永遠の美少女になって永遠の闘病生活に入った件   作:名無し野ハゲ豚

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市長の歓迎

「優子さんに浩介さん、おはよう」

 

 夏のある日の都内の東京駅、今回はあたしたちの他にも建設業界の偉い人も1人来るとのことなので集合場所がここになった。

 会長の蓬莱教授に社長の浩介くん、そして常務のあたしがまず到着し、建設業界の人はまだ来ていない。

 

 浩介くんも蓬莱教授もあたしも、ビシッと決めた感じのスーツで、もしかしたらこの格好も入学式や卒業式以来かもしれないわね。

 

「俺たち、どうやら就活しないで済みそうだな」

 

「ええ」

 

 浩介くんが何の気なしに言った言葉が突き刺さる。

 そう、自分達で会社を始めてしまったのだから、「就活をしないでいい」のは当たり前の話だ。

 会社で社長や役員をしていたともなれば、何か大きな不祥事で潰れたというわけでもなければ、再就職に困ることはそうそう無いはずよね。

 それに、今のこの会社ならあたしたちの勝利は約束されたようなものだわ。

 

 

 この時間でも、東京駅はビジネスマンで混雑している。

 観光客も多いけれど、やはり駅前がビジネス街とあって、利用客の中で目につくのはやはりスーツのサラリーマンたちだった。

 

 そんな中で、何の気なしに高年のスーツのサラリーマンがこちらに向かってきた。

 

「あ、もしかして蓬莱カンパニーの方ですか?」

 

 そして、あたしたちに声をかけてきてくれた。

 

「はい」

 

 蓬莱教授が、代表して挨拶する。

 

「あ、どうもはじめまして私日本建築──」

 

 サラリーマン風の人と言っても、この人は建築界隈ではとても偉い人で、言わば建築界の重鎮とも言える人なのよね。

 今回はあたしたちに力を貸してくれることになったからありがたく協力を仰ぐことにしよう。

 

「……蓬莱カンパニー会長の蓬莱伸吾といいます」

 

「同じく蓬莱カンパニー社長の篠原浩介です」

 

「常務取締役の篠原優子です」

 

 蓬莱教授の挨拶に続き、あたしたちも自己紹介と共に一礼し、作ったばかりの名刺を手渡す。

 そこには「蓬莱カンパニー株式会社 常務取締役 篠原優子」とあり、会社の電話番号などはまだ無い。

 

「できたばかりの会社でして、まだ本社のビルも決まっていないんですすみません」

 

 あたしが、スカスカな名刺を詫びて頭を下げる。

 

「ああいえいいんですよ。蓬莱の薬は皆さん待ち望んでいますから」

 

 あたしが申し訳なさそうにお詫びをすると、おじさんもどことなく優しい顔になる。

 その視線は、時折あたしの胸元を覗き混むように一瞬だけ視線が行く感じになっている。

 ふふ、やっぱりかわいい美人って特だわ。

 蓬莱教授はともかく、浩介くんが頭を下げても、あたしと同じような好感触を得られたとは思えないもの。

 

 ちなみに、本社ビルの予定地としては、永原先生のいる協会本部と同じビルが有力候補地になっている。

 協会と同じ階に入居していた会社がちょうど移転になるので、その前後のフロアと併せて蓬莱カンパニーのテナントにする予定になっている。

 とはいえ、ビルの所有者や、既にいるテナントとも交渉が必要で、その辺りの調停がまだ煮詰まってないのよね。

 

「では参りましょうか」

 

「ええ」

 

 蓬莱教授が先導し、目的のホームへと行く。

 もちろん使うのはグリーン車で、全員でICカードにチャージして、駅のホームで待つ。

 北関東は群馬方面と栃木方面とあり、正しい方面の列車に乗る必要がある。

 

「──グリーン車は、足元の数字、4番と5番でお待ちください」

 

 おなじみのアナウンスの声が流れ、やがて列車が入線してくる。

 あたしたちはグリーン車の2階に陣取り、1列の席に座った。

 あたしは窓側で、隣には浩介くんがいる。

 

 さて、今日は市長さんとの会合だけではなくお客さんの接待もしないといけないわよね。

 接待と言っても、旦那がいる身なので、当然建築のおじさんにセクハラされるつもりはないわ。

 

「あー、蓬莱先生、今回の工場なんですが、どうしてこの場所に決めたんですか?」

 

 向こう側では、どうやら今回の土地決定に関するプロセスの質問があるあらしいわね。

 

「ええ、まずこの蓬莱の薬ですが、大衆の普及が必要であると同時に、機密を守る必要性も生じます。そこで海岸沿いの立地はその機密保護の観点から問題があります。幸いにして、輸入しなければいけないものは殆どありません」

 

 蓬莱教授が、あたしたちに説明したのと全く同じ理由を彼に説明している。

 また、工場の場所や立地なども、鉄道の新駅を考えた構想にしているという。

 特に、貨物列車の使用などは、建築の人も驚いていたけれども、販売方法等については、専門外なのか一切質問してこない。

 そして重要になるのが──

 

「蓬莱カンパニーとしては、工場はどういう工場なんですか? 低コスト……というわけにはいかないでしょう?」

 

 そう、建築家が聞きたいのは、建築の中身よね。

 

「ええ、詳しいことは後々建築会社とも協議していきたいですが、やはり蓬莱の薬の生成部分についてはですね、やはり機密として守りたいと思います。なのでこの工場のコンピュータも、インターネットとして外には繋がない……つまり物理的に繋がらないようにしないといけないと思います」

 

 機密漏洩の防止のためにも、工場の従業員も省力化していきたいが、やはり規模そのものが大きいので、最終的にはどうしてもそれなりの人員が必要になってしまうという。

 基本的には、材料を入れて機械で生成し、その後AIと人間で2重に「完全不老かどうか?」を確認し、合格したものをペットボトルに詰めていく。

 冷蔵で保存すれば、基本的に薬の効力は実験の上では最低200年は大丈夫になっているが、まあ現実的には大事をとって80年程度が限度にはなると思う。

 

「かなり厳重ですね」

 

 普通の工場ではここまですることはあり得ないのか、建築業界のお偉いさんも驚きの表情を隠せない。

 

「ええですから、工場には権限のある社員のみ入れるスペースが必要になります。しかもそこは外からの攻撃が最後になるであろう中心部に置いて、更には部屋に入るにも二重に扉でロックする必要があるでしょう」

 

 蓬莱教授が、具体的な防犯システムについて話し込んでいる。

 建築の人も、かなり考え込んでいて、いかに侵入者を撃退するか、あるいはテロが起きた時の対策も考えねばならない。

 何せ純民間資本ではあるが、その影響力から政府からの法的保護も認められている会社だものね。

 

「なるほど、ですが費用は高くなりますよ?」

 

「問題ない、万一機密が漏れて競合会社が現れでもしたら大変なことになる。あるいは海外などに『不完全な薬』を完全な薬と偽って売り込む詐欺だって横行するだろうさ」

 

 蓬莱教授は、その辺りのコストは惜しまないらしい。

 とはいえ、これは独占の維持に不利に働く恐れもないわけではない。

 何故なら、「コスト削減の企業努力の欠如」と言えば、独占の弊害の1つでもあるから。

 まあそうは言っても、それに正面切って批判するようなマスコミは、どこにもいないとは思うけどね。

 

 2人での協議中も、電車は走っていく。

 車窓を見ると、建物が密集した地域を抜け、徐々に人家などがまばらになり、更には農村や森林が広がる光景に変わっていく。

 北関東は基本的に都市が続いているとはいえ、駅と駅との間には、時おり大きな空き地がある。

 そして今回、駅と駅の中間にある農耕地帯の土地が、今回の工場の用地候補になる。

 ちなみに、地域住民も、この工場建設に対して反対する者は誰一人としていなかったらしい。

 

 

「間もなく──」

 

「さて、降りますよ」

 

「はい」

 

 蓬莱教授の先導で、あたしたちは駅を降りる。

 途中、他の乗客が思いっきりあたしの胸をガン見していた。

 いつものこととはいえ、あまりにも目立ったので気になってしまった。

 そう言えば、この建設業界の人も、さっきはあたし胸を見てたわね。

 ……ふふ、奥さんが一緒じゃなくて良かったわね。

 

 駅を降りたら、あたしたちはそこに停まっていたタクシーに乗る。

 タクシーはあらかじめ配車アプリで呼んだもので、ナンバープレートはもちろん緑色になっている。

 

 まず、お客様である建設会社の人が奥に入り、次に浩介くんと蓬莱教授が続く。

 後ろの席は3人掛けなので、社内席次では3人の中で一番格下にあたるあたしが助手席の方に座る。

 

「えっと、市役所までお願いします」

 

「はい了解」

 

 タクシー運転手さんの笑顔対応を受けながら、車が走り出した。

 ちなみに、料金の支払いなどは会社の経費になるけれども、ここではあたしが応対することになる。

 

 市役所まではそこまで離れておらず、タクシーは数分で到着してしまった。

 あたしが料金を払い、タイトスカート特有のパンチラに気を付けながら車を降りる。

 

 あたしたちは遅れないように約束の時間に無事到着することができた。

 

 

  ウィーン

 

「涼しいですねえ」

 

「ええ」

 

 市役所の自動ドアを潜ると、中は冷房が効いていた。

 何分この辺の夏は関東平野の内陸部で結構暑いのよね。

 工場の冷房装置も、きちんと考えておかないと不味いわね。

 

「すみません」

 

「はい」

 

 ここは社長の浩介くんが、窓口の担当者に声をかける。

 

「えっと、(わたくし)蓬莱カンパニー株式会社社長の篠原と申しますけれども、市長様いらっしゃいますか?」

 

 効力は浩介くんが、社会人モードになっているわね。

 うーん、あたしはまだ全然学生気分が抜けていないのよね。

 おいおい身に付けておかないと、あたしも常務取締役だものね。

 

「あ、はい! お待ちしておりました! こちらへどうぞ!」

 

 窓口のおばさんが勢い良く立ち上がると、こちら側に出て市長室に案内をしてくれる。

 あたしたちは一言も喋らずに黙って女性についていく。

 

「こちらでございます」

 

  コンコン

 

 そう言うと、おばさんが一刻も早く呼びたいのか、すぐに扉をノックをした。

 

「市長、蓬莱カンパニーの方々がいらっしゃいましたよー!」

 

「はーい、どうぞ!」

 

 市長さんの朗らかな声と共に、あたしたちは部屋に通される。

 

「あ、どうもはじめまして市長の──」

 

「私は──」

 

 あたしたちは、先程と似たような自己紹介をしあいつつ、市長さんとまた、名刺のやり取りをする。

 市長さんの部屋は事務的で質素だけれども、所々に豪華さもあるわね。

 

「まだできたばかりで慌ただしくて、事務をする本社のビルの方の交渉も終わってないんですすみません」

 

「ああいえ、それはいいんですよ」

 

 あたしが申し訳なさそうに言うと、市長さんがにこやかに返してくる。

 ちなみに、やっぱりオスの本能なのか、レディーススーツの上からでも分かるあたしの爆乳に視線が食いついているわね。

 

「では、おかけください」

 

 市長さんがそう言うと、あたしたちは椅子に腰かける。

 途中、お茶のポットが目に入る。

 さすがに役員のあたしがお茶汲みはしないと思うけど、あたしがしたら、男性社員はとても喜びそうだわ。

 そう言えば、女の子になったばかりの時のカリキュラムの時に、「お茶だしマナー」の話が出たっけ?

 ……今思えば、母さんの予言は外れちゃったわね。

 

「えーではですね、まずは私の方から、お礼を述べさせてください。この度は、我が町に蓬莱カンパニーの工場を誘致してくださることを決意いただき、誠にありがとうございます。改めて市民を代表して、厚く御礼を申し上げます。ありがとうございます」

 

 やはり、最初に出てきたのはお礼の話だった。

 まあ、地域経済からすると、救世主とも言えるものね。

 

「ではですね、予定地について申し上げますけれども、鉄道駅と鉄道駅の間の農地となっておりまして、蓬莱教授の熱心な支持者が提供してくれました。最も、蓬莱カンパニーの工場の経済効果が高いので、競うように応募してくれましたが」

 

 恐らく、ここに限った話じゃないわ。

 北関東、いや全国の自治体で、同じような光景で溢れていたはずよ。

 

「ですから、私としては、最も広い土地を選んだつもりなんですが、よろしければ選んだ理由を教えていただきますか?」

 

「はい、まず土地が広く、平野になっていること、そして線路に近くて貨物列車の引き込み線が引けそうなことです。鉄道駅を作る余裕があるのが大きいです」

 

 浩介くんが理路整然と話し始める。

 最も、これは想定内のやり取りではあるけどね。

 

「ありがとうございます。具体的に、どのような工場になるのでしょうか?」

 

「はい、蓬莱の薬を生産し、全国に運んで参ります。機密漏洩対策が大切ですから、警備や耐震性などは特に厳重にする予定です」

 

 浩介くんが、先程話した警備体制などについても話す。

 ちなみに、印象が悪くなるので、社員からの漏洩対策については話さないおく。

 まあ、市長さんの方も、興味はなさそうだけどね。

 

「ありがとうございます。ではこれ以上は現地を視察しながらとしましょうか」

 

「分かりました。市用車を用意しておりますので、こちらへどうぞ」

 

 市長さんが立ち上がると、あたしたちが続く。

 

「いやー、やはり好感触ですね」

 

 建設業界のお偉いさんは、あたしたちのVIP待遇に驚いているみたいね。

 まあ、それもそうよね。普通お役所といったら少し殿様だったりするものね。

 

「ええ、やはり蓬莱カンパニーの経済効果はすさまじいですから」

 

「でしょう? 我々も、どのような企業連合を組むか、何せ事業が事業ですから、それぞれの企業の得意分野を活かして、最高の工場にして見せます」

 

 おじさんは、とても張り切っていた。

 建築業界だけではない、今後は流通業界やネット通販業界も動いてくるはずね。

 もちろん、あたしたちとしても、そういった業界との付き合いも大事になる。

 逆らう者には薬は売らない一辺倒では、最終的には屈服させることはできても、大きな遺恨を残しかねない。

 あくまでも、なるべく使わない手段という建前は守らないといけないわね。

 

「こちらでございます」

 

 市役所の駐車場に停まっていた市用車に案内してくれる。

 その車は6人乗りで、助手席には市長さんが座り、真ん中の2列にあたしと浩介くん、奥に建設業界のおじさんに蓬莱教授となった。

 

「シートベルト閉めましたか?」

 

「はーい!」

 

 全員が閉めたのを、市長さんが確認すると、「主発してくれ」との言葉と共に車が静かに走り出した。

 今では珍しくない、電気で走る電気自動車で、しかも目的地まで自動で運転してくれる。

 

「おお」

 

 やはり、運転手が何もしなくてもひとりでに動き出す自動運転はいつ見ても素晴らしいわね。

 ちなみに、自動運転が普及しても、タクシーはなくならなかった。

 運転技術ではなく、例えば走行中にお客さんとトークをしたり、他にも詐欺やぼったくりといったことを防止するためにも、やはり「白タク」はいけないものらしいわね。

 

 しばらく走っていると、先程乗ってきた鉄道の線路が見える。

 そして線路と平行になってしばらくして、小さな駐車場に止まった。

 ……ってここ、月極駐車場じゃない、市の車だし無断駐車じゃ無いとは思うけど、大丈夫かしら?

 

「さて到着しましたよ。あ、駐車場の人にはもちろん許可取ってますよ。蓬莱カンパニーの工場を建築するための下見なんて言われて、断る駐車場がどこにありますか?」

 

 市長さんが平然とした表情で話している。

 

「浩介くん、あたしたちって世間知らずだったのかも」

 

「ああ、そうかも知れねえな」

 

 もちろん、世論が圧倒的に蓬莱の薬を支持していることは知っている。

 それこそ98%前後の支持率を維持している。

 しかし、そうは言っても、その支持のほとんどは、消極的支持だと思っていたのだ。

 

「あ、蓬莱カンパニーの篠原様に蓬莱様ですね。私ここの駐車場のオーナーでございます。本日はどうぞ心行くまで下見なさってください」

 

 月極駐車場のオーナーを名乗る男性が、わざわざ若いあたしたちに平身低頭でへりくだっている。

 本来なら、こちらの方が「本日は当社のために特別に駐車を許可していただき誠にありがとうございます」と言うべき所なのに、あまりに下手に、そして丁寧に出られてしまい、そうした言葉をかける余裕もなく、蓬莱教授が、「いえいえ、こちらこそご迷惑をおかけいたします」と言うにとどまった。

 

 やはり、蓬莱の薬はかなり積極的に支持され始めていると思う。

 

「こちらです」

 

 市長さんの案内のもと、あたしたちは予定の用地へと足を進める。

 さて、この蓬莱カンパニーの工場の用地が楽しみだわ。

 一応インターネット地図でバーチャル下見はしたけど、本物はどうなっているかしら?




最終章になって少しだけ世界観がスケールダウンしていますが、またスケールアップの予定が最終盤にありますのでご期待ください。

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