永遠の美少女になって永遠の闘病生活に入った件   作:名無し野ハゲ豚

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秘密の告白

 金曜日、再び水泳の授業。前回は最初の水泳ということで、はしゃいだりとか色々遅れたりすることもあったが、2回目はみんなそこそこに落ち着いている。

 でもやっぱり、スクール水着姿の女子は男子に刺激が強い。

 

 特に私は去年まで居なかった。実は今日は一度更衣室の鏡でちらっと自分の水着姿を見たけどはっきり言ってエロい。想像以上にエロかった。これは男子には刺激が強すぎる。

 

 スクール水着が身体のラインを強調していたんだけど、自分の裸は見慣れていたとはいえ……いや、裸じゃないからこそエロさが際立っていた。

 このエロさはもしかしたら女子には分からないかもしれない。

 

 いずれにしても、準備運動をする。

 何人かの男子が私のことをじっと見ているのが分かる。というか他の女子は気付いていないが、私を見て大きくなってしまったことを、必死に誤魔化そうとしてる男子が何人か見受けられた。

 

「よーし、それじゃあ今日も泳ぐ練習だ。あ、石山はまずは水中を100メートル歩いてみてくれ」

 

 私用に更に嵩上げされた水深130センチになったプールのレーンを一つまるごと借り、ともあれまず50メートルをなるべく早く歩く練習をする。そして、次に浮く練習をするらしい。

 

 端的に言えば、これは小学生用のプログラムだ。

 でも、正直に行って今のあたしでは、さすがに低中学年には勝てるだろうけど、高学年の女の子相手となると、体育で勝てるか怪しい。

 そう考えれば、体育の先生の判断は残念でもないし当然のこと。

 

 ふと、隣で思い思い泳いでるクラスメイトたちを見る。もちろん25メートルはともかく、50メートルを泳ぎ切るのは容易じゃない。

 背泳ぎなら難なく泳げる子もいるが、発展的な子は平泳ぎやクロール、バタフライとなると様相は変わって来たり、あるいはタイムを競ったり、水泳部のと思わしき生徒がターンをしたりまでしている。

 

「はぁ……はぁ……」

 

 水ってこんなに抵抗が凄かったんだ……そうか、みんなが泳いでて、その影響で波が発生しているんだ。50メートルからターンして30メートル、合計80メートルまでは快調に歩いていたのに、飛ばしすぎたのか少し息が荒れてきた。

 後20メートル、しんどい。もちろん流石に歩けなくなるとか休みたいとかそういうレベルではないものの、1メートルが遠くなる。

 

 ……とは言え、私は息を乱しながらも、50メートルの端、スタート地点についた。

 

「よし、いいぞ。次は立ち泳ぎで水に浮く練習だ。下手にもがくと沈むから気をつけろよ」

 

「はい」

 

 ゆっくり、ゆっくりと足をプールの底から離す。

 

「ふう……ふぅ……」

 

 もがくなと言われたけど、それでも手が震える。反射的本能だが、意外に持っている。

 ……そうか! 胸のおかげかも。これで何とか浮力を稼げているのかもしれない。

 とは言え、疲労のために10秒もしないうちにプールの縁に手をかける。

 

「よし、頑張れ、練習すればもう少し持つぞ。次はビート板を使って泳ぐぞ。ほれ」

 

「先生、私にばかりつきっきりで大丈夫なんですか?」

 

「はは、心配いらないよ。皆もう高校生だからね、ほら、自主的に監視役をしてくれてる子もいるだろ?」

 

「う、うん」

 

「……石山、確かにお前はかなり体育の成績は悪い」

 

「もしかして、先生の教師人生の中でも?」

 

「ああ、おそらく1番だ」

 

「そっか、仕方ないよね……」

 

「……でもな。悪いなりに1歩でも進めばいいんだ。今まではあまりにも悪すぎてその1歩が観測できないだけなんだ。それを観測できるくらいに持っていくことは出来るようになれるよ」

 

「あ、ありがとうございます」

 

 そうだ、それでいいんだ。私は。

 水中からビート板を使って泳ぐ。バタ足のやり方などは既に習っているから、そのあたりはスムーズだ。

 

 私の場合、基礎的な身体能力が致命的にないから、とにかく少しでも省エネルギーを心がけないといけない。

 しかし……

 

「はぁ……はぁ……」

 

 予想したこととはいえ5メートルほどで疲れが来てしまった。間違ったバタ足をしていないのに全然前に進めない……

 

 も……もうダメ……

 そのまま溺れそうになり、ビート板にしがみついてやり過ごす。

 

「よしよし、最初は6メートルだな。じゃあ25メートルを目標に頑張ろうか!」

 

「う……うん……はぁ……はぁ……」

 

「よし、集合だ、大丈夫? あがれるか?」

 

「な、何とか」

 

 プールの縁に手をかけ、何とか上がる。お腹で呼吸する。

 その間に、他の生徒も集合する。

 

「よし、みんな上達しているな。去年までの感覚を取り戻してくれればそれでいいからな。今日は解散! シャワー浴びで着替えに入ってくれ」

 

「「「はーい」」」

 

 私達もシャワーを浴びて、前回同様水着が乾いたのを見てスクール水着から制服に着替え直す。

 

 

「先生! 林間学校の座席と部屋割りはまだですか?」

 

 桂子ちゃんが帰りのホームルームで挙手した。

 

「木ノ本さん……その……」

 

「永原先生! 私からもお願いします。何が起きてるのか、クラスで共有して下さい!」

 

 この問題は、クラスで当たるしかない。

 

「石山さん……分かりました」

 

 永原先生は、私と篠原くんに話した教頭先生と小野先生が抵抗していることについて話した。

 そして、善意のたちの悪さについても話していた。

 

「……ということがありまして」

 

「ふ、ふざけんな!」

 

 声のした方向を見る。恵美ちゃんだ。

 

「何故何度言っても、そいつらは理解しねえんだ!」

 

「田村さん、それは善意だからよ」

 

「おうわかったよ。んじゃあ……もう力と力の戦争しかねえよな」

 

「ちょ、ちょっと田村さん!?」

 

「もう、優子が男扱いされるのは我慢できねえ……あたいらは17人だ。女といえども17人だ。いくら男とは言え中高年の男2人……勝率は100%だ」

 

「田村さん……何をする気!?」

 

 不穏な発言をしている恵美ちゃんに永原先生が問いかける。

 

「決まってんだろうよ、あたいら17人で、あいつらが考えを変えるまで、ひたすら殴って蹴ってやるんだ! 死ぬ寸前までリンチを加えてやるんだ! 優子を男扱いすることは、優子に暴力を振るうことと同じだ!!!」

 

「だ、だからって暴力で返すのは……!」

 

「じゃあ他にどうしろってんだ!? こんな頑固なやつは金槌で叩き壊すしかねえだろうよ! アメリカの大統領だって、拷問は効果あるって言ってただろ!?」

 

「田村さん、小野先生は既に私が弱みを握ってます。教頭先生は……私にも策があります」

 

「一体どういう策なんだよ!?」

 

「教頭先生は、熱心な儒学者です。特に彼は長幼の序を重んじるタイプですから、彼のような存在にとって、私はいわば無敵です」

 

「ちょ、ちょっと待ってくれ先生!」

 

 今度は高月章三郎だ。

 

「どうしました高月君?」

 

「永原先生は、先生方の中でも若い方で……確か30歳なんじゃないんですか!? 何故長幼の序で先生は無敵なんですか!? 先生、俺達に何か隠し事をしているんじゃ……」

 

「私の本当のこと、知りたいですか? 信じてくれるとは思えないのですが……」

 

「……俺は信じるから、教えて欲しい。俺は最近、先生のこと、色々と怪しいと思ってるんだ。」

 

 教室で「俺も」「私も」という声が聞こえる。特に永原先生がTS病だということを知らない男子は知りたがっているようだ。

 

「……分かりました。特に男子の皆さんは知らないと思いますし……それに策を講じるためにも必要なことです……いいでしょう……私のこと、私の正体。全て教えます」

 

 教室が少しざわつく。

 

「でもそうね……時間的な都合もあるから……悪いけど職員会議が終わってからでいいかな?」

 

 生徒たちがぎこちなく「はい」と返事する。

 

「じゃあいったんホームルーム終わるわね。部活や委員会の人は、そっちに行ってください。ではホームルームを終わります」

 

 

 ホームルームが終わる、恵美ちゃんたちは部活なので、女子の中では、今日は部活が休みだという虎姫ちゃんや、桂子ちゃんなど部活の緩い数人の女子が残っている。

 男子の方は、高月くんと篠原くんを含め、大半が残っている。永原先生の正体についてすぐに知りたいみたいだ。

 

 よく考えてみれば、永原先生の人となりを完全に知っているのは私と桂子ちゃん、そして龍香ちゃんだけだ。

 他の女子と篠原くんは、永原先生がTS病で、年齢も詐称している。かつて小野先生の担任だったということまで。

 

 篠原くん以外の男子からは、永原先生の30歳は逆サバなんじゃないかと疑われている、美人で童顔で小柄な女性の先生という知識しかない。

 

 私は残ってもしょうがないんだけど、周囲の反応を見たいので残っている……桂子ちゃんも同じか、あるいは新しい話が出てくるのを期待しているのかもしれないわね。

 

 

 30分くらい後、永原先生が教室に戻ってきた。

 

「あら、結構残っていますね……それでは、何故長幼の序を重んじる教頭先生に対して私が無敵なのか? それを説明するために私の本当の生い立ちについて話します」

 

 クラスメイトたちが永原先生に注目する。

 

「……ただ一つだけ言っておきますと……これから話す内容は正直に言って……第三者からすれば到底信じてもらえないと思うような話です。決して口外するなとは言いませんがむやみやたらに他人に口外しない方がいいと思います……私のクラスの生徒は別ですけど」

 

 誰も言葉を発しない。永原先生の話に注力している。

 

「まず、石山さんがかかったTS病という病気なんですが……皆さんも知っていると思いますが、この病気は突然男の子が女の子になり、老化しなくなる病気です」

 

「この病気はとても珍しいんですが、実はこの学園には石山さんの他に、もう一人TS病の人がいるんです……それが私、永原マキノです」

 

 男子がどよめいている。そして次の核心部分。永原先生の「年齢」についてだ。

 

「私はかつて、鳩原刀根之助と名乗ってました。昭和62年生まれの30歳というのは、この学園で働く上での嘘の設定なんです……私の本当の生まれ年は永正15年です」

 

 普段は静かなクラスが、明らかにざわついている。私と桂子ちゃん以外、皆が思い思い周囲と会話している。

 

「あ、あの、先生!」

 

 高月くんが手を上げる。

 

「はい高月君」

 

「あの……永正15年って西暦に直すと何年なんですか?」

 

「……そこの古語辞典にもあると思いますが……1518年です」

 

 

 この言葉を聞いた途端、教室中がどよめく。「嘘だろおい」「500歳近いじゃねえか」「戦国時代じゃねえかよ」「信長より年上じゃん」といった声が聞こえてきた。

 

 

 その後、永原先生は、あの時私に教えてくれた人生の経過を話し始めた。

 「真田源太左衛門」に仕えていた伝令役の足軽だったこと。

 20歳の時に畑仕事中に倒れ、殺されないために隣村に逃げ出し、名前を変えて数年後に戻ったこと。

 そのまま本能寺の変まで真田の村にとどまっていたこと。

 全国放浪中に関ヶ原の戦いを見物したこと。大坂の陣後は江戸に住み、1653年に当時の4代将軍に拝謁が許されたこと。

 主君の孫の真田伊豆守とも会え、大声で泣いてしまったこと。それを上様に許されて以来尊敬するようになったこと。

 真田への再士官はかなわず、ずっと江戸城で働いていたこと。

 これは知らなかったが歴代将軍のほか、黄門様で有名な「水戸中納言」の他に多くの大名や旗本とも面識があること。上様の命で永原先生のことは江戸城以外の文書に残さないように厳重に管理されたこと。

 対外的には江戸初期生まれということになっていて、本当は戦国生まれなのを知っているのは歴代将軍と大名・旗本・江戸城の人々の他にはごく一部の心を許した人だけということ。

 江戸城にずっと住んでいる女の都市伝説の正体は自分であること。自分の記録文書は江戸城を出る時に持ち出して自分の家に保管していること。

 明治維新後は諸国を放浪し、教師を始めたのは130年前のこと。100年前に「日本性転換症候群協会」の会長になったこと。

 今の名前になったのが30年前だということ、それ以前には別の名前を名乗っていて、小学校時代の小野先生の担任をしていたこと。

 

 

 永原先生の話が続くにつれ、生徒たちの口数も少なくなる。

 

「……以上が、私永原マキノが歩んだ本当の人生です。多分、私の与太話だと思ってる人も多いと思います。それでも構いません」

 

 

「せ、先生!」

 

 今度は虎姫ちゃんだ。

 

「その、『真田源太左衛門』って誰ですか? 真田幸村のおじいさんってそんな名前だったの? あと真田伊豆守ってのも誰のことですか?」

 

「……安曇川さん、私にそれを言わせるのは……どうか勘弁してもらえないかしら?」

 

「え? 何故?」

 

「畏れ多いからですよ。私の授業でもやったでしょ? 昔の中華文明では本当の名前を言うのは無礼だって。日本でも同じ習慣があるのよ」

 

「あ……」

 

 そう言えば、永原先生は頑として諱を口にしていなかったことを思い出す。

 

「安曇川さん、目上の者でさえ、諱を口にするっていうのは褒められたことじゃないんですよ。ましてや、臣下の私が主君やその筋の方の諱を口にするなんて、切腹を言い渡されても文句言えないことですよ」

 

「す、すみません……」

 

「大坂の陣のきっかけになった方広寺の釣鐘事件があるでしょ? あれだって、私は当時生きてたから知っているけど……はっきり言うけど非は豊臣方にあるのよ。歴史の先生が何と言おうが、徳川が一方的に強引な言いがかりをつけたっていうのは大間違いですよ……実際には諱を犯すっていうのは征伐の大義名分になるくらいに非礼なことなんです」

 

「他に何か質問は……はい、高月君」

 

「その、もしかして永原先生って世界一長生きなんですか?」

 

「ええ、少なくとも地球上で最長寿は私ですよ。2番目に長生きな人でも私の半分も生きてないですよ」

 

「ひょえー」

 

「他に質問はありますか?」

 

 一つ気になっていたことを質問する。

 

「……はい」

 

「永原先生は自分の年齢、どうやって証明したんですか?」

 

「いい質問ですね。私の本当の年齢は……ここの近くの大学にある蓬莱先生の科学的な検査で証明してもらいました……それより前、協会を立ち上げた時は……江戸時代大名だった華族の方も生きていらっしゃったのでスムーズでした」

 

「どういうことです?」

 

「私も詳しいことはわからないのですが、TS病も含めて、年齢を科学的に調べることはできます。私は499歳で間違いないということでした。もちろん、私の意向でむやみやたらに公開しないという扱いにはしてもらいましたけど」

 

 

「他に質問は……なさそうなら、これで解散よ。各自自分のしたいこと、するべきことに戻って下さい」

 

 永原先生はそう言うと、教室を出ていく。男子の中では「信じられない」「嘘だろ……」といった声が多く聞けた。

 

 

 私は桂子ちゃんと並んで天文部へ歩く。

 

「私も知らないこと多くあったなあ……」

 

「桂子ちゃん、あたしも、永原先生が水戸黄門とも面識があるなんて知らなかったよ」

 

「江戸城に住んでたってことはやっぱり大抵の大名や旗本たちのことは知ってたのねえ……」

 

 とはいえ、桂子ちゃんには事前に教えていたのでさほど新しい情報はなかった。

 それよりも、クラスメイト達の動揺が気になるところだ。

 永原先生の話を聞いたクラスメイトたちは、話に参加しなかったクラスメイトに対して、当然今の話を話すだろう。

 そうすると、いくらクラス外には話すなと言っても、絶対に噂になる……

 

「ま、まさか、永原先生は噂になることを見込んで……」

 

「うん、私も優子ちゃんと同じこと考えた」

 

 つまり、「永原先生はTS病で本当は戦国時代生まれ」という噂が学校で広まったところで、教頭先生に対して「長幼の序」を持ち出す。

 

 そして、教頭先生に対して、女の子になろうとしているTS病患者にとって、欲しいのは一人の女の子としての扱いであって、男性扱いや性的マイノリティ扱いは甚だ不愉快であることを提示するつもりなのだろう。

 

 

  ガラガラ

 

「あ、木ノ本さん、石山さんいらっしゃい。遅かったけどどうしたのです?」

 

「実はちょっと永原先生の話があって……」

 

「永原先生がどうかなさいましたの?」

 

「実は優子ちゃんの林間学校での部屋割りの話なのよ」

 

「どういうことですの?」

 

「優子ちゃん、私たち生徒の部屋じゃなくて、先生の部屋に入れられそうになっているのよ」

 

「え!? それはまたどうしてですの?」

 

「部長、実は……」

 

 桂子ちゃんが私の身に起きていること、女の子として扱ってほしいことについて話した。

 無駄なあがきだと思うが永原先生のことは話さないでいた。

 

「分かりました……確かに、一度染み付いたイメージはなかなか消えないものですわ。ましてや本人が善意でやっていると思い込んでいらっしゃることは……例え客観的にはどんなに独りよがりの偽善でも、本人目線からは行為を無碍にする不届き者にしか見えませんもの」

 

「それが善意が質悪く、それによって罪が深くなるという理由ですか?」

 

「……その通りですわ石山さん、まさに地獄への道は善意で舗装されているものですわ」

 

 私と桂子ちゃんは押し黙る。善意という大敵に、挑むことになるのだから。

 

「……さ、石山さん、木ノ本さん、天文部の活動を始めますわ。星のことを思えば、暗い気持ちもなくなりますわよ」

 

 坂田部長の声に目が覚める。そうだね、今は天体のことを思うことにしよう。

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