永遠の美少女になって永遠の闘病生活に入った件 作:名無し野ハゲ豚
「さあ続きましてはですね。全テーブルが参加しましてのクイズ大会となっております。こちらの問題を作ったのはですね。相談役の永原さんでして、主に鉄道クイズになっております!」
永原先生が今回のクイズ問題を作成したことは知っている。
でも、何だか難しい内容になりそうだわ。
「各テーブルから1人代表を選んでください。優勝したチームには豪華商品をプレゼントいたします」
ちなみに、さっき「全テーブル」と言っていたが、あたしたち役員テーブルは参加しないことになっている。
出題者がいるという意味もあるし、他の社員が役員組に配慮してしまう可能性もあるから。
永原先生は意地悪そうににっこりとしていた。
どうもあの顔、「正解させる気ありません」って感じだわ。
そうこうしているうちに、他のテーブルからは代表者が続々と集まってくる。
ちなみに、強制ではないので参加しないテーブルも出てきている。
まあ豪華商品といっても、大したものは出ないし、そもそも欲しければ買えるものばかりなので、あたしたちの今後の収入を考えたら、別に棄権しても痛くも痒くもないわね。
「ではですね、このクイズは問題を出題していきます。制限時間がございます。お手元のボードに、正解をお書きください」
「きゅふふ」
永原先生の不適な笑みはどうしてもあたしにサディスティック性を印象づける。
あたし自身も、たまに肉食系女子に変身して、浩介くんを食べる時にあんな表情になっていると思う。
壇上にあるスキャナーからも映像が見えていて、出演者たちはみんな緊張している。
これだけいれば鉄道マニアもいそうだけど、果たしてどうかしら?
「ではですね、最初の問題に移りたいと思いますででん」
司会者の人がよくあるのりで入る。
無駄に効果音まで放送していて凝っている。
「次の4人のうち、最も安い普通乗車券で往復移動した人は誰でしょう? 1、東京駅から大阪駅 2、東京駅から明石駅 3、大宮駅から大阪駅 4、東京駅から姫路駅 さあこれは地理的な位置関係や距離関係が問われるクイズですね」
何人かの人が勢いよく書いている。
もう何人かは、一瞬躊躇した後に書いている。
テーブルからも、ヒソヒソ声が聞こえてくる。
「では、一斉に回答をオープンしてくださいどうぞっ!」
全員が回答ボードをこちらに向ける。
圧倒的に多いのが「1」で、何人かが「3」を選んでいて、「4」だけ1人だった。
「さあ圧倒的に多いのが1で、深読みした人が3番4番を選んでいますね。じゃあ3番を選んだ人、どうしてですか?」
「嫌なんかあるんじゃないかなと……大宮からなら北陸からの方が近いとか?」
「ふふっ、楽しいわ。全員不正解ね」
永原先生がにやにやと笑っている。
まさにしてやったりの展開だったんだわ。
「もしかして2番なんですか?」
「ええ、正解よ。往復移動というところがポイントなのよ」
「じゃあ正解は……2番です!」
すると会場全体から驚きの声で「えー!?」という音が聞こえてきた。
確かに、この中だと一番無さそうな解答だものね。
「じゃあですね、出題者の永原さん、どうして2なんでしょうか説明してください」
「はい」
永原先生が椅子から立ち上がり、マイクを受けとる。
「普通乗車券には片道辺り601キロ以上の切符には片道運賃が1割引になる往復割引があります」
永原先生が手元のパソコンを操作し解説をする。
「するとですね、561キロから600までの間の往復乗車券は、601キロから640キロまでの間の往復乗車券よりも割高になるんです。1番と3番はちょうどそれに合致する距離になりますし、4番の場合は逆に長すぎてしまうので、2が正解になります」
スクリーンには、具体的な経路とキロ数が地図と共に合わさっている。
「んー、それにしてもいきなり全員不正解とは。これは難問が続きそうですよ!」
おそらく、1を選んだ人は、「忘年会だしそんな難問は出ないだろう」とタカをくくっていたんだと思う。
一般的な感覚で言えば、姫路や明石、大宮と東京大阪の位置関係を問う問題だと思うはずで、どうしたって1を選びたくなるもの。
「では次の問題に移りましょうででんっ! JR山手線の『正しい』路線区間の駅を『過不足なく』全て書いてください、JR山手線の『正しい』路線区間の駅を『過不足なく』全て書いてください。この問題は制限時間7分となっています。あ、ちなみにひらがなでもOKとのことです」
これは、あたしも以前永原先生に聞いたことがあるので知っている。
そして、永原先生はまた意地悪な問題を出してきたことも分かる。
答えは「品川、大崎、五反田、目黒、恵比寿、渋谷、原宿、代々木、新宿、新大久保、高田馬場、目白、池袋、大塚、巣鴨、駒込、田端」で、東側の区間は東海道本線と東北本線の所属になっているので、除外しないといけない。
山手線と言えば環状線でぐるぐる回っているというイメージだけど、それは「便宜上そう案内している」というだけで、正式には品川駅から田端駅までの区間のことを言うのだと言っていたものね。
「さあ時間一杯ですどうぞっ!」
回答者たちは困惑しつつも、パネルを前面に出した。
「ふむふむ、皆さん東京から始まっていますね」
もちろん、「東京」とあるのは不正解だけど、「銀座」とか「大久保」とか「王子」何て言う誤答や途中の駅をいくつも飛ばしているパターンも散見されている。
どうやら、鉄道に詳しいマニアの人はここにはいなかったみたいね。
「うーん、やっぱり全員不正解ね」
永原先生は、回答者が全員誤答していることにとても満足気な様子だった。
それにしても、これで嫌われないと思っている所が、永原先生の大胆さよね。
「では正解です。こちら」
画面に、正解が写る。
あたしの予想通りで、会場からも再び驚きの声が漏れる。
そもそも、なぜ「品川から田端」なのかは、一般の人に説明するのって難しいわよね?
「うーん、またしても全員不正解ですねー、にしても意外ですよね。山手線っていうと一週ぐるりなイメージですが、これでは西側だけになりますよね。解説お願いします」
また永原先生が前に立ってマイクを受けとる。
2回続けて引っかけ問題が出され、回答者も永原先生に向ける視線が厳しくなる。
「はい、山手線を一週全て山手線と呼ぶのは便宜上の話で、実際には東京から品川の間は東海道本線、東京から田端までは東北本線に、それぞれ属しています。実は山手線は元々品川から新宿を通って赤羽に抜ける、東海道と東北との連絡路線として明治に開通したんです。その後、池袋駅が完成して、田端方面への支線が分岐し、こちらが山手線に編入され、池袋から赤羽の間は赤羽線という別の路線になりました」
永原先生の解説と共に、スクリーンの画面が変わっていく。
明治と言えばもう遠い遠い昔の話で、祖先たちの出来事だけれども、永原先生や比良さん余呉さんにとっては、昔の古い記憶の1つでしかないのよね。
「実は東京駅ができたのも大正時代の比較的新しい時期でして、それまでターミナル駅はとても分散していたんです」
永原先生の解説が終わり、続いて第3問に入る。
第3問には4枚の鉄道写真が載せられていた。
「次の各列車の『運転最高速度』が一番速い列車はどれでしょう?」
4枚の写真のうち、1枚は、来年度に開業する「中央リニア新幹線の車両」だった。
残り3枚は、今走っている既存の新幹線車両で、当然素直に考えれば、時速500キロ運転が予定されているリニアが一番速い。
しかし、引っかけ問題を2問続けたために、回答者の間で疑心案義になっている。
「ふふ、今回はサービス問題よ。別に営業開始前の車両にも、運転最高速度はあるわよ。そうじゃなかったら大変じゃない」
そう、常識的に考えればその通り。
だけど回答者たちは、かなり悩んでいる様子だった。
もしこれが1問目なら、間違いなく全員正解をしていたはずよね。
……永原先生って、「真田の人間」を自称するあたり、性格悪くなろうとすれば徹底しているわよね。
「さあ、回答をオープンしてみましょうどうぞ!」
パネルを出してみると、約半分がリニアの車両を選んでおり、残りが新幹線の車両に分散していた。
司会者さんのインタビューによれば、引っかけ問題を続けた後の素直な問題ということで、回答者もかなり困惑しているらしいわね。
「では、正解はこちら」
そして、リニアの車両が一番速いという回答結果に、会場からはさっきまでとは違い「おー」という声になっていた。
「今回は素直な正解ですね。解説いいですか?」
「はい」
また永原先生が椅子から立ち上がる。
どうやら、あたしたちにネタバレしたいらしくてわざわざ毎回往復しているらしい。
おそらく、あたしたち役員に対して優越感を持たせるため、よね。
「運転最高速度、当たり前ですけれども営業前の車両にも存在します。そうでなければ見切り発車になってしまいますから。ですので、正解は普通に3のL0系になります」
永原先生の解説は淡々としている。
一方で、正解にありつけた回答者たちはほっとした表情になっていた。
その後も、鉄道クイズは引っかけ問題とストレート問題、あるいは単純な超難問とをうまく混ぜ合わせ、回答者たちを翻弄しつつ、クイズ大会が終わった。
参加している人は一喜一憂しているけど、あたしたちは別の視点から眺めている。
疎外感よりもストレスフリーな印象が、あたしには強かった。
「えーでは優勝したのは……3番テーブルの広報チームの皆さんです」
パチパチパチパチパチ!
「では、こちらが商品になります。どうですか? やってみて」
「ああはい、鉄道って奥が深いんだなあと思いました。でもいくつかは、鉄道マニアの友人に聞いた内容もあったので、落ち着いて答えられました」
何だかあまり気分はよくなさそうだけど、永原先生としては、狙い通りのことかもしれないわね。
「ふふ、良かったわ」
テーブルの永原先生は、相変わらずマイペースににっこりしていた。
確かに意地悪な問題構成ではあったけど、永原先生の解説は後半になるにつれて分かりやすく、興味深いものになっていた。
これが俗に言う「落としてあげる」という方法で、いわゆる「洗脳」の常套手段にもなっている方法でもあるのよね。
「あ、来年以降は別の企画でお願いしているわ。クイズ作るのも大変なのよ」
意地悪な出題も、作るとなると難しいというのは、その通りだと思う。
漫画にしてもアニメにしても小説にしても、「産みの苦しさ」というものは必ずあるものね。
「そうなのね」
「ではこれにてクイズ大会を終了いたします。この後は引き続きご歓談となります。皆さんこの後も忘年会をお楽しみ下さい」
パチパチパチパチパチ
司会者さんがそう言うと、会場からはしっかりとした拍手が沸き起こる。
ともあれ、最初はどうなることかと思ったけど、クイズ大会も一応うまくいったみたいね。
さて、この後の歓談タイムだけど、予定ではデザートなどが並ぶことになっている。
ふふ、甘いもの、楽しみだわ。どんなのが並ぶのかしら?
「優子ちゃん、行こうぜ」
「うん」
そして後半の時間は、あたしたちは浩介くんと2人で行動することになっている。
役員、それも社長と常務という立場ではあるけど、忘年会はみんなで楽しむべきものだもの。
だからあたしも、浩介くんとの忘年会、全力で楽しまなきゃいけないわ。
あたしと浩介くんが、また列に並ぶ。
自然とあたしが手を出すと、浩介くんが手を握り返してくる。
「えへへ……」
あたしの顔が自然とほころぶ。
あたしが左側で浩介くんが右側なので、あたしの手には、浩介くんの指に嵌められた堅い誓いの印が伝わってくる。
「ねえあれ……」
「うん、社長と常務、噂通りのアツアツよね」
「いいよねえ、あんな風に夫婦で手を繋げるの」
「うー、何だよあれ!」
「僻むな僻むな。社長と常務でラブラブなのはこの会社ができるずっと前からじゃないか」
「うおおおおおお!!! 不平等だああああああ!!!」
社員たちの間でも、あたしたちの様子を見て盛り上がっている。
あたしは心持ち、浩介くんと繋ぐ手を強めた。
あたしは、不意に左手をあげて、薬指に嵌めてある結婚指輪を見つめた。
「っ……」
あたしが微笑むと、浩介くんの顔が真っ赤になってうつむいていく。
それを見て、あたしも顔をそらしてしまう。
結婚してから来年で8年、あたしたちの年齢は、あの頃から止まったままで、それは「永遠の新婚」を意味していた。
「あなた……愛してるわ」
「うん……」
一番近い所にいる浩介くんにだけ聞こえるような小声で、あたしは何度目か数えるのを諦めるほどに言った「愛してる」を繰り返す。
あたしたちの列は一歩、また一歩と前に行き、それは一緒に浩介くんとお手々を繋いでラブラブ出来る時間が短くなっていることを意味している。
「ねえ優子ちゃん、そろそろ」
「あ、うん……」
浩介くんが前方を見ると、既にあたしたちの番はすぐそこだった。
あたしたちは先程と同じようにトレイを持ってお皿を起き、前方のメニューを見る。
焼きそばやフライドポテトなどが補充されていた他、一番向こう側には人だかりができていて、あれがデザート部分だということが分かる。
あたしはともかく、浩介くんはまだ食べ足りないらしく、結構な量を盛っていた。
もちろんあたしは、浩介くんのペースに合わせる。少しでも、浩介くんと一緒にいたいから。
そして、デザートのコーナーが見えてきた。
どんなデザートがあるのかしら? 楽しみだわ。
「はーん、美味しそうだわー!」
パイナップルやミカン、イチゴやブドウなどのフルーツ類の盛り合わせバイキング、更に甘そうな色とりどりの味のゼリーたち、そして何よりチョコレート味とバニラ味の数多くのショートケーキがとてもきれいに並んでいた。
んー! 美味しそうだわー!
「優子ちゃんの幸せそうな顔、大好きだよ」
「うん、ありがとう」
あたしは、夢中でフルーツにケーキを取っていく。
更に近くにはオレンジジュースにリンゴジュース、ミカンジュースなども置いてあり、どれもこれも甘くて大好物ばかり。
「うーん、きれいだわー」
盛り付けが終わり、デザートの部分を見てあたしの目がハートになる。
甘いものはエネルギー源でもあり、女の子の大好物でもある。
あたしにとっては、特に、ね。
「あーでも、今は優子ちゃんの服の方がきれいかも」
また浩介くんがお馴染みの誉め言葉をかけてくる。
でもあたしは、何度されても慣れることはなく、顔がポット赤くなってしまう。
もちろん、意識的に慣れちゃわないようにしないといけないけどね。
「もう、浩介くんったら……さ、食べましょ」
確かに今のあたしは膝下丈の純白のワンピースで、清楚さを強調した格好になっている。
もちろん、あたしのかわいい顔やスタイルも含めて、「きれい」ってことだとは思うけどね。
「ああ」
あたしと浩介くんは、トレイを持ちながら役員のテーブルへと戻る。
テーブルには、既に永原先生と比良さん余呉さんが座っていた。
甘いものに夢中になりすぎてて、どうやら途中で追い抜かれちゃったみたいね。