永遠の美少女になって永遠の闘病生活に入った件   作:名無し野ハゲ豚

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海外の動向

「外務省としては、蓬莱教授の会社運営の構想について一部賛成です」

 

 総理大臣も呼んだ大会議、この前の話を蓬莱教授は政府の前で開陳して見せた。

 各官僚閣僚たちが判断を決め兼ねていると、真っ先に外務次官が立ち上がった。

 外務省の反応は、「一部賛成」というものだった。

 

「一部というのは? 何処かに反対する部分があるということですかな?」

 

 蓬莱教授がやや訝しんだ様子で外務省官僚に尋ねる。

 

「あー、政府が株主にならないという所です」

 

 やっぱり、そこに噛みついてきたわね。

 外務省の立場としては、蓬莱の薬を外交カードにしたいという一面が強い。

 政府が株主になるのは、言わばそのためだ。

 

「しかし、政府が株主となると、相手も軍事力を持ち出す危険性がある」

 

 蓬莱教授は、その事を懸念している。

 今でこそある程度の攻撃能力を持った日本の自衛隊だけど、まだまだ予算的には足りないところもある。

 蓬莱の薬ができれば、社会保障費が大幅削減されるため、この防衛関係費も7倍に増額される予定にはなっている。

 とは言え、軍備の整備には予算だけではなく時間もかかる。

 もちろんそのために、「万一の安全」を言い訳に、当初は日本人限定で販売するのだ。

 

「ふむ……」

 

 やはり外務省官僚も、軍事力を相手に持ち出されると難しくなってくるらしい。

 

「ただでさえ、ガチガチのレントシーキングをしたんだ。国際社会からの批判をかわすためには、あくまでも『純民間企業』という体裁を取らなければならないと俺は思う。だから公務員の天下りも一切認めないことにする」

 

 蓬莱教授には、その辺は譲歩するつもりはないらしいわね。

 

「うむむ……」

 

 最近では、蓬莱教授の発言力も政府内で強くなっている。

 もちろん、それでも政府との妥協は必要で──

 

「とは言え、政府からはアドバイザーを派遣するというのはどうでしょう? あくまで無関係という体裁で、社員を使って取り次ぎをさせたい。そこで政府から何かあれば、アドバイスを聞くことにしよう」

 

「うむ、それならこっちとしても願ったり叶ったりだな」

 

 蓬莱教授としても、政府は味方につけたい存在だから、ある程度の顔色は窺う必要があるし、専門外の分野については積極的にアドバイスを聞きたいところだと思う。

 また政府や官僚側としても、うまい汁は吸いたいけれども、蓬莱教授を怒らせてしまって、何らかの制裁対象にされてしまえば元も子もなくなってしまう。

 その両者のつばぜり合いは、やや蓬莱教授側に優位に傾きつつも、複雑な様相を見せ始めているわね。

 

 いずれにしても、この手の問題は0か100ではない。

 それぞれの勢力のことも考え、今回は蓬莱教授の65、外務省の35といった感じでの妥協になった。

 

 更に、厚生労働省側が、「蓬莱の薬について医療保険を適用させるべきである」という案を出してきた。

 これに対して社会保障費の圧縮という大義名分から財務省が大幅適用に慎重な立場になり、両者で利害が衝突した。

 

 これについて、蓬莱教授が仲裁に入った。

 蓬莱教授は、短期的には財務省寄りの立場を、長期的には厚生労働省寄りの立場を見せた。

 蓬莱教授の戦略としては、まずは短期的に社会保障費を大幅削減を実現させて見せ、浮いた国家予算で産業振興などに多くをつぎ込むことで国力を増強して見せる。

 しかし、「持たざるもの」が出ることは財務省としても本意ではないということを名分に、50年後程度を目処に、老人がいなくなったのを見計らって蓬莱の薬に対して一定の保険を適用させるという案を示した。

 これについては、財務省と厚生労働省でそれぞれ50対50の解決法となり、蓬莱教授の仲裁案に双方が納得して、矛を収めてくれた。

 蓬莱教授も、心なしか交渉術がうまくなった気がするわ。

 あたしなんて、まだまだよね。

 

「私としては、この不老事業を国家ブランドにしていきたいと。不老の国日本、不老立国日本の実現を、政府与党のスローガンにしていきたいです」

 

 総理大臣がそう言うが、実際のところ野党も既に蓬莱教授の味方になっている。

 そうなると、むしろこのスローガンには野党も積極的に乗っかかってくる可能性が高い。何せ蓬莱の薬には97%以上の支持率がある、いくら「何でも反対野党」と揶揄されていると言っても、これほどの支持率のある事象に対して反対なんてすることは出来ないことくらい分かる。

 むしろ外国から、「不老翼賛」とか「不老全体主義」と、一方的にレッテルを張られることの方が怖いというのが正直なところだわ。

 

「まあ、政府が広報してくれるのはありがたい」

 

 蓬莱教授が満足そうに話す。

 確かに何らかの外圧を呼び込む危険性はあるが、メリットが上回ったと蓬莱教授は感じているみたいね。

 

「ええ、私たちも、不老社会の実現と共に、本当の意味での、生涯の伴侶を得られることを、楽しみにしています」

 

 永原先生も、政府の更なる大々的な広報には歓迎してくれている。

 むしろ、協会の方がこのスローガンには賛成しそうではあるわね。

 蓬莱カンパニーの設立について、まだまだ微調整は必要だけど、それでもこの世界が間違いなくいい方向へと進んでいるのは確かだった。

 その後も政府との交渉は続いた。

 各省庁の利害調整も、大分進んできて、完全不老の薬さえ出来れば、記者会見を開くことも出来るだろうと感じた。

 

 

 

 政府との交渉が終わり、駅を降りて自宅への帰り道のこと。

 あたしと浩介くんは、駅前のラーメン屋台に並ぶ行列を目にした。

 そこの屋台は、「高級ラーメン」と名乗っていて、値段は学食の3倍近い1500円もするラーメンだったが、その値段でも競うように食べ求める人々がいる。

 ここ数年、スーパーでも、いやコンビニでさえも、高級志向の製品が日に日に増えているのが見て取れた。

 それは、消費者たちの考え方が、大きく変わったことの表れでもある。

 蓬莱の薬に対する人々の希望が、これまで以上の好景気を、2023年の日本にもたらしてくれていた。

 あたしが10代後半頃までは耳が痛くなるほど聞いた、「実感はない」「金持ちだけ」何て声はもうどこからも聞こえてこない。

 そんな声があれば、「あなたの感性がおかしい」と言われるのがオチになっているもの。

 

「浩介くん」

 

 それでも、こんな高級ラーメンに、こんなに多くの人が並んでいる光景は、初めてだった。

 

「ああ、すげえよな。高級ラーメンにあんなに人だかりが出来るなんて」

 

 浩介くんにとっても、驚きの光景だった。

 

「あたしたちに、運命がかかっているわね」

 

「だな」

 

 今でも好景気と言っていいと思うけど、これから蓬莱の薬がもたらすであろう好景気はこんなものではないことはあたしにも分かる。

 経済産業省の試算では、蓬莱の薬を日本人全員が享受した場合、社会保障費と老人という足枷がなくなった日本は、薬享受から25年で世界最大の経済大国に君臨し、100年目には全世界のGDPの半分を占めるに至るという予測さえあるのよね。

 とは言え、日本解禁の100年後には全世界で蓬莱の薬が発売され、その後は不透明だ。

 最も、100年のアドバンテージはそう簡単には崩せないだろうというのが経済産業省の予測で、それにはあたしも蓬莱教授も賛成だけどね。

 

「浩介くん、あのね」

 

 あたしは家の前で、浩介くんに向き直る。

 

「何?」

 

「その……あ、愛してる」

 

 うー、面と向かって言うのって、やっぱり恥ずかしいわ。

 

「う、うん……どうしたんだいきなり? 俺たち愛し合ってるのはいつものことじゃん」

 

 浩介くんも、やっぱりピュアで、街灯に照らされた顔がほんのりと赤くなっているのが分かる。

 

「ふふ、何だか言いたくなっちゃって」

 

 実際、そんな感じだったりする。

 何となく言ってみたくなったという感じ。

 きっと、さっきのラーメン屋台を見て、気分が乗ったんだと思うわ。

 

「変な優子ちゃん」

 

 浩介くんがそう言うと、あたしたちはいつもの安息の地に帰ってきた。

 

 

 

「えー、本日はフランスとイギリスにおきまして、蓬莱の薬に対する国民投票が行われています。以前ドイツでは賛成が多数となりまして、日本の医療関係の株が軒並みストップ高となりましたが──」

 

 今日は、ドイツに続いてフランスとイギリスで、蓬莱の薬を受け入れるかどうかの国民投票が行われている。

 いずれもドイツ国民投票の影響を受け賛成派が勢いを増しているというのが事前調査で分かっている。

 

 さて、蓬莱の薬の恩恵を受けた日本の未来について予測した経済産業省の試算を、全世界に公開するという案も総理大臣から出されたが、これについては永原先生と蓬莱教授が反対し、あたしたちもそれに同調して、お流れとなった。

 独占というと聞こえが悪いが、蓬莱の薬が持つ特殊性ゆえ、それを守る必要があるのだという。

 現在、開票が進んでいて、おおむねどちらも幅広い地域で賛成多数と予想されている。

 

「これね、7年前にあったイギリスのEU離脱の国民投票、あれはですね、残留派の多かったスコットランドと離脱派の多かったイングランドで激しい対立が起きたわけですけれども、今回はですね──」

 

 テレビのコメンテーターさんも今回の蓬莱の薬について、国際的に世論が味方していっているという。

 どこの国も、蓬莱教授に期待を寄せていて、寄付金が世界各国から集まっている。

 特に、仮想通貨での寄付は、蓬莱教授の資産を更に膨らませる結果になっている。

 このままいけば、数年後には蓬莱教授の資産総額が1兆円を突破するんじゃないかと、世間では専らの噂になっている。

 

「浩介くん、あたしたち、蓬莱カンパニーに勤めるのかな?」

 

 蓬莱教授の会社構想により、あたしたちの未来、将来の就職についても何となく青写真が見えてきた。

 

「さあ? でも、悪いようにはしないさ」

 

 蓬莱教授はああ見えて結構筋を通す人間だものね。

 もし、蓬莱カンパニーに勤めることが出来れば、あたしたちも裕福な生活はできると思う。

 朝のニュースを切り上げ、真夏の佐和山大学に向け、あたしたちは今日も研究棟に向かう。

 もちろん、研究棟には取材の申し込みが、世界各国からひっきりなしに来るが、現在は「研究に専念」という名目で(実質もそうだけど)、全て断っている。

 あたしたちは時間通りに、佐和山大学の「蓬莱の研究棟」に入った。

 

 

「さて、今日は国民投票の日だが、世論調査からは楽観的な予測が流れている。みんなもいつも通り、過ごしてほしい」

 

 蓬莱教授がそう号令をかけ、今日という1日が始まった。

 昼頃に出た結果的では、イギリスとフランス、どちらも賛成の投票が7割を占め、環境保護団体は「厳しい結果」という声明を出さざるを得ない状況に追い込まれてた。

 結果的に国民投票は彼らの自爆となり、ますます環境保護団体は追い詰められていった。

 自分達が呼び掛けた国民投票は、蓬莱の薬への賛成多数だったのだから。

 

 しかし一方で、蓬莱教授は日に日に焦りを深めていた。

 それはそう、うまくいかないからだった。

 それと共に、ますますあたしの仮説が現実味を帯びてくる。

 「蓬莱教授には、見落しがある」、蓬莱教授はもちろん、他の大学院生や助手の人たちも気付いていない。もしかしたら、TS病患者だからこそ分かるのかもしれない。

 一方で、「1000歳の薬」も改良され、既に「2000歳の薬」になっていた。

 だけどもちろん、蓬莱教授はこれで満足はしない。

 報道機関にも、この事は公表していなくて、やはり浩介くんや蓬莱教授、桂子ちゃんなどが飲んだだけだった。

 

 あたしの仮説を実証する日は、刻々と迫っている。

 でも今は、修士課程で行うことを学習していかなきゃいけない。昨年度の貯金があるとは言え、まだまだ油断はできないのよね。

 

 大学院にも夏休みらしき休暇はあるが、大学とは違い教授し次第となっている。

 とにかく科学の世界は日進月歩なのでついていけるようになりたい。

 幸い、「蓬莱の研究棟」の予算は極めて潤沢で、「超ホワイト」として有名だった。

 まあ元々、「ブラック企業」という存在もどんどんと減っていって、今ではそうした企業はあっという間に社員に逃げられてしまうのですぐに立ち行かなくなるようになっている。

 これも、人手不足による売り手市場が、政権が代わって以来10年近くも進んだ結果と言えるわね。

 

 蓬莱教授の方では、徐々に企業の設立にも準備がかかっている。

 研究棟には、「不完全でもいいから蓬莱の薬を売って欲しい」という要望が日増しに増えている。

 特に20代後半から30代の女性からの要望がもっとも多く、中には「元フェミニスト」を名乗る女性からもそうした手紙が送られてもいた。

 

「うーむ、これも失敗か」

 

 あたしが蓬莱教授に言われた通りに調合し、失敗したことを報告する。

 遺伝子のバランスをどう考えるか? どうすればTS病の細胞を再現できるか?

 基本的な原理は、最初の「120歳の薬」と全く変わらないし、この根本原理そのものは、あたしも異論はない。

 つまり、蓬莱教授の万能細胞を使い、TS病の遺伝子を完全再現できれば、うまくいくはずだ。でもうまくいかない。

 蓬莱教授は、「何かを見落としているかもしれない」と考えている。

 

「蓬莱教授、あたしに考えがあります」

 

「うむ、分かった。そこは多分違うとは思うんだが……ともあれ、まずはこれを全て試してからだな。優子さんも、課程をちゃんと進めてくれ」

 

 蓬莱教授がだるく了承してくれる。「そこは多分違う」と言っておきながらも了承してくれるあたり、藁をもつかむ思いなのが分かるわね。

 元々、この手の研究は失敗率が極めて高い数打ち戦法なので、助手や院生の意見も通りやすい。

 

「はい」

 

 こうして夏の日々も過ぎていった。

 

 この間、EUの各国では続々と国民投票が行われていった。

 何かと歴史的にも対立しやすい英仏両国で共に賛成多数になったことが大きな呼び水となり、イタリア、スペイン、ポルトガル、オランダと言った国々も全て大幅に賛成多数となった。

 続いて投票が行われた、北欧諸国では、賛成の投票が9割にも達していた。

 これは、高福祉に伴う重税が、老人がいなくなるために大幅減税が期待されるからで、蓬莱教授はこの結果を予測していたらしい。

 今回の国民投票は一般の選挙と同様に匿名投票だけど、ヨーロッパのインターネット上では、「蓬莱教授の手の者が監視を行って、反対派に対する制裁を試みている」という陰謀論が流れた。

 もちろん、これは全くもって事実無根の話だけど、蓬莱教授は「結果として、まだ俺の偉大さを理解できない連中にいい薬になっている」と、この陰謀論を利用するように宣伝部に指示を出した。

 

 

「浩介くん、夏はどうする?」

 

 国際的な情勢が一段落し、あたしたちは久々に夫婦で遊ぶ計画を立てることにした。

 

「うーん、今年も優子ちゃんの水着を見たいなあ」

 

 浩介くんがそう呟く。

 今は高校3年生の時に行った例のプールは改装工事中で、海の方に行くことになる訳だけど──

 

「ねえ浩介くん」

 

「うん?」

 

「家でプールにしようよ」




この物語内世界では、基本的に好景気が続く明るい世界観になっています。
実際の世界でもそうなって欲しいものですが果たして……
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