永遠の美少女になって永遠の闘病生活に入った件 作:名無し野ハゲ豚
「なあ優子ちゃん、お風呂沸かそう」
「ああうん」
浩介くんの声にあたしは立ち上がり、お風呂場につなぐ操作パネルを押して「自動」のボタンを押す。
ピッ
「お湯張りをします」
無機質な音声が流れる。
「あ、悪い待って!」
浩介くんが何かに気付いたように慌ててあたしを止めるけど、もう遅い。
「もう押しちゃったわ」
「見てくる」
浩介くんが大慌てで立ち上がり、お風呂場のある部屋にかけていく。
疲れたように下半身がかわいく揺れていて、あたしはうっとりしてしまう。
いかにもこってり搾り取られて、しわしわになっちゃってるのがたまらなくかわいいわね。でもガタガタと不安定そうだったし、明日以降の脚力に影響が出ないといいけど。
「あうっ……」
そんなことを考えていたら、急にあたしも自分が裸なのが恥ずかしくなってしまう。
近くの布団を掴んで、体を隠す。
あうー、あんなに激しく身体が熱くなってしまったとは言え、気軽に裸見せちゃダメよね。
母さんも、そう言うことを積み重ねていくと、旦那様から女としてみてもらえなくなるって言ってたし、反省反省。
「ふー、栓締めて無かったぞ」
お風呂場から帰ってきた浩介くんがちょっと戒めるように言う。
「あはは、ごめんなさい……」
「あのままだったらそのまま垂れ流しになってた」
浩介くんもちょっとだけしつけモードになっている。
「ふふ、でも浩介くん」
「え?」
あたしがゆっくりと浩介くんに近付く。
「お風呂の栓を締めて置いて、こっちがこのままなのね」
「え、あのその……」
あたしは、浩介くんの下の方から目が離せなくなってしまう。
浩介くんのたくましい筋肉の付いた足を目指す。
「優子ちゃんって、えっちだよね?」
「そりゃあ、女の子だもん。こんなの見たら、興奮しちゃうわよ」
あたしは、「メスの本能」で、浩介くんの足元に座り込んで、顔を浩介くんに近づけていく。
「さ、さっきもっとすごいことしちゃった後なのに?」
「うん、男の子は、1回しちゃったら2回目は大変よね」
実際、ぎゅーって激しく抱きしめあったせいで、疲れ切ってる様子みたいだし。
「あ、あのさ……」
「うん?」
「俺、これ以上したら、干からびちゃうから……」
浩介くんが、懇願するように言う。
確かに、さっきも最高潮だった時に浩介くんは信じられないくらい長い間続いていたしね。
いくら浩介くんでも、激しい運動をしすぎるのはよくないのも分かっている。でも……
「うん、分かってるわ。でも、ごめんね。あたしも、一人の女の子であると同時に、一匹のメスなのよ」
「うっ……」
本能に抗えないというあたしの言葉に、浩介くんが動揺する。
女の子でいたい、女の子らしくありたいと言う気持ちは、当然ながら容易に「メスになりたい」と言う気持ちと結びつく。
メスという言い方は、まるで動物のような印象を与える。
本来なら、人間だって動物だし、女性とメスは全く同じ意味と言っていい。
オスの女性とか、メスの男性なんてあり得ないものね。
それでもやはり、「メス」という言い方はかなり尖った言い方で、それはあたしの中の被支配本能がそうさせているのだと思う。
「あたし、浩介くんの……あなたのものになったわ。でも、時折こうして、我がままになっちゃうのよ」
あたしは、ゆっくりと浩介くんの腕に手を伸ばそうとする。
「ゆ、優子ちゃん!」
あたしに腕を掴まれると、浩介くんが少しだけ、大きな声を出す。
「ん? どうしたのあなた?」
「優子ちゃんは、『もの』なんかじゃない!」
浩介くんが、あたしに怒った。
でも、思い通りにならないでわがままして怒るでも、悪いことをしたあたしに対して怒るのとも違う。
文字通り、あたしのことを心配して、あたしのためを思って怒っているという感じの言い方だった。
上から見下ろす形にならないように、浩介くんは、床に座り込んでいるあたしに合わせて、同じように座ってくれる。
「優子ちゃんは、女の子だろ? これから困難があっても、俺たちは2人で乗り越えていくんだ。ものだなんて、それじゃまるで優子ちゃんは――」
「うん、浩介くん、本当にありがとう」
あたしはニッコリと笑う。
「あたしもね、分かってるわ。でもどうしても、あたしは抗えないのよ。いけないことは分かってるわ。これは自分を粗末にする考えだってことも分かってるわ」
あたしも、自分の考えを暴露していく。
「じゃ、じゃあどうして――」
「あたしが知りたいわ。結婚式が近付くに連れて、あたしはこんな考えが浮かんできたわ。その度に、あたしは自分の頭の中からこの考えを振り切ろうと頑張ってきたわ。でも抗えなかったの」
浩介くんがあたしのために怒ってくれたから、あたしも今の気持ちを包み隠すことなく浩介くんに伝える。
「……」
「あたし、何回も何回も『ものになりたいなんて考えはいけない』って自分に言い聞かせてたわ。だけどどうしても、この感情からは逃げられなかったわ。文字通り『もの』になりたいって……どうしても思っちゃうのよ……」
あたしの声が、少しだけ涙声になる。
これは夫婦になってはじめて、新しく出来た障害だと思う。
「優子ちゃん……」
浩介くんも、それ以上は言わずに、あたしの言葉を受け止めてくれる。
「あたしね、ちょっとだけ結婚生活が不安だわ」
あたしは、胸の内を暴露する。
「そ、そりゃあ俺だって――」
「ううん、浩介くんが考えてる不安とは違うわ。あのね、あたし、優しくて思いやりがあって、責任感も強くて、腕力も強い浩介くんが大好きだわ。でも、何故かは分からないけど、優しいだけだと、そのうち物足りなくなっちゃう気がしちゃうのよ」
「え?」
浩介くんがとても驚いた顔をする。
つまりそれは、あたしのことを「乱暴に扱ってほしい」と言っているようなもので、そんなお願いをされたら、誰だって動揺するに決まっている。
「理屈では、分かってるわ。こんなの異常なことだって、おかしいのはあたしの方だって、何度も振り払って我慢してきたのに、あたしの中でどうしてもこの気持ちが出てきてしまうのよ」
「……優子ちゃん、人間誰だって変な所はあるよ。優子ちゃんだってそうじゃない?」
しばらくして、浩介くんが口を開き、また優しそうに言う。
「え、でもこれは――」
「優子ちゃんが普通と違うところ、TS病ってこと以外にも、たくさんあるよ」
浩介くんが、今度は諭すように言う。
「え? 例えば?」
「顔が飛びっきりかわいいとか、胸がとても大きくてエロいとか」
浩介くんが、半笑いになりながら言う。
ストレートにそんなことを言われて、あたしは一瞬で顔が真っ赤になる。
「……もう、ばかっ!」
あたしは、照れ隠しの言葉を言う。
「でも事実だろ? 街を歩いてたら、優子ちゃんよりかわいい子なんていないだろ? 優子ちゃんより胸大きい女性だって、俺は見たことねえぞ。つまり、普通とは違うってこった」
浩介くんは真顔だ。
本当、浩介くんってたらしの才能あるわよね。まあ、あたしだけに向けてくれるっぽいからいいけど。
「うー、確かにそうかもしれないけどー」
あたしは、まだ納得がいかない。
そもそも顔がかわいいとか胸が大きいは外見上の話で、歪んだ被支配欲は、内面上の話のはず。
「それにね、もし優子ちゃんがその気持ちに抗えないなら、俺たち2人で乗り越えて行こうよ。結婚したんだろ?」
「う、うん……」
「優しいだけじゃ物足りねえってんなら、物足りなくなった時に行ってくれよ。最初は恐る恐るだけど、やりすぎないように気を付けながら、少しずつ強引なプレイも覚えていくから、ね」
浩介くんは、優しい表情で、強引なこともすると宣言した。
正直ギャップのある光景だけど、あたしには一番嬉しい回答だった。
「うん、浩介くん、ありがとう」
「ああ、優子ちゃん、愛してるよ」
「あたしも……」
最後に、愛の告白も忘れない。
やっぱり、浩介くんはあたしにはもったいないくらい、素敵な旦那だわ。
ピロリロリン! ピロリロリン!
「お風呂が、湧きました」
短いメロディと共に、再び無機質な女性の機械音声が流れる。
どうやら、お風呂が沸いたらしいわね。
「じゃああたし、お風呂に入ってくるわね」
「おう」
あたしは、立ち上がり、一旦キャリーバッグの所に戻り、着替えのパジャマとヘアゴムを取ってから、改めてお風呂場のある部屋を目指す。
むにんっ!
「きゃあ! もう! えっち!」
お風呂場に行こうとした矢先に、浩介くんから思いっきりお尻を揉まれてしまう。
今は浩介くんに下着を含めてウェディングドレスを脱がされていて、全裸なので当然直接鷲掴みされた格好になる。
「いやあその、かわいい愛する嫁が全裸になってたら、お尻くらい触りたくなるでしょ?」
「もー、またそういうこと言ってー! これじゃ怒れないじゃないのー」
ともあれ、浩介くんも性欲が復活してきたみたいね。
脱衣所には、さっき持っていったパジャマを置くだけ。
見た感じではバスタオルも多く、また鏡も大きくて、歯ブラシと歯磨き粉は無論のこと、洗濯機まで置いてあった。
本当にこの部屋、至れり尽くせりね。
あたしは、脱衣所兼洗面所を尻目に、扉を開けてお風呂場へと足を踏み入れる。
「おー」
やはり、スイートルームはお風呂も素晴らしいわ。
家のお風呂よりも広い空間で、浩介くんでも、足を広々と伸ばせそうね。
あたしはまず、シャワーを少量流す。
こちらも既に温まっていたので、そのまま体を洗い流す。
タオルは数枚あって、あたしはピンク色のタオルを手に取り、ボディーソープを取ってよく泡立てる。
結婚してから初めてのお風呂なので、入念に洗いたい。
特に脇の下は気を付けてやさしくっと。
「ふう」
髪の毛以外を全て洗い終わったので、一旦シャワーで全て流したら、あたしは髪の毛を洗う。
毛先の方は、背中の汗を吸収しちゃっているから、特に痛みには気を付けないといけないわね。
「ルンルンルンー♪」
あたしは、上機嫌に鼻歌を歌う。
今日みたいに疲れた一日は、こうしてお風呂に入ると本当にさっぱりするわ。
髪の毛はもちろん、シャンプーとリンスを併用し、丹念に洗っていく。
サラサラでストレートのロングヘアーを保つのは、不老のTS病患者でも難しいことだと思う。
でも、浩介くんは他の男子に漏れず、黒くて長い髪が好きそうだし、今更イメチェンをする予定はない。
あたしは、髪の毛をお団子に縛りあげて、湯船の中に入る。
「ふー」
ようやく一息つけた安息の時間、足を延ばしながら今日一日のことを思い出す。
今日は間違いなく、あたしが女の子になった日に次ぐ、人生で大きな日になった。
浩介くんに恋した日や、プロポーズされた日も大きな記念日だけど、それも今日ほどに大きな日ではない。
今日という日は来年から、結婚記念日になる。
小谷学園を卒業して、浩介くんと婚姻届を出して、そして結婚式を開いて……何より、浩介くんに初めてを奪われた日でもある。
「何て素敵な一日だったのかしら」
物語の類型に、「ループもの」と呼ばれるものがある。
これは、ある物語において、普通に物語が時間通りに流れる訳ではなく同じ日、同じ出来事を何度も繰り返しているというもの。
もし、明日起きた時に、実家のベッドで起きて、卒業式から始まったらどうしようかしら?
それが続くのは、とっても素敵だと思う。あ、でも、あんなに痛いのが何度も続くのは勘弁かな。
もちろん、そんな都合のいい話は、漫画やアニメ、小説といった架空の世界の中での話、それに、明日から始まる新婚旅行だって、きっと素敵な思い出になる。
「明日も、頑張らなきゃ。心も、体もね」
あたしは、一瞬抱いたループへの誘惑を断ち切り、明日のことを考える。
明日は、あたしたちの住んでいる関東を中心に観光する。そして明後日以降、まだ雪も残る東北の温泉地に行くことになっている。
温泉でゆっくり休む新婚旅行は、人によっては物足りなさを感じるかもしれない。
だけど、あたしたちにとっては、観光よりもしたいことがある。
……あれ? ドア空いていたかしら?
「うーん、まああいいわ」
あたしは、気を取り直してもう一度、今度は新婚旅行後のことを考える。
浩介くんの家へは、ゴールデンウィークの花嫁修業の時に泊りがけで行ったことはある。
とは言えあの時は予行演習で、今は違う。
もし蓬莱教授の研究が完成すれば、ずっとずっと、それこそ何百年でも何千年でも、浩介くんと一緒に暮らすことになる。
もちろん、引っ越しをすることもあるかもしれないが、今の所はそうした予定はない。
あたしがまず思ったのは、義両親がいる中での夫婦生活の実践方法、これについては、大学在学中は、義両親がいない時間帯を狙うことでうまく行くだろう。
もしどうしても長期間時間が取れなさそうなら、浩介くんをラブホテルに誘うのもいいかもしれないわね。
「……」
あたしは、ふともう一度扉を見る。
さっきよりも明らかに開いている。
というか、浩介くんがあたしのお風呂を覗いているのがはっきり見えた。
お風呂を覗かれて、あたしの中で急激に羞恥心が芽生えていく。
「きゃー! えっちー!」
「おわっ!」
あたしは反射的にシャワーを手に取って全開にし、浩介くんが覗いている場所に当てるが、間に合うはずもなく、ドアが閉められて、空しく反射していた。
「くすっ」
あたしから、自然と笑みが溢れる。
何てことはない、単なる普通のスキンシップだった。
お互いが笑いあい、楽しみあい、そんな夫婦生活の、一コマに過ぎなかった。
あたしは、さっき浩介くんにお尻を触られた時のことを思い出す。
今までもそうだったけど、多分同居して、これからは何度もああしたセクハラを浩介くんにされると思う。
その度にちょっと怒って、浩介くんに恥ずかしいセリフ言われて、しおらしくなっちゃって、何回同じことを繰り返すんだろう?
やっぱり、ずっと繰り返したいわ。そのためには、やっぱり蓬莱教授の研究に協力しないといけないわね。
一通り入ったら、あたしは体を拭いてパジャマ姿になる。何だかんだでもうすぐ日付も変わるから、寝る時間だ。
長い長い、あたしの人生で一番長い日が、終わろうとしていた。
ガチャッ
「浩介くん、出たわよ」
「あいよ」
あたしの声に、浩介くんが反応し、入れ替わるように脱衣所へと消えていく。
あたしは、何の気なしにテレビのニュースを見る。
様々なことが起こっているけど、あたしたちの結婚はもちろん報道されていない。
ネットメディアの高島さんの所で、少し特集される程度よね。いや、普通結婚したことがそうやって報じられるだけでも、大変なことだとおもうけど。
あたしはまた、さっきのことを思い出す。
きっと同じことは、これからの夫婦生活で何度も何度も起こり得ることだと思う。
多分、今回ほどに激しく痛みを覚えたのも初めてで、もう二度と訪れないとは思うけど。
「ねえ、浩介くん」
あたしは誰もいない部屋で、一人浩介くんに語りかける。
「あたしたち、幸せになれるよね?」
もちろん、答えは返ってこない。
だけど、どこからか「ああ、もちろんだとも」という声が聞こえた気がした。
あたしは、テレビも消し、冷蔵庫の中にあったオレンジジュースを飲む。
「ぷはー」
お風呂上りの一時、でも、お風呂で暖まった熱よりも、さっき浩介くんがあたしの体を暖めてくれた熱の方が大きい。
そんな熱々の肉体に冷たいオレンジジュースはキンキンに冷えていく。
ガチャッ
「お待たせー」
しばらくして、あたしのお風呂より短い時間で、浩介くんが出てきた。
浩介くんは何も言わず、あたしの隣に腰掛けると、別のオレンジジュースを取り出して飲み始めた。
「あー、すげえ冷えてんなこれ!」
一口飲んだ浩介くんが感激の声を上げる。
「うん、すごい冷えてるわよね」
「この冷蔵庫凄いのかな?」
浩介くんが疑問を投げかける。
「うーん、そうは言っても、冷蔵庫の能力はそこまで変わらないでしょ」
もちろん、あたしは家電の専門ではないのでよく分からないけど。
「やっぱお風呂上がりだからかな?」
「う、うん……そうだと思う、わ」
あたしはぎこちなく応対する。
浩介くんも、顔が真っ赤になっている。多分、さっきのことを浩介くんも思い出しているんだと思う。
「ねえ浩介くん」
「ん?」
「あたし、眠くなっちゃった」
そもそも、もういい時間で、明日の新婚旅行の出発は時間があるとは言え、やはり睡眠は多くとっておきたい。
「だな……寝るか」
浩介くんがボタンを押す。すると、カーテンが自動で閉まりはじめた。
「至れり尽くせりね」
「本当、ここにいたらダメになりそう」
「あはは」
浩介くんが枕元の小さな電気を除く、全ての電気を消す。そして、1人で使うにはあまりにも広すぎるベッドにそれぞれ入った。
「優子ちゃん、お休み」
「うん、お休み」
浩介くんと「おやすみなさい」をして、あたしが枕元の電気を消すと、部屋から光は失われ完全に真っ暗になった。
「……」
あたしは、疲れから逃げたい一心で、何も考えずに、睡眠へと進んでいった。