永遠の美少女になって永遠の闘病生活に入った件   作:名無し野ハゲ豚

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頓挫した企み

「よし、じゃあまずは3年生から見てみるか」

 

「うん、私も付いていっていいかしら?」

 

 どうやら、あたしたちに永原先生もついてくるらしい。

 最初の教室は、今年の修学旅行の展示だった。

 

「ふむふむ」

 

 写真にあった内容は、あたしたちの時と大きな差ないものだった。

 3年生は最後の文化祭なので、比較的展示は簡素になっている。

 

「先輩ー!」

 

 あたしたち「偽生徒組」は1年生に扮しているため、永原先生は生徒に向かってわざと「先輩」と呼ぶ。

 意外と楽しいかもしれないわね。

 

「はーい……って永原先生じゃないですか!?」

 

 すると近くにいた女子生徒が対応してくれた。

 

「えへへ、バレたわね」

 

 やや呆れ顔の「先輩」の表情が見える。

 もしかしたら、毎年同じことをしているのかもしれないわね。

 

「それで、何ですか?」

 

 とりあえず、あたしたちのことはスルーして永原先生がまず対応する。

 

「これに写ってるここの解説なんだけど──」

 

 永原先生は、史跡の解説文が気に入らなかったらしい。

 安土桃山時代に、実際に京都の街には滞在しているので、こういった辺りは永原先生は敏感で、生徒も申し訳なさそうに応対していた。

 

「所で、そちらの2人は──」

 

「ああうん、私のクラスの生徒よ」

 

 永原先生が意図的に「元」を省略する。

 

「えっと、あたし、河瀬龍香です」

 

「た、高月章三郎です」

 

 あたしたちは、適当に名前を考えるのではなく、元クラスメイトの名前を勝手に借りてしまった。

 ごめん龍香ちゃん、高月くん。

 

「え!? うーん」

 

 しかし、あたしたちの様子を不審に思った「先輩」が、ぐいっと顔を覗き込んでくる。

 

「ど、どうしたんですか先輩! あ、あたしの顔に何かついてます!?」

 

 あたしは冷や汗をかきながら、「先輩」の動向を伺う。

 というか、かなり近いわよ!

 

「うーん、この超がつく程にかわいくて美人な顔、深淵のような黒い髪、そして何よりこの凄まじいまでの胸! なーんか誰かに似てるのよね!?」

 

 うぐっ!

 

「だ、大丈夫ですよ。この子達は私のクラスの生徒ですから!」

 

 永原先生が必死に取り繕うが、「先輩」が別の「先輩」の男子生徒を連れてくる。

 

「ねえ、この生徒、誰かに似てないかな?」

 

 あたしは、更に追求の手をかけられる。

 うー、後輩にじろじろ見られるって結構恥ずかしいわ。

 

「で、ですから気のせいですって!」

 

 あたしは慌ててごまかすけど、その態度が既に「訳ありです」と白状しているようなものだよね。

 

「いや似てるも何も、この人、あの伝説の石山先輩まんまですよ!」

 

「今は篠原よ……ってしまったわ!」

 

 つい旧姓で呼ばれたことに反応してしまうあたしに、永原先生と浩介くんがジト目であたしを睨んでくる。

 うー、ごめんなさい。そんな目で見ないでー!

 

「『篠原先輩』、何で制服なんか着てるんですか!?」

 

 正体がバレ、後輩の女子生徒に呆れた顔で応対されてしまう。

 

「そ、その、せっかく取ってあるんだし、昔を思い出したいと思って」

 

 本当は、小谷学園の学園祭に卒業後も来るのは初めてで、稲枝さんの様子を見るように永原先生に依頼されたからで、制服デートはついでだったりするけどそこは黙っておこう。

 

「それにしたって、篠原先輩もういい歳した大人ですよね!? というか、さっき屋上に走っていましたよね!? 潜入行為ですよね!?」

 

「は、はい……」

 

 TS病のあたしからすると正直4歳差なんてあまり変わらないけど、17、8歳の普通の人にとって4年というのは結構大きい。

 高校は基本的に3年間なので、去年には小谷学園はあたしがいた頃と比べて、全生徒入れ替わっているのだ。

 

「永原先生も、どうしてこんなこと容認したんですか!? いくら小谷学園といっても、卒業生を制服にするって──」

 

「別に私だって文化祭では毎年制服よ。篠原さん、当時の石山さんが女性になった年に始めたから今年で6回目ですし」

 

 後輩の追求に対して、永原先生が助け船を出してくれた。

 そう、先生がミスコンに出て、先生が生徒になる。

 それがあり得るのが小谷学園だ。

 

「2人とも、私たちに会ったついでに、前校長先生と永原先生について話してあげましょうか?」

 

「え!?」

 

 この人たちは3年生だけれども、それでも小谷学園の真髄を理解しきれていないみたいなので、あたしが卒業前に永原先生が一時的に生徒になっていたエピソードを話す。

 そもそも、永原先生が文化祭で制服になるのも、永原先生が持ってる青春に対する根深いコンプレックスが原因だと言うことも話した。

 このエピソードも、後輩たちに語り継がれていい話なはずなのに、あたしたちの文化祭のエピソードよりは有名ではないらしく、2人とも珍しい物を見る目で聞き入っていた。

 

「ヒエー、小谷学園ってそんなことまでするのね」

 

 後輩たちの驚く声が聞こえてくる。

 いつの間にか、学園祭に来ていた生徒の多くが、あたしの話すエピソードに聞き入っていた。

 周囲からは「篠原先輩が制服姿で学園に忍び込んでいる」という噂声まで聞こえている。

 ちなみに、永原先生が小野先生におしおきされたがっていたことは隠しておいた。

 話の流れ上、先代の校長先生が永原先生の元教え子だと言うことは話したけど。

 

「さて、じゃあ私たちは展示の続きを見るわね」

 

「あ、はい。ごゆっくり」

 

 永原先生が話を切り上げると、後輩たちもかしこまった感じになっている。

 

「それから、今の俺たちは1年だから、遠慮しないで接してくれよな」

 

 ここまで黙り気味だった浩介くんが最後に締めて、ようやくあたしたちも解放され、展示を見終わった。

 3年生の展示は、予想通り今の時間は空いていて、模擬店でのアイスクリームも、新鮮だった。

 ちなみに、3年生の展示が見終わる頃には、「永原先生が制服姿の篠原先輩夫妻を連れて学園祭を見回っている」という情報が、出回ったのか、あたしたちが「先輩」と呼ぶ前に向こうから「先輩」と呼ばれてしまった。

 

「うー、1年生気分を味わいたかったのにー!」

 

「もう、篠原さんがしらを切らないからでしょ!」

 

 あたしの不満に対して、永原先生が無慈悲な一撃を容赦無く放ってくる。

 

「ごめんなさい」

 

 本当に、我ながら同情の余地が全く無いわ。

 

「まあでも、特別な先輩気分でいるのも楽しいわよ」

 

 永原先生が気分を切り替えるように言う。

 

「で、次は2年生を見に行くか」

 

 2年生のエリアに、あたしたちは入る。

 ちなみに、永原先生はここで部活の方に行くとのことで、あたしたちと別れる。

 

 最初に見たのは自主製作映画の展示で、ちょうど上映時間の直前だったので、見てみることにした。

 あたしたちの時もそうだったけど、この手の自主製作映画は、大抵はミスコン出場の女の子が主人公になって、際どいシーンを連発しながら投票を訴えるもの。

 この映画も、中身こそ見えてないが、主人公の女の子が手を変え品を変えスカートをめくられて恥ずかしそうに叫ぶお話になっている。

 これを考えたのって、絶対この子自身よね。

 

「何かすげえな」

 

 浩介くんが終わると開口一番に言う。

 

「え!?」

 

 あたしはちょっとだけ不安になる。

 そう、これが嫉妬だわ。

 

「優子ちゃんのパンツ見た後だと、驚くほど魅力無いのな。結局最後まで見えねえし」

 

 浩介くんが冷静な表情で恥ずかしいことを言う。

 

「もうっ」

 

 言葉とは裏腹に、あたしは内心ほっとした。

 

「大体ああ言うのは見えそうで見えないのがいいって言うけど、最後の最後に見えちゃうのがいいんだろ!?」

 

 浩介くんが、またパンツ論議に夢中になる。

 よく聞くと、周りの男子も似たような話をしていた。

 

「あはは、うん、そうよね」

 

 女の子になってもう5年の月日が流れるが、あたしは今でも男の感性を知識として理解できる。

 女の子になって490年近くが経つ永原先生でさえ、男の感性を知っているし、昔存在しなかった性癖や感性でも、知識的な推察から導くことが出来るのがTS病の強みよね。

 戦国時代の女性感なんて今とはかなり違うはずなのにすごいことよね。

 

 そして今回も、浩介くんの言いたいことは、あたしにも重々分かってしまっていた。

 

 続いての展示はお化け屋敷、何だけどあたしたちが展示していた頃のお化け屋敷より、かなりレベルが上がっていた。

 具体的には、お化け役の人のメイク能力が。

 またゲームコーナーもあって、あたしたちは当時と今とで間違い探しに高じることができた。

 ちなみに、ここではじめて「篠原先輩ですよね?」と言われてしまった。

 やっぱり、学校は狭い世界だから、噂が広まるのも早いわね。

 

 そして最後に表れたのが──

 

「執事喫茶?」

 

「うん、そうみたいね」

 

 要するにあたしたちがやったメイド喫茶の男女を逆転させたようなもの。

 メイド喫茶が男性向けなら、執事喫茶は女性向けで、この学園祭は生徒数はともかく、一般の参加者は男性が多いので、こういう形態の店は見たことがなかった。

 

「うーん、ここはいっか」

 

 浩介くんが回れ右をしようとする。

 ふふ、独占欲だわ。

 ……よし!

 

「えー!? 面白そうじゃないの!」

 

 あたしが「興味本意」という気持ちを込めて言う。

 

「いやその……」

 

 浩介くんの目が泳ぐ。

 

「嫉妬しちゃうの?」

 

 あたしがど真ん中直球で浩介くんの図星をつく。

 

「うぐっ、そ、そうだよ! わ、悪いか?」

 

 浩介くんがあっさりと白状してくれた。

 

「ふふ、嬉しいに決まってるじゃないの。大丈夫よ。どうせひ弱なヘロヘロ男しか出て来ないわよ。浩介くんみたいに強くてかっこよくてたくましくてあの技術もある素敵な男何てここにはいないわよ」

 

 あたしが、ありったけの言葉を込めて浩介くんに大好きアピールをする。

 最後の最後に「あの技術」と言う辺り、あたしにも遠慮があるのかしら?

 

「よし、分かった! 優子ちゃんがそう言うなら安心だ。俺もちょっと興味あるからな。優子ちゃんのためにも、女の好みを学習しないと」

 

「ありがとうあなた」

 

 浩介くんが前向きになってくれたので、あたしたちは改めて執事喫茶のある教室に入る。

 

「「「お帰りなさいませお嬢様ー!」」」

 

 あたしが扉を開けると、開口一番に執事服を着た男子陣が一斉に挨拶をしてくれる。

 お客さんたちは予想通り女子生徒で占められていた。

 

「こちらにご案内いたします」

 

 一瞬、執事さんの顔が緩む。

 まあ、飛びきりのかわいい女の子がお客さんに来たら嬉しいだろうけど、残念無念、あたしは彼氏持ちどころか既婚者で旦那持ちなのだ。

 

「メニューはこちらになります。決まりましたらお呼びください」

 

 執事さんにメニューを渡され、あたしたちは吟味を開始する。

 ふむふむ、見た感じではあたしたちが現役だった頃とあまり変わらないわね。

 

 

「なあおい、あれさっき出回ってた篠原先輩じゃね?」

 

「じゃねじゃなくてどう見ても篠原先輩だろ? て言うか、平成30年度卒だから確か今22だろ!? 全くそう見えねえぜ」

 

「そりゃあTS病何だから当たり前だろ!?」

 

「いやいや、俺が言いたいのは旦那の方だよ。俺の兄が篠原先輩の1個下だけど、ずっと老けてるぜ」

 

「大方、コネで蓬莱の薬でも飲んでるんじゃねえの?」

 

「違いねえ」

 

 

 執事たちの噂は合っている。

 まあ、そりゃあTS病になったり、蓬莱の薬を飲んだりしたら、実年齢なんてあってないようなものだけど、それにしても年齢を大声で話されるのはいい気分じゃないわね。

 本当、女性に年齢って失礼だわ。

 あたしは気を取り直して、メニュー表を見てメニューを決めることにした。

 

「うーん、この『豚カツサンド』にしようかしら?」

 

「よし、俺はこの『カレーサンドにしよう』、すみませーん!」

 

「はーい!」

 

 メニューを決め終わると、浩介くんが代表して執事を呼ぶ。

 執事さんがこっちにゆっくりと近付いてきた。

 

「豚カツサンドとカレーサンドで」

 

 浩介くんがそう言うと、執事さんがメモを取っていく。

 

「はい、ご注文決まりました豚カツサンドとカレーサンドです!」

 

「はーいただいまー」

 

 厨房と思われるスペースで、女子生徒の声がする。

 あの時とは、何もかも正反対だわ。

 

「何かあの時とはアベコベの世界っていうか鏡の中の国っていうか……そんな感じがするぜ」

 

 浩介くんがやや苦い声でそう話す。

 うん、それはあたしもそう思っていた。

 

「あー分かるわ」

 

 5年前でもあの時の記憶ははっきりと覚えている。

 

「あのー篠原先輩ですよね?」

 

「え!?」

 

 突如、執事さんの1人があたしに話しかけてくる。

 

「ええ、ああうん俺たちは篠原って言うんだ」

 

 浩介くんが、「たち」を強調して話す。

 それは「俺の嫁だ」という威嚇を多分に含んでいた。

 

「その、先輩たちの時代の学園祭ってどんな感じだったんですか?」

 

 執事さんの質問に対して、浩介くんが困惑した顔になる。

 

「どんなって言っても──」

 

「あまり変わらないわよねー」

 

 あたしと浩介くんの目が合う。

 ただ、この執事喫茶は、3年間を通じて存在しなかったことを話しておいた。

 

 

「んじゃ、さっきの集合場所でな」

 

「ええ」

 

「ふむふむ」

 

 

 小谷学園の学園祭も、変わったのは中の生徒だけ。

 校則が厳しくなったわけでもない。

 相変わらず自由な校風が生きている。

 

「ところでお嬢様」

 

 執事さんがあたしに笑顔を振り撒いている。

 ……よし!

 

「はーい!」

 

 あたしも、ちょっとだけ愛嬌よく振る舞う。

 

「追加のご注文などはございますでしょうか?」

 

「うーん、浩介くんは?」

 

 あたしは、浩介くんに顔を向ける。

 

「ああいや、別にない」

 

「うーん、あたしも特に無いかしら」

 

「かしこまりました。この先もごゆっくりお楽しみください」

 

 笑顔で特にないと告げると、執事さんも笑顔で「ごゆっくり」と言う。

 まあ確かに、まだ混雑する時間帯じゃないものね。

 

「それで、先輩方は文化祭では何をしてたんですか?」

 

「えっと、あたしは2年生の時にメイド喫茶して、3年生の時には修学旅行の展示をしたわね」

 

 あたしは昔を思い出しながら言う。

 あたしの中では、どちらかと言えば後夜祭の方が思い出に残っているけどね。

 

「へー、篠原先輩のメイドって、大人気だったですよね!?」

 

「えっへん、そりゃあもう、うちの旦那が嫉妬しちゃって、大変だったわ!」

 

 あたしがあえて浩介くんが聞こえる場で話す。

 執事さんと楽しく話すことで、浩介くんの嫉妬の炎がメラメラと燃えている気がするわ。

 男の嫉妬は愛が冷めることもあると言うけど、あたしたちの場合は必ず後で埋め合わせがあると言う安心感があるので、そうはならない。

 

「へー、結構嫉妬深いんですか!?」

 

 執事さんが浩介くんに聞いてくる。

 

「うぐっ、ひ、否定できない」

 

 浩介くんも、自分が嫉妬深いことを認めているらしい。

 まあ、それがまた、魅力だったりするんだけどね。

 だってそれは、あたしが嫉妬するくらいいい女って意味でもあるもの。

 

「ふふ、ご機嫌を取り戻すのも、妻の勤めなのよ」

 

 あたしがにっこりと笑う。

 浩介くん、また嫉妬しているわね。

 

「ふえー、結婚って大変ですね!」

 

 執事さんも高校生だから、結婚については想像するのは難しいと思う。

 いや、そもそもあたしたち大学生だって大多数にとっては結婚を想像するのは難しいと思うけど。

 

「そうでもないわよ。浩介くん、素敵な男性だもん」

 

 そう言うと、浩介くんの顔がちょっとだけ赤くなる。

 

「あーその、他のお嬢様もいらっしゃいますので」

 

「あ、すみません」

 

 と言っても、女の子は恋話が大好きな人たちなので、そこまで敵意を向けられていない。

 

 

「ふう、じゃあたしたち、そろそろ行くわね」

 

 一通り雑談をしたらあたしが椅子から立ち上がり、浩介くんとそれぞれ会計を払う。

 もちろん、別会計だ。

 

「行ってらっしゃいませーお嬢様ー!」

 

 執事さんたちに見送られ、あたしたちが教室を出る。

 これで2年生のエリアを全て見回ったことになる。

 

 さて、浩介くんはと言うと──

 

「ねえ優子ちゃん、次はどうする?」

 

「その前に、浩介くんちょっと不機嫌そうだわ」

 

 執事喫茶であたしが執事さんの後輩たちと楽しく話していたら、いつの間にか浩介くんも焼きもちを焼いちゃったらしい。

 

「そ、そんなことねえよ!」

 

 もう、図星が分かりやすすぎだわ。

 

「いいのよ無理しないで。ほら、せっかく制服で来たんだし、屋上へ行きましょう?」

 

「お、おう」

 

 浩介くんの胸がドキンと高鳴った気がする。

 どれだけ結婚して一線を越えても、高校時代の文化祭を思い出すこの場は、あたしたちにとっては特別な場所で、しかも以前にしたことのあるシチュエーションになっている。

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