ることになった。

 個人情報もあるから、そのあたりも考えて匿名にはなっているけど、誰が誰なのかは簡単に分かるようにしている。

 ちなみに、特定の誰かを除いた悪口SNSは絶対に作らないという決まりになった。まあ、このクラスは秩序もあるし、大丈夫だと思うけどね。

 

「さ、そろそろ行きますよ。遅刻しちゃいますから」

 

「あ、そうね龍香」

 

 龍香ちゃんの掛け声で3年1組の18人の女子全員が体育の授業へと向かう。

 

 

「よし、みんな揃ってるな。今日は前回に引き続き、体力テスト対策だ。みんな最後まで気を抜かずに頑張ってくれ」

 

 体育の先生は、いつも通りの号令をかける。

 

「「「はーい!」」」

 

 クラスの返事とともに、体育の授業が始まる。

 今日は女子が偶数なので、久々に2人1組の準備体操ができた。

 永原先生にも、「マキノちゃん、一緒にやろう」とクラスの女子が声をかけていた。どうやら、永原先生はクラスに完全に馴染むことが出来たようね。

 

 永原先生の身体能力は女子の中ではかなり高かった。

 腕力こそ平均的だけど、脚力、特に持久力では全女子中でも1位だった。

 

「はぁ……はぁ……せん……マキノはすげえ脚力だな」

 

「う、うん……ちょっと必要に迫られて、持久力を付けたのよ」

 

 永原先生が奥歯に物が挟まったような言い方をする。

 これはみんな知っての通り、永原先生は戦国時代や明治維新の時に諸国を流浪していたため。特に戦国時代を女一人の身で潜り抜けるためには、並大抵の身体能力では難しかったのかもしれないわね。

 そう言えば、一昨年の夏の時にも永原先生が身体能力を見せてくれたわね。

 

 これで期末試験も高得点を連発したら、完璧超人な優等生になっちゃうわね。

 ……まあ、普段は先生をしているんだから当たり前かな?

 

 

「女子ってすげえよなあ」

 

「この前までずっと先生だったのに、もうあんなに溶け込めて」

 

「でもよ、何だか楽しそうだよなあ」

 

「うん、やっぱり俺たちも変わらないといけねえよな」

 

「でもよ、その後はどうするんだ?」

 

「うーん、そうだよなあ……だけどさ、やっぱり、俺たちもきちんと生徒として接してあげねえといけねえんじゃねえか?」

 

「そうなるよなあー」

 

「どうしようかなー」

 

 

 男子たちも、躊躇しつつも徐々にクラスメイトとしての永原先生を受け入れようとしている。

 多分残りの時間も、きっと大丈夫だと思う。

 

 

「では、帰りのホームルームもここまでじゃ。みんなも気をつけて帰るのじゃぞ」

 

 校長先生の帰りのホームルームが終わって帰り道、あたしは浩介くんと永原先生との3人で帰ることになった。

 

「せ……永原の演技力すげよなあ」

 

 浩介くんはまだぎこちない様子で応対している。

 いくらクラスメイトとして接すると言っても、やはり先生の苗字を呼び捨てにするのは結構難しい。まあ、クラスメイトには気にしない人もいるけど。

 

「うん、あたしもそう思ったわ」

 

「あははは……演技力かあ……確かに、そうよね……でもね」

 

 永原先生がちょっとだけ言葉に詰まる。

 

「ん?」

 

「着替えの時に泣いたのは、演技じゃなかったわよ」

 

 うん、それは分かるわ。

 

「え!? ど、どういうこと?」

 

 その場に居なかった浩介くんは驚いている。

 

「あーうん、マキノちゃん、やっぱり孤立しててね、でもあたしがちょっとおふざけしたところで、クラスの女子みんなでわいわいやったのよ」

 

「うー、凄い光景だなあ……」

 

 浩介くんがちょっとだけ引き気味に言う。

 確かに、あの時は百合の花が吹き荒れてはいたのかな?

 

「でもそうして気分をほぐすことができたから、女子の中にも溶け込めたのよ」

 

 そもそも、永原先生は犯罪者の娘というわけでもないし、外見上は女子高生どころかむしろ女子中学生の集団に入ったほうがより溶け込めそうなくらいには違和感がない。

 人間は、意外と見た目が合っていれば適応は簡単な生き物なんだよね。あたしだって最初はクラスで受け入れられるのに苦労したけど、それも2週間くらいの出来事だったし。

 

「優子ちゃん、ありがとうね。私、この学校でもやっていけそうだわ」

 

「うん」

 

 永原先生が感謝をこめて言う。

 何だろう、むしろ今まで彼女が私たちの先生をしていたのは嘘で、これが本来の姿なんじゃないか?

 そんなことさえ思えてくる。そのくらい、違和感がなくなっていた。

 

「それじゃ、浩介くんバイバイ」

 

「ああ、また明日」

 

 駅に到着し、浩介くんと別れる。

 ちょうど来た電車の中に入り、あたしは永原先生と一緒に座る。

 

「制服になると、視線が5割増なのよねー」

 

「うんうん、特に椅子に座ると凄いよねえ」

 

 あたしたちはガールズトークで盛り上がる。

 あたしにとって永原先生は先生であると同時に、協会の上司でもあり、またTS病のカウンセラーでもあり、二重三重の意味で目上の人だった。

 でも今は違う。あたしも永原先生も、超が付くレベルで美少女だからどこにでもいるわけじゃないけど、仲のいい女子高生2人組であることには違いはなかった。

 そう言えば、協会本部まで永原先生と行ったことはあったけど、こうやって一緒に下校したことはない。

 まあ、当たり前の話といえばそうだけど。でも今は、普通の仲のいいクラスメイトになっている。

 

「それじゃあ、マキノちゃん、ばいばい」

 

「うん、また明日」

 

 あたしは最寄り駅に到着し、永原先生と別れる。

 ちなみに、永原先生の最寄り駅はもっと先にあるらしい。

 具体的にどこなのかはわからないけど、まあ聞いても仕方ないよね。

 

「ただいまー」

 

「優子おかえりなさい」

 

 あたしは家に戻り、いつもの日常に戻った。

 学校も日常の一部だけど、何だろう、今はちょっとだけ「非日常」にも思えてくる。

 明日になれば、この「非日常」も終わるのかもしれない。

 永原先生が、まるで最初から小谷学園の生徒であったかのように。

 

 そう言えば、あたしもこの婚約指輪をはめて登校した最初の日は、そんな非日常を感じていた。

 でも今は、この指輪をはめていることは当たり前になった。それは浩介くんも同じだと思う。

 それにしても、人間って適応力が高い生き物よね。

 あたしだって、ずっと男として生きてきたのが、ある日突然女の子になって、今やもう男の子の婚約者までできている。

 それに比べれば、見た目の幼い先生が、ある日突然生徒になっちゃったくらい、どうってことのない差なのかもしれないわね。

 うん、大丈夫よね。


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