永遠の美少女になって永遠の闘病生活に入った件 作:名無し野ハゲ豚
「うおっ、すげえ……」
遥か向こうまで続くフローリングの床と、正真正銘の大理石で出来た壁があたしたちを圧倒する。
しかも視界で見る限り、廊下は途中で左への分かれ道があることも分かった。
よく見ると部屋1つ1つに鍵がしてあって、また扉と扉の距離からも、その部屋の大きさが見てとれる。
ひとまずどこがどこなのかもきちんと覚えておかないといけないわね。
「それでは、もし何かございましたら私は外でお待ちしておりますので」
「あーいや、ここでいいよここに座って待っててくれ」
浩介くんがそう言うと、不動産会社の人がにっこりと玄関扉の前にあるベンチに座った。
ちなみに、待つ時間は正午までと決まっている。それ以降に問題が起きた場合は、電話で呼び寄せるしか無い。
「かしこまりました。ありがとうございます」
あたしたちは靴を脱いで玄関を上がる。
ちなみに、玄関の絨毯はサウジアラビア製の高級ブランド品で、石油王たちも愛用しているものだという。
アラブの石油王といえば、自家用のジェット機を持っていたりと、とにかくお金持ちの中でも桁違いの大金持ちということでワイドショーに騒がれていたけど、今やあたしたち篠原家の方が、彼らよりも遥かにお金持ちだというのがどうにも実感が沸かないわね。
まあ、豪邸を買ったということ以外、富裕層らしいこと殆どしてないから当然といえば当然だけど。
「よし、じゃあとりあえず事前にあったように、まずは各自部屋に行こうか」
「うん」
「よし、お母さんはエレベーターに乗ろうっと」
母さんがボタンを操作すると、エレベーターの扉が空いた。
父さんは階段で行くと言って階段を登り、それぞれ2階へと消えていった。今日から2階があたしの両親の住むスペースになる。
廊下は2人が横に並んで歩いても全く問題ないスペースにはなっているけど、さすがに4人横に並ぶのは不可能なので、やはり2列で家を進む。
廊下の右側には、それぞれ20畳の部屋が6部屋あって、それぞれ予定していた通りの部屋にまず入る。
ちなみに、廊下の左側は、左後方部分が10畳や6畳の小部屋群と、トイレやお風呂場のある場所で、左前方部分には60畳のリビングルームがある。
ちなみに、リビングの近くにも、トイレが設けられている。
あたしの部屋は、もちろん浩介くんの部屋の隣にある。
「ふう」
あたしは扉を開けて自分の部屋の中に入る。
「わあ!」
思わず驚いて声をあげてしまった。
20畳の部屋は思ったよりも大きくて、これ全てがあたしの部屋とは思えなかった。
ベッドは優に大人2人が入れるほど広く、その布団の素材も、見ぬからに高級感を漂わせている。
更に部屋の壁に掲げられている薄型の8Kテレビはダイナミックで、テレビの下には専用の長いコードのヘッドホンがかけられていた。
あたしのパソコンを置いてある机と椅子も新品の高級ブランドに変えられていた他、鏡台の家具はもちろん、箪笥に関しても名のある伝統工芸の職人さんが手作りで作ったものを購入した物を使用している。
ピンク色のカーテンも素晴らしく、また布団の回りに置かれているぬいぐるみさんや、薄型テレビの横に置かれていた机の上にお人形さんが置かれ、更に本棚一杯にあったはずの少女漫画や女性誌は、新しい棚には半分も埋まってなかった。
ベッドの下のハート型クッションとその近くにある小机はこれまで通りだけど、浮いた感じはしない。
そしてクローゼットなどの衣服の収納スペースも、衣替えの服を別の部屋に移動したこともあって、大幅にスペースが余っていた。
「広いわね……」
あたしが抱いた感想は、とにかく「広い」の一言だった。
更にいえば家の壁紙や床のフローリングもとても高級感溢れるもので、実際最高級品を使っているとのことだった。
コンコン
「はーい」
部屋を一通り見て、あたしが腰掛けると、扉をノックする音が聞こえてきた。
「俺だけど、入っていい?」
扉をノックしてきたのは、浩介くんだった。
「うん、いいわよ」
ガチャッ
「うおっ、優子ちゃんの部屋広いなー」
浩介くんが驚いた顔をしている。
「って、それは浩介くんもでしょ?」
実際、部屋の広さは同じはずだし。
「あーうん、そうなんだけど、やっぱほら、昨日までの部屋に慣れちゃってるからさ」
まあ確かに、無理のないことよね。
「まあねえ、それで、どうしたの?」
「とりあえず、一旦4人でリビングに集合しようかって」
「分かったわ」
ともあれ、あたしたちは一旦部屋を出て今度はリビングへと向かう。
リビングへの扉は3箇所あって、どれも比較的簡素な作りになっている。
「やべえなこの広さ」
入る前から分かっていたとはいえ、リビングの広さはとてつもないものだった。
8Kテレビはあたしの部屋のものよりも更に大きく、正面に設けられたソファーは3メートル近くもあり、しかも天井を照らしていたのはシャンデリアだった。
ダイニングのテーブルは、普通の(といってもかなり高級な石で出来たものだけど)四角いテーブルの他、中華料理店で使う回転テーブルまであり、キッチンはIHとガスコンロが両方備わっているという豪華さだった。
「さっきお風呂も見てきたけど、シャワー2つにしかも壁も大理石だったよ」
お義父さんの報告に、あたしたちも驚きを隠せない。
冷蔵庫もこれまでの1.5倍の広さになったので、冷蔵庫の中もかなり広々としていた。
「とりあえず、テレビつけるか」
お義父さんが気張らすように言う。
「ええ」
全員でソファーに座ると、かなり深々と柔らかく、あたしたちは一瞬陥没しそうになってしまった。
「すげえ座り心地」
「うん」
こちらも日本製の高級家具を割り当てている。
「では次のニュースです。今日午前10時頃、神奈川県の──」
お義父さんがテレビをつけると、これまでにない大画面でニュース映像が写った。
「迫力あるな」
単なるニュースでも、これだけの大画面ではやっぱり違う。
しかもこれらが全ての個室にあるんだからまさに至れり尽くせりだわ。
「ええ」
それにしてもこれ、何インチなのかしら?
……まあいいわ。
「そうだわ。洗濯室に行きましょう。昨日着たの洗濯しなきゃ」
「うん、そうするわ」
あたしたちは、一旦全員から服を回収して洗濯機と乾燥機のある小部屋に入った。
この洗濯機は乾燥機を兼ねていて、畳む所まで自動化されており、しかも計測によって洗剤の量までAIがアドバイスしてくれる優れものだ。
ちなみに最新技術の固まりでもあり、またあたしたちのためだけに作った特注品とのことで、値段はこれだけで100万円だとか。
「えっと洗濯物を入れて……あ、あたし洗濯物を先に入れておくわ」
ともあれ、あたしたちはもう「洗濯物を干す」という作業は不要になった。
洗濯物を入れて、機械の指示通りに洗剤を入れて後はボタンを押して放置するだけ。
「うん、優子ちゃんお願いね」
と言っても、あたしもすることは少なく、すぐに追い付いてお義母さんの元へ行く。
うー、やっぱり広いわこの家。
リビングに戻ると、テレビが消えていて、浩介くんだけになった。
どうやらお義父さんは、この家をもう少々探検することにしたらしい。
「さて、昼食を作ろうかしら?」
「ええ」
それにしても、家具の数がやたらと多いわね。
電子レンジは普通の家庭用のものに加え、業務で使うコンビニの強力電子レンジまであるし、それに加えてトーストにオーブン、圧力鍋でご飯も炊けるけど炊飯器まであるし、しかもどれも高価格帯のもので揃えられている。
鍋などの調理器具もあたしたちが使っていたものに加えて、かなり高級そうなものまであって、これだともったいなくて使えないわ。
「とりあえず今日は、いつもの調理器具でやりましょう」
お義母さんが、圧倒されそうな表情で言う。
とにかく今は、あたしたちは「家に住んでいる」というよりは、「振り回されている」という状況に近い。
まずはこの状態から脱出しないといけないわ。
「ええ、賛成だわ」
まずはこのガスコンロとIHに慣れないといけない。
家によっても微妙に違うとも言うし、まずはこの家の感覚に慣れないといけないわね。
あたしたちは、IHのスイッチを入れた。
前の家では11段以上が「ハイパワー」の12段階だったこのメモリも、今は21以上が「ハイパワー」の24段階もある。
つまりこれまでの感覚の2倍程度の数字にすればOKということで、実際にその通りになった。
ただし、フルパワーにした時の火力は、今までのとは格段に性能が上昇していた。
「ごはんできたわー!」
「誰もいないわよ」
お義母さんの叫び声むなしく何の反応もない。
もちろんその理由はこの家が広すぎるから。
「ほらこれ」
あたしは、キッチンの横にある「呼び出し」と書かれたパネルを指差す。
つまりこのパネルを操作すれば、呼び出すことが出来る。
各部屋には呼び出し用の機材があって、最初は光だけで呼び出す仕組みで、またそれぞれの部屋とコミュニケーションを取ることもできる。
広い家ならではの設備だけど、ここだけはちょっと以前の家の方が便利なのも事実だった。
ともあれ、これで1階の各部屋に呼び出しができる。
向こうから足音が聞こえ、浩介くんとお義父さんが歩いてくる。
優に10人座れる大きなテーブルにあたしたち4人が座る。
あたしはテーブルにそれぞれご飯を並べて準備完了ね。
「おや、意外と普通の食事だな」
豪勢な食事が出るのかと思ったのか浩介くんも驚いている。
「えへへ、しばらくは以前の家にあった食材が続くわよ」
あたしとしても、高級食材三昧だと、それに舌が慣れちゃって高級のありがたみが薄れるし、かといって以前のままの食事を続けたら、あまりにもケチすぎだし、仮にも世界一の大富豪一家がそれだと「庶民に還流しない」って批判されちゃうだろうし、難しいわよね。
あーでも豪遊してたらしてたでけちつけられるかも。
「でも、今ある食材が無くなってきたらどうするんだ?」
お義父さんも疑問符をつけて話している。
「うーん、高級なのばかり食べてたらありがたみもなくなっちゃうけど、かといって以前のままというのもねえー」
「そうなのよねえーどうすればいいかしら?」
どうやらお義母さんも同じことで悩んでいるらしい。
「うーん、日替わりってのはどうかな? 高級食材と普通の食材を交互に食べるとか」
すると浩介くんが別の提案をしてくる。
確かに、それがいい折衷案ではあると思う。
幸い、大衆的な物や店は、ここから程近い渋谷にいくらでも転がっているから、そこから仕入れればいいものね。
「ま、ともあれ食べようぜ」
「うんそうね」
あたしたちは、いつも通りに「いただきます」をする。
それにしても、このテーブルは少し広すぎる。
今日みたいに1人1人に盛り付けるタイプならともかく、真ん中の大皿に盛り付ける料理の時は、小さいテーブルのある場所を使わないといけないわね。
幸い、小さな大理石テーブルは、以前4人で使っていた時と同じくらいの大きさが取れている。
って、よく見たらこの家のリビング、壁も床も大理石になってるわね。
「ねえお義母さん?」
「うん?」
「この家、大理石だらけよね」
「もう、今頃気付いたの? 床のフローリングだって高級木材だし、その辺り優子ちゃんたちが『最高級プラン』ばかり考えてたじゃない」
お義母さんに少し呆れられてしまったわね。
「あーそういえば俺の部屋の壁も白い大理石だったな」
浩介くんも鈍そうに話す。
とにかく、この豪邸は今までの家とは桁外れの家になっている。
桂子ちゃんとかを呼ぶ時にどうしようかしら?
ともあれ、あたしたちはいつものように食べ終わると、食器を食器洗い機に入れる。
この食器洗い機もまた優れもので、適当に中に入れておけば搭載したAIが自動で並べかえて洗ってくれるというもの。
お陰さまであたしたちは作業時間を格段に短縮することができた。
唯一大変なのがお掃除になりそうだけど、これも各部屋に1個お掃除ロボットがあって負担を軽減させてくれる。
唯一大変なのは庭で、こちらは庭師さんを探したい。
ピピピピッ……ピピピピッ……
「おや?」
昼食が終わり、あたしは一旦自室に戻って寝そべっていると、突然電話が鳴ってきた。
電話の主は高島さんだった。
「はい、篠原です」
「あ、篠原さんですか?」
声はやっぱり高島さんだった。
「はい」
「高島ですお世話になっております。実はですね、今インターネット上で、『篠原家が松濤に引っ越した』と噂になっておりまして」
さすがインターネット、情報が素早いわね。
「ええそうですけど」
「それでですね、その豪邸に取材って出来るんでしょうか?」
「うーん、まあ高島さんならって所ですか? では明日に折り返しでもいいですか?」
「ありがとうございます。では明日連絡します。では、一旦失礼いたします!」
「はい」
ピッ……
あたしは電話を切り、もう一度リビングに戻って呼び出しのボタンを押す。
すると義両親と浩介くんがリビングに急行してくれた。
あたしはさっきの高島さんの話をして、あたしたち篠原家は賛成でも、2階の石山家がどう出るかわからないということで一旦保留になった。
そこであたしは廊下を進み、まだ進入していない2階に向かうことになった。
「エレベーター使おうっと」
あたしは、エレベーターの上ボタンを押す。
すると真上の表示の光が「2」から「1」になる。
ピンポーン
「1階です……上に参ります」
エレベーターは定員10人、ボタンは123Rで開く閉じるに開延長、更には呼び出しボタンもあるごく普通の様式のものだった。
あたしは「2」のボタンを押し、閉めるボタンを押すと、「ドアが閉まります」の声と共に、エレベーターの扉がしまると、ゆっくりと2階へ向けて動き出した。
そして2階に到着する。
2階の広さは1階よりやや狭いと言っても、実際には父さん母さんが住んでいるので1人あたりの面積は広く、そのため一部は浩介くんのトレーニングルームのように、篠原家が使っている部屋も多い。
2階でも、やはり高級そうな廊下といくつもの部屋があるのは同じで、一方階段を上がってすぐの場所にリビングがあるのが大きな違いだった。
2階のリビングは、1階より日当たりがよく、また広々としていた。
シャンデリアこそないが、蛍光灯がとても目に優しそうな印象を受けた。
あたしが中に入ると、母さんと父さんが親しそうに何かを話していた。
「あら優子じゃない、どうしたの?」
あたしに気付いた母さんが声をかけてくれる。
「あーうんその……実はインターネットであたしたちが引っ越したことが噂になってて……高島さんが取材したいって」
「お、高島って、あのブライト桜の高島か?」
「うん」
高島さんも今や知る人ぞ知る敏腕記者として知られていて、あたしたちとの付き合いもかなり長い。
もちろん、あたしの両親も高島さんがあたしや協会とも懇意なのは知っている。
「ふふ、この家を取材したいのね。いいわよ」
「ああ、俺としても特に異論はねえな」
両親からも、承諾を得た。
あたしは、両親に「ありがとう」を言うと、そのままリビングルームを出ていく。
リビングの構成は、あたしたち1階とほぼ同じで、部屋の奥行きがわずかに広いのと、張り出したベランダがあるという程度のものだった。
あたしはそのまま、別の部屋を探検する。
開き部屋のところもあれば、ジムさながらに機材が揃えられた部屋もあった。
そしてその機材の部屋で──
「はぁ……はぁ……」
浩介くんが上半身裸で汗を流していた。
あーん、素敵ー! かっこいいわー!
「……優子ちゃん……優子ちゃーん!?」
トンッ
「はっ!」
浩介くんにトンと肩を叩かれ、あたしはびくんと体が震えてしまう。
どうやら浩介くんに魅了されちゃって回りが見えなくなってしまったらしいわ。
「どうしたの? 俺、最近運動不足だったからトレーニングしてたんだけど?」
浩介くんが前屈みになりながら顔を近付けて話しかけてくる。
うー、その仕草、また一目惚れしちゃうからー!
「あ、ああうんそのー」
今までも筋トレしてた浩介くんは何度も見てきたけど、こんな風に機材まで使って本格的な特訓をしたのを見たのは初めてだった。
汗を多く流している浩介くんの肉体は、「このオスに犯されれば強い子孫が残せる」と、あたしの中にあるメスの本能を容赦なく刺激してくる。
「あー、俺もここまで動いたのは久しぶりで、ちょっと疲れたぜ」
あたしは、必然的に浩介くんの下半身に目がいってしまう。
男の子のたくましい肉体、それもずっと連れ添った素敵な旦那のものとあったら、惚れない方がおかしいわ。
「あうー素敵-」
「おや? もしかして優子ちゃんメロメロモード?」
ぷしゅーっという音が出そうなくらいに顔を赤くしていると、浩介くんが更にあたしをどきりとさせる一言を言ってくる。
もうダメ、旦那が素敵すぎて頭おかしくなっちゃいそうだわ。
「うん、そうみたいだわ」
心なしか、あたしもちょっとだけ汗をかいている。もしかしたら汗じゃないのかもしれないけど、まあいいわ。
「まあほら、お楽しみは今夜にとっておくんだ。ところで、高島さんの方はどうだった?」
浩介くんが備え付けの冷蔵庫にあったスポーツドリンクを取り出して飲む。
ちなみにこれらは高級というわけではなく、普通に自販機でも売っているもので、もちろんあたしたち自身で仕入れる必要がある。
「うん、大丈夫だったわよ」
「じゃあ今夜は、日時を決めねえとな」
「そうね」
浩介くんの肉体から、何とか目をそらす。
「ふう、俺は自分の部屋で休むよ。優子ちゃんは?」
「あーうん、屋上に行くわ」
「そうか。屋上のプール兼露天風呂は今日はまだ使わねえぞ」
「うん、分かってるわ」
露天風呂はまた、明日の予定になっていて、今日は石山家が使うことになっている。
今は暑い8月なので、プールとしての使用も、もちろん考えてあって、明日の昼はそれぞれプールを使うことになっている。
あたしは今度は階段を上がって3階に行く。
階段は吹き抜けの手すりつきで、やはり廊下と同じ広さに保たれている。
3階はまだ誰もいない。
ここにはおばあさんと介護の人が入るようになっているけど、おばあさんが亡くなった後は倉庫ないしは警備員さんや庭師さんの控え室として使う計画になっている。
比較的狭めの3階から、更に階段を上がるとあたしはとうとう屋上にたどり着いた。
しばらく新住居の描写が続きます。