永遠の美少女になって永遠の闘病生活に入った件   作:名無し野ハゲ豚

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美少女の休日 後編

 今日は日曜日、しかも昼下がりで人が多いから、レディースデーのような都合の良い物があるわけもなく、どこもごく普通の定価販売だ。

 いつぞやの中古店も入っているデパートの最上階にあるレストラン街に入った。

 

「ねえ、優子さん、桂子さん、これが良くない?」

 

 龍香ちゃんが指したのはラーメン屋だ。

 

「うん、美味しそうなラーメンだけど、私達で食べきれるかなあ……」

 

「あたしはこっちがいいと思うな」

 

 私が指したのはイタリア料理の店だ。

 

「うーん、私はこれがいいな~」

 

 桂子ちゃんが指したのはスイーツのお店。お昼ご飯にはちょっと違う気もする。

 

「見事にバラバラね……」

 

「地図と格闘してないで、現地に行ってみようよ!」

 

 というわけで百聞は一見に如かずと言うように、私たちは3店をそれぞれ見て回った。

 まずスイーツ店、ここはやばい、1時間以上待っている。桂子ちゃんが調べた所、商店街時代から名店として有名だったらしい。

 

 次にラーメン店、ここはそこそこだ。4分の3サイズの女性向けラーメンが安いのも魅力。

 そして、最後に私が推薦したイタリア店。ここは逆に客足が少なくてすぐに入れそうだ。

 

「でも、値段高いね……」

 

 軒並み数千円という形で料理長の写真もあって実績こそあるが、高級店という感じで、女子高生3人が昼食にこれを食べるのは贅沢にすぎる。

 

「……ラーメン店にしようか」

 

「うん」

 

「異議なしです」

 

 私の提案に桂子ちゃんと龍香ちゃんが同意する。

 

 ラーメン店に行くと、券売機前に先客が1組居た。

 よし、その後ろだ。

 

「あいたっ!」ドン

 

 誰かにぶつかった。

 

「おい」

 

 げ、いかにも目つき悪い男三人組……あれ? 何処かで見たような?

 

「っと、すみません」

 

 不良三人が目を丸くしている。

 

「い、いやこっちこそすまん。先にどうぞ」

 

 不良たちは見かけによらずとても親切な態度をする。

 

「え? いいの?」

 

「いいってことよ。ささっ、どうぞどうぞ」

 

「……あ、ありがとう」

 

「みんなレディースラーメンでいい?」

 

「大丈夫よ」

 

 最初に私が一旦3枚まとめて買う。後ろでは桂子ちゃんと龍香ちゃんが話している。

 

「いいですねえ、見かけによらず、女の子にちゃんと気配りできる紳士的な人」

 

「そうねえ、見た目だけのイケメンよりもああいう感じのほうが絶対いいわよ」

 

「うんうん、末永く続くタイプですよね桂子さん」

 

 私たちは、3人共4分の3の「レディースラーメン」の食券を購入し、カウンターに並ぼうとする。

 

 

「いやー、お前本当に女の子には優しいな」

 

「だってよ、あの子、この前台車引っ張ってった子だよ」

 

「え、なんで分かんだよ!?」

 

「そりゃあよ、あんだけ可愛くて胸大きければ覚えるっての。それに残りの二人も彼女ほどじゃないけど可愛いじゃん。粒ぞろいよ」

 

 後ろでは不良風の男性3人組が話していた。

 

 

「ふふっ、やっぱ女は男にモテてこそよねー」

 

 カウンターに並ぶと桂子ちゃんが開口一番にそう言う。

 

「うんうん、同性受けなんか狙うよりもずっといいじゃん。さっきみたいに、男の人も親切にしてくれるし」

 

「そうねえ……実はこのデパート、私が受けたカリキュラムの舞台だったんだけど、その時も見た目は柄悪いけど、とっても紳士的で素敵な三人組の男の人に助けてもらったんだよー」

 

「へー優子さん、そんなことがあったんだ!」

 

「ほんと、人は見かけによらないよねー。でも、男はまだいいよ、女の子は本当に見た目が大事だから」

 

「うんうん、きれい・美しさ、女の武器ですよね!」

 

 

「うひょー俺たち紳士的だってよー」

 

「あんな可愛い子にあんなこと言われたらもう辛抱たまらんなあー」

 

「でも3人共彼氏とか居るんだろーなー」

 

「だろうなあ……俺たちも、高望みばっかしてねえでそろそろ固めねえとなあ……」

 

「やっぱ、見た目変えねえと駄目か」

 

「だよなあ……俺たちもこんなのから足洗うっかなあ……」

 

 後ろのテーブルに座っていた三人組の会話が丸聞こえだ。

 どうもあの時の人と同一人物らしい。

 

「お待たせしましたー、レディースラーメン3点になります」

 

 店員さんが順番にカウンターに上げてくれるので、机に持ってくる。

 さすがにラーメンを持てないほどの貧弱な腕力にはなっていない。

 

「「「いただきまーす」」」

 

 3人で頂きますをし、ラーメンをそれぞれ食べ始める。

 皆比較的黙々と食べている。もちろん食べ物を含みながら喋るということはしない。

 

 なんとなく、後に出てきた男3人組の視線も気になるからだ。

 

 ウェイトレスの言葉を聞く限り、男3人組の方はラーメン大盛り味濃いめや、チャーシューメン大盛りといったいかにも男らしいメニューを頼んでいた。

 

 私達はゆっくりとラーメンを口に運ぶ。不良風の紳士たちは、私達の後から来て量も多いのに、食べるのは早かった。

 私も少し違えば、あそこの輪に入っていたのかもしれないかな、と思いつつ、値段も手頃なレディースラーメンでお腹が膨れる身体に感謝しながら、三人の中で一番最後に食べ終わった。

 二人とも話をしないで、待ってくれたから親切だ。無言の圧力も感じない。

 

「あ、優子ちゃんが食べ終わった。じゃあ行こうか」

 

「う、うん」

 

 少し休みたかったが、外が行列だ。幸い、レストラン街の真ん中で休むことも出来るから、そこで休めばいいだろう。

 

「ふう、休もう休もう!」

 

「そうですね、私も疲れましたー」

 

 疲れたので、つい楽な格好をしたくなる。

 

「あ、優子ちゃん、足広げないようにね」

 

「あ、はいはい」

 

 おっと危ない危ない、休憩所は多くの人がいる場所だ。しかもここでパンツ見せてしまったから、後で母さんにこってりと絞られて恥ずかしいおしおきをさせられたことを思い出す。そんなところでパンツは見せたくない。

 ……いや、一人きりの密室以外嫌だけど。

 

「そそ、この間買ったこのリボン、これを指に巻くのがオシャレなんですよ」

 

「ほうほう、へー可愛いねー」

 

「ちょっとしたオシャレかなあ……私まだよく分からないや……それよりも頭につけたほうが似合いそう……」

 

「優子さん、オシャレはそう単純じゃないんですよ!」

 

 休みながら私たちはガールズトークをしているが、私もついてこれるように、簡単な話しかしてこない。

 

 金曜日、私が救われた日も言ってたっけ?

 「女子」としては何も差別しないけど、「元男」としても扱う。そこは矛盾しない。本当にいい人に恵まれているよ。私は。

 

 

「そうそう、実は映画の割引券あるんだけど? みんなで見ない?」

 

 桂子ちゃんが割引券を提示する。

 

「へーどんな映画?」

 

「これこれ、アニメ映画!」

 

「お、メジャーじゃん」

 

「いいねえ。評判いいんでしょ!」

 

 桂子ちゃんが見せてくれたのは、アニメ映画だ。

 いわゆる「国民的人気アニメ」というやつで、大人から子供まで楽しめると評判だ。

 ネット上では、前作の映画は評判が悪かったが、今作は感動性が高く、見事に汚名返上したとの評判になっている。

 

 

 果たしてその評判やいかに?

 ということで、デパートの隣のビルの、映画塔にやってきた。

 最も、一階下にエスカレーターで降りてそこからスカイブリッジを渡ればいいだけだ。

 

 ポップコーンなどは昼食を食った後なのでなしにしてすぐに行列に並ぶ。

 割引券を使って当日券を買って列に並ぶ。日曜日なので家族連れが多く、女の子三人組は結構目立つ。

 しかも客観的に見ても美人の三人組だし、特に私は胸も大きいから、お父さんが目を奪われるとお母さんに怒られてそうだ。

 

 ……そんな他人のことなど想像はできるが、実際のことは知る由もなく、私たちは指定された席に3人並んだ。

 

 この映画は、どのシリーズにも共通しているが、主人公の子どもたちがちょっとしたきっかけで、プチ冒険のような旅をする中で、大きな事件に巻き込まれる。

 そしてゲストキャラと共に事件を解決し、感動のフィナーレ。というのがだいたいの流れだ。

 

 

 さてさてどうかな……

 

 

 

 うううっ、すごい心に来る。うわー、これ言われた方はたまらないよなあ……

 桂子ちゃんと龍香ちゃんがどういう表情で見ているかはわからない。だけど2時間程度の映画は長いようであっという間だ。

 

 最後の別れのシーン。これが感動的だという噂。

 ううっ……あれ? 目から涙が……

 おかしいな、感動することはあっても、泣くことはなかったのに……

 

 ポケットからハンカチを取り出して涙を拭う。

 でも私が泣いているなんてことはお構いなしに、映画はクライマックスが続く。

 

 そして、いつもの日常になって終わり。だ。

 エンディングテーマが流れる。これも評判がいい。

 スタッフロールが流れる。一部の観客は既に映画館を出ているが、私達はもう少し余韻に浸りたいので、ラストのラストまで見ることにした。

 

 

「いやーよかったねー」

 

「う、うん……」

 

「あれ? 優子さん泣いてます? 私もちょっと涙目になっちゃいましたよ!」

 

「な、泣いてなんか……ううん、泣いちゃったわね」

 

「うん、感動的だったもんねー」

 

「でも桂子さん、冷静沈着ですねー」

 

「心には来るんだけど、体には来ないタイプかな? 私」

 

「あはははは」

 

 

 そうだった、泣いてもいいんだ。私はもう女の子だったんだ。泣いても怒られることはない。今みたいな感動系の映画なら、尚更だった。

 

 その後、映画のパンフレットを3人で見回したりして、今日はお開きになった。

 

 

「今日は楽しかったですね、優子さん、桂子さん、また明日、学校で」

 

「うん、龍香ちゃん、気をつけてねー」

 

 まずこの駅が最寄駅だという龍香ちゃんが別れる。

 桂子ちゃんと私は電車で同じ駅。2人でICカードをタッチする。

 

「桂子ちゃん、今日はありがとうね」

 

「うん、優子ちゃん辛そうだったから私が企画したのよ」

 

「私のために……ありがとう!」

 

 今度は泣かないで、嬉しい顔になった。

 

「でも、私も楽しかったよ、そういえば、優子がまだ優一だった頃でも、こんなに遊んだことっていつ以来だったかな……」

 

「中学入ってから、無かったな」

 

「そういえば、荒れ始めたのも中学の頃からだったよね。授業中喋り続ける生徒に怒鳴り散らして、殴り合いになったんだっけ?」

 

「あったわね、そういうこと」

 

「実は私、内心ありがたいと思ってたのよ。実際あのとき、当時の優一が煩い男子に怒鳴ってたおかげで、授業も静かだったからねえ……」

 

「でも、私、もうそう言うことしたくない」

 

「……ええ、ごめん。優子には辛い思い出だっけ?」

 

「……うん、男だった頃にやってた乱暴なことは、全部消したい、とても辛い思い出だよ」

 

「そっか。そうよね……ねえ優子、あなたならきっと『優しい子』になれるわよ」

 

「ありがとう……私ね、今はもう、女の子になれてよかったって思ってる」

 

「どうして? あ! 電車来るみたい!」

 

 駅の案内放送が流れたため、一旦電車に視線を集中させ、ドアが開き降りる人を先に通してから車内へと入る。席はまばらだが近い為2人とも立ちっぱなしだ。

 

「……で、さっきの話の続きなんだけど、どうして、女の子になれてよかったと思ってるの?」

 

「うん、なったばかりの時はなんて不便なんだろうって思った。今日のゲーセンでもそうだったけど、私は何もかも弱い存在になったわ」

 

「そうね、優子ちゃん、体育もちょっとびっくりしちゃったよ。男だった頃はむしろいい方だったんじゃない?」

 

「うん、女の子の日も来るようになったし、腕力も落ちて重い荷物も持てなくなって、長い距離を走れなくなって、速く走れなくなって、視野も狭くなった。食べる量も減ったし、反射神経も悪くなった。背も縮んだから届いたものが届かなくなったわ。痴漢されたときも手を掴んで叫ぶくらいしかできなかった。もし優一の時にホモに狙われてたりしてたら間違いなく殴り合いだったよ」

 

「……そう思うと、女の子って弱いよね」

 

「だけど……私は弱くならないと、『優しい子』にはなれなかったと思うの」

 

「理由……聞いてもいい?」

 

「……私が倒れた日の昼休みのこと、覚えてる?」

 

「うん、あの日の昼休みは忘れそうにもないよ。お腹痛いって言ってたじゃん」

 

「そうじゃないよ、その少し前。私、名前を裏切ることに負い目を感じていても、中毒者が麻薬をやめられないように、乱暴狼藉をやめられないって言ったのよ」

 

「あー、あれね……」

 

「多分力を持ったままだったら、私の性格は治らなかったと思うの。『弱い子をどうしていじめちゃいけないの?』という問いだってきっと、考えることさえ無かったよ」

 

「優子ちゃん」

 

「私、弱くなった。でも、これでいいと思う。女の子は、弱くてもいいから。私ね、男と女両方を経験してわかった。女の子にもし、強さが必要なら、男の子に頼ってもいいと思うの」

 

「そうね。私もそう思うかな……田村は、同意しないだろうけど」

 

「ははっ、恵美ちゃん、強いから」

 

「そうね、田村は強いよね。今になって、田村が何故私と女子勢力を二分できたか、分かるような気がするな……」

 

 私が女の子になるまで、桂子ちゃんは学園一の美少女と言われていた。

 桂子ちゃんは性格も良くて、結果的にその肩書きを奪うことになった私に嫉妬することも決して無かった。

 一方で、恵美ちゃんは女の子らしいというわけでもなく、どちらかと言えば気が強いタイプだ。

 ズバズバとものを言うし言葉遣いも荒い上に気も強い。

 こういうのが好きな男性も居るだろうが少数派だ。むしろ、本能的にも男性にとって特に苦手なタイプと言ってもいいだろう。

 

「自分たちが持ってないものに憧れるってことかな」

 

「そうよね。私も田村も、そんなところがあったのかもしれないわね」

 

 すると、列車の自動放送が聞こえる、間もなく降りる駅だと言っている。

 

「あ、優子ちゃん、降りるよ」

 

「うん、分かってる」

 

 扉が開き、前の人に続いて降りる。

 人混みの中、階段を上がる。この時は私も桂子ちゃんも階段を登ることに集中して言葉を発さない。

 

 そういえば、「ガールズトーク」するとか、「女子たちで遊びに行く」という課題はカリキュラムにはなかった。

 まあ、それを用意できないのは当たり前だし、私が行ったカリキュラムはそれよりも前段階の内容だ。

 

 

「それで、さっきの話の続きなんだけど」

 

「うん」

 

 改札を出ると桂子ちゃんがまた話しかけてきた。

 

「そう言う意味では、優子ちゃんも、私達に持ってないものがあるわ」

 

「もしかして、経験?」

 

「うん、優子ちゃんにとっては嫌な思い出だと思うけど、それでも生粋の女の子には分からない感性を知ってると思うの」

 

「それが役に立つ、と?」

 

「うん、多分優子ちゃんが女の子になりきったら、すごく男子にモテると思う。優子ちゃん、ただでさえ可愛いのに、男心まで知り尽くしてるんだから」

 

「そ、そうかなあ……あたし、正体知られたら逃げられると思うよ」

 

「だから、女の子になるんでしょ?」

 

「ううん、そっちじゃないよ。私の人生の長さだよ」

 

「あ、ああ。そっちね……でも、どうなんだろう?」

 

「私もね、まだ男の子を好きになるって気持ちはわからないのよ。でもこれを理解しないと、まだ女の子になれないと思うの。だから、機会があったら、そのことについて永原先生に相談してみようと思って」

 

「そう、頑張ってね」

 

「あ、ここでお別れだね」

 

 桂子ちゃんの家との分かれ道だ。

 

「じゃ、また明日学校でね」

 

「うん、それじゃ」

 

 桂子ちゃんと別れ、家路につく。

 家では母さんが「今日はどうだったの?」と聞いてきた。

 

 私が、「とっても楽しかった」と言うと、「それは良かった」ということだった。

 

 先週は憂鬱だった月曜日も、今日はまた大丈夫。

 そんな風に感じる、楽しい日曜日だった。

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