永遠の美少女になって永遠の闘病生活に入った件   作:名無し野ハゲ豚

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始動

 2026年になった。

 クリスマス、帰省、バレンタインに結婚記念日、これらのイベントはいつものように毎年繰り返しているけれど、やっぱり1年はそれなりに長いので、飽きることはない。

 そして結婚式でもらった結婚記念のキャンドルも大分燃えてきて、もう上の部分は燃え尽きて、7の文字まで来ている。

 

 4月からの大学院博士2年目、もちろん今まで通り単位の取得もあるけど、今年度は去年よりも会社に関する時間が増えると予想がなされている。

 けれども、今のところは比良さんや余呉さんが仕切ってくれているので安心ではあるわね。

 

 

 さて、そのためにあたしの中で増えたのが──

 

「じゃあ会合を開くわね」

 

 土曜日の午前中、本社にほど近い協会本部で蓬莱カンパニーに入った比良さんと余呉さんも、この協会の定例会合にはなるべく参加している。

 会社の本社と近いのもあって「抜けた」という感じは少ないが、それでも正会員、特に副会長などの役職としての仕事は少なくなってしまった。

 新しい正会員たちは覚えもよく、幸子さんも早速1人の患者さんのカウンセラーに抜擢された。

 余呉さんが推薦していて、あたしと違って、最初は男に戻ろうとするよくない状況だった経験が、よく指導に反映される期待があった。

 幸子さんも結婚して、名字が直哉さんのものに変わった。

 最も、あたしは「幸子さん」呼びのままだけど、他の会員さんが新姓で呼ぶと、あたしと同じようににっこりと微笑んでいたのが印象的だった。

 

 

「まあ、これでも前の本業よりはマシなのよね」

 

 会合が終わった後、あたしたち正会員の一部が集まって雑談中、余呉さんは「今は多忙だけど、それでも前の本業よりマシなので、協会の仕事も続けていきたい」と言っていた。

 余呉さんは一体、何をしていたのかしら?

 ……まあ、追求しても仕方ないわね。

 

「将来的には、私たちと会長で4人会議も考えましょう」

 

「そうですね。篠原さんと比良さんと余呉さんの仕事が終わってからでもいいわね」

 

 今は佐和山にいることが多いけど、将来的にはあたしたちもここに向けて通勤することになっている。

 あたしの体力的問題もあるから、時差通勤になることが多いとは思うけど。

 

「ふむ、あるいは私達3人だけなら平日にもできますよね」

 

「同じビルの近くですもの」

 

 比良さんの言葉に、あたしも同意する。

 協会の本部と同じビルで、フロアもほど近いので、会議や打ち合わせには持って来いだし、協会も蓬莱カンパニーの株主なので、協会の会員たちを株主総会に招いてもいいかもしれないわね。

 とは言え、永原先生のいない中で、どれほどの会議ができるかは疑問だけどね。

 

「私たちにはインターネットという方法があるわね」

 

 協会本部もリニューアルをしているらしく、スクリーンから会議に参加も可能らしい。

 そこで、実際に会っての定例会合を減らすなどして、比良さんと余呉さんが蓬莱カンパニーの取締役になった穴を埋めようと考えている。

 ともあれ協会の方は、たまにフェミニストの残党に対してテンプレの声明文を発表する程度で、以前のように殆ど新しく発生したTS病患者のサポートに専念できるようになった。

 忙しさも大分減ったお陰で、あたしの広報部長としての役割も、ほぼ形だけになったわね。

 あたしはそんな風に思いながら、蓬莱カンパニーには立ち寄らず、協会本部を後にした。

 

 

 

 さて、この春の季節、浩介くんの歩留まり改善方法にヒントを得た蓬莱教授が、更なる改善方法として、生産機械の改良に挑んでいた。

 この作業は、蓬莱の研究棟で行うことになっている。

 既に量産型は発注済みだけど、あたしたちは既に試作の機械を使って更に改良する計画を練り始めている。

 これらについては機械を量産する業者さんにも分かりやすいように設計しないといけないから大変ね。

 

「工場の建設も進んでいて、機械を発注する時にも少しでもいい設計図を渡さねえとな」

 

 さて、今日も蓬莱の研究棟での作業が終わり、あたしたちは3人で反省会を開いていた。

 この問題は、先方とも協力して、機械を生産する工場の機密情報も守らせないといけない。

 最初はその機械を作る会社に発注するけど、いずれは安全性をより高めるためにも、社内で生産・メンテナンスをしたいと思っている。

 まあ、漏洩したら報復される可能性もあるから、そうそうしないとは思うけどね。

 

「機械を作り、メンテナンスするためにも、経験豊富な人材が必要だな」

 

「ええ、良い待遇で中途採用でいいわね」

 

「ああ、だがそう言う人材を採用する場合、ヘッドハンティングには気を付けねえとな」

 

 蓬莱カンパニーは、その扱う製品の性質上、強権的・支配的な会社にならざるを得ないため、社員のストレスを軽減させるためにも、給料と待遇はよくしてある。

 これも独占維持のために高い値段で蓬莱の薬を売ることができるためで、巡り巡って機密漏洩防止に一役買っている。

 色々あたしもこの会社について考えたけど、要するに欲張りさえしなければ無害な会社なのよね。

 独占を甘んじて受け入れて、競争相手になろうと考えず、黙って毎月2000円相当を支払えばいいだけ。

 それだけで、蓬莱カンパニーは不老というTS病患者だけの極めて限られた特権だったものを、誰でも享受できるようにしてくれるもの。

 

「いずれにしても、俺達の蓬莱カンパニーなら給料にはない魅力もアピールできるはずだと信じている」

 

 蓬莱教授がそれをどうしていくか考えている。

 蓬莱カンパニーの存在感を増すためにはどうしたらいいか、みんなで意見を出しあっている。

 

「あたしとしては、余呉さんと同じく株上場をしていきたいわね」

 

 余呉さんは、蓬莱カンパニーの株式の上場を主張していて、あたしたちとしても、国の法的規制に守られつつ、日本人の投資家を呼ぶことにしようと考えている。

 

「監査役を誰にするか? 監査法人をどこにするか? そこが問題だ」

 

 浩介くんが深刻そうに懸念を述べる。

 蓬莱カンパニーが上場する上で最大のネックは監査役と監査法人なのは間違いない。

 監査なので当然あたしたち蓬莱カンパニー内部の統制を司るわけだけれど、蓬莱カンパニーは極めて強権的な会社で、不老販売の独占ということもあってどこの監査法人も、あたしたちには萎縮せざるを得ないと思う。

 そうなってしまうと、上場が難しい場合も生じてくるだろう。

 

「ああ、機密漏洩防止のためには、法的規制と強権的な販売制裁はやむを得ないとは言え、それをしてしまえば当然監査役だって人間だ。こっちが萎縮するなと言ったとしても萎縮するだろうしな」

 

 蓬莱教授もその事は分かっている。

 もちろん、あまり監査役が機能しておらず、癒着の激しい企業なんていうのはいくらでもあると思う。

 でもそれだと、やはり世界の反対派に漬け込まれる「隙」になってしまうというのが、あたしたちの一致した意見だった。

 あたしは、下手をすれば「萎縮するな」というあたしたちの言葉に萎縮した結果、どこも監査を引き受けてくれないという状況にもなりかねないと懸念している。

 そうならないためにも、何とか引き受けてくれる人材を探さないといけないわね。

 

  プルルルル……プルルルル……

 

「おっと」

 

 突然蓬莱教授の電話が鳴り、蓬莱教授が操作をし始める。

 

  ガチャ

 

「はい、蓬莱です……はい……はい……え!? そうですか、分かりました……はい……はい……了解です」

 

 蓬莱教授の話しぶりを聞くと、おそらく悪いニュースでは無さそうね。

 

  ガチャ

 

 蓬莱教授が受話器を下ろす。

 

「優子さん、浩介さん、いいニュースだ。どうやら、機械の量産体制が整ったそうだぞ」

 

「え!? もうですか?」

 

 当初は、販売まで早くて3年かかると思われていた。

 それは、機械の量産体制が整うのが遅れるだろうという予測からで、これは完全に想定外のことだった。

 どうやら、今の試作型をベースにした改良案は、一旦棚上げにしないといけないみたいね。

 

「ああ」

 

 ともかく、あたしたちと商談に関わっている企業は、どこもモチベーションが高いらしく、こうして予定を前倒ししてくることが多い。

 そのため、あたしにも、蓬莱の薬の販売が予定より早く進めることができそうな気がしてきた。

 

「よかったですね。これで社員訓練も進みます」

 

 ともかく、まずはあたしたちが研究所で得た薬生成のノウハウを社員たちに覚えさせなければいけない。

 用意周到な準備が出来てこそ、あたしたち蓬莱カンパニーの信頼性も上がるものね。

 

「社員訓練と並行して、ネット予約も開始せねばな。当初は3億円で、『時間をかけて段階的に2000万円まで値下げ、1000年分割払いで月2000円のサービスもあり』というキャッチコピーも入れねえとな」

 

 すっかり気を良くした蓬莱教授も身が弾んでいる。

 訓練が順調に進み、作業のマニュアルも完成すれば、それらを第一陣の在庫として売出しにかかることが出来る。

 最初の方は値段も高いけど、富裕層ならば買うという予想を持って、初期投資をうまく回収したいわね。

 

「ええ、第一印象は大事ですわね」

 

 ともあれ、このあたりはあたしよりも更に専門的な広報担当に任せよう。

 幸い、今の蓬莱カンパニーはベンチャーオブベンチャーと言ってもいい急成長企業なので、社員のモチベーションはとても高いみたいなので今の勢いに任せたいわね。

 

「よし、比良さんにも連絡するわ。広告のことも」

 

「ああ、頼む」

 

 あたしは、本社にいる比良さんに電話をすることにした。

 もちろんかけるのは会社の番号で、比良さんも今はオフィスに居るはずだわ。

 

「はい、蓬莱カンパニー株式会社です」

 

 出てきたのはもちろん事務員の人だった。

 

「あ、あたしだけど、比良専務お願いします」

 

 でもあたしの声はよく知られているので問題ない。

 

「あ、はいお疲れ様です」

 

 そして件の独特の取次用の音楽が流れていく。

 もちろん、将来的には社長室として使う予定の専務の部屋につなぐことになる。

 

「もしもし、篠原さん?」

 

「うん、あたし。比良さん、実はですね、薬の工場で使う機械の量産体制が整ったってさっき蓬莱会長に連絡があって」

 

 蓬莱カンパニーとして話すので、ここでは「蓬莱会長」と呼ぶ。

 

「え!? でも予定はまだ先じゃ……って、いつものように前倒しなのね」

 

 比良さんも、毎度のことで感覚が麻痺仕掛けている。

 

「それが普通なんていう認識にならないければいいけど」

 

 もちろん、「前倒しが当たり前」何ていう認識がおかしいことも、そんな状況がいつまでも続くわけがないのもあたしたちはよく知っている。

 

「同感ね、社員にも注意喚起した方がいいかしら?」

 

 それでも、人間が人間である以上、熱狂にある中で感覚がおかしくなり、世間一般の常識と乖離することはよくあることなので注意しないといけないわね。

 比良さんや永原先生といった面々はともかく、あたしや浩介くん、他の社員さんたちは気をつけたほうがいいわね。

 

「はい、お願いします。それから、販売広告を打ちたいと思います。こちらの方で協議したんですが、マーケティング部の方を動かすことはできますか?」

 

「分かりました。デザインについては任せていいかしら?」

 

「ええ、ですがあたしたちも見ておきます。連絡は以上です」

 

「はい、分かりました。それでは」

 

  ガチャッ……

 

 ふう、これでいいわね。

 

 

「さ、歩留まりを改善しようか」

 

 蓬莱教授の一言で、会議が終わって再び研究へと戻っていく。

 あたしたちはまだ研究中心だけど、もしかしたらそれも今年までかもしれないわね。

 

 比良さんにも連絡し終わって、後はあたしたちに出来ることと言えば、広告のデザインを待つばかり。

 機械の量産体制が整って、自社でもある程度生産等が出来るようになれば、そのこと広報してもいいわね。

 

 

 比良さんの広告は、1週間で出来た。

 ゴールデンウィークが近づいてきたこの季節、世間は旅行や観光に関心が向いていて、あたしたち蓬莱カンパニーに対する関心は少し落ちている。

 まあ、不老の薬が当たり前になれば、どうしたって今よりも注目はされなくなるだろうから、今のうちにこういう風に世間の関心が薄れることにも慣れておく必要があるわね。

 

 ちなみに、比良さんの広告についての協議は――

 

「広告、どうしますか?」

 

「ゴールデンウィーク終了後でいいわ」

 

「ええ、私も賛成です」

 

 というだけのやり取りで終わってしまった。

 まあ、こんなの馬鹿でも分かる話だものね。

 

「して、この機械は従来の研究所のものの半分の値段とスペースで4分の3の効率を達成できたと」

 

 蓬莱教授が説明書を見ながら、機械がスペック通りに動くかをチェックしている。

 どうやら問題はないみたいね。

 

「コストパフォーマンスは良さそうね」

 

 試作品や研究所のものよりもスペースと経費を取らない上に、本体との性能比はこちらが上。

 薬を量産する工業用品としてはまたとない水準ね。

 ともあれ、これをいくつ量産出来るかが勝負になりそうね。

 

「よし、早速中を解析しようぜ」

 

「ええ」

 

 一応機械の量産はノウハウのある向こうに作ってもらうことにはなったけど、それでもこちらでも修理や改良、生産を出来る契約にはしてある。

 改良が出来れば、もちろん相手とも共有する。

 何故なら、この機械は顧客があたしたちの蓬莱カンパニーしか居ないというのがある。

 最も、この機械だけ盗んでも、蓬莱の薬を作ることは到底不可能だけれどね。

 材料や製造法まで知られたらまずいけど、そうはさせないために工場の従業員はうまく役割分担をしている。

 それらを統括するのも、主に取締役として工場長就任が決まった和邇先輩……和邇博士になっているし。

 

「ともあれ、解析が終わったらこいつを運び込んで、早速訓練と俺達の介入しない状態での製品の試作に入らねばな」

 

「ええ」

 

 蓬莱教授の話す声はどこか穏やかで、これからの未来を明るく照らしている。

 そんな気がしていた。

 

 

 

「よしじゃあ始めてくれ」

 

 昨年卒業した和邇先輩がそう言うと、工場作業員に内定した新卒・中途採用の人などが作業を手探りで始める。

 マニュアルはこちらが用意してあるのでその通りにして一定以上の歩留まりになれば成功になる。

 あたしと浩介くん、和邇先輩に蓬莱教授は見ているだけで特にアドバイスなどはしない。

 最初はむしろ失敗してくれたほうがこちらの本音としては嬉しい。

 何故なら、それでマニュアルが改良されるからで、そのあたりは既に従業員さんたちにも伝えてある。

 あーもちろん、わざと失敗してほしいわけじゃあないけれどね。

 

 

 そして開始した従業員さんたちによる蓬莱の薬の生産はもちろんうまくいかない点もあった。

 むしろこれからが問題で、マニュアルの改善案については末端の(といってもそこまで多くの人はまだ居ないけど)従業員たちも含めて大きな会議にかける予定になっている。

 特にあたしはこの会社の常務取締役なのでこうした現場の作業員たちの意見などを聞いて管理監督をするのが大きな役目になる。

 うー、そう考えると和邇先輩も取締役と言っても平だし、あたしの部下ってことになっちゃうのよね。

 ……って、考えないようにしよう。

 永原先生だって自分の教え子の下で働いていたことも何年もあったんだし。

 逆転現象なんて、今後いくらでもあるわ。年上の部下だって、和邇先輩以外にもたくさんいるんだし、蓬莱教授の期待に応えるためにも、頑張らなくちゃいけないわね。

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