永遠の美少女になって永遠の闘病生活に入った件   作:名無し野ハゲ豚

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もっと深く、女の子に

 6月も半ばに入って9日の金曜日のことだった。

 私が女の子にされてからちょうど一ヶ月の節目のこの日、私はいつものように女の子の制服を着て、女の子らしく朝食を取り、女の子らしく駅で電車を待つ。

 

 

 表面的な言葉遣いや行動はほとんど女の子そのものになって来た。

 永原先生のカリキュラムがとても効いていて、最初は意識しながらの振る舞いも、徐々に無意識で行えるようになった。

 永原先生によると、普通は今の私の水準になるのに半年はかかり、長い子だと1年以上、短くても3ヶ月は見なきゃいけないみたいで、私のこのスピードは異例中の異例だそうだ。

 永原先生の見立てに拠れば、ここまでのスピードで精神が女の子になった原因は、「今までのどの患者よりも確固たる意志で女の子になろうとする努力、更に過去の自分を変えたいという明確な動機があったことで、後天人格ながらも強固なアイデンティティを持つことが出来たから」だそうだ。

 

 ただ、どうしても解決できない問題が2つ持ち上がってきた。1つ目が女の子特有の「感性」だ。

 特に女の子の視点から見た「かわいい」と男の子の視点から見た「かわいい」の違い。これがどうしても習得できなかった。

 他にも女子同士の下ネタやセクハラの質。これが男子とは全然違っていて生々しくもドギマギする。特に体育の着替えや女子トイレでは頻発していた。

 女の子として受け入れられたばかりの頃は、まだいくらかの遠慮があったが、最近では私も他の女子同士がしているようなおふざけの対象になっていて、特に胸に関してはよくセクハラされる。

 もちろんそれそのものは、私に心を許してくれているという、とても嬉しいことなんだけど……

 

 

 そしてもう一つ、それが恋愛の問題だ。

 女の子になった以上、恋愛対象は当然男の子となる。

 自分で言うのも何だが、私は超が付く美人であり、超が付くほどに可愛い女の子だ。それも、むしろそう言わないとかえって嫌味に聞こえてしまうくらいのレベルで。

 ところが、これだけの美貌を持ちながらも、やはり過去のことが気になるのか、私にアタックしてくれる男子が居なかった。

 

 これは由々しき問題だと思っている。

 このまま「男との恋愛とは何なのか?」を知らないまま大人になった時に、悪い男に騙されてしまうのではないか? という懸念。

 

 何よりカリキュラムで少女漫画を読んで分かっていたことだが、少女漫画は恋愛もの一色に近い。

 それくらい女の子にとって、若い少女にとって恋愛は重要な地位を占めている。このままの状況がよろしくないのは確かだ。

 私も、恋する乙女になりたいと思い始めた。素敵な男性と手をつなぎ、恋愛する。

 でも実感が全然わかない。どうやって男の子と恋愛するんだろう? それさえわからないまま、前のめりの欲望だけが先行していたのだ。

 

 

 

「おはよー」

 

「優子ちゃんおはよー」

 

「おはような、優子!」

 

 桂子ちゃんと恵美ちゃんがそれぞれ答えてくれる。私はよく分からないが、最近ではグループ間の調整以外の雑談にも、この二人が直接話している所を見かけるようになった。

 桂子ちゃんに拠れば、「まだ公表はしていないが、正式に和解した」ということだった。

 

 

 昼休みを過ぎて、4時間目の体育の授業だった。

 今日はドッジボールの練習をする。そのために着替えが終わり、女子の集団の一員として体育館に向かう途中の出来事だった。

 

「あ、おい」

 

 小野先生が声をかけてきた。

 

「はい? 小野先生なんですかこんな時間に?」

 

 桂子ちゃんが応答する。

 

「木ノ本はいい。問題は石山。お前がどうしてここにいる!?」

 

「どうしてって、私女の子だから女子と一緒に着替えてたんだけど?」

 

「な、なんじゃと……! お前、先生の言いつけを守らんのか!?」

 

「別に、クラスの女子は皆さん受け入れてくれてますし」

 

「ああ、あたいらも誰も異論がねえぜ」

 

「うん」

 

 女子全員が団結して首を縦に振る。

 

「なっ!? いいか、これは学年主任のわしが決めた規則だぞ!」

 

「……なあ先生、そんなことより、あたいら体育の授業に間に合わなくなるだけど」

 

「うぐっ……」

 

 小野先生を尻目に体育館に行く。

 

「……まさか、まだ無理解者がいたなんて」

 

 私は落胆の色を隠せない

 

「そうね。あの請願書は何だったのかしら?」

 

「ったくよ、なんでみんなが不幸になる方法に固執すんだあのバカは」

 

「ちょ、ちょっと、いくらなんでも先生にバカは……」

 

「でも事実だろ?」

 

「むむ、反論できないわね……」

 

「ま、無視し続ければいいでしょ。赤信号皆で渡れば怖くないって言いますしね」

 

 龍香ちゃんが言う。

 

「むしろこっちが青信号だってな」

 

「あはははは」

 

 女子たちの笑い声がこだまする。うん、それでいい。

 

 

「よーし、体育の授業を始めるぞー今日はドッチボールだ」

 

 体育の先生の説明と号令とともにドッジボールの練習が始まった。

 ちなみに、私に認められた特別ルールは5つ。

 

 一つ目、私に向かって投げるまでに5秒の猶予があり、取ってから5秒以内に投げたボールが当たっても当たったことにならない。

 二つ目、私が投げる時には相手フィールドの半分まで進出していい。相手の陣地はこれで自動的に半分になる。

 三つ目、私が逃げる時には相手外野に陣地の半分まで進出していい。これは縦横両方に適応されるから、どこから打たれても距離が1.5倍になる。

 四つ目、私に投げたボールをノーバウンドでそのままキャッチされたら私は投げた人を「当てた」ことになる。外野の場合は内野から誰か一人を指名できる。

 五つ目、私が投げたボールが誰かに当たった場合、もう一人任意で「当てた」ことに出来る。

 

 また、フットサルでも私はプラスワン扱いで、得点も2倍、アシストでも同じという扱いになった。

 

 私は身体を狙われると、まずキャッチできないが、それでも距離が離れているので、痛みはそこまで感じない。

 

「あ!」

 

「よっしゃ!」

 

 当てられて外野に行く。

 外野からだと進出できる敵陣が広くなる。

 どの方向から攻めるかと言えば、フィールドがやや縦長なので、横から攻めるのが良さそうだ。

 

「えい!」

 

 半分の距離とは言え、正面から投げても、まず取られてしまう。

 足元を狙っても威力が低いためサッカーのトラップのように捌かれることも多い。

 

 それでも、距離半分のハンデはそれなりで、横からの奇襲攻撃なら運動が苦手な子を当てることは出来る。それをもって、恵美ちゃんのように運動神経のいい子を2人目に指定するという基本戦法が確立されつつあった。

 

 虎姫ちゃんたちが決めた特別ルールも、ほぼ修正が加えられることはなかった。

 こうして、極端に体育が苦手な私も、球技大会が楽しみになってきた。

 

 

「はーい、今日はここまで!」

 

 体育の先生が集合をかけ、今日も終了だ。

 

「えーっと、女子の皆さんにはもう言ってありますが、石山の特別ルールが正式に承認されました。他クラスの担任の先生にも連絡してありますので、理解に努めてまいります」

 

 私の特別ルールは職員会議でも紛糾したらしく、小野先生の強硬な反対もあったものの、体育の先生が私のあまりの惨状を訴えたおかげでなんとかハンデが実現した。

 

「優子ちゃん良かったね~ルール承認されて」

 

「う、うん」

 

「にしても、小野って先生は頭固てえなあ……」

 

 そういえば、今日も体育の授業から出た時にも注意してきたっけ。

 

「大丈夫、私達みんな優子ちゃんの味方だから」

 

「そうだよ、どんと構えな!」

 

 とはいえ、先生、それも学年主任の先生と対決するのはやや気が引けるのも事実だ。

 

 

「おい、ここはお前の着替えるところじゃないだろ!」

 

 そら始まった。女子たちと着替えようとして、中に入ろうとすると小野先生が止めてきた。

 

「何? まだそんなこと言ってるの?」

 

「ええい、教師の命令に従えんのか!」

 

「優子ちゃん、入っちゃって」

 

「う、うん」

 

「おいこら!」

 

「先生、勝手に入らないで下さい」

 

「何じゃと……!」

 

「例え先生であろうとも、女子の更衣室に入るなんてことは認められねえぜ。110番だぞ110番」

 

「ぬぐぐぐぐぐ……ええい、放課後に職員室に来なさい!」

 

 桂子ちゃんと恵美ちゃんの応戦で、ひとまずこの場は守られた。

 

「ありがとうみんな、私のためにまた……」

 

 女の子になってからというもの、助けられてばかりだ。

 何か私の方から、貢献したいという気持ちが湧き出てきているが、十分にできてない。

 

「気にすんな。あたいたちも、優子という存在を見て、色々と学ばせてもらってんだ」

 

「そうですね、特にこうやって、女子が団結できたのも、優子ちゃんのおかげよ。このクラスにとっていまいち男子に押されがちだったクラスが変わりましたし」

 

「そうだな、なあ、木ノ本……いや、桂子」

 

「どうしたの? 恵美」

 

「あたいさ、せっかく女子が全員集まってるし……」

 

「そうね、潮時だね……みんな聞いてくれる?」

 

 女子全員が着替え途中のまま、二人の話を聞き入る。話の内容はだいたい推察できる。

 

「あのね、私達、グループを解散することにしたの」

 

 驚きの声は漏れない。

 

「これからは、2年2組女子は一つだ。17人で一個のグループだ! な!」

 

 そう言うと、桂子ちゃんと恵美ちゃんがガッチリと握手した。

 

「「「はい!」」」

 

 17人、そうだ、その中にちゃんと、私が入っているということ。

 もう受け入れられてから時間が経ったけど、改めてこのように言われると、とても嬉しい気分だ。

 

 

「2年2組、石山優子くん、至急職員室まで来なさい。繰り返す、2年2組、石山優子くん、至急職員室まで来なさい」

 

 帰りのホームルーム終了直後、小野先生の声で放送が聞こえてきた。

 

「優子ちゃん……」

 

「大丈夫、なんとかなるよ」

 

「石山さん、職員室に……どうしたのあなたたち!?」

 

「私達も同行します」

 

「い、いえそういうわけには……それにあなた達も委員会や部活が――」

 

「そんなことはどうでもいいんだよ! これは優子やあたいたちの人格に関わる重大な問題だ! 部活なんかよりもよっぽど大事なことなんだ!」

 

「……分かりました。私としても、小野先生の処置には疑問です。ですが……」

 

「あたしはどうしても……どうしても一人前の女子として受け入れてほしいんです。このクラス、この学校にもです。手段は問いません、何としてでもあの小野先生に折れて欲しいんです」

 

 私も永原先生に訴える。

 

「……分かりました……あまり使いたくはないのですが、私に策があります」

 

「それは一体?」

 

「ふふっ……来てのお楽しみよ」

 

 

「女子ってさ、団結力すごいよな」

 

「ああ、ある意味で羨ましいぜ」

 

「あの中に入るんだから、石山も変わったよな……」

 

「あの乱暴な振る舞いは、どこへ行ったんだろう?」

 

 

 男子の話し声を尻目に、職員室の入り口に来た。

 

「遅かったな石山……って何だねその集団は!?」

 

「私の味方よ、小野先生」

 

「……まあいい、石山、何故女子更衣室を使っている!? 永原先生も、何故それを黙認しているんだ!?」

 

「私たち女子全員で、優子ちゃんを受け入れたからよ!」

 

 桂子ちゃんが声を張り上げる! 他の女子もそうだそうだと合唱する。

 

「それが何だ!? 学校が決めた規則に従わないとは。このことは教頭先生と校長先生に報告し、然るべき処分をせねばならない!」

 

「何故?」

 

「何故……だと? 規則に反したからだ!」

 

「その規則が必要な根拠は何よ? 私のクラスの女子は全員、あたしが女子更衣室に入ることに誰も異議は唱えてないわよ」

 

「しかし、学校の立場ってもんがある!」

 

「……学校の立場としても、私が着替える時にわざわざ職員室の更衣室を開けなければならず、どちらの立場から見ても不利益だと思うんですけど。何故皆が損をすることをするんですか? 全員で不幸な目に遭うなんてそれこそ最悪だと思うんですけど」

 

 私が利益論に立って説明する。

 

「うるさい! 大人の事情が絡んでるんだ!」

 

「大人の事情!? はっ! 知ったことじゃねえな。どうでもいいんだよそんなことは。あたいたちは全員優子を仲間外れにするのが嫌だってんだ! それだけだ!」

 

 恵美ちゃんがバカにしたように小野先生に語る。

 

「何を言う。これが学外やPTAに知られたらどうするんだ!?」

 

「あら、むしろ隔離してしまったほうが問題になると思いますけど、小野先生。それに、学外やPTAと言いますけど、実際にそんなクレームでもあったんですか? 無いなら何の問題もないと思いますけど」

 

 永原先生が初めて口を出す。

 

 小声で「私に任せて」というのも聞こえた。

 

「ほう、永原先生に何が分かる? 大人の事情も知らぬとは、まだガキだな」

 

「あらあらまあまあ、私にガキですって! 60年も生きてないのにねえ……」

 

 私と桂子ちゃんと龍香ちゃんが吹き出しそうになっている。

 

「な、なななんだと!? 永原先生、気でも狂ったか!?」

 

「……ふふっ、小学校6年生の時に教室の窓ガラスを頭で割って散々私を困らせた小野良和くん」

 

「な、ななな!? 何故それを……」

 

 永原先生は小野先生に詰め寄り、思いっきり背伸びしてぐいと顔を近づける。

 

「なんてことをしたのよ! これじゃ外の風が吹きさらしじゃないの! これを掃除しきるまで家には帰しませんよ!」

 

「あ……あ……あ……」

 

「また職員室の扉にいたずらしたのね!? 何度言えば分かるのよ! いたずらしてる暇があったら勉強しなさい!」

 

 耳の近くで怒鳴られた小野先生が酷く動揺し、多大な恐怖感を感じる絶望的な表情が見える。小学生の時に怒られたトラウマをほじくり返されてるんだ。

 

「そ、そんなはずは……40年以上も……何故……何故お前が……」

 

「この愚か者めが! この期に及んでお前の目の前に立つ私が、誰かもわからぬのか!?」

 

「あ……あ……」

 

 小野先生が言葉にもならない言葉をつぶやく。

 

「あら、何を言っているか分からないわね……ちゃんと先生に分かる言葉で喋りなさい」

 

 永原先生の「キャラクター」が完全に崩壊している。

 味方のはずなのに物凄く怖い。

 

「……よろしい、ならば思い出させてあげましょう」

 

 永原先生が再び小野先生の耳元に近づく。

 

「なんで宿題を提出しないのよ! 他の子はちゃんと提出してるでしょ! ご両親にも連絡します! ほら、今日も居残りしてきなさい!」

 

「ひ……ひ、ひ、ひ、ひぃっ!」

 

「私の教師生活の中でも、お前のことは忘れない。他のどの子よりも、いたずらばかりする『悪ガキ』だったもの。ここまで言えば分かるわよね? 私が本当は誰なのか? どっちが先輩なのか? いい加減認めなさい」

 

「だって、北小松先生は……生きていたら……70歳を超えて……」

 

「毎日顔を合わせておきながら、私の正体に気付けぬとは飛んだたわけ者ねえ……私の生徒まで傷つけて……小野くん、お前はあの時と変わらない手のかかる『悪ガキ』ね……私が北小松と名乗っていたのは30年前まで。永原マキノはその後に付けた名前よ」

 

 他の女子からも動揺が広がる。そうだ、殆どの女子は、永原先生が戦国時代の生まれで500年近い時を生きていたことはもちろん、私と同じTS病だということも知られていないんだ。

 

「生徒の意見と意思を尊重し、守るべき教師の立場にありながら、相談もしていない上司とPTAの根拠もない顔色を窺うとは言語道断よ。恥を知りなさい!」

 

「あ……う、あ、あああ……」

 

 小野先生はますます顔面蒼白になる。まさに先生に怒られる悪ガキそのものだ。

 

「そんな……北小松先生が、こんな所におられるはずが……ま、まさか!?」

 

「ふふっ、そうよ、私はTS病。こんな身なりだけど、小野良和くんが小学校6年生の時、私は北小松貴子(きたこまつたかこ)という名前で担任をしていたのよ」

 

 小野先生は今、かつての恩師と対面している。それも、若輩者で自分よりも20歳以上も年下だと思いこんでいた先生だ。

 しかし、それにしても動揺しすぎている。

 

「1年だけとはいえ、お前を教えていて……手のかかる子だったわね。6年生も終わる頃には更生してくれたと思ってたんだけど……また私の手を煩わせて……こんな子に育てた覚えはなかったんだけどねえ……」

 

「ひ、ひいっ!」

 

「小野先生の言い分が正しいなら、私も女性として扱っちゃいけないことになるんだけど……まさか、そんなことを職員会議で主張するおつもりかしら?」

 

「わ、悪かった……俺が悪かった……先生! もう許してくれ!」

 

「いい機会だわ……教師をしてから私はもう長いですから、小野くんにもう一度教師とは何たるかを叩き込んであげましょうか?」

 

「ひ……す、すみません先生!」

 

「じゃあ、ちゃんと今回の規則、撤回してくれますよね?」

 

「わ、分かりました……はぁ……はぁ……」

 

 小野先生は動揺しながら、職員室の中に入っていった。

 

「ふふっ、終わったわね、みんなは部活に戻ってくれる?」

 

「その前に先生、一つ聞きたいことがある」

 

 恵美ちゃんが言う。

 

「先生、絶対30じゃないだろ? 本当はいくつなんだ?」

 

「ふふっ、田村さん、女性に年齢を聞いちゃ駄目よ。これは、乙女の秘密よ」

 

「お、乙女……」

 

 永原先生がニッコリと笑う。その無言の圧力に女子たちが後ずさりする。

 

「さあ、みんな、部活や帰宅に戻りなさい」

 

「は、はい」

 

 私を除く女子が散り散りに解散する。

 

「永原先生、小野先生を教えていたんですか?」

 

「ええ、40年とちょっと……かなり昔に、ね」

 

「先生っていつごろから先生に?」

 

「私が教員になったのは明治の頃よ。135年前のことね。日本全国に鉄道が張り巡らされ始める計画を知って、中央集権の明治維新もあって全国放浪も難しくなると考えて、収入のために教師を始めたのよ」

 

「そ、そうなんですか……」

 

「今では小中高、どこででも教えられるわ。これも不老者の世渡り術の一つよ。ちなみに、北小松貴子と名乗っていたのは明治が終わって大正になってからよ」

 

「す、すごいですね……」

 

「小野くんは本当に手のかかる子だったわねえ。私ももう、教えた生徒なんて殆ど忘れちゃったし、多分もうこの世に居ない子の方が多いと思うけど……小野くんや石山さんだけは、ずっと忘れない自信があるわ」

 

 今までは永原先生は本当に不老者なのか、どこかで疑うようなものもあった。

 でも、50代の小野先生のあの反応……私は改めて、永原先生という人物の偉大さが身に染みた。

 

「さ、石山さん、あなたも天文部に出入りしてるんでしょ? 木ノ本さんや部長さんが待ってるわよ」

 

「はい、失礼します!」

 

 私は軽い足取りで、天文部へと向かっていった。


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