永遠の美少女になって永遠の闘病生活に入った件 作:名無し野ハゲ豚
大会議のことは、翌日には早くも大きな動きが見られた。
朝のニュースで、テレビが速報として、「総理大臣が閣僚を集め、佐和山大学の蓬莱教授、日本性転換症候群協会の永原マキノ氏らと会談し、『蓬莱の薬』が一般に普及した後のことについて話しあった」と報じた。
そしてインターネットでもすぐにそのニュースが流れ、「ついに現実に近付いているんだな」とか「総理大臣も蓬莱教授の味方か」とか「反蓬莱連合涙目だな。今後世界はどうなるのかな?」といった声が聞こえている。
日本では、もはや世論の大半は蓬莱教授の研究に賛成とはいえ、諸外国のメディアは未だにろくな世論調査をしていない。
昨日の議論でも、諸外国の世論調査の話は出たが、公安調査庁でさえ把握していないということは、恐らく単純に世論調査をしていないというのが正しい認識だとあたしは思う。
さて、このニュースがいったいどう出るかしら?
「ねえあなた」
「ん?」
今日は義両親が外出しているため、浩介くんに昼食の片付けを手伝ってもらっている。
「今朝のニュース、海外の動向が重要になってくるわね」
台拭きの手を止めて浩介くんの方を向く。
「ああ、足場はすでに固めたからな。国際世論がどうであれ、蓬莱さんと総理大臣が毅然としていれば大丈夫さ」
浩介くんは、あくまでも楽観的だ。まあ、あたしとしても同意見なんだけどね。
蓬莱の薬が世間にもたらす効果は計り知れないし、以前から海外にもちょくちょく注目されていたものね。
あーでも、不老論争はまた別かもしれないわね。
「これで全部ね。浩介くんありがとう」
浩介くんと力を合わせて、食器を全て食器洗い機に入れ終わった。
「ふう、後は食器洗い機のボタンを押してっと」
ピッ……ウイーン!
そしてボタンを押せば、いつものように食器洗い機の動作音が聞こえてくる。
「ふー、少し休むわね」
少し休んだら、今度はお掃除しなきゃ。
「おっとその前に」
浩介くんがあたしの肩を叩いて呼び止める。
「あ、うん」
浩介くんがにやつきながら要求すること。それが──
ぺろーり
無抵抗のあたしは、浩介くんにスカートを掴まれ、ゆっくりとめくり上げられていく。
もちろん、浩介くんのお目当てはあたしのパンツの観察。
「優子ちゃん、今日はシンプルでかわいい純白だね」
あたしは、家事を旦那に手伝ってもらった見返りとして、スカートをめくる権利を浩介くんに提供する。
この、「旦那さんが家事を手伝う報酬はスカートめくり」というルールは、新婚1年目に決まったルールだけど、未だに続いている。
「ふえええん、わざわざ言わないでー! 恥ずかしいよおー!」
浩介くんがどんどんスケベになっているために、パンツを見られる恥ずかしさに耐えるのは新婚の時よりも難しくなっていて、あたしはやや涙声で恥ずかしさに耐えていく。
「ふー、かわいいかわいい」
浩介くんはひとしきりに満足すると、スカートから手を離してくれる。
「はぅー、やっと終わったー」
あたしはフラフラになってそのまま床にぺたんとへたり込んでしまう。
浩介くんが無言で頭を撫でてくれて、ますますあたしは心を奪われていく。
分かっている、本当はスカートをめくられても無反応でいれば浩介くんも自然と飽きてくることも。
だけど、あたし自身が浩介くんにスカートをめくられたがってしまっている。
その現実を自覚してしまえばしまうほど、あたしは浩介くんから逃げられなくなってしまう。
だからあたしは、愚かにも次に掃除の時にこんな依頼をしてしまう。
「あなた、こっちの部屋、ホウキとちり取りで掃除してくれる?」
「おっしゃあ!」
浩介くんが気合たっぷりの掛け声とともに、がむしゃらに一生懸命掃除してくれる。
掃除が終われば、もちろん待っているのは──
ぺろーん
「んっ……恥ずかしい、恥ずかしいよお……」
さっきよりも緩急をつけ、ゆっくりと焦らされながらスカートを持ち上げられてしまう。
あたしは、目を細めて涙目になりながら恥ずかしさに耐える。
「いやー、2回目もかわいいね優子ちゃん」
「ふええええん、恥ずかしいからまじまじと見ないでえー!」
大抵は、1回目よりも凝視され、長期間パンツを見られることになってしまう。
そして──
「あれ? もしかして優子ちゃん」
浩介くんが何かに気づいたように一気に顔をパンツに近付けていく。
「いや、やめて! 恥ずかしいから見ないでー! 見ないでー!」
一連の流れで興奮してしまっているあたしを、よりにもよって最愛の人に知られてしまうのが恥ずかしくて、あたしは顔を真っ赤に沸騰させながら、浩介くんに懇願する。
「う、優子ちゃん、そんな風に言われると俺──」
どうやらこれが、浩介くんの心の琴線に触れてしまうらしいわ。
分かってても、あたしはやめられないのよね。
「あなた……」
「はぁ……はぁ……我慢……できない……」
ガバッ!
「きゃあ!」
浩介くんにお姫様抱っこの形で体を持ち上げられ、どさくさ紛れにスカートもめくられて、パンツ丸出しにさせられてしまう。
あたしはとっさにスカートを押さえると、浩介くんは更に嗜虐心を刺激させられたのか、あたしの部屋のベッドに向けて走るスピードが速くなる。
「そーれ!」
「きゃあああああ!!!」
浩介くんにお姫様だっこの形から投げ飛ばされ、スカートが丸めくれになりながら、乱暴に、しかし受け身を考えられていてふわふわなベッドに着地する。
ガチャリ……サラサラ……
何かが外れる金属音と衣服が擦れる音がする。
「いいよな、優子ちゃん。俺、我慢できねえ……」
「はい」
浩介くんに甘い声でささやかれ、あたしは脳機能が低下し、理性の奥に隠れた、あたし本来の「メスの本能」が剥き出しになった。
「はぁ……はぁ……はぁ……もう、浩介くん。まだ日没前よ」
「うーすみません」
さっきまでのハイテンションが嘘のように項垂れた浩介くんが謝ってくる。
まあ、あたしもあんまり怒ってないんだけどね。
義両親がいない日って、いつもこんな感じ。
あたしから助け船を求めることもあるし、浩介くんから手伝おうとする時もあるけど、いずれにしても浩介くんに家事を手伝ってもらって、見返りに浩介くんにスカートをめくられてパンツを凝視され、あたしが恥ずかしい思いをアピールすると、浩介くんが我慢できずに「暴発」する。
ちなみに、私生活でもこれがあるので、あたしは私服でズボンを穿く機会が殆どない。
このルールは、あたしがズボンの時は胸かお尻を触られることになっている。
実際にはスカートの時でもそれで代用できるんだけど、浩介くん曰く、「優子ちゃんの反応としては、やっぱりスカートめくりが一番かわいい」とのことだった。
そのせいで、あたしは浩介くんに喜ばれたいために、スカートを選ぶことが自然と殆どになってしまっている。
「でもよ、夫婦円満のためには、これも必要だって」
「う、うん……」
そう、夫婦仲維持のためには、こういうえっちなことにどれだけお互いが満足できるかというのは、とても大切なことになるのよね。
「さ、お互い落ち着いたところでニュースの反応を見ようぜ」
欲望を発散すると、一気に冷静になるのも、男の子らしいわよね。
「そうね、じゃあまた情報集まったら集合で」
あたしは浩介くんとは別に、パソコンを開いて海外の反応を検索しようとする。
海外メディアで「Horai」と検索したが、どうやらまだあんまり注目されていないのか、記事ができていないのか、総理大臣との会談を報じたメディアはない。
もしかしたら、薬を融通してもらえないことを警戒しているのかもしれないわね。
他の国内メディアのニュースでも、大々的に取り上げている割には軒並みストレートニュースもしくは蓬莱教授に肯定的な報道に一貫している。
「うーん、それにしたって不気味だわ」
国内ならともかく、海外のマスコミに報道命令を出すわけにもいかないし、もしかしたら報道されてない方が蓬莱教授には有利かもしれないわね。
海外の世論、インターネット上では海外も含めて明らかに蓬莱教授に優位と見えるけど、実際の所は分からない。
結局、あの後有力な情報もつかめず、あたしたちは不気味な日々を過ごしながら、4月の新年度を迎えた。
「えーではですね。我が研究棟に、新しい仲間が加わりました」
蓬莱の研究棟、今日からあたしたちはここに正式に配属になり、卒業論文を書くことになる。
とはいえ、あたしたちのすることは、講義を受けることも多い。
あたしと浩介くんも、前期にはまだ達成していない単位を取らなきゃいけない。
「ふー、さてと」
他の学生が全員研究棟の1階から出ていくと、蓬莱教授があたしたちに向き直る。
「ここまでが、普段大学4年生及び修士課程の人が入れる領域だ。だが君たちは、俺の研究への当事者だ。将来のためにも、この奥を見ていって欲しい」
蓬莱の研究棟は6階建てで、1階が蓬莱教授の私室とプロパガンダエリアだ。
2階が主に講義室や会議室になっている。
3階には実験室や研究成果として蓬莱の薬の製造と保存、他にもコンピュータなどがあって、一般公開できる研究は全てここに集約されている。
他にも、蓬莱の薬を飲んだ人もここで検査を受けることになっている。
4階が主に研究室の所属者が研究以外の用途で使う所で、浩介くんも所属する宣伝部や、予算の管理部などもここにある。
従来のあたしたちが今まで入れたのはここまでだった。
「これから行く5階と6階は、主に研究の中枢だ。ここではマウスを使った実験や、君たちの細胞を活かした研究が進められてるぞ。蓬莱の薬も、全てここで生まれたんだ」
この研究室の中枢は、博士課程の人と、研究員の人しか入れない。
蓬莱教授がエレベータに案内してくれる。
このエレベータ、行先階がタッチパネルになっていて、1から4までしか無い。
蓬莱教授がパネルの別の場所に手を触れると、少し遅れて「認証しました」という声と共に5と6の数字が浮かび上がった。
「ちなみに、テロリストが俺を殺してかざしたとしても、警備室の監視カメラで見られているのでそこで弾くことができる」
蓬莱の研究棟のエレベータでは、5階と6階は生体認証がないと入れない。
また常用の階段は4階までしかなく、4階から5階へは扉らしきものがあるが、かなり固く閉ざされている。
そして非常階段の扉には、常に監視カメラがあって、4階の警備部で侵入者が居ないかどうか常に監視しているという。
ピンポーン
「5階です」
エレベータの声と共に扉が開く。
5階のエレベータの前には、空のパネルがあった。
「さ、優子さんと浩介さんにも、ここへの通行を許可しよう」
蓬莱教授が指紋認証を促され、あたしと浩介くんが指紋を取る。
機械音声で「登録しました」と言われ、これでいつでも通行が自由になった。
こんな厳重な所に通してくれるのは、蓬莱教授の信頼の証でもあるわね。
「研究所の情報は極秘なんだ。だからここのパソコンはインターネットにも繋いでない。あるのはクローズドなネットワークだけだ」
物々しい雰囲気だけど、それでも中は独特の緊張感を内包しつつ、表面上では意外と緩んでいた。
「あれでも皆しっかりやってるんだ」
表面上の身だしなみに惑わされない蓬莱教授らしい発言だわ。
「ふう、皆さん待たせた」
蓬莱教授が研究所の一室を開ける。
そこでは、全員が顕微鏡の画面と格闘していた。
「あ、蓬莱教授」
「どうかね? 今度の理論は?」
ここで、蓬莱の薬が作られているのね。
「ええ、残念ですが、全て失敗のようです」
「まあ、予想はしていた。プランFに移動しよう。こっちの方がまだ可能性は高いだろう。それよりも、君たちに紹介したい人物がいる」
蓬莱教授があたしたちのことを紹介してくれる。
「おや、篠原夫妻ですか。あー、もうそんな時期なんですね」
「はい」
どうやら研究棟の人は、あたしたちのことを知っていたらしい。
まあ、当然と言えば当然よね。これでも大学一の有名人な訳だし。
「やっぱり、別の形式があると思うんだよなあ……」
蓬莱教授が、小さく呟く。
恐らく、蓬莱教授はγ型の遺伝子方式の存在を疑っているんだと思う。
「ですが、このままでも、1000歳の薬までは──」
「それでは意味がない。あくまで必要なのは『不老の薬』だ。それを達成できないということは、まだ何かが足りないという意味だ」
蓬莱教授が軽い口調でそう言う。でも、中身は深刻そのものだわ。
「ともあれ、頑張ってくれ。俺の実行したプランF、しくじらないでくれよ……まあ、俺の理論が間違ってたら、どうしようもないがね」
「「「はい!」」」
蓬莱教授が、研究員たちに新しい指示を下し、あたしたちはこの場を後にする。
「邪魔したな」
蓬莱教授に見送られ次に6階への階段を上る。
「実は5階と4階の間には扉があるが、非常時には自動で開くことになっている。そうでなくても、内側からなら簡単に開けられるからな」
蓬莱教授の説明と同時に、あたしたちは最上階へと上がっていく。
「蓬莱教授、ここは?」
「基本的に5階でやっていることと変わらんよ。あちらが実証的な実験だとすれば、こちらはコンピュータを使った理論実験だ。で、ここが俺の今までの研究の資料室だ」
蓬莱教授によれば、卒業論文や修士論文を書く際には、ここへの立ち入りを許可することもあるという。
「俺の作った薬を飲んだ人の寿命を推定したのも、TS病患者が理論上何年でも生きられると証明したのも、俺の研究成果がまだ不十分だと示しているのも、ここのコンピュータによるものだ」
「そうだったのね」
恐らく、比良さんと余呉さん、永原先生の年齢もこういった研究成果の分析で証明されたものだと思う。
「さて、ここまでで何か質問はあるかな?」
「「うーん……」」
あたしと浩介くんが質問内容を考える。
「あー、無理に考えなくてもいいよ。質問のある学生なんてそうそう──」
「蓬莱教授」
蓬莱教授が止めようとしたその刹那、あたしは言いたいことを思い出す。
「お、優子さん、どうしたのかな?」
「ここ資料室となってますけど、もう1つ、何かさっきから音が聞こえる部屋があるんですが?」
あたしがそう質問する。
「ああこれかい、そう言えば言い忘れていたな。まあついてきてくれ」
蓬莱教授が、あたしたちを促してくる。
あたしたちがついていくと、そこには大きな機械があった。
いや、機械というか、これは高校の教科書で見た──
「蓬莱さん、これはまさか、スーパーコンピュータじゃ!?」
「その通り、うちの大学にもう一つある、大学の教授たち共用して使っているスーパーコンピュータよりも性能がいいんだ。俺はこれを使って理論を弾き出すんだ。まあ、さっきの研究室を見て分かるように、コンピュータの理論通りにはなかなか進まないがね」
やはり、AIは万能ではないらしい。
「さて、ここで俺の研究室の終点だ。立ち入りを許可するといっても、実際にここに立ち寄る機会は、博士課程まではそうそう無いと思うが……もし立ち寄った時は帰りはなるべくエレベータを使ってくれ」
「「はい」」
あたしたちは研究所を後にして、講義へと向かった。
実験がないというだけで、心理的には大分違う。勉強する負担も、かなり減ったと言えるだろう。
「卒業論文、どうしようかしら?」
昼食後、研究室の3階の部屋で、他の学部生や大学院修士課程の人と一緒に休息を取る。
今日は午後にもう1つ、蓬莱の研究棟で、蓬莱教授の講義がある。
「違うテーマにしなきゃいけねえしな」
あたしはもちろん、TS病患者が持っている不老のメカニズムに関する論文を書こうと思う。
蓬莱教授の論文や文献を、多いに参考にさせてもらおう。これまでの実験などで提出したレポートが、助けになるわね。
「卒業論文は、蓬莱教授は結構厳しいけど、単位を落とすことは少ないから安心していいよ」
「あ、和邇先輩」
あたしたちに話しかけてくれたのは、今年で修士2年になる和邇先輩だった。
和邇先輩は、蓬莱教授に目をかけられていて、このまま博士まで行くらしい。
「まあ、いわゆるC判定は簡単に取れるけど、B以上は難しいってやつだ」
「成る程ねえ……」
その蓬莱教授の講義でAをたくさん取れたのは運が良かったわね。
「でもよ、篠原夫妻は優秀って聞いてるし、卒論くらいならそんなに悲観しないでいいよ」
「う、うん……」
とはいえ、ベストを尽くした方がいいのは確かだ。
不老のメカニズムとしては、α型とβ型がある。
今度永原先生に確認して、結核に感染した時の事を、詳しく聞き取る必要があるわね。
後はそうそう、歩美さんにも協力してもらわないといけないわね。
「ねえ浩介くん」
「ああ、俺は俺で、別のテーマを考えておくよ」
浩介くんは、あたしが心配そうにしているのを見抜いたのか、優しそうな声でささやいてくれる。
「ありがとう」
ともあれ、テーマが重ならなければ、あたしたちは大丈夫なはずだわ。
「ふう、でもテーマが早くに決まってよかったわ」
α型とβ型を、蓬莱教授がどう区別したのか、そして蓬莱教授が考えているγ型の存在可能性について、あたし自身で色々考えて、テーマとしてまとめよう。
まだまだ4月で時間もたっぷりあるわ。行き詰まりそうだったら、蓬莱教授に相談すればいいわね。