永遠の美少女になって永遠の闘病生活に入った件 作:名無し野ハゲ豚
ガララララ
突然、待合室のドアが空かれ、入ってきたのはウェディングドレス姿の龍香ちゃんだった。
いつになく、落ち着いた様子できれいで可愛らしい龍香ちゃんと、終始鼻の下を伸ばしっぱなしの新郎とのギャップが凄まじいわね。
「さあさ皆さん! そろそろ披露宴を始めたいと思いますので、会場にお集まりください! あ、こちらが今日から私の旦那になった──」
龍香ちゃんが、自分の旦那を紹介する。
「ご紹介に預かりました──」
龍香ちゃんの紹介が終わると、新郎が礼儀正しそうにペコリとお辞儀をする。
パチパチパチパチ
女子はみんな気付いているけど、新郎はズボンの下をもっこりとさせていた。
浩介くんも、あんな感じだったっけ?
「それじゃあ、あちらの方に来てください!」
龍香ちゃんの案内の元、あたしたちが最初の結婚式場へと歩いていく。
「ねえ優子ちゃん、あの新郎、もうあんな興奮してるよな?」
教会風の建物につくと、浩介くんがそんな話をして来た。
確かに、新郎はさっきからずっと興奮しっぱなしだわ。
「あら? あなただって結婚式の時大きくしてたわよ」
浩介くんも、誓いのキスをしてから、元気な下半身をあたしやみんなに見せてくれたものね。
「うっ……面目ない」
図星を突かれた浩介くんがしょぼーんとなる。
「いいのよ。結婚式ってそういうものよ。ここはみんなに見せつけるための場所なのよ」
あたしがすかさずフォローを入れる。
ふふ、こういうフォローが、長続きするためのコツなのよ虎姫ちゃん。
それに、結婚式だもの、興奮しちゃうの当たり前よね。
「そうだったな」
浩介くんも、納得してくれたのでそれ以上は言及はしなかった。
やがて、荘厳なパイプオルガン……のレコード音と共に、新郎新婦が入場する。
うー、結婚式に新郎新婦として参加したことはあったけど、こっちの方で参加したことはなかったわね。
あ、幼い頃したかもしれないけど、それはノーカウントで。
さて、やはりみんな注目しているのは新郎の下半身で、相変わらずだった。
龍香ちゃんも龍香ちゃんで、前をろくに見てないで、新郎の下半身を夢中になって見つめている。
何だろう、案外蓬莱の薬が発明されたら、一番強固なカップルになりそうだわ。
神父らしき人が入ってきて、愛を誓いあって、指輪をはめ祝福を受け、誓いのキスをする所まではあたしたちの結婚式と一緒なんだけど──
「んぅ………あなたぁ……」
龍香ちゃんが見せたディープキスは、あたしたちの時よりも更に過激で、しかも龍香ちゃんが新郎にお尻を撫でられていた。
「もう、龍香ったら大胆……」
桂子ちゃんも、ちょっとだけうっとりした目付きをしている。
ふふ、桂子ちゃんったら、達也さんに同じことをされたいと思ってる顔だわ。
まあ、あたしも似たようなものだけどね。
そしてあたしたちは、披露宴へと進み、龍香ちゃんと新郎の両親のメッセージなどが寄せられている。
さすがにこの場面では、龍香ちゃんも、エロネタは封印してきた。
とはいえ、思い出のビデオに、「平穏な純愛」とするのはいくらなんでも詐欺に近いんじゃないかしら?
あ、ちなみに龍香ちゃんの計らいで、あたしの席は端しっこの目立たないところになりました。
「龍香ちゃん、結婚おめでとう」
夫婦最初の「共同作業」も合わせ、あらかたのイベントが終わったらあたしも龍香ちゃんに挨拶をする。
龍香ちゃんは嫉妬深いので、新郎が他のテーブルで友人と話し込んでる隙を狙う。
ちなみに、新郎の方も元気なままの下半身をいじられている。
「ありがとうございます。はぁ……はぁ……」
龍香ちゃんの息が荒いわね。
まあ、原因は想像つくけど。
「龍香ちゃんどうしたの?」
知っていて、あたしが聞いてみる。
「あーうん、やっぱり今夜のことを考えちゃってるんですよ。ダーリンが大きくしてからかわれてますけど、私だってもう、ぐっしょぐっしょ何ですよ! 優子さんだって、そうだったんでしょう!?」
龍香ちゃんが、あたしに秘密を告白してくる。
あーうん、あたしはさすがにそこまでではなかったわね。
「うーん、あたしはさすがにそこまで乱れていなかったわよ」
「ガビーン!!! そんなー!」
あたしがそう言うと、龍香ちゃんが雷に打たれたようなショックを受けてしまった。
実際、あたしが汗だくだくになっちゃったのはホテルで2人きりになってからだから嘘はついていない。
「龍香ちゃんショック受けすぎよ。でも、今夜は頑張ってね」
きちんと励まさないと。龍香ちゃんは欲望に正直な所もかわいいんだし。
「はい、お互い尽くしきりますよ! そのために、今はゆっくり休んで疲労回復です!」
ここの結婚式場もホテルになっていて、龍香ちゃんも新郎さんも、結婚式の資金とドレスを買うためだけに、ひたすらデートも節約して4年間過ごしたらしい。
まあ、するだけならタダだものね。
やっぱり、体の相性って大事だわ。
「おっと、彼が戻ってきました! 優子さん」
「ええ」
龍香ちゃんは、あたしと桂子ちゃんを何としてでも新郎と合わせ無いように執心している。
あたしたちも、龍香ちゃんの気持ちはよく分かるし、あたしと桂子ちゃんとしても、浩介くんや達也さんに無駄に嫉妬されるリスクは回避したいので、両者の利害は一致している。
ふふ、やっぱり男の嫉妬を理解している女の子は強いわよね。
「ふう、ただいま」
「優子ちゃん、徹底されてるな」
自分の席に戻ると、浩介くんから「徹底されている」と言われた。
「徹底されているって?」
あたしは、わざとすっとぼげた風に言う。
「そりゃあ、新郎に合わせないようにされてるだろ? 警戒心強いよな」
「あーうん、でもあたしも浩介くんに嫉妬される危険性があるもの、特に不満はないわよ」
あたしが素直に理由を説明する。
「あーうん、そういうことかあ……」
浩介くんも浩介くんで、自分が嫉妬深いことはよく分かっているらしい。
分かってても、嫉妬してしまうし、適度な嫉妬ならむしろあたしが喜ぶことも知っているから、治そうとも思っていないのが浩介くんだ。
その後、あたしたちは記念撮影に行き、結婚式が終わったら龍香ちゃんたちは新郎新婦の服のままホテルの部屋へと消えていった。
ふふ、多分あたしたちと同じことが、あの部屋で繰り広げられるのよね。
あたしたちは2次会としてゲームセンターで遊ぶことになった。
ちなみに、あたしは相変わらず、大半のゲームがハンデつきでプレーさせてもらった。
当時のハンデと同じようなハンデにしないと、ゲームにならないというのが実際の所で、クイズゲームだけは、唯一ハンデ無しで戦えた。
元クラスメイトたちも、「優子ちゃんの運動神経が相変わらずで安心した」と言っていた。
むしろ、高校と違って大学には体育の授業がないから、あの時よりも落ちているかもしれないわね。
晩秋に行われた龍香ちゃんの結婚式の後は、あっという間に12月になった。
あたしたちは、大学生最後のクリスマスと年末年始をどうするか考え始めた。
年末年始と言えば、今年もおばあさんを始めとする妊娠催促が飛んでくるのは容易に想像ができた。
最近では、プレッシャーになるとのことで、あたしの両親や義両親は、話題にしないことにはしているが、おばあさんにとっては切実な問題でもある。
今年のクリスマスはプレゼントは、話し合いの結果「豪華な食事」ということになった。
あたしの部屋も、お人形さんやぬいぐるみさんが大分集まってきたことや、プレゼントのネタ問題なども合わさって、「それよりも美味しいものを食べた方が思い出に残る」という意見で一致したからだった。
そして、年末年始、大晦日前日に早速おばあさんが「早くひ孫産め」と言ってきた。
でも今年は、黙っているだけじゃない。
「でも、あたしたちの両肩には、人類の歴史がかかっているのよ」
「ああ、悪いが後6年は待ってもらうぞ」
この際なので、あたしたちはきっぱりと言うことにした。
おばあさんは衝撃を受けたような表情を一瞬するが、「いいじゃないの。後10年は生きてやる!」と息巻いていた。
6年後と言うと、おばあさんも100歳を越える年齢になるが、初めて会った時から全く衰えておらず、相変わらず老人ホームでも一番元気らしいので、あながち嘘じゃないのがすごいわね。
大晦日からはあたしの実家で年を越す。
母さんたちも、さすがにあたしたちの妊娠ついては、催促しなくなった。
まあ、色々あったものね。
「蓬莱教授、できました」
1月に入って最初の登校日、あたしはTS病患者を今まで見て、実際に指導してきた体験談や、自身の経験などを元に、1ヶ月もたたない時間で卒業論文を完成させた。
特に、幸子さんの成功体験はいい卒業論文になりそうだけど、それでいて前回選んだテーマよりはずっと柔らかい仕上がりになっている。
名目上は再生医療の論文とはなっているけど、不老社会になった後にもTS病は発生し得る上に、そもそもTS病が存在したからこそ不老研究が発展しているので、将来にきっと役立つはずだわ。
「どれどれ……うむ。いいだろう。うちは確かに再生医療の研究所だから、ちょっと専門から外れてはいるが、TS病を研究していると言う意味では、ストライクゾーンど真ん中とも言える話題だ。こういうのは、優子さんくらいにしか書けない論文だから、とてもいいと思う」
「ありがとうございます」
蓬莱教授は、学生にはかなり優しいことでも有名だ。
おそらく、それは単に彼の計算、つまり「リスクを回避する」というところに動いているんだと思う。
ともあれ、これで修士の始まる4月まではゆっくりと過ごせるわね。
またどこか旅行にいこうかしら?
「ああ、優子さん、待ってくれ」
蓬莱教授が、あたしを呼び止める。
「実はさっき、浩介さんの卒業論文にOKを出した所何だが、夫婦揃って大変に優秀だ。そこでだ」
蓬莱教授が、あたしに何かが入った袋を渡してくれる。
「蓬莱教授、これは?」
「修士課程で行う講義の教科書だ。修士というのは基本的に大学をより厳しく難しくしたものだと思って欲しい」
蓬莱教授が、中身を取り出して説明してくれる。
蓬莱教授が見せてくれた本は、「応用」という文字も並ぶ、いかにも難解そうな蓬莱教授の著書だった。
これまでも、蓬莱教授自身の著書が教科書になることはあったが、より複雑な内容が書かれていることは想像に難くなかった。
「で、うちの大学の修士というのは2年間で論文なども含めて30単位が必要になってくる。だが、今の優子さんの実力ならば問題なくこれをクリアできるものと確信しているよ」
しかし、蓬莱教授は修士の過酷さを話しつつ、「優子さんには問題ない」とも言ってくれていた。
それはつまり、あたしを相当見込んでのことというわけね。
「分かりました……失礼します」
ともあれ、この教科書たちは、あたしの方で受けとることにした。
あたしは早速、研究室の一角に入って浩介くんと待ち合わせる。
「あ、浩介くん」
浩介くんは、教科書を読んでいた。
それは、修士課程で、必要になる教科書だった。
「お、優子ちゃんももらったのか? 修士の教科書」
「うん」
やはり浩介くんも、大学の成績がよくなっているらしい。
卒業論文であたしたちは蓬莱教授から「問題なし」という判定を一足先にもらい、これで必要な単位が全て出揃ったため、佐和山大学の卒業が確定した。
でも、あたしも浩介くんも、卒業したという気分は全くなかった。
何故なら、ここから2年間の修士課程が始まるし、おそらく蓬莱教授の見立て通りなら、その後3年間の博士課程が待っている。
ともすれば、あたしたちの大学生活はまだ半分にも満たないのではないかと、思えてくる。
「博士が終わるのが、最短でも27かあ」
「ええ、そうよね」
まあ、あたしたちにとって、27歳と言われても、ほとんど見た目は同じだけど。
蓬莱教授は1000歳の薬以降、実験への行き詰まりを危惧し、被験者を増やしている。
とは言え、情報漏洩の危険性も加味してか、あたしたちに近い人ということで、大智さんと達也さんそして龍香ちゃんとその旦那さんが選ばれた。
龍香ちゃんは、「これでずっと美味しく味わわれることができます!」と喜んでいた。
まあ、そういうのは完全不老の薬が出来てからでも遅くはないとあたしは思うけどね。
ガララララ
「あ、優子さん」
中に入ってきたのは、歩美さんだった。
「あら歩美さん、どうしたの?」
「はい、私も来年からはここに配属ですから。優子さんたちは卒業ですか?」
歩美さんも、あたしたちのことは気になっているらしいわね。
「ええ、でも来年もまたここに通うわ。修士課程ですから」
「ああ、俺も」
あたしたちが見ている教科書も、修士課程のものだ。
「へー、2人ともすごいですね。私は、普通に大学を出たら就職しようと思ってます」
歩美さんが将来展望について話す。
うん、そうよね。それがいいわ。
「大智と同じ会社って言うのは無理だと思うけど、それでも関係を続けられるように頑張るわ」
歩美さんが健気にそう話す。
TS病の女の子は、自分から別れようとすることは極めて少ない。
特に経験を済ませてしまった子の場合、そのことによる価値の急落をよく分かっているからなおのこと別れないように彼氏に尽くしやすいし、男の方も男心が分かるかわいい女の子は貴重なので、やはり別れるパターンはとても少ない。
それに、佐和山大学は偏差値が低めだけど、蓬莱教授から「蓬莱の研究棟」にいたというお墨付きをもらえれば、一流大卒並の待遇を得ることが出来るから、就職は大丈夫だと思う。
「ふふ、頑張ってね。単位落とさないのよ、特に実験」
「はーい」
あたしの姑のおせっかいみたいな言葉にも、歩美さんはにっこりと応対してくれる。
ガララララ
「おや、先客がいましたか」
扉の中に入って来たのは和邇先輩だった。
「和邇先輩」
「ああ、少し、修士論文をまとめておくよ」
和邇先輩は、後もう少しで修士論文を書き終わるという時期になっている。
和邇先輩は椅子に座りノートパソコンを開いた。
ちなみに、和邇先輩も成績は優秀で、このまま博士課程へと進む予定だそうだ。
それぞれが次年度に向けて、頑張っている最中だ。
小谷学園と佐和山大学は、偏差値では小谷学園が優位なので、小谷学園出身の学生は、留年者が少ないらしい。
ともあれ、あたしたちに待っていたのは、後は卒業式だけ。
それまでは、高校3年生だった4年前に大学の予習をしたように、修士課程の予習をするようにした。
こうして、佐和山大学の冬の日々が過ぎていった。
あたしたちには、卒業という2文字よりも、進学という2文字が、より強く印象づいていた。
卒論も書き終わったので、忙しそうにしている桂子ちゃんを尻目に、しかし書き終わってからは桂子ちゃんも加わって、最後のサークル活動へと参加することになった。
桂子ちゃんは、「来年はまた3人、あるいは達也も入れて4人で、時間を見つけて天体観測をしたいわね」と言っていた。
ここの所、桂子ちゃんは宇宙開発に強い関心を抱いている。
それなら、一応JAXAとも小さな繋がりがあるあたしたちとは、付き合いを長くしていくのもいいかもしれないわね。
いずれにしても、あたしたちの大学生活は、タイムリミットが近付いている。
大半の学生は就職し、社会へと出ていく。
あたしたちは、ここに取り残されているような気も、少しだけしていた。