永遠の美少女になって永遠の闘病生活に入った件 作:名無し野ハゲ豚
あたしたちは、学校のキャンパス内の広い所に出る。
新入生を勧誘するために、どこのサークルも必死だ。
「さて、どうしたものかね」
「あたしは桂子ちゃんが作る天文サークルがいいんじゃないかな? 他はまあざっと見ればいいと思うわ」
元々、そう言う予定だったし。
「ああ、でも木ノ本いるか?」
「とりあえず行ってみようよ」
「ああ」
あたしの手引きで、サークルの勧誘スペースに向けて歩いていく。
徐々に勧誘の声が、大きくなっていく。
「野球部はどうだい?」
「一緒にサッカー楽しもう!」
「囲碁将棋部へようこそ!」
「ゲーム研究サークルだよ!」
そこでは、佐和山大学の先輩たちが思い思いに勧誘していた。
「この大学にも、色々なサークルがあるんだな」
「うん、そうみたいね」
でも、あたしたちはざっと見るだけだと思う。桂子ちゃんの天文部のことがあるからだ。
「ねえそこのお嬢さん」
「はい?」
浩介くんとあてもなく歩いていると男子学生があたしに話しかけてくる。
「ダンスサークル入らない? 君なら人気間違いなしだよ……うちはさ、新入生歓迎会も、他より豪華になってるんだぜ」
「そうそう、その体で踊れば人気間違い無しだって!」
うーん、何か怪しいわね。
「あ、あの、あたし運動はからっきしなんで」
嘘は言ってない。実際あたしの運動神経は壊滅的だ。
「大丈夫大丈夫、君くらい美人ならいるだけで士気上がるからさ、そこの彼もどうだい? 多人数なら新しい扉を開けるかもしれないぜ」
あー、やっぱりそっち系のサークルなのね。こんなすぐに本性表すなんて分かりやすいわね。
「お断りします。優子ちゃんは俺の大切な嫁ですから」
「えっ……嫁宣言!?」
「嫁って……まさか冗談じゃ――」
やっぱり、驚いている。勧誘の2人はかなり動揺した顔をしている。
「あの、あたしたち本当に夫婦なので、あたしも浩介くんも、パートナー以外とするつもりはありません」
あたしは、左手薬指の指輪を見せつつ、きっぱりと拒絶するように言う。そもそも、浩介くん以外の男の魅力なんて知っていても知りたくないし。
そもそも、なんでこんなサークルが堂々と表通りで勧誘しているのよ。あと、2人ともあたしの胸ガン見してるし。
「ちっ、何だよ頭固えな!」
そして、この言いようである。
頭固いとか柔らかいとか以前の問題だとあたしは思うんだけど。
「おい、固いとか柔らかいとか以前の問題だろ! 優子ちゃんは俺の女だ! 他の男に渡す気は絶対にないし、優子ちゃん以外とするつもりもない!」
浩介くんが、あたしの心の中を代弁しつつ、きっぱりと宣言してくれる。
うん、あたしは浩介くんの女……あたしは浩介くんの女……
頼もしい旦那でよかったわ。
「ったく、人生損してるなー、1人としかしねえなんてよ!」
なおも諦めきれず勧誘してくる。もう、ここがヤリサーだということを隠そうともしない。というか、周囲も注意しないのね。
「うるせえな! お前らのサークルの女はどんないい女かは知らねえが、優子ちゃんに比べたらゴミみてえなもんだろ」
浩介くんが負けじと応戦する。
「な、何でそんなこと言えるんだよ!」
「そらこんな頭のネジが外れたサークルにいるもんな! そんな女なんかと付き合うくらいなら、優子ちゃんと愛を深めたほうがよっぽどマシだぜ!」
浩介くんが正論で応戦する。
確かに、こんなサークルに入ってハマる女子なんてろくなものじゃないわよね。
「言ってくれたなおい……!」
サークルの人がますます怒り始めた。
「ま、そうじゃなくても優子ちゃんは世界一かわいい女の子だし、優子ちゃんよりブスで貧相な体の女しかいなさそうな君たちのサークルはこっちから願い下げだね」
浩介くんがあえて低俗な物言いをするが、もちろんこれは相手のレベルに合わせてのこと。
というよりも、あたしよりかわいくて豊満な身体の女の子なんて、今まで殆ど知らないわよ。協会になら、豊満はともかく、あたしよりかわいかったり美人の人はいると思うけどね(最も、周囲はあたしが一番と思っているみたいだけど)
「この野郎、言わせておけば……!」
「とにかく、旦那として、嫁に有害なことをさせるわけにはいかねえんだ。じゃーな……行こう、優子ちゃん」
浩介があたしの手をつかむ。
「う、うん……」
あたしも、それに続く。
「おい!」
サークルの人が大声で怒鳴るが無視をする。
ともあれ、この場からはさっさと退散したほうが良さそうね。
あたしたちは、振り向きもせずにこの場から逃げた。
「この野郎!」
ところが、人気の無い所まで逃げると、逆ギレしたサークルの2人組が浩介につかみかかる。
「散々言いたい放題言いやがって! うちのサークルの女の子にまでケチつけやがって! ただで済むと思ってんのか!」
「ふぅ、これ以上は学校に通報しますよ」
浩介くんはあくまでも冷静に応対していて、それがかえって相手の神経を逆撫でしている。
「こんのお!」
「言っておくが、俺喧嘩は強いぞ。優子ちゃんを守るために鍛えてあるからな」
今にも爆発しそうな2人に向けて浩介くんが忠告する。
「っ、なめんじゃねーぞ!」
男子の1人が浩介くんの胸ぐらにつかみかかる。
「ふぅ」
「おわっ!」
ドスッ!
浩介くんは面倒くさそうにその腕を払いのけ、足払いしてバランスを崩した所を押してもう1人を巻き込む。
2人が折り重なるように倒される。
「あだあ!」
「うー!」
パンパン
浩介くんがやや大げさに手を払う。
「失せろ、下賤野郎。二度と優子ちゃんの前に顔を見せるな! 次は腕を折るぞ」
「畜生! 覚えてやがれ!」
「あいててて!」
浩介くんの低いドスの利いた声が聞こえ、2人組の男はいかにもな雑魚の台詞を吐いて、一目散に退散していった。
「はぁー……全く、とんでもない目に遭ったな」
「本当よね」
ああ、また浩介くんに守られちゃったわ。
もう、顔を見るだけで、素敵すぎてくらくらしちゃいそうだわ。
「優子ちゃん、どうしたの? 顔赤いよ」
「えへへ、ちょっと怖い目に遭って興奮しちゃってるのかも」
はにかみながら言う。実際、間違ってはいないと思う。
あたしが恋に落ちたのだって、似たような経緯だったし。
「そうか、やっぱり女の子の本能なんじゃないの?」
「そうかもしれないわね」
あたしが、浩介くんの従属物になりたいという被支配欲は、かっこよくて強い浩介くんに守られたいという欲望と表裏一体なのかもしれない。
夫婦生活でも、あたしは常に浩介くんにめちゃくちゃにされたいと思いながらしていて、浩介くんも徐々にそれを目指そうとしている。
「優子ちゃんは本能に正直だもんね」
「そ、そうかな?」
浩介くんがさらりとそんなことを言う。
「うん、今も俺のここ、ガン見してるし」
浩介くんが下半身を指差す。
あたしの視線が、無意識にそこに向かっていたことに気付く。
「わっわっ」
慌てて目をそらすがもう遅い。
「あはは、優子ちゃんは本当にメスだよね」
「もー!」
浩介くんはあたしのことを「メス」と言う。
でも、それは事実だし、あたしとしても、自分が1人の女の子である以前に1匹のメスであることも自覚していた。
浩介くんと結婚してからというもの、あたしはより露骨に、メスの本能が出るようになった。
結婚する前には、まだあたしの深層に残っていた「優一」が、あの日以来完全に消えたこととも無関係ではないだろう。
「あ、優子ちゃんに浩介じゃん、探してたのよ!」
「あ、桂子ちゃん」
ふと、桂子ちゃんがこっちに近付いてきた。
「あのね、サークルについて調べてたんだけど、この大学に天文部はなかったわ」
どうやら、佐和山大学に天文部はないらしいわ。
「そうか」
「なので、私が新しく作っちゃうことにしたわ!」
桂子ちゃんが、新規サークルの設立届の紙を見せてくれた。
「おー、さすが木ノ本、行動力高けえなー」
「でも、サークルを作るためには最低部員が3人と顧問の先生が必要なのよ」
「ふむふむ、で部員は俺たちでいいとして、顧問はどうするんだ?」
浩介くんが突っ込んでくる。
「えへん、もちろん蓬莱教授です!」
「え?」
桂子ちゃんが意外な名前を出す。
蓬莱教授何て、顧問したくなさそうなのに。
「大丈夫よ、小谷学園の天文部もだけど、顧問って言っても名義を貸すだけの書類上の存在よ」
そう言えば、あたしも天文部の顧問は名前さえ知らなかったわね。
「そ、それでいいのか!」
「大学になるともう完全に大人だからね。何かあっても私たちの責任になるわよ……何もないとは思うけどね」
「なるほどねえ」
「それでさっきみたいなひどいサークルもあったのか」
浩介くんがやれやれとため息をつく。
「あーあのいかにもなサークルね、ダンスサークルとか言ってたけど絶対ウソよね。私も声かけられたわ」
「やっぱり桂子ちゃんも!?」
まあ、予想はできていたけどね。
「うん、とにかくしつこくてね。110番しようとしてようやく諦めてくれたわ」
桂子ちゃんは、やはり超がつく美少女なので、狙われやすいわよね。
「桂子ちゃんも災難だったわね」
「ただああいうのは自分たちの大学もだけど、他大学、特に付属の中学高校を持つ女子大を狙うのよ」
「あー何となく分かるわ」
修学旅行でも思ったが、女しかいない空間はとても不健全だと思う。
中学高校で異性と触れあう機会が無いだけじゃなく、大学まで女子大に進んだら、男に飢えるなって方が無茶よね。
そうなればこういうのにあっさり騙されちゃいそうだわ。本当、小谷学園が共学でよかったわ。
「だから、ここで勧誘できなくても、よそから調達するのよ。さ、それよりも、天文サークルを作りましょう」
「おう」
あたしたちは、学生棟に移動する。
ここは、学食やコンビニ、文房具店やインターネットが使えるフリースペース、学習サポートセンターの他、図書館や就職活動など、直接勉学に関係ない学生支援を一手に担っている。
「さ、座って、優子ちゃんと浩介にはここに名前を書いてもらうわ」
「おう」
「ええ」
桂子ちゃんが指差した先に「副代表」の欄とかなりの数の「構成員」の欄があり、あたしが副代表欄に「篠原優子」と、浩介くんが「篠原浩介」と書き込む。
ちなみに、「代表」の欄には、既に「木ノ本桂子」の文字があった。
「よし、じゃあ提出するわね」
桂子ちゃんが立ち上がり、窓口の事務員さんに書類を提出する。
「はい、学生証をお見せください」
あたしたちは、それぞれ学生証を見せる。
「はい、分かりました。それでは天文サークルを正式に開きます」
「ありがとうございます」
あたしたちは頭を下げて、その場を後にした。
「ふう、サークルできたわね」
「勧誘とかはどうするんだ?」
「今年はいいわ、一応あそこには投稿しておくけど」
あそこと言うのはもちろん小谷学園3年1組で作った専用SNSのこと。
あたしたちは未だに交流が活発で、特にプロテニス選手になった恵美ちゃんが積極的に投稿していた。
「そうか、まあこっそりやるのもいいよな」
もちろん、小谷学園出身の学生を通してすぐに知れ渡ると思うけど。
「あ、私そろそろデートだったんだわ」
「「え!?」」
あたしたちは同時に驚く。
デート? 桂子ちゃんが? もしかして、彼氏できたの?
「あー2人は結婚式があるから早めに帰っちゃったもんね。実は卒業式のあの後、天文部の今の部長に告白されたのよ」
大学の出口に向けて、同じ方向に向かう。
桂子ちゃんに告白したのは天文部の部長さんだった。
「私も彼氏がずっと欲しかったし、天文部の他のメンバー以上に熱心だったからOKしたわ」
「そ、そうなのね」
「ま、おめでとうよ木ノ本」
「うん、私も彼氏のためにデートしなきゃね」
あたしたちは駅に向かって歩き出す。
駅の近くに行くと、小谷学園の制服を着た男子がいて、天文部の部長さんだった。
「ごめん、待った?」
「ああいやその、大丈夫です桂子先輩」
「おう、元気にしてたか?」
「はい、篠原先輩と――」
「あたしも篠原よ」
あたしは、予め釘を指しておく。
「おっと、そうでした。じゃあ、これで失礼します」
「ばいばーい」
そう言うと、2人は手をつなぎながら、駅の向こう側へと消えていった。
「あたしたちも行きましょう」
「うん」
あたしたちも、電車で家に帰宅した。
帰宅途中は、桂子ちゃんの彼氏のことで、話題は持ちきりだった。
そうよね、桂子ちゃんくらいの美人だもの。むしろ今まで彼氏が居なかったことのほうが、驚愕の事実と言っても過言ではないわよね。
「「ただいまー」」
「2人ともお帰りなさい」
帰宅するあたしたちに対して、お義母さんが出迎えてくれる。
あたしにとっては、実家に居た時に母さんが出迎えてくれているのと殆ど変わらない。
変わっているのは浩介くんと2人で所くらいかな?
「じゃあ俺たち休むんで」
「ええ、ごはんになったら呼ぶわね」
あたしたちは、蓬莱教授の記者会見を見るために、あたしの部屋に入る。
この日は、今後の生活の上でも大事な日になる。
「テレビつけるわね」
あたしがリモコンを取って、身体を前かがみにしてテレビに向け赤い「電源」ボタンを押す。
ぺろりっ
「きゃあ!」
浩介くんに、ナチュラルにスカートをめくられる。
最近は頭を撫でられたり、胸やお尻を触られたりすることが多くて、あまりスカートめくりをされてなくて、無警戒だった。
「優子ちゃん水玉かわいいね」
「もうっ! スケベ!」
そんなやり取りをしつつテレビをつける、蓬莱教授から聞いた記者会見の予定時刻は18時からで、目的の時間まで後数時間ある。
「まだやってないわね」
「だな、記者会見の準備に時間でもかかっているのかな?」
「どうかな? とにかく、またつけ直しましょう」
あたしは、リモコンを操作して、テレビを消す。
ぴらりっ
「いやーん! えっち!」
浩介くんに、今度は前からスカートをめくられる。
「はあ……はあ……」
浩介くんがあたしのパンツを見て興奮している。
「もうっ! あなた、もしかして我慢できない?」
「うん、できない」
浩介くんが「苦しみから解放してくれ」と訴えている。
多分、この苦しみから開放してあげられるのは、世界中でもあたしだけだと思う。
「しょうがないわね」
あたしはドアの前に掲げられている札を裏返す。
そこには「プライベート中、入らないで」と書かれている。ちなみに普段は「優子の部屋」と書いてある。こちらは、石山家にはなかったもので、「鉢合わせ」を避けるためにも、結構お世話になっている。
今はそう、辛そうにしている浩介くんを、妻として楽にしてあげるために、リフレッシュのためにも、義両親が入って来ないようにしないといけない。もちろん、鍵も閉めるけど。
「はあ……はあ……はあ……」
激しい運動をして、あたしも浩介くんも、ひどく疲れきってしまった。
浩介くんは、ようやく苦しみから解放されたみたいだった。
あたしもあたしで、何度か気絶させられてしまうくらい、凄まじい快感で覆い尽くされた。
あたしは、パジャマを持って、布団で隠しながら着替えた。
この分だと、義両親にもリフレッシュしたことはバレてると思うし。
浩介くんは、元の服に戻る。
「テレビ、つけようか」
「ああ」
時計を見ると、時間は既に5時50分になっていた。
あたしたちは、蓬莱教授が開く記者会見について、期待と不安が入り交じった感情でみることになった。