永遠の美少女になって永遠の闘病生活に入った件   作:名無し野ハゲ豚

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2人きりの夜 前編

「あ、あの……浩介くん」

 

「ん?」

 

 あたしが、長い沈黙を破る。

 もちろん、これからのことを話さない訳にはいかない。

 

「あたしね、もう、我慢できないわ、お願い……」

 

「分かってる。俺もだ……はぁ……はぁ……」

 

 あたしが甘く囁くと、浩介くんも息を切らせていく。

 これから行われることについて思うと、心臓が破裂するんじゃないかというくらい、激しく高鳴っていく。

 思えば、1年半も待っていた。とても、長かった。

 

「結婚したし、みんなの2次会を断ったのも、わざわざウェディングドレスのままなのも、この時のため、なのよ」

 

 あたしが、懇願するように言う。

 そう、あたしたちは事前に調べていた、何次会にも出席して、疲労が溜まって、せっかくの夜が台無しになったカップルを、何組も知っている。

 彼らの二の舞い……いや、もはや何の舞だか分からないが、それは演じたくない。

 

「ああ」

 

 浩介くんが短く返事をする。

 ただでさえ密着していたのに、浩介くんとの距離はもっと近くなる。

 あたしの中で、期待と不安が混じっていた。

 

「ふふっ、浩介くん、あたしね……ちょっとだけ、不安があるの」

 

「え!? そ、そりゃあ誰だってそうだろう、俺だって――」

 

 あたしはゆっくりと首を振る。

 

「ううん、違うのよ。あたしの中のことよ」

 

「もしかして、優一のことか?」

 

 浩介くんが正解を言う。肉体的にうまくやれるかは、既に子孫がいる人もいるのであたしは不安に思っていない。

 あたしも、もう完全に女の子だと思っていても、やはり少しだけ、男の残滓が深層心理に残っている気がするのだ。

 

「うん、もしかしたら、また優一がひょっこり出ちゃうんじゃないかって不安なの」

 

 あたしも、大好きな浩介くんのことで、優一が出てしまったことがあって、一昨年の夏は本当にそれで苦労した。

 どうしても、その時のトラウマは拭いきれない。

 

「大丈夫だよ。もう優子ちゃんは何から何まで女の子だし、仮にそうじゃなくても、それも今日までだよ」

 

 浩介くんが優しい口調で言う。

 大丈夫だよと、言い聞かせるような言葉。多分、あたしじゃなくたって、生まれつきの女の子、例えば桂子ちゃんでも、あたしと同じ立場になったら、不安でいっぱいになるだろう。

 だけど、あたしにはもう一つ、懸念があった。

 

「うん、ありがとう。でも、あたしには他にもう一つ不安があるのよ」

 

「え!?」

 

 浩介くんが驚いている。無理も無いわよね。

 

「あたし、わがままな女の子よ。あのね、あたし……これからのことをしたら、きっと男の面影はあたしから完全に消えるわ。その目標に向かって、今までたくさん努力してきたと言うのに、今の今になって、優一に名残惜しさを覚えてしまったんだもの」

 

 今まで、あたしは男だった頃の痕跡を消すことに全力を尽くしてきた。

 そして今、その全てを消して、男の名残が完全に無くなりそうな所まで来ている。

 それなのに、今それを手放すのに、惜しいという感情さえある。

 まるで、多額の借金を抱えていた人がやっとの思いで完済したのに、借金生活を懐かしむような破綻ぶりだった。

 

「人間は、そんなものだよ。でも優子ちゃん、心配しなくていいよ」

 

「……」

 

 浩介くんがあたしをなだめてくれる。

 あたしは、少しの沈黙の末、落ち着いた。

 

「ありがとう、浩介くん」

 

「ああ、いつでも、いいよ」

 

 浩介くんがあたし見つめて優しく包み込んでくれる。

 あたしは、目が蕩けそうになる。ああ、あたし、もう我慢出来ないわ。

 

「浩介くん、もう我慢できないわ。お願い、あたしを、浩介くんの……あなたのものにして」

 

 あたしは、浩介くんに問いかける。

 

「ああ、だけどその……俺……」

 

 浩介くんも、まだ不安そうだった。

 

「初めて? あたしも、よ」

 

「ああ、結婚初夜で初めて同士何だな、俺たち」

 

「うん、素敵よね」

 

 ベタベタだけど、とてもロマンチックだと思う。

 

「優子ちゃん……おいで……」

 

「はい……あなた……」

 

 浩介くんの顔が近い。

 自然と、唇と唇が重なり合う。愛し合いたい、ずっとずっと、いつまでも。

 

「ん……じゅっ……」

 

「んっ……じゅるっ……じゅうう……」

 

  じわっ……

 

 蕩けるようなキスの味に、あたしの肌はすぐに濡れてしまう。女の子特有の冷えやすい身体が、どんどん暑くなる。

 キスの最中、あたしは唇を塞がれたまま、浩介くんに胸を触られる。

 

「んんっ……じゅる……れろっ……ぷはっ……」

 

 あたしは浩介くんにウェディングドレスの上から胸を揉まれ、ゆっくりとドレスを脱がされていく。

 

「これも、取っていいよな?」

 

 浩介くんが聞いてくる。

 

「好きにしていいわよ。あたし、あなたの『もの』になりたいの。だからお願い、あなた……」

 

 浩介くんと抱きしめあっていると、呼び方が自然と「あなた」となる。

 

「あ、ああ……」

 

 浩介くんの、欲望のままに、されたい。こうやってぎゅーっと抱きついていれば、冷めきった身体を、暖められる気がしたから。

 ずっとずっと我慢していた思いが、一気に爆発するような感覚を覚えた。

 あたしと浩介くん、愛し合ったあたしたち。

 今までで、一番最高の思い出になった。

 

 

 

 

 

「はぁ……はぁ……はぁ……」

 

 ベッドの上で激しく息切れする。

 ウェディングドレスは乱暴に脱がされ、上半身は丸出しで、スカートが隠しているのはおへその近くだけ。

 お腹の中が、さっきからずっと痛いわ。

 とにかく、激しい運動だった。あんなに冷たかったのに、抱きしめ合うだけであまりに暑くて、こうしてあたしも浩介くんも、服を脱いでしまった。

 もちろん浩介くんはもっと大変だったけど、あたしの元々の体力の無さを考えれば、どっちにしても激しい運動だったことは確かだった。

 

 あたしは、足も大きく開いたまま、動けないくらい疲れてしまった。

 ベッドのシーツと、ウェディングドレスのスカートの一部が、僅かに朱色に染まっていた。

 ふと、ホテルの外の夜景が目に入る。

 まるで、この東京中に見せびらかしているような錯覚を覚えたが、幸いにして近くに高層ビルはなく、あたしたちの様子が分かるような建物はこの近くにはない。

 これだけ広い都市に、多くの人が住んでいる。首都圏だけで、3000万人以上の人口がいる。

 あたしたちにとっては最高の思い出でも、この街からすれば、取るに足らない一コマなのかもしれない。

 

「はぁ……はぁ……はぁ……」

 

 浩介くんに激しくぎゅーっと抱きしめられて、あたしは何度も何度も意識が飛びそうになった。実際、本番に入る前に、一回気絶しちゃっていたと思う。

 ほんの一瞬だけど、あたしは視界が完全に真っ白になった。

 

「うー……うはっ……はぁ……」

 

 浩介くんもまた、隣で息を切らし、あたし以上にぐったりしている。

 あれだけ鍛えた浩介くんでもこうなっちゃうって、女の子に変われてよかったかも。って、それも今更かな?

 

「はぁ……はぁ……ふぅ……」

 

 あたしは、徐々に息を規則的なものに直していく。

 あたしの脳内は、全てが嬉しさの感情で支配されていた。

 それだけじゃない、どうしても冷えがちな女の子の身体……浩介くんが冷え切っていたあたしの身体を、奥まで温めてくれたことで、浩介くんに対する、被支配欲望が、これ以上ないくらい満たされた。

 

「はぁ……ふぅ……ふぅ……」

 

 また視界が霞んでいく。

 そしてしばらくすると、またはっきりして来る。この繰り返しが続く。

 

「ふぅ……ふぅ……ふぅ……ふぅーーーー!!!」

 

 浩介くんも、あの出来事の後、崩れる様に倒れこみ、激しく息を切らせていた。体育の授業でも、あそこまで凄まじい身体能力を披露した浩介くんは見たこと無い。

 それでも、そこはやっぱり浩介くんで、回復はあたしより早い。

 思いっきり息を吐くと、もう呼吸は元に戻っていた。

 

「優子ちゃん、大丈夫?」

 

 浩介くんが、ベッドから起き上がってあたしを心配そうに見つめている。

 

「あたしは大丈夫よ。こ、浩介くんこそ……大丈夫?」

 

「何とか、な……あ……」

 

「どうしたの?」

 

 浩介くんがあたしの下を見ている。

 でも視界は、お腹の方じゃなくてもっと下の足の方に向いている。

 

「優子ちゃん、血が……出てる」

 

「えへへ、出ないこともあるって聞いたから、よかったわ」

 

 やっぱり、あの赤いのは血だった。

 それを自覚した途端、また痛みが襲ってくる。

 力、ちょっと強すぎたかな? 今度からはあんまり強く抱きしめるのは止めておこう。

 

「優子ちゃん、大丈夫か? 無理するなよ」

 

「うん……ありがとう……」

 

 浩介くんだって体力の消耗は大変なはず。

 それなのに、浩介くんはあたしを抱き起こしてくれて、半脱ぎになったウェディングドレスを全部脱がしてくれる。

 

「浩介くん……」

 

「熱いだろ?」

 

「うん、ありがとう」

 

 今はこの部屋はあたしたちしか居ないから、涼しくなりたい。

 

「俺、優子ちゃんの人生に責任持つって決めたよ」

 

「うん……」

 

 浩介くんは、さっきまでの熱狂がまるで嘘みたいに、とても真剣な表情で言う。

 

「こんなに痛い思いしたのに、それでも嬉しいなんて思ってくれたら、もう一生責任を取るしかねえだろ」

 

「うん……ありがとう……うっ……」

 

 嬉しさで、涙ぐむ。あたしは、さっきも痛くて泣いた。

 その時の浩介くんは「高月との話、やっぱ約束しないでよかった」何て冗談を言っていたけど、今は何も言ってこない。

 浩介くんはあえて何も声をかけずに、あたしをひたすら見守ってくれた。

 

 

「さ、優子ちゃん着替えようか」

 

 泣き止むと、浩介くんが着替えるように言う。

 

「ううん、今日はもう、このままでいいわ」

 

 今は暑いからと言って、このままじゃ風引いちゃうとも思ったけど、やっぱり今夜くらいはこのままでいいと思う。

 ちなみに、浩介くんも体が熱くて堪らなくなって服を脱いでいる。

 下半身に何もつけていなくて、上の部分だけ新郎の服のままで、頭寒足熱ならぬ頭熱足寒で、何だか面白おかしい不格好な感じになっている。

 

「うっ……優子ちゃん、その……言いにくいんだけどさ」

 

「ん?」

 

「優子ちゃんって、ずっと俺を見てるよね」

 

 浩介くんが自分の体を指差していう。

 

「あはは、気付かれてた?」

 

 ちょっとだけあたしがとぼける。

 

「当たり前だよ。普段男に胸見られてるって言ってるけど、女だって結構男を見てるの、男だって気付いてるんだから」

 

「え? あたし、全く分からなかったわ」

 

 男の人も、女の子の視線に気付いていたなんて、あたしよく分からない。

 

「おいおい、もしかして男だった時も、女性の視線に気付かなかった?」

 

「えーっと……」

 

 あれ? そう言えば、あれ? 一瞬だけ、優一のことが……そうだった。

 

「うん」

 

 うん、確かに優一の時も、そんなこと意識したことはなかったわ。でもなんかボケッとしちゃったわね。

 そうか、あたしは浩介くんとこの夜を過ごして、優一の面影が完全になくなって、記憶の中の存在だけになっちゃったんだわ。

 それ以前から、メスの本能は出てきたけど、今はもう、メスそのものになってしまったんだわ。

 多分、初めてした後だからだとは思うけど、それでもどうしても、浩介くんから目が離せないから。

 

「優子ちゃん、もしかして?」

 

 浩介くんが気付いたように言う。

 

「うん、もう、優一は完全に死んだわ」

 

 あたしが、努めて淡々と言う。

 今までしてきた努力、その集大成が、今日結集されたんだと思う。

 

「その……さ、優子ちゃん、おめでとう」

 

「うん、ありがとう」

 

 あの時、ずっと引っかかっていたものが、いつの間にかすっと抜けて言った感覚がした。

 そして、それが無くなれば、あたしは当然、今までそれに押さえつけられていた「女性」が出ることになる。

 

「多分、あたしはもう大丈夫だと思うの。今まで見たく、どこか女の子じゃない女の子って言うことにはならないと思う」

 

「何を言ってるんだ。優子ちゃん、学校に戻ってきたあの日からずっと女の子だったじゃないか」

 

 浩介くんが励ますように言う。

 でもあたしは、ゆっくり首を横に振る。

 

「確かに、表面的な立ち居振る舞いはそうだったわ。でも、あの後もあたし、『女の子として修行が足りない』って言われたこともあったし、そういうのを言われなくなった後でも、自分の中にも何か引っかかるものがあったわ」

 

「それってつまり?」

 

 浩介くんは、まだ真偽を図りかねている。

 多分、これはTS病の患者にしかわからない感覚だと思う。

 

「本当の意味で、あたしが女の子そのものになるためには、今日の出来事が必要不可欠だったのよ、これでやっと、桂子ちゃんや恵美ちゃんたちと同じラインに立てたのよ」

 

 つまり、それまではまだ、男の影響が至るところに残っていたということ。

 でも、もう、これからは男の影におびえる必要はない。

 

「そんなに、重い意味だったんだな……」

 

「当たり前よ。こんなにきつくされちゃうと、ちょっとまずいかもしれないわ」

 

 あたしは、今になって浩介くんに暖めてもらった冷めたお腹をさすって心配アピールをする。

 

「なっ、それをお願いしたの、優子ちゃんだったじゃん!」

 

 浩介くんが抗議するように言う。

 

「ふふっ、それはもちろん、初めての夜だったからよ」

 

 結婚初夜を特別な思い出にしたいというのは、あたしの願いだった。

 だから、直前になって何かを探そうとした浩介くんを止めたのも、気分が高揚しきった時に浩介くんに懇願したのも、全部妻のあたしからだった。

 男の子は好きな女性にはどうしても優しく出来てるから、理性が浩介くんを躊躇させないためにも、あたしの方から言い出す必要性があった。

 

「じゃ、じゃあ明日以降の新婚旅行の時は?」

 

 浩介くんが心配そうに聞いてくる。

 確かに、赤ちゃんが欲しいのも事実ではある。

 

「うーん、本当は出来ちゃってもいいと思っちゃってるんだけど、蓬莱教授のこともあるから、気を付けておきましょう」

 

 初夜の初めてで、子供を授かるのも、とってもロマンチックなことだと思う。

 でも、4月から大学生活が始まることを考えると、今はまだ、妊娠するのは待っておきたい。

 

「優子ちゃん、もしこれからの夫婦生活で妊娠しちゃったらどうするつもりなの?」

 

 浩介くんは少し不安そうに聞いてくる。

 

「もちろん、あなたと愛し合って作った赤ちゃんだもん、殺すなんて絶対に嫌よ。だから何が何でも、産みたいわ」

 

「そうか……俺もだ」

 

「うっ……」

 

 あたしは、中絶手術を受ける自分のことを想像してしまう。

 嫌だ、絶対に嫌だ。お腹の中の赤ちゃんが死ぬくらいなら、あたし、あたしが死んじゃったほうがいい!

 

「優子ちゃん大丈夫!?」

 

 浩介くんが慌てて聞いてくる。

 いけないわ、そんな悪いことばかり考えては。

 

「うん、大丈夫……それにね、仮に中絶すると言って、あたしたちの両親が、いや、おばあちゃんが許してくれると思うかしら?」

 

「あはは、絶対に許してくれないと思う」

 

 浩介くんが苦笑いしながら言う。

 何せ、あたしの両親と浩介くんの両親の目的は、あたしたちを早期に結婚させるのではなく、早期に妊娠・出産をさせることで、今回の早婚も、あくまで手段でしかない。

 しかも、ひ孫を欲しがる浩介くんのおばあさんの利害も絡んでいる。

 

「だったら、もし産んじゃったのなら、子育てもお義父さんお義母さんに任せちゃいましょう。出産を急かしたのは、向こうの方なんですから」

 

「ああ、そうだな」

 

 浩介くんも同意してくれる。

 そう、向こうが急かしたことだから。

 そもそもこの結婚式だって、そんな理屈で両家両親負担と言う形になっている。

 ただし、本来はもう少し小規模な結婚式で済ませる予定だったんだけど、蓬莱教授の支援金もあったので、こんな豪華な結婚式をあげることができた。




大丈夫でしょう。ぎゅーっと抱きしめあってるだけですから(真顔)
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