永遠の美少女になって永遠の闘病生活に入った件   作:名無し野ハゲ豚

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はじめての結婚記念日 暴走する6人

「こっちはどうかな?」

 

 浩介くんが、公園から更に奥側を目指す。

 このあたりの地域は、バスは通っているけど鉄道はあまり通っていない場所で、でも一応道路があるのでそれなりに栄えている場所でもある。

 あまり行ったことのない場所で、深入りはしない方が良いと思う。

 

「どうしようかしら?」

 

「うーん」

 

 周囲を見てみると、近くにラーメン屋さんが目に入った。

 ここのラーメン屋さんは、まだ一度も入ったことがない。

 

「へえ、もやしラーメンかあ」

 

「安そうね」

 

 もやしと言えば安い野菜で有名だけど、最近は景気の向上もあってある程度の値上げもされていたりする。

 あんまり安い野菜にばかり頼るのはよくないものね。

 

「キャベツラーメンのほうが良さそうだな」

 

 浩介くんがそうつぶやく。

 

「あーそうかもしれないわね。でもまあ、あたしはもやしラーメンでいいわ」

 

「そうかい。じゃあ俺はキャベツラーメンで」

 

 あたしたちは店の前のメニューを見て、食べるラーメンを決定したので意を決して扉の中に入る。

 

  ガララララ……

 

「いらっしゃいませー」

 

 店員さんが笑顔であたしたちに応対する。小谷学園の制服なのは気にされなかったみたいだ。

 今は春休みなので、制服姿のあたしたちにもあまり違和感を感じずに済んでいる。

 

 まあ、警察の人とかに咎められたら、コスプレがバレちゃうわけだけど。

 この制服も、今後コスプレに役立てるためにきちんと補修しないといけないわね。

 

「ご注文はいかがなされますか?」

 

 あたしたちが椅子に座ると、すぐに店員さんがコップに水を入れて持ってきてくれる。

 ちなみに、カウンターの上に水があるのでセルフサービスということになる。

 

「あたし、もやしラーメンで」

 

「俺はキャベツラーメン大盛りで」

 

「かしこまりました。もやしラーメンにキャベツラーメン大盛りです!」

 

 店員さんが厨房の人に叫ぶように話す。

 

「お待たせいたしましたー! こちら――」

 

 店内はそれなりに混んでいて、店員さんが忙しそうにラーメンを持っていく。

 まあ時間もお昼時だし、しょうがないのかもしれないわね。

 

「ねえねえ浩介くん、午後はどうしようかしら?」

 

「あー、小谷学園に行くのはやめて、素直に家の中で結婚記念日を祝おうぜ」

 

 やはり、近付くのは危険ということになった。

 そうよね、卒業したはずのあたしたちが制服を着てたら怪しまれるもの。

 

「うん、そうするわ」

 

 とりあえず、一旦家に戻って着替えてから、結婚記念日のためのお買い物をするって感じになるのかな?

 ラーメン屋さんには、待ち時間を利用したテレビもある。

 あたしたちはそれを利用して時間をつぶす。

 

「お待たせいたしました。こちらもやしラーメンとキャベツラーメン大盛りになります」

 

 すると案外あっという間に、ラーメンを持ち込んでくれた。

 

「「いただきまーす!」」

 

 あたしたちは、静かにラーメンを黙々と食べた。

 大盛りだけど食べるのは浩介くんのほうが早く、これは以前からずっと変わっていない。

 

「ふう、おいしいわね」

 

「ああ」

 

 ラーメン屋さんも中々に競争が激化しているため、あまりまずいラーメン屋さんには当たらなくなってきた。

 このラーメンは学食のラーメンほどじゃないけど、薄味になっている。

 野菜も多いから、ヘルシーをイメージしているのかもしれないわね。

 

 

「「ごちそうさまでした!」」

 

「浩介くん、これ」

 

「あーうん、そうだな」

 

 割り勘ではなく、それぞれの値段を払う。あたしたちが以前からしていたデートの方法でもある。

 あたしたちはラーメンを食べ終わり、会計を済ませて家に帰ることにした。

 

 

「ふー、ただいまー」

 

「おかえりなさーい。どうだった?」

 

 お義母さんが、制服姿のあたしたちを出迎えてくれる。

 

「あーうん、久しぶりに『石山優子』に戻ったわ。まあでも、こういうのはごくたまにするからいいのよ」

 

「ええ、そうね」

 

 やっぱり、今の結婚生活の方があたしにとって幸せだから。

 気分転換のスパイス程度にとどめないといけない。

 

「じゃああたしたち、着替えてくるわね」

 

 そう言うと、あたしたちは靴を脱いで家の中に入る。

 

「優子ちゃんお疲れ様」

 

「うん、慣れないことすると疲れるわね」

 

 逆に言えば、もう小谷学園の日々は過去のことになったという意味でもあるけどね。

 

「ああ、俺も。とりあえず、着替えて休んだら俺を読んでくれ。ケーキ買おうぜ」

 

「うん」

 

 ともあれ、このままではあたしはまだ結婚してない「恋人関係」ということになってしまう。

 わざわざそうしたのは、単なるマンネリ防止のためなだけで、今はもう必要がない。早く結ばれた2人に戻りたい。

 今は急いで制服を脱いで「篠原優子」に戻らないといけないわね。

 

 あたしは、ちょっと濡れている縞パンなどの下着も穿き替えて、いつもの私服に戻る。

 制服はかわいいし選ぶ必要もないけど、やっぱりあの3年間でしか着られないから価値があると言ってもいいのよね。

 

 まあ、あたしなら不老だし永原先生と同じく今後も折に触れて着ていきたいわね。

 

 

「あなた、お待たせ」

 

 あたしは、意識して「あなた」と呼ぶ。

 普段はその時の勢いで「浩介くん」と併用しているけど、今日は違う。デートの時も、一回も「あなた」とは言わなかったし。

 

「ああ、行こうか優子ちゃん」

 

 浩介くんは、結婚前も結婚後も同じ呼び方でいいわね。

 って、あたしも「浩介くん」と言う呼び方は変わってないわね。

 

 ともあれ、あたしたちはまず駅前に繰り出してケーキ屋さんに行くことにした。

 

「ほら見てよ。このケーキ」

 

 浩介くんが大きめのチョコレートケーキを指差す。

 でも、かなり大きい。「6号」「6人前」って書いてあるし、これを4人で食べるのはさすがに食べきれないわ。

 

「あ、そうね、お義父さんお義母さんがいるものね……でも大きすぎない?」

 

「あーいや実は、優子ちゃんには黙ってたんだけど、さっきのデート中にメールがあってさ」

 

 浩介くんが言いにくそうにしている。

 

「うん」

 

「優子ちゃんの両親が、俺の家に来るって」

 

「え!? そ、そう……分かったわ」

 

 ということは、6人前のうち2人前はあたしの母さんと父さんの分ってことね。

 

「優子ちゃん、異議はある? 同じ6人前でも他のがいいとか」

 

 浩介くんは常にあたしのことを考えて行動してくれている。

 

「あーうん、これでいいわ」

 

 最も、あたしに異議はないから、殆ど形式的なものになっちゃってて、この手のやり取りが「儀式化」が著しいのも事実なのよね。

 

「そうか分かった。優子ちゃんが好きならそれでいいんだ」

 

 うーん、浩介くんがあたしに合わせてくれるのは嬉しい……もうちょっとすれ違ったほうがいいのかなあ?

 

「そう? 浩介くん無理して無い?」

 

「ふっふっふっ! 俺も甘いチョコレートケーキが大好きなんだ! それに、筋トレするにしてもこういう糖分は必要不可欠だからね!」

 

 浩介くんが「どうだっ」と言わんばかりの堂々とした物言いで言う。

 どうやら、単純に好みが同じだけな話だったわね。

 杞憂という言葉がこれほど似合う状況も珍しいわ。

 

「このケーキ、6号ください。それから今日が結婚記念日なので、この2名でお願いします」

 

 浩介くんがあたしと浩介くんの名前を書いた紙を店員さんに渡す。

 

「はい、おめでとうございます。ケーキが2000円と、メッセージカード代で2200円です」

 

 浩介くんが1000円札を2枚、100円玉を2枚出す。

 しばらくすると商品が出来上がったので、浩介くんは商品を受け取り、あたしはレシートを受け取る。

 

「よし、早く帰って冷蔵庫にしまおうぜ」

 

「うん、気をつけて早く帰ろうね」

 

 なかなか両立は難しいと思うけど。

 

「そうだな」

 

 とりあえず、この手のものは鮮度が命なので、ここには長居は無用ということであたしたちは行きよりもやや急いで家路につく。

 あ、もちろん車には気をつけたわよ。

 

「「ただいまー!」」

 

「あら優子。ちょうどよかったわ」

 

 あたしたちの声に、普段はいない人の声がする。

 

「母さん!」

 

 どうやら、あたしの両親が来たみたいね。

 

「今日の夕食はケーキにするわ」

 

 お義母さんの高らかな宣言を尻目に、浩介くんが急いでリビングに行き、ケーキを冷蔵庫にしまう。

 

「あたし、少し休むわ」

 

「ええ、優子の部屋。私達の頃と変わらなくてよかったわ」

 

 母さんがやや不審な笑顔で言う。

 

「もうっ、母さん! 勝手に入らないでよ!」

 

「あはは、ごめんなさいね」

 

 母さんのこの様子、絶対反省してないわよね。まあ、変わってないのは良かったわ。

 あたしは部屋に行って休むと、母さんもあたしの部屋に入ってくる。

 

「優子の部屋にはあまり入ってこなかったけど、本当、優子の結婚生活が充実しててよかったわ」

 

「ありがとう」

 

 ともあれ、あたしのことはそれなりに心配してくれているみたいでよかったわ。

 

「それでね、優子。母さんたちから結婚記念日にプレゼントよ」

 

 母さんがポケットから何かを出してくる。

 それは見慣れない一本の棒みたいなものだった。

 

「え!? 母さん何これ!?」

 

「ふふっ、優子、これは妊娠検査薬よ!」

 

 母さんがニッコリと笑顔で言う。

 

「もー!!! 母さん!!!」

 

 あたしは毎度のことに頭に血が上ってしまい、大きな声を出してしまう。

 両家両親や浩介くんのおばあさんによる妊娠催促はいつものことだけど、まさかこんな圧力をかけてくるなんて思わなかったわ。

 

「あのね優子、よく聞いて? まさかと思うけど、旦那さんとレスになったりしてないわよね?」

 

「そ、そんなわけ無いわよ!」

 

 頭に血が上っているあたしは、女の意地が恥じらいにあっさりと勝ってしまう。

 

「だったら、受け取りなさい。いい? 避妊というのは決して万能ではないのよ。もし生理予定日から1週間から10日経っても生理が来なかったら、これを使いなさい」

 

「うっ……」

 

 母さんに、諭されるように言われてしまう。

 そう、確かに避妊には色々な方法があるけど、それで確実に妊娠しなくなるというわけではなく、様々な偶然で妊娠は起こり得る。

 

「いい? ここに尿をかけるだけで判定できるわ。もし陽性の場合は、両方が変色するわよ。そうなったら、産婦人科に行って見てもらいなさい」

 

「は、はい」

 

 久々に母さんから女性としての教育を受ける。

 確かに今すぐじゃなくても、あたしも赤ちゃんは欲しいので、今知っておいても損はないものね。

 

「ともあれ、おかしいなと思ったら、これを使ってね。ただし、生理予定日から1週間から10日は厳守するのよ。フライングで検査すると、妊娠を見落としちゃうわ。そうなったらまた判定し直しになるわよ」

 

「う、うん……」

 

 久々に母さんの話を聞き入る。

 

「とにかく、これは母さんからのプレゼントよ。今は使わないとしても将来的には必ず必要になるわ。無駄にしないでね」

 

「わ、分かってるわ」

 

 あたしはとりあえずこのプレゼントを受け取り、タンスの中へと入れる。

 色々と疲れたので、あたしはベッドの上に寝転がり、スカートから下を布団で覆う。

 

「ふふ、優子が女を忘れてなくてよかったわ。結婚してしばらくしちゃうと、女らしさを無くしちゃう女性が多発しちゃうのよ」

 

 あたしのこの何気ない仕草を、母さんが褒めてくれる。

 

「もう、母さんったら」

 

 だって、浩介くんがあんなにえっちだと、嫌でも女の子らしさが身についちゃうもの。

 それに、結婚してからますます浩介くんのことが好きになっちゃったわ。

 多分あたしが、不老だからだと思うけど。

 

「でも大事なことよ。その御蔭で、母さんだってずっと父さんを射止めてるんだから」

 

 それにしても、母さんが女を忘れていないのは素晴らしいと思うわね。

 父さん、全然浮気しない人だって言うし。

 

 

「優子ちゃん、準備できわよー!」

 

「はーい!」

 

 あたしと浩介くんは部屋で休ませてもらい、両家両親が準備してくれている。

 テーブルにはさっき買ったケーキの上に「浩介と優子、結婚記念日おめでとう」と器用な文字で書かれていた。ちなみにこれも食べられる。

 そしてテーブルの上にはもう一つ、結婚式の時にもらったキャンドルがある。

 今は全く燃えていなくて、これから結婚の年数と共に燃やしていくことになる。

 ちなみに一番下は「25」になっている。

 

「いいわねえ、母さんたち1年出すの忘れてて2年燃やしたりしてグダグダになっちゃったわ」

 

「あはは……うちもなんですよ……」

 

 どうやら、比較的ラブラブの夫婦でも燃やし忘れみたいなのはあるみたいね。

 

「よし、俺が燃やすぞ」

 

 浩介くんがそういうと、マッチ棒を擦って素早くキャンドルに火をつける。

 ともあれ、これで1の部分まで燃やせばいいのね。

 

「さ、始めるわね?」

 

「はーい!」

 

 あたしが代表してケーキを六等分していく。

 6人前のケーキは意外と量が多く、等しく切り分けられなかったけど、あたしが小さく、浩介くんに大きいサイズのを分ければよかった……んだけど……

 

「ちょっと待って2人とも」

 

 お義母さんが食べ始めようとしたあたしたちを止める。

 

「浩介の所に残ってるカード。これ、2人で食べなさい」

 

 浩介くんのケーキにカードが入っていたため、お義母さんはそれが気に入らないらしい。

 

「え!? あ、ああそうだな」

 

 浩介くんがフォークに手をかけようとする。

 

「あーダメ! ラブラブ夫婦らしく口移ししなさい!」

 

「「ええ!?」」

 

 お義母さんの突然の宣言に、あたしたちは同時に固まってしまう。

 

「ふふ、優子も浩介くんもラブラブだものね。それくらいしたら愛も深まるわ」

 

「は、恥ずかしいって!」

 

 突然の提案に、浩介くんが抗議する。

 あたしはというと、浩介くんとの口移しを想像して、あっという間に顔を真っ赤にしてしまう。

 

「あらあ? 恥ずかしいからいいんじゃないの。優子はどう思う?」

 

「あうあう……浩介くんと口移し……結婚記念日カードを口移し……」

 

「優子ちゃん? 大丈夫?」

 

「こ、浩介くん!」

 

 正常な判断力がなくなったあたしは、浩介くんを上目遣いで見つめてしまう。

 

「うっ……よ、よし分かった!」

 

 浩介くんがカードの端を唇に含み、こっちに近づけてくる。

 

「んっ……」

 

 あたしがもう一方の端を口で掴んでお互い少しずつ唇同士を近付けていく。

 考えてみたら、バレンタインデーの時もこれをしてたっけ?

 

「んっ……ちゅっ……」

 

 そして、中央の地点で唇同士がふれあい、あたしは殆ど本能的に浩介くんとキスをする。

 

「じゅっ……じゅるるるっ……」

 

 浩介くんも理性が吹き飛んじゃったみたいで、あたしが浩介くんの唇に舌を当てると、すぐに受け入れてくれた。

 ああ、ずっとキスしていたいけど、息苦しくなっちゃうのよね。

 

「じゅっ……じゅるっ……ちゅぅうううう……」

 

「んっ……ちゅぱっ……ぷはあー!」

 

 唇が離れると、茶色い唾液の混合物の糸が落ちる。

 

「わー! 2人とも大胆!」

 

「うおお! 母さん! 俺たちも……!」

 

「ちょ、ちょっとあなた! もうっ、しょうがないわね。ちょっとだけよ!」

 

 お義母さんが感激の声を上げると、父さんまで年甲斐もなく母さんにキスを迫っている

 

「あ、あの! ケーキ食べないと!」

 

「お、おっとそうだったな! 失礼失礼」

 

 珍しく父さんが暴走してしまっていて、あたしが慌てて止める。

 まあ、元はと言えばあたしたちが悪いんだけど……いや、元凶はお義母さんかな?

 うーん……まあいいわ。

 

 ともあれ、この後はケーキを普通に食べる。

 母さんも少し反省したのか、妊娠の催促をしてこなかった。

 

 まあ、いい加減あり得ないとは思うけど、この歳で弟か妹ができた何てなればシャレにならないものね。

 というか、2人兄弟で姉が既婚者ってなったら、もうほとんど一人っ子と変わらないわよね。

 というより、あたしもこの歳になると弟妹というより息子娘に近いと思うし。

 ……って、変なこと考えても仕方ないわね。あたしまでおかしくなってるわ。

 

 

「「「ごちそうさまでした!」」」

 

 あたしたちでごちそうさまをする。

 

「じゃあ母さんたち帰るわね。大丈夫よ弟妹は出来ないわ」

 

「ああ、父さんもちょっとおかしくなってた」

 

 どうやら、問題はないみたいね。

 

「うん、帰り道気をつけてね」

 

「分かってるって」

 

 母さんたちが家に帰り、あたしたちもそれぞれ夜の自由時間を過ごす。

 浩介くんはさっきの出来事があまりにも刺激が強かったらしく、「本当に悪いんだけど、今日はさっきのあれでどうか勘弁して欲しい」と言っていた。

 あたしも子供ではないし、さっきので十分満足だったので、今日はお互い休むことでお開きとなった。

 あたしたちは明日から春休み、そして4月からは大学2年生になる。

 またどういう日々になるのか、2年目は何を勉強するのか、今から楽しみだわ。


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