永遠の美少女になって永遠の闘病生活に入った件   作:名無し野ハゲ豚

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突きつけられた現実 前編

 ゆっくりと意識を回復する。

 えーっと、何をしていたんだっけ?

 そうだ、女の子になっちゃったんだ。下半身と上半身に相変わらず違和感を感じつつ、ゆっくりと起き上がる。

 午前7時、いくら眠いと言っても17時間も寝た後でまた寝てもそこまで寝られないわけか。

 

「あ、起きた。あなた! ゆうが起きたよ!」

 

 身体を起こした直後、母さんの声が聞こえた。どうやら親父も一緒らしい。

 

「おお!……ところで、変なことを聞くが、君の名前は石山優一、でいいんだよな?」

 

「そ、そうだけど。俺……の、名前は、っ! 確かに石山優一だけど」

 

 普段使ってる一人称の「俺」だが、今の声だと物凄い違和感がある。そのせいで一回使っただけで詰まってしまった。

 

「ねえ、私達が優一って名前をつけた理由は?」

 

「一番優しい人に育って欲しいから?」

 

「通っている高校と血液型と誕生日は?」

 

「私立小谷高校の2年で血液型はA、誕生日は6月22日」

 

「うーむ、どうやら本人らしい」

 

 親父がうなりながら肯定する。

 まあ、疑うのは当然だよな。

 

「うちの子が突然倒れたって聞いたけど永原先生が『面会謝絶』って言ってきて、それを無視して病院に行ってみても病院の人も『決して命に別状はない、今は何もしないのが治療法だから明日にまた来てください』ってことで私達もたった今到着したところなのよ」

 

「ゆうが寝ている間に少し布団を持ち上げてみたんだが、お父さんもお母さんも驚いたよ」

 

「それで、こっちからも聞きたいことがあるんだけど」

 

「何だ?」

 

「やっぱり女の子になってるか?」

 

「ああ、今のお前はどこからどう見ても女性だ。それどころかその辺に歩いている普通の女性と比べてもかなり女が強調された女性だ」

 

 どうやら、さっきのことは夢じゃなかったらしい。まあ、声が相変わらずの少女声だった時点で薄々感づいていたが。

 にしても、女が強調されたってのは、やっぱこの胸のこと言ってるんだろうなあ……

 

 これからどうなるのか、頭の中が「真っ白な闇」になって何も考えられないでいると、ガチャッと扉が開く音がして、誰かが入ってきた。

 

「あ、石山君……いえ、石山さん。起きた?」

 

 入ってきたのは予想通りの人物、うちのクラスの担任の永原マキノ先生だ。

 

「あ、先生。その、息子……ああ、いや……む、娘はどうなったんですか?」

 

 永原先生が「君」を「さん」と訂正し、親父ももう「娘」と呼んできた。何気ない訂正でも、俺の中では現実という重圧がのしかかる感覚を受ける。

 

「見ての通りです。TS病と言われる病気になりました。ええ、私がここに居るのも、私も遠い昔これになった事がありますので、何かとお役に立てることがあると思いまして」

 

 永原先生は、淡々と答える。しかし、遠い昔というのはどういうことだ?

 いや、そんなことはどうでもいい、とにかく女の子になってしまった以上、色々な手続が必要だ。

 まずそのことについて質問せねば。

 

「それで、名前とか戸籍の性別とか変えられるんですか?」

 

「ええ。問題ないわよ。この病気になったら性別や名前の変更は性同一性障害よりも遥かに簡単よ」

 

 先生曰く、性同一性障害での戸籍の性別変更には色々な条件があるが、完全性転換症候群の場合は、医師の診断だけでOKみたいだ。

 今はまだ前例は一件もないが、婚姻中にTS病になった場合は婚姻関係そのものがなかったことになるらしい。

 

 まあ、当たり前といえば当たり前か。

 少なくとも肉体的にはもはやどう見たって女性だ。むしろこんな姿で「お前は男だ」と言われたらそれはそれで嫌な気分もする。

 うーん、でも女の子でいいのか? いやいや、人間は男でも女でもないなんてあり得ないし……ダメだ、頭が混乱してきた。

 

「で、石山さん、名前のことも大事だけど、これからもっと大事な話が医師の方からあるわよ。7時20分からだから後15分よ。急いだほうがいいんじゃないかな?」

 

「おっと、そうだ。この服、着替えたいんだけど……」

 

 歩くと胸が擦れて不快になりそうとは言わないでおこう。

 

「ごめん、お母さん着替え持ってきてないわ。……あー、でも、持ってきたとしても胸が入らないと思う」

 

 うっ、それは困ったな……

 

「大丈夫ですよ、こちらの方で用意しておきました」

 

 お、助け舟だ。

 

「あの、サイズは大丈夫ですか?」

 

「大丈夫です。病院の人がちゃんと測ってありますから」

 

「え? おいおい、いつ測ったんだ? そういえば服もいつの間に変わってるし」

 

「昨日の夜10時位です。だいたいその頃なら体つきなどの変化が終了するので、病院服にも着替えさせてもらいました」

 

「プライバシーとか無いのかよ!!!」

 

「ゆう、お世話になった病院の方に失礼だぞ……!」

 

 親父が注意する

 

「あ、ああ……でも……」

 

「心配しないでください、ちゃんと女性の看護婦さんがやってますから」

 

 うーん、それでいいものなのか?

 身体は女の子、今の俺は正真正銘の女の子。そんなことわかりきってるのに、どうにも納得がいかない。

 多分、納得できない俺が愚かなだけだろう。いや、そうでも考えないとこの現実から目を背けた感情を処理できん。

 いきなり倒れて女の子になるという滅茶苦茶な話だ。しかし、実際極めて珍しいものの同じ境遇の患者はいる。現に永原先生だってそうらしい。

 

「そ、それよりも着替えなきゃな。こんな話をしていても仕方ない」

 

「そうだな、お父さんは外に出ていた方がいいかな?」

 

「できれば、お母さんと先生も外に居てくれると助かる」

 

「分かったわ。じゃあ早く着替えてらっしゃい」

 

 両親と永原先生が部屋の外に出る。改めて、用意されていた服を見る。

 普通に男性でも着られそうなジーンズと上も無地のシンプルなセーター。下着は……ブラジャーはしょうがないとして、パンツも女物か……

 ううむ、どうにも抵抗感があるが、今穿いてるのはぶかぶかだし汗も酷いだろうしなあ……

 

 とりあえず、服を脱ぐ。全部脱ぐ。

 ふと、何の気なしに姿見を見てみた。

 

「う、うわっ!」

 

 思わず声を上げてしまった。そこには可愛い女の子が裸になってた。

 大きいのに形も見事なおっぱいがエロい、やばい。下半身もさっきは分からなかったが、丸みを帯びた肉体に下腹部に程よく肉がついてる。一言で言うなら「安産型」だ。

 

 いけないいけない、自分で興奮するのはおかしい。ここはなるべく医学的に……医学的に観察するんだ。

 男だった時の俺は、髭や胸毛や脚、腕など、頭以外はかなり毛深かったが、この少女の裸体にはその手のムダ毛が全く無く、長い髪の毛に全部吸い取られたようだ。

 そして、喉仏を始めとして、本来男であるはずの俺にあるべきものがことごとくなくなっていたことにも気付いた。新しいことを見つけるたびに、改めて自分が女の子になってしまったことを思い知らされる。

 まずいまずい、時間もあんまりないのにこんなことで感慨にふけってる時間はない。どうせこれから嫌でも自分の裸と付き合わなきゃいけなくなる。

 とにかく今は目の前の課題に集中しよう。

 

 まずブラジャーから手をつかむ。えーっとこれは、どこで留めるんだ……?

 えっと、前で留めるのか。

 

 えーっと、胸につけるからこうやって……よし、OKだ。

 にしても、これ物凄い大きいな。何だろう、肩がこりそうな気がする。

 

 それから、えーっと。このパンツ……やっぱ穿かなきゃいけないよなあ……。

 まさかノーパンにするわけにも行かないし、男物のもぶかぶかになってしまったし、それに「あれ」がなくなったから穿き心地悪かったし……

 

 とすると、だ。

 あー! もうヤケクソだ。どうにでもなれ!

 

 意を決して穿いてみる、ん? おおお、布面積小さいのにぴったりフィットしててすごく穿き心地いいぞ!

 素材もいいしこれはもう男物には戻れないな。これからは男物のパンツは穿かないようにしよう。

 ……なんか男という性別にとって大事なものを窓から思いっきり投げ捨てたような気がするがまあいい。しかしこれ、どうして男に応用できないんだ……?

 ……あそっか。例のアレがあるせいだ。ちょっとだけ例のアレに恨みを覚えた。

 

 で、ジーンズだ。まあ、これは普通に着れば大丈夫だろう。

 うん、これは男の時の着方と同じだ。チャックちゃんと閉めないとな。

 

 ふう、どうやら十分に間に合いそうだ。ブラとパンツに手こずったくらいだな。

 パンツはともかく、ブラはぺたんこならともかく、こんな大っきけりゃ付けざるをえないだろうし、早くこれには慣れとかないとな。

 俺はドアに手をかけて、着替え終わったことを報告する。

 

「あ、終わった? じゃあお医者様のところに行きましょうか」

 

「にしても、意外と早かったな」

 

「あ、ああ。その……ブラつけるのにちょっと手こずっちゃっただけだから」

 

「そ、そう? でもこれから大変なことがたくさん来るわよ。」

 

 4人で並びながら病院の廊下を歩く。やがてスカイブリッジが見えてきた。どうも入院患者の病室棟と一般の診断棟との間の連絡橋の役割らしい。

 

 それにしても、最初の服がユニセックスな感じでよかった。いきなり超ミニスカートとか言われたら病院服着替えるのをやめたかもしれん。あーでも、流石に症例も極めて稀とは言えそれなりにあるわけだから、こういう配慮は行き届いているということか。

 うーん、でも元に戻れそうにないなら、このまま一生女として生きてかなきゃいけないということになるよな。

 

 そうなると、学校だって女子の制服になるし、スカートを避けて通るのは難しいよなあ。

 そうこう考えているうちに担当のお医者さんの部屋の前に来た。名前を見るに女性の看護師さんだ。

 

「じゃあ、先生は授業があるから。ちょっと席を外すね? 午後にはまた戻ってくるから」

 

「いってらっしゃいませ~」

 

 母さんが挨拶し、永原先生は病院から学校に向かう。

 救急車で運ばれていた時はよくわからなかったが、この病院は通学路の途中にある病院で、学校からもかなり近い。と言うより最寄りの病院で、一応うちの学校とも提携もしている病院だ。

 部活中に大きなケガをしたり、生徒や先生に何かトラブルがあると、ここに通うことになっていて、先生の持病や、定期健康診断もこの病院で行われる、大きめの総合病院だ。

 

「石山さん、石山優一さん、4番にお入りください」

 

 中年女性と思しき声が聞こえ、俺と両親が中へ入る。

 

「はい、えーっと、今日の気分はどうですか?」

 

 やはり、声の通り中年女性のお医者さんだった。

 

「あまり良くないです」

 

「そうですね。これから健康診断をするんですが、その前に『完全性転換症候群』について説明しますね」

 

「はい」

 

「……名前の通り、今石山さんは完全な女性の身体になってます」

 

まず、一つ疑問をぶつける。

 

「なあ、完全な女性ってことは、まさか子供産んだりとか……」

 

「前例はあります。妊娠率も一般の女性と変わりません。男の子も女の子も産まれ得ます。もちろん生理も来ます」

 

 ひ、ひえっ。無慈悲な一言だ。

 

「あ、あの……優一は、男性に戻ることはできますか?」

 

 親父が質問する。

 

「この病気になった患者は二次障害として性同一性障害に陥るケースが多いんですが、そこで性別適合手術を受ける人は多く居ます。これで戸籍上は男に戻ることも出来なくはありません」

 

 俺達は、医者の話を良く聞いてみる。

 

「ですが、私個人としてはオススメしません。何より肉体的に完全な男性に戻ることは……前例もありませんし医学的にも不可能です」

 

 「そ、そうですか……」

 

 親父も母さんも、やはり突然のことでショックを受けてる

 にしても、結構容赦ないなこの先生……

 でも、現実から目を背けて、有りもしない希望を追いかけるよりはマシか。

 

「よくわかった。じゃあ、これから女として生活する上で気をつけることはあるのか?」

 

 俺が質問する。

 

「そうですね、古くからあるTS病患者で作る団体の特別な要望であまり明かされていないんですが、実はこの病気、もう一つ大きな特徴があります」

 

「???」

 

「それは、老化しなくなるということです」

 

「えっ!?」

 

 3人が一斉に声を上げた。驚くのは当然だ。老いなくなる? それってつまり……まさか……!

 

「死なないという意味ではないんですが、100歳以上若いまま生きる人は居ます」

 

「つ、つまり俺は余命はどうなったんだ?」

 

「理論上は1000年でも2000年でも生きられますよ。最も、この病気は不吉とされていたのと昔の衛生環境の悪さもあって1000年前から生きてる患者は居ませんが」

 

 おいおい、そりゃ恐ろしい話だ。俺の同級生や子供、孫の世代が死んでも、俺だけ……いや厳密にはこの病気の人だけずっと生き続けるということか。

 そうだ、今朝最初に起きた時に引っかかっていたのはそこだ。何かもう一個、大きな特徴を見落としていると思ったら、そこだったのか。

 

「そうですね、これ以上は午後にやるカウンセリングで詳しく話し合いたいと思います……私の話としてはまずは以上です。石山さんの方から何か質問ありますか?」

 

「……ああいや、今は聞きたいことはないな」

 

「ではこれから、石山さんの身体に異常がないか、健康診断を実施します。時間は8時からですからその間に朝食を取って下さい。時間になりましたら病院の方で呼び出ししますのでご安心下さい。健康診断の結果は後日お伝えいたしますね。健康診断は12時終了予定で、それが終わったら一応『退院』という形になります。ですが13時からはカウンセリングがありますからまだ家に戻らないで下さい」

 

 結局医者の話しは5分足らずだ。病室に戻った時も、8時まで30分の余裕がある。

 

「じゃあ、お父さんは仕事があるから」

 

 そう言って親父が病院を後にする。

 そして母さんはと言うとまだ現実を飲み込めてないから洗濯物を片付けながら気持ちを整理したいと言って家に帰ってしまった。

 なんか薄情だと一瞬思ったが、少し考えれば親だっていきなり息子が娘になったら離れて一人で気持ちの整理でもしたいと思うのは、まあ不自然じゃない。

 母さんの方は午後のカウンセリングに出るということなので、まあ健康診断に同行してもしょうがないと言うのもその通りだ。

 

 そういえば、洗濯物の片付けと言えば、服もなんとかしないといけないなあ。

 今家にある服は、男物はサイズ的にも論外だし、母のお下がりをもらうと言っても、胸の大きさが違いすぎて着られないし、幸いサイズは既に測られているのでそれを元に買えばいい。

 もし退院したら真っ先に服屋に行かないとな。

 

 俺の病室の中には看護婦が一人いて、挨拶の後に病院食を持ってくると告げて出ていってしまった。

 大きなことが立て続けに起こったから忘れていたが、そういえば喉も乾いたしお腹もすいたなあ……

 

 ともあれ病室に入る。いつの間にか姿見と電波時計、更にプリントと手紙もなくなっていた。代わりにいつの間にか置いたのか永原先生の新しい手紙があった。

 それによると、姿見は永原先生の私物で電波時計とプリントは自宅に送られたらしい。

 今まで病院用のスリッパだったが、ご丁寧に足のサイズも測られていたのか、新品で小さめの黒い靴が置いてあった。ありがたく使わせてもらおう。

 あ、そういえば立て続けに大きなことが起きてたから見落としてたが財布と携帯はどこに行ったんだ!?

 ……ああ、テーブルの上にあった。これでとりあえず家に帰れるな。

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