永遠の美少女になって永遠の闘病生活に入った件   作:名無し野ハゲ豚

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優子、優しい子

 篠原浩介が消えた。球技大会の終了後もずっと行方不明のままだ。

 

 球技大会終了後は部活または下校となった。私たちは制服に着替え終わると、一部は篠原くんを探すチームとして残り、もう一部は各自部活・下校していった。

 

 私もその一人。桂子ちゃんに頼んで今日の天文部は一旦お休みにしてもらう。

 

 実は私には思い当たる節がある。私がドッジボールで強く当てられて泣いてしまった時、篠原くんが体育館を飛び出していったのが見えたからだ。

 

 私は篠原くんが体育館から駆け出た所を思い出し、近くの物陰を探る。

 ……ここには居ない。

 

 続いて体育倉庫、しかし内側から鍵がかかっている。

 念のためにノックする。反応がない。

 

 一応換気窓がある。しかし、到底背が届かない。男の頃でも届かなかっただろう。

 

 換気窓を見ていると、恵美ちゃんが通りかかった。

 

「恵美ちゃん!」

 

「お、優子じゃねえか。あたいはテニス部の用具取りに体育倉庫に来たんだけどよ、どうした? 篠原か?」

 

「あ、うん……そうなの……篠原くん探してて……」

 

「何だあいつ、まだ行方不明なのか」

 

「見つけたら各自携帯に連絡するみたいだし」

 

「分かった、ちょっと待ってな」

 

 恵美ちゃんはテニス部として体育倉庫の鍵を借りていたため、恵美ちゃんが鍵を開けて中に入る事ができた。

 一時的だが、恵美ちゃんも探してくれる。

 

「優子、そっちにはいたか?」

 

「ううん、いない」

 

「あ、あたいはまだこの辺探してないから、後はよろしく頼む。あたいはテニス部に戻らねえと」

 

「……そう、分かったわ」

 

 恵美ちゃんがテニスコートに戻り、私は探しに戻る。恵美ちゃんが探していない所を探す。一応隠れてることを考慮し、パンツ見えないように意識しつつ。

 

「うーんここにも居ないわねえ……」

 

 しかし、成果なしだった。

 

 続いて探すのは体育館の中、校長先生の話など舞台でも使うため、そこの控え室が有力な隠れ場だ。

 スポーツ大会の時は休憩控え室としても開放されていて、普段から椅子くらいしか無いため鍵もかかっていない。電気も落ちていて隠れるには容易な場所だ。

 

  ガチャッ

 

 体育館の脇から扉を開ける。

 暗くてよく見えない、でも少し闇が深い所が見える。

 私は電気をつける。

 

「うっ!」

 

 少し眩しさを感じる。数秒後、ゆっくり目を開く。

 

「あっ……い、石山……!」

 

 視界に入ってきたのは、紛れもない篠原浩介だった。

 

「ここにいたのね……どうしたの? みんな探してるわよ」

 

「うぅっ……」

 

 篠原くんが目をそらす。

 よく見ると、壁に血痕がついている。

 

「ね、ねえ……どうしたの?」

 

「……」

 

 篠原くんに近付いてみる。

 

「!!!!」

 

「顔をそらして、どうしたの?」

 

 壁の血のことには触れないでおく。

 

「ねえ……」

 

「み、見ないでくれ!」

 

 顔を覗き込むと拒絶される。それでも、頭から血が出ているのが分かった。

 

「どうしてこんなことしてたの?」

 

「うっ……」

 

「話してくれないとわからないよ!」

 

「う、うああああああああああああああああああああ!!!!!!」

 

「わっわっ!」

 

 篠原くんが急に立ち上がったかと思うと、いきなり頭を壁に強打し始めた。

 

「俺は……俺は最低だ! なんで、なんでこんな……うがあああああああああああああああああああああああ!!!!」

 

  ガン! ガン! ガン! ガン!

 

「やめて! お願い! やめてええええ!!!」

 

 篠原くんの自傷行為を、私は必死で静止する。両肩をギュッと掴むと額を壁に打ち付けるのを止めてくれた。

 

「うっ……なんで、なんで優しくするんだよ!!!」

 

「……俺は、俺はお前を……ひどいことしたのに……俺は……俺は……」

 

 篠原くんが私を拒絶している。でも、ここで動転しちゃ駄目だと言い聞かせ、気持ちを落ち着かせる。

 

「そんなことより……ほら、みんな心配してるよ。早くみんなに顔を見せてあげてよ」

 

 私が心配そうに覗きこむ。

 

「うあっ……優しくするなよ……余計に辛いじゃねえか……何でだよ……何で優しいんだよ……俺、俺はお前に――」

 

「何でって……あたし、優子だよ」

 

「……ゆう、こ? そんなの名前だろ。単なる……」

 

「優子、優しい子って書いて優子だよ。桂子ちゃんが言ってたけど子ってのは一と了に分けられるの」

 

「この名前、私で考えたんだよ。私はずっとずっと優しい子で居たいの。これから数十年、数百年後、または1000年2000年後もね」

 

「……何言ってんだ、お前は……元々優一だったから……優子なんだろ……」

 

「ううん……優一ってのはね、『一番優しく育ってほしい』っていうお父さんとお母さんの願いが込められた名前だった。でも、私はずっと願いを踏みにじってた。そのせいで、あたしは篠原くんも含め多くの男子を傷つけたわ」

 

「……」

 

「だから、女の子になって、今度こそ優しい子になるって……私、決めたの。だから優子なのよ」

 

「篠原くんを許さないで、女子の仲間をけしかけて復讐するのは簡単よ。でもそれじゃ結局優一だった時と同じよ」

 

「でもよ、俺は……あんなに弱いお前を……なのに俺は……」

 

「うわあああああああああああああああああああ!!!!!」

 

 篠原くんがまた壁に頭を打ち付けようとする。服を引っ張ってそれを止めさせる。

 

「もういいのよ、篠原くんをこんな風にしちゃったのには、私にも罪があるのよ。お願い、自分のせいにばかりしないで」

 

「ううっ……せめて……突き放してくれたほうが……俺にとって……」

 

「ダメ! そんなこと言わないの。ほーら! みんなに顔見せて、保健室行くわよ」

 

「保健室?」

 

「額から血が出てるわよ。それからここ、掃除の人が大変でしょ?」

 

 壁に付いた血痕を指差す。

 

「ああ、うん……」

 

 私は制服のポケットからハンカチを取り出し、壁の血痕を拭き取る。完全には拭き取れなかったが、ほぼ目立たなくなった。

 

「ほら、そこの血も取るわよ」

 

 篠原くんの額から血が出ている。これも取らなくては。

 そう思ってハンカチをかざそうとすると、篠原くんが顔をそらす。

 ……そうだ、本来の彼は責任感が強く気も弱い子だ。私のせいで、性格を歪ませてしまった。

 

 ともあれ、篠原くんは落ち着いてくれた。

 篠原くんを発見した私は携帯を取り出し、永原先生を呼び出す。

 

「もしもし」

 

「あ、もしもし永原先生――」

 

「あ、石山さん、篠原くん見つかった?」

 

「う、うん。体育館の控え室の所で見つけたから、他の人には戻るように言ってくれる?」

 

「分かったわ。それじゃあ気をつけてね」

 

  ピッ

 

「さあ、永原先生にも連絡したから保健室に行くわよ」

 

「んっ……」

 

 私は篠原くんを引っ張ろうとするがびくともしない。

 

「ほら、血を流したまま居ちゃダメよ」

 

「でも……」

 

「保健室に行って、お願い。篠原くんがこんな血を流したままなんて、あたし嫌よ!」

 

 私がそう言うと観念したのかそのままついてくる。

 

 体育館を出て校舎へ。篠原くんはまだ体操着だが、今は着替えるよりもまず額の手当てをしないと。

 私の手当てを拒否したものの保健の先生の手当てまで拒絶はしないだろう。

 

 校舎へ入り、保健室への道をたどる。

 その間、会話は一切ない。私が顔を向けると顔をそらす。この状況で話しかけては逆効果だ。今は落ち着かせないといけない。

 そうだ、篠原くんはまだあのことで罪悪感に囚われているのだろう。それは無理も無いこと。

 

 いくら「私も悪い」、「気にしないで」と言って聞かせても、大泣きさせ、殴りかかった罪悪感を拭うことは出来ない。これを払拭させ、水に流させないと本当の意味で「優一」を終わらせることが出来ない。でもどうしたらいいのか、まだ私にはわからない。

 

 私は覗き込まないように配慮しつつ最短ルートで保健室に連れて行く。

 幸い途中で誰かにすれ違っても声をかけられることはなかった。私が篠原くんを見つけたからだろうか?

 それとも、篠原くんの額の血を見て驚いたのか。

 

 

  ガララララッ……

 

 ともあれ、保健室に入る。

 

「はーいどうしました? って大変!」

 

 保健の先生が応対する、篠原くんの額の血を見て驚いた。

 

「すみません先生、手当お願いします」

 

「は、はい」

 

 保険の先生が救急箱を持ち出した。

 相変わらず、篠原くんは無言を貫いている。最後にもう一度覗き込むが、やはり顔をそらしてしまった。

 

「後はやっておきますから、石山さんは帰って下さい」

 

「はい。お願いします」

 

 私は扉を開けて保健室を後にする。

 まだ下校時間まで時間がある。今日は球技大会の日だが、「優子ちゃんに話しておきたいことがある」ということなので、天文部の部屋を目指す。

 

  コンコン

 

「はーいどうぞー」

 

「桂子ちゃん、私!」

 

「あ、優子ちゃんどうぞ」

 

 扉を開けて天文部の部屋に入る。桂子ちゃんと坂田部長がPCと向き合っている。

 一方で、昨日まで無かった何かの材料が多く積まれていた。

 

「石山さん、篠原さん見つかりましたか?」

 

 桂子ちゃんから聞いたのか、坂田部長が訪ねてくる。

 

「はい。何とか」

 

「で、どこにいたのよ?」

 

「体育館の控え室の所で……どうも私がドッジボールの時に痛くて泣いた時に……罪悪感に耐えられなくなったみたいで……」

 

「ふーん、そうなんだ」

 

「本当の篠原くんは優しくて責任感強い子だから……私のせいよ」

 

「……優子ちゃん、優しいわね。私ならあんなことされて、そんな風に思えないわよ」

 

「桂子ちゃん、ありがとう。あたし、名前を守れたかな?」

 

「うん、優子ちゃんは、名前に恥じない、とっても優しい女の子よ」

 

 優しい女の子、褒められると嬉しいけど、優しい女の子って言ってもらえるのは、特に嬉しかった。

 また一つ、女の子に近付けた。昔の自分を捨てられた。本当に嬉しい。

 

 

「はいはーい、もう一件落着ですわよね? この辺でそろそろ天文部の活動を再開しますわよ」

 

「「はーい」」

 

 こうして、天文部の活動が始まった。

 

 

「そうそう、準惑星と惑星の定義というのは、まだまだ曖昧な所があるのよ」

 

「そうなの?」

 

「うん、私達が子供の頃に冥王星の話があったでしょ? 冥王星を外すための『近隣の他の天体を一掃している』のところよ」

 

「桂子ちゃん、それはどういう?」

 

「解釈の仕方によっては地球や木星でさえ惑星じゃないって言えかねないのよ」

 

「どういうことなの?」

 

「地球の地殻には大量の小惑星があるのよ。場合によっては一時的に地球の衛星になることになるわね」

 

「だからもう少しこの定義は詳細にする必要があるっていう意見があるわね」

 

「ふむふむ」

 

「冥王星は月よりも小さいですわね、軌道もやや曲がってますし」

 

「でも軌道という意味では、水星もそうだったりするのよね」

 

 そういえば、このミニチュアでも分かりにくいが、水星がやや傾いている。

 

「あ、そうそう、もう一個ミニチュアを作る事になったのよ」

 

「そうそう、太陽系近傍の惑星たちのミニチュアよ」

 

「ど、どうやって作るの?」

 

「ふふ、このソフトよ」

 

 桂子ちゃんは宇宙ソフトを立ち上げた。

 

「これは何?」

 

「地球や太陽があるでしょ? 適当に星空をクリックしてみて?」

 

「あ、データがある」

 

「優子ちゃんがクリックしたのは遠い星だけど……実はね、地球から近い太陽系の星の様子を知って欲しいのよ」

 

「どういうこと?」

 

「太陽よりずっと大きい星ばかり注目されてるでしょ? でも実は太陽の明るさは全恒星の中で上位1割位なのよ」

 

「え? そうなの? 意外……」

 

「星座に見える星は、殆どは宇宙全体では珍しいのよ」

 

「そうなの?」

 

「うん、主系列星というのが主な星よ。それも宇宙は小さい星のほうが多いのよ」

 

「えっと……」

 

「ほら、星の色ってOBAFGKMでしょ? 実は宇宙の星の9割近くはKとM、それもMが多いのよ」

 

「そ、そうなの?」

 

「そう、特にMの主系列星のことを『赤色矮星』と呼ぶわね。この前出てきた『プロキシマ・ケンタウリ』もこの赤色矮星なのよ」

 

「どんな特徴があるの?」

 

「まず太陽よりもずっと暗いこと、『プロキシマ・ケンタウリ』も太陽系から一番近いけど光度が低すぎて肉眼では見えないわね」

 

「そうなんだ……ところで『プロキシマ・ケンタウリ』から太陽を見るとどうなるの?」

 

「良い質問ね、このソフトを使ってっと」

 

 桂子ちゃんは恒星のデータを引っ張ってプロキシマ・ケンタウリに位置を合わせると、次いで「Sol」と入力し、画面中央に持っていく。

 

「あ、カシオペア座って書いてある」

 

「これを見れば、太陽はカシオペア座のWのところの外側に、0.4等星として見えるってことになるわね」

 

 太陽がクリックされていて、太陽の恒星としてのデータが並べられている。

 

「その下の光度ってのは?」

 

「これは単位時間あたりのエネルギー量よ。太陽が基準になってて、太陽は1.0よ」

 

「逆にプロキシマ・ケンタウリをクリックしてみて?」

 

 言われるままに赤く大きな星をクリックする

 

「あ! すごい小さい値……!」

 

 光度は0.0000530と書いてある。明るさは太陽の1万分の1以下ってことか。

 その下、スペクトル型と書いてあってM5Ⅴとある。

 

「このM5Ⅴっていうのは?」

 

「まずMはOBAFGKMのMよ、ちなみに例外はあるけど省略よ。次の数字はそれらをさらに細かく0から9まで高温な順に割り振られているのよ。太陽をもう一度クリックしてみて?」

 

「うん」

 

 太陽をクリックする、するとG2Ⅴとある。太陽はG型なのか。

 

「そしてⅤ、これは主系列星のことよ、ⅠからⅣまでは超巨星から輝巨星、巨星、準巨星ってあって、いずれも星の晩年よ。ちなみに極超巨星というカテゴリもあって0が充てられることもあるけど、まあいっぺんに覚えなくていいわよ」

 

「表面温度のKはわかる。これは理科でやった……直径も分かる。0.14ってことは太陽の7分の1しか無いのか……」

 

「ちなみに、質量は8分の1くらいよ。ただし、密度は大きいわね」

 

「ちょっと待って、立体の場合3乗に比例だから……」

 

「ふふっ、プロキシマ・ケンタウリの密度は太陽の43倍弱ですわ」

 

 坂田部長が答えを言ってくれる。

 

「よ、よんじゅうさんばい……」

 

「だいたい金の3倍、地球の10倍くらいとも言い換えられますわね。赤色矮星は小さい分密度が大きいのも特徴よ」

 

「なるほど……」

 

「他にも、赤色矮星の特徴は理論寿命が長いことね」

 

「どのくらいなの?」

 

「太陽の寿命が推定100億年だけど、赤色矮星は数千億年から長いのだと13兆年くらいになるわね」

 

「13兆年って……」

 

「今の宇宙年齢よりもずっと長いですわよ」

 

「そう、そして宇宙でも数が多い。今度の文化祭での研究発表はこの赤色矮星に着目したいのよ」

 

「そうなの?」

 

「そして、赤色矮星を知ってもらうためには太陽系の近所の宇宙を知ってもらうのが一番なのよ」

 

「なるほどねえ……」

 

「というわけで、まずは地球近傍の星、他にも発見されている太陽系外惑星を調べてミニチュア化するのよ」

 

「これまでの太陽系のミニチュアとは比較にならない労力が必要ですから、文化祭は秋ながらも、そろそろ準備した方がいいですわよ」

 

「なるほど」

 

「まずは太陽から。黄色く少し大きめのボールを作るわ」

 

「そして今回は太陽を中心に、太陽から12光年までの星30個よ」

 

「うまく縮尺どおりの玉を作っていく作業が難しいわよ……宇宙の距離は流石にデフォルメするけどね」

 

「石山さんは、主に言われたことをやっていればいいですわよ」

 

「はーい」

 

 こうして、ミニチュアの製作が始まった。まずは星を作るところからだそうで、今日はその予行が主になった。

 

 

 球技大会の翌日、私に2回目の生理が襲い掛かってきた。土日に連なったのも運が良かったと思う。

 そろそろだと思っていたので、寝る前にナプキンを付けておいてよかった。付けてなかったら布団と服が血だらけになるところだった。

 母さんが痛み止めを飲むように言ってくれたおかげで、前回よりはマシになった。しかし、痛み止めも万能ではなく、代わりに倦怠感が半端なかった。

 後やっぱり自分の体からおびただしい血が出るのはしばらく慣れそうにない。

 土日は生理中の家事ということで「特別研修」と称して家事手伝いは免除されなかった。とても辛かったけど、「いい勉強になる」と言われたので、一生懸命に頑張った。

 母さんは私を褒めてくれて、嬉しかった。うん、生理から逃げちゃだめだもの。

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