永遠の美少女になって永遠の闘病生活に入った件   作:名無し野ハゲ豚

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幹部同士の交流

「あれ? 永原会長」

 

 会社の中では、相談役という立場も、協会会長としての顔を全面に押し出すので、永原先生のことを、あたしは自然と「永原会長」と呼ぶことが多くなっている。

 

「求人票に書かなくても、採用する際の内規でそうしておけばいいのよ。あるいは社内で良さそうな人物を見つけて、それで採用するというのもいいわよ」

 

 永原先生が少しだけしたり顔であたしにアドバイスをしてくれる。

 

「なるほど、そうよねえ」

 

 確かに、言われてみればその通りだった。

 女性なのに応募しちゃった人は、気の毒としか言いようがないけど、変なクレーマーに絡まれるよりはマシかしら?

 

「でも漏洩リスクがなあ……ただでさえ相互監視で締め付けてるし……」

 

 だけど浩介くんは、まだ納得がいかない様子だった。

 うん、確かに浩介くんの言い分にも一理あるのよね。人手不足になっちゃうとよくないし。

 

「まあ、その時になって考えるといいわ。やっぱりおすすめは、社内でこっちから選抜することだと思うけどね」

 

 永原先生の言う通り、余計なリスクを負わないためにも、その方がいいみたいね。

 

「あー分かった。じゃあそうするわ」

 

「えへへ、私ちょっとは相談役らしいことできたかしら?」

 

 永原先生がやや照れ顔で話す。

 永原先生は役員報酬こそ貰っていないけど、今後は大株主として配当金というものを貰う予定になっている。

 今後の売上高や株価次第では、何もしなくてもずっとやっていけるだけの金額は得られるということだけど、永原先生曰く、「教師にも愛着がある」とのことだった。

 

「ええ。助かるわ」

 

 ともあれ、こういうときにどっしりとあたしたちにアドバイスできるご意見番というのは、やっぱりいざというときの必要なのよね。

 こういったいざという時の助言役は、よく「老害」とも言われているけど、永原先生の場合はそういったことは全く無くてよかったわ。

 

「ふふ、篠原君も篠原さんも大人になったわね」

 

 永原先生が感慨深そうに言う。

 あたしたちの付き合いも、単なる学校の先生と生徒という枠組みを、完全に飛び越えていて、特にあたしと永原先生は、ただでさえ複雑だった関係がもっと複雑になってしまった。

 

「あ、うん、ありがとうございます……って、さすがにもうあたしたちもとっくに大人ですって」

 

 少しだけ乾いた笑いが漏れる。

 成人してから大分年数も経つのもそうだけど、生まれたばかりとはいえ、これだけ大きな会社の役員なんて、子供どころか並大抵の大人でも到底勤まるようなものじゃないし。

 そういう意味では、あたしだってもう立派な大人になったと胸を張って言えると思う。

 

「ああうん、そうよね……ごめんなさい、ちょっと感覚が狂っちゃってたかも」

 

 永原先生は、ただでさえ「大人を超えた大人」といっていい人で、気の遠くなるような長い人生を過ごしてきた。

 特に江戸城時代は、常に政治の中枢部と密接な関係を持っていたわけで、それこそ世間や大人の汚い部分なんて、嫌というほど思い知っているはずだもの。

 いくらあたしが立派な大人になったと思っていても、永原先生の内心では、「100年生きてない人はみんな子供」くらいに思っていても不思議じゃない。

 まあ、永原先生はそういう人ではないけれど。

 

「うん、私も自分のことは分かってるわ。私が、その辺の大人らしい大人が子供に見えてしまうようなくらいには、大人になっちゃってることもね」

 

 もしかしたら、あたしが幼少期がないことをコンプレックスに、子供っぽいものに執着しているせいで、そう見えてしまったのかも知れまい。

 それに、実際には永原先生にも子供っぽいところはある。

 

「でも、永原会長だって、子供っぽいところはありますよ」

 

「ああうん、そうよね……私もほら、子供っぽいグッズとか子供っぽい格好とか好きだし。青春のこととかもあるから──」

 

 うーん、そうじゃないのよね。

 そう思って、あたしは静かに首を横に振る。

 

「違うわ。永原会長が子供っぽいのは、例えば真田幸村とか、忠臣蔵とか」

 

「な!?」

 

 あたしがちょっと図星を突いてみると、永原先生の顔が、みるみるうちに赤くなっていくのが分かった。

 怒らせちゃったかな? と思った矢先、永原先生はぜえぜえと、息を吐いた。

 

「はぁ……はぁ……確かに、篠原さんの言う通りかもしれないわね。確かに私にとって、左衛門佐殿のことを幸村と呼ぶのは許せないし、忠臣蔵での吉良殿を貶める話も大嫌いだわ」

 

 もちろんそれは、当時の価値観からすれば、常識ある大人なら、忠義を受けた恩人にはとにかく報いるというのが当たり前だったから、間違いではないとはあたしも思う。

 それでも、現代の人に対して、例え私たち現代人が間違っていたとしても、例えばあの時の上田駅前での振る舞いや、9年前の夏祭りでのさくらちゃんに対する振るまいが、大人の振るまいとは到底思えない。

 

「まあでも、当時の大人だったら、たぶん私のこうした振る舞いを非難はしなかったと思うわ」

 

 やっぱりあたしの予想した通りのことを、永原先生が言ってくる。

 

「そうね……昔の人って、子供だったのかしら?」

 

 以前にも、永原先生から戦乱の時代の話は聞いたことがあり、とてつもなく切れやすく些細な事で喧嘩が始まるということを聞いていた。

 そうしたエピソードを見ると、そうとしか思えなかった。

 

「ああうん、間違ってないと思うわ。あの頃はそう、今思えば随分と簡単なことで人が死んだもの。私も女になって、我慢を覚えたものよ」

 

 永原先生は、否定しなかった。

 昔の人は昔を美化しがちだというけれども、永原先生にはそれがないのよね。

 やっぱり老化しないせいなのかもしれないわね。

 

「それでも、主君のことや恩人のことだけは、私もどうしても譲れないわ」

 

 永原先生は、その事を「かくすれば かくなるものと知りながら やむにやまれぬ 大和魂」だと言った。

 これは幕末の「吉田寅次郎松陰」の歌で、志士に多大な影響を与え、現代の人の心にも響いている短歌だという。

 

「確かに昔の人は、今から見ればバカじゃないだけで、精神は子供だったかもしれないわ。それでも、私たちが日本人である限り、この歌のことは忘れないわ。絶対に、ね」

 

 永原先生が笑顔で話す。

 確かに、あの時の「真田幸村」のことも、さくらちゃんに忠臣蔵について怒った時も、いや、もしかしたら永原先生が忌み嫌っている赤穂浪士たちも、この歌と同じ思いだったのかもしれないわ。

 彼らだって、世論がいかに同情したとは言っても、後世の人間が冷静に振り替えったら、自分達の旗色が悪くなることは知っていたと思う。

 実際、今の日本では、永原先生の名誉回復運動もあって、吉良上野介は何も悪くなかったことはほぼ常識になっている。

 それどころか、当時の法律でも仇討ちとは認められないことも知っていながら、あの行動に出た。

 

「何だろう、蓬莱さんの研究も、そんな感じがしてきたよ」

 

 浩介くんが、しみじみとした表情で話す。

 確かに、蓬莱教授も不老の研究をすれば、世間の目は最初は厳しくなることは知っていたと思う。

 それでも実現が可能と踏んだから、大和魂で作り上げたんだと思う。

 

「うん、私もそう思うわ」

 

 時代と共に変わる価値観はあるけれど、絶対に変わらないものもある。ということなのかもしれないわね。

 そのあたりをどうバランス取るかは、今後の日本を左右しそうだわ。

 

「さ、話もここまでにして、私も他のテーブルに行くわね」

 

「いってらっしゃーい」

 

 永原先生が、あたしたちから離れる。

 

「じゃあ浩介くん、また会いましょう」

 

「ああ、そうだな。親睦を深めねえと。あ、他の男にセクハラされたりしたら、ちゃんと言うんだぞ。即刻しばいてクビにしてやるから」

 

 浩介くんが、相変わらず盛り上がった力こぶを見せてくれる。

 蓬莱の薬を飲んでいるお陰で、浩介くんは体力が落ちていない。

 だから今でも、あたしを守る力があるのよね。

 

「あははは……うん、気を付けるわ」

 

 浩介くんなら本当にやりかねないから、あたしも気を付けないといけないわね。

 まあでも、実はあたしもちょっとだけ期待しちゃったりもしてるけどね。

 

「お疲れさまー」

 

「あ、これは篠原常務! お疲れ様です!」

 

 あたしは今回の忘年会の実行委員のテーブルに向かい、司会進行役の人に声をかけた。

 忘年会の実行委員の人たちは、忙しい仕事の時間の合間を縫って、今回の企画を考えてくれた。

 

「今回は本当にありがとうね。お陰で来年以降の社員の士気も上がるわ」

 

 今後は会社の方で「社員の慰安」を考えて、そうした会社の雰囲気作りや、休憩所の整備、また専属のマッサージ師を雇って社員たちにマッサージして貰う人などを所属させるグループを人事部傘下に作る企画が、比良さんの方で進行中でもある。

 ふふ、あたしも、肩を揉んでもらいたいわね。

 

「はい、我々も、この経験を活かして、来年以降の企画に役立てたいと思います」

 

 司会の人も、モチベーションは高そうでよかったわ。

 

「ええ、楽しみにしているわ」

 

 忘年会の企画には、大きな負担が必要で、永原先生の学校と重ならないことが大きな条件になっている。

 幸い、協会には忘年会はなかったのが大きな救いだわ。

 

「はい、ありがとうございます」

 

 あたしはテーブルを離れて考える。

 そうだわ。協会も株主になっているし、来年以降は来賓に協会の関係者を呼ぼうかしら?

 TS病の女の子には美少女が多いし、場合によってはカップルが何組も誕生するかもしれないし。

 ……そうだわ。この事は永原先生にも話さないと。

 

 

「え? うん、いいわね」

 

 一旦幹部のテーブルに戻り、永原先生を捕まえると、永原先生はすんなりとした表情でOKサインを出した。

 後は企画グループの方だけど、今の所この会社の社員構成には男性が多いみたいだし、TS病の美少女軍団が来ることに反対する人は多分いないから大丈夫そうね。

 

「うまくいけば、今まで恋愛を諦めてた人でも」

 

「ええ、夢が広がるわ」

 

 永原先生とあたしで盛り上がる。

 あたしも、浩介くんと付き合った当初は、寿命問題とは無縁ではなかった。

 でも、幸子さんと直哉さん、歩美さんと大智さんには、そうした問題はなかった。

 

 それだけ、あたしたちTS病患者も蓬莱教授に助けられているということでもあるのよね。

 

「あ、皆さんもお疲れ様です」

 

「あ、余呉さんお疲れ様」

 

 余呉さんも、この席に戻っていた。

 いつの間にか最初の歓談の時間も少なくなってきた。

 あたしたちがテーブルに残ったのは、残りの時間を上層部同士での打ち合わせに参加するため。

 忘年会では、みんなの本音が出るため、社員たちが不満の声をあげてないかきっちりと監視する必要がある。

 会社が終わった後の飲み会で、上司への愚痴を言う何てこともあるが、機密漏洩を防止するためには、こうした声をなるべく聞き取らなければいけない。

 そのために、以前には怪しい社員をリストアップして尾行の上陰口を調査する機関を設けることも検討されたが、さすがに監視が過ぎるのと、監視機関そのものの監視も必要で、いくらなんでも経費がかかりすぎるとのことでお流れとなった。

 

「今の所、不満の声は出てないようです」

 

 比良さんが少しだけ安堵の声で話す。

 

「とはいえ、信用はできんな。俺たちここにいるし」

 

 浩介くんが至極全うに分析する。

 その通りで、あたしたちが社員たちからもある程度の恐怖を持たれているのもまた事実だった。

 それは世間一般が持っている蓬莱カンパニーへの賛辞とは、全く別のものだった。

 何故なら、彼らも「自分達が信用されていない。監視されている」ということは重々承知だから。

 未だに薬を生成する際、重要な工程は取締役の工場長が自ら自室に籠って行っており、また機密情報にある程度アクセスできるのも、蓬莱の研究棟出身の部長や次長クラスの社員だけ。

 とはいえ、普通に働いていれば、そんなこと気にもならないようにできている。

 そう、結局のところ余計な欲を出さなければ、蓬莱カンパニーはこれ以上ないほどに働きやすい職場になっている。

 何分独占商売のためにかなりの利ざやを確保できるため、社員の福利厚生も給与も、極めて高水準にあるから。

 人も気持ち多目に雇うことで、仕事持ち帰りなしの残業0を達成している。

 

「不満の声を漏らす場所がなかったとして、まあ今の所は機密漏洩なんてしでかす社員はおらんだろうな」

 

 社外の人間が上層部を通さずに接触してきた場合、必ず上に報告するように義務付けている。

 また、当社の管理職に対して、金にものを言わせたヘッドハンティングのような行為に対しても、蓬莱カンパニーへの反逆行為と見なし、常に相互監視と密告を奨励させ、もし他社で機密を漏らせば、子孫代々の「薬封鎖」が待っているし、そうしたことを試みた会社にも、末端社員に至るまで子々孫々に制裁措置を行うシステムになっている。

 

「問題は海外だ。手段を選ばない国によってはハニートラップを仕掛けてくるかもしれん。俺も優子ちゃんを妻に持っているから知っているが、男と言うのは美少女に迫られると弱いものだからな。まあ、優子ちゃんを知っちゃったら、他の女じゃもの足りねえけど」

 

 浩介くんがさりげなくのろけを混ぜてくるので、あたしの顔もぷしゅーっと赤くなってしまう。

 もう、浩介くんってたらしこみの天才なんじゃないかしら?

 

 うーん、今の所は国内限定販売ということで、海外への出張は存在しないけど、海外出張の際には、現地人によるハニートラップに引っ掛からないように色々と今のうちに考えておく必要があるわね。

 

「うーむ、どうしたらいいかしら?」

 

 テーブルに座っていた永原先生も腕を組んで考えている。

 自分達がかわいくて美人だからこそ、ハニートラップの恐ろしさは理解ができる。

 これで弱味を握られれば、面目が優先されて連座制でさえ崩壊しかねない。

 あたしたちは、この対策についても大真面目に考えないといけないわね。

 

「そうね……妻がいる社員は常に妻を同行させ、そうでない場合も女性社員と1組に組ませて、お互いが絶対に離れないように対策をとる。というのはどうかしら?」

 

 経費はもちろんかなりかかっちゃうけど、ハニートラップ対策にはそれしか無いわよね。

 とにかく、この手の敵諜報機関からの揺さぶりには気をつけないと。

 

「それで行こう」

 

 あたしの意見に浩介くんが賛同し、他の役員からも異議は出ない。

 結局、単独行動を阻止させる以外に、対策方法はないと思う。

 機密漏洩の可能性がある時は、常に複数人で行動させ、怪しい行動をした社員を密告させるのが、裏切りを防ぐのには一番確実と言うことになるわね。

 もちろん、虚偽の密告は重罪に処することでバランスも取っているし、手厚い労働環境があってこそだけど。

 

「まああれだ。海外出張が必要になる頃までに、日本と世界で経済格差を広げていくことが大事だろう。その辺りは、俺たちの領分じゃあないな」

 

 浩介くんのその総括で、あたしたちはひとまず対策協議を終えた。

 その後、他の役員たちも続々と戻ってきて、あたしたちのテーブルは再び全席が埋まった。

 蓬莱教授や和邇先輩も、社員たちの評判を聞いて回ったけど、「あまり見回りするのもよくない」とのことで、次のレクリエーションが終わったら、またあたしたちだけで話を進めることにした。

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