永遠の美少女になって永遠の闘病生活に入った件   作:名無し野ハゲ豚

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夫婦水入らずの2日間 篠原夫妻危機一髪!?

「うーん」

 

 お昼ごはんを何にしようかしら?

 あたしはそのことに悩み続ける。今までもメニューで悩むことはよくあったけど、今日は主に調理に関することが悩みになっている。

 

 冷たいものは、あたしの体を冷やしちゃうし、温かいものは、調理中の事故が心配だわ。

 ……でも、かといって朝食と同じようなメニューもよくないのよね。

 

「どうしようかしら……」

 

 比較的、危険性の少ない食べ物にする手もある。

 例えば、ソースの元があるスパゲッティとか。

 あーでも茹でるからなあ……

 

 うーん、そうだわ!

 

「ピザにしよう」

 

 ピザなら、確か冷凍のがあったはず。そう思ってあたしは冷凍庫を開ける。

 ……うん、これでいいわね。

 

 まあ、冷凍ものでも、今のあたしはこんな格好だし、多目に見てくれるよね?

 

 あたしは、カチンコチンに固まった冷凍ピザをお皿に1:2の割合で載せる。

 そして、解凍とあたためをボタン1つで行ってくれる電子レンジでちんをするだけ。

 簡単お料理ね。

 

「でも、夜はどうしようかしら?」

 

 せめて浩介くんが裸エプロンを解禁してくれれば、レパートリーも増えるんだけど。

 あたしは、電子レンジでできるまで、リビングのソファーに座る。

 

「本当にどうしようかしら?」

 

 浩介くんに懇願して、料理の時だけ裸エプロンになろうかしら?

 でも、多分浩介くんは許してくれないわよね。

 

「寒い……」

 

 うー、やっぱりこの格好だと冷えるわね。

 とりあえず、ベッドから布団を持ち込んでっと。

 

「ふう」

 

 これで少しは温かくなったわね。

 

「この布団じゃ料理できないわよね」

 

 その前に、また浩介くんに剥ぎ取られちゃいそうだわ。

 

「うーん」

 

 やっぱり、浩介くんにお願いして、裸エプロンにしてもらおう。それしか方法はないわね。

 

「うー、こんなに長く裸になったことなかったわ」

 

 お風呂だってここまで長風呂したことないし。

 あたしは、電子レンジが完成を知らせると、手袋をはめて慎重に取り出す。

 

「あなたーごはんよー!」

 

 あたしは大きな声で浩介くんを呼ぶと、大事な所は隠しながらお皿を並べた。

 

「お、ピザか」

 

「うん、冷凍だけどね」

 

 仕方なかったとはいえ、ちょっとばつが悪い。

 

「え!? 優子ちゃん珍しいね」

 

 もちろん、冷凍食品はよく使うけど、浩介くんと2人でいちゃつく時には、大抵はエネルギー供給もあって簡単な料理にはしない。

 

「うん、何も着てないと、やっぱり熱いのは危ないし、冷たいのもあたし冷えちゃうし」

 

「あー、なるほどなあ……女の子は冷え性ってのがあるわけだ」

 

 浩介くんが「盲点だったなー」という表情で頭をポリポリとかいている。

 

「朝ごはんは味噌汁なかったくらいで済んだし、昼もなんとかごまかせたけど、夜はそうもいかないわ」

 

「あーうん」

 

 浩介くんも、想定外を突かれると弱いみたいね。

 

「夜ごはん作る時だけは、エプロンだけでもつけさせてくれる?」

 

「あーうん、分かった」

 

 浩介くんがあっさりと了承してくれた。

 

「その代わり、料理する時だけだぞ」

 

 浩介くんが釘をさす。

 

「うん、分かったわ」

 

 ともあれ、これで夕食の問題は解決したわね。

 

 

「冷凍でも結構うまいんだな」

 

 食事中、浩介くんが感心した風に言う。

 

「うん、びっくりしちゃったわ。最近の冷凍食品の進歩すごいもの。あたしもうかうかしてられないわ」

 

「へー、優子ちゃんくらい美味しいもの作るのにか」

 

「うん、そりゃあもうね。まあ、冷凍保存ということもあるから、どこかで限界はあるとは思うけどね」

 

「なるほど」

 

 話している会話は、何てことない世間話。

 多分、そうしないと、お互い平常心を保てない気がしていたから。

 あたしも、浩介くんのたくましい体について話したいけど、そんな話をしたら、多分また、この部屋を汚しちゃいそうだから、自重することにした。

 

「「ごちそうさま」」

 

 あたしたちは同時に食べ終わる。

 

「お皿、片付けておくよ」

 

「ありがとう……」

 

 浩介くんは、あたしのお皿ごと、流しに入れておく。

 

「さ、家事手伝いの報酬を貰おうか」

 

「は、はい……」

 

 あたしは隠しながら浩介くんの前に立つ。

 

「ダメだよ、ちゃんと見せなきゃ」

 

「だ、だって……」

 

 そう言う浩介くんも、大きいのを隠そうとしてるし。

 

「ほら、家事を手伝ったんだぞ」

 

「はい……」

 

 結局、あたしはメスの本能に負け、恥ずかしさに必死で耐えながら両手を解放する。

 

「うひひ、優子ちゃん、とってもエロいよ」

 

「あーん」

 

  さわさわ……

 

 浩介くんに、今度はゆっくりとお尻を撫でられる。

 お尻触られるのは、胸を触られるのとはまた別の刺激をあたしに与えてくる。

 やがて浩介くんの手がお尻から別の場所に移動しはじめた。

 

「ちょっ、ちょっと浩介くん! あっ、どこ触って……んああっ!」

 

「ごめん、俺……我慢できねえ……」

 

「ここはダメよ、ほら」

 

 あたしが浩介の腕をつかみ、浩介くんの部屋まで誘導した。

 

 

 

「んっ……」

 

「ちゅ……愛してるよ、優子ちゃん」

 

 一通りの後の気持ちいいディープキスは安らぎの時間でもある。

 

「あたしも、あなたが好きでたまらないわ」

 

 浩介くんは、まだ肉体が回復してないので、あたしだけが暖かくなった。

 

「やっぱり優子ちゃんとキスするのはいいな」

 

「うん」

 

「舌を入れてよし、手で触ってよし、口で舐めてよしの、理想の女の子だよな」

 

 浩介くんが下心丸出しであたしを誉めてくれる。

 

「もー、浩介くんのえっち」

 

「でも重要なことだろ? 特に優子ちゃんはいつまでも若いんだからさ」

 

「う、うん……」

 

 確かに、夫婦円満のためにも、重要なことだとは思うけど。

 

「さてと……」

 

 浩介くんが立ち上がろうとしたその次だった。

 

  ジリリリリ……ジリリリリ……

 

「わっ!」

 

 突然、あたしの部屋にある、協会のテレビ電話が鳴った。

 

「ど、どうしよう浩介くん」

 

  ジリリリリ……ジリリリリ……

 

「え、えっと……」

 

 あたしたちが1日中家にいることは向こうも知っている。だから、向こうは普通に問題ないと思ってかけているわけで……出ないわけにもいかない。

 

「そうだわ!」

 

 あたしは咄嗟に浩介くんに布団を渡してそれぞれで巻いて、急いでボタンを押す。

 

「こんにちは……」

 

 布団を巻いているあたしたちを見て、永原先生が固まっている。

 

「こ、こんにちは永原会長!」

 

「今日はどういったご用件で?」

 

「あー、うん……そうよね。夫婦だものね」

 

 重苦しくて、気まずい雰囲気が流れる。

 もちろん、今日は朝から真っ裸になってお互い興奮してたということまではバレてないとは思うけど。

 

「あの……うん。実はさっき『明日の会』が記者会見を開いたのよ」

 

「はい」

 

 記者会見? またどうしてこのゴールデンウィークのタイミングで?

 

「どうやら、私たち日本性転換症候群協会に対して、患者の治療法を我々に委託することを条件に提携を呼び掛けたのよ」

 

「……何て厚かましいのよ」

 

 あたしは、開いた口が塞がらない。辛うじて出た言葉を吐き捨てるように噛み砕く。

 散々的外れな言葉であたしたち協会に難癖をつけておきながら、今更提携を求めるのはあまりにも筋違いな上に、患者の治療というけど、TS病は不治の病で男に戻ることは不可能なので、治療は絶対に出来ない。

 ケアの意味で使うにしても、あたしたちの知識と経験の積み重ねを「前例踏襲主義」の一言で切り捨てて、その上で「自殺に導かれるやり方」をごり押しておいて、委託なんて出来ないわよ。それを受け入れたら、あたしたちは本物の「大量殺人鬼」よ。

 

「篠原さん、気持ちは分かるわ。あたしたちも、みんな怒りを通り越して呆れているわ」

 

「お言葉ですが永原会長、こんな火を見るより明らかな用件で、わざわざテレビ電話であたしを呼び出す必要はあったんですか?」

 

 あたしは、ついいつもよりもかしこまった敬語になってしまう。

 

「もちろんよ」

 

 永原先生には、何か考えがあったらしい。

 

「受け入れるか断るかは決まりきっているわ。問題は『断った後』よ」

 

「断った後?」

 

「こんな要求をする連中ですもの。断った暁には『我々の善意を無下にし、新しい時代に目を背けている』とでも言うつもりよ」

 

「「うわー」」

 

 あたしたちは、思わず引いてしまう。

 永原先生のしている謀略のように、えげつなさの中にも、長年の知恵を駆使する人間臭さがあるような感じではない。

 ここの連中はただひたすらに、「俺たちの要求と主張を受け入れろ」と、やかましく叫んでいるだけよね。

 

「それでね、私たちも高島さんを使って、『明日の会』に対するネガティブキャンペーンを本格的に取り入れようと思うの」

 

「ええ、そうするしかないわね」

 

 結局、世の中声の大きい方が勝つのよね。言ったもの勝ちやったもの勝ちっていうの?

 ……選挙は例外だけど。

 

「それで、篠原さんにはそこのネガティブキャンペーンで、『明日の会』をこきおろして欲しいのよ」

 

「ええ」

 

 もちろん、引き受ける。

 

「あの患者は自殺することも、話して欲しいわ」

 

「分かっています」

 

 「明日の会」のやり方では、患者は100%自殺の結末を迎えるということは、あたしたちには分かりきっていても、世間一般には知られていない。

 その事を、世間に発することで、より対決姿勢を強めることになるわね。

 

「よかったわ。それで、取材の日なんですけれども」

 

「大学の空きコマに、蓬莱の研究棟でいいかしら?」

 

 あたしが、とっさに提案する。

 

「ええ、それで、ネガティブキャンペーンの内容だけど、私たち協会の主張とも織り混ぜて欲しいわ」

 

「はい」

 

 とにかく、最初の患者さんには、自殺をしてもらわないと始まらないわね。

 

「それから、インターネットの世論操作も、以前より強力に行うわよ。蓬莱教授が更なる増強に向けて動き出しているからね」

 

 どうやら、蓬莱教授が宣伝部への予算を増額したらしい。

 

「それから、これを機に必要に応じて、『明日の会』のSNSアカウントに複数アカウントも駆使しながら、批判リプライを送りつけ続けるわ」

 

 なるほど、アドレスを偽装すれば、ブロックされても、痛くも痒くもないわけね。

 

「ふふ、私からは以上よ。篠原君と篠原さんの方からは何かない?」

 

「いえ。特には」

 

「俺も」

 

 どうやら、裸のことは触れられずに済みそうだわ。

 

「分かったわ。あっ、そうそう。お盛んなのはいいけど、きちんと整えてから出てね。それじゃあ、お幸せにね」

 

「「うっ!」」

 

 最後の最後に指摘され、テレビが切れる。

 やっぱり、色々と大変なことをしちゃった後なのは明白だったよね。

 

「あ、あはは……」

 

「ね、ねえ優子ちゃん」

 

 浩介くんが気まずそうにあたしに目を向ける。

 

「ん?」

 

「服……着ようか」

 

「そ、そうだよね……」

 

 浩介くんが部屋を出ていく。

 あたしも、箪笥から服を選ぶ。

 

「ふう……暖かいわ」

 

 あたしが着ているのは緑色のワンピースで、おしゃれな服。

 今は5月初旬なので、冬の服という訳ではない。

 それでも、長時間何も着ていない後だと、とても暖かかった。

 衣食住とは、よく言ったものよね。

 ともあれ、あたしたちの異常な1日は、永原先生の手によって「打ち切り」となった。

 

「お待たせー浩介くん」

 

「お、やっぱり優子ちゃんはかわいいなー」

 

「もう、どうしたの急に?」

 

 まあ、あたしが「かわいい」って言われるのはいつものことだけどね。

 

「いやさほら、優子ちゃんはそのままな裸とか露出度高い服もエロいしかわいいなって思うけど、そうじゃない服を着ておしゃれなのもいいなって」

 

「ふふ、ありがとう」

 

 浩介くんがあたしの魅力を発見してくれるのは、とても嬉しいわね。

 

「優子ちゃん、洗濯物、外で干そうか」

 

「うん、そうね」

 

 外は雨というわけではないので、部屋干しを続ける理由はない。

 

「俺、干してくるよ」

 

「あっ!」

 

 あたしが行動を起こす前に、浩介くんが洗濯物をベランダに干しはじめてしまった。

 ということは……

 

「ふひひ、優子ちゃーん」

 

「は、はい……」

 

  ぺろーり

 

 浩介くんに「ご褒美」として、スカートをめくられないといけない。

 

「おー、ピンクの縞パンかわいー」

 

「うわーん、恥ずかしいよー」

 

「ゆ、優子ちゃん」

 

 浩介くんが頭をあたしのパンツから顔に上げる。

 

「うん? 早くスカート戻してえ……」

 

「優子ちゃんさっきは散々見られたのに、それでも恥ずかしいんだな」

 

「こ、浩介くんこそ!」

 

「いやーだってさっき見た光景を思い浮かべながら優子ちゃんのパンツ見るとすげー興奮するぜ」

 

 浩介くんがやっと手を離してくれた。

 

「こ、浩介くん」

 

「うん?」

 

「手伝って欲しい時はそう言うから、あんまり無理に手伝おうとしなくていいわよ」

 

「えー」

 

 浩介くんが少し不満そうに言う。

 

「第一、浩介くん家事とか関係なしにあたしのパンツ見てるじゃないの!」

 

 あたしが反論する。

 実際に、浩介くんは以前からスカートめくりが大好きで、小谷学園の頃からよくパンツを見られていた。まあ、最初のきっかけは、浩介くんの嫉妬を治すために、あたしからだったんだけどね。

 

「いやほら、それはさ……同じスカートめくりで恥ずかしがるのでもシチュエーションってもんがあるだろ?」

 

「う、うん……」

 

 また浩介くんが、熱弁しそうな勢いで話す。

 

「『家事を手伝ってあげたご褒美』っていう名目で恥ずかしそうにパンツ見られてる優子ちゃんと、『ふいにスカートをめくられて』、その後に恥ずかしそうにパンツ見られてる優子ちゃんは魅力が違うのよ」

 

「うっ」

 

 悔しいけど説得力ありすぎて反論出来ないわ。

 

「家事を手伝ってもらったけど、その報酬としてスカートをめくられて恥ずかしい思いをしなきゃいけない。約束事だから拒絶するにできない。そう言う状況がまた、萌えるんだよ俺は」

 

「うー、浩介くんずるいわよ」

 

 やっていることは性欲の塊なのに、無駄に理論武装がなされていて、反論ができない。

 確かに、「優一の知識」でも、「女の子に対するエロは、同じものでも背景やシチュエーションで大きく異なる」というものだった。

 でも、まだ完全には納得がいかない。

 

「でも浩介くん」

 

「ん?」

 

「それが成立するためには、やっぱりあたしからお手伝い頼まないといけないんじゃないかな?」

 

「え!?」

 

 浩介くんが不意を突かれた表情をする。

 

「だって、あたしが浩介くんに家事を頼む時は『スカートめくっていいわよ』って言ってるわけだけど、浩介くんが自分から手伝っても、『スカートめくりたいからめくる』ってだけじゃない」

 

「うーん、言われてみれば確かに」

 

 浩介くんも腕を組みながら熟考している。

 本当にもう、変な所まで真面目なのよね。

 

「確かに、『スカートめくられちゃう、愛しの旦那にパンツ見られて恥ずかしい。でも家事を手伝って欲しい』かあ、最高だな!」

 

 浩介くんが興奮しながら言う。

 

「まあ、普段はお義母さんと2人体制だから、浩介くんが出る幕無いけどね」

 

「うー、そこなんだよなー」

 

 浩介くんが苦々しい表情で言う。

 

「でも……」

 

「うん?」

 

 あたしは、浩介くんの耳元に近付く。

 

「今夜、期待しているわよ」

 

「うっ」

 

 浩介くんの身体がブルンと震えたわね。

 ふふ、浩介くんも、やっぱり興奮しているわね。

 

「ゆ、優子ちゃん」

 

「晩ごはんになったら呼ぶわね」

 

「お、おう……」

 

 あたしは、自室に向けて踵を返す。

 ちなみに浩介くんは立ち尽くしていて、すれ違い様にあたしはさらりと胸を撫でられた。

 本当にもう、スケベなんだから!


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