永遠の美少女になって永遠の闘病生活に入った件   作:名無し野ハゲ豚

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世界に広がる作戦

「蓬莱さん!」

 

「おや、2人とも、試験はどうだった?」

 

 あたしたちが声をかけたのを見て、蓬莱教授が振り返る。

 

「ええ、何とかなりました」

 

「それはよかった」

 

 蓬莱教授は、銅像から完全に目を離して視線をあたしたちに向ける。

 

「蓬莱教授、どうしてここに?」

 

「ああ、ちょっと研究に行き詰まったんだ。明日にでもまた水族館にでも行こうかと思ったが、やめておいたよ」

 

 水族館、それはあたしと浩介くんが、「お友達」になったばかりの時にデートした場所でもある。

 あの時はまだ、手をつなぐのだって億劫だった。それでも、あたしたちにとっては思い入れのある場所でもある。

 あたしたちは、そこで蓬莱教授と出会った。

 会うのはあの時が、2回目だった。確か、クラゲを見ていたんだっけ?

 

「そうですか……」

 

「ふー、しかし、あまり気分のいいものではないな、こう……自分自身の銅像を眺めているというのは」

 

 蓬莱教授は、ややうんざりしたような口調でそう述べる。

 確かに、気分が良くないというのは、あり得るかもしれないわね。

 

「それにしても、この銅像……」

 

「ああ、以前にも言ったように、アメリカ人の彫刻家が俺に作ってくれたものだ。向こうではどうもこちら以上に著名な人物らしくてな。彼の作品を見るついでに、今もこうして時折外国人観光客が来るんだ」

 

 蓬莱教授は1階の奥を指差す。

 確かに、そこからは英語のような言葉が聞こえてきた。

 

「研究棟が、観光地化って……」

 

 確かに、歴史があるならまだしも、こんな所が観光地になるっていうのもおかしい話だと思う。

 

「ああ、それだけ、俺の研究と名声が全世界に轟いているということだ。何せ、俺はただのノーベル賞学者ではないからな」

 

 蓬莱教授が胸を張って言う。

 それにしても、「ただのノーベル賞学者」って、とんでもないパワーワードよね。

 

「それにともなって、TS病だっておそらく全世界で有名にはなっているはずだ。特にフェミニズムとジェンダーフリーへの反旗を翻してからは特に、な」

 

「そうですか……」

 

 確かに、以前もジェンダー論の講師に、いきなり喧嘩をふっかけられたものね。

 大学中の噂になっていて、ネットで外部流出も時間の問題だわ。

 

「あの話は、俺も聞いているよ。いやはや、相手がメチャクチャな論理とは言え、大学1年の19歳の身で先生を論破するというのは、並大抵の才能では出来ないことではないだろう。大抵は、権威の前に怖気づいてしまうものだ。ましてやヒステリーを起こした女相手だ。そしてとりあえず謝ってしまうものだ」

 

「あたしにとっては、確信でしたから」

 

 大学教授の権威よりも、あたしたちTS病患者がみんな感じてきた経験のほうが、増した。

 

「そうか、誠に、優子さんは俺が見込んだ通りの女性だよ」

 

「ありがとうございます」

 

 蓬莱教授が、あたしを褒めてくれる。

 これほどの偉大な教授に褒められるのは、とても大きなことだとあたしは思う。

 

「ただ、俺が理解できないのは、『男に子供は作れない』、そのただ一点で、ジェンダーフリーやフェミニズム、男女平等主義などというものが達成不可能であるという、小学生でも分かる理屈を、なぜ大の大人が理解できないか、だ」

 

 蓬莱教授は、不思議そうな顔で言う。

 確かにそれは、あたしにとってもとても重要な事だと思う。

 

「ともあれ、今後に注意してくれ。特にフェミニズム団体は……あー、いや、今はやめておこう」

 

 蓬莱教授は何かを言いたそうにしたが、直前で口をつぐんだ。

 

「蓬莱さん?」

 

 浩介くんがふとつぶやくように言う。

 

「あーいや、今は試験のことに集中してくれたまえ。その後は夏休みもあるからその時にも話そうか」

 

 それはそうよね。

 試験とともに、あたしたちは協会の活動や家事などは減らしてもらっている。

 確かにこのことは気になるところではあるけど、今は大学のテストできちんと単位を取って、今後行われる蓬莱教授の研究に備えないといけないわね。今は試験に専念するのが将来のためだわ。

 

 とはいえ、蓬莱教授の口ぶりからも、何か大きなことが起きている可能性はある。

 試験の後は特に気をつけておいた方がいいわね。

 

「ええ」

 

「分かった」

 

 あたしたちは蓬莱教授と応対する。

 

「引き止めて悪かったな」

 

「いえ、俺の方から声をかけましたから」

 

「そう言ってもらえると助かる」

 

 あたしたちは蓬莱教授と分かれると、そのままゆっくりと家路についた。

 今は協会で広報部長を務めているあたしだけど、今は多忙を理由にお休みを貰っていて、その間は幸子さんと歩美さんに任せっきりということになっているけど、歩美さんも高校3年生で受験を控えているし、幸子さんも2つ上だから今年後半から来年は卒業に向けていよいよ忙しくなってくる。

 そうなってくると、人を増やしてもらうか、あるいは蓬莱教授の宣伝部に委託してもらうことも考えたほうがいいかもしれないわね。

 いや、まだ学生3人だからうまく行っているのかもしれないけど。

 

 ともあれ、蓬莱教授と違って、あたしたちは資金力がない。というよりも、今の協会だって蓬莱教授の援助で成り立っているようなもので、それでも対等な関係を維持しようとしているのも、それだけあたしたちが研究にとって重要な存在だからということだと思う。

 色々と気をつけたほうがいいわね。

 

 

「「ただいまー」」

 

「おかえりなさい!」

 

 あたしたちのただいまの挨拶にいつものようにお義母さんが出迎えてくれる。

 

「試験どうだった?」

 

「うん、思ったよりはうまく言ったわ」

 

「よかったわ」

 

 ともかく、この試験が終われば、夏休みに入る。

 夏休みはどこに行こうかといった未来のことは、とりあえず今は棚に上げておいて、あたしたちは試験に集中することにした。たまには目先のことにも目を向けたほうがいいものね。

 家に帰ってきたら、浩介くんと2人で勉強し、知識問題や試験範囲を見直しつつ、試験へと向かうことにした。

 

 一週間、試験の日々は続いた。大学のテストは、教授間の意思統一もないため、科目によって違いが明白で、色々と苦戦させられる所だった。

 これもまた、2年目3年目には慣れるのかもしれないわ。

 

 

「ふうー!」

 

 全ての試験が終わって、あたしは一息つく。

 周りはこれより夏休みだけど、あたしたちはまだするべきことが一つ残っている。

 

「2人とも、テストお疲れ様」

 

「桂子ちゃんもね」

 

 桂子ちゃんがあたしたちに話しかけてくれる。

 桂子ちゃんは、今日は彼氏とのデートがある。

 一方であたしたちは、蓬莱教授に「試験が終わったら『蓬莱の研究棟』まで来て欲しい」と言われていたので、この用事を済ませてから夏休みに入るので、夏休みは他の学生よりも少し後になる。

 

「優子ちゃん、行こうか」

 

「うん」

 

 あたしたちは荷物をまとめ、集合場所の蓬莱の研究棟に歩いて行く。

 いつものように1階には蓬莱教授のプロパガンダが掲げられていて、今日も数人の観光客がそれを凝視している。

 ちなみに、最近ここで展示されている蓬莱教授の業績の一覧の中に「人類の寿命を200歳とする薬の開発に成功」というのが加えられた。

 

  コンコン

 

「はい、どうぞ」

 

 あたしが扉をノックすると、蓬莱教授の声が聞こえてきた。

 

「蓬莱教授、篠原です」

 

「おお、君たちが来るのを待っていたよ。さ、遠慮なく入ってくれ」

 

「はい」

 

  ガチャッ……

 

「あ、篠原さん、篠原君、こんにちは。大学、うまく行ってるかしら?」

 

 蓬莱教授の「入ってくれ」という言葉を聞き、扉を開けると中には、永原先生と瀬田助教もいた。

 

「はい、永原会長」

 

「おう、心配しなくていいぜ」

 

 あたしたちはここぞとばかりに健在をアピールする。

 

「ふふ、それはよかったわ」

 

「それよりも、どうして会長もここに?」

 

 あたしが疑問を述べる。

 まあ、予想はついているけど。

 

「あーうん、今回の呼び出しはどちらかと言うと、私の方の話がメインだからね」

 

「うむ、とりあえずまず俺の用事から……2人とも、また遺伝子をくれないかね?」

 

 蓬莱教授が視線を少し別の方向に向けながら言う。

 

「ええ」

 

「分かったわ」

 

 あたしと永原先生は、備え付けの綿棒とケース、ガーゼなどを見てそれを取り、頬をこすって不老遺伝子を採取する。

 

「悪い、これ頼む」

 

「はい」

 

 蓬莱教授は瀬田助教にそれらを託すと、瀬田助教は部屋から出ていった。

 

「本当は瀬田君にも同席させてあげたいのだが……今は致し方あるまい。さて、ともあれ俺の用事は以上だ。続いては永原先生から君たちに用事があるそうだ」

 

 蓬莱教授が着席して永原先生にバトンを渡す。

 

「ええ、篠原さん、協会のこと、例の声明でまた進展があったわ」

 

「おそらくそうだとは思ったわ。私も少しチェックしていたけど、フェミ団体があちこちから声を上げているわね」

 

 とはいえ、僅かに得た情報では、あたしたちの権威は思った以上に高かったみたいだけどね。

 他の人ならば、肉体的に両方の性別を体験することは不可能で、それを成し遂げているというのはやはり大きなアドバンテージになっていた。

 

「だけれども、それはつまり相手を追い詰めすぎていたということなのよ」

 

「どういうことですか?」

 

 追い詰めすぎていた、永原先生は一見奇妙な話をする。

 

「何分、私達TS病は男女の違いに苦しむ病気と言ってもいいもの。私でさえまだまれに男が出ることがあるくらいだもの。だから、フェミニズムやジェンダーフリーなんて思想はどうしたって絵空事にしか見えなくなるわ」

 

「ええ、あたしも知っています」

 

 それこそあたしたちにとっては常識の常識の話よね。

 

「だから、どうしたってあたしたちに有効打を与えられないのよ。そうは言っても彼女たちはそれを主張し続けないと行き場を無くしちゃうのよ。窮地に追い込まれたいくつかの団体は、外圧に頼り始めたわ」

 

「外圧……ですか……」

 

 つまり、海外の団体に応援を要請したということ。

 協会の言動があまりにも説得力がありすぎるために、外圧を使わないと屈服できないと考えたらしい。

 最も、昔は効果が高かったかもしれないけど最近の日本人は外圧嫌いが多いから効果の程は微妙なのよね。

 

「うむ、しかし連中としては、諦められねえだろうなあ」

 

 蓬莱教授が、半ば呆れ気味に言う。

 

「どうしたら良いでしょうか?」

 

「俺としては、これ以上は無視するのが肝要だと思う。日本国内だけの問題ならともかく、騒ぎを海外まで大きくするのは果たしてどうかと思います。ましてや、この病気は限りなく日本人固有の病気に近いわけですから。無視をすれば、いつかは相手も飽きるでしょう」

 

 浩介くんは、慎重な意見を述べる。

 

「私は、打って出るべきだと思うわ。ここで引いてしまったらダメよ」

 

 対する永原先生は、積極攻勢に出るべきだという意見を述べる。

 

「俺としては……打って出る公算があるかどうか? それが問題だ。勝てる見込みがあるのかないのか? それが大きな問題となるだろう」

 

「勝算は9割あります」

 

 永原先生は自信を持って言う。

 あたしも、9割は大げさだが8割はあると見ている。最も、これからのことを考えると8割どころかその半分の4割でも打って出るべきだとは思うけどね。

 

「ともかく、連中は数の暴力を駆使してくる危険性がある。もちろん、勝算が高いならば、未来のTS病患者のためにも、突き進むべきだったとは思うがね」

 

 蓬莱教授は懸念を述べつつ消極的推進という感じで言う。

 これで意見を述べていないのはあたしだけ。

 

「あの、あたしはやはり積極的に主張していくべきだと思います。やっぱりその……このままの風潮はあたしたちにとってもまずいと思います。やはり将来的に、第二第三の『明日の会』が出てくることを阻止しないといけません。そのためにも、早めに芽は摘んでおくべきかと思います」

 

 そして、あたしはやはり積極攻勢に出るということを提言する。

 

「それからもう一つ、やはりあたしたちも、数少ない、肉体的両性の体験者として、間違った社会的主張に対しては、きちんと間違いだと指摘していくのも、この社会の一員の人間としての責務だとも、あたしは考えています」

 

 あたしは、更にもう一つ、強い確信を持って言う。

 そう、永原先生しかTS病患者がいない時代なら江戸城に篭もる事もできたと思う。でも今はもうそんな時代でもないから。

 

「……分かりました。他の正会員さんも似たような意見ですので、それで行こうと思います」

 

 どうやら、最終確認に近かったみたいね。

 

「俺としては、協会がその姿勢で行くならそれに従うまでだな」

 

「ああ、俺も同じだ」

 

 蓬莱教授と浩介くんはあたしたちの提案を受け入れてくれる。

 とにかく大事なのは、フェミ団体をどうするか? ということになってくる。

 

「それにしても、外圧と言われてもわからないわね」

 

「信教のような信念を持っている連中にどうやって理解を求めるかと言うのは非常に難しい問題だ。とにかく思い込みの激しい人間は多いからな。特に一神教なんてものを信じている連中は。俺が不老の薬を作るほうが、まだ簡単かもしれん」

 

 そもそも外圧に対してどのように対応するかなんて言うノウハウは、協会にはない。

 この病気の特性上、多様性の確保は不可能だからで、それを海外にどのようにして理解を求めるかというのは、極めて難しい問題だった。

 

 あたしたちが協議の末に決めたこと、それは日本と同じように、「容姿プロパガンダ」を行うということだった。

 それはあたしたちのような美人の集団には特に有用だった。

 やっぱり、人は見た目が大切なのよね、うん。

 

「それじゃあ、私からも以上よ。2人とも、夏休み満喫するのもいいけど、協会の仕事もあるわよ」

 

「うん、分かっている。じゃあ失礼しますわ」

 

「おう」

 

 永原先生と蓬莱教授に見送られ、あたしたちは「蓬莱の研究棟」を後にする。

 

 

「ねえ優子ちゃん、夏休みどうする?」

 

「うーん、どうしようかな?」

 

 浩介くんが、ここに来てようやく夏休みの話をする。

 まあ、あの研究棟を出た時点で、あたしたちも夏休みなんだけどね。

 

「家帰ってから考えるか」

 

「そうね」

 

 あたしたちは、とりあえずは家へと真っ直ぐ帰ることにした。

 佐和山大学は、試験の終了直後からか、ホッとしたようなムードが学校中に漂っていた。

 あたしたちも、肩の荷が下りた感じで、家路についた。

 

「なあ、優子ちゃん、俺さ」

 

「うん」

 

 電車の中で、浩介くんが小さな声であたしに囁いてくる。

 その口ぶりからも、何に誘っているかは明白だった。

 

「家に帰ってきたら、悪いんだけど俺の部屋に来てくれねえかな?」

 

「あはは、もしかして溜まっちゃった?」

 

「うん、中間の日には自分でなんとか処理できたけど、さっきの話が終わったら、急に我慢が出来なくなってきた」

 

 浩介くんが、苦しそうな顔をしている。

 

「ふふ、しょうがないわね」

 

 あたしは、ニッコリ笑う。

 うん、あたしも久しぶりに、ちょっと遠ざかっていたことをしたいからね。

 

 

「ただいまー」

 

「おかえりなさい2人とも」

 

 お義母さんの、いつものお出迎え。

 石山家にいたときもだけど、これがあるとやっぱり「帰ってきた」という自覚がある。

 そう、あたしに帰る場所はある。場所が変わっただけ、何も苦しいことはないわ。

 

「うん」

 

「母さん、悪いんだけど少し休ませてくれる? ご飯になっても呼ばなくていいから」

 

 浩介くんが緊張した面持ちで言う。

 

「はいはい、分かったわ。優子ちゃんも?」

 

「う、うん……試験に疲れちゃって……」

 

 お義母さんは、何かを察して気を配ってくれる顔をする。

 多分、これから浩介くんの部屋ですることは、家族にバレてしまうと思う。

 でも、仕方ないわよね。夫婦だもん。

 こういう生活が充実していることは、夫婦生活の上でとても大事だと思う。

 

「じゃあ、ゆっくり休みなさい。ご飯できたらリビングの机に置いておくからね」

 

「「はーい」」

 

「じゃああなた、行きましょう」

 

「ああ、俺がたっぷり幸せにしてやるからな」

 

「うん」

 

 あたしたちは、夫婦で幸福を分かち合うために、浩介くんの部屋へと一直線に入っていった。

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