永遠の美少女になって永遠の闘病生活に入った件   作:名無し野ハゲ豚

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審査員長になった優子

「こんにちはー」

 

「あ、審査員長。今日はよろしくお願いします。過去の優勝者として、お願いします」

 

「はい、よろしくお願いします」

 

 男子学生さんがあたしに挨拶してくれる。

 やはりあたしは例の「伝説のミスコン」の優勝者ということで、先輩後輩を越えた敬意を受けているみたいね。

 

 まだ集合時間までにはもう少し時間があって、見るともう一人だけ審査員の姿が見えていない。

 

  ガチャ……

 

「あ、私が最後でしたか! 遅れてすみません!」

 

「あー大丈夫よ。遅刻してるわけではないですから」

 

 駆け込む音とともに、龍香ちゃんが、やや息を切らせ気味に入ってきた。もちろん、遅刻ではないので何の問題もない。

 

「そう言ってもらえると助かります!」

 

 審査員やその他ミスコンの実行委員の選定はさわわ祭での実績の他にも、出身高校やその高校でのミスコンや学園祭での実績などが考慮される。

 そして、佐和山大学の学生の中で、最大派閥が小谷学園ということになり、実際に以前見たような顔の先輩も何人かいる。

 

「へー、君が噂の篠原優子さんかあ。3年の時に乱暴な1年がいるって話に聞いてたけど……生で見ると写真よりかわいいんだな」

 

 実行委員の1人があたしの顔を見て言う。あ、視線はやっぱりその後胸に生きました。

 

「えへへ、ありがとう。もしかしてあたしがここに入る前から?」

 

「ああ、小谷学園の後輩を通して、優子さんの話は噂になってたぜ」

 

 やっぱり、小谷学園と佐和山大学の繋がりは強いわね。

 この人、あたしが女の子になったときには卒業してたはずよね?

 

「あ、あはは……もしかして、永原先生の正体も?」

 

「ああ、2年前の時点で戦国生まれというのは一部で知られていたぜ。それにしても、TS病なんて珍しい病気が、同じ学校に2人いたんだよなあ……」

 

「うん」

 

 佐和山大学は小谷学園の派閥が最大勢力なので、伝統的に体育会系とは相性が悪く、あまり先輩後輩を意識する感じではない。

 

「おっと紹介が遅れたな。俺は和邇友蔵(わにともぞう)ってんだ」

 

「よろしくね。ちなみに、旦那さんいるから手を出したらボコボコにされるわよ」

 

「分かってるって」

 

 和邇先輩は少しだけ恐怖に染まった顔をする。

 

「あはは、大丈夫だよ。和邇の奴、蓬莱の研究棟に入るために勉強一筋なんだ」

 

 別の先輩があたしをフォローしてくれる。

 

「へー、そうなんですか?」

 

「ああ、そりゃあ蓬莱の研究棟は佐和山大学で一番倍率が高いからな。成績だけではなく、様々な能力を要求されるんだぜ。蓬莱の研究棟に入るために、わざわざ旧帝大を蹴る奴だっているんだ」

 

「そ、そうですか……」

 

 あたしは、AO入試の時とにたような罪悪感に教われる。

 何故なら、あたしたちは既に蓬莱の研究棟に内定しているからだ。

 それは、蓬莱教授の、文字通り崇高な研究目的のため。

 そうは言っても、やはりどこかで歪みは生まれる。あたしたちは成績が悪くても、蓬莱の研究棟に入れるし、大学院も修士までなら融通してくれると言う。

 

「どうしたんんだ優子さん」

 

 和邇先輩があたしを少しだけ不審そうに見て言う。

 

「あー、ごめんなさい、ちょっとだけ考え事をしてて」

 

「? まあいいや、さ、そろそろ始めようか」

 

 和邇先輩の掛け声と共に、会合が始まる。

 まず、各審査員が事前に提出した応援候補のすりあわせじゃらなんだけど――

 

「ものの見事に全員桂子さんですか……」

 

 龍香ちゃんは、「さすがに予想してなかったです」という表情で言う。

 

「まさか1人くらいは別の候補を支持してくれるとは思っていたんですが……」

 

 さすがに、審査員の全員が同じ候補を支持してしまえば、ミスコンがあまりにも盛り上がらない。

 とはいえ、客観的に見ても桂子ちゃん以外を支持するのは難しいし、必殺技の「中身」は荒れる元になるということでこのミスコンでは使わないお約束になっている。

 

「うーむ、やはり圧倒的な美人というのも困ったものですなあ……」

 

 和邇先輩がそうつぶやく。

 桂子ちゃんもかわいさが増していて、今のあたしはともかく女の子になったばかりのあたしには既に匹敵しているかもしれない。

 

「やはり、審査員長さんに今からでも出てもらうのはどうですか?」

 

「いやあそれは無理でしょう」

 

「ええ、やはりこの誓いを破る訳にはいきませんわ」

 

 確かに、あたしなら「ミセス」ということを差し引けば、2年前永原先生を入れて3人でほぼ互角に争った歴史を鑑みれば桂子ちゃんといい勝負が出来るかもしれないけど、やはり浩介くんの手前それは出来ないわ。

 

「となると、どうしたものかのお……」

 

 和邇先輩がかなり悩んでいる。

 つまり、バランスをとるために誰かに嘘をつかせなきゃいけないわけだけど、桂子ちゃんは小谷学園の出身なのでまず同じ学校のそれも同じクラス出身のあたしと龍香ちゃんは除外される。

 まず間違いなく大人の事情が露骨だし、圧力で無理やり言わされているという評判が立ってしまうだろう。

 幸い、小谷学園出身のミスコン参加者は他にも居るけど、でもあたしと龍香ちゃんが嘘を付くのは厳しい。

 

「……よし、俺がやろう」

 

 熟考した末に、言ってきたのは、和邇先輩だった。

 和邇先輩は副審査委員長ということになっているので、立場上桂子ちゃん以外の候補の支持が難しい審査員長のあたしに代わって別候補の支持を申し出てくれた。

 

「それでも、1人だけの支持ですからねえ、それも本音では俺も桂子ちゃんの支持だから……まあ、うまく演技してみるよ」

 

 和邇先輩がそのように言い、本番の流れを確認したらいよいよ控室に移動する。

 ミスコンの参加者さんたちと改めて挨拶する。

 桂子ちゃんも紹介されていて、明らかに他の参加者よりもかわいくて美人なのが分かる。ちなみに、和邇先輩は一番体格の小さい女の子を支持することにした。

 

 その候補は永原先生と同じくらいの背丈で服装も明らかに子供服を着ていた。

 それそのものは彼女の戦略だとは思うんだけど、要するに桂子ちゃん以外の候補を支持するとしたら、もう「重度のロリコン」ということにするしかない。

 和邇先輩は、あえて汚れ役を買って出てくれたのだ。

 時間が近くなり、あたしたちは審査員席に移動する。

 あたしの座る場所の前には「審査員長 篠原優子」と書かれている。

 

 

「それでは、2019年度小谷学園ミスコンテストを開始いたします」

 

 マイクの前に立った司会者さんの宣言とともに、ホールの幕が開けられる。

 

  ワー!!! パチパチパチ!!!

 

 ホールの観客席はかなり埋まっていて、小谷学園と同じく、ミスコンは注目イベントなのには変わりはないみたいね。

 

「まずは、審査員さんの紹介です。審査員長は篠原優子さんです」

 

「はい」

 

 あたしは席を立ち上がって頭を下げて挨拶をする。

 観客たちが一斉にあたしに注目する。

 

「篠原優子さんは、2年前の小谷学園ミスコンテスト優勝者で、現在はご結婚なされていますので、このミスコンには参加できません。よって今回は審査員長としての参加となります」

 

  パチパチパチパチ!!!

 

 あたしに関しては、やはり歓声は大きい。

 大学でも既に有名人で、いきなり審査員長に抜擢されても特に悪い噂はかけられなかった。

 

「続いて、副審査委員長の和邇友蔵さんです」

 

「よろしくお願いいたします」

 

 続いて和邇先輩の紹介が入る。

 こちらの方の反応はあまり良くない上に、あたしみたいに詳細な紹介をしない。

 まあ、あたしの後では仕方ないわね。

 

 

「さあ、それではお待ちかね、今回の候補者に入場してもらいましょう!」

 

 他の審査員たちの紹介も全員終わり、いよいよ今回のミスコンの参加者が入場してくる。

 ちなみに、やはり優勝候補と目されている桂子ちゃんがセンターに来るようになっている。

 

「それでは各候補者の紹介です。ではまずは皆様から見まして一番右から――」

 

 各候補の紹介が始まる。そして、1人1人がマイクを渡され、今回のミスコンの抱負を語る。

 一生懸命にアピールしながら「私に投票してください」と言っているけど、観客の関心は桂子ちゃんに集中しているのか、あまり反応が良くない。

 ちなみに、私服審査を兼ねていて、この後水着審査と最終発表に入ることになっている。

 観客の視線はここから見ても分かるくらいに桂子ちゃんに集中している。

 桂子ちゃんの私服は他の参加者と比べると一番露出度が低いのに、少女性の強調という意味では一番だった。

 

「次は木ノ本桂子さんです」

 

  ワーーー!!! ワーーー!!!

 

 桂子ちゃんの番になると観客のボルテージもMAXになる。

 佐和山大学の方が学生数が多いけど、あたしが結婚してミセスになり、永原先生も小谷学園の先生なので、事実上ライバルが消えてしまった。

 去年の小谷学園でのミスコンと同じよね。

 

「1年の木ノ本桂子です。昨年は小谷学園のミスコンに優勝しまして、ミス小谷2018となりました。ここ佐和山大学の方でもミス佐和山となって2連覇2冠を目指して頑張っていきたいと想いますので、応援よろしくお願いいたします」

 

  ワーーー!!! ワーーー!!! パチパチパチパチ!!!

 

 桂子ちゃんが一礼すると何とスタンディングオベーションまで起きている。

 ふと他の候補者を見る。既に戦意を喪失している人も多い。

 

 

「それでは、私服審査に参りますが、その前に審査員さんの第一印象をお聞かせ願えないでしょうか? まず河瀬龍香さんお願いします」

 

 司会者さんがそう言ってまずは龍香ちゃんにマイクを渡す。

 あたしは審査員長なので一番最後になる。

 

「私はですね、もちろん木ノ本桂子さんです。桂子さんは審査員長の優子さんと共に去年一昨年と高校でもクラスメイトだったんですが、クラスの女子でもリーダー格で、本当に美人で皆さんの憧れの的でした。美人ほど性格が悪いというのが、いかに間違っているか分かる。そんな女性です」

 

 龍香ちゃんも、それなりの美人なんだけど、あたしや桂子ちゃんを見て悪感情を抱かなかったのは、あたしや桂子ちゃんよりも先に彼氏を手に入れたという事実や、彼女自身の性格もあると思う。

 

「では次に――」

 

「俺も木ノ本桂子ちゃんが一番だと思いますね。まず服のセンスも素晴らしいです――」

 

 審査員たちも、次々桂子ちゃんを賞賛する。

 会場も、当然だなという雰囲気で盛り下がり始めている。

 

「えーでは、つぎは副審査委員長の和邇友蔵さんよろしくお願いいたします」

 

 そしてついに、和邇先輩の番が回ってくる。

 

「えっとですね、俺は空気が読めない人間なので……ここは能登川麻美(のとがわまみ)さんを選んでいきたいと思います!」

 

  ワハハハハ!!!

 

 和邇先輩が別の候補を推薦した途端、会場が一気に笑い声に包まれる。

 

「能登川さんは、自分の需要をよく分かっていらっしゃる。とにかくこの未成熟さがなんとも素晴らしいと言いますか。普通こういう人はこういうのをコンプレックスに思って無理矢理大人っぽくしたりして失敗するんですが、能登川さんは強みをうまく活かしているといいますか、特に俺はこういう人がとても好みなんですよ!」

 

 会場の男子は「よく言った!」と言う顔をしていて、逆に女子は全力で引いた目をしている。

 和邇先輩、無茶しちゃったわね……本当、いい人だったわ。

 ちなみに、当の能登川さんは「そうでしょそうでしょ!?」と言う感じで嬉しそうな表情をしている。

 

「えー、ありがとうございます。では最後に、審査員長の篠原優子さんお願いします」

 

「はい」

 

 そして最後に、あたしが司会者さんからマイクを受け取る。

 

「あたしは、やはり木ノ本桂子ちゃんを推したいです。2年前のミスコンでも、あたしとも互角に戦いましたし、去年のミスコンでは圧倒的な成績で優勝しました。桂子ちゃんは謙虚な所は謙虚に、自信のある所は素直に自信を持つ女の子です」

 

 みんな、あたしの話を真剣に聞いてくれている。

 

「あたしは2年前にTS病になって女の子になりましたが、真っ先にあたしを支えてくれて、女の子として生きていく上での大切なことを多く学びました。今桂子ちゃんが着ているのは、小谷学園でのミスコンの時の私服と同じ服ですが、私にはこのような優雅で少女らしい服の真似はできません……以上です」

 

 結果的にあたしのスピーチが一番長くなってしまった。

 

「ありがとうございます」

 

 佐和山大学には、一昨年のミスコンのことを知っている人も多い。小谷学園出身でなくても、「伝説」とまで言われているし、あたし自身の知名度もあるからと言っていい。

 あたしが桂子ちゃんを応援するのは、立場上当然だとは思う人も多いだろう。

 何故ならこのミスコンで桂子ちゃんが2連覇すれば殊更に桂子ちゃんを負かしたあたしの評価も上がるものね。

 

「それでは、これにて私服審査を終わりたいと思います。こちらのホールにて投票を受け付けておりますので、奮ってご参加ください」

 

 ともあれ、司会者さんの締めの言葉と共に、幕が降ろされて最初のミスコン審査は無事に終了した。

 ……和邇先輩を除いてだけど。

 

 

「ふー、終わった終わったー!」

 

 全てが終わり、あたしたちは控室で反省会をする。

 

「和邇先輩、お疲れ様でした!」

 

「お疲れ様でした!」

 

 審査員全員が同じ候補を推薦するのはさすがにまずいということで、犠牲となった和邇先輩を審査員のみんながねぎらっている。

 

「なに、いいってことよ。それにそう言う男だっていっぱいいるだろうし。むしろ男子からは『よくぞ言った』って感じだったぜ」

 

「あはは……」

 

 和邇先輩も、満更でもないのがちょっと気になるわね。

 もしかして、女性から蔑む目で見られるのに快感を感じる人種なのかもしれないわね。

 でも、確かにああいうのが好きな人はいつも虐げられてたものね。そう言う人達からは、英雄視されるからいいのかな?

 

 

「浩介くん、待った?」

 

 ホールの出口で立っていた浩介くんにあたしが声をかける。

 天文部で留守居役をしていた浩介くんだけど、今は多分達也さんが持ち場を守っているはず。

 高校生にそんなことをやらせていいのかと言うそう言う細かい所は気にしないことにする。

 一応桂子ちゃんの彼氏ってことになってるし。

 

「ああいや、待ったは待ったけど別に大した時間じゃないよ」

 

「そう? それは良かったわ」

 

 確かに、「待ってない」じゃ嘘になっちゃうものね。

 浩介くんは本当にこういうところがうまいわ。

 

「よし、じゃあさっきの続きに行こうか」

 

「うん」

 

 さっきはゲーム制作のサークルを見ていたけど、次はその隣から再開することになる。

 さて、何が出てくるかしら?

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