永遠の美少女になって永遠の闘病生活に入った件   作:名無し野ハゲ豚

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200歳の記者会見

「えー、まもなく、佐和山大学の蓬莱伸吾教授による緊急記者会見が始まります。今度はどのような発表がなされるのか、注目です!」

 

 時間になったのでテレビを付けてみると、やはりアナウンサーが大騒ぎしていた。

 

「蓬莱教授は一昨年12月、『我々は人間の平均寿命を120歳にする方法を開発した』と発表し、大きな話題となっていました」

 

 テレビには、一昨年の記者会見の様子が映し出されていた。

 

「蓬莱教授は、これまでノーベル生理学・医学賞を始め、再生医療の現場で数多くの業績を残してきた一方で、その研究には生命倫理や宗教的敬意をないがしろにしているとして、宗教介を中心に反発の声があがっています」

 

 ニュースキャスターが蓬莱教授の簡単な来歴を紹介している。

 

「今回の記者会見はどのような発表が行われるのでしょうかこの後生中継です」

 

 あたしは試しにチャンネルを回してみると、地上波では1つのテレビ局が夕方アニメを放送していたのを除き、全て蓬莱教授の記者会見を中継している。

 

「えー、それではですね、蓬莱教授の記者会見を始めます」

 

 生中継の記者会見が始まった。

 

「えー皆さん、佐和山大学の、蓬莱伸吾です。本日はお忙しい中、記者会見に出席してもらいましてありがとうございます」

 

 いつもの蓬莱教授に似合わない堅苦しい挨拶から入る。

 

「今回の記者会見はですね、前回同様我々人類に取って最大の不治の病とも言えます『老化』、これを防がずとも遅らせる薬を開発したことについてです」

 

 蓬莱教授は、まず概要から入る。

 

「従来の薬では、我々は平均寿命120歳でしたが、こちらの薬……研究室では俺の名前を取って『蓬莱の薬』と呼ばれていますが、これを飲めば人間の寿命は200歳となるでしょう」

 

 記者たちが騒然としている。内容自体は前回の延長みたいなのだけど、前回の平均寿命120歳ならば、非TS病患者で最も長命だった122歳という記録があったので「誰しもがこれまでの最長寿になれる」程度の受け止め方だった。

 でも、200歳ならば話は変わってくる。

 永原先生という存在が世間に知られるまで、120歳以上の寿命は、世界の大半の人にとっていわばファンタジーの世界だった。

 もちろん、今はそんなことはない。

 不老人種たるTS病の存在が広く知られ、永原先生が501歳の他、余呉さんの186歳や比良さんの179歳という年齢もよく知られている。

 

 永原先生はともかく、平均寿命200歳ということは、今の比良さんや余呉さんより長生きができるということになる。

 そう、浩介くんも、後3日、あの記者会見の机にある薬を飲めばそうなるのだ。

 とはいえ、それは極めて珍しいTS病という病気にかかりなおかつ性差という壁を乗り越えられて初めて得られるもので全世界でも300人といない狭き門になっている。

 

「更に、我々は平均寿命を更に100年……つまり人間の平均寿命を300歳にする薬が完成間近となっていて、治験も終了し、現在最終段階に入っています」

 

 記者たちがあわただしく動き始めた。

 

「えーお聞きになったでしょうか? 近い将来、私たちは300生きられると、そう言うことになります。社会は大きな変革を、余儀なくされるでしょう」

 

 テレビのアナウンサーも大慌てになった。200歳のみならず300歳、以前までは、大多数の人にとって非現実なファンタジーの世界だったのが、現実のものになりつつある。

 300歳、今から300年前と言えば江戸時代の真っ只中に当たり、ちょうど永原先生が江戸城にいた頃に当たる。

 

「えー、続いては質問に移りたいと思いますが、ことの重大性もかねまして慎重に考慮していただきますと幸いです」

 

 するとほぼ全員の記者が手をあげ、そのうちの一人が当てられる。

 

「えっと、この薬、老化を遅らせる以外に何か副作用のようなものはありますか?」

 

 確かに、聞きたい所よね。あたしとしても。

 

「結論から言うと、広い意味での副作用はある。だが、健康を害する危険性は一切確認されていないし、悪くないと思える副作用も、あるが……いずれにしても些末なことだ」

 

 蓬莱教授は、水を一杯飲む。どうも、あまり重要じゃないという顔をしている。

 

「それでも教えてもらえないでしょうか?」

 

「分かった。教えてやってはない理由はないしな……この薬はTS病の人の遺伝子を参考にしているから、免疫力やその他の生命力という意味では、彼女たちに準じる形にはなるな。不慮の事故に巻き込まれない限り半永久的に生き続けると言われる彼女たちだ。当然強靭な肉体になる」

 

「具体的にはどういった副作用なんですか?」

 

「例えば、ガンにならない、脳梗塞にならない、心筋梗塞にならない、結核にならない、アナフィラキシーショックやアレルギーが全て無くなる、インフルエンザや流行り病にかからない、あるいはこれらにかかってもごく短期間で治る……といった所かな、この薬を飲めば、不慮の事故、自殺、被殺害、そして老衰以外の死因はほぼ全て駆逐され得る。いずれにしても、大したことない話だ」

 

「ええっ!? そ、そうなんですか!?」

 

 記者たちは、さっき以上に動揺している。

 かなりざわついていて、露骨に取り乱す人まででてきている。

 

「やっぱり動揺大きいな」

 

 浩介くんは、どこか上の空でそんなことを言う。

 

「確かに、不老からすれば小さいことよね」

 

 理屈の上では、蓬莱の薬を飲めば、免疫力が強く、老化が遅くなったとしても、遅くても老化する以上はいずれ老衰で必ず死ぬ。

 あたしたちTS病とは、そこに大きな断絶があることは言うまでもない。

 

 確かに、老化を完全に抑制できていないという不完全さに比べれば、ガンや脳梗塞にならないというのが「些末なこと」というのは、理屈においては全くその通りだ。

 でもそうは言っても、あたしたち見たいに日常的に不老人種と接していない人からすれば、ガンにも脳梗塞にも心筋梗塞にもならなくなるというのは極めて衝撃的な話だと思う。

 不老足り得ぬ人にとって、これらの病気は死因の上位に位置する病気で、仮に不老効果がなかったとしても、平均寿命は急上昇するはずだ。

 

「あー、だがもちろん、この薬が完全不老を実現できていないから、ガンや脳梗塞にならないと言っても、完全に克服できるとは考えていないよ」

 

 蓬莱教授が冷静に補足する。だけど、不老の実現と相対化すれば小さな出来事でも、絶対評価で考えれば、この副作用だって大きな発見であることは間違いなかった。

 

「他に質問はございますか?」

 

「「「はい」」」

 

 また新聞記者さんの一斉挙手が始まる。

 

「蓬莱さんの研究には根強い抵抗がございますが、今後ですね、宗教介などの抵抗運動も活発化すると思うんですね。蓬莱さんの方では対策とかするんでしょうか?」

 

 また、かなり鋭い質問が来たわね。

 

「こちらも結論から言うと対策はする。ということになるな。ですが、俺はあくまでも再生医療と遺伝学の専門家であって、情報学や心理学が専門ではありませんので、できることはごく限られてくると思います」

 

 蓬莱教授の返答は、嘘はついてないが極めて誤解を与えやすい内容で、実際の蓬莱教授は情報操作や工作の専門部隊を既に作っていて、浩介くんも仲間に引き入れられている。

 この答弁は、いわゆる「マスゴミ」が行う印象操作そのものね。

 

「ありがとうございます。他に質問はございますか?」

 

 記者の何人かが手をあげる。

 

「あの先程の質問とも重なるかもしれないんですけれども、蓬莱教授はそうした反対派との公開討論について参加の予定はございますか?」

 

「はっきり言えば無い。俺の研究に対して宗教などという反証可能性の無いもので殴って来る連中は洗脳を上書きでもしねえといくら論破しても説得は不可能だし、何より限られた寿命でそんな無為なことをするくらいなら、研究室で完全な不老に向けて研究をした方がマシってものだ」

 

 蓬莱教授が、討論の拒否を宣言する。

 

「他にはありますか?」

 

「先程の質問の続きになってしまうんですけど、反対派の方が今の発言を持って『逃げた』と言ったらどうするんですか?」

 

「知らん、捨て置け。どうせその手の連中は『討論します』と言えば『蓬莱は大学教授とノーベル賞の権威に訴えようとしている』とでも言うんだろうさ」

 

 蓬莱教授は嫌そうな顔で投げ槍気味に言う。

 何を言っても無駄という感じではあるわね。

 しばしの沈黙の野地、続いての質問に入る。

 

「不老が実現した後、社会は大変革を余儀なくされると思うんですね。それについてはどう思っているんですか?」

 

 うーん、そう来たのね。

 

「俺としては、医療の専門家として、ただ全ての人間が生まれながらに持っている不治の病を克服したいだけなんだがね。確かに社会は大きく変わるだろうが、昨今言われている人口知能もだが、俺の研究が無くても社会は変革を余儀なくされているだろうさ。人間はな、適応力の高い生命だ。だからこそ、地球で最も繁栄したのだ。俺は、悲観視はしていないさ」

 

 蓬莱教授は自信たっぷりの口調で言う。

 

「ありがとうございます」

 

 次の質問に入る。

 

「蓬莱教授は、既に薬は飲まれているんですか?」

 

「ああ、寿命は長い方がいいからな」

 

 蓬莱教授が簡潔に答える。

 

「えっと、ありがとうございます」

 

「えー会見の途中ですがここでスタジオに継ぎます」

 

 記者会見の中継が切れ、テレビのスタジオに戻る。

 おそらく、他のテレビ局も同じだろう。

 

 スタジオでは、またTS病に関する解説をしている。

 

「でですね先程の記者会見でもありましたTS病何ですけれどもこれは正式名称を『完全性転換症候群』と言うわけです。その名前の通り性別が変わってしまう病気何ですけれども」

 

「はい」

 

「蓬莱教授は、この病気のもうひとつの特徴、すなわち『不老』に着目しているのです」

 

「でもその、この薬を飲むとガンや脳梗塞、心筋梗塞やアレルギーまで全部治ってしまう。それだけでも全世界に激震が走る研究ですよね」

 

 テレビのアナウンサーさんも驚きを隠せない。

 

「はい、まあそれを『些末』と言い切ってしまうとは恐ろしい話ですよね」

 

 確かに、理屈では間違いではないが、「蓬莱の薬」は例え老化を送らせる効果がなかったとしても、それだけでノーベル賞がいくつも取れてしまうレベルの代物よね。

 というよりも、あたしたちにそんな免疫力があったなんて知らなかったわ、強いことは知ってたけど。

 

「あの、これは又聞き何ですけど、蓬莱教授は、以前取ったノーベル賞の研究、あの万能細胞の発見も、『寄り道の研究』と言っているらしいんです」

 

「へえ、数多くの難病治療に役立つあれがですか!?」

 

 アナウンサーさんが驚きを見せている。

 蓬莱教授がノーベル賞を受賞した研究だって、「最近のノーベル賞で最も偉大」と言われているくらいの大発見だけど、確かに不老の一般化に比べれば小さいことだ。

 

「確かにこの薬の改良型が、もし本当に人類が老化を完全克服できるようになるとすれば、確かに『些末なこと』という彼の言い分も分かります」

 

 このテレビの有識者は、あまり蓬莱教授に批判的ではない。

 もしかしたら、蓬莱教授の根回しがあったのかもしれない。

 

「優子ちゃん、見てよこれ。すごいことになってる」

 

 浩介くんが、あたしにスマホの画面を見せてくる。

 そこは呟きサイトで、「蓬莱教授」のハッシュタグのもと、反応が次々書き込まれている。

 

 そこには、「ガンが完全に克服可能に! しかし些末なことらしい」「人間、間もなく平均寿命300歳の時代へ」「蓬莱教授の不老研究、とてつもない業績だった」「不老不死、ついに現実へ」何て言う文字が並んでいた。

 

「悪い、俺は蓬莱教授から頼まれた仕事をしないといけない。『不死』という書き込みがあったら捨てアカウントで訂正のリプライを送るように言われているんだ」

 

 浩介くんが宣伝部の仕事について話す。

 不老と不死の違いは、よく強調しておき、誤解を解く必要がある。

 本当の意味での不死ともなると、それこそ宇宙空間やブラックホールや太陽の表面でも生きていけなきゃいけない。

 もちろん、ただの不老ではそうはいかない。

 交通事故に巻き込まれること、治安の悪い場所で殺されることなどを警戒しないといけないし、何よりTS病患者の半数以上が性別が変わるという精神的負担に耐えきれずに短期間で自殺に追い込まれている。

 死のうとしても死にきれないのが不死だから、あたしたちは不死とは程遠いのよね。あたしたちは、多くの患者が早期に自殺で死んでいることを考えれば、平均寿命にしたらむしろ一般人より寿命が短いかもしれない。

 

「えー、速報です。蓬莱教授の記者会見に際して、キリスト教、イスラム教団体を中心に世界各国の多くの宗教団体が次々と抗議声明を発表しています。中には反対デモを開くという予告もあります。またイスラエル政府は――」

 

 テレビのアナウンサーさんが以前の120歳会見の時以上に多くの抗議が入っていることを示す。

 

「また、蓬莱教授と協力姿勢を続ける一方で、マスコミの取材を事実上1社に独占させている日本性転換症候群協会に対しても、日本の記者クラブが正式に抗議声明を発表いたしました」

 

 予想外の展開になる。

 あたしは携帯電話を取りだし、永原先生を呼び出す。

 

「あ、もしもし篠原さん?」

 

「うん、篠原ですけど、永原会長、さっき記者クラブが抗議声明を出したって」

 

「ええ、こっちにも届いているけど、黙殺するわ。もしまた何か偏向報道があれば、直ちに抗議するわ」

 

「分かりました。会長、高島さんの記事ですが」

 

「ええ、予定通りに出すわ。今、蓬莱教授の宣伝部も準備しているわ。もし宣伝部から何か連絡があったら対応をお願いするわね」

 

 永原先生は、そこまで深刻そうに思っていない口調で言う。

 もしかしたら、予想していたことなのかもしれない。

 

「――現在、TS病患者の治療に関しまして、日本性転換症候群協会がほぼ独占しておりますが、この団体はその過程で多くの自殺者を出しています。我々は新しくNPO法人を作りまして患者のケアをしていきたいと思っています」

 

 テレビの向こうで、例の牧師がとんでもないことを言う。

 永原先生と電話中でよかったわ。

 

「永原会長」

 

「ええ、同じ番組を見ているわ。まさか、こんなことを計画するとは思っていなかったわ」

 

 永原先生は、さっきとは打って変わって焦りの口調で言う。電話越しでも分かるその動揺は大きかった。

 

「何のノウハウもない宗教団体が患者の治療何てできるわけないわ。ましてや、私たちを敵視してる連中よ」

 

「ええ、これは、緊急会合を開いた方がいいと思うわ」

 

「ええ、賛成。土曜日、緊急会合を開くことにするわ。篠原さん、その番組終わったら拡散お願い」

 

「はい、分かりました」

 

 あたしは力強く返事をする。

 そしてもう1つ分かったのが、蓬莱教授が動けば必然的にあたしたちにも飛び火することだった。

 それはもちろん、蓬莱教授の研究があたしたちTS病をベースにしているからだ。

 

「浩介くん、土曜日、緊急会合になったわ」

 

「ああ、分かった、うー数が多い」

 

 浩介くんは忙しそうにスマホを動かしている。

 

「数多い?」

 

 あたしも気になって聞いてみる。

 

「ああ、不老不死で一色単にされてる呟きにコピペしているが追い付かん」

 

 やはり、呟きの拡散力は侮れない。

 テレビでは、蓬莱教授の記者会見が間もなく終了することを告げている。

 

「最後に、俺の方からどうしても言わせてもらいたいことがある。俺の研究はあくまでも『不老』の研究であって決して『不死』ではない。もし、身の周りの人に俺の研究にあたかも不死が含まれているような言動があったら止めてくれ。インターネットでも、そういう書き込みを見かけたら、必ず訂正させてくれ。それから、もしテレビや新聞でこのことを報じない所があったら、それは偏向報道だ。誰がなんと言おうと、それこそ総理大臣だろうが国連事務総長だろうが天皇陛下だろうが、だ。それを見つけたらマスコミとスポンサーに抗議してくれ」

 

「分かりました。それでは、記者会見を終了したいと思います。お疲れ様でした」

 

 蓬莱教授が、そのように訴えて、記者会見が終了した。

 

「浩介くん、いよいよよね」

 

「ああ、この薬、どう出るかな?」

 

 浩介くんが、今飲用中の蓬莱の薬を見ながら言う。

 

「優子ちゃーん! ご飯手伝ってー!」

 

「はーい! じゃあ、あたしお義母さん手伝ってくるわね」

 

「おう」

 

 あたしは立ち上がり、家事手伝いの日常に戻った。

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