永遠の美少女になって永遠の闘病生活に入った件   作:名無し野ハゲ豚

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政権との交渉 前編

「え!? あたしたちも!?」

 

「ああ、明日の昼、ちょうど優子さんたちが早い時間に講義終了になっていると思うから……実は総理大臣が直々に来てくれるとのことだ。ただ、次回以降からは代理で官房副長官とのことだったが。ともあれ、優子さんたちにも来て欲しい」

 

 あれから数日後、世間はもうすぐゴールデンウィークという季節。

 あたしたちは蓬莱教授の口から、驚きの情報を聞いた。

 何と、あたしたちは総理大臣と直接協議することが出来るようになったということで、蓬莱教授としても予想外だった。

 もちろん、公開される総理大臣の動静をどうするかと言う問題はあるけど、蓬莱教授としてもあたしたちとしても、もちろん願ったりかなったりだわ。

 政府だって蓬莱の薬については、極めて強力な劇薬になることは分かっている。そのためにも、蓬莱教授とは密に連携し合うことが重要になるのだろう。

 

「今回は永田町にこちらから乗り込むことになった。政府側が動いていたら、怪しむ人間もいるからな」

 

「分かりました。それで服装は?」

 

 総理大臣と会うわけだから、ちゃんとしていないといけない。

 

「永田町に行く時だけ着替えてくれれば大丈夫だ」

 

 蓬莱教授によれば、今話しているこの部屋で着替えてくれればいいとのことでよかったわ。

 

「当日はブライト桜の高島さんに、永原先生も来ることになっている。政府側も総理大臣だけでなく、蓬莱の薬に興味を持っていた議員たちが法整備に向けて超党派で集まりたいとのことだった」

 

 そう、あたしたちTS病患者には、年金分の税金がなくなるみたいに、不老化が一般にも浸透すれば、社会保障費が大幅に減るため、大減税が予想されるだろう。

 そういうこともあって、立法行政による協議は急ぐ必要がある。

 

「……それにしたって、どうしてあたしたちが?」

 

 そんなとんでもない場所に、大学生のあたしたちは明らかに場違いだと思う。

 公聴会だって、呼ばれるとしたら蓬莱教授と、せいぜい503年の人生を聞くために永原先生が呼ばれる可能性があるくらいだ。

 

「優子さんたちは、言わば広告塔でもあるし、俺達と協会とのちょうど両方に所属する人だ。その事を、政府にも話す必要がある」

 

「……分かりました」

 

 とにかく、行っていいなら行って損はない話だ。

 何分、大学生が現役の総理大臣に直接会えるなんてそんな機会は滅多にない。

 

「うむ、ともあれ、明日は頼んだぞ。あーこの事は協会にも共有してあるから、心配は要らないぞ」

 

「「はい」」

 

 ともあれ、明日のことは義両親にも話さないといけないわね。

 

 

「え!? 総理大臣と会うことになった!?」

 

 家に帰って、食事中にそのことをお義母さんに話すと、予想通り大きな声で驚いている。

 

「蓬莱教授がらみで、やっぱり政府も水面下で動いていたのか」

 

 お義父さんは、平静を装っているけど、内心は驚いていることは間違いないわね。

 

「ええ、超党派の議連も出来ていたらしくて、彼らと政府で協議するってことで、政府に正式に呼ばれたわ」

 

「そう……何だか優子ちゃんが遠い存在になっちゃったわね」

 

 お義母さんが、少しだけため息混じりにそんなことを言う。

 確かに、一般の人が総理大臣に会うことはほぼ無いと言っていいものね。お義母さんがそう思うのは無理もないことね。

 

「大丈夫よ。あたしは、この家を出るつもりはないわ。こんなに優しい姑さんだもの」

 

 あたしは、あえてお義母さんを「姑さん」と呼ぶ。

 遠くに行くと言っても、家族とは一緒だもの。

 

「ふふ、ありがとう。でもそういう意味じゃないわよ」

 

「あーうん、分かってるわ。でも確かに、あたしたちも、この街にずっと住んでいるのに、遠くに行ったような気もするけどね」

 

 それは多分、あたしがTS病になってから、明らかに世の中そのものが大きく動いているせいかもしれないわね。

 

「例えば何があるの?」

 

 お義母さんはまだ興味津々だった。

 

「成人式の時も、恵美ちゃんを狙ってたマスコミが、あたしたちを見るなりカメラをしまっていたし」

 

「ああ、俺たちはどうやら、優子ちゃんとの寿命問題を解決したいがために、権力側の人間になってしまったらしい」

 

 あたしの言葉に対して、浩介くんがしみじみとした感じで付け加えるように言う。

 

「でも、昔より権力へのネガティブイメージも減ったわよね」

 

 お義母さんが面白いことを言う。

 

「うん」

 

 確かに最近の小説では、主人公や正義の味方が権力側の人間ということも多く、反権力的な作品が減少傾向にあると言う。

 それはつまり、権力に対するネガティブイメージが減ったか、あるいは反権力に対するネガティブイメージが根強くあるのかのどちらかと言うことになる。

 これまでは、権力側ヒーローと言えば江戸時代という太平の時代を舞台にした時代劇が多かった。

 それは将軍本人だったり、町奉行だったり、あるいは御三家の隠居だったりと同じ権力側ヒーローでも地位は違ったりするけどね。

 

「じゃあ、あたしは部屋に戻るわね」

 

 ご飯を食べ終わり、食器を片付け終わって言う。

 

「ま、ともあれ総理大臣に会うなら、しっかりした格好でいかねえとな」

 

「ええ」

 

「よく分からないけど、頑張れよ」

 

 お義父さんがあたしを応援してくれる。

 

 

 あたしは、クローゼットから入学式以来のレディーススーツを出す必要性に迫られた。

 とにかく、明日に備えないといけないわね。多分、サイズは変わってないと思うけど一応試着しないといけないわね。

 

 

 翌日、あたしたちは大学が終わったら一旦家に戻ってから、着替えることにした。

 蓬莱教授とは一番前の車両で待ち合わせることになった。

 

「よし、これでOKね」

 

 あたしは鏡を見て、身だしなみが乱れていないかを確かめる。

 ともかく総理大臣に会うということになるので、緊張がすさまじく、大学の講義に集中するのも一苦労だった。

 それは、隣で講義を受けていた浩介くんも同じだった。

 

「あなたー、行くわよー」

 

「あいよー」

 

 あたしは浩介くんを呼んで、玄関に出る。

 履く靴もいつもと違う。

 

「ちゃんと持ち物持った?」

 

 あたしもきちんと確認をする。

 

「うん、大丈夫よ」

 

 さすがにお義母さんも、いつもより心配性な様子を見せている。

 

「じゃあ行ってくる」

 

「行ってらっしゃーい」

 

 お義母さんに見送られ、あたしたちは再び電車に乗る。

 

「蓬莱教授は一番前って言ってたわね」

 

「ああ」

 

 いつもよりも長い距離を歩きつつ、ホームの端を目指す。

 

「結構歩くわね」

 

 電車1両で20メートル程度だからホームの端は結構かかるのよね。

 

「ああ、やっぱり編成が長いとホームも長いよな」

 

 身近な場所だけど、足を踏み入れることはほぼない。近くて遠い場所と言ってもいいわね。

 

「間もなく──」

 

 駅の放送とともに電車が来て乗り込み、そして大学の最寄り駅につく。運転士さんの運転の様子も見えるのが、何だか新鮮だわ。

 そして、大学の最寄り駅のホームには、蓬莱教授と瀬田助教、そして永原先生がいた。

 

「篠原さん、こんにちは」

 

「お久しぶりです、永原会長」

 

 永原先生とは、もちろん今でも協会での付き合いがある。むしろ、先生と生徒の関係よりも、協会の会長と正会員という関係の方が、ずっと長いのよね。

 それでも、小谷学園にいた時のように、毎日のように顔を合わせるということはなくなった。

 

「お、ちゃんと集合場所と時間を守ってくれてよかった」

 

「蓬莱さん、俺たちも子供ではないですから」

 

「おっと、そうだったな」

 

 浩介くんのとりなしに対して、蓬莱教授が軽く微笑む。

 

「さて、真面目な話だが──」

 

 蓬莱教授が電車の中で作戦会議を始める。

 とは言っても、隠語を多用しているけど。

 

「それで、あっちの方は何て?」

 

「まだ分からない。ただ、不老技術の大衆化が必要であると言う点には、同意してもらわないと困るな」

 

 ともあれ、総理大臣がどう思っているかが大事よね。

 

「うん」

 

 ともかく、蓬莱教授は、この薬を一部の人間だけに行き渡らせることをかなり避けようとしている。

 とは言え、この薬は社会の変革を伴うためいきなり安い値段で売れば、急激な社会変化に大きなリスクを伴うことになる。

 そのため、最初は高額で売り付け、その後段階的に値下げするようにするのが妥当だけど、その程度が重要になってくる。

 

「その辺り、政府側がどう考えているか? 見物だな」

 

「うん」

 

 もしそこで、政府と一悶着あったら大変だわ。

 また、蓬莱教授は暫定措置がそのまま既成事実になってしまうのも恐れていた。

 永原先生は「東日本大震災のBRTがいい例ね」と言っていた。

 

「次は、霞ヶ関、霞ヶ関です──」

 

「よし、降りるぞ」

 

 霞ヶ関駅に間もなく到着することを確認し、あたしたちは瀬田助教を先頭に霞ヶ関駅を出た。

 

「えっと、内閣府はこっちかな?」

 

 永田町と霞ヶ関と言えば、日本の政治の中枢で、この永田町、霞ヶ関、三宅坂一帯には国会議事堂や各省庁、議員会館に最高裁判所や国会図書館、政党の本部や国立劇場などが存在する。

 

「久しぶりね。ここも」

 

 永原先生が、懐かしそうに話す。

 

「永原先生がここが?」

 

「ええ、江戸の大名屋敷が連なってた頃から、見てきたわ」

 

 永原先生は、戦国の人であると同時に、最古参の江戸っ子でもある。江戸時代はほぼずっと、この街からでなかったものね。

 今のこの場所は、政治的中枢としての顔しかあたしたちは知らないけど、それ以前の顔を、永原先生は知っていた。

 

 霞ヶ関駅を出てあたしたちは約束の場所である首相官邸を目指す。

 ちなみに、高島さんは別行動で、既に到着していると言う。

 

「まさかこんなに早くここに来れるとは、思ってもみなかったな」

 

 蓬莱教授も、予定よりも研究は進んでいるらしいわね。

 

「ええ、私も、ここが首相官邸になってからは、来るのははじめてだわ」

 

 永原先生と蓬莱教授はしみじみとした様子で語る中、あたしと浩介くんは緊張しすぎて体が固くなってしまっている。

 

「ふう、総理大臣との面会を予約した佐和山大学の蓬莱伸吾だ。通してもらえるか?」

 

 蓬莱教授が門の前に立つ警備員さんに声をかける。

 

「はい、お話はうかがっております。身分を証明できるものはありますか?」

 

「分かった」

 

 蓬莱教授が財布を取り出し、警備員さんに何かを渡す。

 警備員さんはじっとそれを見つめている。

 

「ありがとうございます。そちらのお3方も、よろしくお願い致します」

 

「「「はい」」」

 

 あたしと浩介くんは学生証を、永原先生は運転免許証を取り出していた。

 ちなみに、永原先生によれば、自動車は危険なので免許を取った最初の1年も運転してないらしい。

 永原先生は、「路上教習中は生きた心地がしなかった」とも言っていた。

 

「はい、了解です。こちらへどうぞ」

 

 門を開けてくれた警備員さんの誘導で、あたしたちは首相官邸の中へと進む。

 ニュースのテレビカメラでも、外観しかほとんどみないその建物の内部は、驚くほどに静まり返っていた。

 

「こちらです」

 

 警備員さんにまっすぐ通された部屋、そこは小さなホールのような明るい部屋だった。

 

「ここって──」

 

「ほう、ここで会議するわけだな。ところでブライト桜以外のメディアの取材は来ないのか?」

 

 蓬莱教授はまだ冷静に話している。

 

「極秘と言うことおになっております」

 

 警備員さんも、かなり丁重に接してくれている。よく見ると、テーブルの上に名前が書いてあって、「篠原優子」の文字も見えるのでその場所に座った。

 何だか、雰囲気的には蓬莱教授の方が上座っぽい感じさえするわね。

 

「分かった」

 

 そして、中で暇そうに座っていたのが──

 

「高島さん、お久しぶりです」

 

「おう、皆さんも到着されましたか」

 

 高島さんの隣には、いつぞやのカメラマンさんも座っていた。

 

「あれ? そちらの方──」

 

「お久しぶりです。今はブライト桜で国会の記者クラブに所属しています」

 

 永原先生がそう言いかけると、カメラマンさんが自己紹介してくれる。

 

「そうですか、また会えたのも何かの縁ですね」

 

 そう、あたしと永原先生が、高島さんと初めて取材をした時にいた人だった。

 

「あ、もうすぐ総理がいらっしゃるとのことです」

 

「おっと」

 

 全員で立ち上がり、総理大臣を迎える準備をする。

 本来はあたしたちがお客さん的な立場だけど、やっぱり総理大臣ともなると話は別よね。

 

「お疲れ様です」

 

「お疲れ様です」

 

 すると、かなりまとまった数の男女の集団が足音を鳴らしてこちらに向かってきた。

 

 

 先頭には、ニュース番組やインターネットで毎日のように見る、総理大臣の顔の男性だった。

 

「蓬莱先生、お忙しい中、よくいらっしゃいました」

 

「いえ、総理こそ。お忙しい中、よく予定を開けてくださいました。感謝します」

 

 蓬莱教授と、総理大臣がお互いに挨拶をする。

 

「あ、皆さんお座りください」

 

「「「はい」」」

 

 総理大臣に促されあたしたちも席に座らせていただく。

 テーブルには紙コップとお茶があったので、遠慮なく注がせてもらう。

 

「ではですね、私の自己紹介は説明不要でしょうから、各議員の皆さんの紹介をして参りたいと思います。まず私の隣に座っておりますのが──」

 

 総理大臣と共に入ってきたのは、ニュースで見る人々ではなかった。

 聞くところによると、件の議員連盟所属の議員と言うことで野党の議員もここに呼ばれているらしい。

 思いの外、女性議員の参加が多いわね。

 

「今回野党の皆さんにもご協力いただきまして、蓬莱の薬の今後について、話して参りたいと思います」

 

「あの、野党と言いますと、与党の妨害が仕事にも思えるんですけど」

 

 永原先生がいきなり核爆弾を放り込んだ。

 とは言え、永原先生は一般国民だ。

 永原先生の爆弾発言で凍りつきそうだった空気も、会場が少しだけ笑いに包まれるだけで何とか収まった。

 

「あー、まあそう言う人もいると思います。その辺りは確かに、我々の不徳の致すところではあるんですが……蓬莱の薬というのは、私たち女性議員にとっては党派や党利党略といったことを超越して、何としても欲しいものなんです」

 

「ええ、私もです」

 

 女性はいつまでも美しく女性らしくありたい。

 それは、国会議員になっても同じだったというわけね。

 

「えっと、とりあえずこちら側も自己紹介しておきます。俺の自己紹介は不要だろう、まずは俺の隣に座っている『瀬田博』さん、俺の大学で助教をしつつ、研究を手伝ってもらっている」

 

「瀬田と申します、よろしくお願い致します」

 

  パチパチパチパチ

 

 瀬田助教が立ち上がると、国会議員や総理大臣から軽めの拍手が舞い起こる。

 

「こちらが、『永原マキノ』先生です。小谷学園で高校の教諭を本業としつつ、日本性転換症候群協会の会長を務められています」

 

「永原マキノです、本日はご招待ありがとうございます」

 

  パチパチパチパチ

 

「永原先生はですね、ご存知無い方もいらっしゃると思いますので紹介させてもらいますと、日本性転換症候群協会、つまり俺が不老研究をするに当たって基礎となる遺伝子を提供していただいています。永原先生は人類最高齢の方でして、西暦で言うと1518年生まれですから、今年で503歳となります」

 

 蓬莱教授の永原先生の紹介に際して、動揺の声は聞こえてこない。

 やはり、あの議連に参加する位だものね。知ってて当然かもしれない。

 

「で、その隣が篠原優子さんと篠原浩介さん夫妻です。現在は佐和山大学の学生ですが、現在我々と永原先生の協会で広告塔を勤められておりまして、特に篠原優子さんは同じくTS病の当事者であると同時に、永原先生の協会では広報部長をなされています」

 

 あたしは、浩介くんほぼ同時に立ち上がる。

 

「紹介にあずかりました篠原優子です」

 

「篠原浩介です、よろしくお願い致します」

 

  パチパチパチパチ!!!

 

議員さんからの拍手が、少し強まる。

その一方で、拍手が終わると何か議員たちがヒソヒソと話しているのも見えた。

 

「えっと──」

 

「あ、そちらの2方は大丈夫です。よく記者会見で見かけますので」

 

「そう言って貰えると助かる」

 

 蓬莱教授が高島さんたちを紹介しようとしたら、総理大臣が止めてきた。

 確かに、時間の制限もあるものね。

 ともあれ、これでお互いの自己紹介も終わったし、いよいよ国家の中枢中の中枢との接触になるわね。




一応総理大臣は某A氏のイメージで書いてますが、物語時間が2021年なので、さすがに違う人がしていると思いますが、この人に変わる総理大臣像が思い浮かばなかったので物語ではぼかすことにしました(笑)

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