永遠の美少女になって永遠の闘病生活に入った件   作:名無し野ハゲ豚

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移住計画 前編

 3月、あたしは世界的経済誌が行っている、「世界長者番付」、はやい話が「世界金持ち決定戦」で2位になった。

 あたしたちは蓬莱カンパニーの株式騒動で、世界的大富豪になってしまったんだけど、経済誌はそのランキングの付け方に注文をつけてきた。

 というのも、あたしたちの資産を、「Kousuke Shinohara」と「Yuko Shinohara」で分けて掲載するのか、「Kousuke Shinohara and his family」とするのかで順位が変わってしまうから。

 前者の場合、1位には「Shingo Horai」が約24兆円で入り、あたしたちが同率2位で約18兆円になる。

 ところが後者の方法だと、あたしたちの資産は約36兆円となって圧倒的1位になる。

 あたしたちがランキング2つ占める代わりに1位を諦めるか、代わりに名前1つにして1位になるかは、結構難しい問題だった。

 蓬莱教授とも話し合い、最終的には蓬莱教授への敬意や、「1位は魅力的だけど優子ちゃんの名前も載せたい」という浩介くんの意向もあって、このような形になった。

 一方で、「世界大富豪家ランキング」では、これまでのアメリカ人のビリオネア一家などを抑えて、あたしたち「Shinohara family」が、世界一の富豪一家へと一気に躍り出たことになる。

 ちなみに、個人の資産ランキング7位には「Makino Nagahara」という名前もあって、総資産は堂々の12兆飛んで50億円となっている。

 株価が1株12万円と評価され1億株、残りの50億円というのは、永原先生が持っていた古い家宝類を、経済誌が独自に評価したためらしい。

 インターネットでもこのランキングは見ることができて、あたしたちの「age 26」もだけど、永原先生の「age 509」には、「The oldest person in the world」という文字の他、比良さんと余呉さんも、それぞれ兆円単位の資産を持つということで、日本の大富豪ランキングの上位も、ほぼ蓬莱カンパニーの関係者で占められてしまった。

 もちろん、この事は日本の経済誌や経済新聞も軒並み報じ始め、「世界長者番付、1位は蓬莱氏、蓬莱カンパニーの株式の2割を握る。同社社長と常務夫妻もそれぞれ同率2位」とか、「蓬莱カンパニーの大株主が軒並み大富豪に、蓬莱カンパニー大株主の6名で世界の下位50%の資産を占有」何て言う、妬みを煽るような見出しもあった。

 まあ、この程度では抗議とかはしないけど、ちょっと危ない記事なのも事実よね。

 あたしたち自身がまさかこんなことになるなんて思いもしなかったし。

 

「どれもすげえニュースだなあ」

 

「それにしても、マスコミの取材がすごいわね」

 

 他人事のように話す浩介くんに対して、母さんは呆れた顔で話している。

 実は今、あたしの実両親も、この家に避難している。

 以前からマスコミによる取材攻勢はあったんだけど、あたしたちの場合蓬莱カンパニーの強権が怖くて、この閑静な住宅街には殆どメディアは来なかったけど、あたしの実家の所には、以前からかなりの取材申し込みが来ていたらしい。

 あたしとしても簡単に予想がついたこととは言え、母さんから連絡がないので大丈夫だと思っていた。

 ちなみに母さんによれば、「優子たちを心配させたくない」との理由で、明かしていなかったという。

 

「でも石山さんたちも含めて、このままこの家にいるのも考えものよね。早く新居を決めないと」

 

 お義母さんが腕を組んで考える。

 現実問題として、マスコミの取材攻勢は近隣の迷惑にもなっていたし、今の所「蓬莱カンパニー」だから近隣から苦情は来ていないけど、内心不満が溜まっていても不思議じゃない。

 そこであたしたちは、住居の移転を真剣に議論していた。

 

 まずあたしたちは新しい住居として、いくつかの候補地を絞ることにした。

 住み慣れた我が家を手放すのは心苦しいけど、これ以上マスコミの取材依頼に対して近隣に迷惑をかけるわけにもいかないし、かといって強権の発動は極力避けたいのも事実だった。

 実際、困ったことにマスコミは「あたしたちの業績をもっと世に広めたい」という名目で取材攻勢を仕掛けていて、あえて無能な味方を演じることで、いわゆる「ありがた迷惑」を狙ったものでもあった。

 本当、なんでこういう嫌がらせの才能を、もっときちんと報道に活かせないのかしらね?

 

「どこがいいかしら?」

 

 あたしたちは、両家両親との6人、もしくは浩介くんのおばあさんを含めて7人で住める住居を探している。

 ただ住めればいいというだけでなく、マスコミ慣れしている地域……つまりそれなりの著名人がいくらか住んでいる土地を選ぶ必要がある。

 そこでまず東京都内の高級住宅街を見つけ、あたしたちで絞りこんでいき、都内にあるそうした高級住宅街専門の不動産屋さんに予約を入れておいた。

 

 最終候補地は田園調布、麻布、白金高輪、赤坂、そして松濤の5箇所だった。

 どれも都内の高級住宅街として著名であり、あたしたちが買う予定の住宅も、そうした高級住宅街に佇む豪邸の中でも一際目立つ程の豪邸で、普通の人なら生涯賃金を全て叩いても到底購入できないような金額のものばかりだった。

 でも、今のあたしたちなら、今度の株主総会で予定されている配当金で、問題なく豪邸が購入できる。

 都内中心部には、いわゆる「億ション」と呼ばれるセキュリティがしっかりしている高級マンションもあるけど、これまでの家と同様に、庭つきの一軒家がいいと思ったので候補地は自ずと絞られていった。

 最初は三軒茶屋や成城学園前などの世田谷区の高級住宅街を中心に考えたものの、「仮にも世界一の資産家ファミリーが建てる家だ。どうせ建てるなら、もっと高級な、それこそ最高級の住宅街にした方がいい」という父さんの進言もあって、高級住宅街の中でも、いわゆる超富裕層と呼ばれる人々が多く住む土地へと家を建てることになった。

 

「俺は松濤がいいと思うな。渋谷とも程近いし、通勤時間も短くなる。佐和山大学へは遠くなるが、逆方向で空いているだろう? 田園調布も安くて魅力的だが、通勤時間を考えれば、高くても松濤だ」

 

 浩介くんが、この中では一番高いプランである、松濤の320坪、3階建て屋上付き2世帯住宅プランを提案する。

 いや、田園調布だって今の家に比べたらかなり高いわけだけど、あたしたちが持っている株の配当金と比べれば、松濤のプランだって、何の問題もなく支払うことができる。

 こんな値段の家、普通だったら一生涯働いてても買えないような値段だし、ついこの間までは考えにも及ばなかった場所だった。

 そんな東京の真ん中に場所に320坪もの敷地面積を持った豪邸を建てちゃったら、固定資産税もすさまじいことになりそうだけど、世界一の資産を持つ一家となった今のあたしたちからすれば、はした金も同然だった。

 

「でもこういうガチガチの高級住宅街だと、成金に厳しいんじゃないかしら?」

 

 それに対して、お義母さんは松濤プランに懐疑的だった。

 確かに、あたしたちは株式上場によって一夜にして兆単位の資産を持つに至った典型的な「成金」で、先祖代々続く「旧家」というわけではない。

 そういった一代で成り上がった成金はマナーなども一番悪く、横柄な振る舞いをしやすいということで、こうした高級住宅街の中でも最高級と思われる住宅街では避けられてしまうのではないかという懸念だった。

 それなら、田園調布程度の高級度にとどめておくべきではないかというのが、お義母さんの意見だった。

 ただ、田園調布も田園調布で、景観規制が厳しいのが難点なのよね。

 

「高輪はどうかしら? 通勤時間もそこまで長くないですし、沿線も空いてるわよ」

 

 今度は母さんが、白金高輪のうちの高輪の方を提案する。

 ここは都営地下鉄三田線と、東京メトロ南北線が別れる分岐駅で、しかも山手線の内側で目黒駅が近いので、東京都区内のどこにいくにしても不便はしない。

 ただ、元麻布も同じだけど、松濤と比べるとやや交通の便と通勤時間が悪い。

 

「あたしは浩介くんに賛成かな? 松濤の最寄駅は神泉駅でも、渋谷駅も徒歩圏内にあるわ。候補の中では蓬莱カンパニーのオフィスに一番近いし、何より渋谷駅の利便性と渋谷の活気度は言うまでもないわ。それに、いくら成金が嫌われるといっても、世界一の資産なら話は別でしょ?」

 

 実際、経済誌に載っている資産ランキングだって、1代で資産を築いた人が多い。

 それなら、成金と呼ばれようが堂々としていればいい。

 それに、蓬莱カンパニーがもたらす恩恵は、富裕層にも絶大的であることは明らかであった。

 

「うーん、私としては、莫大な資産を持っているのは息子夫婦だし、2人の意見を尊重したいな」

 

 ここまで沈黙を守っていたお義父さんは、謙虚な姿勢を見せてきた。

 あたしと浩介くんが、共に松濤を提案したことで議論は一気にまとまり始めた。

 

「さて、そうと決まれば明日早速不動産屋に行こうぜ」

 

「ええそうね」

 

 あたしたちは、翌日に、渋谷にある不動産会社を訪ねることになった。

 引っ越しが決まっても、しばらくは建築期間もあるので、ここに住み続けることになるけど、今年の夏くらいには、新しい住居に住むことができると思う。

 

 

 

  ガタンゴトン……ガタンゴトン……

 

 電車が、静かに揺れ動く。

 あたしたちは昨日の家族会議の通り、予約してあった渋谷の不動産屋さんを目指して電車に乗っていた。

 

「楽しみよねあなた」

 

「ああ、出来れば麻布なら通勤時間ももっと短くなったんだが、致し方あるまい」

 

 あたしの両親が、新しい家について、楽しみにしていた。

 父さんは麻布派だったらしい。その理由が自分の通勤時間とはいえ、松濤でも十分短縮になるし、何より今の家と比べたらどこだって素晴らしい家に違いはなかった。

 

 電車の扉の上にある液晶パネルがニュースを報じていて、あたしたち「蓬莱カンパニー」の躍進ぶりが書かれていた。

 更に、「蓬莱カンパニー、100年後の世界解放の際には世界の富の半分が集中?」何て言うニュースまであった他、「JAXAの宇宙移民計画が本格始動、軌道エレベーターも実用化へ」というニュースもあった。

 格差拡大を煽るような報道もないわけではなかったが、人々の顔は総じて明るかった。

 

 

「間もなく渋谷、渋谷です」

 

 しばらく電車を乗り継いだりなどして、あたしたちは渋谷駅へと到着した。

 多くの人がどっと降り、あたしたちはあらかじめ予約しておいた不動産屋さんへと歩いていく。

 

「このビルの……ここかな?」

 

 何故か外国人観光客が多い駅前の巨大な交差点を渡り、あたしたちはビルの中に入る。

 この中に、松濤を扱っている不動産屋さんが入っていて、インターネットで見た物件もこの会社で扱っているはず。

 

 あたしたちはエレベーターで所定の階に行く。

 うー緊張してきたわ。

 

「こんなところ、普通の人には一生縁が無さそうよね」

 

 エレベーターもビルも、古びた雰囲気なのに、どこか高級感が漂っていた。

 

「ああ」

 

 義両親も興奮気味に話していた。

 あたしが先頭で、扉を開く。

 

 

「いらっしゃいませー」

 

 中には誰もおらず、店員さんが頭を下げてきた。

 

「すみません、本日予約を入れた篠原です。松濤に引っ越したいんですが」

 

「え!? あ、はいわかりました!」

 

 浩介くんが「松濤に引っ越したい」と言うと、店員さんが目の色を変えてすっ飛んでいった。

 恐らく、このお店でも一番坪単価が高い場所なのかもしれないわね。

 

「お客様どうぞお座りください」

 

 テーブルの方に誘導され、あたしたちは椅子に腰かける。

 かなり高級な椅子なのか、あたしたちはみんなそのふわりとした感じに驚きの声を漏らしてしまった。

 いけないいけない、こういうのが成金扱いされちゃうのよね。

 

「松濤プランはこちらです。土地代とお値段はこちらの住居プランですと新築でこのお値段になりますがよろしいですか?」

 

 普通の庶民なら、人生を30回はやり直さないと払えなさそうな金額……って、もうあんまり関係ないかしら?

 1000年生きるのだって、珍しくないだろうし。

 

「はい、今度株主総会がありまして、そちらの配当金で十分に支払えます」

 

「では利息を少しお付けしまして一括払いでよろしいですか?」

 

「こちらとしても異存はない」

 

 浩介くんと店員さんの交渉は、とんとん拍子で進んでいく。

 ちなみに、豪邸の内部320坪のうち、家の敷地面積が200坪、庭などの屋外面積が120坪で、その中には車8台分の屋根付き駐車場があるけど、あたしたちは両家とも車を所有してなかったので、そちらも含めて庭に含めてもらうようにした。

 大きなリムジンでも買って専用の運転手さんを都度雇うのもありだけど、さすがにそこまで散財する気には今はなれないわね。

 親世代はともかく、免許さえ持ってないあたしたちに自家用車があっても仕方ないし、それ以前に長寿の実現を考えたら好ましくない乗り物なのも確かだった。

 

「完成予想図はCGにしますね。こちらになります」

 

 テーブルに付随してあったパソコンを操作し、職員さんが完成予想図を見せてくれる。

 VRにすることもできるけど、3D酔いが気になるので、ゆっくりと画面を直線的に動かすことにする。

 入り口は堅牢そうな柵に囲まれ、中に入るといかにも高級そうな資材で作られた家で、しかも四方には監視カメラがつけられている。

 そして家の中に入ると、玄関の靴入れはあたしたちの家のそれの3倍以上で、カーペットも赤くて明らかに高級なもので、「中東製」が予定されているという。

 

 廊下は向こう側まで広がっていて、1階にはそれぞれ20畳の部屋が6部屋、10畳の部屋が4部屋、また4畳半から5畳の小部屋も6部屋用意されていて16LDKという間取りになっている。

 更にトイレも1階だけで2箇所もあり、更にお風呂まで20畳もあって、浴槽は広々と寝ながらつかることができるばかりか、シャワーと鏡まで2つついている。

 

 メインのリビングルームは60畳で、キッチンはIHとガスの両方が使える他、食卓の他大きなテレビの前には、高級ブランドのソファーが置かれていた。

 キッチンにはよく分からない機材も置かれていたけど、何だったのかしら?

 

「すごいわねえ……」

 

「続いて2階になります」

 

 もう一度玄関に戻り、今度は2階へと進んでいく。

 階段の他、何と住宅用にエレベーターまで併設されていて、これならおばあさんもこの家に入れてよさそうだわ。

 

 2階もまた、20畳の部屋が5部屋、10畳の部屋が4部屋、また6畳間が4部屋あって、床の面積は1階より狭いけど、広々としたベランダが、心地いい日当たりを提供してくれる。

 お風呂は1階と同じ仕様で、またキッチンも同じ仕様、ただしリビングは70畳と1階よりやや広めに取られている。

 こちらは13LDKね。

 

「こちらのエレベーターで、食材などを運ぶことも可能です」

 

「ヘーこれってエレベーターだったのね」

 

 母さんが感心した様子で話す。

 お風呂の状態や、双方のキッチンも、映像で見ることが可能になっている。

 いずれにしても想像を絶するような豪邸には代わりがない。

 

 最後に3階で、こちらは倉庫前提になっているのか、2階と比べても更に狭く(それでも今の家の面積の倍くらいだけど)なっているものの、それでもトイレがあったりお風呂場に数部屋の部屋もあって、ここにおばあさんと介護士の人を住まわせれば良さそうね。

 更に階段があって、自宅の屋上に出ることができる。

 屋上はガーデニングの他、渋谷の町を一望できる光景を楽しめる他、専用プールまでついている。

 こちらのプールは夏はプールに使える他、冬は温水プールにもできるという。

 

 次に画面が飛んで庭に移る。

 庭にはバーベキューできるスペースの他、小さな庭園もあって、このあたりは前の持ち主のものを使い回すことになるという。

 更に庭園を巡っていくと倉庫に使えるはなれが2つ並んでいて、1つは倉庫として、もう1つは何と茶室になっていた。

 ここでお茶会が開けるということになっていて、そうでなくても離れた和室ということで、何かに使えそうな雰囲気ではあった。

 

「以上になりますがよろしいですか?」

 

「はい、大丈夫です」

 

 ともあれ、これだけすさまじい豪邸なら、この値段も納得だわ。

 マスコミが押し寄せても、門前でシャットダウンして要所要所に監視カメラを入れれば、入ってくることは難しいし、各界の著名人も多く住んでいるので、マスコミが誰かの自宅に押し寄せるということにも、ある程度耐性がついているだろう。




篠原家の資産はだいたいビル・ゲイツの資産の3.5倍、ビル・ゲイツとウォーレン・バフェットとジェフ・ベゾスの資産を合わせてもまだ足りないと考えれば、いかに凄まじいかが分かります。それだけ社会に大変革を与える不老事業を特定の会社が独占するというのは恐ろしいことなんです。
ただ物語時系列上、現実の2027年だとこの資産額では世界一じゃないかもしれませんが(笑)

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