永遠の美少女になって永遠の闘病生活に入った件 作:名無し野ハゲ豚
「結構、栄えてるな」
さすがに、風景そのものは大都市という感じではなく、地方都市という感じだけど、やはり新幹線が止まる駅なので、駅前はそれなりに町並みが広がっている。
あたしたちは、とりあえず道を真っ直ぐに進む。知らない土地で曲がるのは、やはり心許ないから、道なりにだけ進む。
しばらくすると、街の中心の繁華街のようなものが見えてくる。
「お、ラーメン屋さんがあるぞ」
繁華街に入る前の部分でラーメン屋さんを見つけた浩介くんが、指をさす。
確かにそこは、ラーメン屋さんだった。
地方都市だから、多分他にはそこまでラーメン屋さんは多くないはず。
「どうする?」
ラーメンにするかどうか、あたしが聞いてみる。
「うーん、繁華街は迷いそうだし……ここまでで他にめぼしい食事屋さんもないしなあ。宿の夕食を遅めに頼めば大丈夫だろう」
確かにラーメンは重いけど、ご飯を遅くすれば大丈夫とのこと。
ん? ここのラーメン屋さん、「にんにくラーメン」が有名なのね。
「ねえ、あなた?」
「うん? どうしたの優子ちゃん」
「あなた、にんにくラーメンを食べるといいわよ」
「ああ、そうするつもりだ」
にんにくは精力がつく。夜のことも考えた食事にしてあげないとダメよね。
そうそう、今朝方ラブホテルで買った栄養ドリンクも、ちゃんと飲ませてあげないと。
とにかく、移動型の旅行になるのは今日までで、明日は丸一日同じ場所に留まることになっている。
明日一日は、移動こそないけど、浩介くんはヘトヘトになっちゃうと思う。
にんにくはとにかくパワーと体力がつくので、今のうちに食べさせてあげたい。
あたしは……うん、あたしだってヘトヘトになっちゃうだろうし、いつもよりも重めに食べたほうがいいかな?
そんなことを考えながら、ラーメン屋さんへと入る。
「いらっしゃいませー」
中からは、威勢のいい声が聞こえてきた。
ちょうどお昼時ということで、中はそれなりに混んでいたが、まだ次の列車まで1時間半以上あるので、とりあえず大丈夫だろう。
あたしたちは、空いていたカウンター席に座る。
「すみません、にんにくラーメン2つで、1つは大盛りで」
「あいよ」
「浩介くん、大盛りにしちゃって大丈夫?」
初めてのラーメン屋さんで、大盛りは危険だと思う。
「ああ、写真があったけど大丈夫だろ」
だといいけど。
ともあれ、あたしたちは店内をもう一度ぐるりと見てみる。
中は普通のラーメン店で、それなりに補修もされている。
地方によくありがちなボロというわけでもなさそうでよかったわ。
「お待たせいたしましたにんにくラーメンです」
といっても、来たのは遠くのカウンターの人、店内を見るに次にあたしたちのを作り始める感じになりそうね。
他のお客さんのにんにくラーメンをちらりと見てみると、どうやら量は少なめらしく、普通盛りでもあたしは無理なく全部食べきれそうね。
何だろう? 一昨日に昨日今日と、浩介くんと激しい運動をし続けたせいか食欲もやや旺盛になっている気がするわね。
「はい、にんにくラーメンと大盛りです、お待たせいたしました」
ラーメン屋さんの人が持ってきてくれる。ちなみに、味はしょうゆ味だった。
「「いただきます」」
箸入れから箸を取り出す。
にんにくラーメンを名乗るだけあってにんにくは多いが、他にもセルフサービスで胡椒やネギ、紅しょうがやゴマもある。
あたしはネギを少しだけ入れて、胡椒を一振りする。
浩介くんは胡椒を少し多め、紅しょうがとネギも入れている。
ラーメン屋さんのラーメンは、学食で食べていたラーメンよりもずっと味が濃い。
学食のラーメンは万人受けするけど、個性が無いからラーメン屋さん向けでは無いのだろう。
ともあれ、あたしはスープを一口、続いて麺や具を口の入れていく。
「はむっ……んー、うまい」
「うん、おいしいよね」
中々においしい。
麺は固めだけど、その分しっかりと食べられる。
「にんにくが効くなあ!」
そして、にんにくの味がよくスープにも染み込んでいる。エネルギーがつきそうね。
「浩介くん、たっぷり食べてね」
あたしも、たくさん食べなきゃ。
「あはは、でも今夜――」
「浩介くん、ストップ」
「おっとごめん」
幸い、かかっている音楽の音量のおかげで、他のお客さんには聞かれずに済んだ。
新婚だからって、さすがに浮かれすぎちゃまずいよね。
でも確かに、このラーメンは力がみなぎってくるわ。
これなら今朝の分は取り返して、今夜はまた長くなるかもしれないわね。
「ごちそうさまでしたー」
あたしはスープまで飲みきれなかったけど、浩介くんは違った。
浩介くんがスープまで飲み干すと、水を一杯飲み、そしてあたしが食べ終わった。
会計を済ませてあたしたちは店外に出る。
時計を見ると、次の列車までは残り40分弱だった。駅までの徒歩時間を考えるとまだ30分以上は時間がある。
「余裕も考えて後20分かあ……」
「うーん、20分で出来ることはあるかな?」
あたしと浩介くんが思慮する。
時間が少ないことを考えると、ゲームセンターなどの夢中になりやすいものはまずい。
とすると、本屋とかもまずいわね。
「あー、駅に戻るか」
「うん」
もしかしたら、列車がもう着いてるかもしれないし。
これが旅番組なら、もう一回寄り道して大慌てになるんだろうけど、永原先生の忠告もあったので、素直にゆっくりと駅に戻ることにする。
「ふむふむ、レストランなどで外食するなら30分以上を目安にしなさいっか。で、基本的に駅の立ち食いは20分が目安っと。20分以下の時間の場合は、基本的に寄り道して駅から出るのは避けることっか」
浩介くんが件のメモ帳を見て言う。
そして、「常に時間を意識しながら旅をすること」ともあって、かなり時間については強調されているのが分かる。
永原先生にしてみれば、時間管理の大切さは、この手の旅行では特に重要なことだから、旅番組などのギリギリ演出はそれをないがしろにするという一点だけで、有害な描写らしい。
「さ、見えてきたぞ」
浩介くんが指差す先には、さっきまでいた北上駅の駅舎が見えてきた。
これが見えるだけで、安心感が段違いなことに気付く。やっぱり、時間を意識すると全体の意識も違うわよね。
旅行でありながらも、どこか引き締まったこの感じはきらいじゃないわね。
「よし、まだ時間があるな」
「うん」
そもそも、徒歩10分だって相当にゆっくり歩いた場合の時間で、次の列車まで後32分もある。
「ねえ優子ちゃん」
「うん?」
浩介くんが少し道を外れる。
「ここ、物陰じゃん」
「う、うん……」
浩介くんが物陰を指さす。道からも駅からも死角になっていて、分かりにくい場所だ。
「ちょっとだけ、お尻触らせてくれる!?」
「えー!?」
浩介くんが直球で言う。
「スカート、スカートの上からちょっとだけ。俺、優子ちゃんに少しだけムラムラしちゃってさ」
「う、うん……しょうがないわね」
「やっほーい!」
あたしが了承すると、浩介くんが途端に上機嫌になる。これを見ていると、お尻触られて嬉しいと思っちゃうから、あたしも浩介くんに負けず劣らずの単純さよね。
あたしは壁に両手をつき、浩介くんにお尻を向ける。
「ふふ、じゃあ遠慮なく……」
すりすり
「んっ……」
スカートの上から分かるお尻をまさぐられているの感触。
スカートの上からは久しぶりで、特に婚約してからは、お尻を触られる時はパンツの上からか、直接触られることが多くて、別の意味で新鮮だった。
スカートの上というと、例の痴漢を思い出す。浩介くんの触り方は、あの時の痴漢よりもずっといやらしくてしつこい触り方なのに、好きな男の子に触られるだけで、あたしはくらくらして惚れ込んでしまう。
浩介くんに守られたい、浩介くんにえっちな目で見てもらいたいという欲求が、あたしをそうさせているのかもしれない。
特に新婚初夜の初めての時以降、そんな欲望が強まったようにも思える。
でも、母さんからも、「旦那さんの欲望をきちんと満たしてあげるのも、嫁に与えられた大事な役目」って。多分それは裏を返して浩介くんにも課せられていると思う。
最も、男の子は1回に使うエネルギーが大きいから、その辺りはちゃんと考えてあげないとね。
「ふう、ありがとう。じゃあ中に入ろうか」
「あ、うん」
浩介くんは「ちょっとだけ」という言葉の通り、数秒でお尻を触るのをやめた。
そして、あたしたちは何事もなかったかのように駅に戻る。
電光掲示板には、あたしたちが乗る列車も載っていた。
「ホームで待つか?」
「うん、そうする」
浩介くんの提案で、あたしたちは改札口を入り、案内通りの番線に入る。
するとそこには、エンジンの音を吹かした黄緑色の車両が見えた。
ドア横のボタンを押し、「ピンポーンピンポーン」という音とともにドアが開いて車内に入る。もちろん、開けたら閉めるも忘れずに。
2両編成の車内の中の乗客は、まだあたしたちだけだったので、ボックスを1つ占領する。
混んで来たら譲ればいいわね。
「これ、『キハ』だからディーゼルだな」
浩介くんが正面の数字を見て言う。
どうやら、昨日の知識が役に立ったみたいね。
待っていると、しばらくして運転士さんが入ってくる。
そして、他の乗客も次々と乗ってくる。
ピンポーン
「この列車は、横手行き、ワンマンカーです、お客様にお願い致します、優先席付近では――」
女性の声による案内放送が流れる。
ここは有人駅だけど、無人駅の場合は一両目の後ろの扉から乗り、整理券を取って、降りるときは一番前の扉から降りることになっている。
このルールは、乗るときは無論のこと、運賃箱に運賃を入れる時にも重要になってくる。
また、「定期券、切符は、運転士にはっきりお見せください」という注意喚起も聞こえた。
最も、あたしたちの場合は、この乗車券を降りた駅の駅員さんに見せればいいだけとのことなので、あんまり詳しくは考えなくていいだろう。
少しずつ、車内のお客さんも増えてきた。
「この列車は、横手行きワンマン列車です。まもなく発車いたします。ご乗車になってお待ちください」
運転士さんの放送が入る。
車内はまばらながらも、それなりに人はいる。
「ワンマンカーの自動放送を流す役目や、駅の降車での運賃収集、定期券の確認。さながら運転士兼車掌兼駅員って所だな」
「大変よね」
やはり地方はこうした合理化はよく行われているのだろう。
そう思っていると、運転士さんがドアを閉め、ドアボタンを押したときにも鳴る「ピンポーンピンポーン」という独特の音と、運転士さんの「戸閉よし」の声が聴こえる。
ワンマンだから、当たり前といえば当たり前だ。
ブオオオオオオオオ……
そして、エンジンの轟々たる音が、車内にこだまし、列車はゆっくりと加速する。
あたしたちが普段乗っている電車と比べると、かなり加速はゆったりだ。
ピンポーン
「皆様、JR北上線をご利用いただきまして、ありがとうございます。この先柳原――」
先程の女性の放送が流れ、列車は徐々にスピードを上げていくが、基本的にのどかだ。
到着する駅は基本的に無人駅で、最初の駅では「後ろの車両のドアは開きません」となる。
つまり、一両目の後ろのドアが乗車口で、前側で降りることになる。その他、「優先席のマナー」や「車内は禁煙」というのは
最初の駅では数人のお客さんが降り、1人が乗った。
ドアの開閉措置も、車掌さんの手で行われていて、駅にはドアミラーもある。
車窓は田園地帯を走るのどかな場所だけど、前方をよく見ると、雪が積もっていて、山沿いと日本海側はいまだに雪に覆われていることが容易に想像がつく。
あたしたちの泊まる場所も、山にあるから、きっとまだ雪深いんだと思う。
数駅停車して、乗客が急激に減っていく。
車内も静かになりつつ、列車は進む。駅によっては、誰も乗り降りしていない駅もある。
「ローカル線っていうのはこういう雰囲気なのかな?」
浩介くんが聞いてくる。
「うん、そうだと思うわ」
朝や夕方になると、高校生がたくさん乗ってくることもあるらしいけど、今は午後のお昼時、乗っているのは主に老人で、若いのはあたしたちだけだ。
以前浩介くんと永原先生とで乗った「しなの鉄道」と比べてもはるかにのどかだった。
車窓の向こう側には、道路が見える。よく見ると、車の方が速い。
なるほど、あたしたちが普段住んでる首都圏だと、車社会ってどうにも想像がつきにくいけど、そう言うことなのね。
あ、信号に引っかかってる間に抜き返した。やっぱり鉄道のほうが速いのかな?
そうこうしているうちに、列車はどんどん山に近付いてくる。
標高も高くなったのか、車窓には雪も見える。あたしたちの地域では、雪は真冬にたまに見られる程度で、この季節にこんなにどっさりと言ったことはない。
「まもなく――」
目的の駅が近付く。いつの間にか、並行する道路も見えなくなっていた。
「優子ちゃん、次だよ」
「うん、分かってるわ」
とは言っても、地方の鉄道の例に漏れず、駅間は長い。
いや、のんびり走っているから、もしかしたらそこまででもないのかもしれないけど。
ともあれ、キャリーバッグを上にあげなくてもいい程度に空いていてよかったわ。
「うー、寒いわ」
「ああ、関東なら真冬って感じだ」
あたしたちが降りる駅は、ちょうど山間という所で、有人駅だった。
駅名はちょっと特徴的で、車両のドアは全て開いた。
有人駅とあってそれなりに人がいるらしく、あたしたち以外にも結構なお客さんが乗り降りしていた。
「ここは駅構内にも温泉があって、列車が近いと信号が点るみたいだ」
「へー、面白そうね」
とは言っても、今回の旅行では立ち寄る予定はない。
あたしたちは、送迎の車が来るのを待つ。
駅前はさっきの北上駅と比べるとはるかに人は少ない。
「お、あれじゃないか?」
青いタクシーがこっちに向かってきた。
駅前に駐車して扉から運転士さんが出てくる。
「すみません篠原さんいらっしゃいませんか?」
「あ、はい」
「お待ちいたしておりました。どうぞこちらへ」
呼ばれたので、あたしたちは立ち上がり、タクシーの中へ。
「シートベルトをお締めください」
「「はい」」
シートベルトはとにかく大事、幸子さんが最終試験に合格したら、安全講習をさせる予定だけど、その時にもシートベルトの重要性は話す予定になっている。
「では発車します」
タクシーの運転手さんはそう言うと、ぐんと加速させて車を走らせる。
特に会話もなく、車は順調に進む。
ここは北上のような「地方都市」というよりは、「地方の村」という感じで、少し走るとすぐに開けた場所へと進む。
雪の色合いは増していき、ここはまだ春になっていないことを思い知らされる。
やがて、タクシーは温泉地帯へ向け、曲がりくねった山道を進む。
あたしは違和感に気付く、このタクシーはメーターが表示されていない。つまり、既に先払いされていたのだろうか?
「すごい山奥ねあなた」
「ああ、しかも別荘を借りられるんだろ?」
「うん、近隣を気にしなくていいって」
まあ、外に出てするのはさすがにまずいけど。
「すげえサービスだよな」
浩介くんが感心する。
やあて、道路の上にも雪が積もりはじめる。まあ、タイヤは大丈夫だと思うけど。
しばらくすると、今日明日と泊まるホテルの看板が見え、車は速度を落としフロント付近の駐車場へと止まった。
「お待たせいたしました。お降りください」
「「はい」」
後ろのトランクに預けた荷物を取り出して、あたしたちはホテルへと入った。