永遠の美少女になって永遠の闘病生活に入った件   作:名無し野ハゲ豚

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祭りが終わる

「ただいまー」

 

「あ、優子ちゃんお帰り」

 

 天文部の持ち場の中には、やはり浩介くんがいた。

 今から学園祭の終了まで、あたしはミスコンの最終発表時以外は、ここに釘付けになる。

 

「じゃあ浩介くん、あたしが交代するわね」

 

「おう、じゃあ留守番頼んだぜ」

 

「うん」

 

 あたしと入れ替わるように、浩介くんが天文部から出て、あたしは部室に一人になる。

 あたしがここに来るまで、何人かのお客さんがここに来たと思うけど、まあこの場所自体ニッチな場所なので人通りは少ない。

 さっきも、ダンスサークルの2人が暇そうにしていたし。

 

「さて、だいたい回ったし、どうしようかしら?」

 

 あたしは暇つぶしのためにPCを立ち上げ、サイト巡回を行うことにした。

 最近のニュースや蓬莱教授に対する噂などを調べていく。

 今日は佐和山大学の学園祭なので、例のつぶやきサイトでは蓬莱教授の演説に関する話題もちょこっとだけ話題になっている。

 

「うーん、放置で問題ないわね」

 

 あたしは、書いてある内容が軽く触れるか絶賛だけだったことを確認し、特に問題ないと判断する。

 

 次に、幸子さんと歩美さんのチャットを調べる。

 誰もログインしてないみたいなので、ここも一瞥しておしまい。

 

 うーん、どうしようかしら?

 

「とりあえず、天文部らしくJAXAのホームページでも見るかな……」

 

 あたしは、もう一度JAXAのホームページを見ることにする。

 宇宙開発はとにかくスケールが長い。数千年でさえ短いというものね。桂子ちゃんが不老を望んだのも頷ける話よね。

 

「それにしても、ここは不人気よねえ……」

 

 まあ、今年できたばかりのサークルだから当たり前だけど、びっくりするくらい人が来ないわね。

 外での音楽の喧騒が、まるで遠くの出来事のようだわ。

 

 あたしは、サークルの中に展示されている天体観測の写真をもう一度見る。

 そこには人は一切写っていない。まあ、当たり前といえばそうだけど、だけどどれも見事よね。

 これらの星々は光年単位の遥か遠くに位置していて、そこからの光が地球に届いているのよね。

 今回の写真、これらの星々も宇宙からすればごくごく一部の光度の高い星なのだという。

 太陽系から一番近い星は、肉眼で見えないって言うしね。

 

  コンコン

 

「はーい」

 

 誰かが扉をノックする音が聞こえた。

 どうやらお客さんみたいね。

 

  ガチャッ……

 

「優子さん、私です」

 

「あ、龍香ちゃん」

 

 入ってきたのは龍香ちゃんだった。

 

「ここが天文部ですか。これ、写真ですよね? 誰が撮ったんです?」

 

 龍香ちゃんは、まず部屋の写真についてあたしに聞いてくる。

 

「うん、桂子ちゃんが撮ったものよ」

 

「へえ、私も星空を背景に彼と写真を撮ろうとしたんだけど、うまく撮れなかったんですよ!」

 

 龍香ちゃんが失敗談を話す。

 

「そういう時は、シャッタースピードを調整するのよ」

 

 あたしは、以前天文部で教わった知識を動員して話す。

 

「なるほどなるほど」

 

「龍香ちゃん、こっちに来てみて?」

 

 あたしは、大急ぎで星空の写真の撮り方のサイトを開き龍香ちゃんに見せる。

 

「ほほうほうほう、結構いいカメラが必要だったのですね」

 

 龍香ちゃんは感心した風に見る。

 どうやら、星空の写真について少しだけ関心があるみたいね。

 

「しかし、ここはいい場所ですね」

 

「え?」

 

 龍香ちゃんから何の気無しのつぶやきが漏れる。

 

「喧騒を忘れて、ゆったりとしていられるんですよ。ずっとお祭り騒ぎでは疲れてしまいますから」

 

 龍香ちゃんがあたしの隣にふうと一息ついて座る。

 それなりの広さの部屋に女2人が近くに座る。

 

「ねえ龍香ちゃん、そういえば彼氏さんはどうしたの?」

 

「あー、今日は家にいることになりました。ミスコンの審査員に決まりましたので、私としても彼を惑わす訳には行きませんから」

 

 龍香ちゃんはかなりしたたかな表情で言う。

 やはりこの龍香ちゃん、用心深くて計算高いわね。

 魅力的な女性には彼氏を近付けさせない所は大切にしている証拠よね。

 

「ふふ、龍香ちゃん独占欲強いわね」

 

「へへん、当たり前ですよ! 彼氏の大きなアレを他の女に絶対に渡したくありません! もちろん優子さんにもですよ!」

 

 龍香ちゃんが堂々と胸を張って言う。

 

「あはは……龍香ちゃんって本当にそれが好きよねー」

 

 まあ、あたしも浩介くんのは大好きだけどね。

 

「ふふっ、優子さんも好きなんでしょー!?」

 

「え!? いやそのー」

 

 急に話題を振られてあたしは動揺してしまう。

 うー、浩介くんのを想像しちゃったわ。

 

「正直になってくださいよ! そもそも、男性のあれが嫌いな女の子なんていないんですから! どうなんですか優子さん!?」

 

 龍香ちゃんが更にぐいぐいと迫ってくる。

 

「うー、もうっ! そんなの大好きに決まってるわよ! あたしだって見ただけでうっとりしちゃうわ!」

 

 あたしも、意地を張って嘘をつく理由もないので、正直に言う。

 一昨年の最終試験以来、それが大好きなのは知っていた。

 

「あはは、そうでしょうそうでしょう!」

 

「もー、龍香ちゃん! あたしだって女の子なのよ! 男の子の大きいの大好きで口に加えたりしたいに決まってるじゃないのー!」

 

 あたしが、少し抗議して言う。

 もうっ! 浩介くんのを思い浮かべてちょっと身体を濡らしちゃったじゃないの!

 

「うんうん、分かっていますよ!」

 

 龍香ちゃんのこういう生々しい所は、あたしもちょっとだけ苦手だったりする。

 もちろん、乙女しかいないこの空間で、乙女の大好物について語るのも悪くないけどね。

 

「それで優子さん! 大きさと固さ、どっちが好きですか!?」

 

 龍香ちゃんが更にぐいぐいと押して来る。

 

「ふえ!? ええっとその……あたし、固くて大きいのが好き――」

 

「優子さん優子さん、それじゃダメなんですよ! そりゃあどっちもあるのがいいに決まってますよ! ですが、どちらがより重要かというのが大事なんです!」

 

 龍香ちゃんの暴走は止まらない。

 

「そ、そんなこと言っても、浩介くんは固くて大きいから……選べないわよ……」

 

 あたしはちょっとだけしょんぼりして申し訳なさそうに言う。

 

「ふふーん、やっぱり優子さんもですか。私の彼もそうなんですよ。今年のプールデートも大変だったんですよ!」

 

 龍香ちゃん、今年はプールに行ってたのね。

 あたしも、去年浩介くんと行った時のことを思い出しちゃうわ。

 

「あ、あはは……あたしも去年は大変だったわ」

 

「ほほう、去年プールに行ったんですか優子さん!」

 

 龍香ちゃんは、あたしと浩介くんとの恋愛話には本当にぐいぐいと押してくるわね。

 

「はい、もう胸もお尻も何回も何回も触られちゃったわ……」

 

 あの時のことを思い出すと、今でもちょっと興奮してしまう。

 というか、デート中に浩介くんにされたセクハラは、どれも思い出すだけで興奮してきちゃう。

 そしてひとしきりに興奮した後に思い出すのは、あたしが心底浩介くんに惚れちゃっているんだってこと。もう何をしても、浩介くんに虜にされちゃってることを自覚するばかりね。

 

「あはは、それだけならまだいいほうですよ。私の彼ったらそれに飽き足らずに、水着に押し付けてきたんですよ!」

 

「ええ!?」

 

 そう言えば、3年前の海でも龍香ちゃんのお尻触ってたっけ?

 やっぱり、龍香ちゃんの彼氏って大胆だわ。

 

「で、『もう我慢できない、ここでしたい』とか言ってきて! 仕方なく身障者用のトイレに駆け込んで抜いてあげましたよ! あの時は本当に焦りました!」

 

「龍香ちゃん、よく別れないわね」

 

「何を言ってるんですか!? えっちだからいいんですよえっちだから! 恋愛を長続きさせるためにも、身体の関係はとっても大事ですよ! 何せ会う度に気絶するまで気持ちいい思いをさせてもらってるんですから、別れたくないに決まってるじゃないですか!」

 

 龍香ちゃんがまた、速射砲のように彼氏への愛を語る。

 

「あはは、龍香ちゃんぶれないわね」

 

「当たり前ですよ!」

 

 でもあたしは、龍香ちゃんのそんな態度も時折羨ましく思う。

 女の子の多くは、その本心を押し殺して「別にそんなのでは興奮しないし」とか「女の子は心でするものだから」と否定的なことを言う。

 

 もちろん、それはそれで女の子なりのプライドがあってのことだと思う。

 でも龍香ちゃんは、とっても正直な女の子らしい女の子だった。

 あたしもそう、男が好きだから、当然自分についてない(以前は付いてたけど)ものにとても興味津々だし、大好きで愛おしくなると思う。

 

 

  コンコン

 

「おっと、はーい!」

 

 突然扉がノックされる音がしたので、あたしと龍香ちゃんは男の象徴に関する話題を止めて応対する。

 うん、第三者には到底話せないものね。

 

「「失礼しまーす」」

 

 入ってきたのは、ダンスサークルの2人だった。

 あたしが立ち上がると、龍香ちゃんもつられて立ち上がる。

 

「あらいらっしゃい、さっきはダンスありがとうね」

 

「ええ。ここが天文サークルですか?」

 

「はい、うちの部長が撮影した天体観測の写真を展示してます」

 

「部長さんって、あの木ノ本さんですよね?」

 

 ダンスサークルの女の子が桂子ちゃんに話題を持っていく。

 

「ええ」

 

「私達、ミスコン、木ノ本さんに入れさせてもらいました」

 

 まあ、普通なら桂子ちゃんに入れるものね。

 一部特殊な男性だけが、能登川さんに入れているみたいだけど。

 

「ありがとう」

 

「あら、そういえばあなたも審査員長さんでしたね」

 

 ダンスサークルの人はあたしの顔を見て、気付いたように言う。

 

「ええそうよ」

 

「天文サークル、篠原夫妻に桂子さん……小さいですけど濃いメンバーですよね」

 

 ダンスサークルの人が、羨ましそうな目であたしを見る。

 そうよね、この人達は無名な上に、事実上本家が乗っ取られちゃってるもの。

 

「ミスコンの仕事、いきなり大役を任されて大変でしたね」

 

 まあ、あたし自身有名人だし、ね。

 

「いえいいんですよ。あたしが出ないにもちゃんと理由がありますから。せめてこれくらいはしないといけないでしょう」

 

「ええ」

 

「ちなみに、私も審査員させていただいてます河瀬龍香です!」

 

「はい、河瀬さんもよろしくお願いいたします」

 

 ダンスサークルの人と、龍香ちゃんも混じって気楽に雑談をする。龍香ちゃんは、結構どんな人ともすぐに打ち解けられるのよね。

 ちなみに、やはり女の子しかいない空間は異様なのか、龍香ちゃんはまた例の話題を持ち出して、最終的にはダンスサークルの人も折れて「大好き」と口走るようになってしまった。もちろん、言うまでもなく女の子が女の子な以上、好きなのは好きだけど、出会ってすぐにそういうのを言い合える関係にしてしまうって……龍香ちゃんパワー恐るべし、ね。

 

 

「戻ったぞー、お、河瀬も居るじゃん」

 

「お邪魔してまーす」

 

「優子ちゃんお留守番ありがとうね」

 

 浩介くんに達也さんという男性が入ってきて、龍香ちゃんのガールズトークにようやく終止符が打たれた。

 文化祭も最終盤になり、いよいよミスコンの最終発表がある。

 既に投票は締め切られていて、この後はあたしたちがミスコンに出ている間に浩介くんと達也さんとの男2人で天文サークルの展示を片付けることになっている。

 

「じゃああたしたち、ミスコンに行ってくるから」

 

「おう、頑張ってくれよ」

 

 浩介くんと挨拶し、あたしは桂子ちゃんと2人で部屋を出る。

 審査員長と参加者という立場上、親しく歩くのはまずいかもしれないと思ったけど、まあ気にしないでいいわね。

 

 

「じゃあ桂子ちゃん、多分、というか間違いなく優勝確定だと思うけど、頑張ってね」

 

「あはは、今からじゃもう頑張りようがないわよ」

 

 桂子ちゃんが笑いながら突っ込んでくる。

 うん、そうよね。

 

 

 あたしは扉を開けて、スタッフの控室へ、桂子ちゃんも別の控室へと進む。

 

「審査員長、お疲れ様です」

 

「和邇先輩も、お疲れ様です」

 

 和邇先輩があたしに挨拶をしてくれる。

 でも、今回のミスコンの功労者は、和邇先輩だと思う。いくら何でも審査員全員が1人の候補を推すのはバランス上良くないけど、誰の目明らかに桂子ちゃんが優勝というこの状況。

 そんな時に、自ら特殊性癖役になることを買って出てくれたんだもの。

 ちなみに、さっきのつぶやきサイトの情報では、大学生になるとみんな大人なので、和邇先輩が明らかにバランス取りの大人の事情でのポジショントークだということを見抜いているらしく、和邇先輩の評判は落ちていないみたいで良かったわ。

 

 

「ではこれより、2019年度佐和山大学ミスコンテスト最終発表を開始いたします。まずはじめに、参加者の入場です!」

 

 司会者さんの声と共に、桂子ちゃんを始め参加者が入場していく。

 参加者たちは、みんな私服姿で、桂子ちゃんもあの格好に戻っていた。

 

「投票結果の発表です、最初に参加者票です」

 

 各参加者一人一人に票数が発表されていく。

 結果は言うまでもなく、桂子ちゃんがダントツの1位だった。

 桂子ちゃんがホッとしたような表情をしているように、この時点で、審査員全員が2位の候補に入れても桂子ちゃんの優勝が確定してしまったけど、司会者さんはおくびにも出さない。

 

「続いて審査員票ですが、能登川麻美さん1票、木ノ本桂子さん9票です! よって、2019年度ミス佐和山は、木ノ本桂子さんに、準ミスは能登川麻美さんに決まりました!」

 

  うおおおおおおお!!!

 

 桂子ちゃんは予想通りという顔をしていて、準ミスに選ばれた能登川さんも満足そうな表情を浮かべている。

 まあ、相手が桂子ちゃんだものね、準ミスなら上々という気持ちなってもおかしくないわね。

 

 観客たちの盛り上がりも、それなりだった。

 戦況を決して居るとは言え、この手の投票性というものは、どこからか横槍が入って強引に捻じ曲げられてしまうのではないかという不安は常に付きまとう。

 そして往々にして、陰謀論がまかり通りかねないこともある。

 しかし、今回もきちんと、桂子ちゃんの優勝が決まった。

 

「それでは審査員長より、優勝トロフィーと準優勝トロフィーの授与です。まずは準優勝トロフィーから、審査員長さん、能登川麻美ちゃん前に出てください」

 

「「はい」」

 

 あたしが立ち上がり、司会者さんから準優勝のトロフィーを受け取ると、前に出てきた能登川さんに手渡す。

 

「おめでとうございます」

 

「ええ、妹の無念、これで少しは晴れると思いますわ」

 

 あー、やっぱり、能登川って言うから関係者かなと思ったけど、小谷学園で出てたミスコンの人のお姉さんだったのね。

 

「続いては優勝トロフィーです。木ノ本桂子ちゃん、前に出てください」

 

「はい」

 

 そしてもう一度、優勝トロフィーを受け取って桂子ちゃんへと渡す。

 

「桂子ちゃん、連覇おめでとう」

 

「うん、ありがとう」

 

 その後、2人で記念撮影をし、ミスコンも無事に終わった。

 

 

「お疲れ様でした」

 

 これが文化祭最後のイベントなので、あたしたちは挨拶もそこそこに、帰宅することになっている。

 あたしも、すぐに桂子ちゃんと合流し、天文部の部室へと戻る。

 

「遅いぞ2人とも。優勝おめでとうな」

 

 浩介くんたちは、既に片付けを終えていた。

 

「へへ、桂子ちゃんやっぱり優勝したんだ」

 

「うん、私がミス佐和山よ」

 

 桂子ちゃんの彼氏さんも、やっぱり自分の彼女が優勝すると嬉しいみたいね。

 天文部室はあたしたちに龍香ちゃんも入れて5人になっていた。

 

「それでは、私は彼とイチャイチャする約束がありますので、これで失礼します!」

 

 龍香ちゃんが勢い良く出ていく。

 本当お盛んよね。まあ、あたしも今夜するつもりだけどね。

 

「じゃあ、俺達も帰ろうか」

 

「うん」

 

 あたしたちは日没後の学校を、ゆっくりと帰宅することにした。

 明日からはまた、いつも通りの学校が始まる。大学の非日常は、終わった。

 小谷学園での文化祭と違い、今年は浩介くんからの大きなイベントはなかった。

 

 

 後日行われた、小谷学園のミスコンでは、永原先生が優勝した。これで、2年前のミスコンで1位を争ったあたしたちは、全員が優勝経験を持つことになった。

 それでも、永原先生はあたしに対する悔しさは残っていると言ってたけどね。


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