永遠の美少女になって永遠の闘病生活に入った件   作:名無し野ハゲ豚

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支配者の論理

 建築会社とあたしたち、そしてJRとの合意も進み、新しい患者さんも何とか落ち着いてきてくれた頃には、今年もすっかり冬に突入していた。

 12月の寒い冬の日々の中で、あたしたちがしているのは歩留まりの更なる改善だった。

 おそらく、蓬莱の薬の原理上、歩留まり率を100%にすることは今の感じでは難しいが理論的には不可能ではない。とはいえ、理論と実情は違うもので、発生した不良品は選別機と人間の目で選別した上で廃棄するしか無いのが実情になっている。

 蓬莱教授も、今後はこの研究に力を入れ、蓬莱の薬が一段落したら、今度は蓬莱の薬でも治らない先天性の難病の治療について研究していきたいという。

 

 また会社経営面でも、浩介くんと共に具体的なルール作りの議論に入っていた。

 あたしたちは新しい本社事務所のビルを見回ると同時に、早速雇用された新規の事務員さんから挨拶を受ける。

 ここの本社機能については、主に専務取締役を任された比良さんと、取締役の余呉さんが取り仕切ってくれている。

 

「あ、2人ともお疲れ様です」

 

「比良さん、お疲れ様です。それじゃあ会議室まで」

 

「はい」

 

 今日は、比良さんたちと共に情報の共有を兼ねた会議がある。

 そこでの会議での開口一番、比良さんが、「もし顧客がTS病になったらどうするのか?」と聞いてきた。

 あたしとしては、「TS病になった以上蓬莱の薬は不要になるため、1年以内にTS病になった場合は無条件で全額返金、それ以降でTS病になったならば分割払いならそこで打ちきり、一括払いの場合は、1000を分母にTS病になるまでの年数の分を残して返金ということ」を意見し、それに決定した。

 

 次に、5日間の途中に、何らかの事情で支店に来られなくなった場合の対処法について考えることになった。

 これについては「全国どこでも出張サービス」で対応することにした。

 もちろん、本人の家や職場にも出張出来るように手配し、職場とも即時交渉することになっている。

 ちなみに、この出張サービスを拒否する会社が出てくることは考えにくいとした。

 何故なら、あたしたちが「蓬莱カンパニー」だから。

 

「うーん、でもこれだけでは問題よね」

 

「ええ、その場で社員が立ち会う必要がありますから」

 

 そういう意味で、時間の指定もできるようにしたいわね。

 ただ、例えば客側に非がないこと。端的に言えば例えば歩道を歩いていて飲酒運転の車に跳ねられた何て場合には、日を改めて5日間もう一回蓬莱の薬を飲ませるという方法もあるわね。

 

 まあ実際の所、5日は過剰で、3日でも威力を発揮する可能性が高いものだけど。

 

「比良さん、他にも音信不通になったりした場合ですけど」

 

「まあその場合は仕方ないわよね。連帯保証人なり家族なりに違約金を請求しましょう。もちろん、相続の放棄はさせないわ」

 

 政府が作った「蓬莱の薬に関する特例法」のおかげで、自己破産で支払い義務はなくならないし、あるいは支払い期間中に自己の過失や故意で死亡しても家族や保証人に延々と請求権が移る制度になっている。

 とは言え、分割払いなら月に2000円だし、その金額、あるいはその価値が例え1000年続くとしても、あたしたちに逆らってまでこの低額を意地になって払わない人はほぼいないだろうとあたしは踏んでいる。

 もちろん、いたとしても強制執行で差し押さえできるし、差し押さえるものさえない場合は、特例法によって他の関係者にどこまでもどこまでも責任転嫁できるようなシステムになっている。

 他人名義に変えても、家族の名義である以上そちらに責任がいくので同じことになる。

 天涯孤独であった場合でも、そうではない保証人がいなければ顧客は分割払いはできないようになっている。

 つまり、いずれにしても誰かがどこかで支払わなければいけないようになっているのが蓬莱の薬ということになっている。

 まあ、1000年で1.2倍という超低金利で2000万円のものを毎月2000円分割という超良心的な商売をしているわけだから、逃げ得させないように徹底して貰う権利くらいあってもいいわよね。

 

 もちろん、このどこまでもどこまでも追いかけていく制度に関する抗議の声をあげたい人はいるだろうが、実際に上げる人はいないと思っている。

 蓬莱カンパニーに逆らうという発想をする人は、実際にはほぼいないというのがあたしたちの意見だった。

 そしてそれは、この前の夏と秋での出張からもうかがい知ることが出来た。

 

「問題は世界に販売する時だけど?」

 

「簡単です。日本と同じ法律を設けない国には売らないですし、法律を廃止するのはもっての他です」

 

 比良さんの疑問に対して、あたしはそう答える。

 100年後には、不老のメリットを世界は嫌でも思い知ることになるだろう。

 しかし、蓬莱の薬は蓬莱カンパニーにしか作れない。

 どうしたってあたしたちから買わざるを得ないし、今後は国連に対してもあたしたちが国内に作らせた法律を、全世界に作らせる条約を全加盟国に署名させるように働きかける予定になっている。

 そうなった時に「法律作れません」何て言う無神経な国がいったい何処にあるのか見物だわ。そんな国は「薬封鎖」をさせてしまえば、あっという間に干上がるはず。不老足り得ぬ国が、不老の国に勝てる道理はどこにもない。あたしたちは全世界の生殺与奪の権利を握っているのは、紛れもない事実だった。

 ただ問題は、日本と違って治安面だけど、それについては100年後に期待するしかないわね。

 

「ええ、分かりました」

 

 比良さんも専務として、支店の出店計画を統括している。

 各支店に客が直接足を運ぶという制度上、どうしても「単純に忘れていた」ということが起こり得る。

 そこで、従業員の方で自宅までの「無料出張サービス」を作るわけだけど、その場合でもその場で飲んでもらうための誓約書を書かせなければいけない。

 

「誓約に反しようとする人は?」

 

「出ないでしょう」

 

 当然ながら、それには強い制裁が待っている。

 「蓬莱の薬に関する特例法」によって、「長期的巨大詐欺の防止」という名目で、機密保持と独占維持、そして蓬莱カンパニーの制裁措置に都合の悪い法律条項が、全て無効化の上、書き換えられている。

 一部では憲法違反の指摘もあるというが、最高裁判所でさえあたしたち蓬莱カンパニーには及び腰になっているから心配はいらないし、反対運動をすれば家族や親類、子孫もろとも「薬封鎖」という名の死刑宣告とともに奴隷身分に落とされてしまう。

 それなら大人しく月2000円を払うほうがよっぽど利口というものだ。小学生でも、このリスクとリターンのバランスを分からないとは思えない。

 

「本当にえげつないわね。みんなが不老になる社会が実現したら、蓬莱の薬を売ってくれないのは死刑と同じよ。いや、むしろ死刑よりも質が悪いわ。そんなの、じわじわと何年も嬲りながら、死ぬまでシャバという名の牢獄に入れるようなものよ」

 

 比良さんは、あまりに強固な蓬莱教授の支配体制に、改めて驚きの声を漏らしていた。

 

「ふふ、でも比良さん、あなたも『こちら側』の人間よ」

 

「ええ……ですから離職者はなるべく出したくないわね。特に現場の工場です」

 

 比良さんは、工場内の労働環境を考えている。

 比良さんの言う通り、蓬莱カンパニーは「機密漏洩防止」名目で、ただでさえ強圧的な企業にありがちな、一昔前の言葉で言うならブラック企業にありがちな、相互密告・相互監視制度を取り入れているから、普段の業務はなるべく負担にならないようにしないといけないわね。

 そうなってくると、やはり高い給料で人材を集める必要がある。

 幸いにして、蓬莱の薬は最大限に儲かるようになっている。

 人件費が高いのは、必要経費と言えるわね。

 

「ええ」

 

 とは言え、環境に不満を持った労働者がいたとして、彼らが告発する可能性は極めて低い。

 メディアも既にあたしたちが牛耳っているも同然だから、匿名告発はあたしたちに忖度して全て黙殺するし、いわんや実名だったとしても同じこと。むしろ積極的にあたしたちに密告をしてくれるはずだわ。

 ブログにしても個人サイトにしても、今更この98%という世論に逆らうのは無駄だと悟るだろう。

 

「そうなるとむしろ問題なのはそうですね……やはり外国勢力だと思います」

 

 比良さんの懸念は、やはりあたしたちと同じだった。

 彼らとしても、不老のメリットは享受したいだろう。

 おそらく最初は、蓬莱カンパニーに莫大な金銭を寄付してくることが予想される。

 そうなった時に、「民間企業なので外国政府からの献金は受け取れない」はまだ通じても、海外の民間団体からの寄付を撥ね付けるのは難しい。

 一応今は「中立性のため、蓬莱カンパニーはいかなる団体からも寄付は受けない」ということになってはいるけど。

 

「株式も取得を制限してますからね」

 

 比良さんがやや悩ましい顔で言う。

 

「やはり国防問題に落とし込むのが最適だろうな」

 

 浩介くんが以前出た結論と同じ話を繰り返す。

 結局の所、数年前から分かっていたように、軍事費を増やして軍事力を背景に押しきるしかなさそうだ。

 不老国家ともなれば、日本が遅れているという技術でも、追い付くことができる。

 自衛官たちの練度も高まる。

 

「そうですか。とは言え、軍事技術から新しいものも生まれています。防衛費の増大は歓迎すべきでしょう」

 

 蓬莱の薬最大のメリットである社会保障費の大幅削減は、もうすぐそこに迫っている。

 政府は既に、蓬莱の薬が売り出され、老人がいなくなった後の日本の財政や税制について議論を始めている。

 蓬莱カンパニーに対して予想される外圧を撥ね付けるだけの軍事力や国力、食料自給率などを高める政策の予算が次々と打ち出されている。

 それらの新技術がまた、組合わさってどこかで大きなイノベーションを起こすことは確実で、最初の数十年はよくても、しばらくすれば諸外国がなりふり構わない圧力をかけてくることが予想されるのよね。

 

「そうですね。防衛産業から、また何か新しいものが生まれてくることも多いですから」

 

 社会保障費が大幅に削減され、より生産的な事業に国がお金を出す。

 大学の研究費もあらゆる分野で大幅増額が予想されているし、数十年後には外国が手を出せないような大国になっていなければいけないわね。

 

「そうね、ところで初期の支店出店計画はどうなっているかしら?」

 

 大分話が脱線してしまったのでモトに戻して、支店の出店候補についてあたしが比良さんに話す。

 

「まずは都内のビルの一角に、次々に設けていく予定です。最初はやはりどうやっても富裕層が主要ターゲットになるでしょうから」

 

 比良さんは現実を見据え、まずは富裕層の多い都内から、次いで郊外の住宅地、最後に地方都市の順番で支店を建設し、彼らに蓬莱の薬を売り、その売上金を元に、薬を値下げしつつ、販路を広げていく。

 

「お金については、自動引き落としというのが良さそうです」

 

「あ、それから政府からの要望なんだが、最初は広告を中年向けにして欲しいんだと」

 

 ここで浩介くんが政府からの情報を比良さんに伝えた。

 そう、蓬莱の薬が当たり前になった社会になった後、社会保障費を大幅圧縮させるために高齢者向けの年金などは全て廃止される予定になっている。

 TS病患者がそうであるように、これからの時代は実年齢に大きな意味を持たなくなる。

 今でこそ比良さん185歳にあたしと浩介くんが25歳だけど、これが300年後には485歳と325歳の違いでしかなくなってしまう。これなら、現代で例えるなら40代と30代程度の違いでしか無いことになる。

 同じ160歳差でも、比というものがある、年代が進めば進むほど、差が同じなら比率が縮小していくのは年齢算の通りよね。

 

「分かりました。そうですよね、はい」

 

 人々の老化を止め、新しい老人を産み出さないことが、国力増強の第一歩になることは厳然たる事実だった。

 もちろん、普及と共に即座に廃止して、そのときの老人を「運が悪かった」「努力が足りない」で一蹴するのもありだけど、世論的なリスクを考えるとあまりおすすめできない。

 

 今の中年世代には、中年にとどまってもらい、それによって老人の消滅をスムーズに進めれば、社会保障費大幅圧縮も滞りなく、波風もたたずに進みやすい。

 そして並行して中年以下の若年層にも薬を一気に普及させ、国全体を「若く」する。

 これが政府の考えている構想で、もちろんあたしたち蓬莱カンパニーも、この政府案には全面的に賛成することにした。

 日本の国力増強を実現させれば、国内の支持基盤はますます強固になるし、100年後についている世界との差も広がっていく。

 

「マーケティング部を作りましょう。広告に詳しいフリーの人を呼び寄せましょう」

 

 フリーランスの人間に声をかけ、自社の所属にすることを比良さんが提案する。

 もちろん、自我の強いフリーランスではダメだけど、蓬莱カンパニーの名声を考えたら、そこまで悲観する必要は無いのではないかというのが比良さんの意見だった。

 

「ええ、それがいいわね。この会社に入りたい人はいくらでもいるでしょう?」

 

「ええ、余呉さんが驚いていましたよ、『このご時世にこんなに求職者が殺到するなんて』って」

 

 とにかくこの国はもう10年以上にも渡ってあらゆる業界で人手不足が続いていて、AIへの置き掛けも進んでいるが追いついていない。

 一時期は移民受け入れを強硬に経済界が主張していたが、政府と若年層を中心とした国民の抵抗、そして何より蓬莱の薬によって、人口問題が解決する見通しになったために、お流れになった。

 このお陰で、日本限定販売も、とてもしやすくなった。

 やはり村社会というのも、悪い面ばかりじゃないのよね。

 

「当然よ。蓬莱カンパニーで働きたい人なんて、沢山いるのはすぐに分かるわよ」

 

 蓬莱カンパニーは、今後日本と世界を支配する可能性が高い、人類がこれまで経験したことのない企業になることは、世間一般にも知られている。

 そもそも社会保障費の大幅削減や、老後の概念の消滅により諸保証がカットされるのも、国民の選択肢を事実上奪い、日本人全員を蓬莱カンパニーの顧客にしてしまうという側面があるもの。

 

「そうだろ? 俺だって怖いよ。こんな会社の社長になるなんてさ」

 

 人間たるもの、それならば「支配者側」の企業で働きたいと思うのは当然のことだろう。

 人々は不老の幸福と引き換えに、蓬莱カンパニーには逆らわない誓いを立てる。

 それは日本だけではなく、全世界が同様であった。

 

 どこの国だって財政の削減は出来るに越したことはない。

 果たして、100年後に「蓬莱の薬を選ばなかった人にも保証を継続します」などと明言できる国が何処にあるかしら?

 それはつまり、「我が国はあらゆることで出遅れます」と言っているのと同義だもの。

 そして浩介くんが、そんな会社の社長になっている。25歳の男の子が、「自分が未来の世界の支配者である」という事実を自覚して、怖くない訳がない。

 

「心配しなくていいわよ。ここはあくまで企業よ、私達は決して行政的な権力者じゃないわ」

 

 比良さんが落ち着かせるように、静かで柔らかい口調になる。

 

 その通り、比良さんの言う通り、蓬莱カンパニーは政府ではない。国家権力でもない。単なる民間企業という位置づけになっている。

 だから税金を取ったりしないし、人々に何か義務を課するわけでもない。

 国に代わって犯罪者を罰するというわけでも、裁判をするというわけでもない。

 1ヶ月2000円相当という極めて小さな金額を、毎月、1000年間払い続けるだけでいい。

 それだけで半永久的な命を得ることが出来るし、人々の生活に干渉することもない。

 

「まあな、ただ、蓬莱カンパニーの割を食う人間は絶対出てくると思うんだよ」

 

 浩介くんはまだ不安を払拭しきれていない。

 もちろん、「独占をやめろ。競争しろ」とか「不老の薬には反対だ」などという人間には蓬莱カンパニーは容赦しない。

 内部告発や離反における分社を防止するために相互密告制度を作り、あるいは反対者には本人以外の関係者まで懲罰が課せられる。

 

 ここまで苛烈なことをしておいても、結局逆らった所で月2000円の出費が安くなるだけでは、それはもちろんまともな思考回路を持っていればメリットに合わないことは分かる。

 結局、蓬莱カンパニーによる支配体制が出来たとしても、国を動かすのはあくまで立法行政司法であって、蓬莱カンパニーは民衆に対して政治的、権力的な支配をするわけではないわけだから、逆らわなければ何も起こらない。

 ただ不老の享受とともに、ささやかな金額を、長い時間ではあるけれど、支払えばいいというだけのこと。

 まともな人間ならば、メリットとデメリットを天秤にかけ、蓬莱カンパニーに逆らうという選択肢はなくなるはずよね。

 

「大丈夫よあなた。この状況であたしたちに逆らう人がいるとすれば、それはメリットデメリットも、何も考えられずに、ひたすら損害を度外視して感情だけで動く人だけよ。そんな人はどうせ遅かれ早かれ周囲からも見捨てられるわよ」

 

「ああ、優子ちゃんの言う通りだな」

 

 あたしが浩介くんを安心させるように言うと、浩介くんも安心してくれたようでよかった。

 ともあれ、比良さんによるマーケティング部の早期設立にはあたしも賛成で、ともかくこの道を進んで行けば間違いはないと、あたしたちは信じるしかなかった。

 

 

「ふう、ともあれこんな所かしら?」

 

「ええ」

 

 小規模で、人員もまだ少ない蓬莱カンパニーだけど、徐々に大企業になるべく、経営の専門家を顧問に迎えることが決まった。

 警察官や弁護士の大物も顧問に迎え入れたいところはあるけれども、さすがに露骨過ぎるため、蓬莱カンパニーが大企業となって経営が軌道に乗ってからそれを行うということになった。

 

 ともあれ、あたしたちのすることは、徐々に少なくなってきた。

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