永遠の美少女になって永遠の闘病生活に入った件   作:名無し野ハゲ豚

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石山優子最後の時

  ピピピピッ……ピピピピッ……

 

「うーっ!」

 

 無機質でけたたましい目覚まし時計の音を聞き、重い瞼を開ける。

 

「っ!」

 

 目に飛び込んできた目覚まし時計を止める。

 今日は卒業式、そして結婚式の日。

 この目覚まし時計をはじめ、この部屋にあるものは全て新婚旅行中に浩介くんの家に運ばれ、ここは空き部屋になる。

 普段は物置になるけど、あたしたちが「帰省」した時のために、布団も置いておくらしい。

 

 ベッドから起きて、ハート型のクッションに立つ。

 この部屋のレイアウトもこれが最後、でもお人形さんを始め幾つかはない。

 何故ならこれは式場に持っていくから。そして婚約指輪も、結婚指輪に改造してもらうために昨日の夜から預けてある。

 

「指輪がない……」

 

 あたしはそうつぶやく。

 いつもつけている指輪の無い生活が、こんなに寂しいとは思わなかった。指輪の中に浩介くんが居る気さえしていた。

 

 石山優子として最後に着たワンピースタイプのパジャマを脱ぎ、あたしは下着を脱いだ。

 この家でまっぱになるのもこれが最後と思うと、何だか恥ずかしくなってくる。

 

「今日のパンツどうしようかしら?」

 

 箪笥からパンツを選ぶ。

 あたしは白いパンツに手を当てる。

 これ、女の子になって初めて穿いたパンツ……

 そして、ブラジャー、一つだけ残っているフロントホックのブラジャー、女の子になって初めて付けたブラジャーだけど、フロントホックは前の胸に当たってそれが気になるので、あの時以来一度も使ってなかった。

 原点回帰したい気持ちもあったけど、後ろで止める白いブラジャーの方にした。

 ウェディングドレスを着る時は、またこの下着も脱がないといけない。

 

 あたしは、制服を着る。

 ブラウス、ブレザー、リボン、そしてスカート、財布や携帯電話なども入れて、充電状況をチェックし、そして姿見の前で頭に白いリボンをつける。

 

 ちゃんとしているかどうか、あたしは姿見に移動する。

 

「うん、OK」

 

 鏡の中少女、背中まで伸びる、癖毛の一つ無いストレートのロングヘアー。

 そしてたわわに実り、道行く人の多くが釘付けになるとってもとっても大きな胸、幼さが色濃く残るかわいらしい童顔はどんな言葉で形容してもしきれないくらいかわいくて美人で……そう、これがあたし、「優子」の姿だった。

 かつての男だった面影はもう全く見えない。

 

 あたしは学校指定のカバンを持ち、リビングへと向かう。

 

「おはよー」

 

「優子おはよう、いよいよだな」

 

 父さんがいつも通りの様子で声をかけてくる。

 まだ、結構早い時間だった。昨日は「早く寝て早く起きなさい」って言われたんだっけ?

 

「ねえ優子」

 

「うん?」

 

 遅れて、キッチンから母さんの声がした。

 

「今日の朝食、優子が作ってくれる?」

 

「え、うん。分かったわ」

 

 あたしが石山優子として食べる最後の朝食。

 この家で食べるのも、石山家の人間としては最後になる。

 そんな日の朝食くらい、あたしが作るのもいいだろう。

 

 と言っても、作るのはいつもどおり。

 味噌汁の元と具材を切ってお味噌汁を作り、昨日の残りの野菜をサラダにして、炊飯器でお米を炊いてご飯を作って完成。

 これらをお盆に乗せて、一人一人に配っていく。

 

「できたわー」

 

「「ありがとう」」

 

 このやり取りも、いつもと全く変わらなかった。ただ、しばらく見られないと言うだけで。

 

「「「いただきます」」」

 

 食事中、父さんと母さんは、あたしに話しかけてこない。

 母さんの中でも、あたしの中でも、やっぱり心の中で気持ちの整理をつけないといけない。

 

「ごちそうさまでした」

 

 父さんが、最初にごちそうさまをする。

 

「優子のご飯、美味しかったよ」

 

「うん、ありがとう」

 

「そうねえ、いつもと同じ作り方のはずなのに、今日は違うわね」

 

 母さんがしみじみと言う。

 

「やっぱり、雰囲気があるのかな?」

 

 父さんが疑問に言う。

 

「そうだと思うわ……あたし、ちょっとお花摘みに行ってくるわね」

 

「はーい、いってらっしゃーい」

 

 母さんに見送られ、あたしはトイレに入る。

 何度も何度も入ったこの個室だけど、いざ最後となると名残惜しいわね……って、帰省するから最後じゃないか。

 いけないわね、まるで二度とここには来ないみたいな感じになってて。

 

 あたしは前に屈んでベロンとスカートをめくりあげ、パンツを下ろして、脇にスカートを挟んで座る。

 

「ふうー」

 

 ここも最後まで、いつも通りだった。次に洗面台で歯磨きをする。

 歯ブラシも、浩介くんの家に運ばれる。入念に歯を磨き、口を濯ぐ。

 

「ふう……」

 

 そろそろ時間ね。時間が経つに連れて1秒がどんどん長く感じるわ。

 

「母さん、行ってくるわね」

 

「うん、いってらっしゃーい」

 

 あたしは靴を履く。

 

「すぅーはぁー!」

 

 意味もなく深呼吸し、扉を開け、あたしは一切後ろを振り向かずに駅まで向かった。

 次にあの家に行くのは、いつになるんだろう?

 って、意外と近いかも。

 

 

 駅のホームでの胸へと向かう周囲の視線、彼らのほぼ全員は、あたしが今日に結婚することを知らない。

 もし知ったら、男性はともかく、女性からはますます羨ましい目で見られるに決まってる。

 だって、制服を着た女子高生が、卒業式を迎え、その足で結婚するんだから。

 

「間もなく、電車が参ります」

 

 電車がいつもどおりに入線する。

 あたしが結婚するかどうかと、電車が動くかどうかに、何の関係もなかった。

 

 しかし、通学路は明らかにいつもとは違う緊張の面持ちが流れていた。

 何故なら今日は卒業式、去年と一昨年は在校生として卒業式を迎えたが、今年は卒業生として迎えることになっている。

 ひとまず、教室集合だということは伝わっていた。

 

 あたしはいつものように扉に手をかける。

 

「おはよー」

 

 挨拶もいつも通り。

 

「優子ちゃんおはよう」

 

 今日旦那さんになる浩介くんと、努めていつも通りに挨拶をする。

 

「お、『篠原優子ちゃん』が来たぞ!」

 

 高月くんが茶化してくる。

 大昔呼ばれていた「優一」呼びの悪意はまったくない。

 

「高月くん、まだあたし、石山優子よ」

 

「おっとすまん」

 

「卒業式が終わったら、届けを出すから、その時になったら今みたいに呼んで欲しいわ」

 

「あ、ああ……」

 

 正直に言うと、「篠原」と呼ばれたのは嬉しかった。

 まだ自分は「石山」だけど、それでも、苗字が変われば、浩介くんの旦那さんになったんだって思えるから。

 

 

「なあ、お前優子ちゃんの結婚式どうするんだ?」

 

「どうって、行くに決まってるだろ?」

 

 

 クラスの話題も、結婚式一色だった。

 

「優子ちゃん、俺達のクラスは、全員参加みたいだぜ」

 

 浩介くんがそんなことを話してくれる。

 

「そう、ありがとう……みんな」

 

「いいってことよ! 卒業式は寂しいけど、一方でめでたいイベントもあれば相殺されるもんな!」

 

 恵美ちゃんが豪快に笑う。

 ワイワイガヤガヤと親しそうに話す空間も、もう今日まで。

 でもみんな、それを意識はしていない。

 

 卒業式は、3年1組は全員参加だった。

 昨日の桂子ちゃんの話を思い出す。多分あたしが優一だったら、こうはならなかったと思う。

 そもそも、今年の3年1組が去年の2年2組からそのままスライドしたのだって、あたしが女の子になったことによるものだし。

 机の上にある卒業祝いの花を、制服の胸につけるのを忘れないでおく。うーん、あたしがつけるとものすごい目立っちゃうわね。

 

  ガララララ……

 

「はーい静かに、最後のホームルームを始めるから、気を抜かないでね」

 

 永原先生が最後のホームルームを始める。

 

「では出席を取りますね……安曇川さん」

 

「はい」

 

 永原先生がいつも通りに出席を取り始める。

 

「石山さん」

 

「はい」

 

 もちろんこれが最後じゃないけど、おそらくもう数えるほどしか呼ばれなくなる「石山さん」という呼ばれ方。

 あー、意外にそうじゃないかも。旧姓のまま呼び続ける人っているものね。

 

 そんなことを考えているうちに出席確認も終了する。

 

「今日はいよいよ卒業式となりました。皆さんとは特別に、2年間を過ごすことになりました。まだ時間がありますので私の合図があるまで、待機してください」

 

 永原先生の言葉とともにあたしたちはざわつきつつも待機する。

 あの後、永原先生は協会の宣伝をしていて、クラスメイトの全員が、一般会員やメール会員になってくれた。

 

 あたしは、もちろんここを卒業しても協会の正会員として、永原先生と付き合っていかなければならないから、他の卒業生とはかなり事情が異なる。

 でもやっぱり、永原先生はみんなに慕われていて、教師と生徒という関係は今日で終わりでも、協会の会長と会員として、関係を続けていきたいという気持ちがあったのだ。

 

 

「はーい、じゃあそろそろ時間よ。みんなついてきてー」

 

「「「はーい!!!」」」

 

 クラスメイトたちが元気よく返事して、あたしたちは、在校生や来賓のいる体育館を目指すことになった。

 

「今年の先導役は私よ。ついてきて」

 

 他のクラスの男女も一緒になり、あたしたちは、静まり返った校舎を進んでいく。

 走馬灯のように3年間の思い出が流れていく。

 男だった頃の暗い日々、突然倒れて病院に運ばれた日、復学していじめられた日々、救われて女子たちとワイワイした日々、好きな男の子が出来て体が言うことを効かなくて辛かった日々、恋人が出来て毎日の生活が充実した日々、そしてあの日のプロポーズのこと。

 そして何より、女子生徒として卒業するなんて、誰も予想していなかったこと。

 なんだか今はすべてが愛おしいわ。

 

 最初は話し声も聞こえてきた周囲も、徐々に緊張感からか沈黙するようになった。

 そして、永原先生が止まると、あたしたちも止まる。

 リハーサル通り、ここで一旦待機し、卒業生入場を待つ。

 

「えー皆さん、本日は卒業式であります。司会進行役こと校長です。まずは、卒業生入場です。永原先生、お願いします」

 

 遠くから校長先生の声が聞こえ、あたしたちは体育館の中に入る。

 大きな拍手と歓声に見送られ、永原先生の先導で、あたしたちは卒業生の席へと座らされた。

 

「それでは、まずは国歌、校歌の斉唱です。皆様、ご起立ください。」

 

 4組まで全員が座り、しばらくすると校長先生の声が聞こえ、一斉に全員が起立し、国歌、校歌の斉唱が行われた。

 これも、以前と同じ。

 

「ありがとうございます、ご着席ください。えー続きまして、私校長の方から、卒業生の皆様へ向けての挨拶がございます」

 

 校長先生の、短いスピーチが始まった。

 

「卒業生の皆様、ご卒業おめでとうございます。大学に進学する人や就職する人、様々にいらっしゃると思いますが、どうか、これからの皆様の人生にとって、母校の思い出が豊かに彩られることを祈りまして、私のスピーチを終わります。以上!」

 

  パチパチパチパチパチ!!!

 

 そして、卒業生、在校生、来賓を問わず、簡潔なスピーチを心がけた校長先生に激しい歓声と拍手を送っている。

 

「私のスピーチに続きまして、在校生代表スピーチに入りたいと思います、在校生代表の能登川明美さん、よろしくお願いいたします」

 

 在校生代表の女子生徒が舞台に上がる。

 今年のミスコンは桂子ちゃんが優勝したので、2年生の中で一番成績の良かった生徒を引っ張り出してきた。

 校長先生が、在校生代表の生徒に壇上を譲る。

 

「卒業生の皆さん、改めましてご卒業おめでとうございます。私は2年4組の能登川明美です。在校生を代表して、先輩方が残されたこの小谷学園を継ぐために、来年以降も風土と文化、伝統を守って過ごしたいと思います。以上です」

 

  パチパチパチパチパチ!!!

 

 能登川さんに対しても割れんばかりの拍手が舞い踊る。そして次はあたしのスピーチだ。

 

「では続きまして、卒業生代表スピーチに移りたいと思います。卒業生代表の石山優子さん、よろしくお願いいたします」

 

「はい」

 

 校長先生に呼ばれ、あたしは席を立ち、壇上へと歩みをすすめる。

 リハーサル通りにすればいいとはいえ、とても緊張する。

 

「卒業生代表の石山優子です。あたしはここで、とても忙しい3年間を過ごしました。あたしは当初男子生徒として入学しましたが、2年生の5月にTS病で女子生徒になりました。当初は男女の違いに、自分も周囲も戸惑うことがありましたが、それを乗り越えて、大学進学も決まり、またこの卒業式の後には、同級生と婚姻届を提出し、夕方6時からは結婚式が開かれます。こうした生活を送れたのも、小谷学園の環境があってこそでした……あたしの話は以上です」

 

  パチパチパチパチパチ!!!

 

 結婚式のことは、既に学校関係者はみんな知っているので、驚きは少ない。

 来賓の方は、かなり驚いていたみたいだったけど。

 

「では、次に卒業生の皆様の歌が歌われます」

 

  ♪~

 

 あたしが席に戻ると、今度は卒業生の歌が歌われ、いよいよ次は卒業証書の授与になる。

 

「次は、卒業証書の授与に入ります。名前を呼ばれた方はこちらに来てください……安曇川虎姫」

 

「はい」

 

 1組の虎姫ちゃんから、この長い旅が始まる。

 

「――石山優子」

 

「はい」

 

 あいうえお順なので、あたしは比較的すぐに呼ばれた。これは出席の時と同じ。

 

「卒業証書、石山優子殿、以下同文」

 

  パチパチパチパチパチ!

 

 あたしへの拍手は、やはり一際大きい。結婚祝いもあるのかもしれない。

 おそらく、この後卒業祝いの時に「石山先輩」と呼ばれるのが最後になると思う。

 

 あたしは席に戻り、クラスメイトの卒業証書の授与を待つ。

 河瀬龍香、木ノ本桂子、志賀さくら、篠原浩介、高月章三郎、田村恵美……

 1組の最後の人が終わると、続いて2組、3組、4組と続く。

 そして4組の最後の人が終わり、卒業式も終わりになる。

 

「ふぅー、ただいまを持ちまして、小谷学園卒業生全員の卒業証書授与が終了いたしました。卒業式はこれにて終了となります。以上で解散といたします」

 

 少し疲れた校長先生の声とともに、卒業式が閉幕する。そしてあたしたちも席を立つ。

 

「浩介くん」

 

 あたしは、浩介くんを探す。

 

「おう、ここにいるぞ」

 

 愛しの人が、あたしの呼び声にすぐに反応したのですぐに合流し、あたしたちは2人で並んで歩く。

 まだお昼前、婚姻届を提出し、昼食を食べて結婚式場に行くまでには十分に時間がある。

 

「篠原先輩、卒業おめでとうございます。テニス、かっこよかったです」

 

「おう、ありがとう」

 

 歩いていると、よく分からない2年生の男子が、浩介くんを祝ってくれる。

 

「石山先輩、卒業おめでとうございます、それから結婚も」

 

「ええ。天文部をよろしくね」

 

「はい!」

 

 あたしを呼び止めたのは天文部の部長さんだった。

 

「石山、おめでとう」

 

「石山先輩、篠原先輩、卒業、結婚おめでとうございます」

 

 あたしたちへの祝福の声はどこまでも続いていた。

 

「石山先輩、先輩の結婚式ってどこで何時からでしたっけ?」

 

「えっとね――」

 

 また、結婚式の場所を再確認してくる人もいて、あたしたちは一件一件丁寧に応じる。

 周囲を見ると、恵美ちゃんはテニス部の後輩女子たちに、桂子ちゃんも天文部から卒業を祝福されていた。

 それでも、徐々に出口に向かっていく。

 クラスメイトとも挨拶するけど、彼らは結婚式でも会うので、そこまで別れの挨拶という感じではない。

 

「ふふっ、結婚式場で、『石山先輩』はやめてね」

 

「あ、ああ……まだいいのですか?」

 

「まあね」

 

 大方の人から祝福を受けたあたしと浩介くんは体育館の出口に進む。

 するとそこには、永原先生がいた。

 

「2人共、卒業と結婚、おめでとう」

 

「うん、ありがとう永原先生」

 

 先生に対する挨拶も、欠かしてはいけない。

 他のクラスの担任の先生も卒業生からの対応に終われている。

 

「あまり寂しそうじゃないわね?」

 

「当たり前よ、あたしも浩介くんも、クラスのみんなも、協会の会長としての永原先生と、今後も付き合っていくもの」

 

「ええそうね、石山さん、篠原君、式場までの道中、気をつけてね」

 

「分かってるわ。じゃあ、式場でまた会いましょう」

 

「ええ、楽しみにしているわ」

 

 永原先生と挨拶し、分かれる。

 そして、一旦教室に戻り荷物を取り、下駄箱から上履きを脱ぎ鞄の中に入れ、ローファーに履き替える。

 あたしの手には、卒業証書の入った筒が掲げられたままだけど、ひったくられたくはないので鞄の中に入れる。

 

「浩介くん、待った?」

 

「ああいや、優子ちゃん、ともあれ区役所に行こうか」

 

「うん」

 

 どうやら、あたしが「石山」と呼ばれるのも、永原先生が最後だったみたいね。

 あたしは鞄の中にある婚姻届があるかどうかもう一度確認する。

 ……うん、OKね。

 

 卒業生や在校生が帰る中、あたしたちも鉄道に乗る。

 電車が来て、列車に乗る。

 浩介くんとはいつもは逆方向のホームへと行く。

 駅で別れるのは昨日までで、帰る家もこれからは同じになる。

 途中、あたしの実家の最寄り駅を素通りする。

 

「何だか新鮮だな」

 

 これまでも何度かあったけど、やっぱり今日は特別。

 あたしたちは区役所の最寄り駅に到着し、そのまま区役所に直行した。

 

「緊張してきたよ」

 

「うん、あたしも」

 

 ここに来たのは……そう、カリキュラムの時に、名前を変える書類を提出して以来だったと思う。

 あの時とは違う課に移動する。

 

 婚姻届の窓口は……ここね。

 

「浩介くん、これ」

 

「ああ、分かった」

 

 あたしは浩介くんに婚姻届を託し、役所の人に提出する。

 

「すみません、婚姻届を提出したいんですけど」

 

 浩介くんはそう言って役所の人に書類を出す。

 

「分かりました。身分証をお見せください」

 

「「はい」」

 

 あたしたちはあらかじめ用意しておいた顔写真付きの身分証を提出する。

 ちなみに、色々考えた結果、海外旅行するわけでもないのにパスポートになった。

 新婚旅行が海外になる可能性も考えて取得したものだけど、結局使わなかった。

 

「……はいありがとうございます。篠原さん、ご結婚おめでとうございます」

 

「「はい」」

 

 あたしは、篠原と呼ばれた。

 こうして、あたしは浩介くんと結婚し、婚約者から夫婦になった。


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