永遠の美少女になって永遠の闘病生活に入った件   作:名無し野ハゲ豚

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初めての水泳

 7月、気象庁に拠ればまだまだ梅雨は開けては居ないそうだが、6月に比べると晴れの日が増え始めた。

 実は球技大会前の、6月22日に誕生日が来ていたんだが、誕生日に気付いたのは誕生日の日の夜だった。女の子になったことばかりに気が行っていて母さんが声をかけたことで初めて思い出した。

 その後も球技大会や勉強の事で頭が一杯で取るに足りないイベントだと思ってたけど、考えてみれば女の子になって最初の誕生日だと思い出し、7月になってやっと気付くというもったいないことをした。

 ちなみに、誕生日祝いにジャンパースカートをもらった。これは上のデザインにも気を配る必要がある、レベルの高い服に見える。

 

 さて、現在の日付は7月3日。明日7月4日火曜日の体育の授業はプールということで、私は自室で水着の着替え方を復習していた。

 

「うーん、これでいいのかなー?」

 

 いくら女の子同士と言って、いや気が緩みがちになる女の子同士だからこそ大事な所がぽろりは良くない。

 

 そしてもう一つ、水泳の授業に向けて考えていることがある。既に複数の男子の中で私のことを純粋に女の子として見る動きも出てきて、もしかしたらこの身体、反応する男子が居るんじゃないかと思っている。

 もしそうなったら、その時の私はどう思うのか?

 嬉しいという気分も出る気がする。例え本能的性欲だとしても、女の子として見てくれているということだから。

 でも同時に、エロい心で見られているということに対する嫌悪感も出てくるかもしれない。これとばかりは実際に受けないと分からない。

 

 ともあれ、永原先生がカリキュラムのときに残してくれたプリントを引っ張り出し、もう一度スクール水着の着替え方を練習する。

 

「これで大丈夫かなあ……」

 

 プールの着替えはちょっと特別で、女子だけプールの近くにある更衣室で着替えることが出来る。

 そこは窓もなく扉も厳重で、いわゆる「覗き」や「盗撮」が発生しないようにという配慮だ。

 

 

「さて、今日はもう寝るかなあ……」

 

 ともあれ、制服から水着の着替え方への復習も、これで十分だろう。本番緊張しすぎない方がいいんだろうけど……

 

 

  ピピピピッ……ピピピピッ……

 

 ……いつもの目覚ましの音で朝起きる、制服に着替える前に水着を忘れないように鞄に入れる。天気は晴れ。昨日の天気予報での予想最高気温は31度。プールにはいい日だ。

 何時ものように寝ている汗を吸い取ったパジャマと下着を脱ぐ。毎日着替える時や風呂に入るときにになっているからすっかり慣れ切った全裸だけどそれでも見る度にエロい身体だと思う。

 とにかく、素っ裸になったら箪笥からブラとパンツを取り出す。

 

 うーん今日はどうしよう?

 いつもは下着の色は白や縞パンが大半……というより、白と縞パン以外にも薄いピンクやブルーといった薄い色のシンプルなデザインしかない。

 

 派手な色やデザインのパンツは女の子初日の服選びの時に全部拒否したからだ。

 というわけで、今日はシンプルにリボンのついた白にした。そういえば、疑問に思わなかったけど、このリボン何のためにあるんだろう?

 

 その疑問を頭の隅に追いやりパンツを穿く、フィット感が素晴らしい。白いブラジャーも手に取り、少し前かがみになってホックを後ろで留める。

 着心地のいい女の子の下着を身にまとい、制服を着る。

 

 夏服は冬服よりも作業工程が一つ少ない。シャツとブラウス、そしてスカートを穿き、所定のリボンをブラウスに取り付けて、曲がってないか確認し、ブラウスをスカートの中に入れる。

 最後に頭にオシャレの白リボンをつけて完成!

 

 ほとんど寝ぐせもなく、痛みもないさらさらな長い黒髪を少しだけ()かす。

 うん、今日も可愛くできてる。

 

「優子ー! 朝ごはんできてるわよー」

 

「はーい」

 

 母さんに促され、食卓へ。今日もいつものように昨日の残りとご飯などで作られた朝食を食べる。

 

 

 通学路、7月に入ってすっかり学校に溶け込んだ私は「あの子可愛くない?」とか「おっぱい大きいよなあー」なんていうヒソヒソ話になることはない。

 ただ、どうしてもオスの本能というか、男子の視線が胸に行っているのを感じるのも事実。

 また私の正体などを知りつつ「優子」としての話題も出てくる。

 

 ……やはりその話を効いていると、優一時代の悪名の払拭は難しいらしく、可愛い女の子になったことは認めつつも、どうしてもその影がちらついてしまうようだ。これについては辛いと言えば辛いが自業自得である以上甘んじて受け入れるしかない。

 もし腕力や威圧感も男の頃と同じだったら、強引に怒鳴りつけていたけど、今はそんなことはできないし、したくもない。

 

 

 ロッカーに入り、ローファーから上履きに履きかえる。

 いつものように教室を目指す。

 

  ガラガラ

 

「おはよー」

 

「優子ちゃんおはよー」

 

「おう、優子おはよ!」

 

 桂子ちゃんと恵美ちゃんがそれぞれ返事をしてくれる。

 自分の席に座り、鞄を椅子の下に置き、ロッカーから一時間目の教科書を出す。

 後はホームルームまでのんびりするだけだ。話しかけてくるのはだいたい女子の誰かだ。

 

 

「今日から水泳だねー」

 

「男子が気になるわねえ……」

 

「ねえねえ、高月はさー」

 

 

 女子にとって水泳の授業は鬼門だという。私も、男だった去年は、本人には気付かれなかったけど、水着姿の桂子ちゃんで興奮してしまった。

 というよりも、学校で一番の美少女だった桂子ちゃんだったから、他の男子も何人か息遣いを荒くしていて、特にその件で高月は女子から一時期かなり嫌われてた。あの時は流石に同情して高月に怒鳴るのをしばらく止めていた。

 

 今年は女子に対して興奮するということは基本的になくなったが、代わりに興奮される側に回ることになった。

 いくら「中身は男」と念じ続けたとしても、この身体が水着になったら興奮しないわけがない。視線が胸に行くのと同じ、人間のオスとしての根源的本能だから。

 

 ともあれ、体育の授業は来るんだし、その時になってから考えよう。

 

 

 4時間目の終わり、5時間目の体育が水泳の授業ということで、早めに女子更衣室に入るように連絡を受けた。

 水着を持って、女子たちとともに、プールへと移動する。もちろん、プール近くの女子更衣室に行くのは初めてだ。

 途中、小野先生とすれ違う。小野先生はトラウマになっているのか、私と目が合うと恐怖の表情を見せて顔をそらしてしまった。どうも私と歩く女子を見ると永原先生のあれを思い出してしまうらしい。

 ……さすがに気の毒だ。永原先生が「あまり使いたくない」と言ったのも頷ける。

 

「はい、ここよ」

 

 恵美ちゃんが代表して最初に扉を開ける。私たちが全員続く。ちなみに「女の子の日」を理由に2人ほど見学者が出たので15人だ。

 

「優子、鍵閉めてな!」

 

「はいっ!」

 

 鍵を閉め、まずは小型カメラの警戒作業をする。いつぞやのプリクラの時もだが、やはりこの警戒は怠ってはいけないらしい。

 その後は各自自由にロッカーの位置を決める。もうグループのわだかまりはないけど、こういう時に時々名残が出る。何だかんだで同じ旧グループ同士仲がいいということもある。

 私も、桂子ちゃんと龍香ちゃんの間になった。

 

 水泳ということで、いつもよりは口数も少なく、黙々と着替える。

 やっぱり女の子同士とはいえ、見えるのはダメだ。

 

 

 まず水着を取り出してから、靴下と頭のリボンを取り、スカートの中に手を入れてパンツに手をかけ脱ぐ。

 ノーパンにスカートなのは例のカリキュラムの時と昨日着替える練習をした時以来だが、やっぱりスースー感が半端ない。

 パンツ穿いてる時と比べても心許なさは数倍になる。

 

 ともあれ、ノーパン状態になりながらロッカーに下着を入れ、スク水を穿く。

 ずり落ちないように気をつけながらスカートを脱いでロッカーに入れ、水着をブラウスの中に入れる。

 

「わー恵美ったら大胆……!」

 

「へへん、どうだ?!」

 

「噂は本当だったのね……」

 

 田村グループの方から何やら声が聞こえてくる。

 振り向くと、マッパの恵美ちゃんが見えた。

 

「……」

 

「こうやって一気に裸になって一気に水着着りゃ楽ってもんだー!」

 

 豪快な様子を見て、一瞬心があっちに向かうが、「ダメダメ、反面教師にしないと。ああなったら女の子として終わりって何度も何度も言われたでしょ優子!」と自分に言い聞かせて、着替えを続行する。

 

 一旦シャツを脱ぐためにブラウスを脱ぎ、見えないようにまた着直す。ここが少し面倒だが仕方ない。

 水着の肩紐を入れ、ブラジャーを外す。ちゃんと着られていることを確認したらブラウスを脱ぎ、最後にパッドを取り出して胸に入れる。

 そしてロングヘアー用の水泳帽をかぶって更に髪の毛を中に入れて……よしっ! 完成!

 

「優子さん、すごいですね、全く見えてませんでしたよ!」

 

「あ、ありがとう。よかったー」

 

 ……と言いつつ、龍香ちゃんは既にスク水に着替え終わっている。桂子ちゃんも既に水着姿だ。

 

「でも、まだまだだね優子ちゃん」

 

「うん、もう少しスピードアップできますよ」

 

「そ、そうなの?」

 

「でも手順は間違ってないわよ。あっちみたいにしなかっただけでも上出来よ」

 

「あはは、あれは楽だと思うけど大胆すぎて無理よ……」

 

「うんうん、特に優子ちゃんがやったらまずいと思うわね……」

 

「同感ですっ!」

 

 ともあれ、もうすぐ集合時間だから、そろそろプールに行く。

 

 そこには既に男子も集まってて、一部からは「おー」と歓声があがる。

 

 去年、私は「おー」と歓声を上げる男子に混じって苦虫を潰すような表情で見ていた。

 今年、私はその男子たちに歓声を上げられ、見られる立場になった。

 

 最後に、水着に着替えた体育の先生が入ってくる。

 

  キーンコーンカーンコーン

 

 授業開始のチャイムが鳴る。

 

「よし、集合だ!」

 

 クラスメイトたちが喋りながらも集合する。

 優一時代の名残か、うちのクラスはそれなりに統率が取れている。

 怒鳴りつける人が居なくなって気は緩んではいるものの、先生が「このクラスは秩序がある」などと褒めてくれるため、また理屈の上でもそうした方がいいことは分かっていたためそれなりに続いている。

 

「今日から水泳の授業だ。知っての通り飛び込みは危険なので今年度より中止になった。本当はうちのプールの深さなら問題ないんだけど、色々あって却下されたんだ。よって、他の泳ぎ方も変則的だが水中からスタートになります」

 

「では、まず準備運動から。皆もう知っているとは思うが、指導要領に言えとあるので言うぞ。準備運動を十分にしないと足が攣(つ)ったり溺れたりする。先生行う準備運動をしっかりやってくれ……それじゃあ始めるぞ」

 

「「「はーい」」」

 

「1,2、3、4……5,6,7,8! ……2,2,3,4……5,6,7,8!」

 

 まず前後に足を伸ばす、続いて左右。よくあるストレッチだ。

 

「1,2、3、4……5,6,7,8! ……2,2,3,4……5,6,7,8!」

 

 続いて片手を腰に付けてもう一方は頭の上に持ってきて腰を横に逸らす。これもラジオ体操などでおなじみの運動だ。

 

「1,2、3、4……5,6,7,8! ……2,2,3,4……5,6,7,8!」

 

 続いて、前に前屈して後ろに倒すを繰り返す。これもおなじみだ。

 

  ざわざわざわ……

 

 な、何? 男子がちょっとざわついているような。

 

「こらー! 女子ばっかり見るんじゃないぞー次! 深呼吸!」

 

 やっぱり見られてるんだ……!

 

「1,2、3、4……5,6,7,8! ……2,2,3,4……5,6,7,8!」

 

 身体を上下させながら腕を左右にブラブラさせる。

 自分でも胸が揺れているのが分かる。

 

 

「やばい、エロすぎる……」

 

「はぁ……はぁ……」

 

「うっ……まずい……」

 

「石山が……はぁ……はぁ……こんなの我慢できねえよ……」

 

 

 やっぱり男子が興奮していた。

 

「こら男子! 優子ちゃんを性的な目で見ないの!」

 

「桂子ちゃん、それは無理な注文でしょ……」

 

「もう、優子ちゃん甘すぎるわよ!」

 

「しょうがないわよ。私だって男子だったら――」

 

「わ、分かったわよ……優子ちゃんが言うと洒落になってないわよ……」

 

 やっぱりこういうところで男子の肩を持ってしまう。理解者になってしまっているのは、もしかしたら一生治らないかもしれない。

 だけど、本能とはいえ私の「女」に反応してくれるのはちょっと嬉しくもある。少なくとも男扱いされていじめられてた時よりはずっといい。

 私もあの時のトラウマはまだ拭えきれてないのか、女の子として見られたいという気持ちは未だにとても強い。

 普段歩いていて男子の視線を感じる時も、今のように性的な目で見られる嫌悪感に勝ってしまうことが度々ある。

 これが好ましいのか好ましくないのか、私には分からなかった。

 ともあれ準備運動が終わった。

 

 

「よし、じゃあ今日は一人一人体力を確認するぞ。50メートル泳いでみろ!」

 

 うちの学校は水泳部もあるので、水泳部仕様の50メートルプールになっている。普段は水深が2メートルだけど、飛び込み廃止もあって50センチ位クッションで嵩上げされている。

 というか2メートルもあったら間違いなく泳げない子は溺れちゃうし。

 

 生徒が泳いでいく、30メートルほどで力つく子もいるし50メートル泳ぎきる子もいる。水泳部の一人はバタフライで泳ぎきって歓声が上がった。

 

「よし、次! 石山!」

 

「は、はい」

 

 私の番になる。水に浮いて壁を蹴りスタート。

 私は一番楽な背泳ぎを選択、しかし……

 

「はぁ……はぁ……」

 

 だ、ダメだ! 3秒と持たない! というか全然前に進めない!

 

「むぐ……ぶくぶくっ……がはっ……!」

 

 し、視界に……水がっ……!

 

「ま、まずい! 優子ちゃん溺れる!!!」

 

 桂子ちゃんの叫び声とともに、近くに居た誰かがとっさに私の手をつかむ。

 

「ぷはっ……げほっ……ごほっ……ご、ごめんなさい……し、篠原くん、ありがとう!」

 

 篠原くんになんとか引っ張り上げてもらう。その後の彼は顔をそらしてしまった。

 仕方ないのでプールを見る。自分の身長よりも泳げてないことに気付かされた。

 

「よし、大丈夫だな……次! 木ノ本!」

 

「はい!」

 

 木ノ本桂子が泳ぎ始める。

 

 体育の授業では、普通ならば運動音痴はバカにされる対象だ。でも私はそうなってない。

 理由は一つ。私のその運動音痴ぶりがあまりにもあんまりだからだ。

 私の体育での悲惨な成績の数々。それはバカにすることさえ憚られる。可哀想という感情。

 今でこそ、女の子に望んでなろうとしている。でも、最初はそうじゃなかった。

 それがより一層の同情を生んでいるんだろう。それは遠い国の地雷で足を失った子供に対する同情心と同じかもしれない。

 

 でも、同情されてもいいと思った。

 昔ならそんな同情をされたら怒ってただろう。

 

 でも、私は強くある必要なんてもう無い。弱くていい。私は女の子だから、弱いのは当たり前だもん。

 もしピンチになったら、さっきみたいに、助けてもらえばいい。

 

 桂子ちゃんの泳ぎを見る。

 クロールで苦しみつつも、50メートルを泳ぎきっている。

 

 そして、恵美ちゃんの泳ぎ方は雑だが、体力に任せ、息の一つも乱さずに50メートルを泳ぎきった。

 

「よし、今日はここまで! 今日の水泳テストの結果で、皆それぞれの組を決める。シャワーを浴びて解散!」

 

 まずは女子からシャワーを浴びる。

 ここは10秒待機する必要がある。

 

 ううう……ちょっと冷たい……

 でも身体洗わないといけないからなあ……

 

 ともあれ、持ってきたタオルで身体を拭く。スクール水着は水はけが良く、乾くのも早い素材になっているのが幸いだ。

 

 ともあれ、女子全員で女子更衣室に入る。

 水着を乾かしてから着替える必要が有るため、ドライヤーもある。

 髪の毛が長い私は特に念入りに乾かさないといけない。水泳帽とは言え全く濡れないということは難しい。

 

 念入りに乾かしたら、他の女子とともに制服に着替える。

 カリキュラムの通りに、まずはスク水の上にブラを付ける。

 シャツとブラウスを着て、胸パッドを外して中で肩紐を外し、下までずれ落ちないように気をつけながらスク水を脱ぎ始める。

 そしてスカートを手に取り穿き直し、スク水を全部脱ぎ、パンツを穿いて、最後にシャツとブラウスをスカートの中に入れてこれでOKだ。

 そして最後に頭のリボンと制服のリボンを付け、整える。

 ……よし、着替え終わり!

 

「優子ちゃんすごいね! 脱ぐときは見せちゃう子いるのに」

 

 桂子ちゃんが褒めてくれる。

 

「へへ、永原先生のカリキュラムにあったんだ」

 

「ほほう、そうなんですか」

 

「制服の着付けの他に体操着やスク水への着替え方もありましたよ。話さなかったっけ?」

 

「うーん、忘れちゃいました!」

 

 ま、まあそうだよね……いちいち覚えていないのも無理はない。

 

 

 全員が着替え終わったことを確認し、外に出る。

 しばらくして予鈴が鳴った。

 

「少し急ごうか?」

 

「そ、そうね……」

 

 私達は、次の6時間目の授業への準備に取り掛かるべく、教室へと急いだのであった。


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