永遠の美少女になって永遠の闘病生活に入った件 作:名無し野ハゲ豚
秋の日々があたしたちを包み込む、あれからあたしたちのビルに建設された1号店は順調に売り上げを伸ばしていた。
東京でも販売を開始したため、予約や依頼は更に殺到し、あたしたちは全速力で薬を生産し続けている。
昨日、日本政府は老後の概念がなくなることを念頭に、社会保障費の大幅削減とそれに伴う大減税、更に防衛関係費を中心とした他事業予算の大幅増額を発表した。
本来なら野党議員が猛反発しそうなものだけど、元々蓬莱の薬の性質上こうなることは確定事項で、また圧倒的な世論を背景に、反対の声やデモはことごとく起きていなかった。
最も、これについては、「子孫が連座させられる」という噂が流れ、自然と国民同士で相互監視のような状況になったのも大きいけど。
改めて考えると、これも永原先生の狙いだったのかもしれないわね。
家族や子孫を連座させられると脅されれば、当然声をあげるのが難しくなるし、そのうち疑心暗鬼に陥った反対派は、こちらがなにもしなくても勝手に自滅してくれる。
もう数は少ないけれど、日本は1億人を大きく越える人口を持っている。
そのなかで支持率97%は結構不安定でもあるのよね。
永原先生曰く、「今の国民を信用するのは危険」とのことだった。
「ふう、今日も実験終りね」
博士課程も、多くが終わっていて、あたしたちも博士論文は既に学術誌に載ったもので済ませているため、他の院生たちと比べて、大学院の時間は余っている。
また、企業の黎明期に比べて、取締役が具体的にあれこれ決め細やかに指示する時期は過ぎ、徐々に部長などがその任に当たることになっている。
「あなた、そっちはどう?」
「うん、うまくいってるよ」
あたしたちは、企業が立ち上がったばかりながらも、蓬莱教授と行動を共にした方がいいということで、学費は蓬莱教授持ちながら、ほぼ単位を全て取った状態で、大学院に残ることになった。
言うなれば、蓬莱の研究棟に「出勤」する形になることが増える。
「ここにいるのも来年までよね」
「ああ、思えば長かったよなあ」
浩介くんも、この佐和山大学に長くいたので、かなりの愛着を持っている。
考えて見いれば、大学に4年間、修士2年に博士3年と、小谷学園の3倍の月日をここで過ごしたことになる。
それでも、女の子になったばかりの頃だった小谷学園の日々は、佐和山大学の8年間以上に、かけがえのない思い出がたくさんあるけどね。
「ねえあなた」
あたしはふと、浩介くんの制服姿が見たいと思ってしまった。
蓬莱も薬を飲んでいるから、もちろん現役で通る容姿になっている。
「うん?」
「家に帰ったら、制服、着よっか」
「あーうん、そうだな」
あたしたちの思い出の制服でのプレイは、昔を振り返ったり、懐かしく思った時にしたくなるもの。
在学中にできなかったえっちなことで、あたしたちはとても盛り上がる。
そう言えば、4年前にも、一度だけ、制服で文化祭に行ったっけ?
あの時も学校の夜で、やらかしちゃったわね。
「ただいまー」
「おかえりなさーい。ご飯もう少しかかるからねー」
「はーい」
うん、よかったわ。これならちょっとだけ制服プレイができるわね。
「ねえあなた」
「分かってるって」
ほとんど以心伝心に近い位の夫婦間の目あわせで、あたしは自分の部屋に入ってクローゼットから制服を取り出す。
あの時と変わらない、小谷学園の制服。
今でも駅などで、小谷学園の生徒たちを見る。
その度にあたしは、あの時の日々を、あたしの原点の日々を、思い出していく。
あたしは、下着姿になって制服に着替える。
スカート丈も、あの時の感覚を覚えている。
あたしは、着替え終わると浩介くんの部屋を目指す。
コンコン
「入っていいぞー」
ガチャッ
浩介くんの勢いのいい返事と共に、あたしは部屋の中へと入る。
そこには、あの時と変わらない、素敵な男の子がいた。
「あなた……」
「うっ……やっぱり、女子高生の優子ちゃんってかわいいよね」
「もうっ……」
浩介くんにナチュラルに「かわいい」と言われると、どうしても顔が真っ赤になってしまう。
「ほら、おいで」
浩介くんの優しい手招きが見える。
あたしには、それが罠だと分かっている。
「……はい」
だけどもあたしは、知ってて浩介くんの罠にかかっていく。
完全に心を奪われ、何もかもが虜にされいていく。
さらっ
「やっ……浩介くん、痴漢……」
浩介くんは、制服姿のあたしを痴漢するのが大好き。
浩介くんにスカートの上からお尻をゆっくりと回されていく。
「優子ちゃんのお尻にパンツとスカートが織り成す絶妙な肌触りがたまらねーなあーそしてこっちは──」
むにっ……もみっ……
「んぅあっ! はぁ……もー」
今度は制服の上から胸を揉みしだかれてしまう。
浩介くんの手の感触がとても心地よくて、あたしの脳がどんどんと蕩けていく。
「優子ちゃん……」
「うん、あたし……」
バタンッ
「浩介ー! ご飯よー!」
「「!!!」」
あたしと浩介くんがドアの音に驚いて振り向く。
するとそこには、お義母さんが立っていた。
うー、お義母さんの気配に全く気付かなかったわ。
「え、えっとその……」
浩介くんが、苦し紛れに言葉を発する。
「あーうん、制服でしょ? 別に変じゃないわよ。私もお父さんも知ってたし」
お義母さんは、あっけらかんな表情でそう話す。
「え!?」
ば、バレてたのね。
「そりゃそうよ、翌日の浩介のクローゼットとか見ると、何故か小谷学園の制服がしわくちゃになってることあったもの。それにしても、2人ともかわいいわね」
「あうー」
結婚8年目の夫婦が高校時代の制服でプレイしていたのを義母に見られるって、かなり恥ずかしいシチュエーションだわ。
「ふふ、2人とも本当におしどり夫婦になったわよね」
「あ、あはは……」
あたしたちは結婚したのが早かったから、まだ20代後半でも結婚は8年目になる。
これだけの年数が経つと、「飽き」のようなことを言う人もいる。
でもあたしたちは、月日が増すごとに、欲求が高まっていくのを感じている。
それは恐らく、蓬莱の薬のお陰だと思う。
「せっかくだから、今日は制服のまま夕食にする?」
お義母さんの突然の提案に、あたしたちはビクッと固まってしまう。
「ああいや、その……遠慮する」
浩介くんが苦々しそうな表情で「遠慮する」と断る。
「あら? 2人とも似合ってるわよ。それに蓬莱の薬飲んでいるんだし、優子ちゃんも不老なんだから大丈夫よ」
「うー、でも恥ずかしいわ」
何故かよく説明できないけど、制服姿でいるのは恥ずかしいと思うようになっていた。
「あら? 制服でデートしたり、文化祭行ったりしたじゃないの」
お義母さんがあたしたちに鋭い突っ込みを入れてくる。
でもそれは、ムードがそうだったからなのよね。
「で、でも今は──」
「あら? 私たちも、高校生の2人と食卓を囲んでみたかったわ……ふふ、そうだわ」
お義母さんがにやけついた表情で言う。
そのニヤニヤ感は、どこか浩介くんに似ていて、浩介くんの母親だと言うことをあたしに改めて教えてくれる。
「へっへーん」
お義母さんがスマホを取り出して電話を掛けようとする。
「ダ、ダメー!」
あたしの訴えも空しく、お義母さんは容赦なく電話を掛ける。
「あ、もしもし石山さん、はい……実はですね、うちの浩介と優子ちゃんがですね。学校の制服を着て部屋に居まして……はい、え!? じゃあ是非うちに来てください! はい……はい……脱がせないように言っておきますね!」
やっぱり、あたしの両親への電話だった。
今でも両親とは帰省中の他にも、ひょんな所で偶然再開することもあるし、たまにこうして家に呼ばれあうこともある。
でも、こんな理由で呼ばれちゃうなんて、うー、恥ずかしいよお……
「というわけだから、制服脱いだりしちゃダメよ」
「「はーい……」」
あたしたちは呆然としながら、お義母さんの後姿を目で追っていた。
「ねえあなた、ごめんなさい。あたしのせいで」
「いやいいんだよ。こういうもんは、いつかばれるだろ?」
浩介くんは、仕方ないという表情で、淡々と話す。
「それにさ、ほら。俺たちも不老じゃん? 実年齢なんて気にする必要ないじゃない」
「う、うん……」
浩介くんが気持ちを切り替えるようにあたしに促してきた。
でも知っている。あたしの母さんが暴走気味だってことを。
でも知っている。いかに蓬莱の薬を飲んだとしても、実年齢の問題は完全には払拭されないことを。
「まあ、確かにこれから80年は勝負だと思うよ。110歳越えちゃえば、案外どうってことないんじゃね?」
「あーうん、それはあるかもしれないわね」
蓬莱の薬の価値観が浸透し、当たり前になる前は、やはり実年齢についてはどうしたって付きまとってくる問題だとは思う。
100歳110歳ともなれば現実離れしてくるけど、これから30代40代50代60代となってくると、イメージと見た目のギャップに苦しむかもしれないわね。
「ま、ともかくこうなっちゃった以上は覚悟を決めねえとな」
「う、うん……」
あたしは、精神的な疲れから、部屋の床に女の子座りをする。
「優子ちゃん、大丈夫?」
「うん、ちょっと疲れちゃって」
「そう? じゃあ……」
もみっ……もみっ……
「あー気持ちいいわ……」
浩介くんから肩を揉まれ、凝りがほぐれていく。
この時間は、いつもあたしを夢中にさせてくれるわ。
「優子ちゃん、肩こり相変わらずだな」
「うん、そうよね」
これだけ重いものを、ずっとぶら下げているのだから当たり前と言えば当たり前で、自分の部屋で休むときはベッドで横になることが多いのも、この重みから解放されるからという側面も強い。
「俺たちがこうして制服着てた時からもこうだったもんな」
「うん……あー気持ちいいわ」
あたしの至福の時間、こうして肩がほぐれ続ける。
すると突然、玄関の扉が開く音がした。
「おじゃましまーす」
母さんの声が聞こえてきた。
あたしたちは大慌てで立ち上がる。
「もうやけだ。行こうぜ」
「うん」
浩介くんも、やけっぱちな表情で言う。
「あ、でもその前に」
ぺろんっ
「いやー!」
浩介くんにどさくさ紛れにスカートめくりされてしまう。
「優子ちゃん純白多いよね。かわいい優子ちゃんにとっても似合っててかわいいよ」
さっきのお義母さんにそっくりの、にやけついた浩介くんの表情が、すっごく恥ずかしいわ。
「んっ……恥ずかしいけど、ありがとう……」
やっぱり、かわいいって言ってもらえるの、嬉しいわ。
あたしたちは、急いでリビングにいくと、そこにはあたしの両親がもう座っていて──
「あらまあ! かわいいわね優子! 本当に、あの頃のまんまだわ!」
母さんが感激した表情をする。
帰省中もそうだったけど、母さん、全然老けないわね。
「あの、母さん……」
気になったので聞いてみることにした。
「あら? どうしたの優子?」
母さんがきょとんとした表情で首をかしげてくる。
どことなく、あたしの仕草にも似ている気がするわ。
「母さんこそ、全く変わってないんだなって。もう10年近く経つのに」
「あーうん、まあその……ね」
何だか煮え切らない態度を取っているわね。
「どうしたの?」
「ああうん優子、よく聞いてくれるかしら?」
母さんが、珍しく真剣そうな表情で話していて、制服姿のあたしと浩介くんも、ビシッと顔が引き締まる。
「母さんたち……それから篠原さんのご両親もだけど、蓬莱教授から薬を融通してもらっていたのよ」
「「え……!?」」
あたしも、浩介くんも、固まってしまう。
でも確かに、その兆候はあった。母さんも帰省する度に高校生だった時とずっと変わらないどころか、若返っている印象さえ受けていた。
「中高年の被験者が少なかったからね。2人には内緒で、していたのよ」
お義母さんが、そう付け加えると、母さんもうんうんとうなずく。
まさか、こんなに身近な人が、蓬莱の薬を飲んでいたなんて思いもしなかったわ。
「そ、そうなのね」
「ええ、これで母さんも、いつまでもこうして優子を愛でることが出きるわ!」
ナデナデナデ
「ちょ、ちょっと母さん!」
母さんがあたしの頭をくしゃくしゃに撫でてくる。
本当に、「変わらない」わねえ。
「ふふ、蓬莱の薬って、本当にすごいわ。治験者になったら勝ち組だわ」
蓬莱の薬の治験者は、既に多くの人たちが蓬莱カンパニーに就職している。
蓬莱の薬の代金を支払わなくていいというのは、大きなメリットになる。
あたしや浩介くんの両親は、その数少ない例外と言えるのよね。
「それで母さん、あたしたちの制服姿見て満足かしら?」
「ええもちろん。浩介くんも、制服似合ってて、あの時のままよね」
母さんが、とても深いものを見る表情で言う。
「……変わらないのが、蓬莱の薬ですから。いつまでも、若くいられるのが、蓬莱の薬ですから」
浩介くんは、困惑しつつも蓬莱の薬にとって一番重要なことを、母さんに言っていた。
ともあれ、あの家に住む人は、ずっと決まっているのね。
「今ね、お父さんが支払っていた年金が返ってきているわ。蓬莱の薬を飲むと社会保障費分の税金と、年金が免除になるのよ」
宇宙開発や防衛関係費、公共事業費が大きく増額されてはいるが、それでも社会保障費の減額分に比べれば、半分程度でしかない。
まあ、あたしたちTS病患者にとっては、実は増税であったりもするんだけど、これまで受けてきた特権分を考えれば、十分に容認できるらしいわね。
「なるほどねえ……」
日本年金機構も、その役割は大きく下がる。
何故なら、高齢者向けの年金が全て無くなり、障害年金などが一部に残るだけになる。
あたしたちが量産体制を早期に整え、値下げを始めれば、いよいよ高齢者に対する福祉サービスが全て廃止されることになっている。
また、寿命の大きな増大に伴って、少子化の対策も不要になる。
故に社会保障費は、その殆どを無くしてしまうことが出来る。
蓬莱の薬を買わざるを得ない状況に追い込み、あたしたちは儲けて、国も活気に包まれる。
人々は老後の不安や衰えの不安からも解放される。
「これからの明るい日本を引っ張っていく優子のこと。お母さん誇りにしているわ」
母さんがにっこりと、優しい笑顔で言う。
そこにはさっきまでの笑顔とは全く性質が異なっていた。
「うん、ありがとう」
日本は現在、蓬莱の薬に引っ張られ、ごく一部の産業を除いてほぼ全てが空前の好景気に沸いている。
しかし、皆が知っていることだけど、今の好景気は始まりでさえない。
これから起きることは、総人口のほぼ全員が生産年齢人口となることによる、人類がかつて経験したことのない躍進が待っている。
「今の日本の活気はね、間違いなく優子たちが作り出したものよ。お父さんも仕事がたくさんあって大変だってさ」
「う、うん……」
やっぱりこういう手の話をされてしまうとあたしは弱い。
あたしが全世界に影響を与えていることくらいわかっている。
それこそ「明日の会」を潰して、フェミニズムを再起不能に追い込んだのも、あたしが協会にそれを呼び掛けたから。
そして、あたしは最終的には、蓬莱の薬の完成において、重要なトリガーを引いてもいたのだ。
「頑張ってね優子。でも、無理はしないでね。たまにはそう、こうやって制服着て、原点に立ち返るのもいいわよ。それじゃあね」
母さんが、玄関へと向かっていく。
あたしと浩介くんは制服姿のまま、玄関へと向かっていき、お義母さんは夕食の準備のためにその場に戻る。
「ふう、それじゃあね。バイバイ」
「うん、バイバイ」
あたしと浩介くんで、母さんを見送る。
バタン
そして、扉が閉まった。
べろん
「きゃあ!」
浩介くんに、またスカートめくりされちゃった。
「いやー、その反応かわいいよね優子ちゃん」
「もう! 浩介くんのえっち!」
あたしがそう言うと、浩介くんはごまかすように玄関の扉の鍵を閉めにいった。
「あははごめんごめん。女子高生の制服のスカートってさ、やっぱめくりたくなっちゃうんだよね。ましてや愛する妻が穿いてるんだぞ」
「もう、他の子にはしないでね!」
浩介くんの力説に、あたしも思わず異議を挟む。
でも、顔はどんどんと熱くなっていく。
「あはは、その優子ちゃんのかわいい反応見たら、他の子何てする気も起きないって!」
浩介くんにそんなことを言われ、好きな男の子にパンツを見られた恥ずかしさと、好きな男の子にかわいいって言われた恥ずかしさの相乗効果であたしの顔が瞬間湯沸し器のように真っ赤になってしまった。
「もー、あなたってずるいわ」
浩介くんとの今日の制服お披露目会で分かったのは、あたしがますます浩介くんの虜になって、離れられなくなってしまったことだった。
制服で行う夫婦生活は、あたしたちにとって、今でも特別な意味を持っていた。