永遠の美少女になって永遠の闘病生活に入った件   作:名無し野ハゲ豚

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蓬莱教授の栄誉

 蓬莱の研究棟の中にはかなりの数の学生がいて、プロパガンダエリアには人だかりができていた。

 そこは去年よりも、明らかに盛り上がっていた。

 

 

「なあ、演劇部の浦島太郎見たか?」

 

「ああ、すげえ話だよな」

 

「うんうん、でもTS病ならあり得るんだろ?」

 

「だよなあ」

 

「やっぱり、蓬莱教授の薬は必要なんだな」

 

「うむ、事故の危険性さえ減っていけば、それだけ寿命も長くなるんだ。社会保障費だってぐんと少なくて済む」

 

 

 蓬莱教授のプロパガンダエリアには、寿命500歳の薬の成功と、TS病の不老のメカニズムが載っていた。

 

「『2つの不老のメカニズム』かあ」

 

 浩介くんが、展示の前で小さくつぶやく。

 

「こんなに断定しちゃっていいのかしら?」

 

 実際、第3第4の機能があるという仮設は否定できてないし。

 

「まあ、こういうのは勢いが大事だし、な」

 

 蓬莱教授がそう言ってくれる。

 1階のプロパガンダエリアも、そろそろスペースの余裕も減ってきた。

 それはつまり、蓬莱教授の業績が増えたということ。

 

「今俺は、プロパガンダエリアを、もう少し拡張するべきかな? と思ってる。そこで今は1階にあるこの俺の部屋を移動する計画があるんだ。そしたら、『不老社会がいかに過少評価されているか』ということを示したい」

 

 どうやら、蓬莱教授はプロパガンダの充実には余念がないらしい。

 蓬莱教授の恐ろしい所は、これらを狂気や自己陶酔で行っているわけではなく、むしろ自分の崇拝者を見て承認欲求が満たされるどころか、むしろ見下すくらいの態度を取っている。

 しかし、そうした崇拝者が増えることは、支持者を固める上でコアになる部分だし、自らの研究に対して常に迫害の可能性を想定する上で重要になってくる。

 そこで、蓬莱教授はプロパガンダに騙される層に内心は呆れつつも、利用しない手はないと考えた。

 しかもそういうのは時と共に得てして狂気に染まりそうなものなのに、蓬莱教授からはそう言う感じが全くしない。

 ……本当に、恐ろしい人だわ。

 

「ええ、それはいいと思います」

 

「うむ、そう言ってもらえると助かる」

 

 あたしたちは、去年と同様に、プロパガンダエリアを見て回り、蓬莱教授に挨拶して研究所を去ろうとする。

 

「ああ待て待て、せっかくだ。今年は2階も開放しているんだ。優子さん、見ていかないか?」

 

「え!?」

 

 蓬莱教授に、止められた。

 

「今年はどうも、研究に身が入らねえんだ。優子さんたちに2階を見て欲しい」

 

 研究棟2階は講義室や会議室が主で、いわば蓬莱教授や瀬田助教の講義がある時に、使われることが多い場所でもある。

 何とそこには、一番手前の教室に豪華な飾り付けがなされていた。

 

「えっと、一体?」

 

「今年は俺のプロパガンダエリアの一環として、ここの1室を開放しているんだ。まあ入ってくれ」

 

 蓬莱教授が中にあたしたちを入れてくれる。

 中にいる学生はまばらで、どうやら2階も開放していても、階段を登るのに抵抗感があるのかもしれない。

 

 講義室の中央の部分に、とても大きなガラスの横に長い長方形の直方体の箱が目に入る。

 よく怪盗対策として覆われている強化ガラスみたいな感じのものを、かなり大きくした形になっている。

 そしてその中には、有り余るようなメダルと賞状がこれでもかというほどに大量に掲げられていた。

 

「蓬莱さん、これってもしかして?」

 

「ああ、今まで俺がもらった賞の記念メダルだよ。ほら、これを見てみろ」

 

 蓬莱教授が、それらのコレクションの中でも中心の特に一際目立つ部分に吊るされていたメダルを指差す。

 

「こ、これって!?」

 

 あたしがそのメダルに回ってみると、そこには金色のメダルで横顔の老人が掘られていた。

 左側には「ALFRNOBEL」、おそらく「アルフレッド・ノーベル」という文字が刻まれている。

 そして右側には「NAT.MDCCCXXXⅢ」と言う文字と、「OB.MDCCCXCⅥ」という文字が刻まれている。

 

「蓬莱教授、右側の文字は何ていうんですか?」

 

「ああ。1833年に生まれ、1896年に死んだという意味だ。ノーベル賞の元になった発明家、アルフレッド・ノーベルの生没年だよ」

 

 ということは、これはローマ数字ということね。

 Mが1000でDが500でCが100でXCが100-10で90でXが10でⅥは5+1で6という意味ね。

 

「じゃあ永原先生は?」

 

「NAT.MDXⅧだな。そして生きている年数はDⅡだな」

 

「そうなるわね」

 

 1518年に生まれ、502年生きている。

 凄まじいことだわ。

 

「後ろに回ってみ?」

 

「あ、はい」

 

 蓬莱教授に言われるがまま、あたしたちはメダルの後ろ側に回る。

 そこには1組の男女と思われる絵画が掘られていた。

 女は男に首を倒して寄りかかっているが、男は座っていながらも女の方を見ておらず、右手にお椀のようなものを持っている。

 えっと、外縁部に書かれている文字は……

 

「INVENTAS・VITAM・IUVAT・EXCOLUISSE・PER・ARTES」

 

 あたしは、よく分からないローマ字を英語風に読んでごまかす。

 

「『見出された技術を通じ、人々の生活を高めたことが喜びとなる』と言う意味だ。まさしく、この俺にピッタリの言葉だろう?」

 

 蓬莱教授が、自慢げな顔つきで言う。でも、そこに狂気は感じられず、確かな自信だけが見て取れる。

 このメダルはそう、蓬莱教授が確かにノーベル賞を受け取ったという証拠でもある。

 

「この絵はか弱い病気の少女のために岩から流れる水を汲む医者を表しているんだ。時代的にも有り得んが……その水がもし蓬莱の薬だったら、俺はそう思わずにはいられないものだ」

 

「ええ」

 

 蓬莱教授は、名誉欲に関しては人並みだと思う。

 でも、これだけ賞を総なめにしておきながら、ノーベル賞以外の賞をおくびにも出さなかった。

 それだけ、このメダルが、偉大だということを示しているということよね。

 この展示だって、ノーベル賞の他の賞は、「おまけ」みたいな扱いなんだと思うし。

 

「ノーベル賞、平和賞や文学賞はともかく科学3部門のノーベル賞というのは、言うまでもなく誰もが認める偉大な賞だ。だが、これだけで俺は満足していない、このメダルを取った研究は、ただの余興だったことは話しただろう?」

 

「ええ」

 

「そこでだ、俺は思うんだ。蓬莱の薬がもし出来たら、この世界一権威のあるノーベル賞でさえ、役者不足になってしまうだろう。そうなった時、世界は俺に何を贈ると思う? ノーベル賞を超えた何かということになる……どうなると思う?」

 

 蓬莱教授は、知的探究心を持って聞いてくる。

 ノーベル賞は最高の賞、でも蓬莱教授の研究はそれさえ生ぬるい。それも確かなことだと思う。

 じゃあ不老の技術が人類に生き割った時の蓬莱教授にふさわしい賞は何か?

 あたしには全く分からない。

 

「……見当もつきません」

 

「だろうなあ。無理もない。俺も教えてほしいくらいだ。もし蓬莱の薬が完成したら、ノーベル賞では済まないことくらい分かってる。だがこの俺でも、『その先』にあるものが分からんのだ。この医者が、少女に蓬莱の薬を飲ませ、自らも飲み不老足り得たら……医者はどうなってしまうのかと」

 

「あ!」

 

 蓬莱教授のその発言に、あたしははっと気付く。

 

「俺も、一応博士医学だ。今の日本の医学倫理は、とにかく寿命を先延ばしすることに心血が注がれている。つまり死を最も恐れるのが医者であり、医学者なんだ。そして不老というのは、その究極の終着点と言っていいだろう」

 

「ええ、AO入試の時に聞きました」

 

 浩介くんがここで言葉を発する。

 そう、だからこそ蓬莱教授の研究について日本のいかなる医学界も反対することは出来ない。

 

「だがその先は、医者たちはどうなるのだ? 産婦人科医やあるいは不慮の事故での怪我人を治す外科医などは問題ないだろう。俺の学友にも、医師免許を持って医者としてやっているものは多くいる。俺は時々このメダルを見て思うんだ。蓬莱の薬を浸透させるためには、彼らの生活のことも考えねばならないのだ」

 

 蓬莱教授は、何か深刻そうな顔をしている。

 いくら不老になっても、生活がおぼつかなくなれば、そうした企業からの文句は来るはずだ。

 

「それだけじゃないな、葬儀屋さんとか、どうするんだろうか?」

 

 浩介くんが懸念を述べる。そうだ、人間が不慮の事故事件か自殺に巻き込まれるでもない限り死なないなんてことになれば、そうした仕事も急速な縮小を余儀なくされる。

 

「そうだ、だがそうした連中の利権のために、一部の裕福な人間だけ不老化するなんてのは以ての外だ。それじゃこの薬を開発した意味ない……ただ……ついてきてくれるか?」

 

「う、うん」

 

 蓬莱教授が、更にもう2つ奥の部屋にあたしたちを案内する。

 そこには誰も居なかったし、何の展示もなかった。蓬莱教授とあたしたちだけ。

 どうやら蓬莱教授は、あたしたち向けに、秘密の会話をしたいらしい。

 しかし、中に入ると蓬莱教授はあたしたちに背を向けて、何か機械を取り出し、教室中をくまなく捜索し始めた。

 

「あの、蓬莱教授、何をしてるんですか?」

 

「隠しカメラや盗聴器がないかどうか、確認をしているんだ。これからの会話は外部に漏らす訳にはいかないからな」

 

「そ、そうですか」

 

 本当に、用心深い人だわ。

 まあ、決して油断しないのが、蓬莱教授の最大の強みでもあるとは思うけどね。

 

「さ、どうやら問題ないみたいだし本題に入ろうか」

 

 全てチェックし終わった蓬莱教授が、あたしたちの方に向き直る。

 

「そろそろ、俺の薬も500歳まで来た。TS病の遺伝子も解明しつつあるから、俺の存命中に、おそらくは蓬莱の薬は完成するだろう」

 

「ええ」

 

 もちろん、とんでもない困難に直面してしまう可能性は無きにしもあらずだけどね。それでも薬を飲んだことを考えると数百年の猶予がある。

 

「ごほん……問題は完成した後だ。君たちにとっては、浩介さんが不老化してめでたしめでたしだろうが、現実問題それだけで立ち去るは行かない」

 

「分かってます」

 

 そう、人類が不老化ともなれば、様々な影響が出てくる。

 職業によっては、壊滅的な被害を被ることにもなるだろうし、あるいは別の職業にとっては、爆発的な需要の増加を記録するかもしれない。

 それは間違いなく社会に影響をもたらす。

 

「ただ、その対策をどうするか? どうやって緩和するかまでは、まだ未定なんだ」

 

「そうですか……」

 

「おそらく、来年には政治的な問題にもなってくる。そこで、だ。大学生活が忙しくなるだろうに誠に恐縮だが……もし政府や政治家との交渉になったら、優子さんと浩介さんにも、来て欲しい」

 

「ええ」

 

「分かりました」

 

 蓬莱教授の要望は単純だった。

 つまり、今後は政治家への融通と根回しも必要になってくるため、あたしたちに広告棟になって欲しいということだった。

 

「ただこれだけは守って欲しい。優子さん、枕営業だけはやめてくれな。リスクが高すぎる」

 

「わ、分かってますって!!!」

 

 そもそも、あたし浩介くん以外に色目なんか使いたくないわ。

 

「ああいや、優子さんなら心配いらないとは思うが、こういうのは言っておかないとまずいからな」

 

「おう、優子ちゃんに迫るやつが居たら、俺がぶちのめしてやる」

 

 浩介くんが、頼もしい口調で力強く言う。

 ああもう、本当に素敵すぎるわあたしの旦那は。

 

「うむ、その心意気だ。さ、文化祭はまだ続くだろう存分に楽しんできてくれ」

 

「「はい」」

 

 こうして、あたしたちは蓬莱教授から開放されて、研究棟を後にした。

 

「あ、浩介さん、優子さん」

 

「はい」

 

 外に出ようとすると、再び瀬田助教に声をかけられた。

 蓬莱教授の影響からか、あたしたちは他の教授陣にも名前で呼ばれることが多くなった。

 まあ、「篠原」と呼ぶ度にあたしたち2人が同時に振り返ってたらそうなるわよね。

 1人だけ、旧姓を使用して欲しいって言う先生が居たけど、あたしが「愛する旦那と別姓なんて絶対に嫌だ」と断固拒否したのでその先生も名前呼びになった。

 

「蓬莱教授から、話は伺いました?」

 

「……ええ。将来のこと、ですよね?」

 

 あたしは、周囲に悟られないように、なおかつ相手に意味が伝わる表現を慎重に選びながら会話する。

 

「はい、そのことについては、来年度……どうかよろしくお願いいたします」

 

「分かりました」

 

 瀬田助教もお願いするような物言いだった。

 

「それで、向こうの都合にもよりますが、近く高島さんがまたこちらにいらっしゃいますので、予定を開けておいて下さい」

 

「……分かりました」

 

 あたしたちは、本格的に蓬莱教授の広告塔の役割をすることになる。

 もちろん、一昨年夏のAO入試の時から分かっていたこととは言え、やはりいざ本当にするとなると緊張するわ。

 

 あたしたちが、段々とこの世界を本格的に強く動かし始めていると言う自覚が芽生えてくる。

 

「引き止めてすみません」

 

「いえ、浩介くん、行こう」

 

「ああ、失礼します」

 

 あたしたちは、瀬田助教に一礼をして、サークルたちの展示を見て回る。

 文化祭は蓬莱教授のプロパガンダが強まった以外は概ね去年通りだった。

 そして、桂子ちゃんが審査員を務め、龍香ちゃんや和邇先輩がいるミスコンの様子も見て回った。

 文化祭の終わりに、歩美さんに問いただした。

 歩美さんは「隠すつもりはなかったけど、でも言わなきゃいけない理由もなくて結果的に黙ってちゃった」と申し訳なさそうに言っていた。

 とはいえ、この大学でTS病なのはあたしと歩美さんだけで(まあ普通1人いるだけでも極めて稀だけどね)、ああいう役回りになる以上旦那の嫉妬を警戒して歩美さんに白羽の矢が立つのは当然だとは思うけどね。

 

 

「あの、みんな聞いてくれる!?」

 

 歩美さんが、文化祭の終わり、全員が揃った所で、大きな声を出した。

 

「どうしたの? 歩美さん」

 

「その、私……あの……」

 

 歩美さんが、明らかにぎこちなさそうにしている。

 

「その、大智(だいち)君!」

 

「え!?」

 

 「大智君」と呼ばれた男の子が目を丸くして、振り返る。

 周囲もざわついている。歩美さんは普段、基本的に天文サークルの男子は名字呼びだったから。

 

「私……その……私、ね……」

 

「ううっ……」

 

 大智さんの顔が、真っ赤に染まっていく。

 歩美さんが言いたいことが、伝わってくる。

 そう、歩美さんも、ついにここまで来たのね。

 

「大智君のこと、好き! 彼氏に、彼氏になって下さい!!!」

 

 歩美さんが、思い切って大きな声で、愛の告白をする。

 

「……はいっ!」

 

「うおおおおおお!!!」

 

  パチパチパチパチ!!!

 

「くそおおおおおお!!!!! 嫌だあああああ!!!!!」

 

 また一人、TS病の子が女の子への道を進み始めた。

 歩美さんは、文化祭前まで、大智さんと共同で作業することが多かった。もしかしたら、好きになっていたのかもしれない。

 祝福するあたしたちと、呪詛の言葉をかける他の天文部の男子、そして、照れくさそうに真っ赤にしている2人の姿が、いつまでもいつまでも忘れられなかった。

 歩美さんによれば、例の演劇で「演技とは言え、好きでもない人に告白するのがあんなに辛いなんて思わなかった。自分の気持ちに素直になって、演技じゃない告白をしたかった」のが、大きなきっかけだったという。

 本当、人生何が起こるかわからないわね。

 

 帰り道、あたしはずっと考え込んでいた。

 社会はよく、歯車に例えられる。

 社会人1人1人の歯車はとても小さくて、だけど地位が上がったりすれば影響力も上がって大きな歯車になる。

 例えば、会社の社長や国会議員なんて言うのは、大きな歯車だろう。

 歯車は1つかけても周囲で修正が効く、もちろん大きければ大きいほど影響力も甚大になる。

そして、この歯車は子供や老人も当然含まれている。

 

 あたしは本当にちっぽけな、ちっぽけな歯車でしかなかった。あってもなくても変わらない、いやむしろ、優一の頃は周囲を乱すだけの欠陥歯車だった。

 だけど、あたしが女の子にされてから、あたしの歯車は、いつの間にか政治家や会社の社長並みに、あるいはそれ以上に大きくなっていた。

 最初はそう、あたしは女の子になっても、とびきりにかわいくて美人で胸が大きいことを除けば、ただの高校生だった。

 だけど、乱暴だった自分を変えたいという思いで、女の子らしくなろうとしたその姿が、まず永原先生に影響を与えて、協会のあり方を変えて、他のTS病患者たちにも大きな影響を与えた。

 そして、あたしにも出来た恋人、今の旦那との死別について考えていたら、蓬莱教授という巨大な巨大な歯車があたしたちを導いてくれた。

 

 協会と蓬莱教授を批判する歯車や、あるいは他のTS病にされた歯車を修理するうちに、あたしの歯車は大きくなる一方だった。

 幸子さんという歯車が死にそうになっていた。あたしは幸子さんの命を助け、命の恩人にまでなった。

 高島さんの取材を受けて、高校生ながら全国にその顔が知られ、そして歩美さんを助けた時にも、大学生になってからは広報部長になり、「明日の会」を主催した牧師を失墜させるために暗躍して、更に将来防衛のために、フェミニズムに壊滅的な打撃まで与えてしまった。

 あたしはもう、支えられるだけの歯車ではない。積極的に周囲を支える歯車になっていた。

 そして今回、政治的な根回しにも、まだ20歳そこそこのあたしと浩介くんが回されることになった。

 

 もしかしたら、今のあたしの歯車はもう、取り除いたら重大な機能不全になるのかもしれない。

 もう後戻りはできない。一度TS病になった女の子が男に戻れないように、あたしももう、小さな歯車に戻ることは、出来ないのかもしれない。

 そう考えると、あたしは少しだけ気分が重くなりながら、文化祭の会場を後にした。

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