永遠の美少女になって永遠の闘病生活に入った件 作:名無し野ハゲ豚
「うわぁ……すごい人の数ね。合戦ができそうだわ」
永原先生が、思わず驚嘆の声をあげた。
そこには広大な空間に2000人を超えようかという大集団が出来ていて、さっきの公園よりも遥かに広い空間が、手狭になっていたた。
どうもあたしたちが来る前にも、ここへの大移動があったらしく、この前首相官邸で会った国会議員3人の姿も見えた。
また、公園の外側には、さっき移動した高島さんを含めてメディアの姿がある。
蓬莱教授のスパイから、「敵は多くても200人足らず」との情報が加えられたから、こちらは既に10倍して余りある人数だった。
ちなみに、その情報はデモ隊全体にも伝えられ、士気が大いに向上した。
「さてデモコースだが……」
当初は、両デモ隊が鉢合わせになるように計画したわけだけど、それはうまくいかなかった。
しかし、あたしたちには嬉しい誤算がある。それは──
「敵のデモ隊はここをゴールにしているということだ。しかもこちら側から見て右から左に」
敵方のデモコースは、スタートが公会堂のある公園で、ゴールがこの公園になっている。
この公園は、敵方の屋外公会堂と比べれば狭いが、ここでさえ、今のあたしたちには正直手狭に感じる。ゴール地点はもっと広い所じゃないと、飛び入り参加を受け入れきれない危険性がある。
「今、瀬田君が警察と交渉をしてくれている……お、噂をしてたら来たぞ」
「教授、警察側としても、『この人数ならば、ゴール地点の変更はやむ終えない』とのことです」
走り込んできた瀬田助教がほくほく顔で成果を報告する。
「でかした!」
警察側も、人口密度によるリスクを認めてくれたみたいね。
「よし、じゃあ本格的に、挺団分けに入ろう。シュプレヒコール役の挺団長と、列を管理する挺団長に分けたいと思う。まず、我々の発表するこのデモの人数だが、警察発表をそのまま垂れ流すことにしよう」
「え!? いいんですか?」
主催者発表は、大体警察発表よりも多目に出すものという相場がある。
ところが蓬莱教授は面倒くさいのか警察発表をそのまま主催者発表にしてしまおうとしている。
「今、伝令役の人がお巡りさんに何人くらいの参加者か聞いている。もちろん、まだ確定ではないが。まあ、ざっと見た感じで、仮に2000人としよう」
蓬莱教授が紙に出す。
「うん」
「まず、先頭の第1挺団、5人を1列として100列、これを1個挺団とするだろ?」
「第1挺団の一番前と二番目は、いわばデモの顔だ。横断幕も持つ必要がある。中央左に俺、更に道路側に優子さんと浩介さん中央右には挺団長役の永原先生、彼女にシュプレヒコールをお願いしたい」
そうすると、一番右が余るわね。
「そして、2列目と合わせて残り6人だが、今回のデモに参加することになった議員連合の国会議員3人を入れよう。そして残りの3人だが……永原先生」
「はい」
蓬莱教授が近くで聞いていた永原先生を呼ぶ。
「協会の方からは、何人が来ている?」
「171人です」
凄いわ。普段の会合でもそんなにいないのに!
「よし、じゃあ協会の中でも選りすぐりの美少女を3人集めてくれ」
「……分かりました」
更にデモ隊の道路側には、見栄えを良くするために全ての梯団になるべく均等に協会の会員を置くようにするという。
全体の比率では、男性の参加者が多く、大半はTS病患者のナンパなどを目的とした人々だ。
しかし、この手の運動では、数こそ力になる。
烏合の衆であることは確かだが、外観さえよくするれば、何とかなるわね。
「列管理上の第1挺団長は、瀬田君にお願いする。他の列管理上の挺団長を束ねる役割もかねてもらうから、他の列管理役の梯団長を研究所から適当な人間を選んでくれ」
「……分かりました」
そう言うと、瀬田助教はある集団の中に入っていく。
「第2挺団は日本性転換症候群協会を挺団の顔にする、挺団長は比良さんにお願いしたい」
「分かりました、比良さんに伝えておきます」
「うむ、頼んだ」
永原先生が、その場から去る。
第2挺団の先頭は、他に余呉さん、歩美さんが加わることが決定した。
ちなみに幸子さんとその彼氏の直哉さんは、あたしたちと同様に、隣り合わせで最前の2列目に来ることになった。
続く第3挺団は佐和山大学の挺団で、こちらは学長を含む大学の教授陣で最前列を埋め、一番前道路側の2人のみ、桂子ちゃんと龍香ちゃんが担当することになった。
ここでシュプレヒコールをする挺団長は、桂子ちゃんが大抜擢になった。
桂子ちゃんはビックリしていたけど、やはりこういうのは美人の女性がするべきなのよね。
また、前方の列も、研究室の関係者や在校生、卒業生で固める方針をまとめた。
そして、第4挺団は小谷学園が挺団の顔になる。
こちらの先頭列は、小谷学園の元校長先生や永原先生以外の教師陣を先頭に、小谷学園の在校生や卒業生を前方の列に集中配備することになった。
女性ばかりに挺団長をさせてもまずいので、ここの挺団長は現校長先生が担当することになった。
ちなみに、永原先生と蓬莱教授の策略もあって、卒業生なのに在校生を装うために制服で来ている人もいた。要するに「子供」を演出し、「子供が不老を求めている」というプロパガンダに使うためである。
もちろん、それぞれの挺団の中には、「雑兵」を多数仕込むことになる。
というよりも、全体の構成員としては、どの梯団も「雑兵」が圧倒的に多数派になっている。
「よし、こんなところだろう」
蓬莱教授が中核となるメンバーに対して構想をまとめると、あらかじめ用意してあった箱の台の上に立つ。
「えー、皆さん! 本日は反蓬莱連合へのカウンター集会のため、不老の薬の実現のため、貴重な時間を割いて下さいまして、誠にありがとうございます」
デモの参加者は、時を追うごとに大人数に膨らんでいる。
それでも参加者たちは、マイク越しの蓬莱教授の声が聴こえると一斉に蓬莱教授の方へ向き直る。
「皆さん、蓬莱の薬は、必ず国益になります。我々の生活を、豊かにします。社会保障費が大幅に削減され、科学技術や公共事業に、多くの予算が使われることになることでしょう!」
蓬莱教授の演説は、総理大臣との会談の内容も含まれている。
「皆さん、老化しないで、いつまでも健康な体でいられるって、素晴らしいことですよね! それを科学的に実現できる時が来ているのです! それを! 非科学的な宗教や、あるいは個人差のあるイデオロギーで妨害することは、決して許されないばかりか、これは基本的人権のもっとも基本的人権である、生存権の侵害に他ならない!!!」
「そうだー!!!」「そうだー!」
蓬莱教授の演説で断言すると、周囲からも「そうだー!」という声が聞こえてきた。
「今、我々は人間の寿命を1000歳とする薬を開発している。しかしそれだけでは足りない! 完全なる不老の実現に向け、TS病の人たちとも同じような時を過ごすためにも、今日は皆さん、俺に力を貸してください!!!」
「「「おーーー!!!」」」
蓬莱教授の力を求める声に、集団が割れんばかりの歓声をあげて応える。
蓬莱教授も、この手の活動をするのは初めてのはずなのに、本当に凄いわ。
「では次にですね、日本性転換症候群協会から、永原マキノ会長が来ていらっしゃいます。永原先生、よろしくお願いします」
永原先生が壇上に上がり、蓬莱教授がマイクを渡して下に下がる。
後ろの方に控えていたマスコミのカメラマンさんたちは、慌てて機材を片付けにかかった。
「はじめましての人ははじめまして。2回目以降の人はこんにちは。日本性転換症候群協会の永原マキノです。私はTS病と言われる、体が女の子になり、老化しないでずっと生き続けるという病気になりました。この闘病生活は生きている限り続きます」
永原先生の話を、みんなで注視する。
「私の人生について、皆さん知っているでしょうか? 恐らく、知っている人が殆どだと思いますが、知らない人のために説明しますと、私は永正15年に、現在の長野県上田市で、真田家が治める村の足軽として生まれました。永正15年というのは西暦に直すと1518年ですから、私は現在503歳ということになります」
この辺りは、まだそこまで動揺の声が漏れない。
以前にも鑑定番組でやっていたことだし、既に現実にもよく知られているものね。
「私は、戦乱の時代から江戸時代、そして明治以降も、多くの私より後に生まれた人々が老いで死んでいきました。今私は小谷学園で教師をしていますが、教師を始めたのは、既に約140年前のことになります。ですから、もう死んでしまった教え子の方が、数としては多いでしょう」
永原先生の話は、不老故の重さを醸し出している。
しかしそれらは、「みんなが不老ならどうってことない」ものであるところが味噌だ。
「私たちの協会に、江戸時代の天保生まれ、181歳になる副会長さんがいらっしゃいます。彼女は結婚し、子供を産みましたが、子供は既に寿命で全滅し、孫も、そして最近ではひ孫も全員この世にはもういないとのことです。こうしたことは、蓬莱先生の研究によって、確実に防ぐことが可能になるでしょう」
永原先生が、そう話すと、周囲もうんうんと頷いている。そう、最後の一言が重要なのだ。これで印象がガラリと変わる。
蓬莱教授とはまた違ったアプローチの仕方を、永原先生は行っている。
「私たち日本性転換症候群協会は、蓬莱教授の研究に、協力していきたいと思います。今回、私たち協会は、全会員の過半数にあたります171人が参加します。今回はその中で代表して、篠原優子さんにスピーチをお願いします」
事前の予定通りあたしが指名され、壇上に立つ。永原先生からマイクを受け取り、注目を一斉に浴びる。
こうやって大勢の前でスピーチしたのは、小谷学園の卒業式の時以来だった。
「皆さん、ご紹介にありました、日本性転換症候群協会広報部長の篠原優子です」
「うひょー!」
「かわいー!」
あたしが壇上に上がると、一斉にそんな声が聞こえてくる。観客の声は壇上からだとより響くわね。
聞こえなかったけど、恐らく永原先生も同じだったんだと思う。
「それでですね。あたしの人生について、今回話したいと思います。あたしは元々、石山優一という名前でした」
その後は、あたしがいつもしている人生のこと、女の子になって辛かったこと、良かったこと。
最終的には愛する男子と結ばれて、今は結婚3年目だということを話す。
「今回、反対派の集会には、あたしたち協会によって葬り去られたと言っていいでしょうフェミニズム団体が多数参加するとのことです。あたしたち、日本性転換症候群協会としましては、男の体から女性になり、男の心のまま過ごしていくことは不可能だということを知っています」
周囲も、あたしの話を真剣に聞いてくれている。
「女性の心をもって生きていかないといけません。それ以外のTS病患者が迎える結末は、例外なく『死』でした。あたしたちTS病患者は、これまでの歴史上、たった1人の例外もなく、フェミニストになった人間はいません。それは、男と女の違いは、皆さんが考えている以上に大きいからなのです」
「……」
このあたりは、当事者故の権威主義になってくるけど、仕方ないわよね。
「実は、協会に反フェミニズム声明を提案したのもあたしです。あたしには、健全な次世代の患者のケアのために、どうしてもフェミニズムの排除が必要だったんです。あたしがこの協会に入る前、患者の自殺率は50%を大きく越えていました。ですが、今は殆ど0です。この流れを、逆流させてはいけません!」
「そうだー!」
あたしの演説にも、いい感じで激励が飛んでくる。
「あたしには、旦那さんがいます。蓬莱教授の薬の実験に協力して、未完成の蓬莱の薬を飲んでいます。でも、未完成ではダメなんです。完成させなければ、あたしはいずれ、浩介くんとバラバラになり、未亡人がずっと続く運命になるんです!」
あたしはかねてより、前半は理性に、後半は感情に訴えかける。
本当は感情論はよくないけれど、これも仕方ないわね。
「皆さん、あたしのこの運命を変えるためにも、蓬莱教授に力を貸してください!」
「「「おーーー!!!」」」
あたしが頭を下げると、観衆のボルテージが更に上がっていく。
「次にですね、テニスの田村恵美選手から、応援のメッセージが届いています」
そして次に、恵美ちゃんから貰った応援文を読み上げる。
あたしが、実は恵美ちゃんが元クラスメイトということを話すと、「おー」という声が方々から上がっていた。
「では、次の方に変わりたいと思います。今回はですね、国会で出来ました、蓬莱教授の研究に協力する超党派の議員連盟からですね、与野党の枠を超えて、3人の国会議員の皆さんが来ていらっしゃいます!!!」
「うおおおおおおお!!!」
あたしがそう宣言すると、デモ参加者たちは、更に士気が上昇する。
何せ国会議員の権威は絶大だ。しかも超党派の議員連盟なのだからなおのことよね。
どうやら、「国会議員までこのデモに参加してくれている」というのは、とても安心できるわね。
あたしがまず、最初の与党の女性議員さんにマイクを渡し、壇上から降りる。
「ご紹介に預かりました、衆議院議員の──」
「ふう」
「優子ちゃんお疲れ」
あたしが下に降りると、すぐに浩介くんがあたしを労ってくれた。
ペットボトルをくれたのでありがたく飲ませてもらう。
「女はいつまでも若くきれいで美しく! それを求めるのは、当然の欲求です! 何も、恥ずかしいことはありません! ババアになりたくない! ずっとずっと美人になりたい! それを望むことの何が悪いんですか!?」
壇上では、女性議員の演説が続いている。
ここでは、男性の声よりも女性の参加者たちが賛成の声をあげている。
そう、女性だって、多くのサイレントマジョリティはそう思っていた。だからこそ、美容と健康は気遣われていたのだ。
「ふう、全くその通りよね」
あたしも、この女性議員さんの言い分は正論だと思っている。
というよりも、そう思えない方がむしろ異常と言っていいかもしれないわね。
「『ありのままでいいじゃないか』って言う人がいます。だったら私たちはありのままに、TS病は羨ましい! いつまでも若くきれいで清く正しく美しく、女に生まれたんだから、いつまでも女の子らしくなりたいと、女性が女性らしくなりたいと思うことの何が悪いのかと、そう叫ぼうじゃありませんか!!!」
「そうよ!」
「ええ!!!」
この人が言いたいのは、欲望に正直になろうということ。
声の大きな少数派の対策には、多数派が声を張り上げるしかないのだ。
つまりは、「ノイジーマジョリティ」を作り出すしかない。
「さあ、蓬莱教授の薬を完成させて、みんなで美人を目指しましょう!!! 次の方に代わります」
女性議員が降りると、今度は野党の女性議員が壇上へと上がる。
「えー皆さん、衆議院議員の──」
そう、この議員さんは、前の議員さんとは政敵同士で、この前も国会中継で激しく論戦を戦わせた。
「私は、確かに彼女とは敵同士です! それははっきりと宣言しておきましょう」
ワハハハハ
その宣言に、集団からは、笑いの声も漏れている。
「ですが!!! 今回の蓬莱教授の実験、不老研究の成功! それを支援すると言う意味では、仲間です! 共に戦っていきたいと思います!」
パチパチパチパチパチ!!!
観衆からは、割れんばかりの拍手が巻き起こる。
あちこちから、「よく言った」「見直したぞ」という声が聞こえてくる。
それらの声がどこまで本気なのかは分からないが、少なくとも僅かながら、女性議員の印象も良くなっただろう。
「私も、声を大にして言いたい! 私だって、女性なんですよ! 男性に好意を持って貰えるのは嬉しいんです! 旦那がいるとかいないとか、そういうのは関係ないんです! このデモには独身女性の方もいるでしょう、私は声を大にして言いたい。100人の女性に嫌われようとも、1人の男性に、そう自分の彼氏、あるいは自分の旦那に好かれた方が嬉しいんだって! 女だって、男が好きなんですよ! 男に媚びることの、ぶりっ子の何が悪いんですか!?」
見た目は国会議員なので当然「おばさん」何だけれども、そのあまりの正直さに、男女問わずに歓声が飛び交っている。
「すげえ演説だな」
「ふふ、浩介くん。あたしも女の子よ。乙女はみんな、素敵な男の子に捕まえられるのを待ってるのよ」
あたしが甘い声で、「ぶりっ子」しながら浩介くんに近付く。
「うっ……でも優子ちゃんは──」
「ふふ、あたしはもう浩介くんに、捕まっちゃったわー」
あたしは左手薬指の結婚指輪を浩介くんに見せる。
気持ちは本心だけど、男を刺激するためにぶりっ子の口調になっていることに、男特有のおバカを発揮している浩介くんは全く気付かない。
「うっ、優子ちゃん、いちゃつくのは後にしようよ」
浩介くんが顔を赤くして訴えてくる。
「あーうんそうよね」
あんまり意地悪しちゃかわいそうだものね。
「──を持って、私の演説を終わりたいと思います」
パチパチパチパチパチ!!!
さっきよりも激しい拍手と共に、次に与党の男性議員が演説し、最後にもう一度、蓬莱教授が壇上に立つ。
これから、デモ行進が始まり、反対派に致命的な打撃を与えに行くことになっている。