永遠の美少女になって永遠の闘病生活に入った件 作:名無し野ハゲ豚
「うーん……」
ベッドから起きて目を覚ます。
ベッドはかなり広く、また部屋の広さから、あたしたちが昨日、新築の豪邸に引っ越したことを思い出す。
あたしの部屋も広さは20畳で、朝日を検知して自動で開いたカーテンの向こうに見える自宅の庭を見つつ、あたしはゆっくりと起き上がる。
ジリリリ……ジリリリ……
「優子ちゃん、大丈夫? 朝ごはん手伝ってー!」
ベッドの近くにあった呼び出し用のパネルから、お義母さんの言葉が聞こえてくる。
「あー今起きたところよ」
よく見てみると時間が9時になっていた。
目覚ましは8時にセットしてあったし、昨日も夜10時前に寝たはずなのに、目覚ましを突き抜けて今起きてしまったらしい。
「疲れている? 無理しないでね」
「う、うん……」
あたしは、急いで起き上がって着替えをし、リビングルームへと向かう。
うー、やっぱり広いお家はどうしても歩く距離も長くなるわよね。
それにまだ何だかボーッとしちゃうわ。
「おはよー」
「優子ちゃんおはよう、どうしたの? 疲れた?」
お義母さんは、朝食の支度をしていた。
と言っても、昨日の残りを温めるだけの簡単なお仕事だけど。
「うん、11時間寝たのに」
これだけ寝たのだって、下手をすればあたしが女の子になった時以来だと思う。
「そう? 私も精神的に疲れたわ。優子ちゃんも?」
「うーん、両方かも」
昨日は心も体も疲れたと思う。
「両方!? さては浩介ったら!」
「あ、あはは……」
あたしたちの様子を聞かれなくなっても、以前に住んでいた家での記憶がなくなるわけではない。
特にあたしの声はそれなりの頻度で聞かれていたこともあって、あたしが疲れきっていると義両親にも察されてしまう。
それだけではなく、逆に浩介くんが疲れきっていてあたしが満たされた顔をしている場合にも、色々と下衆の勘繰りをされてしまう。
伊達に8年間も一緒に暮らしていたわけではないということよね。
「優子ちゃん、強力レンジお願い」
「はーい」
我が家には、コンビニなどで使う強力な電子レンジと、普通の家庭用の電子レンジとがあり、強い方の電子レンジは今から「強力レンジ」と呼ぶようになった。
あたしは唐揚げなどを強力レンジに入れる。
こちらの電子レンジは、もちろんワット数をかけているので暖まるまでの所要時間は短いが、普通なら電気代と消費電力が凄まじくて家庭用には適さない。
でもあたしたちにとっては、その程度の電気代などどうってことはないので、素直に使っていく。
お義母さんの電子レンジと並列作業を行い、普段の半分以下の速度で終わらせることができた。
うーん、こうやって実際に使ってみると、強力レンジ恐るべし、ね。
「並べてくれる? 私は2人を呼び出すわ」
「はーい」
あたしは食事のメニューをそれぞれの食欲に応じて並べていき、浩介くんたちが来たら「いただきます」をする。
世界一の資産一家が住み始めた新しい豪邸での最初の朝食が昨日の残りというのもちょっとどうかと思うけど、食べ物は粗末にできないものね。
「お、昨日の残りか。美味しそうだな」
浩介くんが嬉しそうな顔で話す。
どうやら、昨日食べたのは美味しかったみたいね。
「まあ、昨日は作りすぎたもんな」
そう、なので2階の家も同じように唐揚げや野菜炒めを食している。
「うん、美味しいわ」
朝ごはんとしてはちょっと重たいけど、昨日の疲れを早急に取るためにも、このくらいパワーの出る食事の方がいいわよ、ね?
「次のニュースです。大手電気メーカーの──」
大画面テレビで見るニュースは、何だか外出しているみたいだわ。
「おー、新製品開発か。へー軍事技術から発展、ねえ」
最近では、日本発のイノベーションがあちこちで起きている。
あたしたちが値下げをし終わる2028年の時点で60歳未満の全ての世代で年金は廃止されることが正式に決定し、代わりに既存の年金の納入額が全て返還され、更には医療保険も段階的に値下げし、また蓬莱の薬によって難病の多くが解決されたのも手伝い、保険料は国民皆保険を維持したまま、往時の10分の1以下になる。
社会保障費は今年からすでに大削減が始まっており、浮いた財政で様々な分野に公的資金が注入され始めた。
国は「金を出すが用途以外に口は出さない」をモットーに、様々な企業の研究開発を支援し始め、その効果が早くも随所で現れ始めている。
言うなれば、日本だけ手厚い補助金を使って企業の力が大きくなっているわけだけど、それに対して本心はともかく、公然と日本を批判する声は上がってこない。
何を隠そう、そんなことをすれば「その国は蓬莱カンパニーに逆らう」と思われ、株価大暴落とそれに伴う大不況に襲われることは明白だし、場合によっては蓬莱カンパニーから「薬の非融通」という制裁を受ける危険性があるから。
「にしても、最近の勢いは本当にすげえよなあ」
「うんうん」
5年くらい前に出された経済産業省の試算は甘かった。
あたしたち蓬莱カンパニーの大株主があっという間に世界トップの資産家になったように、蓬莱カンパニーがもたらす影響は、もっと迅速に現れた。
これでもし、人々が完全不老になったらどうなっちゃうのかしらね。
「こりゃあ、日本による世界支配も近いんじゃねえか?」
浩介くんが、半ば本気の表情でそう話す。
「かもねえー」
お義母さんが乗ってくる。
でもそうなると、あたしたちが祭り上げられちゃうわよね。
「ま、今や軍事力も絶賛増強中だし、諸外国は完全に手詰まりだな」
「ええそうね」
後は逆恨みしたテロリストに暗殺される懸念だけど、その辺りも最近では監視カメラが随所に増えたし、何だかんだで村社会で相互監視が得意な日本なら、そこまでする人もいないだろうというのが結論だった。
食料の輸入量も、来年から少しずつ減らし、自給率を上げていく目標を立てている。
こちらも、農業イノベーションが建前だけど、実際には人口対策と外圧対策が本丸になっている。
「次のニュースです。毎年恒例の夏祭りが──」
地域ニュースでは、東京のニュースを行っている。
昨日引っ越したことで、あたしたちも「都民」の仲間入りをした。
テレビで行うニュースは関東のものが多いけど、以前にも増して東京のものが多くなった。
「ごちそうさまー」
朝食を食べ終わり、お義母さんが洗濯を、あたしが皿洗いをそれぞれ始める。
皿洗いは高性能な機械を使っているのですぐに終わってしまった。
さて、お休みは今日までで明日からは会社、忙しくなる前に昨日探検し忘れた所を散策することにしようかしら?
そう思い、あたしはまず玄関に一番近い20畳の部屋に入る。
ここは机とお茶セットにホワイトボードがあって、会社の応接室や会議室を思わせる作りになっている。
何を隠そう、ここはあたしたちが来客をもてなすための部屋で、今は特に用事がないので、正常な状態なのを確認してこの部屋出る。
後はもう、庭を散策するだけになった。
「でも暑いのよねー」
とはいえ、敷地の半分近くが庭に割かれている。
あたしの服も、昨日よりも更に露出度の高い水色のワンピース。
「とりあえず、出てみようかしら?」
あたしはそう思い、靴を履いて玄関の外に出る。
「うー」
やっぱり8月とあって暑いわね。
「でも道路よりはマシかしら?」
庭には芝生が生い茂っていて、更に大きなこの家の向こう側に行くと、きれいな池を中心にした日本庭園が姿を表した。
庭の池は、あたしたちの部屋からは見えないけれど、リビングからは見ることができる。
リビングを出てすぐのところには木の板が張り巡らせていて、前の家から持ってきた植物たちが元気よく育っている。
手前にはリンゴと柿の木が植えられていて、収穫時期になったら食べることもできるし、近所の人たちに配ることもできる。
丸い池の方に目をやると、正面に橋がかかっていて池の中には今のところ特に何も住んでいないけど、場合によっては鯉を飼うこともできる。
池の水が幾分とこの庭の気温を下げてくれる。
池の橋を渡って中央まで来ると、右側の奥には離れの倉庫が、更には右に90度の位置には茶室が、左側には木々が生い茂った小さな小さな林があるのが見える。
池の中を見てみると、石の上に|苔(こけ)が生えていて暑さを和らげる工夫がなされている。
事実、橋の中心はそれなりに涼しいと感じるようにできていた。
あたしはそのまま橋を渡りきるとまずは左の方へと進んで見た。
これらの木々は、前の持ち主が接ぎ木して植えたものだという。
木の密度は結構高くて、数本がやや密集している。
うーん、この木は何の名前かまでは分からないわね。
そう言えば昔から名前も知らない大きな木の名前を知りたがる歌があったかしら?
「まあいいわ。とにかく入りましょう」
あたしは自分に言い聞かせながら、木々の中に入っていく。
その中は、木の中とあってやはりやや薄暗く、真夏ということもあって上空は緑におおわれていた。
そして、さっきの池の上以上に涼しかった。
そして何よりも──
「あなた!」
浩介くんが木に寄りかかって本を読んでいた。
「優子ちゃん、ここ、居心地いいよな」
「あーうん、今初めて来て」
そもそも、庭に出たのも今日が初めてだった。
「そうか、ここはいいぞ。特に今は夏だから、特に木にとっては過ごしやすいみたいだな」
「そうね」
あたしは、浩介くんの隣に座って足を伸ばす。
「えっちなことはやめてね」
別にされてもいいんだけど、昨日さんざん恥ずかしい思いをさせられたので、あえて意地悪をしてみる。
「あはは、頑張ります……」
浩介くんはあたしの胸をじっと凝視しながら自信なさ気に答える。
本の続きを読もうとしているけど、さっきと違って至近距離にあるあたしの胸が気になってちらちらと覗いてくる。
ふふ、もっと意地悪しちゃおうかしら?
「ねえねえあなた、何を読んでるの?」
ぐいっ
「っ……!」
ぼんっと音がしたように浩介くんの顔が真っ赤になる。
ふふ、どうやらあたしの胸がそばに来るとこうなっちゃうのよね。
「ゆ、優子ちゃん、ち、近いって!」
浩介くんが慌てて離れるように言うけど、目線が胸の谷間に向かっていて全く説得力がない。
うふふ、どうしようかしら?
「いいじゃないのあなた」
あたしは構わずに、本の中身を見る。
本はどうやら税金に関する本だった。
「あら? 税金?」
「ああ、会社の方は監査法人があるからそちらの税理士さんに任せておけばいいんだが、俺たちも年収が4桁億だし、さ」
「あーうん、そうよねえー、確定申告も大変そうだもの」
いやむしろ、あたしたちのレベルならきちんと税理士に頼んだ方がいいわよね。
まあ、節税してもしなくても、あたしたち不老だし収入はこの豪遊生活でも問題はないし、お金に困ったりもしないもの。
「そういうことだ。とはいえまずは、税理士さんを見つけねえとな」
浩介くんがどぎまぎしながらそう答えてくれる。
ふふ、浩介くんも、あたしに飽きたりすることはないみたいでよかったわ。
「なるほどね……」
有能税理士の見つけ方については、この本には書いていない。
なのであたしたちの方で見つける必要性がある。
まあ、近くの税理士事務所にまず行くといいかしら? 幸いここは超高級住宅街なので、富裕層個人向けの税理士さんならたくさんいると思うし。
「う、うん」
浩介くんが顔をそらしながら本を読む。
うー、あたしに構ってー!
「あなたぁ……あたしのこと見てー」
むにっ
肉食系女子になったあたしは、また浩介くんを誘惑したくなって、浩介くんの背中に胸を当てる。
ふふ、浩介くん大きくなってるわね。
「うっ優子ちゃん、意地悪しないで」
浩介くんが慌てた表情で話す。
それでも、あたしの胸に視線は行っちゃうらしいけど。
「はーいごめんね。じゃああたし、向こうに行ってくるわ」
「いってらっしゃい」
庭の小さな森から出ると、また熱気が襲いかかってくる。
この庭だって、すぐ近くの喧騒溢れる渋谷の町に比べたらかなり涼しいはずなのに、やっぱり小さくても木がたくさんある空間ってすごいわね。
あ、でも永原先生によれば、森林は現代の方が多いんだってね。
「こっちの中には何があるかしら?」
こっちにあるのは倉庫と茶室、倉庫には主に両家で使っていた穴堀のショベルとか、日曜大工の機械、更にはあたしたちが買った家庭用プールも置いてある。
とにかく家が広いので、捨てるものは最小限で済んだのよね。
倉庫の方は軽く見て終わりで、本丸の茶室へと向かう。
こっちから行くと、茶室は裏口になる。
茶室は池の右側にあるので、あたしは池と茶室の間のスペースを通り、茶室の入り口の扉を開ける。
中は純和風で、ここで色々なお茶会の他、華道もできるようになっている。
と言っても、あたしはよく分からないんだけど。
靴を脱いで中に入る。
やはり中は純和風で、掛け軸にはこの家のために書道家の人が書いてくれた文字が掲げられている。
そして──
「あら優子じゃない、どうしたの?」
そこにいたのは、母さんだった。
「母さんこそ、どうしたの?」
「ご近所付き合いもあるから、茶道を習おうと思ってね。ここで近所の人とお茶会が開けないかなって」
母さんは、どうやらここでお茶会を開き、近所のセレブ仲間と親睦を深めたいらしい。
「『娘の七光り』とはいえ、私達この住宅街でも一番のお金持ちでしょ? だからこそ、こういう教養も深めないといけないと思ってね」
掛け軸の隣に掲げられている絵は、何と永原先生のコレクションの1つで、江戸時代に買った浮世絵の作品の1つだという。
この絵は少なく見積もっても110万円の価値はあると言われているけど、永原先生が買って残しておいた浮世絵の中では一番安いものだったらしい。
「あーうん、そうよね。あたしたちも商談でお茶会をするかもしれないし」
あんまり無さそうだけど、無いとは言い切れないものね。
「そうそう、茶道に華道のお稽古、わびさびの心は、優子も身に付けておいて損はないわよ」
「そうよねえ」
以前あたしは、会社の常務という立場でありながらも、会議中にお茶汲みとお茶出しをして、会社のイメージを格段に向上させたこともあった。
こうした茶道や華道を身に付ければ、より穏やかに、「優子」に近づけるかもしれないわね。
「ふふ、じゃあ母さんはそろそろ出るわね。優子も、お昼御飯の準備に遅れないでね」
「うん」
と言っても、最新鋭の自動化家電のおかげで、家事の負担は格段に減っていて、昼食の準備にもまだ時間は1時間以上ある。
母さんが出ていき、あたしはその場に座り込んで庭の方を見る。
庭の方にはししおどしがあるけど、今は水が流れていない。
お茶会を開く時や、気分転換をしたい時、あるいは庭でバーベキューなどをする時にスイッチをいれて水を流すようになっている。
池の向こう側、橋の影で全部は見えないけど、浩介くんが本を持って歩いているのが見えた。
よし、そろそろ行こうかしら?
あたしはそう思い、玄関から家の中に入り、自室に戻ってパソコンを始めることにした。
しばらくすると昼食の準備に呼ばれた。
「ねえ優子ちゃん」
「うん?」
食事の準備中、早めにリビングに来てテレビを見ていた浩介くんが話しかけてくれる。
「お昼食べ終わったら、屋上のプールで遊ぼうぜ」
「え? うん、いいわよ」
元々、その予定だった。屋上のプールは露天風呂と兼用だけど、泳げるだけの広さがある。
もちろん水着も、すでに買ってあるのを使う。
あの水着も、何だかんだで10年使っていて、流行という概念を越えて、男受けは抜群だと思う。
あの頃に比べると、体が少しだけむっちりになっているけど、それでも着られなくなったというわけでは全く無い。
「よっしゃ! じゃあ水入れてくる。ご飯を食べ終わる頃には、プールが完成しているさ」
浩介くんが、急ぎ足で駆け上がっていく。
「ふふ、2人ともラブラブね。私達は邪魔しないから、存分に楽しむといいわ」
「ありがとう」
というよりも、実両親はわからないけど、義両親は今日の午後3時から介護施設の人と共に、おばあさんを迎えにいくことになっている。
介護施設の人は、以前までいた老人ホームの所属を維持しつつ、あたしたちが金銭的な交渉を行い、おばあさんが亡くなるまでの専属となることが決定した。
おばあさんの老人ホームでの手続きなどに時間がかかるため、家に帰ってくるのは今晩の晩御飯が終わってから。
晩御飯は老人ホームの方でご馳走してくれるということなので今晩の夕食は浩介くんと2人きりということになっている。
しばらくすると屋上から戻ってきた浩介くんが、こちらへと駆けつけてきた。
「ふふ、優子ちゃんの水着優子ちゃんの水着優子ちゃんの水着……」
浩介くんったら、もう興奮しちゃって……さっきのあれ、まずかったかしら?