永遠の美少女になって永遠の闘病生活に入った件 作:名無し野ハゲ豚
「はぁ……はぁ……はぁ……うーーー!」
「ふふっ、ごちそうさまでしたー」
ぐったりと横たわり、エネルギーを搾り取られた浩介くんの横で、あたしは舌をペロリと舐め回してごちそうさまをする。
あたしも浩介くんも、体が少し調子悪かったので、もう一回マッサージをすることにしたのだ。
最初は浩介くんに頑張ってもらって、あたしは疼きを止めてもらった。次にそのお礼として、あたしが久々に「挟み込み」を使って、体が硬くなった浩介くんを気持ちよくマッサージしてほぐしてあげることにした。
あたしのこの「挟み込み」は、浩介くんにとっては「あまりに気持ちよすぎて、我慢できなくなってしまうので封印してほしい」とまで言われた位には定評のあるやり方だった。
そして今回も案の定、浩介くんが女の子みたいな声を出し始めて、最終的にはぐったりとしてしまった。
あたしにとっては、お腹いっぱいになれる嬉しいことだけどね。浩介くんはとってもへとへとになっちゃう。
まあ、これだけ大きいものね。視覚効果も相まって凄いことになっちゃったわね。
もちろん、お義母さんの策略もあって、本格的なことは出来なかったけど、それは仕方ないわ。
「優子ちゃん、やっぱりこれ、普段はあまり使わないで欲しい」
浩介くんがゼエゼエと息を吐きながら言う。
やはり大分疲れてしまうみたいね。
「うーん、でもあたしは結構好きなんだけどね」
浩介くんがかわいい声を出してくれるし。
「うー優子ちゃんの意地悪」
浩介くんが、少し不満そうに言う。
普段意地悪されちゃってるし、ちょっとだけ今回は意地悪してもいいかなとも思ったけど。あまりやりすぎちゃうと浩介くんの身が持たないし我慢してあげないとね。
「……分かったわ。とりあえず、今日はもう寝るわね」
「うん、おやすみ」
あたしと浩介くんは、こうして、夜の長い眠りへとついていった。
「うーん、んっ……」
あたしの目が覚める。真っ暗な視界が目に飛び込んでくる。目覚まし時計があるわけではないから、今が何時かはわからない。
電気は消えていて、窓の外を見ると、暗闇だった。
外の明かりもなく、あたしは手探りで机の上の携帯電話を持ち、開くことで光を得る。
現在時刻は午前5時ちょっと前だった。
まだ太陽が上っていない時間帯に、起きてしまったと言うことになり、浩介くんもぐっすりと眠っている。旅行で疲れて早めに寝てしまうと、こういうことがよくあった。小谷学園での林間学校の時も、修学旅行の時もそんな感じだった。
「Zzz……Zzz……」
よく見ると、浩介くんとても深く眠ってるみたいだわ。
「うーん……ちゅっ……ふふっ」
あたしは、悪戯心に浩介くんのほっぺたに短くキスをする。
ふふ、何か浩介くんが素敵なことをしたら、こうしてあげると喜びそうだわ。
あたしは浩介くんが起きないように慎重に立ち上がり、タオルとカギを持って、携帯電話の光を頼りに「お風呂に行ってきます」という置き書きを何とか作り、静かに部屋を出る。
廊下はしーんと静まり返っていて、ひんやりとした何とも言えない冷気を感じ、ここが山奥だと言うことを思い知らされる。
忍び足でお風呂場に進むと、さすがにこの時間は脱衣場には誰もいなかった。
あたしは服を脱ぎ、髪をまとめあげて、タオルも巻かずにそのままお風呂へと進む。
「うー、やっぱり寒いわ」
あの時ほどじゃないけど、あたしは寒さを紛らわすために、風呂桶を使って体にかけ湯をする。
「ふー」
昼間に見えたダムは、ほとんどが暗闇となって見えない。
ただ、それでもわずかにこの露天風呂や脱衣場が発する光などから、ダムの水がどの辺にあるのかが分かる。
だけど、そのダムの水も、昼間は見事な水色に見えたのに、今は真っ黒い色のようにしか見えない。もちろん、それは単なる目の錯覚でしか無い。
ダムの水が水色なのは、単に太陽の光の反射のせい。水は無色透明で水たまりの水が青くないのがその証拠だもの。
「静かね」
温泉のお湯が流れる音以外何も聞こえてこなくて、周囲は不気味なほどに静まり返っている。
昼間のような雄大さはないけれども、夜明け前のお風呂もどこか幻想的な雰囲気が漂っている。
この広い露天風呂を独り占めできるのも、素晴らしいわね。
のぼせさえしなければ、何分見ても飽きないかもしれないわ。
「さてっと……」
何度か反復入浴し、体も十分暖まったら、あたしは露天風呂と脱衣場との間にある緩衝部屋で体を拭き、脱衣場へと入ってバスタオルで体を拭く。
パジャマをもう一度着たら、あたしは髪を下ろし、備え付けの櫛を使ってとかす。
あたしの髪はかなりさらさらしているけど、それでも細かな手入れは欠かせないから、毎日大変だったりする。
それでも、あたしは女の子になったばかりの時を除いて、ショートヘアーにしようと思ったことはない。あたしにはこの巨乳に真っ黒なロングヘアーが、頭の白いリボンと共にすっかりトレードマークになちゃったもの。多分髪を切ったら、あたしと認識してもらえないかもしれないから。
「ふう、こんな所かしら?」
美容については、あたしは母さんの手解きをよく受けた。
お化粧に関しては、元々があまりに良すぎて化粧の効果が見受けられず、ついに結婚式の時にうっすらと区別できないくらいのメイクしたっきりになっちゃったけど、それ以外の美容術には、あたしもお世話になっている。
あたしは、身なりを整えて、もう一度部屋に戻ることにした。
「ふう」
「Zzz……Zzz……」
浩介くんは、まだ寝ていた。
あたしは、もう一度布団の中に入ることにした。
1時間くらいでいいから、2度寝したい気分だわ。
なかなか眠れなかったけど、それでもお風呂に入れば少しは気持ちよく寝られるはずだわ。
「んっ……」
意識が徐々に元に戻っていく。
意識がはっきりしたら、あたしは布団からゆっくりと起き上がる。
「お、優子ちゃん起きたか」
「うん」
あたしが起きると、浩介くんがあたしを出迎えてくれる。
義両親も起きていて、あたしはどうやら最後らしい。
「優子ちゃん、奥の部屋で着替えてね」
「あ、うん」
お義母さんが義両親が寝ていた奥の部屋を見つめながら言う。
「ねえ優子ちゃん」
「うん?」
着替えをあさっていると、今度は浩介くんが話しかけてくる。
あたしは、振り向かずに応対する。
「今日はさ、できれば短いスカート穿いて欲しいんだけど」
「え!?」
浩介くんから突然の注文が入る。
確かに、昨日はロングスカートで、他に膝丈のスカートと、ミニスカートを1着ずつ持ってきてはいる。
ミニスカートは明日の予定で、今日は膝丈の茶色いスカートにしようと思ったんだけど。
「まあその、明日よりは今日見たい気分なんだ」
浩介くんがいかにも怪しさ満点の口調で言う。
「何か怪しいわね」
「まあいいじゃないか」
「はいはい分かったわ」
と言っても、あたしも断らなきゃいけない理由もないので、青いプリーツミニのスカートを手にとって、奥の部屋に進む。
義両親も見張ってくれているだろうし、浩介くんに覗かれちゃう心配は無いわね。
それでも、開けようと思えば容易に開けられちゃう扉一枚隔てた小部屋で全裸になるのは、かなり緊張したけど。
「さ、このドリンクを飲んで」
「うん」
あたしは、お義母さんから、いわゆる「栄養ドリンク」と呼ばれるものを一本渡される。
どうもこれを飲めばエネルギーがかなり付くので、朝ごはんの代わりになるらしい。
「お菓子の方も持ち込んでるから、お昼まではそれでやり過ごそう」
お義父さんがそう宣言し、あたしたちは慌ただしくチェックアウトした。
「いってらっしゃいませー」
女将さんが、あたしたちを見送ってくれる。
「さ、まずは駅まで歩くわよ」
「荷物持つよ」
「あ、うんありがとう浩介くん」
昨日のことを考えてか、浩介くんが荷物を持ってくれると言ってきてくれた。
その御蔭で、あたしは身軽になって歩くことができた。本当、気遣いできて素敵だわ。
「予定の電車まで、後15分ね」
「結構早くつきすぎちゃったな」
「道中は何があるかわからないもの。鉄道の旅は常に余裕を持たないといけないわよ」
お義父さんの言葉に、お義母さんがどや顔で答える。
「それって、永原先生の受け売りですよね」
「ギクッ……もー、優子ちゃん鋭いわね」
だって新婚旅行の時にあたしたちも永原先生に散々叩き込まれたことだし。
「まあ、俺たちも新婚旅行の時に永原先生に同じこと言われたんだよ」
「あ、そうよね。優子ちゃんたちの新婚旅行も、永原先生のプロデュースだものね」
浩介くんがフォローをしてくれる。
あたしたちは、渋川駅までの復路の乗車券を持ち、駅で電車を待つ。
駅の中はは相変わらず閑散としていて、時間帯もまだ早いので、ゴールデンウィークにもかかわらず、乗客はあたしと他数名のみ。一方で、道路は結構混むらしい。
「間もなく――」
遠隔操作の放送が聞こえて、あたしたちは電車の中に乗り込む。
昨日と同じタイプの電車で、あたしたちは容易に座席を得ることに成功した。
「やっぱりきれいよね」
「ああ」
ダムの車窓はとてもきれいで、温泉に入った後には行きとは違う感慨も見せてくれた。
渋川駅で下車し、あたしたちはすぐの接続となる水上行きの電車を待つ。
「水上駅から先の本数が少ないから、気を付けないといけないのよ」
ゴールデンウィークは、いわゆる「青春18きっぷ」の利用期間になってないため、普通列車の車内は、新幹線の混雑ぶりと比べると、格段に閑散としていた。いわば、「穴場」と言ってもいいだろう。
それでも、上越線の沿線には魅力ある観光地が多いのか、色々な所で沿線アピールをしている。
特に沼田駅と後閑駅では「2035年の皆既日食」についてのPRの看板が立っていた。どうやら、このあたりが、ちょうど一番長く皆既日食を楽しめるラインらしい。
今年が2020年だから、後15年後、あたしたちも35歳になる。
そう考えるとそれなりに歳を取る気もするけど、逆に永原先生は517歳になると考えると、そこまで遠い未来には感じないのがまた不思議なことよね。
同じ差でも20から35と502から517では、全く印象が変わるんだから、人間の感覚ってあてにならないわよね。
「ご乗車お疲れ様でした。まもなく終点水上、水上です。水上から先、湯檜曽、土合、土樽、越後中里、越後湯沢、六日町方面の普通列車長岡行きは、階段を登りまして──」
「降りるわよ」
「うん」
車掌さんの案内放送が聞こえてくると、周りの乗客たちも、降りる準備をし始めている。
車内をよく見ると、登山客らしき人がちらほらと見受けられる。
あたしたちはまず列車から降りて、跨線橋を渡って、隣に止まっているピンク色の近代的な電車に乗り込んだ。
「何かこっちの方が新しいわね」
首都圏から遠ざかってるはずなのにね。
「うんうん」
さっきの車両よりも外観が近代的で、車内も清潔で、座席の方はもちろん、トイレなども首都圏と同様の仕様になっていて、明らかに新しい車両だと分かる。
おそらく、旧型車両の置き換えのタイミングの問題から、こちらが新しくなったのね。
「お待たせをしております。普通列車の長岡行きです。この先湯檜曽、土合、土樽、越後中里、岩原スキー場前、越後湯沢の順に、終点長岡まで各駅に止まって参ります。発車までしばらくお待ちください」
高崎や渋川などから来たほとんどのお客さんが水上駅で降りるためか、ここはどうも閑散としている。
「この辺りは、昔は特急列車もたくさん走っていたけど、上越新幹線ができてからはローカル線になったのよ」
「まあ、そうだろうなあ」
新幹線ができる前は、この県境の区間にも特急が沢山走っていたのは想像に難くない。
「途中の駅で降りるわよ。注意してね」
「あ、はい」
どうやら、ここで寄り道をするらしいわね。
浩介くんが膝を必死になって凝視してくるけど、もちろんこの角度では絶対に見えないから大丈夫。
「お待たせをいたしました長岡行きまもなく発車いたします。ご乗車のままでお待ちください」
しばらく待っていると、車掌さんによる放送と駅の発車メロディと共に、ドアが閉まって列車は出発する。
ガタン……ガタンゴトン……
「次は湯檜曽、湯檜曽です。お出口は、右側です。The next station is Yubiso.」
放送まで、首都圏と同じなのね。
「お待たせいたしました、普通列車の長岡行きです。この先の主な駅の到着時刻をお知らせいたします。越後湯沢──」
自動放送の後に車掌さんの放送が流れ、自動放送よりも更に決め細かなサービスが繰り広げられる。
電車が発車すると、車窓は一気に山奥に入る。とんでもない山の中ね。需要があるのかしら?
おそらくこの山中を進んだ後に、長いトンネルになっているのよね。
「まもなく、湯檜曽、湯檜曽です。お出口は、右側です」
そう言うと、電車がトンネルの中に入る。
電車の速度が徐々に減速されていき、最終的にトンネルの中の暗い空間に止まった。
「トンネルの中に駅があるのね」
「ああ、そうみたいだな」
進行方向の右側に、ほんのりと「湯檜曽」の駅名標が見えて、ここが駅だと知らせてくれる。
「ふふっ」
地下鉄のように、明るいというわけではないこのトンネルの中の薄暗い駅に興奮気味のあたしたちだけど、お義母さんだけが、何故か不適に笑っていた。
「次は、土合、土合です。The next station is Doai.」
電車は再び、スピードをあげる。
トンネルの中が真っ暗ということもあって、車内の照明が、不気味に反射している。
「あたしたちの顔が見えるわね」
「ああ、そうだな。それにしても、やっぱり長いよなこのトンネル」
まさに、新潟と群馬の間の長い長い、日本海側と太平洋側を分ける山脈の中を突き進んでいることが分かる。
「うんうん」
何分、ここは難所のトンネルだったから、とにかく長い。
ただひたすらトンネルを進んでいるのを見て、あたしはこのトンネルがどこまでも、どこまでも続いている気がした。
「このトンネルは13.5キロあるのよ。青函トンネルの53.85キロに比べればまだまだ短いわ」
お義母さんがそう説明してくれる。
数年前まで長らく世界一の長さだった青函トンネルを潜ったことはまだないけど、このトンネルの4倍近くあるらしいから、きっと想像を絶する長さなんだと思う。
「まもなく、土合、土合です。お出口は、右側です」
一向にトンネルから出る気配はなく、自動放送が無慈悲に流れ、電車が速度を落とし始める。
「優子ちゃん、降りるわよ!」
「え!? は、はい!」
お義母さんが、突然降りると言い出したので、あたしは慌てて荷物を持って席を立つ。
どうやら、この駅で降りることはあたしには知らされてなかったらしいわね。
「あれ? まさかここも?」
「ええそうよ。この駅もトンネルの中だけど、ちょっと面白いことになってるわ」
真っ暗なホームを見ると、何と数人の乗客が立っていた。
しかも降りるのはあたしたちだけではなく、数人の登山客と思われる人と、軽装の若い男性が1人、この駅を利用するらしい。
「もしかして集落があるの?」
「ううん、ここは山の中の駅よ。谷川岳への登山客や、鉄道マニアが主な利用客なのよ」
おそらく、これも永原先生の知識よね。
あたしたちは、ゆっくりとホームに立つ。
独特のひんやりした空気がとても心地いい。
若い男性は、列車の写真を撮り、続いて駅名標、更に登山客たちが登っていった階段の写真も撮影する。
そして数枚の写真を撮った後、若い男性も階段に向けて歩みを進めていき、駅の中にはあたしたちだけが取り残された。