永遠の美少女になって永遠の闘病生活に入った件   作:名無し野ハゲ豚

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夏の夫婦旅行2日目 終点の山奥

 終点の欅平駅で、あたしたちは客車を一斉に降りる。

 旅客の大半を占めるジジババたちに続いて、あたしたちも改札を終わらせて駅のホームを後にする。

 線路を少し見てみると、やはりあたしたちが普段乗ってる鉄道よりも狭い印象を受ける。

 この駅には、電光掲示板もあって、そこにはあたしたちの観光列車だけではなく、「専用列車です」と表示されて、電力会社専用の列車も表示されている。

 

 また、駅ビルの中にはお土産屋さんを含め、様々なものがある。

 上層階には食事処があるけど、食事はさっき宇奈月温泉でしたので今回はスルーする。

 

 駅の外に出ると、「黒部峡谷鉄道 欅平駅 KEYAKIDAIRA」という文字と、その下に黒い石碑で、「国指定特別名勝 特別天然記念物 黒部峡谷 附猿飛ならびに興鐘山」と書かれ、当時の富山県知事の名前が彫られていた石碑が目に入った。

 その隣りにあるオレンジ色の建物が「欅平ビジターセンター」で、外国人観光客の姿がよく見える。

 

 またその近くには、天然の石と黒い石碑が合わさった石があり、天然の石には「かおり風景百選 黒部峡谷の原生林」と書かれていて、黒い部分には平成15年10月、つまり今から19年前、あたしたちが3歳の時の宇奈月町長の名義で、「日本最大級のV字谷である黒部峡谷の一体の原生林が、平成13年に環境省によって『かおり風景百選』に選ばれたことを記念」していた。

 

 そして、あたしたち観光客に混じって、ここ欅平でも電力会社の工事のおじさんたちがせっせと働いていた。

 

「にしても、本当にすげえよなあ」

 

「うん」

 

 絶景を職場にすると言っても、毎日のように見ていれば見慣れてしまうだろうし、大自然が厳しいのには代わりはない。

 今はまだ9月だからいいけど、黒部峡谷鉄道本線が運休になる冬には、ただでさえ寒く雪深いのに地下通路のトンネルを歩いていかなければならないのだから大変だ。

 

「2年前に八ッ場ダムに行ったときもそうだったけど、ダムの水力発電ってのはすげえよな」

 

 浩介くんが感心するように言う。

 

「そうよね」

 

 あたしも知っているけど、水力発電は自然エネルギーで古典的な手法ながら、太陽光や風力などとは違い、天候に左右されず、安定的かつ大規模な電力供給が可能という、他の自然エネルギーにはない大きなアドバンテージを持っている。

 あたしたちが車窓を共にしたこの黒部川も、黒部ダムを筆頭に数多くのダムを抱え、また今まで見てきたダムは、複数で連動・連携しながら動かすこともできるという。

 

「小学校の社会科でやったけど、ダムってのは水を蓄えて水不足に備え、台風の時には水を塞き止めて水害を防ぎ、更に水の力で発電もできるって訳だ。急流の多い日本には欠かせねえよな」

 

 浩介くんのダムに関する説明は、もちろんあたしも小学校の社会の勉強で習ったことだった。

 これだけのメリットがあるからこそ、殉職者さえ出かねない危険なダム建設が、数多く行われてきたのよね。

 

「ええ」

 

 川のやや暴れ気味のせせらぎの音を聴きながら、あたしと浩介くんは、小さなトンネルの中を通る。

 そしてたどり着いた先には、岩場と川があった。

 ここがさっき出てきた猿飛というらしい。

 

「ここから更に山奥に進むと、別の温泉があるらしいな」

 

 浩介くんが、永原先生のメモを片手にそう語る。

 

「あたし、登山は苦手だわ」

 

 間違いなく、へばる自信があるわ。

 

「だろうなあ、俺も林間学校の比較的緩い登山道はともかく、この辺の道をおんぶできる自信はねえな。噂によると比較的緩いらしいが、優子ちゃんをおんぶしていくともなれば話は別だものな」

 

 そもそも、地理的にも良く分からない山道をおんぶして登るのはリスクが高いものね。

 

「でも代わりに、ほらあそこ。足湯があるぜ」

 

 浩介くんが、近くの小さな建物を指差す。

 確かに、足湯っぽい雰囲気が見えるわね。

 

「本当だわ。行ってみようよ」

 

 あたしが浩介くんにそう言うと、浩介くんが前に進み始める。

 独特の水の音を聞くと、そこにあったのは「欅平園地足湯」だった。

 

「協力金が必要か」

 

 もちろん、小さな足湯ということもあって協力金はとても安い。

 あたしたちは財布を取り出してお金を入れ、靴と靴下を脱いで足湯に浸かる。

 ちなみに、今ここにはあたしたちの他には誰もいない。

 

「うーん、暖かいわー!」

 

 やはり一番冷える足元に温泉が入るというのは、全身のお湯とはまた違う暖かさがある。

 更に、靴と靴下だけでいいので、お手軽なのも魅力よね。

 そして──

 

「優子ちゃん、肩揉んであげるよ」

 

「うん、ありがとう」

 

 浩介くんが足湯から一足先に上がると、あたしの後ろに回り込んでくれる。

 

  ぐいっ、もみもみ……

 

「うーん気持ちいいー」

 

 足湯に浸かりながら肩揉まれるの最高だわ。

 あー気持ちいい。

 

「この辺かな?」

 

  こりっ……こりこりっ……!

 

「痛っ、んー、そこもっとお願いー」

 

 浩介くんが、今一番こっているところを見つけたのか、そこを重点的にもいでくれる。

 浩介くんのマッサージはいつも上手で助かっている。

 

「よしよし。ここをぐいっと」

 

 浩介くんが拳を握って指の間接であたしの肩についているしつこいこりをほぐしていく。

 

「んぁ……あー、いい、んぅ……気持ちいいのおー!」

 

 浩介くんのサービス満点のマッサージにあたしも満足感で一杯になる。

 一通り肩と首筋をほぐしてもらったら、あたしは靴下と靴をを履き直して立ち上がり、足湯から出る。

 

「さて、折り返すか」

 

「うん」

 

 浩介くんが時計を見ながら「折り返す」と言う。

 あたしも時間的にそろそろいいかなと思ったので賛成し、駅舎の前まで折り返す。

 次の旅客列車を逃すと、それなりの時間待ちぼうけなのであたしたちは先に手前の椅子に座ることにした。

 あたしたちが座っているのを見たのか、帰りの列車を待つ人たちが集まってきた。

 

 

「えー間もなく、宇奈月温泉行きの改札を始めます」

 

 しばらくすると、所定の時間になったのか、駅員さんの放送と共にあたしたちは止まっていた客車の「普通客車」に乗り込んだ。

 

「浩介くん、楽しかったわね」

 

 絶景を堪能できたのは、とてもいい思い出だった。

 でも、明日の「立山黒部アルペンルート」が本番なのよね。

 

「ああ、でもここから行きと同じだけ、時間をかけなきゃ行けねえぜ」

 

 そう、行き止まりだから、結局富山に引き返すには行きと同じルートをたどることになる。

 新黒部駅から、黒部宇奈月温泉駅に乗り換えて、そこから富山駅まで北陸新幹線を使えば、富山地方鉄道線を使い続けるより相当の時間短縮が見込めるけど、今回は見送ることにした。

 

 あたしたちは、行きと同じように、電力会社専用駅や行き違う列車、そこに乗ってる乗客たちを眺めながら、鐘釣駅では行きと同じく一旦バックしての発車をし、次の黒薙駅では温泉からの帰りのお客さんなどを拾いつつ、列車は再び絶景を走りつつ宇奈月駅に到着した。

 ここから一直線に数分歩くと、富山地方鉄道本線の宇奈月温泉駅に到着する。

 あたしたちは券売機で、富山駅までの切符を買ってホームへと出る。

 

「お、行きとは列車が違うな」

 

 浩介くんが、帰りに乗る電鉄富山行きの電車を指差す。

 

「うん、そうね」

 

 帰りの列車は行きとはタイプが違い、こちらは新幹線などと同じように、列車の進行方向に座席が備わっている。

 ちょうど1列が2人になっているのであたしと浩介くんも、隣り合って座ることにした。

 車内のお客さんたちを見てみると、平日真っ盛りとあってか、やはり現役を引退したと思われる中高年の観光客の姿が多く、外国人観光客の姿は、そこまで多くなかった。

 

「電鉄富山行き、間もなく発車いたします」

 

 ちなみに、帰りもまたワンマン列車だった。

 行きとは進行方向が逆になり、また見えてる景色左右違ったけど、それだけで印象は大分変わった。

 だいたい富山に帰るまでに要した時間は100分程度だったと思う。

 途中の新黒部駅で中高年の方々は多くが降りて、そこからは徐々に富山に近づくに連れて地元住民が増えていくという感じだった。

 

「電鉄富山、終点です」

 

 アナウンスの音とともに、あたしたちは荷物をまとめ、電鉄富山駅へと戻ってきた。

 あたしたちが富山に戻った時には、外はすっかり夕方になっていた。

 もしかしたら、富山近くで地元住民がいくらか乗ってきたのも、いわゆる「夕ラッシュ」とも微妙にぶつかっていたかもしれないわね。

 

 

「あー戻ったー!」

 

 朝旅立ったホテルへと帰還すると、浩介くんがベッドに思いっきり横になる。

 

「優子ちゃん、分かってるとは思うけど、明日は早いからな」

 

「うん」

 

 浩介くんが、また注意を促してくる。

 もう何度も聞かされたわよ。

 

「とにかくこのアルペンルートは、平日でも繁盛するくらいの大人気観光スポットだ。場合によっては交通機関が数時間待ちとかになって、その日のうちに抜けることが不可能になる場合もある。最も、さすがに今日みたいな平凡な平日なら大丈夫だとは思うが、念には念を入れてだ」

 

「うん、分かってるわ」

 

 明日の予定としては、朝一番に富山駅を出て、立山駅を目指す。

 ここからまずケーブルカーで美女平へと行き、そこから山道をバスで登る。

 バスの終着地が室堂で、ここからトロリーバスを使って山の中をトンネルで進み、山の向こう側の大観峰と呼ばれる場所へとたどり着く。

 そこから黒部平と呼ばれる山の中腹まで一気にロープーウェイで降り、黒部湖までケーブルカーを使って降りると、黒部ダムにたどり着く。

 そこから黒部ダムを端から端まで歩いて、今度は電気バスで扇沢と呼ばれる場所に行く。

 扇沢に到着するとまた路線バスがあって、長野県の信濃大町駅に抜けることが可能になる。

 これについては、既に何度も口頭でレクチャーを受けている。

 

「信濃大町からは大糸線だ。とりあえず、信濃大町から特急に乗ることになってるが、もし逃しても松本駅に行けば都内まで直通している特急がある」

 

 浩介くんが、鉄道の広域路線図を広げて解説してくれる。

 

「ええ、分かってるわ」

 

 アルペンルートがどの程度混むかは不明だけど、特急列車は時間に余裕を持って予定を組んでいる。

 もし、道中が空いていて、時間が余りそうならば、黒部ダムで時間を潰すことになっている。

 

「はいこれ」

 

 浩介くんが、あたしに1枚の大きな紙を渡してくれる。

 

「えっとこれは?」

 

「開いてみて。アルペンルートの時刻表だよ。明日はこれを見ながら、慎重に予定を立てて進むぞ」

 

 浩介くんのしゃべり方にも、気合いが籠り始める。

 雄大な景色故にたっぷりと楽しみたいが、一方で時間に遅れてしまえば家に帰ることが難しくなりかねない。

 

「はい」

 

 あたしは浩介くんに言われた通り、アルペンルートの時刻表を広げる。

 上の方には地図もあって、ご丁寧に乗り物や標高などが書かれた絵も書かれている。

 

「警戒すべきは室堂だ。アルペンルートの中でも2000メートルを越える最高地点にあるから高山病にも気を付けたいし、何より2日で通り抜ける人はここに宿泊する客も多い」

 

 室堂は立山連邦の登山客の拠点でもあり、日本唯一の氷河のある山にも程近い。

 日本最高の温泉宿もあり、また雷鳥の住みかにもなっていて、ただ絶景であるにとどまらない。

 あたしたちは、アルペンルートを1日で一気に通り抜ける予定だけど、中高年層などは途中で1泊することが多い。

 

「絶景だからもちろんある程度の時間は滞在したいが、余りに長居をしすぎると、弥陀ヶ原室堂の宿泊組にぶち当たる。だが大観峰と黒部平を抜け、黒部ダムまで行ってしまえば、ほぼ安心と言えるだろう」

 

 浩介くんが作戦会議さながらにあたしに細かく指示をする。

 

「更に途中は観光地の上に山奥と言っていい場所だ。食事や飲み物はどれも高い。できれば今日コンビニで明日の飲み物と朝食は仕入れたい」

 

 浩介くん曰く、立山駅で少し時間があり、またレストランの営業が早いので、それを勘案すれば朝食を立山で取れないこともない。

 しかし、あたしの食べる速度を鑑みるとリスクがあるので、素直に明日の朝コンビニで買って、地鉄電車などで食べるのがいいだろうとのことだった。

 

「よし、じゃあ夕食にするぞ」

 

「はい」

 

 作戦会議が終わると、浩介くんは早速夕食をあたしに指示し、あたしは浩介くんの半歩後ろを歩く。

 頼もしい浩介くんに、引っ張られているこの感覚が、最高に居心地がいいわ。

 ああ、やっぱりオスとメスの本能には抗えないんだってしみじみ思うわね。

 

 あたしたちは、ホテルで夕食を取る。

 ちなみに、夕食は相応に豪華なものだった。

 地産地消を掲げた料理は、どれも美味しかった。

 

 

「ふう、よし優子ちゃん、少し早いけど寝ようか」

 

「うん、そうよね。でもさすがに眠れないかな?」

 

 時刻はまだ7時代で寝るというにはさすがに早すぎる。

 とは言え、明日起きる時間を考えると、そろそろ眠りたいのも事実。

 

「よし、じゃあ運動をしよう!」

 

 浩介くんが、またなにか悪巧みをしている表情をする。

 もちろん、そう言う表情をした時にすることは決まっていて──

 

  すりすりすり

 

「あーん! もう、またお尻触って!」

 

 浩介くんのいやらしい手つきがお尻の触覚から脳に直接伝わってくる。

 

「優子ちゃんはズボンだとお尻強調されるんだよ。特に短くて青いのだと、我慢するのも大変なんだぜ!」

 

 そして浩介くんが、また「性的な格好をしている優子ちゃんが悪い」と言い訳する。

 

「もう、浩介くんったらあたしが何着ても同じこと言うじゃないの!」

 

 あたしはいつもの浩介くんに業を煮やし、思わず本音を言ってしまう。

 

「何だ気付かれてたか」

 

 半笑いの浩介くんは全く悪びれた表情もせず──

 

  すりすりすり

 

「もうっ!」

 

 ──あたしは浩介くんに、今度は両手でお尻を撫でられ続けた。

 

「でもよ。実際こうすれば、俺も優子ちゃんも良く眠れると思うんだ。明日は人も多いから、家に帰るまで我慢せにゃならんしな」

 

 浩介くんが、また理論武装をしながらあたしにねだってくる。

 要するに、「我慢できない」ということ。

 もう、朝あれだけ干からびるまでおしおきしたはずなのに。

 

「──分かったわよ」

 

 あたしもあたしで、メスの本能に忠実に、浩介くんに従順な女の子になる。

 あたしは浩介くんに優しく押し倒され眠気を誘うまで、たっぷりと快楽地獄を味わわされた。




実在の電力会社は全て一般名詞の「電力会社」に変更しました。
と言っても、バレバレですが、あくまで彼らはモブです(笑)

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