永遠の美少女になって永遠の闘病生活に入った件   作:名無し野ハゲ豚

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無縁の演劇

「桂子ちゃん、次にどこに行こうかしら?」

 

 蓬莱教授たちの演説が終わり、あたしは再び目標喪失になったので桂子ちゃんと次の目標を相談することにした。

 

「うーん、この棟の地下で演劇サークルの実演をやっているらしいわ」

 

 桂子ちゃんが指を差す先は講義棟の地下に大人数で出来るホールが有る所。

 ここの地下は、必修科目などいわば多くの学生が履修する講義が主に行われていて、元々人気の高い蓬莱教授の講義はほぼ全てここで行われていた。

 

「じゃあ、そこに行ってみる?」

 

「うん」

 

 あたしは桂子ちゃん情報で、演劇サークルが借りているホールに向かう。

 チラシと広告によれば、オリジナルの劇をやるらしい。

 

「どんなお芝居なのか楽しみだわ」

 

「噂によれば悪くはないみたいよ」

 

 桂子ちゃんがスマホを見ながらそんなことを言っていた。本当、今はこうやって文化祭の情報もリアルタイムで分かるのよね。

 大学のサークルは、高校までとは違い、それなりにクオリティの高い人が集まっているらしく、一方でサークルの多様化にもつながっているらしい。

 

 ともあれ、今回の演劇の内容は、「本当はもっと早く死ぬはずだったのに死神の手違いで生きていたために、一週間後に死ぬと言われる主人公をの最後の1週間を偉いた物語」らしい。

 

「ある日突然一週間後に死ぬと言われたらあなたはどうしますかっか、優子ちゃんはどうおもう?」

 

「あたしはそんな与太話信じないわよ。第一そんな話、TS病にふさわしくないもの」

 

 桂子ちゃんの話にあたしは軽口のように答える。

 

「あはは、私もそうかも。この薬じゃ、若い内に命にかかわる病気にはならないもの」

 

 蓬莱の薬は強力な遺伝子を身体に刻み込む薬だからね。そう、浩介くんだけでなく、桂子ちゃんも蓬莱教授の実験に協力する代わりにこの薬を飲んでいて、寿命300年となっている。もちろん、将来的にはもっと伸びるとは思うけどね。

 それにしても死神ねえ……演劇だからこそ出来る話よね。

 まあ、どっちにしても蓬莱教授は絶対に信じない類のものよね。

 

「皆さん、大変長らくお待たせいたしました。ただいまより、佐和山大学演劇サークルによる演劇、『1週間の死神』を上映いたします」

 

 アナウンスとともに、ざわつきがさっと収まる。

 パンフレットによれば、死神たちは死ぬ寸前の人間の処理を担当したりしているらしい。

よく分からないわね。

 

 ともあれ、実際に見てみれば分かることよね。

 

 

 幕が上がる。

 

  ピッ……ピッ……ピッ……ピーー!!!

 

 そして心電図らしき音が聞こえる。

 

「ご臨終です……」

 

 どうやら、病室の一場面みたいね。

 そして、おそらく人が死んでしまったんだろう。多分、手違いの主人公のことかな?

 

 するとライトスポットが変わり、女の子が立っている。

 

「よし、後はこの魂を死者ファイルに入れて……あれ!? しまったー! ファイルが違う!」

 

 かなり慌てふためいた演技が終わると、再び心電図の音が動き出し、白衣の役者たちが「奇跡だ、奇跡が起きたぞ!」と叫んでいる。

 つまり、魂をファイルに入れ忘れると手違いで死ぬ予定が死ななくなったというわけね。

 

 黒子たちがベッドや心電図を急いで片付けているのが見える。

 そして、死ぬはずだった人は大学生になったというわけね。

 

 平凡な大学生として佐和山大学に通っていた主人公だったが、ある日突然死神に会ってしまう。これが本編の始まりというわけね。

 

「10年前、あなたは小児がんになりましたね?」

 

「ええ、でも奇跡的に治ったって」

 

 なるほど、さっきのあれは小児がんだったのね。

 ますますあたしには縁のない話だわ。

 

「でもね、それは死神の私の手違いでそうなっちゃったのよ。だから本来あなたは10年前に死んでなきゃいけなかったのよ」

 

「そ、それで何だって言うんだ? まさかいきなり俺を殺すつもりか!?」

 

「うーんとね、死神界にも法律があって、こういうミスがあった時には猶予期間を設けるのよ。私もミスの責任を取って1週間居るわね」

 

「1週間?」

 

 なるほど、読めてきたわ。

 

「そういうこと、あなたはこれから、1週間後に死にまーす!」

 

 死神役の女の子がおちゃらけた感じの仕草混じりに言う。全くシリアスさがないわね。

 主人公の男の子もなんかポカーンとした表情で見つめている。

 

「あの、警察に連絡していいですか?」

 

「待ってくださいよ!」

 

 まあ、普通はいきなりこんなことをあんな態度で言われたら変なイタズラだと思うわよね。

 

「悪戯などではないぞ!」

 

 すると、突然メガネを掛けたスーツ姿の男性が現れた。

 

「あ、部長!」

 

 呼ばれ方からして、死神役の女の子のいわば上司ということね。

 

「これは運命だ。逆らうことは出来ない、これからの1週間、悔いなく過ごせよ」

 

「え、でも……」

 

「大丈夫です、私が付いてますから!」

 

 そうは言っても、やはりいきなりそんなことを言われても事態は飲み込めない。

 やがて主人公は、半信半疑になりつつも、死神の女の子に対して自分の過去のことや思い出を語っていくことになる。

 

 死神役の女の子は、いわばヒロインのポジションで、主人公に想いを寄せ始めてしまったわけね。

 だけど、1週間後には主人公を殺さないといけない。その狭間で揺れる。まあベタベタな話よね。

 ちなみに、思い出のアルバムを死神に見せた時、死神は「色が分からない」と言っていた。

 つまり、死神たちは見るものが全てモノクロに見えるらしい。

 理由は、特に語られていないわね。

 

 さて、そんなこんなで1週間の過ごし方は、どうも急なことで殆どいつもと同じ生活をしてしまったらしい。

 ただ、家の人に「独り言が多い」と怪しまれていたみたいだけど。結局家族や友人には言えずじまいだった。まあ、当然よね。

 さて、そんなこんなで最後の日になる。というか、途中の日は殆ど省略されている。

 死神役の女の子は、殺すことに躊躇するようになっていて、それに対して上司役の人は壊れたレコードみたいに「これは運命なんだ!」「仕事だ」「逆らえない」と連呼している。

 

 あたしは、この劇の中でふと永原先生のことを思い出す。

 1週間後に死ぬのが運命なら、500年以上生きるのも運命なのかしらね?

 あたしたちにとって、余命というのは受け入れ難い概念ではある。

 もちろん、TS病になったばかりの患者ならともかく、あたしのようにTS病がすっかり染み付いた患者にとって、1週間後はもちろん、1年後、10年後、いや100年後に死ぬという余命宣告だって受け入れられないものだと思う。

 

 最終的に「寝てる間に俺は死ぬんだな」と言うのが最後の言葉になり、上司の発破もあって死神の女の子が魂を奪ってファイルに入れておしまい。という流れになった。

 

 おそらく、「限られた命の中で何をするか?」というのがこの舞台のテーマになって入るんだろうけど、他の観客はともかくあたしにはどうも非現実感が強すぎていまいち感情移入できなかった。

 まあ、普通老いて死ぬ方が現実的なはずなんだけど……大分毒されているわねあたし。

 

 ともあれ、演劇は20分程度の短いもので、手軽に見られるのは良かった。

 

「桂子ちゃんどうだった?」

 

「うーん、『蓬莱の薬』を飲む前だったら、もう少し感情移入できたんだけどなあ……」

 

 桂子ちゃんも、「いまいちしっくり来ない」というのが正直なところみたいで、浮かない顔をしている。

 他の人には文化祭の演技としては好評みたいだけど、あたしと桂子ちゃんにはイマイチ感情移入出来なかったのは、あたしたちが特殊すぎるせいかもしれないわね。

 

「うん、あたしも。1週間どころか100年後に死ぬと言われても、質の悪い冗談たと思うわ」

 

「あはは、優子ちゃんらしいわね。でも、色がわからないという設定必要だったのかしら?」

 

 桂子ちゃんが話題を変えてくる。

 

「うーん、あたしはいらないと思う」

 

 まず間違いなく、なくても話は通じると思うし。

 多分製作途中に色々設定を盛っている間に削り忘れてああなったんだと思う。

 

「あたしも、まあとにかく、次に行きましょう」

 

「うん、どこを回ろうかしら?」

 

 桂子ちゃんといる場所は、学校の中でも比較的端っこの方なので、もう一度開けた広場の方に戻ってみる。

 そこでは、次の蓬莱教授による演説の時間が書かれていた。

 

 そして、桂子ちゃんと色々なスポットを見て回った後に最後にやってきたのは屋台と模擬店、こちらは文化祭実行委員の人が直々に行っているもので、あたしたちは軽食としてアイスクリームを頼むことにした。

 

「ふー、冷たいわね」

 

「うん、この季節に食べるアイスもまた美味しいわ」

 

 季節はもう秋になっていて、お世辞にもアイスクリームという季節ではなくなってしまっている。

 本来、冷たい季節に冷たいものは身体にも悪いし、あたしたちみたいな女の子には特に冷えは大敵だけど、そうした所に逆らう所に、背徳感的な美味しさがあるのかもしれないわね。

 実際、季節外れなのに結構売れているし。

 

「さ、ミスコンに行こうかしら」

 

「うん」

 

 桂子ちゃんの言葉と共に、あたしたちはミスコンの会場に移動する。

 

「じゃあ桂子ちゃん、水着審査頑張ってね」

 

「うん」

 

 佐和山大学のミスコンは、この後の水着審査と最終選考で終わりになる。

 投票状況は1時間毎に更新で、結果を見てみたらやはり桂子ちゃんが圧倒的な人気を誇っていた。

 ちなみに、「篠原優子」という無効票が大量にあって、桂子ちゃんに次ぐ2位につけているというのには思わず笑ってしまった。

 有効票の中では、和邇先輩が推薦した能登川さんが2位につけている。何だろう? もし永原先生が出てたら彼女は唯一の武器も奪われてた所よね。

 そうなったら、和邇先輩だけでなく何人かは永原先生を推薦してうまく接戦を演じられたと思う。

 

 

「お疲れ様ー」

 

「お、2位のお出ましだ!」

 

 部屋に入ってくるなり、和邇先輩が早速あたしをいじってくる。

 

「もう、あたしは審査員よ。100万票あっても無駄よ」

 

「あはは、違いない」

 

 なんとか交わし、あたしは所定の席に着く。

 

「それで、水着審査はどうするんですか!?」

 

「そんなの決まってるだろ? 俺だけがさっきと同じ理由をつけて能登川さんを推薦するから、みんなは正直に桂子さんを推薦してくれ」

 

 龍香ちゃんの疑問に、和邇先輩が大きな声で堂々と答える。

 

「「「はいっ!」」」

 

 みんなが心の中で、和邇先輩に敬礼していた。

 

 

「それじゃあ、そろそろ行きますよ皆さん」

 

「「「はいっ」」」

 

 和邇先輩の声と共に、あたしたちも立ち上がり準備に取り掛かる。

 本来なら司会の人か審査員長のあたしが仕切る必要があるのに、和邇先輩は本当に人望のある人よね。

 

 

「さて皆さんお待ちかね、ミス佐和山を決めるミスコンテストの水着審査がやってまいりました!」

 

  ワー!!! ワー!!!

 

 観客たちの盛り上がりも尋常じゃない。もちろん観客たちのお目当ては桂子ちゃんの水着姿ということになる。

 

「えーそれではですね、準備ができたようなので、参加者の皆さんにご入場していただきましょう!」

 

  うおおおおおおおお!!!

 

 男たちの大きな声が聞こえ、ミスコンの参加者たちが歓声を上げる。

 視線は、この中で一番胸が大きく、かわいらしい美人の桂子ちゃんに向けられていた。

 

 桂子ちゃんも、大きな歓声に対して満足そうにニッコリと笑っている。

 水着は水色を基調にした感じの生地で、私服の面影が残っている。高校の時に穿いていたミニスカートよりも少し短めのパレオがなんとも愛らしいわ。

 

「えーそれでは、各候補の皆さん、お気持ちをお願いします。まずは能登川麻美さんからお願いします!」

 

 そして、候補の一人一人が、今回の水着審査に対する思いをぶちまけていく。

 あたしは審査員長という立場上、真剣に聞かないといけない場面だけど、どうしても桂子ちゃん以外の人には身が入らなくなり、適当に聞き流すだけになってしまう。

 他の候補の人も「桂子ちゃんには到底敵わない」と思っているのか、最初の頃よりも心なしか気持ちがこもってないように聞こえるわね。

 そうこうしているうちに、すぐに桂子ちゃんの番になった。

 

「では次に、木ノ本桂子さんお願いします」

 

「はい」

 

  うおおおおお!!!

 

 桂子ちゃんがマイクを持って一歩前に出ると、それだけで会場の盛り上がりは凄まじいものになる。

 

「今回の水着審査、一生懸命選びました。どうすればみんなに喜んでもらえるかなって考えて、女の子なので、素直に男の子に喜ばれるのが嬉しいので、男の子の視線を釘付けにする、そんな水着を選んでみました」

 

  パチパチパチパチ!!!

 

 拍手とともに、桂子ちゃんに対する応援の声も沢山聞こえてくる。これは同時に、他の候補にとっては気落ちの材料となってしまう。

 そして、残りの水着審査の人のテンションは落ちたまま、桂子ちゃんへの視線ばかりが釘付けになっている。

 

「それでは、審査員の皆さん、誰がいいと思いますか? まずは河瀬龍香さんからお願いします」

 

 続いて、審査員の評論が始まり、まずは龍香ちゃんから。

 

「はい、私はもちろん木ノ本桂子さんです。どうすれば男性に喜ばれるか? ということを素直に追求している所に好感が持てました」

 

 龍香ちゃんがまずそう述べると、色々な角度からそれが裏付けられていく。

 そして、次々と審査員たちが桂子ちゃんを絶賛していく。

 

「では、次に副審査員長の和邇友蔵さんお願いします」

 

 そしてついに、注目の和邇先輩にマイクが渡る。

 会場も少しだけ真剣になっている。

 

「えーとですね、私はやはり能登川明美さんですね! 見てくださいよ、このワンピースから見える未成熟でかわいらしいボディ! ああ、これこそ我々男が望む姿! 辛抱たまりませんよね皆さん!」

 

「よくぞ言った!」

 

「お前は漢だ!」

 

 一部の男子が、そう激励の野次を飛ばしてくる。

 だけど大多数の男女は、何か危ない目で和邇先輩を見ている。

 

「ありがとうございます。では最後に審査員長の篠原優子さん、よろしくお願いいたします」

 

 そしてあたしにもマイクが渡る。

 

「はい、あたしは木ノ本佳子ちゃんです。やっぱり桂子ちゃんの水着、小谷学園のミスコンの時とまた違っていて、そのどれもが似合うのは本当に素晴らしいと思います。小谷学園では『学校一の美少女』と言われていたのも、納得だと思います」

 

 和邇先輩の空気を元に戻すのも、あたしたちの役目だったりする。

 そして、これらが終わると、ミスコンは再び閉幕し、学園祭のラストに結果発表があるくらいになる。

 

 

「優子ちゃん、待った?」

 

「ううん大丈夫」

 

 再び私服に戻った桂子ちゃんと合流する。

 既に優勝を確信しきった顔になってるわね。

 ちなみに、審査員票も既に決まっていて、和邇先輩だけ能登川さんに入れてあとは全員桂子ちゃんで、既に一般票とも合わさって桂子ちゃんの圧倒的な優勝がほぼ決まっている。

 

「桂子ちゃんはこれからどうするの?」

 

「うーん、彼氏と見て回るわ」

 

 この場で優勝確実のことを伝えちゃってもいいんだけど一応黙っていることにした。

 

「そう、じゃああたしは、天文部に戻るわね」

 

「うん、じゃあまたね」

 

「うん」

 

 桂子ちゃんと一旦別れ、あたしは天文部へと戻る。

 これからは、桂子ちゃんが彼氏さんと一緒に行動し、浩介くんが単独行動、あたしが持ち場に戻ることになっている。

 天文部には、浩介くんが居るはずだわ。

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