永遠の美少女になって永遠の闘病生活に入った件   作:名無し野ハゲ豚

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成人式

「浩介くん、準備できたわよー!」

 

「おう」

 

 あたしが集合する部屋に行くと、浩介くんが和服姿で出てきた。

 今日は2021年1月11日、世間ではいわゆる「成人の日」という休日になっていた。最も、あたしはあの日から容姿が全く変わっていないし、浩介くんも浩介くんで、蓬莱の薬を飲んで以降、容姿が殆ど変わっていない。

 で、去年20歳になったあたしと浩介くんは成人式に出るということなんだけど、あたしは振り袖、浩介くんもかしこまった和服になっている。

 

「ふう、やっぱり振り袖は違うわね」

 

「うん」

 

 特に、胸を潰して晒を巻かなきゃいけないのがちょっと嫌なのよね。

 まあ、顔がいいから、それでも似合いはするんだけどね。

 

 浩介くんはというと、やっぱりキリッとしていてかっこいいわね。

 

「にしても、今更成人ですって言っても何か違和感あるよな」

 

「あはは、うん、もう結婚しちゃったものね」

 

 結婚すると、一部法的には成人と同じ効力を持つようになる。

 あたしとしても、成人して20歳になって何か変わったかというと、何も変わっていない。

 むしろ、酒もタバコもしない身としては、殆ど何かが変わったという自覚はない。

 

「他の連中はどうしてるかね? 塩津幸子さんだっけ?」

 

 浩介くんの方から幸子さんのことを話すなんて珍しいわね。

 

「幸子さんなら、4月から社会人よ」

 

「おおそうか、あいつ、俺達より年上だもんな」

 

 幸子さんは大学の卒業論文を書き終わり、就職先も決まった。

 サッカーサークルの仲間と、サークルのメンバーの彼女たちや、幸子さんのゼミ仲間などで、冬休みを利用してスキーに行こうということになった。

 当初は格安のツアーバスを探す方向で案がまとまりかけていたが、幸子さんが「ツアーバスは事故が怖い。鉄道を使いたい」と言ったために、新幹線で移動することになった。

 当初は出費がかさむことにサークルやゼミの仲間たちは難色を示したけど、幸子さんは「これからの人生が長い私にとっては、事故の確率は無視できない」と言ったために周囲も最終的に納得してくれた。

 

「スキー、楽しんでいるかな?」

 

「どうだろう? それよりも、直哉さんが蓬莱の薬を飲んだのよ」

 

「え!? そうなのか!?」

 

 また蓬莱教授の情報によれば、冬休み中に、やはり全ての単位を取得して就職先が決まった直哉さんが単独でここを訪れ、「どうしても幸子さんと共に暮らしていくために、蓬莱の薬が欲しい」と直談判してきた。

 蓬莱教授は、「遠い所から必死だな」とも思ったけど、その熱意に押され、最終的に5日間佐和山大学の敷地から出ないことを条件に、薬を融通することに決定した。また、この時に幸子さんも蓬莱教授のお金で呼び寄せて、遺伝子サンプルも提供することになった。

 蓬莱教授によれば、幸子さんはいわゆるα型らしい。

 

「へー、そんなことがあったのか」

 

「うん、これで少しは研究が早くなるといいけど」

 

「だなあ……ところで山科のやつも、彼氏とうまくやってるようだな」

 

「うん、歩美さん、来年は成人式にいるのよね」

 

 そして、歩美さんも歩美さんで、大智さんと付き合い始めた。

 10月の文化祭から2ヶ月半、ここまでは順調に来ているみたいでよかったわ。

 他の天文サークルの男子たちは、ガックシとしつつも、大学の他のサークルなどに活路を見出している。

 例のダンスサークルの2人も、複数の男子から声をかけられたとか何とか。

 本当にもう、あの人達は女の子と付き合うことしか頭にないのかしら?

 ……まあいいわ。

 

「そうだな、そう言えば、田村の奴も予定がついたんだっけ?」

 

「そうみたいね。今やもう、世界的スターの恵美ちゃんよね」

 

 浩介くんが今度は恵美ちゃんについて聞いてくる。

 

「だよなあ。あの田村恵美が高校の2年間同じクラスだとは今でも信じられねえぜ」

 

 浩介くんがそうつぶやく。

 恵美ちゃんは、今シーズン最終的に順位を2位まで上げ、ツアーファイナルまで進むことになった。

 

 今シーズン特にニュースとなったのは、恵美ちゃんが全米オープンで優勝したこと。

 世界ランク2位と言っても、1位との差は僅差で、実力的には1位の選手さえ圧倒し始めている。

 恵美ちゃん曰く、「もう少し立ってから世界の上位を狙う予定だったが、とにかく蓬莱の薬を飲んでから不調に陥ることがなくて安定している」と言っていた。

 それまでの恵美ちゃんは好不調の波もあったわけだけど、今はそういうのも少ないらしい。

 恵美ちゃんは元々身体能力も高かったし、年齢的な衰えも500歳の薬で他の人の6倍以上は遅くなっている。

 恐らく来シーズン以降、このまま行けば恵美ちゃんは30代くらいになれば敵なしになるわね。身体能力ほぼそのままにベテランの経験を会得したら、それはいわゆる「チート」と呼ばれる状態だもの。

 

「そうよね」

 

 だけどあたしの中で、何となくだけど、あたしと浩介くんがそのうち恵美ちゃん以上に有名になるんじゃないかという気がしてくる。

 その根拠は分からないけどね。

 

「じゃあ、行ってくるぞー!」

 

「いってらしゃーい」

 

 あたしたちは、義両親に「行ってきます」をしてから成人式の会場に向けて進む。

 会場は区役所の中の地下ホールで行われる予定で、あたしにとっては久しぶりの訪問となる。

 区役所に行ったのは婚姻届を出して以来で、その前にはあたしが女の子になったために性別と名前を変更する届け出を出した時まで遡れる。

 うちの都市は政令指定都市なので、区ごとに新成人が集まり、区長さんがそれぞれ挨拶することになっている。

 

「お、マスコミが来てるな」

 

 あたしたちが受付を済ませると、会場には多くの報道関係者が詰めているのが分かった。

 

「多分、恵美ちゃん目当てよね」

 

 今日、日本中を沸かせた恵美ちゃんの成人式がここで行われる。

 ということで、マスコミが大量にやってきた。

 

 恵美ちゃんはまだ来ていないのか、マスコミの人もゆったりとしている。

 

 

「おい、あれ篠原夫妻じゃねえか」

 

「あ、本当だ。まずい! カメラ向けるな!」

 

「おい、篠原夫妻だ、まずいぞ! カメラしまえ!」

 

「カメラしまえ!」

 

 

 あたしたちに気づくと、メディアの人々はとっさにカメラをしまい始めた。

 

「浩介くん、何か様子がおかしいわね」

 

「ああ、どうやら俺たちは蓬莱教授の仲間として恐れられているらしい」

 

 浩介くんがそんなことを言う。

 そうか、蓬莱教授がマスコミを脅してから、マスコミの人々も蓬莱教授の身辺を調べ、危険そうな人物をあらかじめ洗っておいたのね。

 そうなれば蓬莱教授と協会との橋渡し役をしているあたしの名前も出るのは当然だろうし、もしカメラに写り込んでしまえば無断で撮影したと言いがかりをつけられる可能性を排除できないというわけよね。

 

 あたしたちだけではない、永原先生や他の協会関係者、蓬莱の研究室の関係者も同じような扱いを受けていると思うわ。

 

「浩介くん、どう思う?」

 

「まあ、散々印象操作で人々をペンで弾圧してきたんだ。これくらいの報いは受けてもらわねえとな」

 

 浩介くんは、清々しそうな表情でそう吐き捨てる。

 

「うん、あたしもそう思うわ」

 

 印象操作などをこれまで平気で行っていたマスコミが、蓬莱教授が民間人ながら絶対的権力者の立場にあると分かるととたんに媚びへつらうようになった様子を見るのは、率直に言って気持ちよかった。

 散々あたしたちに印象操作とネガティブキャンペーンをして、「第4の権力」を傘に着て敵意を剥き出しにしていた連中が、蓬莱教授という更に強い「第5の権力」が来た途端に媚びへつらうようになった。

 

「にしても、政府でさえマスコミをこうはコントロールできねえよな」

 

「うん、つまりあたしたちは、もう引き返せないってことよね」

 

 マスコミの関係者は、旧知の仲である高島さん擁するブライト桜を除いて、あたしたちに腫れ物に触るような扱いをする。

 それはつまり、あたしたちは今や20歳の大学生にして既に「権力側」の人間だということを示している。

 

「ああ、蓬莱教授の理性は、結婚前の俺以上だよ」

 

「あはは、今は反動が出ちゃってるかな?」

 

 そして、自分たちがいつの間にか「権力を振るえる側」になっていたということが分かれば、今まで自分たちを苦しめていた相手に対して仕返ししてやろうと思うのは普通のことで、そう言う意味では永原先生があの時あのような提案をしたのも頷ける話だった。

 永原先生はおそらく、反日的な国や、日本と敵対した国に対して蓬莱の薬を禁輸とすること、そして蓬莱の薬の治療研究を日本の独占とすることで、日本を国際社会における絶対的支配国にしようと目論んだんだと思う。

 そして多分それは、蓬莱教授自身も認めたように蓬莱の薬の絶大な需要を考えれば、十分に可能なことだと思う。

 富と力を手に入れたものは、それを誇示したくなるのが人情というもの。多くの歴史の中で、権力者はそうなって生きてきたもの。

 そしてそれを危険と分かって止めた蓬莱教授は、やはり天才と言わざるを得ないわね。

 

「蓬莱教授は、すげえよな」

 

「うん」

 

  ワー! ワー!

 

 あたしたちが雑談していると、突然会場が大きな歓声に包まれた。

 それは、振袖姿の恵美ちゃんだった。

 ちなみに、いつぞの夏祭りの時のように左前にはなっていなかった。

 恵美ちゃんに向けてカメラのフラッシュが大量にたかれる。

 

「あ、恵美ちゃーん!」

 

「わわっ!!!」

 

 試しにあたしが恵美ちゃんを呼んでみると、マスコミが大慌てでビデオカメラを消し始める。

 ふふ、楽しいわ……って、あんまり調子に乗っちゃいけないわね。

 

「??? 何なんだ?」

 

 狼狽したマスコミに対して恵美ちゃんは困惑した表情で、あたしたちに近付いてくる。もちろん、周囲も不審そうな目をしている。

 

「恵美ちゃんこっちこっちー!」

 

「何だ、ラブラブ夫婦の優子に浩介じゃねえか。何でメディアの連中はビビってんだ?」

 

 恵美ちゃんが困惑した表情で話す。

 さり気なく「ラブラブ夫婦」何て言っているけど。

 

「あーほら、あたしたち、蓬莱教授に近しいから、もし言いがかりでもつけられたら蓬莱の薬を売ってもらえないんじゃないかってビクビクしてるらしいのよ」

 

「ははーん、それでビビってんのか!? やっぱ蓬莱の薬ってのはすげえんだな」

 

 恵美ちゃんもマスコミには思う所があるのか鼻で笑って見下すような態度を取る。

 あたしたちもマスコミには苦しめられてきたけど、世界的なテニス選手として注目を集めている恵美ちゃんはその比じゃないはずだわ。

 

「ああ、蓬莱教授曰く『蓬莱の薬は米軍以上の外交カードになる』ってさ」

 

「だろうなあ。飲むだけで老化しなくなるだなんて、夢のような薬だし」

 

 浩介くんと恵美ちゃんがそう話す。

 

「にしたって、お前らの権力はすげえな。あたいも欲しいぜ」

 

 恵美ちゃんはあたしたちを羨ましそうな目で話す。

 そう、恵美ちゃんがあたしたちの近くに来たために、マスコミは一枚も写真を取れず、そのまま奥へと引き返してしまった。

 

「ま、何にせようざい連中を払いをしてくれたのには感謝するぜ」

 

「気にしなくていいわよ。あたしも何の気無しに声かけただけよ」

 

 恵美ちゃんのお礼に対して、あたしも気にしないでいいと答える。

 

「そう言ってくれると、助かるぜ」

 

 恵美ちゃんには、色々な所でお世話になったし、これからも付き合いは続くと思う。

 世界的テニス選手になったと言っても、拠点は日本に置いているし、何よりも蓬莱教授の研究でつながりがあるわけだものね。

 

 

「なあ、あれテニスの田村恵美だよな」

 

「ああ、それにしても、そいつと親しそうに話している2人は何なんだ!?」

 

「古い友人とか? いや待てよ、あの女の子、何処かで見たことあるような?」

 

「あー言われてみれば……でももっと胸が大きかったような」

 

 

 周囲も、恵美ちゃんの登場にざわついている。

 だけど恵美ちゃんと親しく話しているあたしたちにも関心があってやっぱり以前と同じく、晒しを巻いて胸を潰しているせいであたしと気付いてもらえない。

 まあ、あたしと言えば胸が大きいことが大きな特徴だったものね。それが殺されてしまっているだけでも、大分印象が違うのかもしれないわ。

 

「お、始まるぜ」

 

 前方のホールで大きな動きがあったのが見えると、周囲のざわつきがやや収まる。

 そして、会場アナウンスの女性から「只今より成人式を始めます」という声が聞こえてきた。

 

「はじめに、区長挨拶です――」

 

 アナウンスの声から、区長さんがマイクの置かれている壇上に上がる。

 踏み台があるのか、区長さんの頭が少しだけ上がった。

 

「えー、新成人の皆さん、区長です! 私は、小谷学園の校長先生とも親しくしているのでですね、話は、短く簡潔にしたいと思います。新成人の皆さん、これからは、20歳という節目の歳を迎えまして、これからも健やかに、そして社会の一員として責任を持った行動を取って下さい! 以上です!」

 

  パチパチパチパチパチ!!!

 

「うおおおおおお!!!」

 

「いいぞおおおおお!!!」

 

「区長、万歳!!!」

 

 区長さんが短く簡潔に挨拶すると、新成人たちからは割れんばかりの拍手と歓声が沸き起こり、自然とスタンディングオベーションが形成された。

 あたしたちも自然と立ち上がり、区長さんに惜しみない拍手を送る。

 そう、短い時間に簡潔にまとめることこそ、最も人々にいい印象を与える。

 長ったらしい話は嫌われるというのは、校長先生の長話でも知られている。

 

 それを避けて、短い間に魂を込めた1文をあげた区長さんは、あまりの絶賛ぶりに少しだけ顔を赤くしていた。

 

「続いて、来賓挨拶、佐和山大学教授の蓬莱伸吾先生、よろしくお願いいたします」

 

「お、蓬莱教授じゃねえか」

 

 やはり、予想通り来賓は蓬莱教授だった。

 おそらく、ここでも宣伝活動をするつもりなんだわ。

 

「えーっと、皆さん知っての通り、俺が蓬莱伸吾だ。今、俺の研究所が開発中の飲料水……もとい薬によって、世界の仕組みが大きく変えられようとしている。さて、ここから話すと長くなるが……短いほうがいいかな?」

 

 蓬莱教授がまず、あたしたちに問いかけるように話す。

 

「あー、短い方がいいな。ともあれ、俺から言えることは、悪い社会にはならないし、そうはさせないということだ。老いを克服すれば、その先には素晴らしい世界がきっと待っている。俺はそれを信じて研究を続けている。だから、皆も俺のことは気にしすぎないでくれたまえ。以上!」

 

  パチパチパチパチパチ!!!

 

 蓬莱教授がそう言って頭を下げると、再び大きな拍手が沸き起こった。

 成人式のスケジュール上、2人とも短く話をまとめてしまうとは思っておらず、予定はかなり前倒しで進行することになった。

 

 

「それでは、これより、記念撮影に移りたいと思います」

 

 そのアナウンスと共に、成人式のレクリエーションは記念撮影を残すのみとなった。

 やはり予定よりも早い時間で、各自の記念撮影が終われば、あたしたちは同窓会を残すのみとなる。

 

「行こうぜ」

 

「うん」

 

 恵美ちゃんの先導のもと、あたしたちも記念撮影できそうな所に移ることにした。

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