永遠の美少女になって永遠の闘病生活に入った件   作:名無し野ハゲ豚

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集まった人々

「みんな、行くわよ」

 

「「「はい」」」

 

 今日はいよいよ、反蓬莱連合が抗議集会を開く日。あたしは一家4人と別行動であたしの両親も参加する。

 抗議集会の事実を発見し、蓬莱教授が、早速連合側に間者を送り出した。

 その患者のお陰で、内情を徐々に知ることができた。

 

 それによれば、例の牧師がフェミニズム団体などと接触し、また海外でも蓬莱教授を快く思わない人と、大同団結を試みていた。

 

「分断工作は失敗したのね」

 

「ああ、間者がいるとバレる危険性もある」

 

 蓬莱教授は、何とかしてこれらの仲を引き裂こうと画策したが、うまくいかなかった。

 

「何とかして、男女比が偏った状況を作りたいのよね」

 

 特に、大勢の独身男性に1人の女性という、いわゆる「紅一点」の状況が、コミュニティを崩壊させるには最もやりやすいのだという。

 つまり、その女性をめぐって男たちは簡単に争い始めてしまうのよね。

 有り体に言えば、さくらちゃんが入ったことで小谷学園野球部が崩壊したのにも似ているわね。

 

「中々難しいよな」

 

 そもそも、日本の反蓬莱連合そのものが、ほとんどの構成員が在日外国人と、アンチ蓬莱の気持ちが強い外国人で構成されているとのこと。

 そしてその理由は何かと言えば、日本での宗教心の薄さ、更に牧師に対するネガティブイメージもあって、日本人のほとんどが、蓬莱教授の研究を支持していた。

 

「やはり、日本人から崩すべきかしら? 足元を固めないといけないと思うのよ」

 

「だけど、それはジリ貧だよなあ」

 

 反蓬莱連合に参加している日本人たちは、蓬莱教授の研究によって仕事が無くなりそうな人が殆どなので、彼らはイデオロギーで反対しているわけではない。

 こういう人たちには、以前と変わらない収入を約束できるようなシステムを作れば、大半が賛成派に転じてくれるだろう。

 既得権益の排除というが、生活を困窮させるほどに排除すれば、治安も悪くなってしまい、それは寿命の低下という実害となって跳ね返ってくる。だからやり過ぎてはいけないのよね。

 ……とはいえ、海外はそうもいかない。

 

「ええ、イデオロギーに凝り固まった人を説得できないなら、やっぱりまずは、日本からなのかなあ」

 

 永原先生が唱えた、蓬莱の薬を使った日本中心の新世界秩序構想は、蓬莱教授に危険すぎるとして却下された。

 とはいえ、海外で反対が増えれば、やはり日本だけでも「不老国家」として地位を固めて、世界にその威力を見せつけた方が長期的にはいいのかもしれない。

 

「うーん、最初の数年はそれもやむを得ないかもなあ」

 

 蓬莱教授は、「反対派の連中も、バカな宗教家どもも、いずれ俺にひれ伏す時が来る」と言っていた。

 それならばやはり、永原先生の新世界秩序構想も、全くの間違いではないのかもしれないわね。

 

 あたしたちは、そんなことを話ながら、抗議集会のカウンターデモの集合場所の公園へと向かった。

 

 

「うわあ」

 

 あたしは驚きのあまり口元を手で覆ってしまう。

 義両親はあたしたちを置いて公園の中へ進んでしまった。

 

「すげえな、もうこんなに集まってるのか」

 

 大分早く着いたつもりだったのに、公園の中は既に溢れんばかりの人で一杯だった。

 都内の公園ということもあるけれども、まさに満員御礼という言葉にぴったりだった。

 

「蓬莱教授」

 

 あたしはなんとか蓬莱教授を見つけて声をかける。

 ちなみに、隣には瀬田助教の他、取材の記者としてブライト桜の高島さんの姿も見えた。

 

「おお優子さんか、しかし困ったものだ。まさかこんなに人が来るとは」

 

 蓬莱教授が、嬉しい悲鳴をあげている。

 

「それで、向こうはどうです?」

 

「今、間者を忍び込ませとる。ちょっと待ってくれ」

 

 蓬莱教授が「調査中だから待て」と指示してくる。

 

「……分かりました」

 

 ともあれ、今はスパイの情報を待たないといけないわね。

 さて、その間にあたしは知ってる人に挨拶しないと。

 

「うーん」

 

 と言っても、体力のないあたしとしてはあまり動き回りたくない。

 これからも、ここに人がどんどん増えていくから、スペースも考えないといけないわね。

 

 

「なあ、あれ、篠原優子じゃね?」

 

「あ、本当だ」

 

「うひょー、あの噂、本当だったんだな」

 

「うんうん、にしても、実物はもっとかわいいし胸も大きいよな」

 

「くー、あの超巨乳を毎晩拝める旦那が羨ましいぜ!」

 

「全くだ! しかも優子ちゃんの方から惚れたんじゃノーチャンスだよな」

 

「やめとけ、優子ちゃんの旦那さん、嫉妬深い上に力も強いらしいぜ」

 

 

 あたしの知名度も、以前と比べると上がっている。

 他の参加者からの注目度も高い。

 

「あ、幸子さん」

 

 ふと、公園の入り口を見ると、幸子さんと直哉さんがこっちに向かってくるのが見えた。

 

 

「お、何だ何だ!? またとびきりの美人だぞ」

 

「あーでも、優子ちゃんほどじゃないかな?」

 

「いやいや、確かにそうかも知れねえけど、幸子さん? だってとんでもねえ美人な上に巨乳だぜ」

 

「お前やっぱおっぱいなんか」

 

「うるせえ!」

 

 

 幸子さんとあたしが近づくと、また男たちが会話で盛り上がる。

 分かっていたけど話題は「かわいい」と「胸でかい」ばかりだわ。

 というかよく見ると、この公園の参加者のほとんどが若い男性で構成されているわね。

 つまり、あたしの姿を一目見ようと、人妻にも関わらずこんなに集まっていったのね。

 ……うん、やっぱり男って単純でバカな生き物だわ。それが男の魅力でもあるんだけどね。

 

「幸子さん、遠いところからわざわざありがとう」

 

「いやいいのよ。今回は協会が支援金出してくれるって」

 

 幸子さんによれば、交通費を協会が支給してくれたらしい。

 何となく、その金の出所がわかるわ。まあ、協会と蓬莱教授が蜜月関係なのは既に公然かつオープンなことだし今更バレたところで痛くも痒くもないけどね。

 

「うむ、にしても、男の姿が多いな」

 

 直哉さんが、そう話す。幸子さんへの独占欲からか、ちょっとだけ警戒心を見せている。

 

「あはは、あたしの写真に吊られて来たみたいよ。頭数必要だから、助かってはいるけどね」

 

「あー分かるわ」

 

 幸子さんが、納得したような表情を見せる。

 その後も、あたしたちが知らない顔が何人もこの公園に入っていく。

 お巡りさんたちも、何やら話始めている。

 

 そしてその次、現れたのは佐和山大学の天文サークルの仲間を中心とする佐和山大学の関係者たちと、坂田元部長とその家族たちだった。

 ちょうど期末試験が終わったその日なので、部員はほぼ全員、というか、佐和山大学で見知った顔も見かける。

 そしてその中には──

 

「あ、あの篠原さん、2年前は失礼しました」

 

 件の、ヤリサーの2人組だった。

 聞くところによればこのヤリサーの人は2年留年しているらしい。

 そしてその近くには──

 

「篠原さん、お久しぶりです」

 

 文化祭で、あたしたちの隣になる、ダンスサークルの2人組と、新入部員だという女子部員が1人いた。

 

「今年は3人になったのね。それよりいいの? あのサークルは敵じゃなかったの?」

 

「もちろん敵よ。その事について私たちは許すつもりはないわ。でも、蓬莱教授を助けたいという気持ちはみんな一緒なのよ。私たちも子供じゃないですから」

 

 ダンスサークルの人が、きっぱりとそう答える。

 やっぱりその辺り、大学生って大人より大人なのよね。

 

「ふふ、ありがとう」

 

「歩美さんも、天文サークルのみんなも」

 

 佐和山大学組は、学生本人だけではなく、家族まで参加している例も多い。

 やはりみんな、蓬莱教授を助けたいという思いで、ここにいるのね。

 

「あ、皆さん! 集合時間前なんですけれど、この公園が満員になりそうなので、近くのもっと広い公園に一部移動してもらえますでしょうか!?」

 

 佐和山組は到底ここには入りきらないと思った矢先、お巡りさんからついにデモ隊の分散を頼まれる。

 

「うーむ、分かった」

 

 蓬莱教授も速攻で納得する。

 とりあえず、この公園に今いる人のほとんどを、向こうの公園に移動させるという。

 

「ここには誰をここに残そうかしら?」

 

 集合場所はここだから、それなりの人を残さないといけない。

 

「向こうの挺団長は瀬田君に任せよう。頼めるか?」

 

「はい!」

 

 瀬田助教が勢いよく返事する。

 

「で、残るのは俺、篠原さん石山さん一家、見映えの問題もあるから幸子さんたちと山科さん、木ノ本さん一家をここに残そう」

 

「……分かりました」

 

「あの、大智もここに残してください」

 

 歩美さんが蓬莱教授に彼氏を残すように言う。

 

「っと、山科さんにも彼氏ができたのか。分かった」

 

 もうすぐ1年なんだけどね。

 

「では皆さん、私とお巡りさんについていってくださーい!」

 

「うえー、まあこんだけ参加者多いんじゃしゃーないわな」

 

 瀬田助教とお巡りさんたちが、参加者の大半を別の広い公園へと誘導していった。

 

 すると、入れ替わるように1人の男性がこちらに駆け込んできた。

 そういえば、あの顔、抗議集会の第一報を持ち込んできた人よね。

 

「伝令であります」

 

「おう、どうした?」

 

 蓬莱教授に、柔らかそうな表情で情報を伝える。

 いいニュースなのは明らかね。

 

「反蓬莱連合、参加者は今のところ目視で数えて40名程度との情報が入ってきました!」

 

「おう! しめた!」

 

「うん、この調子なら、勝てるわ!」

 

 あたしと蓬莱教授が、喜びを表す。

 問題は、相手が暴力に訴えてこないかどうかよね。

 

 その間にも、どんどんと参加者が入ってくる。

 その中には、佐和山大学の学生が多く、またたまたま通りかかっただけの一般人の中にも、あたしたちを見て飛び入りで参加する人もいた。

 

「蓬莱先生、皆さん、久しぶりです」

 

 次に来たのは、溢れんばかりの美少女軍団で、そのあまりの壮観ぶりに通行中の一般人も思わず目を丸くしている。

 その先頭にいたのが、永原先生だった。

 

「永原会長! それに皆さんも」

 

「ふふん、真打ちは遅れて登場ってね!」

 

 永原先生も上機嫌になっている。

 でもよく見ると、あたしがカウンセリングしている新しい患者さんの姿もあり、彼女たちも学校の女子制服で参戦している。

 

「永原先生、まだ集合時間前ですぜ」

 

「もー、蓬莱先生。それにしても、参加者以外と少ないですね」

 

 蓬莱教授が野暮な突っ込みをし、永原先生は参加者の少なさを気にかける。

 

「あー、実はこの公園が参加者で埋め尽くされててな。近くのもっと広い公園に移動してもらったよ」

 

「あら? そんなにもたくさん?」

 

 永原先生も驚きの声を上げる。

 

「ああ」

 

「頼もしいわね。あら、塩津さんも来てたのね」

 

 永原先生が、幸子さんを見つける。

 

「ええ。お久しぶりです会長」

 

 正会員全員に、一般会員が多数、蓬莱教授との結束がうかがい知れる。そして──

 

 

「さあ皆さん、近くで蓬莱教授の研究に反対する集会開かれるそうですよ! あたしたちで抗議デモしましょう!」

 

「蓬莱の薬があれば、私達と共に何百年も過ごせますよ! さあ、あなたも参加してみませんか?」

 

 比良さんと余呉さん、更に数人の正会員は、それぞれミニのスカートを穿いていた。

 TS病の女の子たちのそのかわいさとエロさで、男を釣るという作戦で、次々と通行中だったおじさんたちが飛び入り合流してくる。

 

「なあ優子ちゃん」

 

「ん?」

 

 隣にいた浩介くんがあたしにささやいてくる。

 

「男って、あんなに単純な生き物何だな」

 

「あら? あたし、単純な男は好きよ」

 

「む、そ、そうなのか……」

 

 浩介くんがぎこちないながらも納得してくれる。

 ふふ、浩介くんだって単純だものね。

 

「ふふー、飛び入りありがとうー道子嬉しいわー!」

 

「ふへへへへ。俺も蓬莱教授に協力するぜ!」

 

 目の前で作り笑いを浮かべている比良さんは、もう実年齢が180歳を越えていると知ったら、このおじさんは何て顔をするかしら?

 そうこうしていると、更にまた多くの集団がやって来た。

 

「お、石山さん! 久しぶりです!」

 

「……」

 

 見知った顔が、あたしのことを旧姓で呼ぶ。

 

「あれ? あの?」

 

 そこにいたのは守山元生徒会長だった。4年前にあたしが女の子になったばかりの時の文化祭のミスコンでお世話になった人だ。

 

「あたし、結婚したから、今は篠原優子よ」

 

 結婚式いたわよね?

 

「おっとごめん、4年前のミスコンの時はお世話になったよ」

 

「うん」

 

 

「小谷学園の卒業生と、在校生をかき集めてきた」

 

 守山先輩の集団の中には、唐崎先輩とさくらちゃんや、あたしたちの2年2組と3年1組だったクラスメイトの多くや、あたしが優一の時にさんざん怒鳴った男子などもいた。

 

「永原先生……篠原さん……お久しぶりです……」

 

「うん、さくらちゃんも久しぶり」

 

「志賀も元気そうでよかった」

 

「あの……河瀬さんは?」

 

「龍香ちゃんたちはちょっと別の場所に行ってるわ。大丈夫よ」

 

 それを聞いてさくらちゃんが安心した顔になる。

 

「久しぶり、篠原」

 

「お、高月に安曇川じゃねえか」

 

 そして、高月くんや虎姫ちゃんの姿も見える。

 何だか同窓会みたいだわ。

 

「ふぉふぉふぉ、わしら先生もおるぞ!」

 

「あ、校長先生!」

 

 在校していた時にお世話になった校長先生の姿も見える。

 

「ほほ、わしは今は前校長じゃよ。今は隠居して理事をやっとる。校長先生は──」

 

「篠原さん、お久しぶりです」

 

 それはかつての教頭先生だった。

 付き物がとれたような朗らかな顔をしていて、あたしが在校してた頃とはまるで別人だ。

 

「えっと、今は校長先生、でいいのかしら?」

 

「ええ、僭越ながら、校長になりました」

 

 元教頭の隣には、数学の先生で学年主任でもあった小野先生がいる。

 

「篠原さん、お久しぶりです。今は教務主任をしてます小野です」

 

「小野先生、こちらこそお久しぶりです」

 

 小野先生は、あたしたちの在校時には学年主任の先生で、あたしが女の子になったのは、小野先生の授業中だった。

 そして、女の子になったばかりの頃には、更衣室の問題などで永原先生とひと悶着あった。

 でも最終的に、浩介くんのプロポーズの時に理解者になってくれた。

 前校長先生と小野先生は、永原先生が、34年前まで「北小松貴子きたこまつたかこ」と名乗ってた時の教え子でもある。

 ちなみに、恵美ちゃんはさすがに試合があるのか姿は見えない。

 その代わりに、元校長先生が「テニスの田村恵美選手から応援メッセージを預かっている」とのことで、これもあとで読ませてもらおう。

 

「皆さん、私たちと蓬莱先生のために、ありがとうございます」

 

 永原先生が小谷学園組の集団に向かって頭を下げる。

 

「いいってことよ。小谷学園と佐和山大学は一心同体! これからも、よき関係を続けて参りたいものですな」

 

「そう言ってもらえると助かるな」

 

 近くで聞いていた蓬莱教授も嬉しそうな表情をする。

 

「みんな、篠原先輩の夢を、叶えてあげたくて、俺たちも、蓬莱教授の薬が欲しくて、来たんです」

 

 小谷学園組はかなりの大人数で、元々見映えのよさから協会組はここに残留しているため、またほぼ全員に向こうの公園に行ってもらった。

 そうこうしている間にも、もう一度伝令が入る。どうやら、向こうにもこちらの人数の多さが伝わったらしく、かなり動揺が広がっているみたいね。

 

「あ、えっと……篠原優子さんですよね?」

 

「はい」

 

 30歳くらいの男性があたしに話しかけてきた。

 

「その……4年前……本当にすみませんでした!」

 

「えっと、確かあなたは?」

 

 どこかで見覚えがあるけど、思い出せないわ。

 

「野洲です。野洲康平やすこうへいです!」

 

「あー! あのナンパバスガイドね!」

 

 どうやら、2年生の時の林間学校の時の添乗員らしいわね。

 何を隠そう、あたしはこの人に林間学校の帰り道にナンパされ、強引に引きずり込まれそうになった所を、浩介くんに助けてもらい、そのお陰で、あたしは浩介くんに惚れ込んだ。

 

「おう、どの面下げて来たんだ!」

 

 浩介くんが怒るのも無理はない。

 

「はいその……すみませんでした」

 

 ただただ、頭を下げるばかり。

 

「まあええわ。それよりもどうして、ここに来たんだ!?」

 

「もちろん、蓬莱教授を支持するためですよ」

 

 うん、そう答えるしかないわよね。

 

「あー、俺の聞き方が悪かった。俺たちがいることくらい、分かってたんだろ?」

 

「はい、その……やはり遅いと思いつつも、謝罪した方がいいと思いまして。それに、今は別の会社に勤めてますから」

 

 やはり、就職口は見つかりやすいらしい。

 

「そうかい。まあ、俺もそこまでねちねち言うつもりはねえよ。お陰で、優子ちゃんには大満足の日々だからな」

 

「それはよかった」

 

「もうっ!!!」

 

 あたしはちょっとだけ怒った感じで言う。

 

「おっとすまん、優子ちゃんにはトラウマだもんな」

 

「あー、あたしもいいのよ別に、それよりも、もう1人、会わせたい人がいるわ」

 

 あたしはそう言うと、直哉さんと楽しそうに話していた幸子さんの元へと駆け寄る。

 

「あ、優子さん、どうしたの? そちらの男性は?」

 

「幸子さん、この人は野洲さんよ。4年前の夏、あたしをナンパして、浩介くんに成敗されたの」

 

「っ……」

 

 野洲さんにとってみれば、黒歴史をほじくりかえされたようなものよね。

 

「あーそういえば言ってましたね。優子さん、その事がきっかけで、浩介さんに惚れたって」

 

「ええ、でもその前に偶然林間学校で一緒に実行委員になったのもあったわ。幸子さん、あたしと浩介くんは、遅かれ早かれ結ばれる運命にあったわ。でも、それが遅いと、あたしは協会の正会員になるのが遅れて、あなたのカウンセラーはできなかったわ」

 

「じゃあもしかして?」

 

 幸子さんが驚いた顔をする。

 

「ええ、結果論だけど、野洲さんの暴力的なナンパが東北で大学生をしていた幸子さんの命を救ったのよ」

 

「え!? 俺がこの子を!? どうして!?」

 

 野洲さんは、狐につままれたような表情で驚きを隠せない。

 まあ、誰だって「身に覚えない人の命を救った」何て言われたら驚くわよね。

 

「この子はあたしと同じ、TS病の女の子でね。あたしが東北に行って初めて幸子さんに会った時には、『男に戻るんだ』ってかなり危険な状況だったわ。もし来るのが遅れたら、幸子さんはとっくの昔に、精神が耐えられなくなって自殺してたわ」

 

「それが今や彼氏持ちかあ……本当に人生何があるか分からねえんだな」

 

 野洲さんが、しみじみと語ると、蓬莱教授から、「そろそろ時間だ」という声がかかったため、こちらには最低限の誘導人員だけ残し、あたしたちも本部の公園へと移動することにした。




何か今回「全員集合」って感じになっちゃいました。そして結構苗字のないキャラクターもいることに気付きました(笑)

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