永遠の美少女になって永遠の闘病生活に入った件 作:名無し野ハゲ豚
「いらっしゃいませー」
ホテルの従業員さんが、あたしたちを出迎えてくれる。
「予約した篠原です」
「はい、篠原様ですね。お待ちしておりました」
フロントスタッフさんが、鍵を渡してくれる。
ちなみに、この建物はフロント以外にもサービスの拠点になっていて、ゲームコーナーもある。
一応レストランもあるけど、食事は全てルームサービスなので、特に気にする必要は無い。
明日のベッドメイクに関しても、呼び出した時間帯にいつでもしてくれるようになっているし、しなくてもいい。
「ではですね、お客様の建物は7番となります。案内の者が参りますので、お掛けになってお待ちください」
そう言うと、椅子に座る間もなく案内の人が現れた。
「えーでは篠原様、こちらへどうぞ」
ここはコテージ式なので、いったん屋外に出る必要がある。
「うー、寒いわ」
「優子ちゃん、結構寒がりだよね」
「うん、女の子って冷えるのよ」
「それでしたら、弊社の温泉を是非ご利用ください」
「はい」
この時期は寒いけど、屋内の温泉と露天風呂、いずれもかけ流しで稼働中だという。
しばらく歩くと、あたしたちの泊まる別荘が見えてきた。
外から見る限りは、2階建てになっているけど、2階部分は狭そうね。
例によって、スタッフさんに部屋を空けてもらい、鍵をもらって中に入る。
中は既に暖房が効いていた。
「あー疲れたー!」
あたしたちは、まずはキャリーバッグを適当な所に置き、ベッドに横たわる。
とにかく、今は横になって楽になりたい。
「ふう、優子ちゃん、長旅お疲れさま」
「うん、あなたもお疲れ」
何だろう、まるで新婚じゃなくて長年連れ添った夫婦みたいね。
「あはは、優子ちゃん、ちょっと年齢いってる感じがするよ」
「浩介くんもそう思った? 実はあたしもなのよ」
「「あはははは」」
カップルによっては、喧嘩のもとになるかもしれない会話でも、あたしたちくらいラブラブならどうってことはない。
「このままずっと、おばあさんになっても……っておばあさんにはならないのよね」
「ああ、この思い出は、永遠だ」
浩介くんの力強い言葉、やっぱり頼もしい男よね。
永遠かあ……
「ふう、でも今はちょっと休むわね」
「ああ」
あたしは、ベッドにあったパンフレットを見る。
有料放送は全てデフォルトで見られる。また、キッチンがあるので完成した食事だけでなく、食材を買って調理することも出来る。
うん、あたしの腕の見せ所になりそうだわ。
そして室内風呂と露天風呂は繋がっている。
2階部分は物置になっているけど、使う機会はなさそうね。
あ、でも洗濯機と乾燥機は必要かな?
「とにかく、これでOKかな?」
ちなみに、和室の他、浴衣のサービスもある。浩介くんのためにも、着てあげないとね。
あたしは、一通り中を巡回し終わると、疲れもあってベッドの上でボーっとする。そのうち、心地いい眠気があたしを包み込んだ。
「優子ちゃん、優子ちゃん起きて!」
「んあ?」
あたしを起こそうとする、浩介くんの声が聞こえた。
ゆっくりと瞼を開けると、浩介くんが視界に入ってきた。
「あ、ごめん、寝ちゃってた?」
「うん、スカートめくっても気付かない程度には」
浩介くんがあっさりした口調で言う。
あたしは慌ててスカートを抑えるが、既に元に戻っていた。
「もー、浩介くんのえっち!」
寝ている間に、スカートめくられちゃったわ。
「あはは、それよりも、もうすぐ6時だよ」
浩介くんが、部屋の時計を指さして言う。
「あ、うん。本当だわ」
時計の短針が6になっていて、外も暗くなっていた。
「夕食にしようぜ」
「うん」
浩介くんの提案で、あたしたちは、テーブルへと集まる。
「お、この懐石料理がよさそうだな」
「うん」
このホテルでは、食事代は差異があるため宿泊代には含まれていない。どれもいい値段がするけど、蓬莱教授の予算からすれば、余裕で賄える程度でしかない。
「うーん、でもこっちの『フルコース』も捨てがたいわね」
「こっちは一遍に出てくるのか。地元特産の品をふんだんに使ってるんだな」
牛肉も、中々おいしそうね。
ここは山の旅館だけど、魚のような海の幸も取り扱っているみたいね。
「うーむ」
さんざんに悩んだ挙句、あたしたちは、「フルコース」を頼むにした。
フロントを呼び出して注文し、20分後、呼び鈴の音と共に食べ物がやってきた。
「お待たせいたしましたーこちら――」
結論から言うと、ここの食事はおいしかった。
どれもこれも絶品で、いい料理人にいい素材を使っていたのは明らかだった。
ちなみに、食事の会計は後払いとその場払いが選べるが、あたしたちはまとめて最後に払うことにした。
「ふー、食った食ったー!」
浩介くんが伸びをする。
結構まとまった量で、あたしが食べきれなかった分を、浩介くんが食べてくれた。
「浩介くん、お風呂どうする?」
「うーん、俺は後でもいいよ」
「そう? じゃああたしから入るわね」
あたしは、キャリーバッグからお風呂セットを出そうとする。
……あれ?
「優子ちゃん、どうしたの?」
「う、うん……浴衣の下につける襦袢が無いのよ」
おかしいわね、ちゃんと母さんにオーダーしたはずなのに。忘れちゃったのかな?
「じゃあしょうがねえな、肌の上に直接着るしかないだろ?」
「えー、さすがにそれははしたないわよ!」
嫌だとは言ってないのが、割とまじめにあたしって変態だと思う。
「うーん、じゃあパジャマは?」
「うん、仕方ないからそれを持ってくわね」
取りあえず、今はパジャマで代用するしかない。
「あ、そうそう、途中で乱入してもいい?」
「もう! 浩介くんのえっち! いいに決まってるでしょ夫婦なんだから!」
あたしがつい、声を荒げてしまう。
でも、照れ隠しなのはバレバレで――
「さりげなく『いいに決まってる』って、優子ちゃんそれ反則だから」
あうー、二重に恥ずかしよお……
浩介くんを尻目に、あたしは専用の脱衣場へと入る。
脱衣場の一角には色々な浴衣があった他、鏡や髭剃り、歯ブラシといったアメニティーもここに収められている。
あたしは、服を脱ぎ、髪をお団子にして、備え付けのタオルを手に取る。
バスタオルはもちろんなし。
ドアを開けると、結構暖かい。
温泉の湯気が隅々まで行き渡っている。外との温度差を考えるとかなりのものだと思う。
あたしはとりあえず身体を洗いに行く。
ここですることはいつも通り。あたしは一人だけの広い空間で温泉に浸かる。
「あー、気持ちいいわー!」
こんな広い所を独り占めにしたの初めてかも。
そんなことを思いながら、浩介くんが入ってくるんじゃないかという期待が入り混じっていた。
うーん、でも入ってこないのかな?
外の露天風呂は、まだちょっと行く勇気が出ない。
温泉に漬かりながら考える。
明日は、ここに丸一日いることになっている。
周辺の温泉を観光してもいいけど、あまりその気にはなれない。
それよりも、浩介くんとの触れ合いを増やしたかった。
「あれ?」
あたしは違和感を感じた。
さっきまで、浩介くんがいつ入ってくるのかと待ち構えていたが、今は浩介くんの気配さえしない。
むしろ脱衣場の方は静まり返っているくらいだわ。
「露天風呂……」
3月の半ばといっても、時間は夜に近く、しかもここは東北の山に位置するため、雪も積もっているし寒さはとても厳しい。
寒い中の露天風呂はどんな感じなんだろう?
あたしは、勇気を出して外への扉へと向けて歩く。
「うー、緊張するわね」
わずかに冷気が漏れ出している。下手すれば氷点下だ。
「えいっ!」
あたしは意を決して扉を開ける。
「うー、寒いわ!」
一応、露天風呂との間にもう一枚小部屋と扉があって、急激な温度変化を避けているけど、ほとんど効果が無い。
あたしは、小さなタオルを持ちながら、一歩一歩前に進む。
とにかくあのお風呂に入りたい一心でもう一度扉を開ける。
あの時幸子さんと行ったお台場の露天風呂とは比較にならない寒さを感じつつ、大急ぎで湯船へと入る。
「あー! ふー!」
周囲は柵で囲まれているとはいえ、野外露出していることなど全く気にもならなかった。
逆に言えば、それくらい寒さの厳しい土地ということ。
露天風呂は、浸かって見ればさすがに中の大浴場よりもぬるいけど、それでも外気温と比べれば十分に温まれる。
はるか遠くには、うっすらと銀の山々が見える。
冬山は多くの人を飲み込んできたけど、それでも登る人は後を絶たない。
ある登山家の「そこに山があるから」という言葉が有名だけど、あたしたちは登山をしない。
しても夏山の緩やかなハイキングコースだけ。
それは、山そのものが危険だからで、登山を極力避けるように永原先生に忠告されているから。
「いい温泉ね」
疲れが取れていく感じがする。
ちょうど夕食の後で、エネルギーはまだまだある。
「そろそろ出ようかしら?」
そう思って、あたしは体を上にあげる。
「さ、寒い!」
途端に、顔とは比較にならないくらい、体が急激に冷える。肌についた温泉の水滴が、容赦なく裸のあたしから体温を奪っていく。
うん、確か空気より水の方がずっと熱を通しやすいんだったわ。
後のことを考えていないのを後悔しつつ、大急ぎで大浴場へと進む。
「うー、びっくりしたー」
あんまり露天風呂は入りすぎないようにしよう。入っても明日の昼間にするわ。
あたしは、気を取り直してもう一度大浴場へと入り、身体を温め直す。
どうやら、浩介くんが入った気配はないわね。
十分に温まり直したら、あたしは髪をほどいてストレートロングに戻り、体を拭いて脱衣場へと戻る。
こちらにも暖房は効いているけど、やはり少し寒さがこたえる。
取りあえず、パジャマに着替えて……あれ?
「パジャマが無いわ!」
確かに入れておいたはず。よく見ると、下着も無くなっていた。
あ、もしかして浩介くん……!
あたしは、急いでバスタオルを巻いて、リビングにつながるドアから頭だけ乗り出す。
「浩介くん! あたしのパジャマはどこ!?」
「あー、優子ちゃん、パジャマなら俺が全部預かっといたぞー!」
浩介くんが叫ぶ声が聞こえる。
「もう! 返してよ!」
「そこに浴衣があるだろ? それ着なよ!」
「もー! それは無理よ!」
襦袢とさらしがない以上、ブラパンツではみっともなくなってしまう故に、ノーパンノーブラで着なきゃいけないし。
「大丈夫だって、俺しかいねえんだから! 今夜を盛り上げるために頼むよ!」
「むー!」
もー、またこれだわ。
「優子ちゃんが俺にだけ見せてくれるの期待してたのになあー」
浩介くんが残念そうに言う。
「わ、分かったわ」
「ひゃっほーい! やったー!」
もー、本当にずるいわ浩介くん。そんな風に喜ばれちゃったら、着ないわけにいかないじゃないの。
あたしは、観念して扉を閉めて、タオルを脱ぎ、浴衣を手に取る。
「うー、どれも胸のサイズが合わないと思うわ」
大きなサイズはあるけど、例によって下半身が不格好になっちゃう
なので、あたしが和服を着る時にはさらしを巻く必要があるけど、襦袢もろともなくなっていた。
「はぁ……」
取りあえず、あたしの身長から、一番胸の大きいサイズの浴衣をつけてみる。
「うー、みっともないわ……」
ノーパンなので後ろから見ればお尻のラインも出ていなくて落ち着いてはいるけど、前の方はと言うと、一番胸の大きいサイズを選んだにもかかわらず、ある程度は隠れているという感じで、特に胸の谷間なんかは丸見えになっている。
旅館で使われる浴衣だから、夏祭りや初詣の時のように、帯ではなく紐で閉めるものなのでとても心許ない。
もし胸の圧力などではだけちゃえば、その瞬間全部浩介くんに見られちゃうことになる。
もう何回も裸は見られてるけど、やっぱり浩介くんだからこそ、愛する旦那さんだからこそ、見られるのは恥ずかしい。
うん、初めて見られた時よりも、ずっと恥ずかしいと思う。
普通逆なんだと思うんだけど、多分あたしが浩介くんにより深く惚れてるせいね。
「あうー」
ありあわせのタオルをさらし代わりにして、それで胸を潰して、ようやく何とか入りそうって感じね。
もちろん、胸が大きいのが嫌だなんて思わないけど。
「浩介くん、喜んでくれるかな?」
よくよく考えてみれば、既にこの時間のあたしは「娼婦」になるべき時間でもある。
そうよね、浩介くんを喜ばせるためにも、明日はほとんど一日中「娼婦モード」にしないといけないわね。
ガチャ
意を決して、あたしは扉から出る。
「お待たせー」
「うおっ、ゆ、優子ちゃん、かわいいし、エロい!」
浩介くんは、想像以上に気に入ってくれたみたいね。
「じゃ、じゃあ俺! お風呂入ってくる!」
「いってらっしゃーい。寝室で待ってるわね」
「おう!」
浩介くんが元気よく返事しつつお風呂場へと進む。
いつもならどさくさに紛れてお尻を触ってきそうなのに、何もしてこなかった。
浩介くん、エネルギーを貯めたいのかな?
あたしは、寝室への扉を開く。
「うー、寒いわね」
どうやら、暖房が効いてないみたいだったので、あたしが暖房をつける。
浴衣の中に、冷気が容赦なく直に入り込んでくる。今日が女の子の日じゃなくてよかったわ。
最も、計算上では、ハネムーンが終わったらすぐに来そうな感じだけどね。
「ふー」
あたしは、足を揃えてベッドに腰掛ける。
そのまま倒れこんでもいいんだけど、やっぱりちょっと動くだけで浴衣がずれてしまう。
「あうう……」
薄暗かった部屋の電気をつける。
女の子は、夜になると恥ずかしくなって電気を消すようにお願いする子も多いと聞く。
あたしも、恥ずかしくってたまらないけど、浩介くんが喜んでくれると思っちゃうと、恥ずかしいと分かっていても、電気を消したくなくなってしまう。
だからこうやって、電気をつける。
ふと、窓の外を見る。窓の外には、隣の建物が見える。
隣にはカーテンが閉められていて、光は見えない。既に寝ちゃったのか、それとも使われていないのかもしれない。
この部屋にもテレビがある。そう言えば、昨日のラブホテルでは、エッチなビデオも放映していたらしい。
あたしたちも18歳以上で高校も卒業したので、見ても問題はないはずだけど、結局見ずじまいだった。
「ふうー」
ただひたすらぼーっとしながら、浩介くんを待つ時間は長く感じる。
北上駅での待ち時間より、長く感じる気がする。あっちは2時間も経ってて、こっちは30分にも満たないのにね。
それだけ、浩介くんが愛おしいのよね、あたし。
コンコン
「はーい!」
「入るぞー」
ガチャッ
扉のノック音と浩介くんの声がして、一呼吸おいてから扉が開かれる。
パジャマ姿の浩介くんが見えた。あたしは立ち上がって、浩介くんに近付く。
「優子ちゃん」
「ん?」
「それ!」
すりすり
「きゃっ! ちょっと浩介くん、どこ触ってるのよ!」
浩介くんにお尻をいやらしく撫でられ、さらに下から胸を揉まれてしまう。いずれも浴衣越しだけど。
「お、やっぱり言いつけ守ってノーパンノーブラだな」
「だ、だって――」
「俺が喜ぶからだろ? その気になればバッグの中から下着出して穿けばよかったのに、それをしないんだもんな」
「うー!」
か、完全に失念していたわ。
でも、下着を穿くという発想そのものが湧かなかったのも事実。
和服の下に洋風のパンツやブラだと、ただでさえ身体のラインが出ちゃうのに更に強調されてみっともなくなっちゃうからだけど。
「ほら優子ちゃん、『あたしはえっちな女の子です。浩介くんに見せて喜んじゃってます』って言ってみてよ?」
浩介くんが笑顔で言う。
「あ、あたしは、え、えっちな女の子です! こ、浩介くんに見せて、喜んじゃってる変態です!」
「うっひょーえっれー!」
浩介くんが感嘆の叫びをあげる。
あたしはというと、もう顔から火が出る勢いだ。
「も、もう! 浩介くんが言わせたんじゃないの!」
あたしが抗議するように言う。
「悪い悪い……ま、俺にだけ見せてくれるもんな、今の優子ちゃんは」
「う、うん……」
「ふふ、優子ちゃん大好き!」
むぎゅー!
「きゃ、きゃあ!」
浩介くんに、何回目か分からない愛の告白を受けながら、思いっきりむぎゅうと抱きしめられる。
そのままベッドに倒れこむと、自然と口と口が重なり合った。
「ちゅっ……」
「んちゅっ……優子ちゃん、いい?」
「はい、あなた……お願い……あたし……もう……」
雪山の別荘の一室、あたしたちは昨日一昨日と同じく、冷えた体をぎゅーっと抱きしめあって、暖めあって夜を過ごした。