永遠の美少女になって永遠の闘病生活に入った件   作:名無し野ハゲ豚

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球技大会 前編

 中間テストが終わった。私の成績は悪くない。そしてテスト期間も終わり、6月も下旬に差し掛かった。梅雨が本格化したこの日は待ちに待った球技大会の日だった。

 この日は男女に別れ、学年別で8人のチームを率いて対抗戦を行う。場所は体育館だ。

 私のクラスは、女子17人男子15人ということで、私はプラスワン扱いになり、男子の方も1人少ないチームと対戦する際には、くじで一人除外されることになった。

 

 もちろん、私への特別ルールも、他のクラスには説明済みだが、当初は当然のことながらあまりいい顔をされていなかった。

 しかし、これも体育の先生の配慮によって、何人か他クラスの女子から代表者を集めて、私の体育の授業の様子をビデオで見てもらった。

 すると、みんな「これはさすがにハンデあげないと可哀想よねー」「ゲームにならないもん」と納得してくれたらしい。

 

 逆に言えば、自分たちに不利になるようなハンデさえもすぐに納得してしまうくらいの説得力を持ってしまうくらいに私が弱いという意味でもあるんだけど。

 

 

 クラスが集まる。男女が着替え終わって一旦教室に集合し、永原先生の先導で体育館へと向かう。

 そして、開会式が行われた。

 

 校長先生が短く挨拶し、球技大会の開会を宣言。続いて3年生の男女が選手宣誓をして、球技大会が始まった。球技大会は結構過密で、試合が終わるとすぐに他学年の試合が始まる。

 

 

 ともあれ、まずは1組の女子Aチームと前後半7分のフットサルだ。

 私の特別ルールが絡むということで、この試合の観戦者も割と多い様子。

 うちの学校は、ほぼ全てが弱小チームだけど、室内競技系の運動部の数がとても多いので、体育館の広さが格別だ。

 そのため、2試合を並行して行うに十分な広さだ。

 

 私のチームは9人、相手チームは8人、フィールドには5人で交代は自由だ。

 

 

「両チーム、礼!」

 

 互いに並んで一礼をする。

 

「よろしくお願いします!」

 

「お願いします!」

 

 審判は先生が務めている。この試合は永原先生だ。

 各チームが所定の位置につく。キックオフはじゃんけんの結果、相手のチームのボールでキックオフをすることになった。

 

「それでは……試合、開始!」

 

  ピーッ!

 

 笛が拭き、まず相手がこちらを攻める。

 私はオフェンスの一人をマークしているが、簡単に振り切られてしまう。

 

 とにかくチャンスを潰さないと……!

 でも全然追いつけない。

 

「とりゃっ!」

 

 相手が打った強引なシュートは枠外に外れる。

 

 ゴールキックで試合再開。

 こうなるとこちらのディフェンスが終わり、今度はこっちがオフェンスになる。

 

「優子!」

 

「はい!」

 

 前に居たノーマークの私にボールが渡る。

 

「いただき!」

 

「あ!」

 

 しかし、すぐに取られてしまう。こうなると再び相手が攻勢に入る。

 

「マーク! マーク! 優子ちゃんはそこに居て!」

 

 キーパーの桂子ちゃんが声をかける。相手チームはほぼ全員が上がっているため、待ち伏せ戦法をするつもりだ。

 

「うんっ!」

 

 相手のシュート。キーパー正面!

 

「よし!」

 

 桂子ちゃんがボールを取り返してくれると、今度はすぐさまゴール前の味方へロングパスをしてくる。

 このあたりのスピーディな展開はサッカーにはないフットサル独特の駆け引きだ。

 

「んっ!?」

 

「通さねえよ」

 

 ゴール前でキーパーがしっかりディフェンスしているが、私には無警戒だ。

 

「虎姫ちゃん! こっち!」

 

「うん!」

 

 虎姫ちゃんが待ち伏せしていてフリーになった私にパスする。サッカー部の虎姫ちゃんがこじ開けたほうが確実に1点だろうが、一気に2点取る方を選んでくれた。

 

「えい!」

 

 虎姫ちゃんから山なりのボールを受け、胸でトラップする。

 当初は失敗してばかりだったこの巨乳でのトラップも、何とか自分の胸の形を考えることで何とか前に落とせるようになった。

 

 私はそのままがら空きのゴールへとシュートを放った。

 

  ピピーッ!

 

「石山さんの得点ですので2点です!」

 

 よし、これで一気に2点先取!

 審判の永原先生が告げる。得点ボードが一気に0-0から0-2になった。

 

「あの子をマークして! あの子に決められたら2点よ!」

 

「はい!」

 

 相手チームの方針でその後、私へのマークが厳しくなった。でもそれでいい。

 なぜなら、私が人数に数えられていないため、レッドカードでも出ない限り常にこちらは一人多い扱いになっている。

 だから私に一人人数をかけさせることができれば、それで十分なのだ。

 幸い身体的基礎能力は不足していても、男時代譲りの「野性の勘」や「状況判断力」はあった。

 それを加味すれば、私に人数を割かざるを得ない状況にするのは得策だ。

 いくら決められたりアシストされれば2点と言っても、事前のビデオを見ていた他の子は「できやしない」とタカをくくってくる可能性が高かった。

 

 だからこうやって2点を取ってしまうのはまず相手を警戒させるために必須だった。それを序盤のうちに出来たのは良かった。

 

 通常5人対5人で行われるフットサルにおいて、数的優位はサッカー以上に大きい。

 私がゴールやアシストを決めれば2点ということもあって、いくら弱くても警戒せざるを得ないみたいだ。

 

 私はボールを受けずに、ディフェンスを一人引きつける役割に終始した。

 更に、サッカーにおける待ち伏せ戦法を封じるために作られたオフサイドのルールが無いフットサルでは、待ち伏せ戦法を行って、強制的にディフェンスを1人釘付けにさせるだけでもプラスワンとしては十分すぎるほど役割を果たしていた。

 常に前に残り続けることで、全員攻撃を難しくする、万一カウンターで2点取られれば大きな損失だからだ。

 

 ともあれ試合が続く、私はディフェンスをおびき寄せる役割で数的優位を作る。

 虎姫ちゃんがシュートする。

 

  ピーッ!

 

「よっしゃ! やりい!」

 

 虎姫ちゃんが点を決め3点目、その後、相手も2点返したが私のゴールが2点分であることが決定打となり、ゴール数は同じながらも私たちのチームの勝ちとなった。

 

「両チーム、礼!」

 

「「ありがとうございました!」」

 

 当校は1学年4クラスで計8チーム、時間的都合で1学年2ユニットに分かれている。

 それぞれのユニット別にトーナメント制で優勝を決めて、3位決定戦も行うという感じだ。

 

「優子、すごいよ、役に立ってるよ」

 

「あ、ありがとう……」

 

「ふふっ、この優子ちゃんの待ち伏せ戦法で行けば、優勝はいただきよ!」

 

「け、桂子ちゃん、気が早いって。相手も警戒するだろうし……」

 

「弱気にならないの! さ、しっかり休んで決勝に備えるわよ!」

 

 

 2年男子と1年生、そして3年生の試合を挟み、再び2年女子のターン。決勝は1組の女子Bチーム。さっきと同じように並んで礼をする。

 

 ここでも一回戦と同じく私の待ち伏せ戦法を使った。

 私はゴールできなかったが、何度かボールを渡して警戒させることはできた。

 また、パスされて私にマークが集中した隙を突いて別のフリーの子にパスする「アシスト」での2点を2回決められた。

 虎姫ちゃんに教わったアウトサイドキックがとても役に立った。よもや私が繰り出してくるとは思っても居なかったようで、不意打ちならば相当な効果があった。

 

 相手もこちらのゴールを3度揺らしたが私のアシストのお陰でゴール回数は少ないながらも4-3、最後の1点を取りにキーパーを含めたパワープレーをしてきた。

 こちらはクリアの時に私にロングパス。私は処理を誤ってラインを割ったけど、決定的な状況だったために警戒せざるを得ず、そのまま終了。

 

 ゴールを揺らした回数は相手の方が多いながらも、私達の勝ちとなった。

 

「やったよ優子ちゃん! 優勝だよ!」

 

 桂子ちゃんが祝福してくれる。他の女子も私を祝福してくれた。

 私はフルで出場にも関わらず、控え含めても一番動いていない。だけど、そんな中でも一番息が上がっていた。

 待ち伏せすると言っても、マークする選手とのやり取りがあってそこに手間取ったのだ。

 

 相手チームも、一番息が上がっている私を見て、改めて「あのハンデ仕方ないよね」「しょうがない負けは負け」のような会話をしていた。

 

 もし、このルールがなければ、私は「役立たず」としてみんなに嫌われていたはず。でもそうならないように、女子のみんなで意見を出し合ってくれたんだ。

 例えハンデがあっても、こうやって役に立てる喜びは何にも代え難いものだ。

 体育祭でも、おそらく同じような特別ルールになると思う。

 体を動かすことに関して、「何の役にも立たない」と思われていた私でも、配慮さえあれば楽しめることを知った。

 本当に皆の善意が身に染みる。

 

 今に思えば、小野先生が強硬に私の女子更衣室使用に反対したのも、「善意の配慮」だと、少なくとも本人は思っていたんだと思う。

 でも、間違った善意こそ質が悪い。あの時の小野先生は悪意を持っていじめをしていた篠原たちよりも、ずっと頑固だった。

 現に、男子はいじめを止め、請願書を女子総出で提出し、論理的にも破綻していたにもかかわらず、意見を変えなかった。

 永原先生が脅迫じみた行動でトラウマをえぐり返さなければ、どうなっていたか知れたものじゃない。

 逆に言えば、ああでもしない限り、間違った善意を止めることは出来ないということだ。

 

 だから、どういう配慮が必要なのかを見極めることが、とても大事なんだと、私は自分の体験で、学習することが出来た。

 

 

 この後は昼食休憩を挟んでバスケとドッジボールが開かれる予定だ。

 ちなみにユニットごとで少し時間がずれているので、男子の方を見て回る。今から急げば、もしかしたらうちのクラスの男子の試合が見られるかもしれない。

 

「あーくそ、負けだ!」

 

  あ、ちょうど試合が終わったみたいね。

  ちょうど近くに、篠原浩介が見えたので声をかけてみよう。

 

「あ、篠原くーん!」

 

「いっ石山!?」

 

「あたし達のチーム、フットサルで優勝したんだけど、そっちはどう?」

 

「あー、りょ、両方とも負けたよ、一回戦と決勝でそれぞれ」

 

「……そう、次は頑張ってね!」

 

 笑顔を見せる。

 

「あ、ああ……」

 

 まだギクシャクしたやり取り。

 既に私を受け入れてくれた女子たちはともかく、かつていじめていた男子たちとも関係を修復していかないといけない。

 あの一件以来、男子たちも私のことを表向きは女子として扱ってくれているが、本心ではまだ分からない。

 だから、こうやってもっと深く突っ込まないといけない。

 

 私の過去は変えられないけど、かつて石山優一であったことを意識させない程度には、女の子らしさを見せないといけない。男の子に認められて、初めて女の子になれる。私はそう思う。

 男に好かれてこそ女の子らしくなれるんだから。

 

 

 ともあれ、次の男子のユニットの2試合が終われば昼食休憩だ。

 

「なあ、あれが石山優子だろ?」

 

「体育すごい苦手なんだってな、特別ルールらいいぜ」

 

「え? マジなの?」

 

「俺も試合見たけど、あいつの運動神経やばいぜ。下手したら一番軽い障害者手帳取れるかもしれないくらいにはさ」

 

「おいおいマジなのかよ」

 

「うんうん、とにかく何もかもが最悪だぜ。でも、味方はうまく特別ルールを活かした戦い方をしてたぜ」

 

「そうだよな、フットサルで優勝したんだろ?」

 

「ああ、あいつの特別ルールをうまく使ったんだ」

 

「なるほどねえ、時にはそういう配慮も必要ってことか」

 

「しかし、あいつも変わったよな。以前だったらよ、物凄い勢いで怒っただろうに」

 

「俺さ、あいつ可愛いと思うんだよ」

 

「え!? でも中身は――」

 

「……俺は、中身も可愛くなってきてると思う。正体を知らなかったら、多分告ってたよ」

 

「……考え方の違いだな……」

 

 

 男子たちの噂話が聞こえる。「中身は男」という常套句に異論を述べる男子。

 私のことを、内面から認めてくれる男子も出てきたことを知った。とても嬉しかった。

 だけど男子にある呪縛、それは私の自業自得だけど、それでも生易しく解けるものじゃなかった。

 まだまだ少数派だったみたいだし。

 

 

 昼食休憩はチームのみんなと食べた。

 実はチーム編成が決まる直前までは、球技大会のチームは旧桂子ちゃんグループと旧恵美ちゃんグループでチームを組み、私は桂子ちゃん側のチームに入る予定だった。

 しかし、グループが和解・解散したことで、雪解けの象徴としてあえて4人ずつで混ぜてチームを組んだ。

 私が含まれていないチームの方でも、和気藹々とご飯を食べていた。

 

 私達も、それぞれが思い思いにご飯を食べる。学食は混雑が予想されたので、それぞれお弁当を持ってきたんだ。

 手作り弁当の子も入れば、コンビニ弁当の子も居た。ちなみに、私は母さんと一緒に作ったお弁当だ。

 

「優子ちゃん、この弁当はどうしたの?」

 

「私とお母さんが作ったんだよ」

 

「へえ、そうなんだ。優子ちゃん、家事もやったんだっけ?」

 

「うん、このくらいの料理なら作れるんだけど、やっぱり母さんにダメ出しされちゃったよ」

 

 ただ、カリキュラムの範疇は超えていたので、そこまで厳しく言われなかった。

 私は相変わらず土日を使って母さんと一緒に家事の手伝いをしている。

 そのおかげで、家庭科の成績は良くなりそうだ。

 

「桂子ちゃんのお弁当は?」

 

「弁当箱は使いまわしだよ。で、この弁当もいつものパターンだから」

 

「そ、そうなんだ」

 

「なあ優子、お前少し量が少なくねえか?」

 

 今度は恵美ちゃんが声をかける。

 

「どうもこの体、結構少食なのよ」

 

「にしたってちょっと少ないような気もするけど……」

 

「まあ、午後も運動があるからね」

 

「夕食はもう少し多めに食ったほうがいいぜ」

 

「そ、そう……」

 

「優子はただでさえ身体弱いんだしさ、食べる量まで減っちゃったらますます虚弱になるぜ。しばらくは腹十分目でもいいと思うぜ」

 

「うんうん、今はまだ学校生活に支障はないけど、将来仕事する時にあんまりにも弱いと大変よ」

 

「……う、うん」

 

 確かにその通りだ。少しは体を強くしていかないと、幸い病気にはまだなってないけど。

 

 会話に熱中しすぎて午後に間に合わなくならないように注意しつつ食べ終わる。

 身体を休めて、午後のバスケに臨みたい。


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