永遠の美少女になって永遠の闘病生活に入った件   作:名無し野ハゲ豚

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工場の土地

「こちらです」

 

「ほほう」

 

 市長さんが腕を広げてあたしたちに場所を見せてくれる。

 そこは見渡す限りの畑だった。

 近くには線路があり、電車がガタンゴトンと音をたてながら通過していく。

 

 電車の本数は多いものの、この辺は農地中心で、しかもかなり広い面積を持っている。

 

「市長さん、どこからどこまでが、あたしたちの土地になる予定なんですか?」

 

 見取り図では知っていても、実際に目で見ないと分からないので、あたしが市長さんに質問する。

 

「はいちょうどここから……あそこの小さな山のふもとまでと……あの古い建物までの四角形です」

 

 あれ? ずいぶん広いわね。

 まあ、広い分には歓迎だけども。

 

「あれ? 見取図より広くないか?」

 

 蓬莱教授が、あたしと同じ疑問を市長さんに投げ掛ける。

 すると市長さんが、また笑顔になる。

 

「はい、元々は農地の一部ということだったんですが……ここの土地の所有者がですね、正式に農業から引退して、跡を継ぐ人は別の農地で続けているということですから、ここら辺一帯は全て蓬莱カンパニー様の土地となります」

 

 どうやら、この辺りの土地は全てあたしたちの工場になるらしいわね。

 

「うむ、これは後年に土地を買収する手間が省けたかもしれんぞ」

 

 蓬莱教授が、明るい顔で言う。

 向こう100年は、来るべき世界的販売に備え、余った土地に工場を拡張する準備をしないといけない。

 それに加えて、線路の近くであるから、鉄道貨物を有効利用していきたい。

 

「それで、蓬莱カンパニーはどんな感じに工場を作るんですか?」

 

 ここで、建築業界の人が声を掛ける。

 

「ここを仮想新駅として、工場は反対側の道路沿いと仮想駅前の2地点を入り口にする。さらにこの場所に、豪華ホテルを作る。ホテルについては流通が揃った後でも観光需要も見込みたいが……将来には工場の一部にしたいから20年ほどで閉鎖したい」

 

「ふむ、分かりました。ではホテルの方はそこまでお金をかける必要はないですね」

 

 更に地盤については、あまり強くはないものの、横長で平屋の工場ならそこまで耐震基準を満たすのは難しいことではないらしい。

 問題はむしろ、高いところに物を置いたり巨大照明を吊るしたりする場合だけど、この工場ではあまりそういうことをしないらしい。

 

「建築会社の方や詳しい設計はこちらで決めてもいいですか? あ、もちろん、蓬莱カンパニーの意向は極力取り入れますが、物理的に難しいものについてはお断りさせていただきます」

 

「ああ、構わないよ」

 

 蓬莱教授は筋は通す人なので、実際に不可能なことまでは要求はしないらしい。

 もちろん、どういった設計なのかとか、どういった会社なのかということについては、今後とも打ち合わせを続けていくことは確かだ。

 

「では明日、我々の方で建築会社を招きまして、こちらにお伺い致します。恐らく入札は激しい競争になるとは思いますが」

 

「ああ、ただ安けりゃいいってもんじゃねえんだこの建設は」

 

「分かってます。今回は事が事ですからね。談合を取り入れてもいいでしょう」

 

 建築業界の人から、「談合」という言葉が出る。

 談合というと、不正の象徴みたいな扱われ方をしているが、今回のような特殊な事情があったり、あるいは昔のようにデフレの不景気が長期化していた場合には、極端な敗者を出したりしないためにも、談合が重要になることもあるという。

 

「それに、仮に談合したとして、今さらどこのメディアに蓬莱カンパニーの不正を告発する人間がいるとお思いですか? 下手をすれば自分だけではなく、家族や子孫や親戚まで、根こそぎ奴隷同然の生活に叩き落とされる訳ですから。蓬莱カンパニーに逆らうというのは、勇気とか正義ではなく、無謀と言うんですよ。例え蓬莱カンパニーに非があったとしてもね」

 

 市長さんがまた、とんでもない発言をしてきた。

 世間一般には、「蓬莱カンパニーの不正を告発する人間はいない」のだと言う。

 支持をしない残りの3%でさえ、蓬莱カンパニーに反対を露にすることはない。

 

「これがもし、自分だけがひどい目に遭うならば、無謀な人間はいくらでも出てくるでしょう。しかし家族や親類縁者、子孫まで同じ罰を下すなどと言うことを言われてしまえば、口をつぐむしかありませんよ。これでは逆らう人間はまず現れません。蓬莱会長、こんなえげつない制度を考えたのは誰ですか?」

 

 建築業界の人が更に付け加えてきた。

 そして彼は、この制度を考えたのが蓬莱教授ではないことを直感的に見抜いていた。

 やはり、お偉いさんとあってそれなりに頭のいい人みたいだわ。

 

「ふう、確かに考えたのは俺ではない。だがこれを言っていいものか……」

 

 蓬莱教授は、永原先生に配慮して口をつぐむ。

 でも、あたしとしては、別に話してもいいのではないかと思う。

 

「うーん、別にいいとは思いますけど」

 

「そうか分かった」

 

 あたしが助言をすると、蓬莱教授がコクりと頷いた。

 建築業界の人と市長さんが一斉に蓬莱教授に着目する。

 

「この制度……連座制を俺に提案したのは……日本性転換症候群協会会長の永原先生だ。あー、我が蓬莱カンパニーの相談役でもあるな」

 

 蓬莱教授から出た永原先生の名前、それを聞き、市長さんは驚き、建築業界の人は小さくうつむいて「やっぱりな」という感じの仕草をしていた。

 

「そんな、あの女性が……あんな恐ろしいことを考えていたんですか!?」

 

 市長さんは、いかにも「信じられない」という顔で蓬莱教授を見る。

 永原先生が、いかに500歳以上を生きてきたと言っても、外見は温厚そうな幼さの残る合法ロリの女の子だものね。

 

「それだけじゃないさ。永原先生は、この蓬莱の薬を売るのは永遠に日本だけにして、不老国家となった日本が世界を統べる『新世界秩序構想』まで考えていたんだ。最も、これは俺の反対で流れたがね」

 

「な、何ということを……!」

 

 蓬莱教授は、既に廃案になった永原先生の「新世界秩序構想」まで持ち出した。

 市長さんの表情が、恐怖に染まり上がっていく。けれども、建築業界のお偉いさんは、涼しい顔をしている。

 

「無理もないだろう。永原さんは戦国時代の生まれだ。あの混沌とした時代で生まれ育った背景を考えれば、ああいった発想をするのも不思議じゃないだろう」

 

 建築業界の人が冷静な口調で話す。

 すると市長さんの表情にも、落ち着きが戻ってきた。

 

「あーそうですよね、それに、世界中に普及させつつ独占維持、しかも発売も全世界同時を目指す。これだけ無理をすれば、やむを得ないのかもしれません。そのためには、永原さんのように、過酷な時代を生き抜いた人の知恵が、必要になるわけですね」

 

 そう、市長さんの言う通りね。

 永原先生は戦国時代の人でもあり、江戸っ子でもあり、徳川幕府の家臣でもあり、真田家の家臣でもあり、そして勤皇家でもある。

 それでも、どれだけ時代が変わっても、永原先生が戦国時代の人であることには変わりはない。

 人間同士の争いが最も過酷だった時代を知っているというのは、本当に大きいわ。

 

「ああ、そういうことだ。とにかくここに工場を作ることは確定だ。JRの方も……まあこれだけ大きな工場ができれば、勝手に駅を作ってくれるだろうが、いずれにしても、スペースを邪魔しないようにだけは気を付けてくれ」

 

「はい!」

 

 蓬莱教授の支持に、建築業界の人が気合いをいれた返事をする。

 さてどんな会社が、建築をしてくれるのかしら?

 

「では、そろそろ戻りましょうか?」

 

 一段落して、浩介くんがはじめて口を開く。

 

「ええそうですね、では市役所に戻りますか」

 

 市長さんが、さっきの駐車場へと歩を進め始めた。

 

「あ、私はこれから一刻も早く会議を招集したいんですが」

 

 しかし途中で、建築業界の人が市長さんを呼び止めた。

 建築業界の人は、もう早速会議したくてたまらない様子ね。

 

「分かりました。では一旦駅に立ち寄りましょう。蓬莱カンパニーの皆さんはこれから町おこしについて話したいので、もう一度市役所に来てもらっていいですか?」

 

「ええ」

 

 工場の予定地視察を最後にしたいと思っていたのに、どうしてかしら?

 ……まあいいわ。

 

 

「では、私はこれで失礼致します。本日はどうもお疲れさまでした」

 

「「「お疲れさまでした」」」

 

 市用車が一旦駅の前に止まり、建築業界の人を下ろす。

 そのままあたしたちは、さっきのタクシーと同じように、市役所へ向かい、そのまま市長室にもう一度入った。

 

「さ、お座りください」

 

「それにしても、どうして一旦視察してまたここに戻ったんだ?」

 

 蓬莱教授が、あたしが思っても口にしなかった疑問を口にする。

 

「ああ、そのことですか。実はですね、今回我々は町おこしをしたいと思っているんです。蓬莱カンパニーの工場がある町ということで、あそこに工場を作る上で、どのような町おこしができるか、是非皆さんにも考えてもらいたいし、思い付かないとしても、我々の提案の是非を判断してもらいたいんです」

 

「ああ、分かった」

 

 とは言え、すぐには思い付かないのも事実なのよね。

 あたしも蓬莱教授も、浩介くんも悩んでいる。

 

「あー、すぐに結論を出す必要性はないですよ。ですが、我々の間にはいくつかの候補があります」

 

 市長さんがそう言うと、パネルをいくつか出してきた。

 そこには、「ようこそ不老長寿の町へ」とか「蓬莱カンパニー工場のある町」とか、そういったスローガンが掲げられている。

 

「不老長寿ってのもちょっと違うな」

 

 すると、蓬莱教授がパネルの1つに異議を唱えた。

 確かに、不老でも長寿とは限らない。

 現にTS病患者だって、昔は数年以内に自殺する人がが半数を越えていたから、むしろ一般人よりも平均的には短命と言われていたくらいだものね。

 

「どうしてですか?」

 

 とはいえ、一般の人がTS病に抱くイメージは永原先生や比良さん余呉さんのような自分たちの祖先が生きていた頃から生存している人のこと。

 

「不老とは言え不死ではない。不死でない以上運が悪ければ薬を飲んだ翌日に交通事故で死ぬことだってある」

 

 蓬莱教授が、夢も希望もなさそうなことを言う。

 もちろん、それはとても確率の低いことだし、薬を飲めば無謀なことをしないのが日本人でもあるのよね。

 

「うーむ、そうですか。ですが単に不老ですと、パンチが効かないんですよ。それに不死という文言も使えないわけですから」

 

 市長さんは困った表情をしている。

 確かに、この手の町おこしは、多少誇張してでもインパクトを重視した方がいいのは確かなのよね。

 

「そうは言ってもなあ、蓬莱の薬はあくまでも老化と、TS病患者が持つ難病への抵抗力を手に入れるだけのものですから、それ以上のことは保証できんのよ」

 

 蓬莱教授としても、そこは譲ることはできないらしいわね。

 まあ、それはあたしも浩介くんも、同意見ではあるけれども。

 

「うーむ、そうなるとそうですねえ……不老と希望の町というのはどうですか?」

 

 希望、確かに、蓬莱の薬は希望の薬でもある。

 それは全世界が、蓬莱の薬を待ち望んでいることからも明らかで、この町も、いわばそうした希望を全国に、そしてゆくゆくは全世界に輸出していくわけだものね。

 

「分かりました。そうしましょう」

 

 スローガンをいくつか決め、空白の部分には工場の外見をいれる予定なのだという。

 

「町おこしすれば、工場への見学者も多く現れることでしょう」

 

「うちとしては、基本的に見学は許可したくないのだが……機密に触れない範囲で何とかできないかどうかは、これから入ってくる社員の判断に任せるよ」

 

 蓬莱教授が工場見学には慎重な姿勢を見せる。

 そう、蓬莱カンパニーでは基本的に機密保持が重要になってくるものね。

 マスコミ側が、果たしてどう出るかは分からないけど、それでもおかしなことはないと思いたいわね。

 その後も、町おこし以外にも様々なことを話し合い、途中市の食堂を使わせて昼食とし、あたしたちもこの場を後にした。

 

 

「さて、それでは、名残惜しいですがそろそろお別れとなります」

 

「ああ、いい話しが出来た。後はうむ、建設会社に任せようじゃないか」

 

「そうですか、蓬莱教授がそうおっしゃるのならば、そうしましょう」

 

 市長さんが、これまで以上にあたしたちに敬意を持った接し方をする。

 あたしたちは再び市用車に乗り込み、駅へと降り立った。

 市長さんが、あたしたちに深々とお辞儀しているのがずっと目に焼き付いていた。

 

 

「ああ、しかしまさか、世の中の俺に対する姿勢があんなになっているとはな」

 

 帰りの電車のグリーン車の中で、蓬莱教授が困惑した表情で話しかけてきた。

 

「ええ、俺達も知りませんでした」

 

 蓬莱教授も、まさか世間でこれだけ自分達が多大な期待と、そして崇拝にも似た扱いを受けているとは思っても見なかったらしい。

 確かに、以前より、インターネットでは「蓬莱教授こそ神だ」とか、「蓬莱教授こそ真のメシアである」何て言う狂信的な言動をする人はとても多かった。

 だけれども、それは半ば冗談めいたものか、あるいはよほど頭のおかしい人か、それとも蓬莱の薬を過大評価している人の言動だと思っていた。

 でもそうじゃなかった。

 世間では蓬莱教授を「神の生まれ変わり」と本気で信じる人も中にはいるし、そこまでいかなくても「偉大な研究者」であることに、必要以上の崇拝的感情を持つ人が思ったより大勢いたということ。

 しかも、恐らくそれらの崇拝は、彼らには自覚のないことで、以前の宗教を持ったまま、あるいは無宗教を自認したまま、この道に進んでいる人も多いと思った。

 

「しかし、あまりに狂信的な人間が多いなら何か対策を取ったほうがいいな。俺は無宗教だ。であるから、当然にして俺自身も神などではないからな」

 

 これまでは、そういうのは「利用してやる」程度にしか蓬莱教授は思っていなかった。

 でも今は、増長しすぎるとかえってまずいと考えているらしいわね。

 

 

 あたしたちは電車に揺られながら自宅に戻った。

 

「ねえ優子ちゃん」

 

「うん?」

 

 駅から降りて自宅に帰るまでの間、浩介くんがあたしに話しかけてくる。

 また何かたくらんでいる顔つきだわ。

 

「悪いんだけど、その服さ、今夜着てくれる?」

 

「ええ!?」

 

 やっぱり浩介くんは企んでいた。

 あたしのこのレディーススーツ姿が気に入ったらしいわね。

 

「ほら、俺も一応社長じゃん。OL姿の優子ちゃんにセクハラしてみたいなあ何て」

 

「もう、セクハラならいつでもしてるでしょ!?」

 

 あたしがちょっとだけ語気を強めて抗議する。

 

「まあ、優子ちゃん喜んじゃってるからセクハラにならないか」

 

 浩介くんがぽろっと言葉を漏らす。

 あたしはまた、じゅううと顔が赤く熱くなってしまう。

 

「もう、バカ」

 

 あたしは、セクハラどころか、無理矢理レイプされたいと思ってしまうこともあった。

 今でも、浩介くんに「今夜は強引にお願い」とお願いすることもある。

 セクハラに痴漢にレイプ、どれもこれも犯罪なのに、浩介くん相手というだけで、あたしは心がときめいて、もっとされたいと思ってしまう。

 うん、多分それが恋何だと思うわ。女の子の恋、よね。

 

 

「さ、優子ちゃん」

 

「……はい」

 

 あたしはもう一度レディーススーツに着替え、浩介くん部屋に入る。

 

  さらーり

 

「やーん! やめてください社長ー!」

 

 浩介くんにスカートの上からお尻を一撫でされてしまう。

 

「ふひひひひ、エロい体つきしちゃって! こうしてやるっ!」

 

「やーだー!」

 

 浩介くんがにやけた顔でセクハラを堪能する。

 口では嫌がりつつも、あたしのからだと心はとっても正直な反応を見せてしまっている。

 大好きな浩介くんに、もっともっと性的に消費されたくてたまらないわ。

 ああ、今夜もまた、夜が長くなりそうだわ。


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