永遠の美少女になって永遠の闘病生活に入った件 作:名無し野ハゲ豚
「よし、富山駅はこっちだな」
「うん」
富山駅と言っても、今日乗るのは昨日乗ったJRでもないし、並行在来線の「あいの風とやま鉄道線」でもない。
あたしたちが今日これから乗るのは「富山地方鉄道本線」で、電鉄富山駅に行くことになっている。
そして電鉄富山駅に到着したんだけど――
「あれ? これ確か?」
「ああ、首都圏の鉄道会社のものだよな?」
あたしたちを待ち受けていたのは、一昔前に首都圏にある鉄道会社の車両として走っていたような、やや古めかしい電車だった。
行き先表示はもちろん宇奈月温泉という表示になっているんだけど、明らかに元々はこの鉄道会社の車両ではないと思わせるに十分だった。
そして車内も、座席の雰囲気は少し変わっているようだったが、それでも昔を強く忍ばせるものには違いない。
2両編成のワンマンカーで、明らかに後から付け足されたであろうワンマン設備がどうにもツギハギな印象を受けてしまうわね。
というよりも、長大編成が普通のこの手の電車が、2両しかないというのもまた、違和感を助長しているのかもしれない。
「そうだわ、浩介くん、永原先生のメモには何か書かれてないかしら?」
「ちょっと待ってな……えっと……あ、あった。富山地方鉄道はっと……」
浩介くんがメモ帳を取り出し、該当の記述を探してくれる。
「ふむふむ……地方の私鉄は元大手私鉄の古くなって使わなくなった車両を格安で譲ってもらうことが多いらしい。関東だけではなくて、関西の大手私鉄に所属していた電車もあるらしいな」
浩介くんが、永原先生の解説を納得しながら読んでくれる。
「ふむふむ、そうすれば経費削減になるのね」
とはいえ、使い古された車両のお下がりだから、早期の陳腐化は免れないとは思うけど。
あ、でもそういうのを気にしてたらいけないのかしら?
「ああ、地方私鉄は経営努力が必要不可欠だからな。多くの会社が赤字に喘いでいるんだ。でもまだ、ここはまだマシな方なんだぜ。13年前に南側に展開している路面電車に新線を開業させてるくらいには、余裕があるんだ」
浩介くんが厳しい地方の事情について話してくれる。
「そうなのね」
ともかく、これは富山県に根城を貼る鉄道会社で、特に宇奈月温泉へは本線と呼ばれてメインの路線になっているらしい。
「特急列車も運行されているんだけど、今回は時間の都合で使わないことになった」
「特急かあ……乗ってみても見たかったわね」
「地方鉄道」と名乗るくらい地域密着型の会社ながら、長距離輸送を彷彿とさせる特急列車というのは、中々に面白いわね。
「まあ、運転本数は多くねえからな」
浩介くんが、旅のお供にと印刷してあった時刻表を見せてくれる。
確かに、本数が少ないから、あたしたちの予定では特急を使うにはちょっとタイミングが悪いわね。
「この電車は、電鉄富山発、宇奈月温泉行きです。お乗り間違いの無いようご注意下さい。駅員のいない駅でお降りの際は、一番前のドアからお降り下さい。後ろの車両にご乗車の方は、お降りの駅が近付きましたら、前の車両でお待ちいただきますようお願い致します」
プルルルルルルルルルル
アナウンスの声と発車ベルの音と共に電車のドアが閉まり、列車が発車する。
昼間に近い時間帯ということもあって、列車内は空いていた。
「お待たせしました。本日も、地鉄電車をご利用いただき、ありがとうございます。宇奈月温泉行きです。次は、稲荷町、稲荷町です」
電車が発車し、アナウンスが再び聞こえ、左手には高架が見える。
どうやら、あいの風とやま鉄道線や北陸新幹線と並行しているらしい。
地方の鉄道会社ということで、駅と駅の間は首都圏並みに短い。
その後も、時折行き違い列車をはさみながらも、大きな音で単線の線路を進む。
「結構揺れるわね」
「まあ、古い車両だしなあ。線路の補修だって首都圏の会社ほど贅沢にはできんだろう?」
のどかで建物もまばらな車窓と合わさって、地方の鉄道会社の苦しい台所事情が窺い知れる。
そもそも、元の鉄道会社で新しい車両に置き換えられるということは、既に老朽化で寿命が来ているはずなのに、こうやって地方の鉄道で使い倒されていく。
列車の風景も、どんどんと建物が少なくなっていくが、あるところで増えていく。
「ご乗車、ありがとうございました。上市、上市です。お忘れ物ございませんようにご注意下さい。運賃は駅改札口にてご生産下さい。これより先、終点の宇奈月温泉まで、進行方向が変わります」
「おや、進行方向が変わるのか」
浩介くんが進行方向が変わることについて注目する。
確かに、終点では進行方向が変わるの普通だけど、途中駅で変わるっていうのはあまり見ないわね。
「そうみたいね」
前を見ると、どうやら線路が行き止まりになっているので、折り返すしか無いらしいわね。
確かこれって――
「スイッチバックってやつらしいな」
浩介くんが永原先生のメモ帳にある用語を見て言う。
「うん」
バタン!
運転士さんが慌ただしく乗務員室から出てこちら側の車両に移ってくる。
一瞬だけジリリリリという鐘の音が聞こえ、「この電車は、宇奈月温泉行きです」との言葉と共に、再び逆方向に走り始めた。
「お、こっち側に行った」
さっきまで左の線路が合流してきて、進行方向が変わって右の線路、つまり合流前とは違う線路に走っていく。
「左側の線路が、さっきまで行った場所ね」
ともあれ、列車は再び初秋の富山を走り始めた。
何駅か過ぎると、左側に複線の線路が見え始めた。
おそらく、「あいの風とやま鉄道線」だと思う。
「浩介くん、これ『あいの風とやま鉄道線』よね?」
「ああ、昔の北陸本線だな」
どうやら、あたしの読みは当たっていたわね。
やはり、元JRとして、新幹線ができる前は特急をバンバン走らせていたこともあってか、地鉄電車とのやはり設備の格差は否めないわね。
中滑川駅、ここは地鉄電車の方の駅があるだけで、左側の複線には駅はない。
「地方の私鉄とかだと、こういう光景はよくあるらしいぜ」
浩介くんが解説してくれる。
というか、首都圏でもあったような?
そうそう、新婚旅行の時のニューシャトルもこんな感じだったわね。
「駅間の違いからかしら?」
さっきそんな話題が出たし。
「ああ、国鉄は長距離重視だから、大都市圏を除けば、駅を細かく設けることは少ねえんだって」
浩介くんがまた、メモ帳を見せて話してくれる。
永原先生のメモによれば、「これからそれで面白い駅が出てくる」とのことだった。
「お、今度は左にも駅があるぜ」
到着したのは、滑川駅で、向かい側からはあいの風とやま鉄道線の銀色の電車が到着するのが見えた。
あの電車は確か――
「あれ? あの電車、修学旅行で乗ったわよね」
「ああ、でも俺達が乗った新快速とは仕様は違うらしいぜ」
浩介くんが、「521系」と書かれたメモを見せてくれる。
どうやら、交直流電車で、元々JRが作った車両で、北陸新幹線に並行する在来線が、「あいの風とやま鉄道線」として再出発する際に、経営支援のために幾つか譲渡されたということらしい。
「なるほどねえ」
そうこう話している間にも、電車はあいの風とやま鉄道線と並行する。
向こうが複線でこちらが単線なのを見ると、やはり格差を感じざるを得ない。
とはいえ、こちらは駅の数が多いので、速達性はともかく、短い距離でも気軽に利用できそうなのが良かった。
「結構並走するわね」
「ああ、珍しい」
首都圏でも、違う会社の鉄道同士が長い距離を並走するということはよくあるけど、この富山県でもこういったことが起きているというのは若干驚きだわ。
「あれ? 今度は向こうに駅があるわね」
「本当だわ」
越中中村駅の手前に、あいの風とやま鉄道線の駅があったが、今度は逆にこっちには駅がない。
「何かチグハグだわ」
乗り換えとか出来ないわよねこれじゃ。
「うーん、会社が違うとこういうことがあるんだなあ……」
この駅を過ぎると、すぐに列車は橋を渡る。
この橋、結構横幅が短くて、 安全面は当然問題があるはずはないんだけど、やはりどうしても見た目で緊張してしまうのはあたし自身の問題かもしれない。
人でさえ見かけによらないのに、橋が見かけによらないなんて当たり前だものね。
そして列車が左にカーブすると、あいの風とやま鉄道線の下をくぐってこちらが左へと移動する。
いつの間にか車掌に建物も多くなってきて、魚津という街が近いことを教えてくれる。
ピンポーン
「次は、電鉄魚津、電鉄魚津でございます。すべてのドアが開きます」
「お、次だ次。電鉄魚津だよ」
浩介くんが張り切って話しかけてくれる。
ちょっと見えなかったあいの里とやま鉄道線を右側に見て、3本の線路が高架を走る。
「浩介くん、この駅がどうしたの?」
見た感じ、やはり右側には駅は無さそうだけど。
「まあ見てなって」
「うん」
ピンポーン
「電鉄魚津、電鉄魚津でございます。降り口は左側全てのドアが開きます。お忘れ物の無いようご注意下さい」
自動放送とともに、電車は減速して電鉄魚津駅へと止まった。
ホームが一本あるだけの比較的簡素な作りで、右側にあるあいの風とやま鉄道線の線路には駅が存在していない。
「電鉄魚津ー! 電鉄魚津っ!」
駅員さんの独特の抑揚の放送とともに、何人かの乗客が降り、何人かが乗っていく。
この駅は、新幹線ができる前は、富山県としては唯一の高架駅だったらしい。
「実は、あいの風とやま鉄道線と接続しているのは次の新魚津駅なんだ」
発車直後に浩介くんが更に知識を披露する。
「そうなの?」
ピンポーン
「次は、新魚津、新魚津です。JR線ご利用の方は、お乗り換えとなります」
「あ、本当だわ」
浩介くんの言う通りのアナウンスが聞こえてくる。
「実はここ地鉄電車にとっては、運行上あくまで電鉄魚津駅が中心駅になっているんだ。実際、以前はこの駅の古い駅舎には『電鉄魚津ステーションデパート』っていうのあって大繁盛をしていたんだけど、やっぱりJRとの利便性のある新魚津駅に押されてしまってたんだ」
「古い駅舎?」
メモ帳を持った浩介くんに、あたしが質問をする。
「ああ。旧駅舎の末期時代には、3階建てのデパートの建物の殆どが使われていなくて、半ば『廃墟』何ても言われていたんだ。バリアフリーにも問題があって、10年位前にきちんとリニューアルされているんだ」
浩介くんによれば、最終的には3階へと進む階段だけが解放されていて、古い時代のポスターなどがそのまま貼り付けられていた状態だったらしい。
今は、新しい建物になって、バリアフリーも実現できたらしいけど。
「ふむふむ」
浩介くんの説明は、現在魚津の中心街となっている新魚津駅到着頃まで続く。
昔はあそこの街は、中心街だったのだろう。
また、北陸新幹線開業に伴う地鉄電車の利用促進もにらんで、電鉄魚津にあいの風とやま鉄道線に駅を作る要望もあるらしい。
「でも、パット見た感じではホームを作るスペースが無さそうだったわ」
あいの風とやま鉄道線と富山地方鉄道線の間にもう少しスペースがあれば、ホームを作れそうなんだけど。
「だなあ。とはいえ、利用者数がやっぱり新魚津駅の方がかなり多いから、あいの風とやま鉄道線の方では駅を作る予定は無さそうだな」
浩介くんが無慈悲な一言を言う。
「うん、あたしもそう思うわ」
その後、あいの風とやま鉄道線とも線路を別れ、数駅を過ぎてやがて電鉄黒部駅に到着する。
電鉄黒部駅では数分の行き違い待ちを経験しつつ、再び電車は発車する。
「結構待ったな」
「うん」
そして電車は再び、宇奈月温泉を目指す。
そして何駅か過ぎた後、前方に新幹線が見えて、やがて電車が「新黒部駅」に到着した。
前後の駅と比べて明らかに新しく、明らかに「新幹線によってできた」という感じになっている。
「なるほど、黒部宇奈月温泉駅はここから乗るんだな」
ホームを見ると、それなりにまとまった人数のお客さんが乗ってくる。明らかに定年を過ぎた老人の観光客たちで、車内も話し声で包まれる。
さっきまでの閑散も、嘘みたいだわ。
その後も、駅を過ぎるごとに、地元のお客さんが少なくなっていき、そして線路もカーブが多くなり、本格的に温泉へと向かっていくのが分かる。
「森の中だわ」
「ああ」
短いながらも、トンネルの中も何度か通る。
さっきも「小さな町を進んでいる」という印象を受けていたけど、今の状況を見れば、さっきまでは街の中を進んでいたんだなって思う。
「お、次で終点だな」
「あら、本当だわ」
浩介くんが「音沢」と書かれた駅名標を見る。
確かにこの駅名標に書かれている次の駅は、あたしたちの最初の目的地の「宇奈月温泉」ね。
有人駅の証拠である、「全てのドアが開きます。運賃は駅改札口にてご精算下さい」というアナウンスを聞く。
電車は切り立った崖などをゆっくりとした速度で走る。
恐らく、温泉街はそれなりに施設があるはずだわ。
「さて、宇奈月温泉とはどれほどのものかな?」
浩介くんも、冷静な口調の中にワクワク感が隠せないでいる。
「うん、あたしも楽しみ」
「いやね、本当は黒薙温泉にしようかなとも思ったんだ。あそこは宇奈月温泉と泉質が同じだし。だけど施設はこっちが充実しているし。あと個人的にもちょっと嫌な施設があるからね」
浩介くんは、黒薙温泉に嫌な施設があるらしい。
どうしてかしら?
「え?」
「いやほら、実はそこには混浴露天風呂があるからさ。他の男がいる所に優子ちゃんを入れたくねえんだよ。もちろん、2人で貸し切りなら、絶対混浴だけどな!」
浩介くんは、いつものように独占欲を発揮していた。
「もう、浩介くんらしいわね」
結婚生活4年目で未だにぶれないってある意味すごいわよね。
「間もなく、宇奈月温泉です――」
「お、もうすぐ着くぞ」
山の中の鉄路から一気に温泉街が見え、電車はベル音とともに一気に速度を下げて、ゆっくりと宇奈月温泉駅に止まった。
「さ、何はともあれ、風呂に入ろうぜ」
「うん」
宇奈月温泉に入り、食事処も探して、それから黒部峡谷鉄道ね。
永原先生によれば、ここも一押しらしいけどさてどう出るかしら?
宇奈月温泉の温泉街に到着したあたしたちは、地図を見るために人通りの邪魔にならない所をまず陣取った。
「ちょっと待ってくれ」
浩介くんは、インターネットの地図をコピーした紙を持っている。
それに従えば、目的の日帰り入浴施設に到着できるようになっている。
「よし、こっちだな」
「うん」
浩介くんが地図を頭にインプットし、正しい道を進んで行くと、立派な建物が見えてきた。
浩介くんが中に入り、券売機で大人2人を購入する。
「すみません」
窓口の係員さんに券を渡すと、あたしたちは靴を脱いでロッカーへと入れる。
まずは、列車に乗った疲れを癒そうということになり、あたしたちはまず休憩所に行く。
「食事はどうする?」
浩介くんが今後の予定を聞いてくる。
「うーん、ここで取っちゃおうか」
多分、黒部峡谷鉄道線まで乗るとそこの価格はここより高くなると思うし。
「分かった。じゃあまずはここで休んで、一段落してお風呂入って、お風呂から出たらここで集合ということで」
「はーい」
浩介くんと今後の予定について話し終わると、あたしたちもようやくゆっくり休めるようになる。
休めるようになるはずだったんだけど──
さらーり
「浩介くん! お尻触っちゃダメよ」
さて休憩も一段落してお風呂へ入ろうと思った矢先、いつものようにどさくさに紛れて浩介くんにお尻を触られてしまう。
本当にもう、触り心地がいいのはわかるけど。
「ごめんごめん、でも大丈夫だって、ここは角っこで俺の手はどの角度からも見えてねえだろ」
浩介くんは、「大丈夫だって計算しているから」という表情をする。
「うー」
実際その通りなので、あたしは何も反論できなくなってしまう。
浩介くんは、触りたいがためにわざとこういう所に陣取ってくる。
本当に嫌なら、あたしが目立つ中央に陣取ればいいのだから、あたしも強く出ることができない。
それにしても、朝に挟み込んで干からびるまでこってり締め上げたはずなのに、もう復活してるのよね。
「ふう、優子ちゃんのお尻触ったら元気が出てきた。優子ちゃんはどう?」
浩介くんがさらりとセクハラ発言をする。
「うー、あたしも、悔しいけどこれだけ休んだら疲れが取れたわ」
決して、浩介くんにお尻触られたからではない。
「あーうん、俺がお尻触ったのは無関係だろ? とにかく、大浴場に行こうか」
「うん」
あたしたちは、案内表示にしたがって、大浴場と露天風呂のある場所へと行く。
そして1分もしないうちに、男湯と女湯の暖簾がある前までたどり着いた。
こちらの方も路線名にしてます