永遠の美少女になって永遠の闘病生活に入った件   作:名無し野ハゲ豚

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夏の夫婦旅行1日目 遺産を活用して

「ふう、結構暑いな」

 

 浩介くんが開口一番、そんなことを言う。

 9月とは言え、まだまだ残暑厳しい所がある。

 これから山岳地帯に行くということで、今日は普通の服だけど、明日以降はそれ相応の服装をして行くことになっている。

 

「関東ほどじゃないけど、まだまだ残暑よね」

 

 とはいえ、富山駅は町中にあるため、ここには山のような寒さはない。

 今日は早めの宿ということになっているため、これからの予定は「富山ライトレール富山港線」に乗って宿泊ということになる。

 

「えっと、ライトレールはっと」

 

「こっちか」

 

 浩介くんが駅の案内図を見ながら進む。

 首都圏の大きな駅はあまりにも複雑で案内表示を見ても分からないことがあるけど、地方の駅は大きな駅でもそこまでの複雑さは持っていない。

 富山ライトレールは「富山駅停留場」と言うくらいなので、駅構内の案内を見ていけば自ずと目的地が見えてくる。

 

「よし、ここだ」

 

 浩介くんが、乗り場に案内してくれる。

 そこはいかにも近代的な感じの乗り場だった。

 今はちょうど、次の電車の入線を待つ時間になっている。

 そして、線路の向こう側を見ると、どうやら路面電車になっているらしい。

 

「永原先生によれば、ここは元々『富山港線』っていう旧国鉄とJRが運営していたローカル線だったらしいんだ」

 

 浩介くんがまたメモ帳を読みながら話す。

 

「富山港線? でも何で路面電車が?」

 

 聞き慣れない名前だけど、国鉄が路面電車なんて運営していたのかしら?

 そんな感じじゃないのに。

 

「あーいや、最初から路面電車じゃなかったんだよここは」

 

 浩介くんが衝撃の事実を話してくれる。

 えっと……路面電車じゃなかったのに路面電車になったの?

 

「え!? どういうことなの!?」

 

 まあ、あり得ない訳じゃないとは思うけど。

 そもそも、路面電車じゃないならその線路活用すればいいのにと思ってしまう。

 

「ああ富山港線は元々単線のローカル線で、富山の市街地を通るのに本数も少なかったんだ。利便性もないってことで2006年に廃線になったんだけど」

 

「うん」

 

 つまり国鉄、JRの富山港線としては廃止になったというわけね。

 

「実はその2年前にこの富山港線を引き継ぐ形でライトレールの運営会社が設立されて、LRTに生まれ変わることになったんだ」

 

「へー、そうなのね」

 

 浩介くんが、この「富山ライトレール」の成り立ちについて話してくれる。

 2006年ということは、もう16年も前の話になるから、あたしたちは小学校入学前の話よね。

 

「お、来たわよ」

 

 あたしたちは、やって来た車両を見る。どうやら富山駅を挟んで南北に路面電車が直通しているらしいわね。

 それは低い床の路面電車だった。

 いわゆる、昔の漫画に出てくるような路面電車とは全く違うわね。

 段差もなくて、バリアフリーが徹底されているのが分かる。

 

「よし、これで終点まで乗ってみよう」

 

「はい」

 

 浩介くんが、終点まで乗るという。

 路面電車ということなので、所要時間はそこまでかからないだろう。

 ともあれ、このライトレール、どんな感じになっているのかしら?

 

「路面電車になったのは、富山駅からの線形を変えた結果なんだ。で、次世代型の路面電車にしたことで、駅が増えた上に列車の本数も3倍になったんだよ」

 

 座席に座った浩介くんが、さっきの話も続きをし始めた。

 

「さ、3倍!?」

 

 確かに普通の鉄道よりは定員は少なくなるとは言っても、3倍とはまた思いきったわね。

 

「で、JR時代よりも格段に利用客も増えて、大成功を納めたんだ。これが、富山市が掲げる『コンパクトシティ』への布石になったわけだ」

 

 浩介くんのメモ帳をちょっと覗いてみる。

 見るとメモはここまでのようだった。

 

「へー、でもそもそもコンパクトシティって?」

 

 まあ、何となく意味は分かるけどね。

 

「うーん、要するに市街地を狭くして集中させるってことじゃない? そうすれば色々とやりやすいわけだし」

 

「ふむ」

 

 浩介くんの推測に、あたしも頷く。

 東京を中心とした首都圏の場合だと、それこそどこまでもどこまでも都市が続いているから分からないけど、地方だとまた違うのね。

 

「それから、このLRT……ライトレールの成功は、路面電車を見直すきっかけにもなったんだって」

 

 浩介くんがメモ帳の次のページに目をやる。

 本数が増えたことで、市街地での利用が特に盛んになったという。

 

「それまでは、『路面電車は交通渋滞を引き起こす』と言われて、どんどん廃止になったんだ。地盤的な理由で地下鉄を作ることが困難な広島には、たくさん残っているけどね」

 

 あー確かに、そんな風聞を聞いたことがあるわね。

 

「うーん、でも本当に渋滞を引き起こすものなのかしら?」

 

 確かに、こんな大きいのが道路に走ってたら車の交通にも影響しそうだけど。

 

「実はね、むしろ逆なんだよ」

 

 しかし、浩介くんから帰ってきた答えは意外なものだった。

 

「へー、それはまたどうしてなのかしら?」

 

 あたしも、興味津々になって聞いてみる。

 

「車内のお客さん、例えば通勤者100人を自家用車で運んだら?」

 

「えっと、親子や兄弟、夫婦で共働きとかでもない限りは100台の車が必要よね」

 

 もちろん、複数人で乗ることもあるとは思うけど。

 

「そうそう、もし3車線の道路だとしたら、34列、車1台に4人乗っていても9列必要だろ? ところが、この路面電車なら、少し詰め込めばたった1編成で100人運べるわけだ」

 

「そう考えると、路面電車ってすごいわね」

 

 でも、そう考えたらあたしたち首都圏の鉄道はもっとすごいと思うけど。

 そう考えると、あたしたちの地域を車通勤に置き換えたら、大変なことになりそうだわ。

 ……というか、都市が成り立たないわね。

 

「そういうことだ。渋滞のひどいある都市で路面電車を作ろうとした時に、『渋滞を悪化させる』というのは自家用車のユーザーが路面電車を全く使わないという誤った前提によるものなんだ」

 

「そういうことなのね」

 

 もちろん、そんなことはあるわけがない。

 いくら地方が車社会と言っても、路面電車を引けば、当然何人かがそちらにシフトしてくのだから。

 

「もちろん、バスや路面電車でも運びきれない時は、俺達が普段使ってる普通鉄道の出番さ。10両編成なら1000人を大きく越える量の人間を運べるし、そんな電車が数分おきに出ているんだぜ」

 

 鉄道の大量輸送能力は凄まじいものがあるわね。

 逆に言えば、自家用車がいかにスペースを無駄にするものかというのも分かる。

 もちろん、道路の張り巡らされ具合を考えても、自動車の方が小回りは聞くけどね。

 

「まもなく発車します」

 

 まもなく発車のアナウンスと共に、扉が閉められて電車が発車する。

 すると、電車は市街地の真ん中を堂々と走り始めた。

 路面電車ということで、線路の性質も普段乗っている鉄道とは全然違う。

 

「この辺りは、昔とは違うのよね」

 

「ああ、こうなったのはもちろん、ライトレールになってからだ」

 

 路面電車が、自動車たちと並行して進みながら走る。

 前方を見ると、信号機もあって、この列車もそれに従うようになっている。

 

  ピンポーン

 

「まもなく──」

 

 路面電車らしく、次の駅までの距離が短い。

 おそらく、LRTとなって新しい駅も増やされたんだと思う。

 

 次の駅で何人かが乗り降りする。会社の本社前らしく、単線の軌道にホームが左右に見える。

 

「道路の真ん中に駅ってすごいわよね」

 

「こういうのは正式には停留場とか電停何て言うらしい」

 

 浩介くんが、路面電車の駅の言い方について解説してくれる。

 最も、地方によって違うらしいけど。

 でも正直、自動車と事故にならないか冷や冷やしてしまうわ。

 今後路面電車のある街で乗るときには交通事故には気をつけないといけないわね。

 

 電車はその後も市街地を進むが、2つ目の駅に到着する時に、線路の様子が大きく変わった。

 

「あれ?」

 

 下の線路が、まるで普通の鉄道のような線路になった。路盤には石も詰められているし、車と共存していない。

 

「これがいわゆる『専用軌道』ってやつらしいな。さっきまでのは『併用軌道』って言うらしいんだ」

 

 あたしにも、聞いただけで意味は何となく分かる。

 つまり、あたしたちが普段乗っている鉄道も、この「専用軌道」と言ってしまってもいい。

 

「これって、まさか?」

 

「ああ、JR時代の富山港線の線路を、そのまま活用したらしい」

 

 浩介くんから出てきた回答は、あたしの予想していたのと全く同じだった。

 富山港線の時代からも駅間は短かったけど、ライトレールになってからは更にいくつかの新駅が開業したらしい。

 

 そして数駅後、単線による行き違いとして、対向列車が見えた。

 対向列車の車内を見てみると、そちらの方にもかなりの乗客がいるのが見えた。

 

「繁盛しているわね」

 

 地方の鉄道というと、人が少ないというイメージがどうしても付きまとってしまうもの。

 

「ああ、当初は富山県と言えば車社会の地方の中でも特に車社会だって言われていて、この富山ライトレールも開業前はうまくいかないんじゃないかって思われていたんだが、蓋を開けてみれば予想以上の成功になったんだ」

 

「へえ」

 

 地方と言えば自動車というのがあたしたちには当たり前になっているけど、そうでもないらしいわね。

 

 その後も、ライトレールは単線の線路を進んでいく。

 富山ライトレールの本社なども見えていて、終点に近付くにつれて乗客が減っていく。

 これは、この手の路線ではよくあることだし、あたしたちの乗っている鉄道も基本的には同じだけど。

 

 

「──まもなく終点、岩瀬浜です」

 

 浩介くんと車窓を見ながら楽しく話していたら、いつの間にか終点が近いというアナウンスが入ってきた。

 

「あ、浩介くん」

 

「おっと、終点か。実は終点にも利用促進のための工夫があるらしいぞ」

 

 浩介くんがメモ帳をしまいながら話す。

 

「へーどんな?」

 

「行ってのお楽しみだってさ」

 

 どうやら、永原先生もそこまでは解説してくれないらしい。

 まあ、当たり前かな?

 

「ふーん」

 

 ともあれ、あたしたちは左側に開いたホームに降りる。

 線路の終点は、ぽっかりと途切れていた。

 この終点の駅も含め、富山ライトレールの駅立ちは、ほぼシンプルな駅舎もない無人駅で占められていたけど、多分JRの富山港線時代も似たようなものだったと思うわ。

 あ、もしかしたら駅舎はあったかもしれないけど。

 

「ほら優子ちゃん、ここ」

 

 浩介くんがあたしに正面を見るように促してくる。

 

「わぁ、こんなにバス停が近いのね」

 

 駅にバスのターミナルが併設されているというのは、首都圏でも珍しくないけれども、こんなにすぐ近くで乗り換えができるのは首都圏には存在しない。

 

「今回はこれには乗らずに、もう一回運賃を支払って富山に戻るぞ」

 

「はい」

 

 浩介くんに誘導され、数点のいくつかの駅を携帯のカメラで写真に撮ってから、あたしたちはすぐに元来た鉄路を戻る。

 浩介くんによれば、「駅の南側にも、古くからの路面電車があるけど、今回は乗らない」とのことだった。

あの路面電車自体は、南側にもつながっているらしいけど。

 

 

 あたしたちは、夕方のうちに、ホテルに入って休息を取ることにした。

 ちなみに、明日もここに泊まるので、2泊で予約してある。

 

「ふー、疲れたー」

 

 あたしは、ベッドに腰かけてようやく安息を得る。

 

「明日明後日、特に明後日は朝早いから、ゆっくり休まねえとな」

 

 浩介くんも、隣のベッドでゆっくりと休む。

 

「うん」

 

 新幹線のグランクラスは快適だったし、ライトレールもとてもよかったけど、やはり昼食後に旅行に出発するってのは疲れるわね。

 

「んー」

 

 あたしは少しだけ、うとうとし始めてしまう。

 今寝ちゃうと、明日以降に支障が出ちゃいそうだし……そうだわ!

 

「ねえあなた」

 

「ん?」

 

 あたしは、スカートの中に自分で手を入れてこっそりノーパン状態になる。

 久しぶりに、肉食系女子になりたいわ。

 

「あたし、ちょっと今日は肉食になりたい気分なの」

 

「え!? じゃあ焼き肉店に行くか!?」

 

 あたしの甘えた声に対して、浩介くんは持ち前の天然ボケを発揮する。

 ふふ、かわいいわね。

 

「そうじゃないわよ。あたしが食べたいのは、あ・な・た」

 

 このホテルはそれなりの高級ホテルで、部屋も広く、隣に聞こえる心配はない。

 

「ふえっ!?」

 

 浩介くんが、驚いて裏返った声をあげる。

 あたしは浩介くんの顔に胸を当てて、そのまま体重で浩介くんを押し倒す。

 

「えへへ、いただきまーす!」

 

 ああ、美味しそうな身体だわ。

 

「あうう、優子ちゃんに食べられちゃうよー!」

 

 あたしは、主導権を握りながら、浩介くんを責め続けた。

 

 

 

「はぁ……はぁ……はにゃーごちそうさまでしたー!」

 

「はぁ……はぁ……はぁ……あうー」

 

 体力を極限までに搾り取られて、ぐったりと疲れ果てている浩介くんの上に乗りつつも、あたしも立てないほどに疲労困憊する。

 

「あなた、あたしに食べられるの好き?」

 

 甘い声で、あたしがささやく。

 

「うん、普段と全く違う一面が見えるから」

 

 普段は、あたしはどちらかと言うと、浩介くんに食べられちゃう方だから、こういうのは新鮮に写る。

 今までも、あたしが上に乗って浩介くんを翻弄することがあったけど、普段は力も性欲も強い浩介くんが主導権を握ることが多い。

 浩介くんにとって、あたしの方から襲われるのはいつもと違う感覚を強く受けるらしい。

 

「ふふ、ありがとう」

 

 自分で自由に動けるのはいいけど、体の弱いあたしにはかなりの負担でもある。

 

「それにしても、優子ちゃんってすげえよな」

 

 浩介くんが、息を切らせながら言う。

 

「えへへ」

 

「だってよ、これだけ鍛えてる俺が、こんなヘトヘトになるくらい何だぜ? 俺以外の男と結ばれてたら、その男は死んじゃってもおかしくねえな」

 

「あはは、そうかも」

 

 浩介くんは大学に入ってからも筋トレを続けていて、講義の合間や天文サークルでも、時間があればトレーニングを続けている。

 そんな鍛え上げた浩介くんでさえ、あたしの相手は大変らしい。

 だからもし、浩介くん以外の男があたしの旦那になったら、その男性は耐えられないのではないかと言っていた。

 もう、そんな風に考えていたら、ますます浩介くんから離れられないじゃないの。

 

「さ、ホテルのレストランに行ってみようぜ」

 

「うん」

 

 浩介くんの言葉と共に、服を着直してからホテルのレストランで夕食を取り、お風呂に入ってから、明後日を見越して早めに睡眠を取ることにした。


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